aklib_story_統合戦略4_エンディング1

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統合戦略4 エンディング1

「汝は何処へ向かう?」

[マゼラン]――

マゼランは警戒気味に辺りを見回し、耳を塞いだ。

今のは幻聴だろうか?

冬牙連峰を抜けると、目の前には大きな氷原が広がっていた。

天地の間に風雪が吹き荒れ、怒れる咆哮が彼女の身を貫く。

とこしえの堅氷と凍てつく岩のぶつかる振動が足元から伝わり、正面からは冷気が吹き付けてくる。

彼女は吹雪の中にいた。

あの声を遮ることもできずに。

「汝は何処へ向かう?」

[マゼラン]……

重々しい視線が、外から来た若者へと注がれる。

しかし、彼女が感じたのは詰問されているような威圧感ではなく、太古の意志にすべてを打ち明けたいという願望だった。

[マゼラン]あたしは……未知なる場所を探検しに行くの。

「何を頼りに前へと進む?」

[マゼラン]えっと……

[マゼラン]好奇心と勇気、知識と技術……

[マゼラン]それから……先人の経験と、サーミでできた友達の助けを頼りに。

[マゼラン]そういえば、合同観測隊は出発前の宣誓で、「我々は全人類のため未来を開拓する使命がある」とか言ってたかな。

[マゼラン]――それで虚栄心は満たされるかもしれない。でも、あたしにはそんなこと言ってる余裕はないかもね。えへへ。だって、願いは願いでしかないもん。

[マゼラン]あっ、あたしにとっては、願いこそが大事なんだけどね。

「汝は、何を持ち帰らんと願う?」

[マゼラン]生態サンプルでしょ、データでしょ、研究ノートに、写真と……

[マゼラン]氷原に通じる鍵に、サーミについての知識……

[マゼラン]それから……あたし自身だね!

[マゼラン]科学考察探査において一番大切なのは生き残ることだって、うちの先生が言ってたから。命あればこそ、手に入れたものを他者のもとへ持ち帰り、知識を伝えることもできるから、ってね。

[マゼラン]……

[マゼラン]あたしからも、質問していいかな。

[マゼラン]あなたって、サーミそのもの?

氷原に吹く風の音が、急に澄んで聞こえだした。

庇護者は、己の腕から歩み出した彼女を止めはしない。

部外者だった彼女は今この時から、かの存在の子として受け入れられたのだ。

ゆえにこそ、氷原の寒さと風雪の中、サーミフィヨドが穏やかにそして誇らしく受け入れる運命のもとへと、彼女は送り出された。

[マゼラン]……正直、最初はちょっと不安だったよ。だって、外から来た人間がサーミと会話したなんて記録はこれまでなかったでしょ?

[マゼラン]サーミの人たちも、あなたは眠りについていて、滅多に語りかけてくれないって言ってたし。

[マゼラン]あなたは、祖霊の父なんだよね。ほかの人にもこうして質問したことはあるの?

[マゼラン]だとしたら、それに答えた人たちはどこへ行ったのかな?

[ティフォン]冬牙連峰を越えると急に天気が悪くなるんだ。今みたいにな。

[ティフォン]……大丈夫か? マゼラン。

[マゼラン]あたしも、氷原のことならそれなりに知ってるよ。

[ティフォン]へえ、それじゃ本当にただぼーっとしていただけなのか?

[マゼラン]え!? あ、うん、ちょっと考え事をね!

[マゼラン]……シモーネさんが言ってた通りでさ。探検好きなのはクルビア人だけじゃないし、領土を広げたがってるのはウルサス人だけじゃない。それにサーミの外に興味を持ってるサーミ人だっているよね。

[マゼラン]だからどの時代にもきっと、連峰を越えて、サーミの腕の中を離れて果てなき氷原を目指した探検家がいたはず!

[サンタラ]当然、そうでしょうね。

[サンタラ]サーミの戦士たちは寡黙で保守的だけれど、それを望む者がいるのならサーミのご意志は決して阻みはしないもの。

[サンタラ]改まってそんなことを言うなんて、何かあったの?

[マゼラン]えへへ、何でもない。それじゃ、行こっか!

