第6章 山梨県国中方言で
ねえ、王子くん。
こうやって、ちっとっつ分かってきただ。おまんがさびしく生きてきたっつこんが。おまんにはずっと(どぅっと)、優しい日暮れだけしか、癒される物(もん)がなかっただ。ほれを知ったのは4日目の朝だった。ほんとき、おまんはこう言(ゆ)っただ。
「日暮れンえらい好きだよね。日暮れを(ゆーぐりょー)見に行かんけ?」
「だけんど、待たんと。」
「何を(なにょー)待つで?」
「日ン沈むん待つだ。」
えらい驚いてっから、おまんは自分を笑って、こう言(ゆ)ったじゃんね。
「てっきりまだおらんちだと思ってた!」
ほうさ。みんな知ってる事(こん)だけんど、アメリカが真昼んときは、フランスじゃあ日は沈んでるさ。だから、日が沈むん見たいじゃあ、すぐにフランスん行く事(こん)がでろばいいっつこんだ。ほうだけんど、フランスはうんと遠い。だけんどおまんの星はちっくいから、幾歩(いくほ)か椅子をひじきろばいいだ。ほうやっておまんは、見たくなる度(たんび)に、夕暮れを眺めてただ。
「1日に、44回も日暮れを見た事(こん)があるだよ!」
っつったちっと後に、おまんはこう加えた。
「うんと悲しくなると、夕暮れン恋しくなるってわけ。」
「ほの44回眺めた日は、ほれじゃあ、えらい悲しかったっつ事(こん)け?」
だけんどこの王子くんは答えなんだ。
[翻訳者紹介]
りっひ
2000年生まれ。甲府市で生まれ育った両親のもと、同じく甲府市で高校時代までを過ごす。4年間の京都在住を経て、関東平野在住3年目(執筆時)。YouTubeチャンネル「言語の部屋」運営者。
[ことばの紹介]
この翻訳は、甲府盆地の国中(くになか)方言に基づきますが、山梨県には、富士北麓地域の郡内(ぐんない)方言、南アルプスの山中の奈良田(ならだ)方言もあります。訳者の世代では一部の機能語以外はほぼ首都圏方言に同化していますが、ここでは祖父母の代の言葉を、訳者の文法的知識や受動語彙に加え、ウェブサイト「ウィキペずら」も参照しつつ再現しました。文中のンは共通語の「が」に対応する助詞で、国語研の「方言文法全国地図」(第1図〜第5図)では通常の「ん」と同じくɴで表記されていますが、訳者の内省では軟口蓋鼻音で発音することが多く逆行同化をやや受けにくいため、表記上も「ん」と区別しています。

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