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記念日
町の再建を手伝うべく、イベリアのある小さな町に招かれたソーンズは、地元の青年フェリペと共に、イベリア人が忘れ去っていたある記念日を祝う準備をしていた。
[親切な女性] いらっしゃいませ!
[親切な女性] あら、ちょっとあなた……
[ソーンズ] 定食を一人前、テイクアウトで頼む。
[ソーンズ] 代金はここに置いておく。
[親切な女性] はーい、定食一人前ね。お代もちょうど……ってそうじゃなくて!
[親切な女性] どうしてわざわざここに来たの? 服もボロボロだし……また実験に失敗したとか?
[ソーンズ] いや、成功はした。
[ソーンズ] ただ、実験の最後にハプニングが起きてこうなった。まあ大したことじゃない。
[親切な女性] その有様で大したことないって、そんなわけないでしょう! まったく、あなたたちよその人って本当何を考えてるのかわからないわ……
[親切な女性] 大体、あなたとフェリペには私が毎日三食届けてあげるって約束をしたでしょう! そんなふうに堂々と出てきたら――
[親切な女性] ……
二人には、小さなレストランのあちこちから友好的とは言い難い視線が注がれている。
この小さな町に住む客たちは、先ほどまで賑やかに歓談していた。しかし馴染みのないエーギル人の顔を見るや、まるで一時停止キーが押されたかのように一瞬で言葉を止めたのだ。
そうして、今度はそこら中でひそひそ話を始めている。
[好奇心旺盛な客] あいつ、最近ここへ来たよそ者だよな? ほら、なんか手を貸してくれるとか言ってさ。
[好奇心旺盛な客] 無愛想な奴だが、見た感じは普通だな。
[警戒心の強い客] おい、静かにしてろって。ありゃエーギル人だぞ、気を付けたほうがいい。
[好奇心旺盛な客] でも、あいつらも戻ってきていいことになったらしいじゃないか。裁判所がそれを認めたって。
[警戒心の強い客] そんなの本当かどうかわからないだろ? とにかく、俺は奴を信じないぞ。
[警戒心の強い客] 万一あのエーギルが問題起こしてしょっ引かれたらと思うと、関わりたくないしな。
[警戒心の強い客] ここ数年は落ち着いてきてるが、十数年前裁判所がそこら中で人を捕まえて回ってた頃のこと、忘れてなんかないよな?
[好奇心旺盛な客] わ、忘れるわけないだろ。俺もまだ若かったから、散々尋問されたしな。危うく連れて行かれかけたこともあるし……
[好奇心旺盛な客] そう思うと確かにお前の言う通り、気を付けたほうがいいよな。あいつはエーギル人だから……
[親切な女性] ……
[ソーンズ] 騒々しい。
エーギルは、テーブルに置かれたワイングラスを何気なく手に取ると――
その手指を少しゆるめた。当然グラスは床に落ち、ガラスの割れる音がレストラン中に響き渡る。
店内はたちまち静寂に包まれた。
[好奇心旺盛な客] ひっ! あ、あいつ……もしかして全部聞いてたのか?
[警戒心の強い客] か、かもな。しばらく黙っておこう……
[親切な女性] あなた……
[ソーンズ] 悪いな。グラスは弁償する。
[親切な女性] ……ううん、そうじゃなくて。
[ソーンズ] ああ……今のことなら、気にしなくていい。
[親切な女性] それはこっちの台詞じゃないの……と、とにかくあなたこそ気にしないでね。
[親切な女性] みんな悪い人じゃないのよ。ただ、まだ慣れてないだけで……
[ソーンズ] 構わない。どのみち、慣れる必要はあるしな。
[親切な女性] でも……つらくはないの?
[親切な女性] 町長から聞いたわよ。あなたとお友達は、私たちを助けに来てくれたんでしょう?
[親切な女性] 協力を頼んだのはこっちなのに、あなたたちをこんな目に遭わせるなんて……
[ソーンズ] 何か誤解しているようだな。
[ソーンズ] 他人からどう思われようと俺は気にしない。それに、慣れる必要があると言ったのは「イベリア人がこの状況に」という意味だ。
[親切な女性] ……えっ?
