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12章 関連テキスト

ペアのハゲ野郎が自分のパンを喉に詰まらせて死んじまうなんて、夢にも思わなかった。奴の喉奥に詰まったパン屑の酸っぱい臭い、今思い出しても吐き気を催すほどだ。

あいつは見栄っ張りだったから、毎朝ドブの前に立って歯を剥き出して、金歯を見せつけながら客寄せをしていて、それがほんと癪に障るくらい羨ましかった。

あいつ、毎日パンのショーケースをピカピカに磨いていて、ことあるごとに自分のパンを自慢していた。あいつはよく俺にパンを二切れほど恵んで、俺はそのお礼にあいつが喜びそうなことを言った。だが俺は分かってたんだ。あいつは俺が店の入口に立ってることで、客を不快にさせるのを嫌がってただけだったんだ。

しかし魔族がノーポート区にたびたび現れるようになってから、あいつの商売も一気に下向いてきた。ある日、あいつの大事な金歯がなくなっちまった。そこにぽっかり空いた黒い穴は、あいつのハゲ頭とぴったり調和してた。そう、「調和」ってのはペア本人から教わった言葉さ。

あいつの話じゃ、金歯はパン泥棒に取られちまったらしい。俺は愉快な気分だった。金持ちのダチ公がちょいとブサイクになったって事実に、いくらか溜飲が下がったんだ。

ノーポート区が移動を始めたばかりの頃から、俺はペアにさっさと店を畳んで隠れた方がいいと忠告してた。だが奴はそれを聞き入れなかったばかりか、そんな臆病者だからお前は金を稼げないんだと言ってバカにしやがった。だが結局生き残ったのはその臆病者ってわけだ。

あの日、俺は近くの市街区に隠れて、ペアの身を案じながら仕事が始まるのを待ってた。だが結局最後までペアの声は聞こえなかったから、てっきり奴もどこかに隠れたもんだと思ってたんだ。それがまさかあのイカれたパン泥棒どもに、死体がぐちゃぐちゃになるほどの惨たらしい目に遭わされてたとは。

俺は奴の死体を片付けてる時にたまたま気づいた。奴の喉奥に詰まったパンの中に、なくなったはずの金歯が隠されていることに。

どうりで一日中ずっと声が聞こえなかったわけだよ。まったく、あの用心深くて疑い深いハゲ野郎は、死ぬ間際まで自分の宝物を大事に守ろうとしてたんだ。

付き合いの長いツレが死んじまったのは当然悲しむべきことだが、もっと悲しいのは、あいつがこんな価値のない偽物を宝物みたいに大事にしてたってことだ!

ペアは悪い奴じゃない。むしろ俺は奴のことを心底気に入ってた。ただ少し金にがめつかっただけさ。けどよ、世の中そうじゃない奴なんていないだろ?


この鉄のバッジは、別に死体から取ってきたもんじゃない。とある学者さんから、俺がヴィクトリアの「紋章学」だか何だかの未来とやらを救ったって言われて、それの記念としてもらったもんだ。だがあの立派な文化人のお方に対しちゃ、「学者さん」なんて呼び方ですら、まだまだ敬意が足りないってことは言っとかなきゃな。

しかもあの人は、「私はまだ『アカデミー会員』と呼ばれるには値しない」とか言って、わざわざ訂正までしてた。けどあの人は、王立科学アカデミーのお偉いさんたちと変わらないだろ!

学者さんに会ったのは偶然だ。橋の下で特殊清掃をしてたら、ちょうどその上で自殺しようとしている学者さんがいたんだよ。けどあそこはもう自殺向きの場所じゃない。魔族どもがノーポート区全体を支配してからというもの、あそこには死体が山ほど投げ込まれてる。学者さんみたいな立派な人があんなとこで死んじゃダメだろ。

俺は慌てて学者さんを担ぎ下ろすと、どっか他所へ行くよう忠告した。そしたら学者さんは急に興奮し始めて、もっと色々な場所を見て回らなきゃとか、何かの本を書き上げるとか何とか言い出した。

俺がポカンとしたまま黙ってると、学者さんは俺が持ってた木炭筆とこのキラキラしたバッジを交換しないかって言ってきた。

だが実のとこ、俺が欲しかったのは学者さんが懐に隠し持ってた缶詰の方だったんだ。でもこんな立派な人から物を奪ったりして、特殊清掃員組合のメンツを潰すわけにもいかない。

学者さんは、何たら文の最後に俺への礼を書くと言った。それからその何たら文が雑誌に載った時は、その住所を訪ねてくれれば、鉄のバッジと引き換えにお礼として大金を渡すとも約束してくれた。

さすがちゃんとした紳士は気前いいぜ!嬉しそうに去っていく学者さんの姿を見て、まだこんな文化人がいるんだな、この国も捨てたもんじゃないって、俺は感動しちまったよ。

(今朝、バッジを磨きながらふと思ったんだが、お偉方が毎日読んでる新聞すらろくに読めないこの俺が、*ヴィクトリアスラング*一体どうやって学者さんの所へ金を受け取りに行きゃあいいんだ?)


