aklib_story_受け継がれる刀

ページ名:aklib_story_受け継がれる刀

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受け継がれる刀

ヤトウは自身の持つ古い刀の新たな居場所を探していた。そして、ロドスでその場所を見つけたのだった


[実習オペレーターA]ヤトウ先輩……こんにちは。

[ヤトウ]……ああ。

[ヤトウ]待て、私のことを知っているのか?

[実習オペレーターA]は、はい。行動隊A4の作戦記録について調べたことがありますので……

[ヤトウ]そうか、君、名前は?

[実習オペレーターA]マンディです。

[ヤトウ]初めて見る顔だが……ここに来たばかりか?

[実習オペレーターA]はい! 三月にここへ来ました。外勤オペレーターのテストに合格して、今は前衛の講習を受けている最中です!

[ヤトウ]前衛か……刀は扱えるか?

[実習オペレーターA]少しだけなら……それがどうか――

[実習オペレーターA]うわっ!

[ヤトウ]受け取れ。

[実習オペレーターA]この刀は……先輩がいつも持っている……

[ヤトウ]それを使って私と手合わせしよう。君の実力を見せてくれ。

[実習オペレーターA]ええー!? そんな……無理ですよ! 今の僕では先輩の相手なんてとても……

[ヤトウ]そう卑下する必要はない。君はただ全力を出し切ればいい。あとのことは私が判断する。

[レンジャー]待たんか、ヤトウ!

[ヤトウ]レンジャーの爺さん、ちょうどいいところに来てくれた。立ち合いを頼みたい……

[レンジャー]ヤトウ、あまり若者をからかうものでない。この子たちはまだこの後に講習を控えているのじゃぞ。

[ヤトウ]……

[ヤトウ]分かった……君、すまなかったな。

[実習オペレーターA]いえ、とんでもないです。それでは、失礼します……

[レンジャー]うむうむ、気にせず自分のことを優先してくれ。

[レンジャー]ヤトウ、ここ数日やたら新人たちに絡んでおるようじゃな。あの若者たちの腕前ではまだまだおぬしには到底及ばんじゃろう。放っておいてやらんか。

[ヤトウ]そうか? ロドスに来たばかりの私はそれほど弱くはなかったぞ……少なくとも、先輩と多少手合わせをしても差し支えない程度にはな。

[レンジャー]それはもうずいぶん昔の話じゃろうが。あの頃は今ほど人手もおらんかったし、入って来るのは即戦力ばかりじゃった。

[レンジャー]じゃが時代は変わった。今は新人を育てるのが主流なんじゃ。基礎を固めてやり、それとなんじゃったかのう……おおそうじゃ、職場に融け込むのを手伝ってやることが大切なんじゃよ。

[レンジャー]最近の研修では交流を深めるレクリエーションの一環として、二人三脚スケートレースなぞというものを開催してるそうじゃ。まったく羨ましいのう。

[ヤトウ]そうだったのか。最近の状況はあまり把握できていないんだ。

[レンジャー]わざわざ知っておくようなことでもないがのう。ほれ、サイダーでもどうじゃ?

[ヤトウ](受け取る)

[レンジャー]じゃが、オペレーター試験に合格できるなら、あの若者たちもさぞかし優秀に違いないわい。ちいとばかし実戦経験が多いだけの儂らなんか、すぐに追いつかれてしまうじゃろう。

[ヤトウ]爺さん、新人たちの中に戦闘技術に秀でた者はいないのか?

[レンジャー]戦闘か……それについては儂も詳しくはないが、色々聞いて回ってきてやろう。じゃが、なぜそんなことを聞くんだ?

[ヤトウ]……知っているかもしれないが、私の刀が壊れてしまってな。

[レンジャー]おお、そうじゃったな。確かハガネガニを斬った時かのう? ノイルホーンに予備の刀を借りておったな。

[レンジャー]後方支援部へ新しいものをもらいに行くか、ヴァルカンに発注をするといい。ヴァルカンなら喜んで力を貸してくれるはずじゃ。

[レンジャー]それともヤトウ、おぬしもしや弟子でも取って、古い刀を受け継がせるつもりではあるまいな?

