aklib_story_局部壊死_6-18_お前だけが知っている

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局部壊死_6-18_お前だけが知っている

龍門はもう安全だ。 しかし、ウェイの執務室で上がった非難と詰問の声、ケルシーが伝えた最新情報――それは、中枢エリアが衝突する勢いで龍門に迫っているというものだった。 全ての決着にはまだ遠い。


龍門防衛作戦は終了しました。繰り返します、龍門防衛作戦は終了しました。

警察官の皆様におかれましては、装備を点検後、各署に返却し、一執務日以内に原隊に復帰してください。

また、近衛局の局員の皆様は、各自の小隊に合流後、近衛局へ帰還し次の命令をお待ちください。

繰り返します……。

[チェン] ここで何をしている?

[チェン] ……お前、なんて顔をしてるんだ?

[スワイヤー] ……。

[スワイヤー] な、何でもないわ。

[チェン] ……そうか。

[スワイヤー] 待ちなさい。どこに行くつもり?

[チェン] この先だ。

[スワイヤー] その必要はないわ、もう確認したから。何もなかったわよ。

[チェン] そうか。

[スワイヤー] チェン、本当に必要ないって。戦いはもう終わったのよ。

[チェン] そこを退いていただけますか? ミス・スワイヤー。

[スワイヤー] あんたはもうレユニオンの進攻を阻止できたんだし、あの特殊部隊の件だってうまくいったじゃない!

[スワイヤー] あいつらを近衛局にロドス、そして監察官たちの眼前に晒してやったでしょ!

[スワイヤー] もう全部片付いたのよ!

[チェン] いいから、そこを退け!

[スワイヤー] 特別督察隊隊長として、あんたはもう十分よくやったわ!

[スワイヤー] これ以上調べなくていい! 何が知りたいの? これ以上ここで何も知ることなんてできないのよ!

[チェン] だがここで何が起きたかを知らねばならん。

[スワイヤー] この排水システムが、何を意味するか知ってるの?

[スワイヤー] あんたの仕事はここまでで十分なの。この先の一歩を踏み出せば、龍門の逆側に立つことになりかねないわ!

[スワイヤー] あたしたちの力で龍門は良くしていけるの。これから新しい龍門を築けばいいわ、過去のものは全部綺麗さっぱり洗い流して!

[スワイヤー] でも、チェン、ここだけは止めなさい。この先を見ないで!

[スワイヤー] 正義感、責任感、帰属感、あんたはどれを取っても優秀よ。今回の作戦はもう完璧に成し遂げられたの!

[スワイヤー] チェン!

[チェン] ……。

[チェン] 退け。

[スワイヤー] あんたはそういう奴だからこそ、見たらダメなんだって!

[チェン] 誰かがお前に、「排水システムは調べるな」と言ったのだろう。

[スワイヤー] ……。

[チェン] 私も同じことを言われた。

[スワイヤー] じゃあ、どうしてわざわざ調べようとするのよ! 誰もあんたがこれを見ることを望んでない、誰も!

[チェン] それは違うな。

[チェン] 龍門の街が、私に見ろと言っているんだ。私はお前が言う通りの人間だからこそ、見なければならないんだ。

[チェン] スワイヤー。私に剣を抜かせないでくれ。

[スワイヤー] ……。

[スワイヤー] うぅ……。

[チェン] これは何のにおいだ?

[チェン] これは……。

[チェン] ……。

[チェン] …………。

[近衛局隊員] おっと、上がってきたか。

[近衛局隊員] 敵の指揮官、メフィストとかいう感染者は捕まえたのか?

[ドクター選択肢1] お前には関係ない。

[ドクター選択肢2] ……。

[ドクター選択肢3] 死んだ。

[近衛局隊員] なっ……なんだと? なんだその態度は……。

[近衛局隊員] どういうことだ、お前たちロドスが追ってたんじゃないのか?

[近衛局隊員] ……何か喋ってもらえるか?