ノーポート区が魔族どもの支配下になってからは、金を払ってくれる貴族のお偉方がいなくなっただけじゃなく、俺たち労働組合のメンバーも互いに連絡が取りづらくなった。

俺は死体を漁ることで何とかやりくりしてきたが、まさかあのグラスゴーのバカギャングどもが、魔族の目を盗んで自分のシマの死体を片付けてたとは。俺の商売上がったりじゃねぇか!

しかし、あのガキどもの魔族に立ち向かう肝っ玉の太さだけは、確かに認めざるを得ない!

魔族どもは近頃定期的に、適当に選んだ奴らを封鎖エリアの外に連れ出して、輸送路上に積み重なった死体の山を片付けさせてる。俺みたいにツイてない奴は、その死体の山の一部になるか、仕事を終えた後で再び有刺鉄線とコンクリートに囲まれた檻の中にぶち込まれる。どっちにしろあまり良い結果とは言えねぇが、俺はやっぱり生きて帰れる方に魅力を感じるね。

もしもあのガキどもが俺たちの奴隷仕事を手伝ってくれてなきゃ、俺もとっくにくたばってたかもな。だから最近は、奴らのことをどんどん見直すようになったんだ!

しかし近頃の奴らは無鉄砲すぎる。まさか労働中に魔族どもに手を出しちまうレベルでイカれてたとはな。幸い俺は死んだふりをして逃れたが、あの親切なガキどものことは残念でならない。

俺が哀悼の意を込めて奴らの遺体を片付けてると、死体の山ん中からまだ息のあるグラスゴーのガキを見つけた。そいつが自分の彼女の元へ連れてけって言うもんだから、俺も断るわけにはいかなかった。

だが残念ながら、その彼女の元へ着いた時にやっと分かった。その女はグラスゴーとはそりの合わないギャングに所属してたことと、とっくに魔族どもに片付けられちまってたことがな。幸いだったのは、俺が連れてきた男の方が現場の惨状を目にする前にくたばっちまったことだ。

(俺はそのガキを女と同じ場所に埋めてやった後、そいつが女に贈る予定だったっていう香水を報酬としていただいた。いつか良い暮らしが送れるようになって、俺にまた女ができた時にゃ、プレゼントしてやろう。)


昨日の晩、家にあった酒が全部なくなっちまった。もう泡一つ残ってない。

今日、昔残しといた酒瓶を漁ってたんだが、ベッドの下からビデオシアターのマンスリーパスが出てきた。そこに書いてある日付を見て、俺がこのクソッタレな日々をどれほど長い間過ごしてきたか気づかされた。外じゃ魔族どもが相変わらず封鎖壁の辺りをうろうろしてやがるし、街には大きな声で話そうとする奴さえ見当たらない。

映画館の入口にしゃがみ込んで、セレブの会話に耳を澄ましてた日々が懐かしい。奴らが話す内容は、どれも映画館でしか見れないような新鮮な物語ばかりだった!

あの頃の俺は、映画を見たくてうずうずしてたが、だからと言ってどうもならなかったわけじゃない。街にはビデオシアターがあって、店主のマクラーレンが、他では手に入らないレアなビデオをいっぱい持ってたからな。ありゃアルコールと同じくらい気分がアガったぜ!

もちろん、俺にはビデオを借りれるような金なんてない。だが俺はマクラーレンの奴が私設のシアターを持っていて、灰色の帽子を被った奴が気晴らしに毎週そこへ通っていることを知っていた。

あの帽子の奴と面識はないが、俺とあいつはきっと気が合うだろうってのは断言できる。だって俺たち二人はどっちも、ちょっといかがわしい映画がお気に入りだからな。きっとあいつは、映画を見に行くためにこっそり家から出なきゃならないから、帽子をあんなに深々と被ってたに違いない。

にしても、ああいう映画は本当に良かった。どうして俺はあれに出てるようなイイ女と巡り合えないんだ?まったくツイてないぜ。

しかしある日突然、あいつは姿を消した。二週間も連続で姿を見せなかったんだ。再び会った時には、あいつは市庁舎の入口に吊るされてた。魔族どもはあいつはスパイだったと堂々と発表しやがった。

デタラメ言いやがって!あいつは俺と同じ、ただ刺激に飢えてただけだったってのに!