[レンジャー]なんてな、冗談じゃよ。ハッハッハ――

[ヤトウ]……

[レンジャー]ハハ、ハ……まさかおぬし……

[ヤトウ]確かにそう考えていた。

[レンジャー]じゃがヤトウ……そんなことに意味などないぞ。

[ヤトウ]分かっている……私は教官でもなければ、指導の心得もない。それに彼らがこの刀を必要としているかどうかも分からない。

[ヤトウ]まあいい、気にするな。もう少し自分で考えてみるさ。

[レンジャー]ヤトウ……あやつのあんな姿は久しぶりに見たわい。

[ヴァルカン]この刀……使用期間と修繕回数からして、実戦に耐えうるレベルにまで直すのはもう不可能だ。

[ヴァルカン]装備の廃棄処分を申請した後は、後方支援部に制式のものを支給してもらうか、特殊な希望があって私にオーダーするかが選べる。どちらもシステムから申請を出せばいい。

[ヴァルカン]だが、ヤトウはこの刀に特別な思い入れがあるみたいだな。

[ヤトウ]これは私がロドスへ来てから支給された最初の刀だ。極東で使っていた刀の破片も中に入っている。

[ヴァルカン]鋳直したのか……なるほど、道理で刃の強度が少々不足しているわけだ。

[ヤトウ]折れてしまった刀は私に剣術を教えてくれた師匠からもらったものなんだ。こうして、この刀は私に引き継がれた。

[ヤトウ]おかしな話だ。故郷を離れたのはずっと昔のことなのに、この刀の話をしていたら、当時の記憶が蘇ってきたんだ。それで今になってようやく……これを残しておきたいと思うようになった。

[ヴァルカン]だからこの武器の処理について悩んでるわけか。確かにあまり良いタイミングとは言えないな。

[ヴァルカン]まあ、君の考えは尊重するよ。だがはっきり言わせてもらう。君の希望をすぐに叶えるのは難しい。弟子を取り、刀を引き継がせるのは簡単なことではない。

[ヴァルカン]使い物にならない刀ならなおさらだ。その刀を欲しがる人がロドスにいるとは思えないな。

[ヤトウ]正直、こんな日が来るなんて思っていなかったんだ。てっきり私のほうが刀より先に逝くか、最悪いつか戦場でぽっきり折れてしまうものだと思っていた……

[ヤトウ]君の言う通りだ……こんな考えは早く忘れたほうがいいかもしれない……

[ヴァルカン]ふむ、もしまだこの刀を使い続けたいと思っているのなら、一つだけ方法がある。と言ってもありきたりな方法だが。

[ヴァルカン]この刀を使ってもう一度新しい刀を鋳直す。だが、そうすればさらに強度が落ち、今よりも壊れやすくなる。高強度の戦闘で使用することはお勧めしない。

[ヴァルカン]どうするかは君が決めることだ。

[ヤトウ]分かった……もう少し考えさせてくれ。

[ヤトウ]また上の空になっていた……

[ヤトウ]……私としたことが、なぜたかが刀一本に心を乱されているのだ?

[???]失礼します、ヤトウ先輩。

[ヤトウ]……私に用か?

[???]はい。

[ヤトウ]君は?

[???]セリーヌ・フリーマンと申します。一人前の先鋒オペレーターを目指し、外勤部で実習中です。

[ヤトウ]それで、用件は?

[セリーヌ]実は……

[セリーヌ]スゥー……

[セリーヌ]すみません、この間のレンジャー先輩との話を偶然耳にしてしまいまして……先輩は手合わせの相手を探してるんですよね? 私、先輩と手合わせしたいんです。

[ヤトウ]私と戦いたいと言うのか?

[セリーヌ]はい、その通りです……先輩から戦い方を教わる資格を勝ち取りたいんです。

[ヤトウ]……

[実習オペレーターB]セリーヌのやつ……今度はヤトウ先輩に手合わせを頼んでるぞ!

