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淬火煙塵_11-14_相まみえる時_戦闘後
シージが諸王の眠る地に通じる扉を開けると、ヴィクトリア千年の歴史が彼女に向かってきた。
[アラデル] これが……
巨大な扉が地下空間の中に横たわっていた。その場にいる者たちの息遣い以外の音は何一つ聞こえない。
当然、死とは静寂なものである。どれだけ輝かしい王権も、それを変えることはできない。
[シージ] ……諸王の眠る地。字面通りに理解するなら……王たちの墓か。
[シージ] 何か聞こえたか?
[ダグザ] 何も。私たちの呼吸音以外にはな。
[シージ] ……
間違いなく、なんらかの声がこの空間でこだましている。
これは、夢から覚めた時の呟きだろうか、それとも疲れ果てた時の呻き声だろうか?
彼らはこちらを見つめている。
――「ヴィクトリア」はこちらを見つめている。
はっきりとそれを理解した時、彼女は反射的に苛立った。
彼らは一体何を期待しているのだろうか? 自分にどんな未来を思い描いているのか?
こうしたものに追われる日々には、とうに嫌気がさしていた。
あの黄金の如き生き物からの呼びかけにも、長い間応えていない。
金色のたてがみ……
[シージ] 行くぞ、この任務をさっさと終わらせる。
[シージ] ロドスと自救軍が、私たちの助けを必要としているんだ。
[トター] ――
[トター] 止まれ!
[トター] 地面にある……これは……
[インドラ] ……薄暗くてよく見えなかったから、上流社会にありがちな奇抜な装飾か何かだと思ってたが。
[インドラ] 血だな。
[トター] それに交戦が起きた痕跡もある。
[トター] これ以上ないほどに凄惨な戦闘の……いや、死が染みついた泥だまりだな。
血痕。大胆にうねった血痕が、道の果てにある扉の向こうにまで伸びている。あるいは、その巨大な扉の向こうから這い出していると言うべきだろうか。
それは、とっくに乾き切っていた。ねじ曲がった暗褐色の残滓だけが存在し、砕けた瓦礫の上を覆っている。
赤黒い軌跡は、その他にも破損した矢じりや、刀剣の破片、それからアーツの攻撃によって残された深い穴の上に及んでいた。
加えてなにより目をひいたのは、この地の静けさを引き裂く傷跡のように、神聖なる扉の上に残された血痕であった。
付近には死体が一つもない。しかし戦場を経験したことがある者ならば、かつてここで何が起きたか容易に想像することができる。
二つの集団が各々に信念を抱いて戦い、いずれも、その願いに殉じたのは明らかであった。
[トター] 血痕の色から見て、何年も前の出来事みたいだな。
[アラデル] 何年も前……まさか……
[ダグザ] ……サルカズ。
[ダグザ] ここで死んだのはサルカズだ。
[ダグザ] 奴らの武器は知っている。これは……当時、塔楼騎士を襲ったサルカズの戦士が使っていたものと同じだ。
[トター] …今のサルカズの兵士が使っているものとはだいぶ異なるな。
[ダグザ] ああ。
[ダグザ] あれ以降、サルカズが身につけている武器は全てハイベリー区の軍事工場で製造されたものだ。ヴィクトリア軍が使用している制式武器と似ている。
[ダグザ] これほど雑な作りではないし。これほど……野蛮でもない。
[ダグザ] 私は……この錆びた刀が、同僚を叩き切ろうと振られた時の音を覚えてる。とても重いから、甲冑を引き裂く前に、骨が砕けるんだ。
[モーガン] ダグザちゃん、あんたへーき?
[ダグザ] ……へーき。
[ダグザ] もしも、この痕跡を見ただけでビビって先へ進めねーなら、私はロンディニウムから逃げた後、一晩だって乗り越えられなかったぜ。
[アラデル] ……ヴィーナ、状況は私たちが想像していたものとは違うようね。
[シージ] ……
声。声にかき乱され頭痛がする。
彼らが促している。彼らが訴えている。
[シージ] 「諸王の息」は、まだこの奥にある。
[シージ] 冷静に、前へ進め。
[シージ] このサルカズたちと戦ったのは何者だ?
