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創り出す心
メイヤーはミーボのスマート化を自力で実現させることにこだわるものの、またも失敗してしまった。しかし、彼女はこう思っている――次も失敗かもしれないけど、それがどうしたっていうの?
ロドス本艦
「ラボ・ルトラ」
[メイヤー] いっくよー! ちゃーんと見ててよね、クロージャ!
[クロージャ] ……
[メイヤー] スーパー・ミーボ、机の上からM-11型源石防止塗料を見つけてここに持ってきて。
[メイヤー] (小声)あの上には十数種類を超える抗源石塗料が乗ってるし、全部包装剥がしてあるからパッケージで判別するのは難しいんだ。しかも塗料の質感もほとんど変わらないんだけど……
[ミーボ・スーパー] ――
[メイヤー] やったね、大正解!
[クロージャ] そのくらいできて当然じゃない?
[メイヤー] じゃあ次。スーパー・ミーボ、この感熱センサーを三分以内に直してくれる? パーツの一部が破損しちゃってるから。
[ミーボ・スーパー] ――
[ミーボ・スーパー] 修復完了。加えて、センサー底面に感知効率へ影響を与える電子部品が取り付けられていたため排除しました。現在、装置は正常な動作が見込まれます。
[メイヤー] すごい! 二分もかからなかったね!
[クロージャ] うわっ、この子喋るの!?
[メイヤー] スマートロボといえば音声アシスタント機能でしょ? ミーボ自身からのフィードバックがほしくて搭載してみたんだ。
[メイヤー] まあ、私もまだ慣れないんだけど。この子、喋れるようになってからもあんまり喋ってくれないしさ。
[クロージャ] にしても、どうしてこんなごっつい声してるのさ……はあ、まあいいや。メイヤーとあたしじゃセンスがまるで違うもんね。
[クロージャ] ほら、続けて続けて。
[メイヤー] OK。スーパー・ミーボ、ラボの入室用パスワードを再設定して。
[ミーボ・スーパー] 再設定完了。新しいパスワードは大文字と小文字のアルファベット及び使用頻度の低い記号や数字など計五種類の文字を組み合わせて作成しました。なお、数字はあなたの誕生日を回避しております。
[メイヤー] わあ~っ、すごいすごい!
[メイヤー] よーし、これで応用テストの第一段階は成功だね!
[メイヤー] どう? この子のパフォーマンスは! スマート版ミーボの最新型プロトタイプ――これぞスーパー・ミーボだよ! 君のAIロボたちよりもすんごいでしょ?
[クロージャ] 確かに相当賢い子だね! でも、あのくらいならLancet-2やCastle-3にもできちゃうよ。
[クロージャ] あわわ、放して! メイヤーじゃないんだから噛みつかないでよ!
[メイヤー] スーパー・ミーボ、一旦見逃してあげて。
[クロージャ] はぁ……AIロボたちより優秀かはともかく、あの子たちより根に持つタイプみたいだね。
[ミーボ・スーパー] ――
[クロージャ] ちょっと! こっち来ないで! また噛むつもりでしょ、もう!
[クロージャ] そういえばメイヤー、スーパー・ミーボのアップグレードってどれくらいかかったの?
[メイヤー] んー、スケジュール表を見るに……三ヶ月はかかってるね。
[メイヤー] あっ、クロージャ! 君に頼まれてた「レイジアンプロバカートルラヴァキャットデビルパフォーマンスモデル」のカスタマイズ案できあがったよ、はい!
[クロージャ] おお、ありがと! じゃあ次は――
[メイヤー] それなんだけど、一ヶ月くらい休暇をもらってもいいかな?
[クロージャ] えっ! ワーカホリックの君が休暇を? 疲れがたまりすぎちゃったの? それとも……遠まわしに給料アップを求めてるとか?
[メイヤー] あはは、違うよ。
[メイヤー] 実は今、ライン生命とロドスから受けた委託作業が全部終わってスケジュールが空いたところでさ。
[メイヤー] この機会にミーボをアップグレードしたくてね。
[クロージャ] そんなの普段から暇さえあればやってるじゃん。わざわざ休暇まで取るなんて一体どうしたの?
