aklib_story_統合戦略3_追憶映写6

ページ名:aklib_story_統合戦略3_追憶映写6

このページでは、ストーリー上のネタバレを扱っています。

各ストーリー情報を検索で探せるように作成したページなので、理解した上でご利用ください。

著作権者からの削除要請があった場合、このページは速やかに削除されます。

統合戦略3 追憶映写6

ケルシーは彼女より一回り背が低い。

歩く速度は少し遅く、その口調は冷ややかだった。

グレイディーアは、ケルシーの傍で彼女が繰り返し語る昔話──訓戒、警告、教悔などに耳を傾けていた。二人が出会ってそれほど長い時間が経ったわけではないが、ケルシーの語るすべてが、彼女の強大さを十分に証明していた。

「強大」? グレイディーアは足を止めた。様々な力の在り方を目にしてきた彼女だが、中でも最もわかりやすいものは、彼女の背負う矛であることは疑いようもなかった。たちまち、エーギルでの光景が思い出された。海原を覆い尽くすほどの艦隊、陽光の届かぬ深海すらをも焼き貫くような戦士たちの眼光、さらには、荘厳な科学アカデミーから響く叡智の音──

そして、滑稽で哀れなことに、最後はどうしようもなく母親のことを思い出してしまうのだった。

「強大」。

グレイディーアは突飛な連想をそこで断ち切った。それでも、ケルシーが一旦口を閉ざすまでは、あの影が彼女の脳裏に焼き付いて離れなかった。ケルシーは一言も発さず、グレイディーアが調子を整えるまで端然と待っていた。眼前に立つ、計り知れぬ謎に包まれた医師を見やると、グレイディーアは自嘲気味に薄く笑った。

「どうぞ続けてくださいな、お医者さん。話を遮るつもりなどありませんでしたのよ。」

「何か思うところがあるようだったのでな。非礼は承知だが、うわの空の執政官殿相手に、先ほどの話題を続けるわけにもいかないだろう。」ケルシーはしばらく口をつぐむと、続けて言った。「――シーボーンの起源に関する話題を。」

グレイディーアは思わず笑い声をあげた。かつて、自分がまだ少女であった頃、母がたったの二言か三言で「任務」を言いつける姿を思い出したのだ。あの時、母も自分の顔色や様子などに気を配っていたのだろうか?

自分をうわの空だと言ったケルシーの疑念を晴らすため、グレイディーアは再び歩き始めた。

母への想い。陸地でしばらく過ごした後、彼女は今一度その想いと向き合わざるを得なかった。それは決して血の繋がりなどという単純なものではない。そこには、まるでドームの上で逆巻く珊瑚色の渦のように、もっと複雑な色彩が入り乱れていた。

心の奥では、自分はとうにその渦から逃れたものと思っていた。実際にこれまで長い間、そんな子供じみた光景を思い出すことなどなかったからだ。この想いを言葉にするのならば、憧れ、思慕、尊敬、畏怖……それとも憎悪や嫌悪だろうか? しかしそれが何であろうと重要ではない。重要なのは、彼女が未だそこから抜け出せていないかもしれないということだ。彼女はただ流れに逆らわぬことを覚えただけなのかもしれない。波に身を任せ、自分からは動こうとせずに──ただ景色が目の前を通り過ぎていったと思い込む術を。

エーギル、か。

彼女の性格、行動規範、あるいは「人間性」。それらのすべてはエーギルによって……より正確に言えば、彼女の家庭によって形成されたものである。執政官として、アビサルハンターとして、大義の元に戦い続けてきた身であるにも関わらず、彼女にはその大義の確かな原点を指し示すことは難しいのかもしれない――そんな皮肉な考えがふとグレイディーアの脳裏によぎった。

「執政官殿、休息が必要か?」

「グレイディーアよ。名前で呼んでくださるかしら。」

ケルシーは黙ってうなずく。二人の視線が交錯した。

「君は元々の仲間と、自分の国を救う方法を探しているのだろう?」

「ええ。」

「では、新たな仲間も必要なのではないか?」

「その通りよ。」

「ならば、我々は手を取り合うことができるだろう。しかし、君が探しているものはそれだけか?」

グレイディーアは驚愕の感情を心の奥底に押し留めた。彼女はこれまで自分の感情を上手く隠してきた。たとえ厳格かつ残酷な態度で、彼女が最も嫌悪するもの──自分自身と向き合わなくてはならない時であろうとも、その感情を表に出したことはなかった。