[実習オペレーターC]この前エンカク先輩に勝負を挑んだ結果、どうなったかもう忘れたのか? あいつ、剣術のテストでヘマしてから、ずっと暴走してるな。

[実習オペレーターB]「自分を証明してやる」って顔に書いてあるようなもんだもんな。これだから負けず嫌いは……まあ、ヤトウ先輩ははっきりものを言う人らしいから、多分断られるのがオチ――

[ヤトウ]いいだろう。

[実習オペレーターB]えっ!?

[セリーヌ]力加減には気を付けます……

[ヤトウ]その必要はない。

[セリーヌ]では……全力で行かせてもらいます!

[セリーヌ](か、かわされた?)

[ヤトウ]後ろだ。

[セリーヌ](速い――だけどこれくらいなら……)

[セリーヌ]はあっ!

[セリーヌ]……

[実習オペレーターB]なぁ、今の見えたか?

[実習オペレーターC]いや……

[実習オペレーターB]ヤトウ先輩……いつの間に刀をセリーヌの喉元に突きつけたんだ?

[ヤトウ]君の負けだ。

[セリーヌ]も……もう一度お願いします!

[ヤトウ]……来い。

[セリーヌ](さっきのやり方がダメなら、今度は……)

[セリーヌ]はっ!

[ヤトウ]ふぅ……また君の負けだ。

[セリーヌ](どうして? 攻撃は絶対にかわしたはずなのに!)

[セリーヌ](またこの刀が……喉元に突きつけられてる……)

[ヤトウ]もういいだろう。

[セリーヌ]待ってください! ヤトウ先輩……もう一度お願いします! 最後にもう一度だけ!

[ヤトウ]君では相手にならない。

[セリーヌ]今度は……絶対に負けませんから!

[ヤトウ]ならかかって来い。

[セリーヌ]……ありがとうございます。

[セリーヌ](ヤトウ先輩の戦い方はもう把握できた。前にエンカク先輩が使っていた技を試してみよう。あれならきっと……)

[セリーヌ]ハッ――

[ヤトウ]ん?

[セリーヌ]また……負けた。

[実習オペレーターC]力の差がありすぎる……

[実習オペレーターB]刀ごと吹き飛ばされちゃったな。ヤトウ先輩ってやっぱ容赦ないんだなあ。

[ヤトウ]刀を落としたな。

[ヤトウ]教官の元でもっと鍛錬に励んでくれ。

[レンジャー]うむ……

[ドゥリン]スー……スー……

[ヤトウ]私の負けだ。

[レンジャー]状況からするに、今回の勝者は……

[ノイルホーン]……俺だな。

[ヤトウ]三連勝か。今日はなかなか手札の引きがいいようだな。

[レンジャー]ノイルホーン、おぬし、新しいマスクに替えたな?

[ノイルホーン]ああ、前のは作戦中に壊れちまったから修理に出してる……

[ノイルホーン]言っとくけど違うからな! 縁起担ぎのためにわざわざマスクを替えたんじゃねぇぞ! 俺はそんなことはしねぇ!

[ヤトウ]分かったから静かにしろ。いつも通り、負けた者が奢る。今日は私の奢りだ。皆、何を飲む?

[レンジャー]いつものドライマティーニを頼む。

[ヤトウ]ドゥリンは……フルーツジュースでいいか。

[ノイルホーン]じゃあ俺もフルーツ……

[ヤトウ]ドライマティーニ一つ、フルーツジュース一つ、それとスピッタースとバニラルートビアのカクテルを二つ頼む。

[ノイルホーン]……

[レンジャー]ノイルホーン、おぬしハガネガニに追われていた時に叫んでおったろう、「サボテンジュースはもうイヤだ。死ぬ前にスピッタースとバニラルートビアのカクテルが飲みてぇ!」と。なのに――

[ヤトウ]なんの話だ? スピッタースとバニラルートビアのカクテルならもう頼んだぞ。

[ノイルホーン]はいはい、分かったよ。

[ドゥリン]ふわぁ~……あれ、ヤトウも今日はお酒飲むんだ?

