このページでは、ストーリー上のネタバレを扱っています。 各ストーリー情報を検索で探せるように作成したページなので、理解した上でご利用ください。 著作権者からの削除要請があった場合、このページは速やかに削除されます。 |
統合戦略3 追憶映写2
「兵士と……エーギル人ね。以前はこんな組み合わせ、見かけなかったものだけど。」
闇の中に人影が一つ浮かび上がる。彼女は黒いローブをまとっており、その手に持ったレイピアだけが銀色に輝いていた。
断崖の上の詰め所からたった今撤退してきた侵入者たちは、洞窟に人がいるとは思ってもみなかった。四回目の津波は干潮エリアの防衛設備の大半を破壊し、彼らと主力部隊の通信を完全に遮断してしまっていた。果てしなく満ちる潮と恐魚は彼らの後をついて離れず、生きて洞窟まで辿り着いたのは一人の兵士と、監視塔の職員一人だけだった。二人はいずれも満身創痍で飢えており、前と後ろに広がる恐怖におびえていた。
「あなたは審問官さんですか?」エーギル人がおずおずと口を開く。彼らに向けられたレイピアが、記憶を容易に呼び覚ましたようだ。
「私のこの剣と灯りを見ればわかるでしょう?」そう言って影から出てきた彼女の手に審判の火はなく、その灯りは彼女の後ろにある岩の上に置かれていた。
兵士は武器を下ろすのを躊躇っていた。「どうしてここに審問官がいるんだ? 今や防衛線は崩壊して、彼らは全員犠牲になったか、でなけりゃ内陸へ撤退したはずだが。」
「私の使命は終わってないの。最後の監視塔はまだ稼働しているし、崖の上にはそこを守り抜く人たちがいる。それと同じように、海へ帰った彼女たちだって、ここで私たちとコンタクトを取ることを諦めたりなんかしないはずよ。」
黒ずくめのその人は、海岸線へと投げかけていた視線を戻した。
「灯りもなしに遠くまで進むことはできないわ。洞窟を抜けて奥へ逃げたいのなら……そこのエーギル、その灯りを持って私についてきてちょうだい。」
かすかな光が滑らかな岩壁を映し出し、三人の影が長く伸びる。
「お前も、例の噂は聞いたことがあるだろ。」兵士は声を落として言った。「シーボーンは人に化けるって噂だよ。奴らは初めに教会へ、それから軍へ、さらには普通の町にまで入り込んでたんだ。最後の前哨基地も、そうして陥落したらしい。」
彼らには、目の前にいる人物が本当に審問官なのかを知る術などなかった。それでもほかの選択肢なんてない、とエーギル人は心の中で思っていた。
このエーギル人は、兵士の話が事実であることを知っていた。大戦が始まる前、裁判所の人間が、人の皮を被ったシーボーンをそれと判別する方法を教えてくれたことがあったのだ。いわく、恐魚もシーボーンも、所詮は人間の歩きを真似ているだけで、実際は触手や甲殻を頼りに地面との摩擦で進んでいるのだという話だった。ゆえに突然つまずいたり、あるいは素早く動かなければならない時に、奴らはボロを出す、らしい。
だが、それはもう過去のことだった。というのも、海の怪物たちが最も得意とするのは進化だからだ。半月前、とある前線基地が付近の戦場から出された救難信号を受け、恐魚の群れに囲まれた残存部隊を救い出すべく、救援部隊を派遣したことがあったが――その夜、その基地は陥落した。堅牢だった要塞はその役割を果たすことなく、内部から攻め落とされたのだ。
恐魚が兵士たちを丸飲みにしてその姿を模倣したのか、あるいは兵士たちが絶望の中で自ら変化を受け入れたのか……誰にも確かなことはわからなかった。それでも、たとえ見知った顔であろうと、それがいつ敵に変わってもおかしくないと人々は理解した。そうして国民の間に恐怖と不信が蔓延し、各地の防衛線の崩壊はますます加速していった。
研究者たちの話では、シーボーンの生物学的特徴を見るに、奴らの思考様式は陰謀の何たるかを理解することなどできないらしい。ゆえに奴らはただ、人ごみに紛れている「同胞」の匂いを嗅ぎつけたから、それを一刻も早く迎え入れるために、より受け入れやすいであろう姿で現れて、故郷へと招いているだけなのかもしれない、というのだ。
多くの人はそうした主張を鼻で笑っていた。人類からすれば、これは戦争なのだ。そして戦時中の人間は、自身が最も慣れ親しんだ考え方でしか敵を理解することはできないものである。