ケルシーの目は相変わらず冷ややかだった。しかしその目がいくら冷たくとも、彼女が自分を蔑ろにしているようには見えなかった。

「さぁお医者さん、そちらが話すべきことを話し終えたなら、今度は私にエーギルの現状……そして総戦略設計士の計画について話をさせていただけないかしら。」

「ケルシーだ。」

「では、ケルシー。」グレイディーアは、海の方へと目を向けた。「まずは、ある一人の母親の話から、始めさせていただきますわね。」


騎士。

グレイディーアはロドスで、自らを騎士と称するカジミエーシュ人に会ったことがある。彼らの歴史は、クランタの軍事的な伝統と滑稽な消費主義とが衝突した結果であり、そう複雑なものでもない。

しかしその騎士という言葉をどう読み解いたとしても、眼前の騎士とは到底相容れないものだった。

傍らのイベリアの戦士はいら立ちを抑えきれず、再び執政官に攻撃命令を下すように要求したが、グレイディーアは依然として沈黙を守っていた。

「あの二体のシーボーンは特別だ。」口数少ない執政官に代わって、審問官が答えた。「だが奴らの脅威を侮ってはならない。まずは奴らに何か動きがあるかどうか、しばらく観察する必要がある……」

生き長らえた戦士たちならば、一度や二度はあれらの──「最後の騎士」の噂を聞いたことがある。

グレイディーアは、「イベリアの眼」で初めて彼に出会った時のことを思い出した。海はかくも広大で、敵は無数に存在するというのに、こうやって同一のシーボーンに再会する確率は一体どれほどのものだろう? ひょっとしたら……あのカジミエーシュの片田舎で見つけた鍵が、あらゆる者の運命を一つに繋ぎ止めたのだろうか? それとも、この邂逅はデタラメな偶然に過ぎないのだろうか?

暗雲が立ち込め、吹き荒ぶ風には深海の腐臭が混じっていた。騎士とその忠実なる従者は、海面に這いつくばりながら海の呼吸に合わせて上下している。

グレイディーアは、一つの疑問について考え続けていた。もしこの騎士と彼の相棒が、深海教会のゴミどもと同じく畜生に身を落とした人間でしかないのなら、彼らの今の行動はあまりにも支離滅裂で無意味なものに思える。だがもし彼らが更に深いところまで堕ち、より大群に近付いていたとしたら、一体どうやって大群の意向や同胞たちの要求までをもはねのけているのだろうか?

そこまで考えて、グレイディーアは眉をひそめた。言いようのない気持ち悪さを感じたのだ。

なぜ自分はあのような人ならざる者に対し同情の念を抱いていたのか? そして、なぜ無意識に奴らの命を平等なものとして扱っていたのだろうか?

気に食わない。一体いつからだ?

その時、落雷がグレイディーアを現実へと引き戻す。若い水夫が不安げに空を見上げた。

「ひどい天気ね。視界もどんどん悪くなっていくわ。」彼女は先ほど攻撃命令を促してきたイベリアの戦士を見やった。「明らかに異常よ。この天候は……」

また一つ雷が落ち、海面が濁り始めた。いかなる陸地の胎生動物であろうとも、この漆黒の大海原と向き合えば本能的な忌避感を抱くだろう。戦士たちは冷汗をかき、グレイディーアの周囲はひっそりと静まり返っている。雲間を貫く微かな陽光は絶えず揺らめいており、海全体が異様な静寂に包まれていた。

グレイディーアは考えた。なぜ彼の中にわずかに残った理性は、彼の「海の波濤」に対する怒りを駆り立てるのだろうか。もしかすると、本来それは大群そのものに向けられたもの、あるいは……イシャームラに向けられたものなのかもしれない。

またあるいは……

騎士が顔を上げると、静寂は破られた。

グレイディーアは即座に水中へと飛び込んだ。審問官はそれにすぐさま反応して、この比類なき速度を誇るアビサルハンターに追随するよう艦隊に号令を下した。

ほとんど時を同じくして、騎士が視線を上げた。大波が水平線の彼方から音もなく湧き起こった。騎士は奇怪な嘶き声と共に大波へ突撃し、それを貫いたかと思えば、すぐに次に湧き起こる波を見据えていた。