[レンジャー]ヤトウ、まだ刀のことで気を揉んどるのか。

[ヤトウ]そこまで深刻なことではない。

[ノイルホーン]聞いたぜ。今日訓練室で新人とやり合ったそうじゃねぇか。その子の腕前はどうだった?

[ヤトウ]そこそこだな。基本的な動きは悪くないが、焦って攻め込むのが悪い癖だ。戦闘経験も足りていない。

[レンジャー]まったく……儂がちいとばかし目を離した隙に、また新人に手を出しおって。

[レンジャー]あの後、周りに聞いてみたんじゃが、あの若者……確かセリーヌという名だったかのう? とにかくその子は新人の中ではかなり腕が立つらしい。

[レンジャー]その子でもヤトウを満足させられんかったのなら、他の新人たちも無理じゃろうな。ヤトウの刀を受け継ぐのは容易なことではないのう。

[ノイルホーン]ああ、セリーヌか。その子なら俺も知ってるぜ。模擬訓練で何回か面倒を見てやった。

[ヤトウ]彼女についてどう思った?

[ノイルホーン]お前とほぼ一緒だよ。確かにありゃ焦りすぎだな。訓練は真面目に頑張ってるし頭も回る子なんだが、実戦になるといつもヘマしちまう。

[ノイルホーン]しかも自分で問題を抱え込もうとするうえに、負けず嫌いだ。人に意見を尋ねるのが苦手で、いつも一人で突っ走るしな。

[ヤトウ]だが目を引くところもある。手合わせをした時、彼女はエンカクに似た攻撃を繰り出した。後で聞いたのだが、エンカクとも手合わせをしたことがあるそうだ。

[ノイルホーン]そうなんだよ。いいトコと悪いトコがはっきりしてる子なんだ。教官たちも色々アドバイスしてるみたいだけどな。

[ノイルホーン]まあ、自分でも分かってると思うぜ。でも挫折する度にショックを受けて、そのせいで焦りすぎちまってどんどん前に進めなくなってる。

[ヤトウ]惜しいな……

[ノイルホーン]あの子、昔のヤトウにちょっと似てる思わねぇか?

[ヤトウ]いや、まったく。

[レンジャー]口を挟んですまん。ずっと気になっておったことがあるのじゃが……ヤトウ、お主が弟子を取って刀を引き継がせようととしているのは、故郷の伝統を守る以外に別の理由はないのか?

[ヤトウ]別の理由? どうしてそんなことを聞く?

[レンジャー]ははっ、口うるさいと思われるかもしれんが、儂らと新人たちは同じ企業に雇われた言わば同僚のようなものじゃ。専門的な新人研修もあるし、わざわざ儂らが教育担当にかって出る必要もなかろう。

[ヤトウ]ヴァルカンにも似たようなことを言われたよ。考えてみれば、確かにそのようなことをする必要はない。むしろ、この刀を必要とする者なんていない方がいいすら思っているんだ……

[ヤトウ]今朝、人員拡充の状況を確認しに行ったが、今の新人たちの能力では行動予備隊に加入させられる水準までに達していないそうだ。

[ヤトウ]前から相談していたうちの増員の件は進展なしということだな。しばらくの間は、まだ私たちだけで任務を回していかなければならない。

[レンジャー]今までずっとそうしてきたんじゃ、儂は特に不満はないぞ。それは皆とて同じじゃろう。

[ヤトウ]ああ、分かってる。だが……

[ヤトウ]ノイルホーン、今回の任務で負った怪我、結局何針縫ったんだ?

[ノイルホーン]五……いや、六だったな……

[ヤトウ]レンジャー爺さん、肩の古傷の痛み、もう三回もぶり返してんのだろう? 気付いていないとでも思ったのか?

