このページでは、ストーリー上のネタバレを扱っています。 各ストーリー情報を検索で探せるように作成したページなので、理解した上でご利用ください。 著作権者からの削除要請があった場合、このページは速やかに削除されます。 |
執行人
イグゼキュターが任務中に見せた常識外れの行動を受け、第五庁枢機卿が彼との対話を試みる。
[フェデリコ] フェデリコ・ジアロです。
[フェデリコ] はい。現在すべての生理指標が正常であり、身体に一切の不調はありません。
[フェデリコ] いつでも査問に応じられます。
[フェデリコ] ただの対話であり、査問ではない? 承知しました。すべての事項について、私の知る範囲においてありのままにお話します。
[フェデリコ] では、どうぞ。
この機械的な応対をする新人に会うのは、これが初めてではない。
中庭公証人役場は、昨年三名の執行人見習いを採用した。しかし、うち二名は残念ながら最終的に我々に加わることはなかった。
一名は実習期間の審査を通過できず、もう一名は正式採用となる前日に辞表を提出した。曰く、実家のスイーツ店を継ぐ方が性に合っていると気付いたのだそうだ。
最終的に残ったのは、このフェデリコという名の若者だけだった。
[ドクター選択肢1] 例の任務についてもう一度順を追って話してもらいたい。
[フェデリコ] 承知しました。
[フェデリコ] 今回の任務は中庭公証人役場より発令されたものであり、契約者は一人のラテラーノ公民でした。
[フェデリコ] 契約者が生前公証人役場に委ねた遺言状には、国外で生き別れた相続人を見つけ、ラテラーノに連れ戻すことを希望する旨が記述されていました。
[フェデリコ] こちらの遺言執行の難易度は高いと判断されたため、本任務は二名の執行人によって行われました。すでに相続人は連れ戻し、身元も確認済みです。
[ドクター選択肢1] 報告には、君のパートナーは殉職したとあるが。
[ドクター選択肢2] 報告によると、君自身任務中に重傷を負ったとあるが。
[フェデリコ] はい。
[フェデリコ] 執行人ベルトーニは、本任務にて殉職しました。
[フェデリコ] その記述に誤りはありません。
[フェデリコ] 爆創を三箇所、刺創を一箇所負いましたが、そのいずれも致命傷ではなく、すでに治療を終えています。
[フェデリコ] 本任務では、私と執行人ベルトーニは遺言の内容に基づき、ボリバルの辺境に向かい相続人の捜索を行いました。
[フェデリコ] 該当の地域は目下紛争状態にあり、治安が悪化していました。
[フェデリコ] 相続人は現地の武力衝突の渦中にあり、それが任務遂行において避けては通れない障害となりました。
[フェデリコ] 我々は捜索中、三度混戦に巻き込まれ、その際相続人が人質に取られたことが原因となり、執行人ベルトーニは重傷を負いました。
[フェデリコ] 執行人ベルトーニの傷は重く、現地の環境では効果的な医療処置をとることは困難でした。
[フェデリコ] その後、彼は自身の状況を判断した上で、次の行動プランを策定しました。
[フェデリコ] その内容は、彼が囮として各敵対勢力の注意を引いている間に、私が相続人の身の安全を確保し、離脱するというものでした。
[フェデリコ] 当時の状況を鑑みるに、合理的な判断だったと言えるでしょう。
任務の説明について、ここまで一切虚偽はない。
執行人は任務遂行のために最も危険な地域に送り込まれ、殉職することも珍しくはないのだ。
しかし、今回の任務におけるフェデリコの行動には疑問が残る。
彼の報告を受けた同僚も、そこに何か思うことがあったようだ。ゆえに私はここに立ち、この若者と「対話」をしている。
[ドクター選択肢1] しかし君は、彼のプラン通りに行動しなかった。
[フェデリコ] ええ。僭越ながら申し上げますと、執行人ベルトーニの行動プランと我々の執行すべき遺言には矛盾する点があったのです。
[フェデリコ] 遺言状には、公証人役場が相続人を捜し出し、ラテラーノまで護送してほしいという明確な要求以外に、もう一つ記載がありました。
[フェデリコ] 「すべてのラテラーノ人が故郷で眠れますように」――
[フェデリコ] これが遺言の末文に記載されていた要求です。
[フェデリコ] 公証人役場が遺言を受理した以上、その内容すべてを執行するのが私の務めですから。
「すべてのラテラーノ人が故郷で眠れますように」、か。
なんと美しい願いだろう。しかし、それは執行すべき遺言に含まれるのだろうか?