[ソーンズ] 裁判所はすでに決断をした。
[ソーンズ] イベリアの門戸は徐々に開かれつつある。俺のようにかつてやむなくこの地を去り、そしてまたここへ戻ってくるエーギル人は、この先増えていくだろう。
[ソーンズ] こちらの助けを受けると決めた以上、俺たちが街中を歩いている光景にも慣れてもらわないとな。
[親切な女性] ……それで毎日散歩をしているの?
[ソーンズ] 散歩ではなく測量だ。道路の幅を調べている。
[ソーンズ] ここはまるで数十年時が止まっていたかのような町だからな。改修すべき場所が多いんだ。
[親切な女性] 散歩も測量も同じようなものね……どちらにせよ、おおっぴらに街中を歩くことに変わりはないし。お陰で最近のお客さんはあなたの噂で持ちきりよ。
[ソーンズ] 別にどうでもいい。
[親切な女性] ふふっ……どうでもいいなら何よりだわ。
[親切な女性] ところで、フェリペと何かしてるんでしょう? あれは順調なの?
[親切な女性] 彼はお祭りのための準備だとか言ってたけど……近いうちにお祭りなんてあったかしらと思って。もしかして、みんなへのサプライズでも用意してるとか?
[ソーンズ] 俺は手を貸しているだけだ。フェリペのアイデアは相当良いし、あとは最終調整を残すのみだからな。
[ソーンズ] あいつの言うお祭りが何なのかは、近いうちにわかるさ。
[親切な女性] あなたたち……何かとんでもないこと考えてたりしないわよね?
[親切な女性] 確かに、昔のお祭りは何日間も大騒ぎするようなものだったらしいけど……その時はどこもかしこも舞い踊る人だの花びらだのでいっぱいで、昼間でも花火が見られたとか。……正直想像つかないわ。
[親切な女性] 残念だけど、私たちは長いことそんなお祭りをやってないしね。
[ソーンズ] 今からでも遅くはない。
[ソーンズ] フェリペは皆に参加してほしいと言っている。かつてのイベリアで行われていたそれと同じようにな。
[親切な女性] ……ひょっとして彼、まだあの本を読んでいるの? 『アルフォンソ船長の冒険』に、『大海賊と黄金の国』……よく飽きないわね。
[ソーンズ] 何も悪いことはないだろう。
[ソーンズ] 黄金時代のイベリアは傲慢だったが、虫の息でかろうじて生き延びている今のこの国に比べれば、賞賛に値する部分もあるということだ。
[親切な女性] ……
[ソーンズ] フェリペには機械関係の才能がある。チャンスさえあれば、ここを出て見聞を広めるべきだ。
[親切な女性] 見聞を広める、ねえ……
[親切な女性] そのチャンスが巡ってくればいいんだけど。
[親切な女性] さてと、ご注文の定食一人前よ。はい、どうぞ。
[親切な女性] それから、こっちはフェリペの分ね。悪いけど代わりに持って行ってちょうだい。
[ソーンズ] 代金は。
[親切な女性] いいのよ。
[親切な女性] みんなの代わりに、お礼として奢らせて。……実は私、あなたたちのお祭りを楽しみにしてるの。
[親切な女性] 本に書かれてるような景色が見られたら、きっと最高でしょうし。
[ソーンズ] ……
[ソーンズ] なるほど。
[親切な女性] えっ? なるほどって、どういう――
[親切な女性] ……行っちゃった。
[親切な女性] 本当、変わった人だわ……
[神経質な村人] おい、待てフェリペ。
[神経質な村人] 待てと言ってるだろ。
[フェリペ] ……何か用でも?
[フェリペ] 僕は急いでるんだ、何もないなら――
[神経質な村人] そう焦るな、そんなに急いでどこへ行く?
[神経質な村人] もしや、またあのエーギル人と一緒に妙な物でも作るつもりか?
[フェリペ] ……あんたたちには関係ないだろ。
[フェリペ] それに、ソーンズさんはこっちからの依頼に応じて来てくれたんだから、もっと敬意を持って接してくれないか?
[神経質な村人] 奴に問題さえなければ、もちろんそうするとも。だが、それは奴と距離を置くこととは別の話だ。
[神経質な村人] 考えてもみろ。あの男はお前に本名さえ教えてないっていうじゃないか。コードネームしか名乗らないんじゃ素性もわからないし、もしかしたら元は盗人かもしれないんだぞ!
[フェリペ] あの人はロドスのオペレーターだと言ってたし、それで十分じゃないか!
