aklib_story_受取人のない荷物(下)

ページ名:aklib_story_受取人のない荷物(下)

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受取人のない荷物

アンジェリーナは、荷物の受取人を見つけられなかった。しかしロドスに戻ると、その荷物の差出人がスズランで、受取人が自分だったことをようやく知るのだった。


[アンジェリーナ] ここが昼間、最後に配達した場所だね。

[クロワッサン] ファストフード店やん! ウチ大好きやねん!

[クロワッサン] 獣肉揚げ! フライドポテト! キノコの塩胡椒揚げ! ええな! うわぁ~、ウチ全部食べたい!

[アンジェリーナ] あれ? あの女の子がいない……

[店主] 獣肉揚げはいくつ? 二つ? ……えっ! 二十!? そんなにお嬢ちゃん一人で本当に食べきれるのかい?

[店主] はいよ、ケチャップ味十個に塩味十個……全部あんたの分だよ――次の子、注文は?

[アンジェリーナ] んー……うーん……いい香り!

[アンジェリーナ] ダメダメ、まだ食べちゃダメだ。仕事が終わってないんだし。

[アンジェリーナ] すみません、夕方このお店で本を読んでた女の子がどこに行ったか知りませんか?

[店主] ん? ああ、エミリーのことか。あいつなら隣町の実家に帰ったはずだよ。

[アンジェリーナ] えっ? こんな夜遅くに?

[店主] ああ、明日になれば、親父さんの死に目に会えなくなっちまうかもしれないからな。

[店主] お嬢ちゃん、あんた見覚えあるな。夕方も来てたよな? あんたがエミリーに知らせを持ってきたトランスポーターだろ?

[アンジェリーナ] え……ええ。でもそんな内容だったなんて知りませんでした。

[店主] はぁ……エミリーは一人でこの町の学校に通ってるんだけどよ……時間がある時は、小遣い稼ぎに店を手伝ってくれてたんだ。

[店主] あいつの親父さんは実家に住んでて、毎月手紙を寄越すんだが……先月と先々月はその手紙が来なくてな。

[店主] エミリーはそれをずっと心配してて、わざわざトランスポーターの所に行って、配達漏れがないか聞きに行ったりもしてたんだ。

[クロワッサン] 店長はん、ウチらは几帳面やさかいな、普通は配達物をなくしたりはせえへんで。

[店主] わかってるわかってる、あんたらのことは信じてるよ。エミリーも別に信用してないわけじゃないが、家からの知らせが来ないと不安になるんだよ。

[アンジェリーナ] だから夕方にあたしが来たのを見た時、あんなに嬉しそうだったんですね。

[アンジェリーナ] でも……

[店主] はぁ、不幸は突然やってくるとか言うしな。どのみち、人は老いたり死んだりするもんさ。

[店主] それにだ……もしあんたがあいつの親父さんの最後の手紙を届けてくれなけりゃ、すぐ家に戻らなきゃいけないことを、あいつは知ることもなかっただろう。

[店主] エミリーも心からあんたに感謝を伝えたいんじゃないか?

[店主] ところで、あんたたちはあいつに何か用があったのかい?

[アンジェリーナ] それは……もう大丈夫です。

[アンジェリーナ] これはきっと、あの子のものじゃないですから……

[店主] そうか。じゃあ遠慮なく食べていきな。二割安くしてやろう!

[クロワッサン] ゲフッ――

[クロワッサン] ついついぎょうさん食べてしもた……あかん! お財布がまたすっからかんや!

[アンジェリーナ] ……もうすぐ夜が明けるね。

[クロワッサン] せやな、一晩中走り回っとったんや! そらお腹も空くわけやな。せやけどあんたはん、何も食べてへんやん。

[クロワッサン] まだエミリーのこと考えとるんかいな?

[アンジェリーナ] うん……

[アンジェリーナ] 頭の中が全部そうってわけじゃないけど。

[アンジェリーナ] ただ、彼女のことを聞いてから……もしかするとあたしからの連絡を待ってる人もいるんじゃないかって思っちゃって。

[クロワッサン] せや、アンジェリーナはんは、もうずっと家に帰ってへんのやろ?

[アンジェリーナ] ……近くを通りかかったのを除けば、ずっと――だね。

[クロワッサン] せめて両親に連絡くらいしぃや。で、いつ帰るかは決めたん?

[アンジェリーナ] わからない……

[アンジェリーナ] 帰る準備ができてるのか、わからないんだよ。

[クロワッサン] 準備って何や? 病状は落ち着いとるんやろ? 前に言うてたな、自分を心配してくれる人に苦しむ姿を見せるくらいなら、失踪したと思わせた方がいいって……

[アンジェリーナ] ……失踪したと思わせれば、五年十年経っても、あたしがどこかで元気でやってるって思うかもしれない。

[クロワッサン] せやけど、絶対心配してんで!

[クロワッサン] それに医療部のみんなもおんねんから、五年十年どころやのうて、未来はきっと明るいって!

