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苦難揺籃_7-7_26:37:14
コシチェイ公爵の影は常にウェイにつきまとっており、親愛なる人でさえも振り払うことができなかった。 しかしどうあろうと、彼は自分なりに龍門を守るつもりなのであった。
時間不明 龍門 ウェイの執務室
[フミヅキ]
[フミヅキ] …………
[フミヅキ] カーテン、閉めないのですか?
[ウェイ] 閉めたところで気休めにもならん。窓ガラスも粉々だ。
[フミヅキ] ガラスなんてどうでもいいでしょう。あの子が……チェンちゃんが無事でいることが重要です。
[ウェイ] 腕が立つ子だ。父親にも、母親にも似ていない。
[フミヅキ] そうですね、彼女とは違います。
[ウェイ] …………
[ウェイ] 街に灯りが戻った。龍門は以前にも増して活気づいている。だが、これから何が起こるかは誰も知らない……
[ウェイ] 迫りくるこの災難を、フェイゼ一人で阻止することなど不可能だ。
[フミヅキ] ロドスがついています。彼らがチェンちゃんを助けるでしょう。
[フミヅキ] はぁ……
[フミヅキ] ヴィッテがこれ以上保守派を牽制するのは不可能でしょう。長年にわたって各公爵を制しようとしていますが、辛うじて弱体化させた程度で、徹底的に潰すことは難しい。
[ウェイ] 大反乱の際、各軍の上級将校や旧貴族も深刻なダメージを負った。彼らの地位も資源も、帝国議会に順次吸収されるだろうな。
[ウェイ] だが、私が懸念しているのは……
[フミヅキ] 懸念? 何ですか?
[ウェイ] もし、ヴィッテが嘘をついていた場合だ。この件自体が、ヴィッテと帝国皇帝による企みだとしたら? あの若き皇帝が、この全てを裏で画策していたとするならば……
[ウェイ] 我々の敵は常に闇に潜んでいる。それに比べて我々は、明るい場所に立つことを常に強いられているのだ。
[フミヅキ] 他の大勢と比べれば、まだ闇に近い方ですよ、あなたは。
[ウェイ] だがこの程度では全然足りない、昔と同じだ。もしコシチェイなら……奴なら、より深みに潜むはずだ。
[フミヅキ] でも、あなたはコシチェイではありません。コシチェイだったら、龍門を今のような形に築き上げることはできなかったでしょう。
[フミヅキ] ただ……もし本当にコシチェイがタルラ——タルちゃんをあんな風に育てたのだとしたら……
[フミヅキ] …………
[フミヅキ] あなたは彼女が……あのロドスの医師が嘘をついているとお思いになりますか?
[ウェイ] わからん。だが、あの手の人間で嘘を吐かぬ者はいない。ロドスは自らを隠蔽することに長けている。彼らは弱みをアピールすれど、秘密は何一つ洩らさない。
[ウェイ] だが、私はコシチェイが今のタルラを仕立てたと信じる方を選ぶ。奴を見くびった場合の報いは、取り返しがつかないほど大きい。
[フミヅキ] タルちゃん……
[ウェイ] だからこそ、フェイゼに手を下させるわけにはいかんのだ。
[ウェイ] コシチェイ……事態は間違いなく、奴が望む方向へと進んでいる。奴が死んだ今となっても、おそらくその野望は継承者によって達成されるだろう。
[ウェイ] 奴の思い通りにさせてはならない。
[ウェイ] 偵察隊の報告によれば、一部の感染者たちが龍門を離れ、中枢区画の方向へと移動しているらしい。
[ウェイ] そうなれば、タルラも中枢区画の移動を一時停止させて感染者たちを受け入れなくてはならないはずだ。
[ウェイ] たとえタルラがウルサスと密約を交わしていたとしても、多くの人が注目している中でレユニオン・ムーブメントを裏切るようなことはできないだろう。そこが唯一のチャンスだ。
[ウェイ] 私が乗り込む。影衛を連れて……
[フミヅキ] あなた!?