[トター] 判別できないな。
[シージ] 相手は何の痕跡も残していないか?
[トター] 俺が見たことない痕跡かもしれない。
[シージ] トター、貴様は傭兵になってどれくらい経つ?
[トター] あと一ヶ月で十四年だな。
[シージ] ならば、ほとんどの国や地域の武器を知っているだろう。
[トター] そうだ、だがすべてではない。
[トター] 俺はごく普通の傭兵だから、各国精鋭部隊の武器はそんなに見てないよ。
[トター] もしもそいつらにお目にかかったことがあるなら、今まで生きてはこられなかっただろうな。
[シージ] ……
[シージ] モーガン、インドラ、貴様らは通路の外まで戻って警戒を行え。
[モーガン] 前みたいに、撤退ルートを確保するんだよね?
[インドラ] でもよ、一番面白れぇシーンを見逃したくはねーんだけど。
[ダグザ] シージ、慎重に進むべきだ……
[シージ] 私たちの頭上で起きている戦闘の音が聞こえるか、ダグザ?
[ダグザ] いいや。
[シージ] 私には聞こえる。その震動が……私には想像できる。
[シージ] 私は手ぶらでは帰れないのだ、ダグザ。
[シージ] もしこの剣ですべてを阻止できるのなら、たとえそれが犠牲や殺戮をほんの少し遅らせるだけであったとしても……
[シージ] 私は行く。
[シージ] 私は、これを責任だとは見なしていない。ただの……作戦行動にすぎない。
[シージ] 喧嘩を売ってきた奴の前歯をへし折ってやるのと、大して変わりはない。
[アラデル] ヴィーナ……
[シージ] アラデル、貴様は言ったな。ここまで来たなら、私たちはもう振り返る機会はないのだと。
[モーガン] ハンナちゃん、ご機嫌ななめだね~。
[インドラ] ハッ、王宮の地下で喧嘩するチャンスだったのによ!
[モーガン] むしろそんなチャンスに、ヴィーナたちが遭遇しなければいいんだけどね。
[インドラ] あのなぁ、俺はお前のためにこんなでっけー犠牲を払ってやったんだぜ。お前があっさりやられちまったら、代わりに叫んでやる奴が必要だもんな?
[モーガン] ハハ、まったくうちのおバカハンナちゃんは。
[モーガン] ……
[モーガン] ね、初めてヴィーナに会った時のこと覚えてる?
[インドラ] 忘れられっかよ。
[インドラ] くっそ生意気で無口で、何考えてるか分かんなかったよなぁ。
[モーガン] あの頃はまだちんちくりんだったのに、気性は荒いし、むすっとしてたね~。怒ってるかわかりにくいのに、いざ喧嘩を始めるとやばいし…
[モーガン] …ハハ、一体誰に喧嘩を教わったんだろうね?
[インドラ] 先生から教わったって言ってた。
[インドラ] 最初は、その先生って奴のこと、ノーポート区のどこぞの喧嘩自慢かと思ってたぜ。
[インドラ] けどヴィーナの出身を知って納得がいった。その先生っつーのは多分頭ん中まで筋肉が詰まった騎士かなんかだろ?
[インドラ] まじでさ、王子様だの王女様だのってのは刺繡されたドレス着てロクに走れもしない奴らだろ? 一体どんな先生が野獣みてーな喧嘩教えるんだよ?
[モーガン] アハハ、初めてヴィーナに正体明かされた時は、冗談言ってるのかと思ったよ。
[インドラ] ヴィーナが、俺たちの生死に関わるようなことで冗談なんて言うもんか。
[モーガン] 最初は、グラスゴーに喧嘩吹っ掛けに来たどっかの新興勢力のギャングかと思ってたのに。
[モーガン] まさか王位継承者の口封じをしに来てたなんてね~? ハハ。
[インドラ] あいつらの拳は確かに硬かったな。
[モーガン] 吾輩はあの時に思ったんだよね。王位継承者についていった方が、街でごろつきやってるよりずっと刺激的なんじゃないかって。それに、その王位継承者本人は吾輩好みだったわけだし~。
[モーガン] で、いつの間にか、吾輩たちはヴィーナの後にくっついてロンディニウムから逃げて、色んな所をさまよってから、またヴィーナと一緒にここに戻ってきた。
[モーガン] もし今……物語の中の英雄たちに選択肢があるなら、ソファでくつろぎながらキンキンに冷えたビールでも飲んでたいんじゃない。違う?