彼女は何も言わなかった。まるで知らないうちに確かな答えを得たかのような、悠久の歴史が紡ぎだした幾千もの物語を聞いたような……そんな気がしたのだ。

その一瞬で、彼女は歴史書に刻まれざる数多の人間の名を知った。……そうしたかつての探索者たちは、一人として戻らなかったようだ。

果てなき氷原の全貌も、それ以上はっきりとはしなかった。

それでも進むべきなのだろうか?

サーミはもう答えを待つことはなく、山々は少しずつ吹雪の中へと姿を消していく。

目の前には、どこまでも続く白銀の氷原と……果てしない闇だけが広がっている。

山々を越えて

まみえたもの

数ヶ月前、マリアムはライン生命本部へと戻って来た。彼がトリマウンツに姿を現すのは至極珍しいことである。それゆえにか、統括のオフィスへ通じる長い廊下を彼が進んでいた時も、その象徴とも呼ぶべき杖が床を叩く音を耳にするまで、それがマリアムだと気付かない者は多かった。その点、電子設備のほうが人間よりよほど優れた反応をしたと言えるだろう。テラ大陸中を訪れたそのIDカードを読み込んだ瞬間、即座にその人物が統括と面会予定のアンデネート・マリアム氏だと認識したのだから。

統括はいつも通りコンソールの前に立ち、スクリーンに映し出された何かのモデルを見つめていた。彼女は訪問者に大した反応も見せず、ただ片手を伸ばしてマリアムに座るよう促したと思えば、もう片方の手でパネルに触れる。すると、ライン生命に所属する数多の学者の創意工夫の数々が、流水の如くスクリーン上でスライドされていった。マリアムは無言で調査プロジェクトの申請書を置くと、そのまま机の前に立ち続けた。フューチャリズムだの人間工学だのに基づいたデザインより、彼は地に足の付いた感覚を好むのだ。

「インフィ氷原へ?」手元の資料に目を向けた後、クリステンはようやく申請書に手を伸ばした。「チームは15人編成、史上最大規模の極地観測計画……ね。」

「ああ。これまで培ってきた経験と、築いてきた観測基地があれば、極地の観測規模を拡充することも十分可能だろう。果てなき氷原にはまだまだ多くの謎があることだし、今が頃合いではないかね?」

最近は、統括への面会は簡単ではないと聞く。彼女がこの頃、前より頻繁に本部を長時間離れるようになったことはマリアムも知っていたが、科学考察課の観測基地メンテナンス担当者からの報告によると、統括は誰にも言わずに、人が踏み入れないような観測地点を何カ所も訪れていたらしい。さらには、その直後からトリマウンツ付近のとある地下信号源に長期間滞在していたという話だ。マリアムは直感的に、あのパーティーの時に捜索を依頼してきたあれを、彼女はすでに見つけたのだろうと思った。

けれど彼には、彼女の野心について触れるつもりはない。というのも彼がここに立っているのは、科学考察課の調査プロジェクトを実行するにあたって統括のサインが必要だからというだけのことだからだ。

「仮に誰も賛成してくれなかったとしたら、あなたはそこで諦めるの?」何か考えでもあるのか、彼女はそんな質問をした。

口下手なクランタは、それに対して小さく笑った。

答えははっきりしていたのだ。仕事として与えられておらずとも、誰にも認められなくとも、探求者たるマリアムは、木の枝でできた杖と共に、己の足でまだ見ぬ地平線を目指すことだろう。彼は申請書を指さして、はぐらかすようにこう答えた。「我々ならば、インフィ氷原の果てまで近付くこともできるはずだ。」

「……ああ、そういえば。」

「あなたのとある観測プロジェクトの後を調査してみたのだけど、あなたの探究心に対する答えの一部を得られたわ――私は、ほとんど全知とも呼べる『神』を見つけたの。」

「あの氷原の果てについても、あなたに共有すべきことを多少知ることができたから伝えておくわ。」

......