[メイヤー] ここ数ヶ月で、作業用ミーボがまた三体壊れちゃったんだ。ほかの子たちもほとんど修理待ちの状態だし。
[メイヤー] お陰で、第一世代のミーボは……残り一体になっちゃってさ。
[クロージャ] そっか……ミーボ、可哀想に……
[メイヤー] 今もミーボの作業効率はだいぶ改善されてるんだけど、特に複雑な状況に置かれたり、高精度な動きが必要なタスクを任されたりすると、回収率は保証できないんだよね。
[メイヤー] だからミーボに高度なAIを搭載してあげられたら、任務を遂行しつつ自分を守ることもできるようになるんじゃないかと思って。
[クロージャ] それなら、あたしも手伝おうか?
[メイヤー] ……
[メイヤー] ううん、遠慮しとくよ。
[クロージャ] なんでなんで? あたしたち、一緒に「ジャスティスナイト」の改造を手伝った仲じゃんか。
[メイヤー] あの時はPRTSを頼りにカスタマイズしたでしょ? クロージャもロボットたちのプログラムコードや論理演算を完全に把握してるわけじゃないと思うしさ。
[メイヤー] 何より、ミーボたちをほかの人にはいじらせたくないんだよね。ライン生命でもロドスでも、あの子たちの改造は全部自分でやってきたから……
[メイヤー] 代わりに、何か困ったことがあった時は君に相談させてもらうよ。
[メイヤー] 前のミーボにはもう学習装置を搭載してたんだけど、それは「人工知能」にはほど遠いレベルだったから、一から作らないといけないんだよね。
[メイヤー] それで、自律ロジック改善のために元々のミーボコアを直接最適化しようとしたんだ。でも、結果から言えばそれは上手くいかなくてさ。
[メイヤー] だからコアの基板になるコードから書き換えることになって……かなり時間がかかっちゃった。
[メイヤー] 当初の計画では、スーパー・ミーボのプロトタイプを五体作って、対照実験もできるようにするつもりだったんだけど……結局完成したのはこの一体だけなんだ。
[ミーボ・スーパー] ――
[メイヤー] でもね! このスーパー・ミーボは今までにない傑作なんだよ! 爆破、探査、測量、偵察、作戦任務、そして日常生活に至るまで、色んな場面で活躍できちゃうんだから!
[メイヤー] しかも、私のコントロール下にいなくても色々な精密操作を単独でこなせちゃうんだよ。
[メイヤー] この子なら、テラ全土でも最高レベルのスマートデバイスになれるはず……小型だから量産にも向いてるし、クロージャのカスタマイズロボよりずっと高性能だしね。
[メイヤー] そのうち、この子たちだけでミーボの軍隊を作ることだってできると思うんだ!
[ミーボ・スーパー] ――
[クロージャ] ……
[クロージャ] ねえ、スーパー・ミーボがつけてるこれは?
[メイヤー] ネームプレートだよ。ミーボ全機につけてるんだ。
[クロージャ] そうじゃなくて、どうしてこんなにたくさんつけてるのか聞いてるんだよ。C00-1、B03-4、B12、G70……って色んなナンバーのがあるみたいだけど。
[メイヤー] ああ、それは稼働できなくなっちゃったり、完全に壊れちゃったりしたミーボたちのプレートなんだ。
[クロージャ] でも、そういうのは全部「ミーボの大記念碑」に埋め込んだんじゃなかったっけ? ……あ、もしかしてそれを取り出して……
[クロージャ] つまりスーパー・ミーボは……「兄弟たちに託された希望を背負ってる」のかな?
[メイヤー] へへっ、そういうこと!
[クロージャ] でも、さっきのを見た感じ、ミーボコアへのアクセス権限は完全に閉じたわけじゃなさそうだよね。
[メイヤー] うん。
[クロージャ] それじゃ、まだ自律思考してるとは言えないんじゃない?