俺はあいつの遺体を綺麗に整えてやった。あいつが持ってたマンスリーパスは、あいつ自身が使えなくなっちまった以上、俺が預かって然るべきだろう。ただ惜しいことに、ちょうど期限が切れちまってたわけだが。

(けどあいつ本当に映画のスパイみたいに、ビデオシアターで情報のやり取りをしてたのか?それとも俺と同じく、ただストレス発散のためだけに通ってたんだろうか?直に話せなかったのが残念でならない。だが最近じゃグラスゴーのガキどももこっそりシアターに通ってるみたいだし、また今度確認しに行ってみよう。)


この見事なナイフは、今日わざわざ俺に酒を届けてくれた同業者からもらったんだ。正確にゃあいつのもんってわけじゃないが、こんなのに手を出す勇気はないから、俺に押し付けるしかなかったらしい。

鉱石病は、まるで魔族どもがどっからか持ち込んだ疫病みたいに、かつて活気づいていたノーポート区全体を混乱の渦に叩き込んだ。自分がいつ感染者になるか分からねぇもんだから、皆が揃って疑心暗鬼になっちまって、どこもかしこも重苦しい空気感に包まれてる。

このナイフの表面にも、あの病気を引き起こす物質が付いてないとは限らない。あいつが身体に生えた黒い石をこのナイフで少しずつほじくり出すのを、俺たち二人ともこの目で見ちまったからな。

あいつの叫び声が魔族どもを引き寄せて、俺たちも理不尽に巻き添え食うんじゃねぇかって心配してたくらいだ。

同業者の奴は俺を引っ張って立ち去ろうとしたが、俺は驚きのあまりその場を動けなかった。なぜなら俺はその男を……親切で賢いマクラーレンって奴のことを知ってたからだ。どうしてあいつがこんなに恐ろしくて馬鹿げたことをしてるんだ……

その日、実際に魔族どもがマクラーレンの叫び声におびき寄せられてやってきた。近くを通りかかった魔族の小隊が、地面にへたり込んでいる哀れな男を嘲笑ってやがった。

魔族の前にうずくまっていた哀れな男の泣き声は、みるみるうちに笑い声へと変わり、その後、段々とかすれていった。だがあのクソ魔族どもは、あいつの苦しみを終わらせてやろうとするでもなく、ただ黙って眺めているだけだった。

今になって思えば、マクラーレンは確かに死の間際にずっと何かをつぶやいていた。だが残念なことにあいつが何を言ってたか知ってるのは、あの魔族の小隊だけだ。

たとえ感染者になっても、少しでも生きのびることができれば幸運なんじゃないのか?体中の黒い石を全部ほじくり出せば、それで病気が綺麗さっぱり消えてなくなるわけでもあるまいに。あいつは一体どうしてあんなことをしたんだ?

我に返った時には、同業者がマクラーレンのナイフを嫌そうな顔で俺に差し出してきたところだった。そこで俺は、マクラーレンがすでにくたばり、あの魔族どももどっかへ消えちまってることにようやく気づいた。

正直、このバタフライナイフを握っててもまったくいい気はしない。あの狂った哀れな男のことを思い出しちまうからだ。

幸いナイフにはグラスゴーのマークがついている。こいつもさっさと手放せるかもな。あのガキどものところに行けば、何か他の良いものと交換することだってできるかもしれん。

わけも分からんまま、あのふざけた鉱石病とやらに罹って、マクラーレンのように惨めな死に様を晒すことだけはごめんだ。


一週間前、ドンドンっていう凄まじい音と共に区画が移動し始めた。その音が鳴り止んでから、今日で二日目のはずだ。

労働組合は、他の区画との連絡手段を完全に断たれちまった。これまで俺たちはほとんどノーポート区の中だけで活動してたが、時々夜の内に他の区画へ行って、報告する義務のない物資を漁るってのが、皆の間で暗黙の了解になってた。

だがノーポート区の封鎖が確実になった今、日々の生活はますます厳しいものになっていくだろうって予感を、労働組合の連中みんなが抱いてる。

区画の外じゃすでに戦争が始まってて、値打ち物のヴィクトリア軍用装備が山のように積み上がってるなんて情報を、多くの同業者が耳にしていた。だが都市内に閉じ込められた連中は誰一人として、戦争が起きてるような音など聞いた覚えはねぇそうだ。その時俺は、また誰かがデマを流して皆をビビらせようとしてるのかもしれねぇと思った。

街はこんなに静かなんだ。戦争の痕跡などどこにもあるわけねぇ!