[アンジェリーナ] でもあたしは……

[クロワッサン] ん? あれは誰や?

[クロワッサン] なんや尻尾が一本見え……いや、一、二、三……モフモフの尻尾がえろうぎょうさん見えんねんけど……

[スズラン] あっ! アンジェリーナお姉さん、それとクロワッサンお姉さん。あの……お、おはようございます。

[アンジェリーナ] あ、おはようリサちゃん……あれ、こんなに早くにどうしたの? まだリサちゃんが起きる時間じゃないよね?

[スズラン] そ、その……アレがどうなったか気になって……

[アンジェリーナ] アレ? なんのこと?

[スズラン] えと……そのノートのことです……

[スズラン] 昨夜作り終わってすぐにアンジェリーナお姉さんに見せたかったんですけど……わ、私が時間通りに寝てないことが、ケルシー先生にバレたらと思うと……

[スズラン] でも、早くアンジェリーナお姉さんに見てほしかったんです!

[クロワッサン] せやから宿舎の入り口に置いといたんやな?

[スズラン] は……はい!

[スズラン] 一日中、配達で大変だったアンジェリーナお姉さんが、帰ってきてそれを見ればきっと喜んでくれると思ったんです。

[クロワッサン] ほれ見てみい、ホンマにアンジェリーナはんへのプレゼントやったやん!

[クロワッサン] はよ開けてみいや!

[アンジェリーナ] あたしへの……プレゼント?

[アンジェリーナ] こんなに丁寧なラッピング……あたしが一番好きなピンク色。それにこの匂い、どこかで嗅いだような……ああ、前に医療部に行った時のアロマの匂いだね。

[スズラン] に、匂いますか? 宿題が終わった後にこっそり作ってたから――

[スズラン] 少し匂いが移っちゃったんですね……

[アンジェリーナ] いい匂い、あたしこの香り好き。なんか安心する……よし、じゃあ開けちゃおっかな、一、二、三!

[アンジェリーナ] これは……スクラップブック?

[アンジェリーナ] こ、この川……この建物……もしかしてシラクーザの? あっ! ここあたしが一番好きだったカフェだ!

[アンジェリーナ] ここから東に十分くらい行くと、あたしが昼間に何百……ううん、何千回と通った道がある。

[アンジェリーナ] それに、この花びら……この匂いも知ってる気がする……

[スズラン] 花びらはパパに送ってもらったんです!

[スズラン] 前の写真はママのお友達が送ってくれたんです。あっ、私が自分で思い出しながら描いた絵もあります。ちょっとへんてこりんですけど。たくさん練習したのに……

[アンジェリーナ] ううん、本当によく描けてるよ。

[アンジェリーナ] どれもすごくいい、本当に。

[スズラン] ……アンジェリーナお姉さん、あまり嬉しそうじゃないですね……もしかして私、何かいけないことをしてしまいましたか……?

[アンジェリーナ] そんなことない。すごく嬉しいよ。

[アンジェリーナ] むしろ……嬉しすぎて……

[アンジェリーナ] あれから……あたしは昼間の街の景色を一度も見てなかったから。

[アンジェリーナ] あたし、とっくに全部を遠くで失くしてきたと思ってた……遠く、遙か彼方に。どれだけ速く走ってもたどり着けないような場所に。

[スズラン] 確かにロドスはとーーっても大きな船で、色んな場所を走り回っていますもんね。

[スズラン] 私も来たばかりの頃は、フォリニックお姉さんに今どこにいるのかよく尋ねてました。そしてそこがシラクーザや極東からどのくらいの距離があるのかなってこっそり計算したりしてたんです。

[スズラン] 近い時もあれば遠い時もあって、そのうちだんだん、よく分からなくなっちゃいました。

[スズラン] でもパパやママ、それと二人のお友達から手紙が届くたびに、こっそりそれを抱きしめて寝てたんです。そうすればまたパパやママとの距離が近くなったような気がするんですよ。

[スズラン] 今じゃもう手紙も増えてきちゃって、全部を抱きしめながら寝るとお布団いっぱいに散らばってしまうので……だから一部はノートに挟んでおくことにしたんです。

[スズラン] ノートなら簡単に抱きしめて寝られますから!

[アンジェリーナ] うん……リサちゃんはほんと、可愛くていい子だね。

[スズラン] えっ? 私また何かおかしなこと言っちゃいましたか?

[アンジェリーナ] ものすごく素敵なことを言ってたよ。それに、このノートもすごいよリサちゃん!

[スズラン] えへへ。前にドクターさんも私のノートを見て、すごいって褒めてくれたんです!

[スズラン] ドクターさんは言ってました。トランスポーターさんたちは、ただでさえ色々な場所を駆け回らないといけないのに、ロドスの仕事もあるから大変だって。アンジェリーナお姉さんもずっとおうちに帰れてないですよね?

[スズラン] だから、きっとアンジェリーナお姉さんにもこれが必要だろうってドクターさんが……

[アンジェリーナ] えっ……ドクターが?