[メイヤー] そこはこのあとだね。二、三日したら応用テストを次の段階に移すつもりだから。
[クロージャ] じゃあ、その時にまた来ようかな。
[クロージャ] ところで、次のテストに移る前に、スーパー・ミーボの爆破プログラムをいじるの忘れないようにしてね。ここはロドス艦内なんだから、万が一この子が……
[メイヤー] よーし、今日のことを急いで日誌に書いとかないと……
[クロージャ] メイヤー、聞いてるの?
[メイヤー] 聞いてる聞いてる。
[メイヤー] そうだ! スーパー・ミーボ、さっき変更した入室用パス何にしたんだっけ? 合ってるかどうか試してみるよ。
[ミーボ・スーパー] ――
[メイヤー] ……
[メイヤー] あれ? 変だなあ、なんか違うみたいだよ。
[メイヤー] スーパー・ミーボ!
『スーパー・ミーボ テスト日誌07』
今日は引き続き、スーパー・ミーボ――スマート版ミーボの最新型プロトタイプを使った応用テストを行う。
ミーボコアへのアクセス権限を一時的にシャットアウトし、周囲の建物に対する自主的な検査測定及び、潜在リスクの排除を実行させてみる予定だ。
これは一番重要なステップである。
今日までの間に、この子も私もまだ慣れてはこないものの、ミーボは会話が可能になった。より複雑な作業もこなせるようになり、もはや以前のような「足のある爆弾」ではない。
最初にミーボを作った時から幾度となくアップグレードを重ねてきたとはいえ、この子が私のコントロール下を完全に離れるのは今回が初めてだ。
無事に成功すれば、ミーボはロドス中枢の力を頼ることなくAIレベルに到達したということになる。これはラボ・ルトラ及びミーボからすれば非常に大きな意味を持つことだ。
......
一部のデータにはまだ多少ばらつきがあるものの、これまでの全体的なパフォーマンスを鑑みるに、今日のテスト結果には大いに期待できると言えるだろう、なんてね。
ともあれ、やはり私たちは今までのミーボたちから力をもらっているように思う。
[ミーボ・スーパー] ――
[メイヤー] ミーボコアへのアクセス権限、シャットアウト完了……っと。
[メイヤー] スーパー・ミーボ、指定エリア内の建物の点検と、潜在リスクの排除をお願い。
[メイヤー] もちろん、ここはロドス艦内だし、絶対に……
[ミーボ・スーパー] ――
[メイヤー] まあいっか。君は自律思考ができるんだし、そのくらいの判断力はあるよね。ふふっ。
[メイヤー] ふぅ……
[メイヤー] よし、あとはスーパー・ミーボが任務を終えて戻ってくるのを待つだけ!
[メイヤー] うわっ、新しい依頼がもうこんなに……今回はちょっと後回しにしすぎちゃったな。
[メイヤー] どれどれ……一部の宿舎への壁面ホログラム装置設置依頼に、訓練場の兵器システム調整とアップグレード業務、本艦のドローンと充電装置の接続方式についての相談……
[メイヤー] あ、そういえばラボもごちゃごちゃなんだった。
[メイヤー] この隙に机の上を片付けておこうかな。
[ミーボ・スーパー] 建造物の点検及び、潜在リスクの排除を実行します。建造物の点検及び、潜在リスクの排除を実行します。
[ミーボ・スーパー] 計八ヶ所の非合理的構造を検出。体積を算出します――計算完了。潜在リスクの排除を開始――
[ミーボ・スーパー] 該当箇所は残り一つです。
「ラボ・ルトラ」
[メイヤー] よーし、机周りがだいぶすっきりしてきたね!