[近衛局隊員] 俺たちも任務の報告をしなきゃいけないんだ。それに、敵の指揮官がまだ生きたままとなると……。

[近衛局隊員] 死んだ? どうやって死んだんだ?

[近衛局隊員] それは本当か? 結晶死亡鑑定と解剖を行わなければ感染者の死体は鑑定できないだろう。鉱石病が基本的な生物情報を奪っていくからな……。

[近衛局隊員] まさか、それがわからないわけじゃないだろう?

[近衛局隊員] おい、待て、どこへ行くんだ? 抱えているのは誰だ?

[近衛局隊員] ……下で一体何があったんだ?

[ドクター選択肢1] 感染者が一人、死んだ。

[ブレイズ] レユニオンの残りの小隊は、もう脱出できた頃かな。

[ブレイズ] これがあの白ウサギの欲しかった戦果かはわからないけどね……最期は彼女だって、そんなこと気にしてなかっただろうし。

[ブレイズ] でもどうであれ、彼女は成し遂げた。

[ブレイズ] 白ウサギ……本当に頑固な奴だったよ、君は。

[ブレイズ] 「素晴らしい、お前たちの完勝だ」だって? 何が勝利だっての……結局、君が力尽きなければ、私たちは今頃バラバラの氷塊になってるところだよ。

[グレースロート] でも私たちは生き延びた。それに貴重な戦闘経験だって積むことができた。

[ブレイズ] 経験が生きるのは、これから先のことでしょ。目の前で死んでいった人はもう戻ってこない。

[ブレイズ] 本当は彼女も救えたはずなのに。

[グレースロート] ……。

[グレースロート] アーミヤは龍門の責任者に話をつけに行ったの?

[ブレイズ] たぶんね。あの子たちに任せとけば大丈夫、私は別に興味ないし。

[ブレイズ] グレースロート、ちょっと手を貸して。

[グレースロート] えっ? 何故?

[ブレイズ] 私のことからかってる? この状況を見てわからないかな?

[グレースロート] まさか立てないの? 顔色を見る限り全然大丈夫そうだけど。

[ブレイズ] ……グレースロートさん、お願いですから私を引き起こしてくれませんか? 見た目は大丈夫そうかもしれませんが失血と低体温症でもう死にそうなのでさっさとロドスまで連れて帰ってちょうだい!

[ブレイズ] あっ、そういうことか……うん。いや、やっぱりいいや。

[グレースロート] 何故?

[ブレイズ] ロドスを離れるつもりなんでしょ? もうロドスのために無理して働く必要だってないからね。

[グレースロート] ……どうして?

[ブレイズ] え?

[グレースロート] さっきの戦いで、感染者の苦しみがどういうものなのかを知った。

[グレースロート] そしてその苦しみは、私たちの周りで起きたことよりも、陰惨で、どうしようもできないものだってことも。

[グレースロート] 私は感染者の苦しみが理解できた。だから、同じことが再び起きるのを阻止できたらって思ってる。

[ブレイズ] いま初めて理解できたなんて、これまでに同じような悲劇を見る機会がなかったの? グレースロート、言ってみて。君と私、何が違うっていうの?

[グレースロート] 感染者かそうでないか、とか?

[ブレイズ] もしさっき私たちが死んでたら、感染者も非感染者もないよ。死体がいくつか増えてただけだから。

[ブレイズ] 自分が神民か先民か気にする人、生まれの国を気にする人、種族や血統を気にする人、財産を気にする人……みーんな同じなんだよ。

[ブレイズ] 私は感染者だけど、「自分は人よりも悲惨だ」とか「感染者は迫害され続けている」なんて無駄話はしたことないし、したくもない。誰もそんな話は聞きたがらない。