けど俺は外にある値打ち物の山ってのがどうしても気になっちまった。市街区に詳しい俺は、バラバラに散っている魔族どもを避けながら、実際に都市の外に出てみた。

結局、外の真っ暗な荒野には何もなかったが、道に迷った時に誰かと鉢合わせしそうになって、慌てて俺は隠れようとした。

だがケツを隠す間もなく、俺の近くで何かがドカンと爆発した。土も、草も、石も、何だか分からねぇぐちゃっとしたもんも、全部空中に吹き飛んだ後、パラパラと俺の身体に降り注いだ。ビビった俺は、一目散に街まで逃げた。

帰ってきてからカバンを見たら、中に詰まった肉片まみれの土砂から、このヴィクトリア軍のマークがついた懐中電灯が出てきた。

戦争が始まったってのは、どうやらマジの話らしい。

夜寝る前に酒をちびちびやったが、眠れやしねぇ。もう一生都市の外には出ねぇって誓ってやる。

(今日、この懐中電灯を証拠として持ってったら、同業者たちに尊敬された。今回はなかなか良い情報が手に入った。一つは、マジで戦争が始まったこと。もう一つは、都市外に出りゃ一儲けできるってのもマジだったこと。へっ、あいつらが羨ましがる姿を見るのは気分良いぜ。)


今夜、ようやく子供を墓地に埋葬してやれた。あのクソッタレの魔族ども、日に日に巡回の頻度が増してやがる!

昔は貴族のお偉いさんくらいしか、あそこの墓地に埋葬してもらえなかった。俺もあんなとこに埋めてもらえりゃ本望だな、なんて身の程知らずな妄想をしたこともある。だがまさかこんなことになるとは……こんな*ヴィクトリアスラング*な悲劇の運命を愛する我が子に背負わせる羽目になるなんて思いもしなかった!

息子にはすまないことをした……

あんな嘘っぱちの作り話なんてしなきゃよかった。俺がヴィクトリア軍を率いて、路地裏で魔族どもをぶちのめしたなんて嘘の武勇伝を吹き込まなきゃ、あの子もひょっとしたら……いいや、間違いない。隣の家に魔族が押し入った時、息子が英雄になろうとして命を落とすなんて悲劇は、絶対に起こるはずがなかったんだ。

けどあの子に尊敬の眼差しで見つめられた時、俺は本当に嬉しかったんだ。このふざけた日々の中でも生きていく意味はある。そう思わせてくれたのは、あの子だけだった……

俺は息子のことをしっかり守ってやってたはずだ。あの子は魔族どもの姿も、戦争なんてもんも知らずに育った。ただ父親が立派なヒーローであることを喜んでただけだったのに!

大馬鹿野郎は俺の方だ!

こんなことになるかもしれないってのは想像できたはずなのに、この*ヴィクトリアスラング*の俺は、何の対処もしなかった!

一ヶ月前、あいつが寝る前にいきなり、パパと一緒に魔族をやっつけに行きたいなんて言い出した時に、本当のことを話すべきだったんだ。あの晩はかなり酔いが回ってた。どうしても自分がついた嘘をバラしちまうような余計なことはしたくなかったんだ。

いや、違う。俺はもっと余計な真似をした。一生悔いを残すような真似を。

俺はあの子を怖がらせることで、非現実的な英雄の夢を打ち砕いてやろうとした。同業者の代役として前線の死体清掃業務に行った俺は、砲弾の雨の中を死体の山に隠れてやり過ごしながら、こっそり魔族どもの角を切り落としていくつか持ち帰ってきた。

息子の誕生日に、俺はそれらの角をプレゼントとして贈った。その夜、あいつはビビって泣き出し、二度と魔族の話をしなくなった。俺は作戦がうまくいったと素直に喜んで、あいつが俺をもっと尊敬するようになったとか、甘いことを考えてた。本当のヒーローになったような気分だった。

噂じゃ俺が代役を果たした同業者は、軍事委員会に対する侮辱罪とかで、ちょっと前に魔族どもに処分されたらしい。

俺はヒーローでもなんでもねぇ。


いつからか、俺はこのノートを手放せなくなった。ただ、これを持ち歩く習慣が、確か一番最後に牢獄にぶち込まれた時についたってことは覚えてる。

あの恐ろしい魔族どもが俺たちの区画にやって来た時も、特に暮らしに大きな変化はなかったと思う。ただ、ある晩、俺がいつものように街で闇に紛れて物を漁ってたら、巡回の魔族どもに捕まって牢獄に入れられた。

その時ようやく気づいたんだ。俺が今まで暮らしてきたこの場所の主が、本当に入れ替わっちまってたんだってことに。

だがその後あの魔族どもが現れることはなかった。代わりにやってくるのはヴィクトリアのお偉方で、毎日「帽子」の場所を訊いてくる。この区画じゃあ帽子なんて珍しくもねぇってのに、奴らが探してる帽子がどこかなんて、俺が知るはずねぇだろ?