[レンジャー]うむ……

[ヤトウ]ドゥリンだってもう寝袋を何個も失くしている。今後任務の難易度がさらに上がっていくとしても、私たちならまだ持ちこたえられるだろう。だが、それをいつまで続けられるかは分からない。

[ヤトウ]私たちの戦力となってくれる後任者を見つけるのは、決して無駄なことではないと思って、この刀を託せる者を探そうと考えていたんだ。

[ヤトウ]もし……これは仮の話だが、万が一いつか私たち全員がいなくなったとしても、この刀だけでも残しておけると……

[レンジャー]ヤトウ……

[ノイルホーン]おいおい、全員の任務が終わって、やっと久しぶりに集まれたってのに、そんな辛気臭ぇ顔すんなって。

[ノイルホーン]ほら、酒が来たぞ。パーッと飲もうぜ!

[レンジャー]うむ、いただくとするか。

[ヤトウ]乾杯。

[実習オペレーターA]その……先輩方のプライベートの時間をお邪魔してすみません。ヤトウ先輩、今少しよろしいでしょうか……

[ヤトウ]君は……今朝声をかけてきた新人の……

[実習オペレーターA]マンディです!

[ヤトウ]ああ、そうだったな。思い出したよ。

[実習オペレーターA]その……

[実習オペレーターB]何ビビってんだ。はっきり言っちゃえよ!

[実習オペレーターA]実は、あの後ヤトウ先輩がセリーヌと手合わせしているところを見たんです! 僕じゃまだまだ先輩の足元にも及ばないけど……それでもぜひ先輩の指導を受けたいんです!

[ヤトウ]指導? 私の?

[実習オペレーターA]はい! 先輩の戦い方が僕の憧れなんです……

[ヤトウ]すまない、本当のことを言うと、私自身誰かに何かを教えたことは一度もない。できるかどうか自分でも分からないんだ。

[ノイルホーン]あっ、俺いま急に閃いたんだけどよ!

[ノイルホーン]ヤトウ、明日俺と一緒に模擬訓練に参加しようぜ! 俺たちがやり合うとこを新人に見せてやるんだ! その辺のことは俺もまあまあ慣れてるからな!

[ヤトウ]模擬訓練……つまり新人たちの前で戦闘を行うと?

[ノイルホーン]そうそう、俺もう何回もやったことあるぜ。

[ヤトウ]しょっちゅう姿を見かけなくなると思ったら、そんなことをしていたのか?

[ノイルホーン]まあな、へへっ……

[実習オペレーターA]それ、すごくいいと思います……! ぜひ見学させてください!

[レンジャー]儂も良い提案じゃと思うぞ。これを機に人に物事を教える感覚も体験できるじゃろう。

[ノイルホーン]どうだ、ヤトウ? 前向きに考えてみろって!

[ヤトウ]……そうだな、やってみよう。

[実習オペレーターB]シー、静かに! ノイルホーン先輩がまだ話してるだろ。

[実習オペレーターC]マンディ! こっちこっち!

[実習オペレーターA]おう。

[ノイルホーン]コホンッ……今来た奴もいるみたいだから、もう一度説明するぜ。

[ノイルホーン]本日の模擬訓練の特別ゲストは、俺が所属するチームの隊長、ヤトウだ。

[ヤトウ]うむ。

[ノイルホーン]これから俺とヤトウで手合わせをして、みんなに行動隊A4の戦い方を実演してみせようと思う。

[ノイルホーン]そんじゃヤトウ、一勝負と行くか。

[ヤトウ]ああ。

[実習オペレーターC]ちょっと手本を見せてくれる程度だと思ったのに、ノイルホーン先輩とヤトウ先輩、ガチでやり合う気かよ?

[実習オペレーターC]ノイルホーン先輩、大丈夫かな?

[ノイルホーン]へへっ、行くぜ!

[ノイルホーン]おりゃあっ!

[セリーヌ](ノイルホーン先輩、全力でぶつけていった。私だったら攻撃を避けるけど、ヤトウ先輩は……)

[ヤトウ](小声)新人たちによく見えるよう、スピードを落としたほうがいいのだろうか?

[ノイルホーン](小声)それよりもっと集中しな。あんまり俺を見くびるなよ。

[セリーヌ](真正面から受け止めた……もしかして相手の動きを封じ込めるためにあえて?)

[セリーヌ](また二人とも間合いを取った。)

[ノイルホーン]ハッ、そろそろ本気を出させてもらうぜ。

[ノイルホーン]こいつを食らえ!