[ブレイズ] このスラムで目にする人は、感染者だろうが非感染者だろうが、誰もそんなことに興味はない。

[ブレイズ] 彼らには彼らの苦しみがあって、苦しみには程度の差なんてない。そんなの私もわかってる。ただ私は、感染者のこの苦しみを直視してほしいだけ。

[ブレイズ] 「感染者だって人なんだ」、簡単なことでしょ。私が本当に望んでいるのは、まるで小動物を見るみたいに哀れみの目を向けてもらうことじゃなくて、ただ他の者人たちと平等に見てほしいだけ。

[ブレイズ] 虐殺、隔離、投獄、労役……そんなものは嫌というほど見てきた。だけど、何をどうすれば、それら全てをなくせるかはわからなかった。

[ブレイズ] 白ウサギは、私にできないことをやり遂げたんだ。

[ブレイズ] 本物の命懸けってヤツを見せつけられたよね……。残りわずかな時間で、私たちにあれだけの恐怖を見せた。あの確固たる信念があれば、どんな身分の壁だって飛び越えられたはずだよ。

[ブレイズ] あんなの見せられたら、もし今あの血も涙もない黒装束たちと戦えと言われてもなんてことないよ。あいつらなんて、白ウサギとは比べ物にならないからね。

[グレースロート] 本当に?

[ブレイズ] いや、言ってみただけ。さすがに死んじゃうよ。

[ブレイズ] でも、自分の信念のために戦って死ねるなんて、良い最期だったと思う。私の理想の一つだよ。

[ブレイズ] ……あの二人の様子は見た?

[グレースロート] 誰のこと?

[ブレイズ] Dr.{@nickname}とアーミヤちゃん。

[グレースロート] ドクターはどこへ行ったの?

[ブレイズ] ロドスまで白ウサギを埋葬しに。

[ブレイズ] ……まぁ埋葬と言っても、死体に処理を施すことで結晶の粉塵化を抑えて、二次感染を防ぐってだけだけどね。私たち感染者はみんないつかそうなる。

[ブレイズ] 少なくとも、私もロドスのオペレーターの一人として、ドクターのことは信頼できるようになったかな。グレースロート、Dr.{@nickname}のあの目は見た?

[ブレイズ] そう、あれ。あの目。信じてもいいかなって思えた。

[グレースロート] 見たよ。

[グレースロート] ……それよりも私は、アーミヤの目が普段よりもずっと怖かったのが気になった。

[ブレイズ] あの二人が向かった先はそれぞれ別のところだからね。

[ブレイズ] Dr.{@nickname}は感染者の葬場に、アーミヤちゃんは龍門……ある意味感染者の新たな墓場になるであろう場所へと向かった。

[ブレイズ] Aceが、Dr.{@nickname}はアーミヤちゃんやケルシー先生と同じような不思議な存在だって言ってた理由が、ようやく理解できたよ。

[グレースロート] そのケルシーは今どこにいるの?

[ブレイズ] いるべき場所にいるはずだよ。

[ブレイズ] さて、そろそろ行こうか。ロドスを離れる気がないなら、もう一度お願いするけど、起こしてもらえる?

[グレースロート] どうして医療オペレーターを待たないの?

[ブレイズ] 今はみっともない姿だからだよ。エリートオペレーターは……いつでも凛と立ってないといけないから。

[グレースロート] ……意地ばっかり張って、それで苦労するなんて馬鹿みたい。

[ブレイズ] こんな時に、しれっと傷つくことを言わないで……!

[ブレイズ] それにさ、今回の同行医療オペレーターが誰か知ってる? 他でもない、あのガヴィル、ガヴィル大先生だよ。「手ぇ洗ったらすぐ行くからな!」なんて言ってたから、もうすぐ来ちゃうよ!

[ブレイズ] 顔に血を浴びせられるのなんて、嫌でしょ?

[グレースロート] 手を。

[グレースロート] 血は、嫌いだから。

[ブレイズ] じゃあ早く行こう……。

[グレースロート] そういえば……。

[グレースロート] もし私があの二人の感染者の子を救わなかったら、あんたは私を助けなかったでしょ。そしたら感染者への考えを改める機会もなかったはず。

[グレースロート] これも感染者の導きね。

[ブレイズ] はぁ?