――ジョンは素早くノートを取っており、ソフィーはこれまで収集してきた氷原の資料と、来訪者の語った言葉を照らし合わせていた。観測基地の生命維持装置も安定して稼働しており、珍しく大勢の人間に暖房と綺麗な水とを提供していた。数時間にも及ぶ会話ののち、観測隊一行は、未来予知ができると自称するサイクロプス――サーミ北部の山に住むこの人物のことを徐々に受け入れ始めていた。予知能力の真贋はともかく、少なくとも彼女の提供する情報は正確であり、それだけでも素晴らしい案内役として迎え入れるには十分だったのだ。

そこで、沈黙を貫いていたマリアムが口を開いた。「ライン生命科学考察課を代表して、君の協力に同意しよう。だが、もう一つだけ質問をさせてくれ。」

「何なりとお尋ねください。」

「氷原の奥地を「見た」からこそ、よそ者である我々に協力したいという主張は理解した。しかし、あなたは氷原の果てへ実際にたどり着いたことはあるのかな?」

「私が予見した危機についてなら、お話できますが。」

予見。その言葉を、マリアムは脳内で繰り返す。予言者、全知の者……

それから、彼は珍しく微笑んだ。

「果てなき氷原の果てが如何なるものかを、私に語り聞かせようとした者は以前にもいた。」

「だが、遠慮しておこう。自分の目で確かめようと思うのでな。」

日の出

探検家たちは帰路という名の旅路に着いた。

サーミがこれ以上彼らのゆく手を阻むことこそないが、ここまでに起きた思いがけない出来事や巡り合いの結果、物資は底をついている。

誰もがもう一歩先へ進みたいと望んでいたが、闇雲に進むのは単なる自殺行為であることを理解してもいた。

南へと戻り、物資を補給し、研究に着手し、資金を調達する時が来たのだ。そうしてすべての準備が整ってはじめて、チームは再び北を目指すことができるのだから。

帰路の途中で、すでに今回かかったコストと見込める収益の計算を始める者もいた。

コストのほうは、人員の損失や機材の破損、食料の消耗など、探検にはつきものの内容ばかりだ。

しかしその一方、この旅で発見した種や記録してきた現象を発表したり、紀行文を出版したりすれば、次の探検を成功に導くだけの利益をもたらすこともできるかもしれない。

加えて、何より重要なのは――

彼ら「南の人間」が、サーミ人の協力を得られるようになってきたことだ。

以前であれば、「南の人々」はサーミの山岳地帯に住む野蛮人……もとい、親愛なる友人たちに協力を仰げるなどとは想像もしていなかった。なにしろ、彼らが斧や弓を向けてこないだけでも有難いくらいなのだ。