[セリーヌ](ヤトウ先輩は型にはまる戦い方をする。きっと私でも予測できるはず……)

[ノイルホーン]あちゃー、俺の負けだ。

[セリーヌ](ヤトウ先輩の最後の一撃、ノイルホーン先輩の攻撃をかわした直後に、足さばきだけで相手の側面に回り込んだ。)

[セリーヌ](前にヤトウ先輩と戦った時、いきなり背後に現れたのも、たぶん今と同じやり方で移動したんだ……)

[ノイルホーン]シンプルな接近戦を想定した模擬戦だったが、全員ちゃんと把握できたか? よく分からなかった奴用に端末に動画も残ってるぜ。

[ノイルホーン]そんじゃ、次の模擬訓練は俺がお前たちの相手……ん? ヤトウ、どうしたんだよ?

[ヤトウ]私が相手になろう。

[ノイルホーン]はあ!?

[実習オペレーターB]えぇー!?

[ヤトウ]残りの時間は、私が皆の相手を務める。

[ノイルホーン]待てよ、ヤトウ――

[ヤトウ]何か問題でもあるのか?

[ノイルホーン]いや、そうじゃなくて、模擬訓練にはルールがあってだな……

[ヤトウ]どんなルールだ?

[ノイルホーン]ご褒美だよ。俺たちの模擬訓練には毎回ご褒美がつくことになってんだ。もしみんながお前に勝てたら、ご褒美に何をくれるんだ?

[ヤトウ]……一撃だけでいい。

[ヤトウ]もし誰かが私に一撃でも食らわせることができたのなら、その者に私の技を余すことなくすべて教えよう。

[実習オペレーターB]おぉ……

[実習オペレーターA]はい! 僕、先輩に挑戦したいです!

数時間後

[実習オペレーターB]はあ……全然ダメだった、二発受け止めるだけで限界だわ。

[実習オペレーターC]何落ち込んでんだよ? 他の奴らを見てみな。二発受け止められただけでも大したもんさ。

[実習オペレーターA]僕なんて三回も挑んでるんだぞ。映像記録だって何回も見たのに、いまだにヤトウ先輩の動きがよく分からない……

[ヤトウ]ほかに挑戦者はいないか?

[実習オペレーターC]そういえばセリーヌは? あいつが一回も挑んでないとからしくないじゃないか。

[セリーヌ]……

[ヤトウ]いないのなら、今日はここまでにしよう。

[セリーヌ]あの……

[セリーヌ]ヤトウ先輩、手合わせをお願いできますか?

[ヤトウ](刀を投げて渡す)

[ヤトウ]来い。

[セリーヌ]ふぅ……

[セリーヌ](ヤトウ先輩の動きは相変わらずだ。隙がまったくないし、どこから攻撃が来るのかも分からない。)

[セリーヌ](まずは攻撃に備えよう……先輩が仕掛けてくるのを待つんだ。)

[ヤトウ]こちらから先にかかって来いと言うことか?

[セリーヌ](な、なんとか防げた。)

[セリーヌ](刀の動きに集中して、正面から攻撃を受け止める……やっぱりこのやり方ならうまくいくんだ)

[ヤトウ]よくやった。

[セリーヌ](えっ、先輩、私に話しかけてる?)

[ヤトウ]続けるぞ。

[セリーヌ]クッ――

[セリーヌ](かわせた……今がチャンスだ!)

[セリーヌ](避けられた! なんてスピードなの……)

[実習オペレーターC]マジか! あいつ、ヤトウ先輩の攻撃を三回も受け止めたぞ!

[実習オペレーターB]しかも反撃までしたよな……

[実習オペレーターA]静かに……! よく見て、セリーヌが攻撃をかわした時の動き、ヤトウ先輩のさっきの動きと似てると思わない?

[実習オペレーターA]セリーヌは先輩のスピードについていってるだけじゃない、本当に戦い方を学び取ってるんだ……

[ヤトウ]焦るな。

[セリーヌ](もしかして……私へのアドバイス?)