[ミーボ・スーパー] ――
[ミーボ・スーパー] スキャンを開始します。
[ミーボ・スーパー] 比較データ取得――分析システム・オン。
[ミーボ・スーパー] 照合結果――
[ミーボ・スーパー] 当エリアの建築面積は通常の値を超過しています。また、生活用か業務用か、用途が不明であり、危険設備も存在しています――
[ミーボ・スーパー] 警告。潜在リスクを排除します。退避してください。
[メイヤー] 次はこの辺の感熱センサーを直そうかな。
[ミーボ・スーパー] 警告。潜在リスクを排除します。退避してください。
[メイヤー] あー、また材料が足りなくなっちゃった。明日購買部に追加発注しに行かないと……
[ミーボ・スーパー] リスク排除の方法を検討中――リスク排除の方法を検討中――けけ検討――討中――中――
[ミーボ・スーパー] 爆破に決定しました。
[メイヤー] ん? この音は――
メイヤーの反応は遅くはなかった。無論イヤホンをしていなければより早く動き出せていただろう。これは悪い習慣というほかない。
スーパー・ミーボの爆破プログラムは起動してしまった。
メイヤーは咄嗟にロボットアームで対衝撃システムを作動させ、その爆発を押さえ込んだ。
お陰でラボ・ルトラのメインエリアは大きな損害を受けずに済んだのだが、入口付近の作業台がそこに置かれた資材もろとも吹き飛ばされ――
メイヤーは、スーパー・ミーボがその爆発で作り出した瓦礫に埋もれていくのを見ていることしかできなかった。
[メイヤー] うわあっ!
[メイヤー] もう、この機械重すぎ……! アームが壊れずに済んで助かったよ……素手じゃこんなの動かせないもん。
[メイヤー] それより――スーパー・ミーボ!
[ミーボ・スーパー] ――
[???] メイヤー、どうしたの? すごい音がしたけど。
[クロージャ] って、スーパー・ミーボ……! ひどい壊れ方だね……
[ミーボ・スーパー] ――
[クロージャ] これって、この子がやっちゃったこと?
[クロージャ] ま、でも全部この子のせいにはできないよね……宿舎をラボに改造するのはやめなよって言ったのにやるし、増築までするからこうなるんだよ。とりあえず、部屋の構造自体が無事か見てあげよっか。
[メイヤー] ……
[メイヤー] ねえ、クロージャ。スーパー・ミーボの巡回してた場所、ほかはどうだった……?
[クロージャ] ちょうどそっちのほうから来たけど、無事だったよ。
[クロージャ] (万が一に備えて耐衝撃システムを設置しといてよかった~……)
[クロージャ] それより……大丈夫?
[クロージャ] 片付けは手伝ってあげるよ。こんなに散らかっちゃってるし。
[メイヤー] ……あの頃みたいだ。
[クロージャ] え?
[メイヤー] あ、ううん。めちゃくちゃになったラボを見てたら、昔のことを思い出しちゃって。
[クロージャ] びっくりさせないでよ、急に何言い出すのかと思ったじゃん。君、そういう感傷に浸るようなタイプだったっけ?
[メイヤー] あれは最初にミーボを作った時のことでさ……
[???] またメイヤーのラボでトラブルか。
[???] 今月に入って三回目だぞ。
[???] タイマーが急に停まったり、冷却システムが故障したり、挙げ句の果てに……椅子が勝手に飛び上がって机をひっくり返した、って?
[???] 大した被害でもないが無視できるほどのことでもないし、とにかく彼女は毎回プロジェクトを離れてラボに戻る羽目になる、と……
[???] やれやれ。自分のラボを持って好きな研究をしてもいいって許可も出てるのに、いつまでこんなこと続けるつもりなんだか……
[???] まあ、彼女が偶然だと言い張る以上そういうことにしてやろう。このくらいならかわいいもんだしな。
ライン生命に入れるって決まったとき、私はすごく興奮した。
クルビアに限らずテラ全土の研究者にとって、あの場所は聖地だからね。設備、プロジェクト、先輩、そして福利厚生、何もかもが最高の会社だし!