「これが罠だったらどうする? あの女は俺たちを助けようとしてるわけじゃなく、深淵へ引きずり込むつもりなんじゃないか?」兵士は歯を食いしばり、極度の疲労で目を血走らせながらそう言った。「こんな所で死ぬのはごめんだ。お前は故郷へ帰れないかもしれないが、俺は違う。絶対に……ヴィクトリアへ帰ってみせる!」
彼は再び武器を振り上げ、目の前を歩く案内人に襲いかかった。
岩壁に映る影はもつれあい、次第に変形し、伸びて膨れ上がり、それが切り裂かれて弾け飛んだ。青緑色の液体が岩の上へと飛び散って、体組織の一部がエーギル人の顔にへばりつく。
「彼もかわいそうな人ね。」彼女は依然立っており、レイピアを拭いそう言った。「私を攻撃したいという欲求の源を誤解していたんでしょう。彼は死ぬまで、自分はまだヴィクトリアの兵士で、戦争が終われば故郷へ帰れると思い込んでいたのよ。」
「この人は、一体いつから……」
「最後に戦った時か、あるいはもっと前でしょうね。きっと彼自身気付いていなかったんだと思うわ。もしかすると、絶望的な戦況下で誤って敵の体組織を噛み千切ってしまったのかも。であれば、それが変化の種になったんでしょう。」彼女はエーギルを一瞥して言った。「戦場に置かれた人は、誰しも懸命に生き延びようとするもの……この点は、恐魚と似通ったところがあるわね。」
フードの下の両目は静かに光を放っていた。この人は紛れもない審問官なのだ。話を聞いたエーギル人は、顔についた兵士の体組織が口の中に滑り込むのを恐れて本能的にすくみ上がり、思わず唾を何度も吐いた。
それから、二人は縦に並んで歩き続けた。洞窟の奥からは段々と異臭が漂ってくる。
「恐魚の死体がたくさん……全部あなたが仕留めたんですか?」
「ええ。一匹たりとも崖の上には行かせられないから。」
「どれくらいの間……ここで、一人で戦っていたんですか?」
「大した時間じゃない。こんなのまだ足りないわ。」彼女は首を横に振った。「私が知る、とある船長は……自分の船を真のイベリアと呼んでいたんだけどね。あの人は自分のイベリアを、六十年もの間守り続けていたのよ。」
「六十年……」
「きっと、私たちに残された時間は多くないでしょう。それでも、海岸線にまだ戦っている人がいる限り、イベリアは易々とは死なないわ。」彼女は小声で付け加えた。「私も、そう簡単には死なないしね。」
二人は、一筋の狭い裂け目の前へと辿り着いた。そこに恐魚の死体はなく、微かに外の空気が吹き込んでくる。
「この先は一人で行きなさい。その灯りは持って行って。」
「でも、あなたはどうするんですか?」
「私? ……あなた、まだ気付いてなかったの? そんな調子で生きてここまでたどり着くなんて、よっぽど運が良かったのね。」意外にも、彼女の声は笑っていた。「あなたみたいなエーギル人をほかにも知っているけど……もしかしたら、あなたたちなら本当に最後まで生き延びられるかもしれないわね。」
その時、両名がその場を動いていないにもかかわらず、岩壁に映し出された影が突然動き出した。ローブから何やら細長い物体が滑り出て、幾度か身をくねらせると縮み、再び戻っていったのだ。
エーギル人はようやく、目の前の人物が自分で灯りを持たなかった理由を理解した。
兵士の推測は間違ってなどいなかったのだ。しかし、エーギル人ですら審問官の灯りを掲げることができるのなら、彼女の正体にこだわる必要などあるだろうか?
「この灯りは審問官の象徴であり、審問官の意志によって灯されるもの。私はそれを、あなたに託すわ。この先、あなたの……そしてイベリアの前途には、より多くの光が必要になるでしょうから。」
エーギルは審問官に託された灯りを強く握りしめた。
「ですが、あなたは……? 僕が安全な場所へ辿り着いたら、応援としてたくさん人を呼んできますから……」そう言いかけて、彼女のローブに隠された腕を思い出したエーギル人は、これ以上続けたところでこの人には無意味なのだと悟った。
「せめて、お名前だけでも教えてください。」
「私はアイリーニ。イベリアのアイリーニよ。」
かつて審問官だった彼女はそう告げると、顔を上げて漆黒の潮流に向かい歩き出した。
コメント
最新を表示する
NG表示方式
NGID一覧