私は目の前にいる人物の双眸を見つめる。
固い意志を宿すその目は、落ち着きに満ち、微塵の揺らぎもない。
しかし、その淡い青色からは何も窺い知ることはできなかった。
[フェデリコ] 執行人ベルトーニのプランは、彼自身の善後策が不明瞭でした。
[フェデリコ] ボリバル辺境の情勢は混乱しており、各勢力が入り乱れています。その中にはラテラーノに対して敵意を抱いているものも少なくありません。
[フェデリコ] そのような状況下で、彼のプランに従い、相続人を連れて先行離脱することはできませんでした。
[フェデリコ] どうかご理解ください。
[ドクター選択肢1] 君に背負われて戻った彼の状態はわかっていただろう?
[フェデリコ] はい。
[フェデリコ] 包囲から抜け出す際、執行人ベルトーニはすでに行動不能に陥っていたため、その後の全行程において、私は彼を背負って行動しました。
[フェデリコ] 成人男性の体重であれば許容範囲ですので、それによって行動が阻害されることは特にありませんでした。
[フェデリコ] 当時の彼の状況ですが、出血量が人体の許容限界を超え、体温は危険な状態まで低下しており、ほどなくして意識を喪失しました。
[フェデリコ] その後、ボリバル国境から離脱した当日に、執行人ベルトーニの死亡が確認されました。
同僚の死を聞くのは決してこれが初めてではない。そして、これが最後になることもないだろう。
死者にも意識があったならば、ベルトーニは何を思うのだろうか。
果たして彼は、この若者が自らをラテラーノに連れ戻すために重傷を負い、危うく命を落としかける姿など見たかったのだろうか?
[ドクター選択肢1] ベルトーニは間違いなく君の行動に反対したはずだ。
[フェデリコ] ええ、執行人ベルトーニは確かに反対の意を示しました。
[フェデリコ] しかし彼は、反対する理由を合理的に説明することはできませんでした。ですから私は自分の判断に基づく行動を継続することにしたのです。
[フェデリコ] 任務と当時の状況を併せて鑑みるに、契約人の遺言執行こそ最優先事項であり、執行人ベルトーニ個人の願望は優先度が低い――私はそう判断しました。
[フェデリコ] もちろん、特殊な状況であれば、それも考慮に入れるつもりではありましたが。
私の知り得た、フェデリコ・ジアロに関するもう一つの特筆すべき点──
はっきり言えば、彼は共感能力を欠いているのだ。
以前の我々の判断は、この欠点は彼の執行人としての仕事に影響はないだろうというものだった。
しかし今となっては、この判断の評価を改める必要があるのかもしれない。
[ドクター選択肢1] まさか君は、彼の意志は重要ではないと考えているのか?
[ドクター選択肢2] ベルトーニの立場から彼の気持ちを考えるべきなのでは?
[フェデリコ] いえ、私は執行人ベルトーニの意志を尊重しています。
[フェデリコ] 失礼を承知で申し上げますと、そのようにすることの意義が理解できません。
[フェデリコ] 執行人ベルトーニも本任務の参加者です。執行人である以上、契約者の遺言が円滑に執行されることこそ我々の共通の願いであるはずですから。
[フェデリコ] この点に関して、異議はなきものと考えています。
思わずため息が出そうになった。
ベルトーニは最後に自らを囮とすることを選んだ。その目的は明らかだ。
フェデリコはその想いに反して戦場に飛び込み、全身に傷を負ってでもベルトーニを連れ帰ろうとした。そのおかげで危うく高い代償を払う羽目になるところだったというのに……
そんなことは、まったく意に介さなかったのか?
ベルトーニの最期の想いですら……本当にまったく理解できなかったのか?
[ドクター選択肢1] フェデリコ、君は私の今の感情がわかるか?
[ドクター選択肢2] フェデリコ、君は本当に感情が全く理解できないのか?
目の前の若者は黙して語らない。
彼は何かを判断するかのように、こちらをじっと見つめている。しかし一体何を判断するというのだろうか?