[ブレイズ] ……君ね、また間違ってるよ。

[ブレイズ] それはそれ、これはこれ。私が君を助けたこととは、何の関係もないよ。

龍門アップタウン 行政長官オフィス

[アーミヤ] すみません。ウェイさんとお約束をさせていただいております。

[秘書官] はい。ウェイ長官でしたら、別のご面会が今ちょうど終わったところですので、すぐにご案内いたします。

[秘書官] あの……お名前は……。

[アーミヤ] アーミヤです。感染者のアーミヤです。

[タイホー] 我らはここで失礼いたします。

[年配の男性の声] では。

[???] どうでしたか?

[タイホー] 彼の凄まじい手腕を見せてもらった。

[監察官] 見た目は大したことなさそうでいて、実際はというと……もうハッキリしましたね。

[???] あの類の者はいつでもそうです。なぜ龍門を治めているのが彼なのか理解できた気がします。

[???] ......

[アーミヤ] ……。

[???] 感染者ですか? どうしてこんなところに?

[秘書官] すみません、どうかお気になさらず。こちらの方もウェイ長官へ陳情にみえたお客様です。

[アーミヤ] 私は別にウェイさんへ陳情に来たわけではありません。

[秘書官] (アーミヤ様、ここは一旦……!)

[???] あなたのその服は……龍門と協定を結んでいるロドスですね。

[???] 感染者はここに長く留まらないほうがいい。龍門というところは、人を喰らいますからね。

[アーミヤ] ご忠告ありがとうございます。ですが、この大地が人を呑み込む時には、感染者かどうかの選り好みなどしませんよ。

[???] ほう……。

[???] では私もそのご忠告に感謝しておきましょう。

[???] ......

[???] 彼女がどんな身分か知っていますか?

[監察官] また何か企んでいるんですか?

[アーミヤ] ウェイさん。

[ウェイ] ああ……アーミヤ君か。そろそろ来ると思っていたよ。作戦は大きな成功を収めた。ロドスの活躍あってのことだ。

[ウェイ] ならば龍門は協定にある義務を果たすとしよう。ロドスが必要とする商業的な援助とその他の……。

[アーミヤ] いえ、もう必要ありません。ウェイさん。

[アーミヤ] 私は協定を破棄しに来たんです。

[ウェイ] ほう?

[ウェイ] ロドスは、そこまで囮に使われたことを根に持っているのかな? 私の行いに不当な点があれば、全て指摘してもらって構わない。

[ウェイ] こちらに非があることは真摯に詫びよう、アーミヤ君。

[アーミヤ] ……。

[アーミヤ] ウェイさんはいつも丁寧で親身になったように接してくださいますから、つい丸め込まれてしまいそうになりますが……。

[アーミヤ] ですが、あなたの武装集団とその計画をこの目で見ました。

[ウェイ] あまり戦局を歪曲して解釈しないでくれ、アーミヤ君。それとも何かな、私を告発しようとでも言うつもりかな?

[アーミヤ] いいえ、ウェイさん。私にあなたを告発する権利などありません。ただ今後に関する手続きをしに来ただけです。

[ウェイ] ではなぜ協定を破棄しようと?

[アーミヤ] 龍門との協定関係は、ロドスのためにはならないものと判断したからです。

[ウェイ] 互いに利のある関係だと思うが。一つの企業としては、それだけでは足りないか?

[アーミヤ] いち企業でも、それぞれが目指す方向というものがあります。

[ウェイ] では君は、御社から感染者側の視点で見た時に、龍門に至らない点があると?