[ウェイ] 彼らはもう充分尽くしてくれた。
[ウェイ] 二度とその手を血で染めさせないと約束したのに、何度もその約束を破ってきた。
[ウェイ] そして、今度は龍門のために死ねと告げなくてはならないとは……
[ウェイ] ならば私も共に死ぬべきだ。
[フミヅキ] いけません。
[フミヅキ] そのようなことをなさったら、コシチェイの思う壺ですよ。それは勝利とは程遠いものです。
[フミヅキ] ……もしかすると龍門を奪還した時から既に、私たちはコシチェイの術中にはまっていたのかも知れません。
[ウェイ] …………
[ウェイ] かつて我々は、間違いなく勝利していた。
[ウェイ] たとえ満身創痍だろうとあれは我々の勝ちだった。私と、お前と、エドワードと、グレイ。我々がいなければ、コシチェイはこの都市を食い散らかしていただろう。
[ウェイ] それを不幸の始まりだと思ったことは一度もない。
[ウェイ] ……エドワードの死をコシチェイのせいだというつもりもない。
[フミヅキ] 悪い夢だったとでも?
[ウェイ] いや。
[ウェイ] 悪夢はコシチェイが死んだ時に終わるはずだった。
[フミヅキ] あれは本当に死んだのでしょうか?
[ウェイ] もしかしたらタルラに憑りついて生きながらえているかも知れん。選ばれし継承者は、その混沌の精神をも引き継いだのだろうな。
[ウェイ] タルラは奴に似過ぎてしまった。子を持たなかったコシチェイは、最適な種を手に入れたというわけだ。
[ウェイ] ……たとえケルシー氏の言葉を嘘だと切り捨てようとも、事実を否定することはできない。龍門を標的とした一連のこの陰謀、あまりにもコシチェイの手口に酷似し過ぎている。
[フミヅキ] 信じられません。タルちゃんはそんな子じゃありません。どうしてあの子にこのようなことをする必要が?
[ウェイ] お前も私もいい加減認めなくてはならない。すべてはタルラの計画によるものだと。
[ウェイ] だが龍門が手を拱いて敗北を待つと思っているのなら大間違いだ。
[ウェイ] 龍門は負けん。龍門には傷一つつけさせん、この私がな。
[フミヅキ] だけど、戦争は止められません。
[フミヅキ] ……私に、共に死んでほしいですか?
[ウェイ] フミヅキ!?
[ウェイ] ……私を脅しているつもりか?
[フミヅキ] いえ、違います。そういうわけではありません。私は——
[ウェイ] だめだ! 絶対に許さん。
[ウェイ] ……他人の命を巻き込むのは軟弱者がやることだ。
[ウェイ] それがお前なら尚更……私はそのようなことはできん……
[ウェイ] 私はかつては軟弱者だったかもしれん。だが今は違う、フミヅキ。
[ウェイ] 誰だろうとお前に指一本触れさせない。
[ウェイ] お前を隠そう。リターニアでもサルゴンでもいい、サーミでも……
[ウェイ] だが極東に戻ってはいかん。遠くの国へ送ろう。誰も知らない静かな小さい都市に。
[ウェイ] 人知れず姿を隠すのだ。我が弟が、どれほど私を憎んでいようと、そんな僻地へお前を殺そうと刺客を放つことはない……そんなことをするはずがない。きっとそうだ、あいつはそんなことはしない。
[フミヅキ] でも、私が生きていけません。
[フミヅキ] 私に一人で生きろというのですか、イェンウ?
[フミヅキ] あなたの死で私を苦しめるおつもりですか? あなたの妹がなぜ鬱に侵され亡くなったのか、お忘れになったとでも?
[ウェイ] 違う、そうではない……フミヅキ違うんだ、私はただお前に生きていてほしいだけなんだ。私は——
[フミヅキ] ウェイ・イェンウ、言っているでしょう……いいのですよ、私は。
[フミヅキ] あなたと共に死ねるのならば、私が想像し得る不幸な結末の中では最高の部類に入ります。決してハッピーエンドではありませんが、それでも私にとっては素晴らしい最期です。
[ウェイ] フミヅキ、私は……
[ウェイ] そんな惨めな男に成り果てるつもりはない。お前がそんな結末を選ぶことも許さん。
[フミヅキ] でもご存じのはずですよ。あなたに私は止められません。私が一旦やると決めたことを、あなたは一度だって止められた試しはないでしょう?
[ウェイ] フミヅキ……!