すると突然、彼はおもむろにペンを取った。
そして、テーブルに置かれた白い紙に何かを描いてみせた。
それは一つの円だった。
[フェデリコ] 枢機卿の感情には悲しみが表れています。
目の前の若者は黙して語らない。
彼は何かを考えている様子で、こちらをじっと見つめている。
すると突然、彼はおもむろにペンを取った。
そして、テーブルに置かれた白い紙に何かを描いてみせた。
それは一つの四角形だった。
[フェデリコ] この対話には私への猜疑心が存在しているようです。
[フェデリコ] 先ほどの質問に含まれた感情は、詮索、困惑、悲しみ、そしてその他の多くのものでした。
若き執行人はさらにいくつか線を引いた。
[フェデリコ] 私にはそれらの感情が生まれた要因はわかりませんし、感情が人間に与える意義も理解しがたいものです。ですがその結果自体は理解できます。
[フェデリコ] それぞれの感情を様々な線に置き換えることで、直線と曲線が多種多様な図形を織りなします。この図形は、私が感情を判断する一助となるのです。
[フェデリコ] たしかに私は、生来の生理的欠陥によって、同胞たちのように共感することができません。
[フェデリコ] しかし、それは公証人役場での業務には影響しない、と申し上げておきます。
[フェデリコ] 私は与えられた任務を全力で遂行しますし、必要とあらば、契約者の感情理解を試みる所存です。
フェデリコはそう言うと、しばらく言葉を止めた。
この一連の回答により、私の考えはすでに大きく変わっていたが、次の瞬間、この若者はさらに予想外の言葉を口にした。
[フェデリコ] 執行人ベルトーニ殉職の件の事後処理についてですが、すでに公証人役場に遺言執行申請を提出しております。
[フェデリコ] 任務の最終段階で、ベルトーニは私にこう言いました――
[フェデリコ] 「もし今回生きて帰れたら、大聖堂前のアイスクリーム屋で十玉早食いチャレンジをやってやる。」
[フェデリコ] 「だけどもし帰れないなんてことがあったら、お前が俺の代わりに百玉食ってくれ!」
[フェデリコ] ──以上が執行人ベルトーニが口頭で遺した遺言です。
……それはベルトーニの諦めにも似た自嘲、あるいは冗談だったのではないだろうか。
私はフェデリコの話を遮りたい衝動に駆られた。
彼の描いた線は様々な幾何学模様を形成し、整然と並んでいる。しかし、私はそこに規則性を見出すことはできない。
果たして、その「遺言」を遺した時のベルトーニの感情も、この図形の中に含まれているのだろうか?
[フェデリコ] 枢機卿、私には情報が真実か否かを判別する能力があります。
[フェデリコ] 彼と共感することができなくとも、類似の経験をもとに、発言者に本当にその意図があるかどうかを判断できるのです。
[フェデリコ] 真意と異なる意思表示によって、誤解が生じることは滅多にありません。
フェデリコは終始無表情であり、それを見た者は誰もが彼を冷酷で無情な人間だと思うだろう。
数分前まで、私は共感能力の欠如が彼の公証人役場での仕事に影響を与えるのではないかと懸念していた。
しかし今、私は思わず感嘆のため息を漏らしてしまいそうだった。
私は自らに問う。フェデリコ・ジアロは確かに欠陥を抱えている。だがそれが何だというのか?
その欠陥一つを取って、感情が理解できず、心のない機械のような人物であると決めつけるべきではないのだ。
[ドクター選択肢1] 線を描いて感情を読み解く手法は自分で編み出したのか?
[フェデリコ] ……
[フェデリコ] いいえ、両親から教わったものです。
若者が一瞬答えに詰まったのはこれが初めてだった。
彼は話しながら再び手を動かすと、さらに図形を描いた。
しかし今回、そこに含まれる意味を訊ねる必要はなかったし、訊ねるべきでもないと思った。
[フェデリコ] 両親は護衛隊特殊部隊のメンバーでしたが、任務執行の過程で殉職しました。
[フェデリコ] 私に感情を理解できるようになってほしい――それは両親の遺言の一部でした。私は両親の死を目の当たりにし、その時初めて他人の感情を読み解こうとしたのです。
[フェデリコ] そこにあったのは、無念、そして名残惜しさでした。
[フェデリコ] 今回の執行人ベルトーニの状況と類似する部分があります。
[フェデリコ] ……おや?
[フェデリコ] 枢機卿の感情が再び変化しました。理由をお訊ねしてもよいでしょうか?
私はその問いに答えられなかった。
何年も仕事をしてきた経験から、私はそう易々と感情を表に出さない自信があった。
しかしこの若者はまるで断定するように、感情が変化したと言ってのけたのだ。
中庭公証人役場の執行人として、我々は他のラテラーノ人よりも多くの人生を目にし、生者から死者に至るまで、すべての者と公平に付き合っていかなければならない。
そういった意味では、フェデリコこそ我々の中で、真に公平で曇りのない者と言えるのかもしれない。
きっと……彼は立派な執行人になるだろう。
[ドクター選択肢1] 色々と質問に答えてくれて感謝する。
[ドクター選択肢1] フェデリコ、これからどうするつもりだ?
[フェデリコ] 執行人ベルトーニの遺言は口頭のものであるため、正式なものとして受理こそされていませんが、別の執行人、つまり私が証人として存在している状況です。
[フェデリコ] この場合、彼の言葉は正式な遺言と見なされるものと考えます。
[フェデリコ] 先にも申し上げたとおり、遺言の執行申請は済んでおりますので、受理され次第速やかに執行するつもりです。
そこまで言ったところで、若き執行人の表情が初めてかすかに変化した。
彼はわずかに眉をひそめた。
[フェデリコ] ……アイスクリーム百個を購入するための費用は、すでに執行経費として申請済みです。
[フェデリコ] いずれにせよ……
[フェデリコ] 生者と死者の依頼を果たすのが私の役目です。
コメント
最新を表示する
NG表示方式
NGID一覧