あのときの王子くん 第10章(後) 石徹白の方言で

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あのときの王子くん_あちこちのことばで

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第10章 (後) 石徹白の方言で

 

「よーさがたの景色が見ちゃーじゃで、どうか頼むわいの。夕ぐれろって……そいってくらーれー……」

「もし将軍に花から花へチョウチョのやーに飛びまわれ、じゃとやら、はりぎにゃーやーな話を書いてみよ、じゃとやら、海鳥になれ、じゃとやらをせれっそいって、将軍が、そのそいったことをできなんだとせるぞ。そーせりゃ、そいつか、この王か、どっちが間違っとると、おまえは思うよ?」

「王様じゃのー。」王子くんはきっぱりとそいった。

「そのとーりよ。てんでにはてんでのできることをまかせな、だしかんでな。ものごとがわかっとるもんで、はじめて力が使えるじゃぞ。もし国民に海へ飛びこめってそいったなら、国がひっくりかえってまうでなー。しゃーんせーよ、そいってもええのは、そもそも、ものごとをわきまえとって、そいうじゃでな。」

「そーせりゃ、おれの夕ぐれはじゃーんなるぜ?」と王子くんは王様をおぶらかすやーにそいった。どいてかってゆーと、王子くん、いっぺん聞いたことはぜったい忘れんもんで。」

「うん(うぬ)の夕ぐれなら見られるぞ。いいつけるわい。ほんじゃどか、待つわい。あんばよう治めるためにも、ええころあいになるまで。」

「そりゃいつぜ?」王子くんはそいった。

「むむむ!」と王様はそいわさって、ぶがあっつい〈こよみ〉をしらべた。「むむむ! そーじゃなー……だい…たい…ごご7時40分くらいじゃなー! しゃーんせりゃー、そいったとーりになるのがわかるじゃろう。」

 王子くんはあくびょせた。夕ぐれに会えんもんで、はりがいなかった。ほいて、まーえーかげんにあんましゅーなった。

「ここでせんならんことは、まーにゃーじゃで。」と王子くんは王様にそいった。「まー行くわいの!」

「行っちゃだしかん!」と王様はそいわさった。家来ができて、そんだけでうれしかったもんで。「行っちゃだしかんぞ、うぬを大臣にせてやるで。」

「ほんで、なにをせるぜ?」

「む……人を裁くのよ。」

「ほんでも、人を裁くにせても、人がおらんじゃぜ!」

「そりゃわからんぞ。まんだこの国をぐるっと回ってみたことがにゃーじゃで。年がよったし、いかいな馬車をおいとくとこもにゃーし、歩いて回るのはくたぶれるでなー。」

「ふうん! ほんでもおりゃ見たぜ。」と王子くんはくーなって、もういっぺん、ちらっと星の向こう側を見た。「あっちの方にも、だーれも、ひとりもおらん……」

「ほんなら、うな、てまいを裁けよ。」と王様はそいわさった。「もっとむつかしいぞ。てまいを裁く方が、人を裁くよりも、おそぎゃーむずかしいじゃで、あんばよー、てまいを裁くことができりゃー、そりゃ、しょうしんしょうめい、賢者の証じゃわい。」

 ほいたら、王子くんはそいった。「おりゃー、どっこにおっても、てまいをあんばよー裁けるわいの。ここに住む必要はにゃーじゃで。」

「むむむ、たしか、この星のどっかに、あんばいがわりーネズミが一匹おるわい。よーさ、物音がせるでな。そのあんばいがわりーネズミを裁きゃええ。ときどき、死刑にせるのよ。そーせりゃーその命はうん(うぬ)の裁きしだいじゃぞ。ほんでも、いっつもかもゆるいてやるじゃぞ、だいじにせにゃだしかんで。一匹しかおらんじゃで。」

 また王子くんは返事をせた。「おりゃ、死刑にはしとにゃーじゃし、もうええで、はよー行きちゃーじゃ。」

「だしかん。」と王様はそいわっさる。

 まー、王子くんはいっつでも行けたじゃけど、年よりの王様を、はりがいながらんやーにせたかった。

「もし、陛下が、そいったとーりになるのをのぞまっさるなら、ものわかりのえーやーなことをやれ! って、そいわっさるはずじゃでのー。やれ!ってそいわさるんにゃーけ、1分たたんうちに出発せれ!ってやーなことさ。おりゃー、もうええころあいじゃと思うじゃ……」

 王様はなんにも、そいわっさらなんだ。王子くんはとりあえず、じゃーんしょーかいなーと思ったけんど、おおいきょついて(おおだんびきょついて)とうとう星を出てった……。

「うぬをどっかの星へ行かせちゃるわい。」王様はびっくりこいて、そいわさった。

 そーじゃがほっとに、りきんだやーな言い方じゃったなー。

 おとなっちゅーのは、ほっとにかわっとるなーと王子くんは心の中で思いながら旅は続いていく。


[翻訳者紹介]

Sukochan

1957年岐阜県郡上市石徹白(1958年に福井県から岐阜県に越県合併)に生まれる。両親をはじめ、先祖代々石徹白で暮らし続ける。高校進学のため石徹白を離れ、子供達が一人立ちしたのを機に石徹白に戻り現在に至る。


[ことばの解説]

この石徹白の方言は、現在でも日常的に使われています(50代以上の人は特に)。王様に対する言葉は、目上の人に話すように訳しました。石徹白の方言では上下関係が厳格であり、特に終助詞において、目上と目下に対する語の使い分けが顕著です。以下に例を示します。

  そうですね どうなるんですか? 行くのですか?
目上に対して そーじゃのー じゃーんなるぜ? 行かっさるのけ?
目下に対して そーじゃなー じゃーんなるじゃ? 行くのか?

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