[フミヅキ] イェンウ、あなたはいつも私に対して本心を語ってくれますよね。何も言わないこともありますが、話してくれる時にはそれが全て、本心からの言葉であると私は知っています。
[フミヅキ] 私はあなたに死んで欲しくありません。同じようにタルちゃんにも死んで欲しくない……私たちの誰にも死んで欲しくないのです。
[フミヅキ] 私、タルちゃんが恋しいのです。あなたの妹に瓜二つで、目元だけはエドワードに似てて。けれども小さな頃のあの気性は、いったい誰に似たのやら……ずっと会えないまま、何年経ったのかしら?
[フミヅキ] 全部私たちのせいです。あの子が不憫で……
[ウェイ] ……フェイゼもだ。
[フミヅキ] ええ、チェンちゃんも——
[フミヅキ] チェンちゃんも行ってしまいました。もう会うことはできません。綺麗な服を着せてあげたり、可愛い髪型をセットしてあげることは二度とできないのですね……
[ウェイ] フェイゼは……あの子は、お前が着せるようなクラシックな服装がそれほど好きではないのだよ。
[フミヅキ] いいんです。私が好きなんですから。あんなに綺麗なんですもの。この先どこまで美しくなるんでしょうね。
[フミヅキ] ……でも同時に思うのです。たとえこれが今生の別れだとしても、あの子がどこかで元気に過ごしていれば、生きてさえいてくれればそれでいいって。そう思わずにはいられないのです。
[フミヅキ] あなたがロドスにあまり借りを作りたくないのは存じております。全てのチップを彼らだけに賭けるのを良しとしないことも……
[フミヅキ] でも、少しだけ待っていただきたいのです。
[ウェイ] …………
[フミヅキ] やらせてあげてください、イェンウ。
[フミヅキ] もし彼らがやり遂げられなかったら、その時は共に参りましょう。もう二度とご自分の手を親族の血で染めたくはないでしょうが——
[フミヅキ] ですから、代わりに私がタルちゃんの命を取ります。そして二人で共に死を迎え入れましょう。
[ウェイ] フミヅキ……!
[フミヅキ] あなただってチェンちゃんに生きてほしいのでしょう? それともこの龍門という都市が、私たち全員の死を望んでいるとでも仰るのですか?
[フミヅキ] もし叶うのなら、チェンちゃんだけではなく、タルちゃんにも生きてほしいのです。二度と会えなくなっても、いつか忘れてしまおうとも……それでも私は、あの二人に生きてほしいのです。
[フミヅキ] あなたと同じように。あなたが私に生きてほしいように。
[ウェイ] フミヅキ……もし事態が後に引けない局面になったら、絶対に私の指示に従ってくれ。我々の命は……不本意だが、同時に失われてはならないのだよ。
[フミヅキ] 当然わきまえております。イェンウ、私はあなたのためだけにこの場に立っているわけではないのですから。
[フミヅキ] ……私の成すこと全てが、最初から最後まで、あなたのためだけのものというわけではありません。
[フミヅキ] 私が何に対して意固地になっているのか、ちゃんとご覧になって。
[フミヅキ] 逃げ回るのはおよしになって、私を見てください。
[ウェイ] …………
[ウェイ] 私は自らの決意を曲げはしない……
[フミヅキ] つらいのですか?
[ウェイ] …………
[フミヅキ] 泣きたいなら泣いてもいいのですよ、イェンウ?
[ウェイ] いいやフミヅキ、私はそんなことはしない。
[ウェイ] ……決して。
[フミヅキ] 本音をおっしゃってください。
[ウェイ] …………
一つの街に定住して、普通の生活を営みたいと願うだけの人々が、なぜ謂れの無い死の運命に晒されなければならないのか?
私はただ、彼らに家と呼べる場所を与えたかったのに。我々のように行き場をなくした者たちが安らぐことのできる、暖かな居場所が欲しいと思っただけなのに。
たった一つの小さな町を作りたかっただけではないか。誰もが安心して暮らせるような小さな町を……
今の龍門という都市は、いったい誰の為にあるのだ?
[ウェイ] 私は道徳家ではない。だがな、フミヅキ、落ち着いて考えた結果、死ぬべき者はやはり一人しかいないのだよ。
[ウェイ] ――私一人だけだ。
[フミヅキ] ……やめてください!
[ウェイ] 影衛に命じて、お前をサルゴンへ送らせよう。
龍門はいつの間にこうなったのだろう。
私はいつの間にこうなったのだろう。
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