[アーミヤ] いえ。ロドスには「感染者側」という視点はありません。

[アーミヤ] ロドスという組織は、ただ単純に感染者のために戦っているというわけではありません。

[アーミヤ] 私は感染者というだけではなく……この大地の一員でもあります。

[アーミヤ] ロドスは、感染者の問題を解決するための専門家です。それは、私たちのオペレーターの多くは感染者で、感染者の境遇や置かれている環境が手に取るようにわかるからこそですが——

[アーミヤ] この大地が鉱石病の災禍から逃れるために努力するということは、私たちが感染者のためだけに戦うという意味ではありません。

[アーミヤ] ウェイさん、もしあなたが私たちのことを、ある程度の武力を備えた感染者の権利を守るためだけの、単純かつ幼稚な集団だとお考えなら……とても残念です。それは誤解ですから。

[アーミヤ] 私たちロドスは、自分たちのためだけでも、誰か一部の人たちのためだけでもない、この大地に生きる全ての人たちのために戦っているんです。

[ウェイ] ……。

[アーミヤ] 龍門には、そもそも私たちの助けは必要ないはずです。すぐに協定を破棄し、ロドスも龍門を離れます。

[アーミヤ] 私たちは協定上の義務は果たしていますから、協定を破棄後は追加約款も全て無効になります。これは協定の内容に書いてある通りです。

[ウェイ] 龍門からの分け前を、一種のお礼とでも考えて受け取れば良い。

[アーミヤ] お断りします、ウェイさん。私たちは、そんな「お礼」より、協定先が筋の通った相手であるかどうかにこそ重きを置いています。

[アーミヤ] ウェイさんは、初めから私たちを捨て石としてしか見ていなかったのではありませんか。そして、その価値が証明された今、私たちが抜けることも、あなたの計画に織り込み済みだと思います。

[アーミヤ] ただ、ウェイさん……。

[アーミヤ] ……。

[ウェイ] 遠慮せずに言うといい。

[アーミヤ] もし欺かれたのがロドスだけなら、私はこの協定を破棄しようとは思いませんでした。納得できるかは別として、協定先からの不信は理解できます。

[アーミヤ] ですが、龍門が真相を隠蔽した相手は、私たちだけではありませんでした。

[アーミヤ] 近衛局の皆さん、龍門の市民、スラムの感染者たち……彼らは皆、この事件の裏で暗躍した後ろ暗い存在と手段を知りません。

[ウェイ] アーミヤ君、君は心を読めると聞いている。

[アーミヤ] そう思っていただいても構いませんし、できないと判断していただいても構いません。

[ウェイ] 君の憶測は一つの意見を述べているのであり、私を非難しているわけではない、そう思っても構わないかな?

[アーミヤ] はい、私は龍門の策略や未来の計画を指摘し非難したりすることはありません。ただ、ロドスのオペレーターたちがそれに関わることを制止する権利はあります。

[アーミヤ] ロドスのオペレーターも、レユニオンの構成員も、ひいてはチェルノボーグからの亡命者であっても、龍門の市民だって……。

[アーミヤ] 彼らは皆、一人一人が生きている人なんです。自分が知り得ない理由で、その命を左右されるなんて、決して真っ当なことだとは思いません。

[ウェイ] 私としては逆に、自分の役割を理解しているか否かよりも、実際に役に立ったということの方が重要だと思うが。

[アーミヤ] ……違います。そうあるべきではありません。

[アーミヤ] それはウェイさんにとっては……もしかすると、当たり前のことなのかもしれません。非感染者からすれば、感染者の隔離はごく当然で、議論の余地もないと考えられているように。

[アーミヤ] ですが、それが「平常」なことだとしても、決して「正常」なこととされるべきではありません。

[アーミヤ] 同じことが目の前で何度も繰り返して起きたからと言って、それは当然のことで、そうあるべきだと考えるなんて……そんな道理は決してありません。

[アーミヤ] そうでなければ、たとえ鉱石病を消し去ることができたとしても、この大地から紛争が収まることも、減ることもありません。

[アーミヤ] 拘禁され、利用される人が、「感染者」から別の集団になって同じことが続いていくだけです。

[ウェイ] それは君の訴えか……それとも君の理想か?