最近余計なことを考えすぎていたのだと、グレイディーアは悟った。この理解しがたい最後の騎士の行動には、理屈などないのかもしれない。執念と闘争、このたった二つの純粋な思考から、海の上のあらゆる物を打ち砕きこうとしているだけなのではなかろうか。

その中には、彼女も、そして海に起こる波そのものまでもが含まれているのだ。

グレイディーアはまたしても考えすぎてしまっていることに気付いた。ふと、かつてウルピアヌスから受けた忠告を思い出した。「それは執政官にとっては美徳だが、戦士としては重荷となる。」――だったか。

夕陽が放つ最後の一筋が波によってかき消された瞬間、その残照が煌めく中、グレイディーアは騎士に攻撃を仕掛けた。

彼女の人生には、あのような人物像のイメージが欠けていたのかもしれない。しかし……

それを埋めるのが、シーボーンであってはならないのだ。


グレイディーアは、この数分間であることを確信した。自分はもはやこれ以上泳げないという現実を。

海底にゆったりと腰を下ろし、染みわたる水圧と、肌を撫でる温かさをじっくりと味わっていた。

彼女は故郷の街のこと──幼い頃に初めて目にした看護ロボットや、記憶の中でもやがかかったままの母の顔を思い出した。そして、声が自分から離れていくのを感じた。

イシャームラの声は消え去った。長き戦いも、エーギルを何千年もの間悩ませ続けてきた難題も、テラの文明全体に降りかかった大いなる危機も、あの憎むべき偽りの神──彼女がかつて溺愛した戦友でもある存在が死んだ瞬間、完全に消え去った。

そして、執政官ただ一人だけが生き延びた。

最後の瞬間、ウルピアヌスは生存の望みを彼よりも若い自分に託した。おかしなものだ。彼は執政官の個人情報をマメに読むような人ではないし、ましてや歳の差について議論したことなどは一切なかったはずなのに。長い長い戦いが終わったこの瞬間、これまでずっと気を張り詰めてきたグレイディーアの頭に、初めて牧歌的な考えが浮かんだ。ああ……ひょっとしたら、自分はウルピアヌスのことを本当の意味で理解したことなんてなかったのかもしれない。

いや……ローレンティーナも、スカジも、皆のこともだ。これまでずっと、エーギル人として、アビサルハンターとして、同胞として、戦友として、お互いに向き合ってきたというのに。

しかし彼らの匂いはもはや散ってしまった。最後に一隊だけ残った艦隊もろとも、海の藻屑となって。

グレイディーアは笑った。結末がどうなるかなど、彼女にはわかりきっていた。

数多の犠牲と崩壊を経ても、歌声は止まなかった。偽りの神は一体のみに留まらず、滅亡の足取りが緩むことはないのだろう。

ウルピアヌスの言う通りだった。スカジも完全に人間性を失う直前に、同じことを皆に伝えようとしていたのかもしれない。しかしこの時、グレイディーアは驚くほど落ち着いていた。今まで考えもしなかった価値観や意義が彼女の脳内に飛び込んできたのだ。この滅びゆく定めにあるゲームの中、彼女は自らを納得させ得る方法を見つけたのだった。

しばしの休息を取った後、彼女は恐魚の肉を引き裂き、それで簡易的に血の流れる傷口を塞いだ。その身体はもはや大群と何一つ変わらなかった。彼女が立ち上がると、仄暗い海の底では蛍光色の生物発光が辺りを照らしてくれていた。ほど近い海流の中では、夥しい数のシーボーンが、その奇怪な手足を引っ込め、グレイディーアの一挙手一投足をまるで聖地を巡る僧侶の如く静かに眺めている。大群は彼女に対して、帰順するよう要求していた。これ以上無意味な抵抗を、無意味な死を招く行為をやめるようにと。

今の彼女には、大群の意志がはっきりと理解できた。否、理解させられたと言うべきか。しかし、彼女は死は決して空虚なものなどではないと考えていた。この一点が、彼女と大群との間に残った最後の差異であった。

イシャームラが深い眠りについた場所に、神が目覚めた方向に目を向ける。大群は同胞のあらゆる質問に答えてくれる。そのことをグレイディーアは理解していた。

ゆえに彼女は、大群に向かって──

「残りはあと何体ですの?」

そう訊ねたのだ。


シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。

コメント

返信元返信をやめる

※ 悪質なユーザーの書き込みは制限します。

最新を表示する

NG表示方式

NGID一覧