だが人々は、サーミと氷原を行き来するうちに、人間同士が無意味な争いを続けたところで無益であることに気が付いた。

そうして、食料をいくつかの武器と交換し、また薬を外の珍しいものと交換する、といった取引が始まった。

その後、「円滑な取引を維持するべく」サーミ人の拠点に残った探検家もいたが――彼らは決して、サーミ人に一目ぼれしたからそうしただけなどとは認めないだろう。

さらに、部族での生活に嫌気がさした年若い戦士たちが観測隊に加わり、案内役や戦闘要員を務めるようにもなってきた。

こうした関わりが頻繁になるにつれ、双方の間には交流が増え、互いへの理解が深まり、偏見や隔たりは消えていった。

何せ、サーミ人もクルビア人も、結局は同じ人間なのだから。

今回、観測隊が帰路につくに当たり、サーミ人は友人らのために盛大な宴を開いた。

族樹の下でかがり火が焚かれ、それを囲んで皆で歌い踊るのだ。

木でできたゴーレムたちはあちこちできらめく灯りを提供するべく手回し発電機を懸命に回し続けている。

サーミの狩人は高らかに歌い、空では羽獣とドローンがともに舞い踊る。

部族の雪祭司は、族樹の許しを得て巨大なボールライトを枝から吊り下げると、杖を高く掲げて雷を呼ぶ。

すると、ゴロゴロと音が鳴り響いたあと、ボールライトが一斉にまばゆい光を放ち始めた。

そんな中、マゼランは布団をかぶって、流暢なサーミ語で、いわゆるサーミフィヨドの女の子たちに各地で見聞きした物語を聞かせていた。

彼女の木の器には出来立てのインスタント麺が入っていて、一方でサーミの少女たちはプラスチックやステンレスの器におかゆを入れて持っている。

そうして、それぞれが食事を分け合いながら、一人一人の話を共有していくのだ。

この状況は、不思議と学生時代に行ったキャンプファイヤーを思い出させた。

ここには、誰が「クルビア人」だとか「サルカズ」だとかいう面倒なことを気にする人間などいない。

目標も理想も必要ない。

純粋に楽しいひと時を過ごすだけで十分なのだ。

張り詰めていたマゼランの気持ちも少しずつ緩んできて、少女たちがまだお喋りを続ける傍らで、彼女は丸まって眠りに落ちた。

サーミの少女たちはそんな彼女にそっと毛布を掛けてから、静かにテントを後にする。

最後にテントを出た少女は、その横梁に「夢捕りの網」を掛けて行ってくれた。

おかげで、その晩外がどれだけ騒がしくとも、マゼランの素敵な夢が邪魔されるようなことはなかった。

......

彼女が目を覚ましたのは翌日のことだ。

外を見てみれば、待っていたとでも言わんばかりに朝日が差し込んでくる。

遠くのほうで、今まさに太陽が昇り始めたところのようだ。

ほとんどの人間は今も前夜の興奮の中、テントでぐっすり眠っていることだろう。

マゼランは崖の縁まで近づくと、昇りゆく太陽を見上げた。

探検とはそれのみにとどまるものではない、ということを彼女はとうに知っていた。

だが、それなら実際、何のために在るのだろうか?

早起きな女狩人が彼女に歩み寄ってきて、マゼランの了承を得るとその傍らで一緒に日の出を眺め始めた。

可愛らしい包装のグミを狩人に渡せば、彼女は自分もお返しに何か渡せないかとポケットを探り始める。

そうして結局、枝のような干し肉を取り出すと、マゼランに差し出した。

差し出されたそれを、マゼランは礼を述べて受け取る。

そうして二人は共に座って、食べ物を口にしながら、天へと昇る太陽の旅を見届けたのだった。

朦朧とした大地

マゼランは地下平原をさまよっていた。

いくら大地が広大であるとはいえ、地下にこんな景色が広がっていることを知る者はそれほど多くないだろう。

三日前、マゼランはサーミにある大穴の入口から下へと降りた。今回の目的は、「大地の傷跡」の中に隠された秘密を解き明かすことだ。

彼女は調査の過程で岩壁に自生する植物とネバネバした分泌物を発見したのだが、それは大穴の下に向かえば向かうほど頻繁に見かけるようになっていた。

ある程度の深さまで降りると、辺り一面に絡み合うようにして植物と粘液が広がっている。

それでもマゼランは、あらゆる方法を試して下へ下へと降りていき……

植物に囲まれた場所を手探りで進み、暗闇の中を探索し続けた。

そうしていくと、ついに湿り気のある岩へと手が触れた。どうやら大穴の底にたどり着いたようだ。

そこはどこか夢の世界のようにおぼろげで、光の届く場所すべてがもやに覆われている。

足元の地面と周囲の岩肌は湿潤しているにもかかわらず、なぜだか空気は少し乾燥しているように思えた。

加えて、体感的にはサーミらしからぬところがあり、ヴィクトリアやリターニアの森林に似ているように感じられる。

マゼランは、携帯式の観測装置に目を向けた。

その計器はどれも沈黙しており、正常に動いてはいないらしいことが伝わってくる。

今は松明をともし、暗闇の中をさらに進むしかないのだろう。

......