[フェリペ] しかも、彼はイベリア人なんだよ。事情があってここを出たと言ってたけど……
[神経質な村人] ロドスとかいう名前は聞いたことがないし、当てにならん。
[神経質な村人] その上、事情とかいうのも怪しいじゃないか。それはどういう事情なんだ? 第一あいつがほかのイカれたエーギルとは違うなんて保証、どこにある?
[神経質な村人] もしあの男が裁判所に追われる身の上で、正体を上手く隠しているだけだとしたら――
[フェリペ] もうやめてくれ!
[神経質な村人] ッ――
[フェリペ] そんなの全部あんたたちの憶測じゃないか! 根拠もないのにデタラメなことばかり考えて……!
[フェリペ] そんな調子で……本当に誰も覚えてないっていうのか!? 明日がどういう日なのかを――
[神経質な村人] 明日……? 何か特別な日なのか?
[フェリペ] それは……明日教えるよ。
[フェリペ] とにかく、僕は裁判所の判断を信じてるし、ソーンズさんはみんなが言うような人じゃないって確信があるんだ。
[神経質な村人] ……わかったよ。ごめんな、今のは言いすぎだった。あのエーギル――ソーンズさんも、実際ただの腕のいい技師なんだろうしな。
[神経質な村人] 明日……お前たちが何をする気かは知らないが、ともあれ楽しみにしておくよ。
[神経質な村人] ただ、言っとくがお前を心配してるのは本当だからな。いい加減頭を冷やして、エーギルと関わりすぎないようにしろよ。
[フェリペ] ……
[フェリペ] 僕が間違ってるのかな。
[???] 確かに、お前のようなイベリア人は珍しいのかもしれないな。
[フェリペ] うわっ、ソーンズさん!?
[フェリペ] いつからそこに……
[ソーンズ] 「妙な物でも作るつもりか」のあたりからだ。
[ソーンズ] ――これを。マーチン食堂の店員から差し入れだ。
[フェリペ] あっ、ありがとうございます……
[フェリペ] じゃなくて! ソーンズさん、さっきのこと本当にすみません!
[フェリペ] どうか彼らを責めないでやってください。あの人たちも悪い人じゃないんです。
[フェリペ] 単に、随分長く外の人を見てないので、不安がっているだけで……
[ソーンズ] ……
[フェリペ] あ、あれ……? どうかされましたか?
[ソーンズ] 頭が痛くなってきた。
[ソーンズ] 謝られるのは好きじゃないんだ。
[フェリペ] えっ! す、すみません!
[ソーンズ] ……
予期せぬ形で故郷へ戻ってきた彼は、何も言わずにため息をつく。
もはやその過去は心の奥底へ葬り去られ、多くのことに我関せずという態度を貫いているとはいえ、彼は今もこの土地とここの人々に対してだけは特別な何かを感じずにいられなかった。
だからこそ、このエーギル人は今ここに立っているのだ。
彼はその有能さゆえに、己の心に従って、二度と戻ることはないだろうと思っていた故郷へと帰ってきていた。
[ソーンズ] 何一つ、謝る必要はない。
[フェリペ] ですが……
[ソーンズ] それより、「全自動無限キャンディー降らし機」の調整は終わったのか?
[ソーンズ] 前回のテストでは、持続力に欠陥があっただろう。
[フェリペ] あっ、ちょうどその件についてお話ししたかったんです! 効率と持続力の問題改善に役立ちそうなヒントを見つけたので!
[フェリペ] これも、ソーンズさんがあのウィーディさんという方の設計図を貸してくれたおかげで……
[ソーンズ] 機会があれば、直接礼を言うといい。
[フェリペ] はい、必ず!
[フェリペ] あとはソーンズさんが作ってくれた薬剤と合わせれば、明日はきっと町のみんなにサプライズを届けてあげられると思います!
[ソーンズ] ああ。
[ソーンズ] そういえばその薬剤だが、再度改良を加えたい。
[ソーンズ] ……フェリペ。お前は、「昼間の花火」を見たことがあるか?
[フェリペ] そ、ソーンズさんっ!
[フェリペ] げほっ、ごほごほっ……
[フェリペ] ソーンズさ……げほっ! だ、大丈夫ですか!?
[ソーンズ] 問題ない。
[ソーンズ] 配合に失敗しただけだ。大したことはない。
[フェリペ] どう見ても問題なくはないですよ……!