[インドラ] ……後悔してんのか?
[モーガン] まさか~。吾輩たちはもうここまで来たんだもん。
[モーガン] 吾輩の回顧録はね、もう始まってるんだよ。これでガッポリ儲けようと思ってるんだから! タイトルは『偉大なるヴィーナ陛下とその偉大なる友人たち』。あとは出版社の声かけを待つだけだね~。
[インドラ] お前のその弱っちい語彙力でか? やめとけよ!
[モーガン] ヴィーナは面白いって言ってくれたもん~!
[モーガン] ……
[モーガン] そういえば……吾輩たちが看板をぶっ壊したバーがあったよね。
[インドラ] ありゃヴィーナが俺たちを率いて初めて勝った戦いだぜ!
[モーガン] あの夜、吾輩たちは酒蔵のお酒を全部飲んだよね。最後にベアードが吾輩たち一人一人を背負ってトラックに乗せてさ、警察が来る前にずらかったじゃない。
[インドラ] バーカ、また記憶が狂ってるぞ。お前を背負ったのは俺だろうが。ベアードは飲み過ぎて便器をハンドルと勘違いしてやがったんだ、運転できるわけねーだろ!?
[モーガン] ……アハハ。
[モーガン] 吾輩はたださ……どこだろうと、昔みたいに集まってできることはあるんじゃないかって思ってたんだ。たとえそれが、別のギャングからバーを奪い取ることだけだとしてもね。
[モーガン] ハンナちゃん……
[モーガン] 帰ってきてこんなに経つのに、どうしてヴィーナはグラスゴーの様子を見に戻ろうって、一回も言わないのかな?
[シージ] ……鍵。
[シージ] 出発前に、ドクターがこの鍵をくれた。
[シージ] ドクターが、これはケルシー先生が交渉によって手に入れたと言っていた……諸王の眠る地に続く、私たちの目の前の扉を開けられるのはこの鍵だけだと。
[シージ] 私が手にしているこの鍵が、かつてとあるドラコのものだったことは知っている。
[シージ] ……
[シージ] ……アラデル。
[シージ] 貴様は……もう一本の鍵がどこにあるか知っているか?
もう一本の鍵。
アスラン王室の鍵、それも目の前のこの扉を開けることができる。本来であれば父から譲り受けるはずだったが、彼女はその鍵を見たことがない。
[アラデル] ……どうして急にそんなこと聞くの?
[シージ] ついさっき思い出したんだ……「諸王の息」に関するもう一つの伝説をな。
「アスランのパーディシャーは鋭い剣を手に、異国の最後の土地を征服しようと試みた。」
「ドラコ王の炎のアーツは彼に向けられた。彼の甲冑はベリー色に焼かれ、溶けた雫が少しずつ炎の中に滴り落ちた。だが、彼の剣は甲冑よりも硬かった。」
「ドラコ王の体に突き立てられたその瞬間、剣は半分しか残っていなかった。」
「それによりドラコ王は命拾いをし、アスランのパーディシャーも右腕を失った。」
「ドラコとアスランが盟約を結んだ後、剣は鍛え直され、それ以来数百年に及ぶヴィクトリアの輝きの始まりの象徴となった。」
[シージ] 私の祖先は……かつてドラコ王を殺しかけた。
[シージ] そして今、私は赤き龍の末裔の鍵を持ち……
[シージ] 諸王の眠る地に通ずる扉を開けようとしている。
[アラデル] ……この場においては、ドラコであれアスランであれ――
[アラデル] どちらもただのヴィクトリアよ。
扉が開いた。
それは彼女が想像するよりも軽かった。まるで、すべてはとうの昔に準備されていて、あとは彼女がそっと扉を動かすのをただ待っていたかのように。
諸王の眠る地において――
ヴィクトリア千年の歴史が彼女目掛けて襲い掛ってくる。一度は去りながら、また舞い戻ったアスランへと。
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