すると奴らは俺にこのノートを渡して、「帽子」があった場所をすべて書き出せと言うんだ。

これにはほとほと参った。俺が仕事中に扱う帽子の数なんて、少なく見積もっても数百個以上はある。それをどうやって全部書き出せって?息子が家で俺の帰りを待ってるってのに だから俺は必死で片付けた死体の内、帽子を被ってた奴の場所と俺が密かに漁ってた小物なんかも含めて、まるまる全部書き出してやった。

俺は牢獄で一週間も過ごした。尋問したお偉方たちは、お前みたいに協力的かつ臆病な奴は見たことがないなんて抜かしやがった。ハッ、臆病さってのは命を救うんだよ!

出所する時、あの尊敬すべきお偉方たちは、魔族どもの目の前で俺を解放した。今考えりゃ、俺のこの態度が功を奏したってことかもな!

牢屋から送り出される時に、お偉方の中の一人が、夜は危険だから仕事に出るのはやめとけと、密かに忠告してくれた。その人は最初に俺を見た時から、この街で年中物漁りをしてる哀れな男だってことが分かったらしい。しかもこの一週間、俺の代わりに息子の面倒を見ててくれたんだと!

あのお偉いさんにはいくら感謝してもし足りねぇ。魔族どもがいなかった頃は、牢屋に入ったらこんな簡単には出られなかったし、親切な人間に巡り合えることなんてなかった。ヴィクトリアの同胞たちは、みんな信頼できる良い人たちばかりだってのは断言できるぜ!

俺は出所後に気づいた。ノートに毎日の収穫を記録しとくのも、悪くないんじゃないかってことにな。

これも一種の正しい生活習慣ってやつだろ。仕事と一緒だな。


ノーポート区のヴィクトリア公民へ。

ウェリントン、カスター及びウィンダミア公爵の連合軍による突撃作戦により、我々はノーポート区の封鎖の大部分を突破した。母なるヴィクトリアの輝きが、愛する子らに再び降り注ぎ、その身を照らし出したのである。区画内ではいまだ残存するサルカズ部隊の一部が活動を続けてはいるものの、ほぼすべての区域がすでに我らの手中にある。

ヴィクトリア公民よ、諸君らの安全は保証された!

統計によれば、今回の小規模動乱における犠牲者の数は以下の通りである。ヴィクトリア各部隊の死亡者32名、負傷者291名、失踪者464名、合計787名。ノーポート区民の死亡者2154名、負傷者6473名。具体的なデータは目下のところ鋭意収集中であり、公爵らの部隊も、被害を受けた公民たちを救うべく迅速な活動を行っている最中だ。我々は、栄えあるヴィクトリアのために戦う全ての人々を尊重する。性別の差異や、軍人、平民の区別を問わず、最上の敬意を表するものである。

生き延びたヴィクトリア公民諸君は、自らの安全を確保した上で、可及的速やかに付近のヴィクトリア各部隊の元まで辿り着き、公爵たちの庇護を受けてくれたまえ!

一介の軍事書記官として、私はノーポート区の地に足を踏み入れた瞬間から、諸君らの真摯な気持ちにいたく感銘を受けた。

私は幸運にも、ある一公民の勇姿を見届ける機会に恵まれた。その者は戦火の中、我らが偉大なる母・ヴィクトリアのシンボルが印された御旗を、自らの犠牲をも厭わず取り戻してくれたのだ。なんという愛国心と勇気に満ち溢れた行動だろうか!

なればこそ、私は私個人の名のもとに諸君らにこう呼びかけたい。

ノーポート区のヴィクトリア公民たちよ。愛のために身を捧げたかの者たちを模範とし、同胞たちが二度と虐殺の憂き目に遭わぬよう、子孫たちが二度と辱めを受けぬよう、我々が更なる自由を手にするべく、ここに団結しようではないか!公爵たちの部隊に参加し、共に力を合わせて邪悪なるサルカズどもに立ち向かうのだ! 母なるヴィクトリアの偉大なる勝利を手にするために!


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