[アーミヤ] 私自身の大原則です。

[アーミヤ] ウェイさん、一つだけ、これだけは言わせてください。

[アーミヤ] ——人間は碁石やコマなどではありません。全員がこの大地で生きる人なんです。

[ウェイ] 君は碁が打てるのかな、アーミヤ君。

[アーミヤ] ウェイさん……。

[アーミヤ] あなたは「黒」ですか、それとも「白」ですか?

[チェン] ウェイ、貴様ッ!! 一体何をした!?

[ウェイ] 控えろチェン、客人の前だ。

[アーミヤ] チェンさん?

[チェン] 何をしたと聞いている! お前だろう!

[チェン] いや、お前でしかありえない……それ以外は考えられない。

[チェン] あのネズミ、そして彼女の狡猾な父も、せいぜいお前の計略の一つに過ぎないのだろう。あんな命令を下せるのはお前だけだ。

[チェン] レユニオンを破り、全ての龍門人が再び団結すればこの難局を乗り越え、龍門人同士の誤解も解けると信じていた……。

[チェン] だがまさかこうなるとは。もっと早くに気付くべきだった。

[チェン] こんな時に、お前は龍門の主という地位を改めて強調し、それを利用した。お前はいつもそうだった。

[チェン] それでも、それでも……何故こんなことができる?

[チェン] お前は自身の力で全ての障害を取り除けるのではなかったのか? 自らで道に生い茂った茨を焼き払うのではなかったのか? 何がお前をここまで卑屈にした?

[チェン] お前たちの感染者に対する態度は知っている。だがどうして、どうして……あれはただの……ただの……。

[チェン] ……。

[チェン] お前には、自身の行動の責任を負う度胸すらない。

[チェン] 名前を消し、痕跡を消し、命令を消し、己の行いを全て隠蔽した。

[チェン] ウェイ、リンと種族を入れ替えたらどうだ?

[ウェイ] 口からでまかせを。

[ウェイ] チェン、君が言っていることがよくわからない。納得できる説明をしてもらえるかな。

[チェン] ……。

[チェン] では、単刀直入に言おう。

[チェン] お前がタルラの父を殺したのだろう!?

[ウェイ] ……チェン?

[チェン] お前が私たちの母をあの意気地なしの男に嫁がせたのだろう?

[ウェイ] それを誰に吹き込まれた?

[チェン] 知りたいのならクイズでもするか?

[ウェイ] モノの言い方には気をつけたまえ。

[チェン] 失礼しました。何年も隠し続けてきた秘密がとうの昔に秘密ではなくなっていたことに、龍門の全てを掌握したウェイ殿も気付かれましたか?

[ウェイ] チェン、規律を乱すな。衛兵!

[チェン] タルラが教えてくれたんだ。

[ウェイ] ……。

[チェン] もちろん、タルラが知っている全ては、ほとんど誰にも知られていないことでもあるが。

[チェン] だがその綻びがお前の統治を再び脅かす可能性に気付けば、お前は業を煮やすことだろう……あの老いぼれ、コシチェイ公爵は、最初から最後までお前に付き纏う悪夢だ。

[チェン] お前はタルラに少しでも負い目を感じたことは、これまでに一度もないのだろう?

[ウェイ] チェン、君が知る権利のない事柄を憶測で語るな。そして出処もわからない情報を安易に信じるな。

[ウェイ] どうやら君は疲れているようだな。

[チェン] あの老いぼれ公爵のことなど信じるはずもない! 奴はもう少しで龍門を壊滅させるところだったんだ、そしてタルラを誘拐した!