科学がテラの未来を決める、というのが私たちの共通理念。だけどライン生命内部――特に主任たちの間では、科学への考え方や目的に違いがあった。しかも全員が自分の考えに固執してるんだ。
会社の雰囲気は段々おかしくなっていった。全員実力派の研究者なのに、集まれば不思議と効率が下がっていくの。まるでスター選手を揃えたドリームチームがなぜか毎回負けちゃうみたいにね。
私の所属するエンジニア課は他部署への技術支援がメインだからまだいいけど……エネルギー課なんかは、プロジェクトを動かしてもその翌月には統括の反対を受けて中止に追い込まれたりするんだ。
同じように、警備課も「とある」懸念があるからプロジェクトを中止するように~とか言ってくるし……
ライン生命にいる間は、ずっとそういうことの繰り返しだった。お陰でヒラの職員たちはひたすら機材を組み立てては解体して、今度は調整して……なんてことばかりさせられていた。
それで私は、いっそ自分一人で自分なりの研究を進めたほうが有意義かもしれないと思い始めた。
だからいたずら用の目覚まし時計を作ったんだ。指定時刻になったらラボで小さな爆発を――大した被害は出ないけど、無視もできないくらいの塩梅で起こすやつをね。
[メイヤー] それがミーボの原型なんだ。
[メイヤー] で、そのあともっと実用的なロボットとして改造した結果があの子たちってわけ。ちなみに、「ミーボ」って名前は起動音が鳴る機能を搭載した頃につけた名前なんだよ。
[クロージャ] え~っと、じゃあ君はそのたびにぐちゃぐちゃになった部屋を嬉々として片付けてたわけ?
[メイヤー] あはは、うん、そういうこと。あの頃、本社で参加してたプロジェクトにはまるで進展がなかったけど、個人の研究はかなり捗っててさ。ちょっとした発明品を色々開発してたんだ。
[メイヤー] そのうちのいくつかは、サイレンスを手伝ってた頃にあの子のオススメってことで広めてもらって、今もライン生命社内で使われてるらしいし。
[クロージャ] へえ、そうだったんだ! その中でも一番のお気に入りがミーボってことかな?
[メイヤー] うん。私は最初からずっと、この子たちを最高のスマートロボにしてあげたいと思ってるんだ。
[メイヤー] なんと言っても、ライン生命時代からロドスに来たあとまでずっと一緒に居てくれたわけだしね。ミーボは最高の相棒なんだよ!
[メイヤー] とはいえ、破損や部品のサルベージ、それとアップグレードを経てきた結果……第一世代のミーボは、あと一体だけになっちゃったんだけど。
[クロージャ] それじゃ、スーパー・ミーボは……
[メイヤー] そう。その一体をベースに作ったんだ。
『スーパー・ミーボ テスト日誌08』
今回の爆発を経て、内部センサーのノードが故障し、脚部のパーツも大部分が非可逆的な変形を起こしてしまった。
一番深刻なのは、ミーボコアの89.7%が損傷を受けて、修復困難になったことだ。やはりコードと論理演算に問題があった様子。入室用パス再設定時にミスをしたのはこの予兆だったのかも。
ラボに戻る前に艦内で一時間ほど単独作業を行っただけで、計算負荷がオーバーフローしてしまっていた。
その結果、宿舎入口に置いていた物を非合理的な構造と判定して、爆発を起こしたんだ。
これじゃ全然「スマート」じゃないよね……
残念だけど……
スマート版ミーボの最新型プロトタイプ――スーパー・ミーボは価値を喪失したと判断。
ラボの壁は損傷、物品も破損して……修理費まで必要になっちゃったなあ。
結論:今回のアップグレードは失敗。
[クロージャ] まあ、機械をAIレベルに到達させるのは簡単なことじゃないから……
[クロージャ] あんまり気を落とさないでね。
[ミーボ・スーパー] ――
[クロージャ] あっ……メイヤー、これ!
[メイヤー] 何?
[クロージャ] スーパー・ミーボは、「知能」の観点で見れば完全に失敗したわけでもないみたいだよ。
[メイヤー] そんなふうに慰めてくれなくても……
[クロージャ] いいから見てよ!
[メイヤー] ……
[メイヤー] ――ミーボのネームプレート……
[クロージャ] そう! 考えてもみて。この子の足パーツは全部ひん曲がっちゃったけど、ネームプレートのほうはただ落っこちてるだけで……無傷で済んでるでしょ。
[クロージャ] でも、このプレートより、ミーボ本体のほうが頑丈な素材でできてるはずだよね?
[メイヤー] ……
[メイヤー] あ……! ってことは、この子は爆発の直前に……
[クロージャ] 偶然か、あるいは「本能」みたいなものかはわからないけど……
[メイヤー] スーパー・ミーボ……
[ミーボ・スーパー] ――
[クロージャ] 音声モジュールもかなり損傷してるから、返事はできそうにないね……
[メイヤー] やったね! 私が休暇を取りますって言った時、みんながどういう顔してたか見た? あははっ!