周囲を見渡してみれば、そこは地下と言うよりも、岩の天井が備わった地上の土地のように見えた。

地面にはほとんど岩石は落ちておらず、コケや菌類に覆われている。

自生している植物は見たこともないようなものばかりで、その果実も美味しそうに見えた。だがマゼランは、携帯している食料を食べきってしまうまでは決してそれを口にするような危険は冒さないだろう。

地下であるにもかかわらず、この場所には小川が流れており、そこに流れる水も地上と何ら変わらないものだった。その水は透き通っていて甘く、言葉にしがたい味わいである。

あえて言い表そうとするのなら、太古を思わせる味わい、あるいは衰退の味とでも言うべきだろうか?あるいは……

マゼランは、もうひと口水を味わい、結論を得た。

これは静寂だ。沈黙の味だ。

これは、声なき悲鳴なのだ。

小川に沿って進んでいくと、その終わりには洞窟があった。

今度は洞窟の奥へと進めば、その向こうには規則正しくまたたいている光が見える。

岩肌にへばりつき、絶えず枝分かれしながらどこまでも伸びているそれは、チカチカと光っており――

その真ん中には、ほかの何より明るく輝くものがあった。

マゼランはそうした光に導かれるように、前へ前へと足を運ぶ。

どれほど時間が経ったかなどはもはや意識もしていない。探検中の彼女には、そんなものは関係ないのだ。

......

持ち歩いていた機材はすでに捨て去って、長い髪を無造作に垂らしたまま、マゼランは木の枝を杖に歩いていく。

岩壁は常に光を放っているため、しばらく火を灯してもいない。

食料はとうに底をつき、ここで採れた果実や泉の水を口にしていた。

彼女は、何よりも忠実な仲間とともに歩き続けていた。それは――

探検への情熱。

そして、知識への渇望だ。

やがて、彼女は旅の終わりへ到達した。

そこには、以前彼女が目にした族樹にも似た、天まで届きそうなほど巨大な木がそびえ立っていた。

その木は、楕円形の薄い膜に覆われて伸縮している。

それが律動するたびに、さざ波のような光の波紋が生まれ、遠くの暗闇へと消えていく。

マゼランをここへ導いたのは、この光だったのだ。

ゆえにここは、この探検と探求の旅の終点と言える場所だった。

マゼランは、もっとも原始的な方法で旅の報酬を得ようとした。

しかし、木を覆う膜に触れた瞬間――

強力な躍動とともに、その手は跳ね返されてしまった。

同時に、上の岩壁から遠くへと一筋の光が射し、それが分裂し、夜に輝く星々のようにまたたく。

マゼランは思い立ち――

自らの胸に手を置いた。

感じるのは鼓動だ。自身のものと、大樹のもの、それぞれの躍動。

彼女はふと悟った。

あれは植物などではなく――

サーミの心臓なのだということを。

彼女はサーミの背を横切り、その意志に挑み……

そしてサーミの傷跡から降り、サーミの体内をさまよい……

さらにはきらめくサーミの神経を頼りに、骨と骨との間を歩んできたのだ。

サーミはそんな彼女の非礼を許してくれていた。

それどころか、探検家への贈り物として、己の傷と拠り所なさを見せてくれさえしたのだ。

この時までは、サーミの苦痛を理解する者などいなかった。だが今は、優しき一つの魂が向ける共感が、疲弊したサーミの心をわずかに慰めてくれていた。

マゼランが振り向くと、なぜかそこには、地下へと降りてきた時に使ったロープが上から垂れていた。

これを身体に括りつけて引けば、すぐに地上へ戻ることができるだろう。

だが――

マゼランは前へ踏み出した。

そこには大地の果てが、終点の壁がある。

その壁には記号が刻まれていた。それは、マゼランがこれまでにも幾度か見てきた記号……

サーミの啓示だ。

読み解いてみれば、そこにあるのは先を憂う言葉だった。それを刻んだ者が自らの身を案じて記したものではなく、この場を訪れた者――マゼランを心配するような内容だ。

この先の旅は、さらに多くの傷跡に出くわすことになり、これまでほど順調には進まないだろうことはわかっていた。

それでも、マゼランは歩みを進める。

偽りの果てを通り抜け、サーミの生んだ幻影を通り抜け、再び光から闇へと歩んでいく。

サーミにはそれが理解できず、ただ沈黙を保っていた。

マゼランのほうは、変わらず前を向いて歩き続けていくだけだ。

彼女はサーミの脳にまでも辿り着き、その記憶と感情の根源を探りたいと考えていた。

もっとサーミのことを知りたい。

もっとサーミのことを理解したい。そんな一心で。

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