[フェリペ] 髪の毛が焦げちゃってるじゃないですか!
[ソーンズ] ん? ああ……
[ソーンズ] 適当に剃っておくか。
[フェリペ] えっ、刃物なんか持って何を……ま、待って、そんなふうにしたらダメですって!
[フェリペ] お願いですから僕にやらせてください!
[ソーンズ] ……
[ソーンズ] わかった。では頼む。
[フェリペ] お、お任せを~……
[フェリペ] よし……これで大丈夫だと思います。
[ソーンズ] ありがとう。
[ソーンズ] 念のため、次からは離れていてくれ。
[フェリペ] あの……あなたの実験って、いつもこんなに危険なんですか?
[フェリペ] ソーンズさんを招いたのはみんなのほうなのに、ろくな実験設備もないこんな辺鄙な場所をあてがうなんて……
[ソーンズ] 構わないさ。ここは便利だ。
[ソーンズ] 基本的な設備は揃っているし、今のところ不自由はしていない。これ以上複雑な機材は、申請しないと手に入らないだろうしな。
[フェリペ] 申請……?
[ソーンズ] 裁判所への申請だ。
[ソーンズ] 彼らは以前、至るところで人々を捕らえては島民が持ち込んだ物をその善し悪しに関係なくすべて押収していた。だから今のイベリアでは失われている技術も、裁判所内ならそう珍しくもないだろう。
[ソーンズ] それをもう一度活用すべき時が来たということだ。
[フェリペ] ……
[フェリペ] 今じゃこの町には、エーギルは一人もいませんが……
[フェリペ] 昔はそれなりにいたと聞いてます。両親の世代あたりは、リーベリもエーギルも関係なく、仲良く暮らしていたんだとか。
[ソーンズ] それは懲罰軍が町に現れるまでの話だな。
[フェリペ] ……はい。
[フェリペ] その時は、たくさんの人が連れて行かれたそうです。そのほとんどはエーギル人でしたが、中には彼らと親しかった他種族の人もいたらしく……
[フェリペ] 連行されずに済んだエーギルたちも、次々に町を出ていきました。自分たちから出て行ったんだって、みんなはそう言ってますが……
[ソーンズ] お前はそう思っていない、と。
[フェリペ] どう、でしょう……この目で見ていたわけではないので。
[フェリペ] ソーンズさんは、こういうことをよくご存知のはずですよね……
[ソーンズ] ……
実際、ソーンズはそれをよく知っていた。
イベリアが海の脅威に気づき、その海より伸ばされた触手を裁判所が強硬手段で粛清し始めた時、イベリアにおける彼らエーギル人の運命は定まったのだ。
かろうじて息をしていられるならその場所はマシなほうで、ひどいところではそれすら許されはしなかった。
目の前に広がるちっぽけな町は、残念ながら後者だったというだけのことだ。
[ソーンズ] 当時は、抑圧による恐怖がイベリアを覆い尽くしていた。その人々が本当に自ら町を出ていようと、追い出されていようと、結果的には大差のないことだ。
[ソーンズ] 行き先が荒野だろうと海だろうと、ここに留まるよりは良かったんだろう。
[フェリペ] ……ソーンズさんも、そう思ってここを出たんですか?
[ソーンズ] そうだ。
[フェリペ] それじゃどうして……ここに帰ってきたんですか?
[フェリペ] 外でなら、もっと豊かな暮らしができるはずでしょうに。
[ソーンズ] 妙なことを聞くんだな。
[ソーンズ] 帰ってくるだけのことに、理由など必要か?
[フェリペ] ……えっ……?
[優しい宣教師] 行き先は決まったのかい?
