一般的な関西方言の命令表現には、大きく分けて、命令形命令と呼ばれる「{はよ}[行]け」のような形と、連用形命令と呼ばれる「{はよ}[行き]」のような形の二種類があり、前者はきつめの命令、後者はいくぶん優しい命令を表すが、筆者の方言もそれに準ずる。
命令形命令は共通語の命令形に相当するもので、五段活用動詞および「くる」は語形も共通語と同じである。一段活用動詞は共通語では「起きろ」「食べろ」のように「ろ」で終わるが、筆者の方言では「起きい」「食べえ」と語幹をそのまま伸ばす。「する」は「せえ」となる。念を押す時は「や」「よ」を付ける。特に一段活用動詞の場合は「や」「よ」を付けずに言うことの方が少なく、命令形で言い切りたい時には共通語の「ろ」を借用することが多い。もっとも、筆者にとって命令形命令はかなり強い命令口調に感じるため、実際の命令場面で使う機会は少なく、「[あんだけ]{はよ}[せ]え[言]うたのに……」とぼやいたりする時に使う程度である。
連用形命令は共通語の「~なさい」に相当するもので、「行き」「起き」「食べ」「し」「き」など連用形がそれだけで命令表現を表すが、「行きい」「起きい」「食べえ」「しい」「きい」と長音化させることが多い。短音形はピシャリと取り付く島がない印象があり、長音形は比較的マイルドな印象がある。下一段活用動詞に関しては「食べえ」ではなく「食べい」と言うほうが多く、それを「食べいい」とさらに長音化させることもよくある。連用形命令のあとには「な」「や」を付けることが多いが、「な」は専ら長音形とともに使うのに対し、「や」は短音形(「する」のように連用形が1拍のものは除く)にも長音形にも付くという違いがある。もっとも、筆者からすると「行きや」「起きや」のような「短音形+や」を多用するのは大阪弁風に感じる。
一段活用動詞の場合、命令形命令と連用形命令が同じ形になってしまうが、アクセントによる区別があり、例えば「_起き'いな」「_起き'いや」のようにアクセントが下がると命令形命令で、「_起きいな=」「_起きいや=」のように平板に発音すると連用形命令である。この区別に引かれてか、ほかの活用動詞でも「連用形命令+いな」「連用形命令+いや」を言う際に「‾行き'いな」「‾行き'いや」と「‾行きいな=」「‾行きいや=」で語調のきつさを加減する傾向があり、前者の方がきつい。使用頻度は下がるが、やや共通語に寄せた「‾行き'いよ」や女性的な「‾行き'いさ」という形もある。なお、命令形命令を平板に発音してきつさを薄めるようなことはしない。
存在動詞の「いる」や「いてる」の場合、連用形命令の「‾いい=」や「‾いてい=」のみ言い、「‾い'い」や「‾いて'い」のような命令形命令は使わない。「おる」には命令形命令「‾お'れ」と連用形命令「‾おり=」のどちらもあるが、きつい言い方であり、筆者はあまり好んで使わない。進行形「~てる」には命令形命令「~て'え」と連用形命令「~てい=」があるが、実際にはあまり使わず(特に命令形命令)、「~とく」の命令形である「~と'け」や「~とき=」で代用することが多い。
共通語と同じく、「‾行って=」「_起きて=」のような「て」で終わる命令表現もよく使う。後ろには「な」「や」を付けることが多いが、やはり「や」を多用するのは大阪弁風な感覚がある。「な」を付ける場合、「‾行って'えな」のように「て」を伸ばすこともしばしばある(「て'えや」という形も言わなくはないが、使用頻度はぐっと落ちる)。伸ばさない形は共通語の「~てね」に相当し、伸ばす形は「~てよ」に相当する。なお、伸ばさない形は共通語と同じく語尾を上げて言うこともあるが、伸ばす形は語尾を上げて言うことはない。
「‾行ってんか=」のような命令表現もあるが、普段の会話で使うことはほとんどなく、テレビで見る大阪の芸人の口調を真似ているような感覚がある。
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行く |
‾い'け ‾い'けや ‾い'けよ |
‾いき'いや ‾いき'いな ‾いき'いよ (‾いき'いさ) |
‾いき= ‾いきい= |
‾いきいや= ‾いきいな= ‾いきや= |
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‾いって= |
‾いって'えや ‾いって'えな |
‾いってや= ‾いってな= |
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