[スズラン] はい。それに、ほかのお兄さんやお姉さんたちも手伝ってくれたんです。ロドスで働いてる皆さんだけじゃなくて、前に荷物を届けてくれた、シラクーザのトランスポーターのお兄さんもです。

[スズラン] いつからか、皆さんがシラクーザや極東に行くと、ついでに写真や特産品なんかを持って帰ってきてくれるようになったんですよ。

[クロワッサン] へぇ、なんやみんなトランスポーターをしてるみたいやん!

[スズラン] はい! すごいトランスポーターのお姉さんたちみたいです! 皆さんから頂いたものはすべてノートに保存しています。これは一番の宝物なんです!

[スズラン] 私毎日考えてるんです。ノートがいっぱいになった時、きっと私は大きくなってて、今よりずっとすごい人になってるだろうって。

[スズラン] そうなったら今度は私が皆さんや……パパとママを守るんです。

[スズラン] パパが、私を心配して夜眠れないなんてことはなくなるし、ママも私のために外で大変な仕事をしなくて済むようになるんです。

[スズラン] その日が来たら、私はおうちに帰れるんです!

[スズラン] だから、ドクターさんのお話を聞いた後、アンジェリーナお姉さんにも一冊作ってあげようって決めたんです……

[アンジェリーナ] ……

[スズラン] アンジェリーナお姉さんにも、きっと何かおうちに帰れない理由があるんですよね?

[アンジェリーナ] そうだよ……

[スズラン] じゃあ約束です。もし新しい写真が増えたら、またアンジェリーナお姉さんに渡しに来ますね。

[スズラン] そしたらノートもすぐいっぱいになって、アンジェリーナお姉さんも早くおうちに帰れますよ!

[アンジェリーナ] うん……

[アンジェリーナ] ありがとう。ありがとう……ほんとに素敵なプレゼントだよ。

[スズラン] あっ、もう起床時間です。ケルシー先生とフォリニックお姉さんにバレたくないのでこれで帰りますね……アンジェリーナお姉さん、クロワッサンお姉さん、またね!

[クロワッサン] ……これやったら、中身が何なんか、賭けといたらよかったわ。

[クロワッサン] アンジェリーナはんみたいに可愛い子やったら、可愛いプレゼントもらえるに決まっとるもん!

[アンジェリーナ] うん……うん。

[アンジェリーナ] いつの間にか、あたしはロドスのアンジェリーナになったんだね……誰かが気にかけてくれるアンジェリーナになった。

[アンジェリーナ] もう……あの家を離れてた頃の、存在が消えたみたいな少女じゃないんだ。

[クロワッサン] ふぁーあ、ちょっと眠なってきたわ……アンジェリーナはん、何か言うた? 全然聞こえへんかったわ。

[アンジェリーナ] ……ううん、なんでもない。

[アンジェリーナ] リサちゃんのプレゼント、ほんとに嬉しいなって言ったんだよ。

[クロワッサン] ホンマにサプライズだらけの一夜やったな!

[クロワッサン] 帰って寝よか。それとも何か食べよかな……うん、何か食べよ!

[クロワッサン] アンジェリーナはんは? 一晩寝ぇへんかったから、美容プランに影響出るんちゃう?

[アンジェリーナ] 少し休んでから、訓練に行くよ。

[アンジェリーナ] 午後には授業か……

[アンジェリーナ] 仕事だけじゃなくて、勉強も後れを取ってられないよ!

[クロワッサン] ええっ、冗談やろ? 仕事マニアにはならんといてや!

[アンジェリーナ] ならないよ~。

[アンジェリーナ] ノートがいっぱいになったら……家に帰れるのかな?

[アンジェリーナ] あたしはもう、準備できてるのかな?

[アンジェリーナ] この手紙……テーブルに置いてどれだけ経ったろう。数ヶ月? それとも半年?

[アンジェリーナ] 「お父さん、お母さんへ――」

[アンジェリーナ] 「……あたしはここで元気にやってるよ……」

[アンジェリーナ] 「いい仕事をしてるし、勉強も続けてる……」

[アンジェリーナ] 「……そう、鉱石病。あの日学校へ行く途中の事故で……」

[アンジェリーナ] 「あたしが急いで部活に行こうとしたから……お父さんが車で送ってくれるって言ったのにあたしが断ったから。もっと気をつけてれば、あの野外からの車にぶつかることはなかった。」

[アンジェリーナ] 「全然お父さんのせいなんかじゃない。だから心配しないで。」

[アンジェリーナ] ……

[アンジェリーナ] このページに挟んでおこう。

[アンジェリーナ] いつか、私は準備できるはずだから……お父さんとお母さんもきっと準備できるはずだから……

[アンジェリーナ] その時には、この手紙も書き終わっているはず……うん、写真のこの通りの東側、端から三番目の家。ここにハートを描いとこう。この場所に、自分で手紙を届けるんだ。

[アンジェリーナ] ……その日は、きっとそう遠くないよね?

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