[ソーンズ] 特には。どこへでも行くつもりだ。
[ソーンズ] この国を出て、外で見聞を広めるのもいいかもしれないな。
[優しい宣教師] 君は本当に落ち着いた目をしているね。
[優しい宣教師] ここから一緒に出ようと言わなかったのは、君くらいのものだ。
[ソーンズ] 言ったところで、ここを離れはしないだろう。
[ソーンズ] ……あなたは罪のない人ではないしな。
[優しい宣教師] ふふっ、そうかもしれないね。
[優しい宣教師] さあ、もう行きなさい。君は自分をちゃんと持っている子だし、この先もやりたいことをやるといい。
[優しい宣教師] 常に頭を動かし続けることを忘れぬように。決して思考を放棄してはいけないよ。その考えが自分をどこへ導くことになろうとも、私たちには、己の思うままに生きる権利があるのだから。
[ソーンズ] ……
[ソーンズ] よく覚えておくよ。
[ソーンズ] さようなら、先生。
[ソーンズ] ……そこまであれこれと考える必要はないさ。
[ソーンズ] イベリアは俺たちにチャンスを与え、そして俺たちはその条件を受け入れた。お互い欲しいものを手に入れるだけだ。
[フェリペ] そうですか……
[ソーンズ] ……とはいえ、イベリアは必ず変わると頑なに信じるばかな奴も一人知ってはいるが。
[ソーンズ] 何にせよ、俺はここがどう変わろうと構わない。やりたいことをやるだけだ。
[フェリペ] ソーンズさんって、本当に落ち着いた人ですね。
[ソーンズ] ……
[フェリペ] この国を去ったエーギル人――僕たちの兄弟同然になるはずだった人たちも……
[フェリペ] いつかは、帰ってきてくれるでしょうか?
[ソーンズ] お前がそう望むのなら、いずれ帰ってくるかもしれないな。
[ソーンズ] そんな日のために準備をしてきたんだろう? フェリペ。
[フェリペ] ……
[村長] 何をやってるんだ、フェリペ!
[村長] どうして道を塞いだりなんか……それに、この妙な機械は一体なんなんだ!?
[村長] おかしな真似はやめて、家へ帰りなさい!
[フェリペ] パブロおじさん。僕は、今日が何の日だか知ってるんだ。
[フェリペ] 僕らは昔、遠くから来た友人たちと手を取り合って、共に黄金時代を築き上げた……
[フェリペ] 今日は、僕たちがそうして握手を交わす日なんだよ。
[村長] そんなふざけたことを言って……
[フェリペ] 僕がふざけていると思う? 本当に?
[村長] ……
[村長] あれは大昔のことだ。今はもう……
[ソーンズ] それを口にする人間はいない。その勇気すらもありはしない。
[ソーンズ] だが、イベリア人ならば皆この日を覚えておくべきだろう。
[ソーンズ] ――今日は記念日だ。
[懐疑的な村人] 記念日……? 一体何の記念日だ?
[懐疑的な村人] 聞いたこともないんだが……
[年配の村人] ……お前はまだ若いし、知らないのも当然だ。
[年配の村人] 俺が子供の頃には、まだその日を祝っていた覚えがある。……当時は昼夜を問わず広場に人が集まって、互いを兄弟と呼び合っていたものだ。
[年配の村人] エーギル人はいつだって面白いものを作ってくれていた。陸を走る大型船や自動で打ち上げられる花火、そして次々に明かりの色が移り変わる灯台……
[懐疑的な村人] どうしてそれを今まで聞かされてなかったんだ?
[年配の村人] ……俺たちが、その日を祝うのをやめたからだよ。
[年配の村人] あの恐ろしい出来事が起きてから……な。
[懐疑的な村人] ……
[懐疑的な村人] だったら……あいつらが言うことは本当なのか?
[懐疑的な村人] 本当に、そんな記念日があったってことか?
[フェリペ] 当然、嘘なんかついていないよ!
[フェリペ] ソーンズさん、お願いします!
[ソーンズ] わかった。
リーベリとエーギルが、人混みの中で肩を並べる。
そんな二人の様子は、年配の町民たちの目を潤ませた。祝祭の記憶は長い年月と無言の圧力の中で色褪せていたが、彼らもかつて同様の光景を目にしていたのかもしれない。
全員がその一挙手一投足を見守る中、エーギル人は導火線に火をつけた。
その時、多くの人が思い出した。輝きと自信に満ち溢れていたその時代を。
[親切な女性] これ……花火……?
[親切な女性] まさか本当に、昼間に花火が見られるなんて……
[親切な女性] 本に書かれていたことは真実だったのね……
[ソーンズ] 今日のことも、いずれは本に記されるかもしれないな。
[フェリペ] あはは、そうなったら僕もあの偉大なアルフォンソ船長みたく、物語の登場人物になれますかね? 想像つかないなあ~。
[フェリペ] ところで、ソーンズさん……
[ソーンズ] ん?
[フェリペ] 顔に花火の粉末がついちゃってますよ。
[ソーンズ] ああ……
[ソーンズ] これもお祝いの余興ということにしておくか。
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