[セリーヌ](よし、攻撃は全部防げてる。)

[セリーヌ](先輩の攻撃のテンポも掴めてきた。次はきっと……うまく反撃できるはず。)

[セリーヌ](ヤトウ先輩のあの動きを試してみよう。)

[セリーヌ](よし、かわせた! そしたら先輩のように、そのまま刀を振るって――)

[ヤトウ]フッ。

[実習オペレーターA]セリーヌの攻撃が……ヤトウ先輩に当たった!?

[実習オペレーターB]マジかよ!? セリーヌ! お前マジでやりやがったな!

[セリーヌ]わ、私やったの? 確かに手ごたえはあったけど……

[ヤトウ]君の負けだ。

[セリーヌ]私が切ったのは……

[セリーヌ]布?

[ヤトウ]刀の動きに注目するか、相手の動きに注目するかは、戦況に応じて臨機応変に判断しなければならない。やはり君は焦りすぎる節があるようだ。

[セリーヌ]……ありがとうございます。

[ヤトウ]だが、よく学び取ってくれた。そのことを嬉しく思うよ。

[セリーヌ]いえ……私、何も……

[実習オペレーターA]すごいよ! セリーヌ! 十分よくやったって!

[実習オペレーターC]セリーヌ、やっぱお前ってすげぇぜ!

[ヤトウ](あの短時間でここまで腕を上げるのは、なかなかできることではない。セリーヌ……もしかすると彼女なら……)

[実習オペレーターB]本当にすごいな。こりゃあ俺もセリーヌ目指して頑張らなきゃ。

[実習オペレーターC]ああ、またヤトウ先輩と手合わせできる機会があるといいんだけど……

刀を渡そうと手を柄に置いたヤトウは、周りにいるオペレーターたちを見渡した。

新人たちの情熱的な視線が、自分に向けられている。

その時ヤトウはハッと気づいた――今彼らの目に映っているのは、まさに自分の姿であることを。

[セリーヌ]あの……

[セリーヌ]ヤトウ先輩!

[ヤトウ]まだ何か用でも?

[セリーヌ]こ、今回は負けてしまいましたが、その……よければまた手合わせしていただけませんか? 今回の先輩との闘いで、とてもたくさんのことを学べたんです……

[実習オペレーターA]僕もです!

[実習オペレーターB]俺たちもまたヤトウ先輩と手合わせしたいです。

[ヤトウ]……

[ヤトウ]それでは明日もこの場所で皆と模擬訓練を行おう。ノイルホーン、問題はないな?

[ノイルホーン]申請表に記入すりゃ大丈夫。俺がやっとくよ。

[ヤトウ]それと明日、刀を一本持ってくる、訓練室用にな。

[ノイルホーン]え?

[ヤトウ]今日の訓練で私に勝った者はいなかった。だから今新たなルールをここに決めることにした……

[ヤトウ]今後、私がこの場所に姿を現した時は、誰であろうとその刀を持って私に挑んでもらって構わない。喜んで相手しよう。

[ヤトウ]ロドスの新人諸君、次に君たちと会うのを楽しみにしている。

[ヴァルカン]つまり、新人たちと少し手合わせをしただけで、この刀を溶かすことにしたってこと?

[ヤトウ]そうとも言えるな。

[ヴァルカン]気に入った新人の誰かに刀を渡すことにしたのか? いや……それなら鋳直す必要はないか。

[ヤトウ]ああ、この刀は今後も戦闘で使うつもりだ。

[ヴァルカン]では炉に火を入れてくる。前にも言ったと思うがくれぐれも――

[ヤトウ]「高強度の戦闘では使用しないように」だったな。もちろん覚えているさ。

[ヤトウ]これからこの刀は一つの場所で、様々な者によって振るわれることになる。

[ヤトウ]遠い先の未来まで……もしかすると我々が全員いなくなるその日までずっと。

ヤトウは烈日の如く真っ赤な炉の中で、刀がゆっくりと沈み、徐々に溶けていく様をまじまじと見つめた。

やがて刀はその形を完全に失い、燃え滾る赤い液体と化した。

まるで若き血潮のように。

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