[ウェイ] では——

[チェン] だが私ははっきりと覚えている……あの日は晴天だった。だがあの日の夜は月明かりもなく、いくつかの星が輝くのみだった。

[チェン] 老いぼれがタルラを拘束し、途切れた橋の向こう側に立っていた。

[チェン] そしてお前の後ろを……。

[チェン] お前の後ろを、黒い装束を着た者が埋め尽くしていた。

[ウェイ] ……。

[チェン] 私はタルラを信じる。元より信じ続けている。彼女も嘘に欺かれているのかもしれないと分かっている。だがお前はそういう男だ!

[チェン] お前は自分の目的のためには何もかも犠牲にできる、そういう男だろう!

[ウェイ] チェンフェイゼ!

[チェン] お前はスラムを浄化しようとスラムそのものの破壊を画策した! あそこにはあれだけ多くの龍門人が、我々を信じていた龍門人が、今までずっと支えてくれた龍門人がいたというのに……。

[チェン] 感染者は龍門の市民ではないからか? 彼らにはお前の高層ビルに融け込むだけの能力がないからか? それともスラムの中で、感染者と懇意にする者が出てくる可能性を懸念してか?

[チェン] お前は本当に龍門を守っていると言えるのか? お前こそが龍門を脅かしている張本人ではないのか?

[チェン] ネズミ何匹かを盾にしたからとて、完全に無関係を貫けると思ったら大間違いだ!

[チェン] ……お前の許可がなければ、あのリンだってこんなことをするはずがない!

[ウェイ] チェン。

[ウェイ] 君は私が龍門のためにしてきたことを……。

[ウェイ] 少しも知らないようだ。

[チェン] ……。

[チェン] その態度だ。何もかも自分の手中に収めているかのような態度、私が最も気に入らないところだ。

[ケルシー] ご両名、少しでも時間の余裕があるようなら、一つ情報を聞いていただけますか。

[アーミヤ] ケルシー先生?

[ケルシー] 端末を見ろ。詳細はもう送ってある。

[アーミヤ] あっ……はい。

[アーミヤ] ……えっ?

[ウェイ] 君に私の個人面会室に入って良いと許可した覚えはないのだがな。ロドスのお医者様。

[フミヅキ] 私が許可を出しました。

[ウェイ] ……。

[フミヅキ] あなたはいつまで、そんな風でいるつもりですか……。

[フミヅキ] 彼女には何もかも隠して、何もかも自分でやろうとする。それでは疲れませんか?

[フミヅキ] 今はこちらの客人の話を聞いてください。同じ内容の情報を私も受け取っています。本来なら三分前にあなたにも伝わっていたはずの情報です。

[ウェイ] では、ケルシー君、頼む。

[ケルシー] 我々が龍門城内のレユニオン掃討を行っていた際、敵の最高指揮官は姿を現しませんでした。

[ケルシー] 理由は簡単です。彼女はチェルノボーグを離れていないからです。

[ケルシー] 我々がほっと一息ついている様子を、あるいは散々な目に遭っている様子を……とにかく彼女に注意を向けることのない我々を、チェルノボーグから見ていたと思われます。

[ケルシー] そして今、チェルノボーグの一部、正確に言うと中枢エリアの移動都市が……。

[ケルシー] 龍門に向けて接近中です。

[ケルシー] 今から三十六時間後、そのチェルノボーグの移動都市は龍門に衝突するでしょう。

[ウェイ] それがどうした。龍門は移動都市や軍艦に対する自己防衛手段には事欠かない。一都市の中枢部など恐れるに足らん。我々は……。

[ウェイ] ……。

[ケルシー] ようやく気付きましたか、ウェイさん?

[ウェイ] ……まさかその移動都市は……。

[ケルシー] 絶えず都市の識別コードを発信し続けています。

[ウェイ] それはまずいな。

[ケルシー] そうです。あなたのその直感、もしくは推測の通りだと思います。

[ケルシー] その移動都市は各所に向けて識別コードを送り続けています。龍門全域まで既に信号は届いています。

[ケルシー] その識別コードが告げるのは——

[ケルシー] 「この都市はウルサスの領土である。」

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