[メイヤー] でも、次は椅子をひっくり返すだけで済むように、君をもうちょっと遠くに置かないとね。実験器具を壊しちゃうと、修理するのに時間がかかっちゃうし。
[メイヤー] それに、君にも名前をつけてあげないと……そうだ! あとで起動音がランダムに鳴るように設定するから、次に起動したときの音が君の名前ってことでどうかな!
[???] ——
[メイヤー] ミーボ、おいで! 爆破プログラムのパラメータを設定しなおさないとね。
[メイヤー] ミーボ、ロボットアームの位置調整手伝ってー。
[メイヤー] ミーボ、動力装置運んでおいてくれるー?
[メイヤー] ミーボ……あれ、どうしてわかったの? そのキャリブレーター、今からちょうど使おうとしてたんだ。ふふっ、ありがとうね!
[ミーボ] ――
[メイヤー] うわぁ! ミーボ、何するの!? 引っ張らないでってば!
[ミーボ] ――
[メイヤー] ちょ、ちょっと発注するだけだよ。ご飯はちゃんと食べるから。
[ミーボ] ――
[メイヤー] うぅっ……
[メイヤー] わかったよ、食べる、今すぐ食べるって!
メイヤーは、金属製のネームプレートを一枚一枚床から拾い上げ、その汚れを綺麗に拭き取っていく。
実験データの照合や、精密機械の組み立てと同じくらい――
いや、それよりずっと真剣に。
彼女はこれまで、ワイヤー制御マシンにトランスミッターなど、精巧かつ実用的でアーツと見紛うほどの物ものを開発してきた。そうした「創作」が成功した時の気分は言い表しようのないものだ。
驚き、興奮、誇り……どれもあるにはある。
しかし、それはそこまで強烈な感情ではないかもしれない。
研究者にとってそれはありふれたことであり、だからこそ彼女はすべてを「ラボ・ルトラ」の功績としてきたのだ。
ラボ・ルトラが彼女自身を表していることはともかくとして――
それでもミーボだけは、ほかの「創作物」とは別格だった。
彼女はミーボに語り掛け、共に働き、そして共にあの退屈な時間や場所から逃避してきた。ライン生命でもロドスでも、ずっとミーボと一緒だった。
ミーボの反応を期待していれば、ミーボは必ず応えてくれた。
メイヤーは目の前のスーパー・ミーボを見やった。それはもはやスクラップと化したまごうことなき失敗作だったが、メイヤーの中には今までにない感情が湧き上がっていた。
悲しみ、驚き、あるいは喜び……そこにはすべてが含まれている。
けれど正確には、より強烈で、複雑で、形容しがたい感情だった。
[クロージャ] うちのロボたちにはちょっと敵わないけど、スーパー・ミーボは相当進歩したんだから、メイヤーも諦めないでよね。
[メイヤー] ……クロージャ……
[メイヤー] だったら、あと二ヶ月休暇をもらってもいい!?
[メイヤー] スーパー・ミーボをベースにして、もう一回アップグレードをしたいんだよ! 鉄は熱いうちに打てって言葉もあるし!
[クロージャ] ダメなもんはダメ! 甘えたこと言わないの!
[クロージャ] もう三ヶ月もあげたでしょ! エンジニア部にも君への依頼がたまりまくってるんだからね。
[クロージャ] そ・れ・と、今回のテストは全工程分、特に事故が起きた部分について詳しく書いた報告書を提出してもらうよ!
[メイヤー] うっ……!
[クロージャ] あと、いっちばん大事なことだけど……ラボ・ルトラの修繕費は自腹切ってもらうからね!
[メイヤー] ……
『スーパー・ミーボ テスト日誌09』
今回のアップグレードは失敗した。
......
それでも、ミーボは変わらずメイヤーのそばに居て、無限の可能性を秘めている。
メイヤーはミーボを、そして――
メイヤー自身を信じているからだ。
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