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午後の逸話_自業自得
後方支援部への加入を迷うオーキッドに、ミッドナイトが自身の過去を語る。 過去がどんなものであれ、大切なのは「今」、そして「どんな生活を送りたいか」なのだ。
p.m. 09:39 ロドス艦内
[オーキッド] ふぅ……なんとか終わったわ。
[支援オペレーター] お疲れ様です。オーキッドさん。
[オーキッド] まったく……いつの間にかあなたたちのお手伝いにも慣れてしまったわ。今の私はあなたたちと同じ、非戦闘員に見えるでしょうね。
[支援オペレーター] ハハハ、オーキッドさんはこういった仕事が得意なようなので、つい頼ってしまって……
[オーキッド] まぁ……あの問題児たちのお世話と比べたら、確かに得意だけど。
[支援オペレーター] では、後方支援部へ異動の申請をしてみませんか?
[オーキッド] えっ?
[支援オペレーター] オーキッドさんのような民間人出身の方が、ロドスに加入後、戦闘オペレーターになった例は多くありません。ほとんどは私たちと同じ後方支援部で働いています。
[支援オペレーター] むしろ、オーキッドさんはなぜ前線を選ばれたんですか? 私たちみんな、気になってるんですよ。
[オーキッド] なぜかと言われれば、うーん……
[支援オペレーター] オーキッドさん、ロドスに加入した後は、どのような仕事に従事したいですか?
[支援オペレーター] テストの結果では相当なアーツ適性が認められますので、もしご希望であれば、訓練後に前線のオペレーターになっていただくこともできますよ。
[支援オペレーター] 前線に加入する場合は、各々の実力に応じた適切な任務が振り分けられます。突然危険な任務を押し付けられたりはしませんので、ご安心ください。
[支援オペレーター] とはいえ、あなたは民間人で戦闘の経験もないと思いますので、後方支援関連の部署に加入されることをおすすめしますが。
[オーキッド] 後方支援と言うと何をするの?
[支援オペレーター] うーん……細かく分類するとかなりの種類になりますが、ざっくりまとめるとロドスを運営していく上で発生する様々な業務をこなしていただくことになります。
[支援オペレーター] 基本はデスクワークですので、あなたのように都市暮らしに慣れている方には最適だと思いますよ。
[オーキッド] (つまりオフィスに缶詰ってことね……)
[オーキッド] (心機一転と思ってロドスに来たのに、またデスクワークの日々はさすがに嫌よ。)
[オーキッド] ……やっぱり前線への加入を申請するわ。
[支援オペレーター] 本気ですか? 前線のオペレーターは大変ですよ?
[オーキッド] ええ、やってみたいの。
[支援オペレーター] そうですか、わかりました。
[オーキッド] (今さらデスクワークが嫌だったから前線を選んだなんて、口が裂けても言えないわね。)
[オーキッド] ……振り返ってみれば、なんとなくで前線のオペレーターになったわね。
[支援オペレーター] ああ……私たちのことをあまり知らない方だと、そういった状況になることもあるかと思います。
[オーキッド] そ、そうなの……
[支援オペレーター] ですが、あなたのような場合の救済措置があったはずです。規定を見てみますね……
[支援オペレーター] あ、やっぱり。こちらの項に書いてあります。
[支援オペレーター] 「民間出身の戦闘オペレーターは、本人が前線業務の継続が困難だと判断した場合、戦闘オペレーターに従事してから一年以内に後方支援部への異動を申請することで、無条件に異動が認められる。」
[支援オペレーター] オーキッドさんには、こちらの条項が適用されます。と言うより、元サルゴン軍人のスポットさんを除いて、A6の皆さんには全員適用されるはずです。
[支援オペレーター] そのスポットさんであっても、少しの審査を行うだけで異動が認められるはずですよ。ロドスはその方面に関してはかなり融通が利きますから。
[オーキッド] そうなの、そんなことは考えたことなかったわ。
[支援オペレーター] それにご存知かと思いますが、私たち後方支援部は様々な面からロドス全体を支える大切な役割を担っています。やりがいは十分ですよ。
[オーキッド] ええ、知ってるわ。ありがとう、考えておくわね。
[ポプカル] オーキッドお姉さん、まだ?
[オーキッド] もうすぐよ。
[ポプカル] わかった~。
[支援オペレーター] あれ、ポプカルちゃんですね、あなたを待ってるんですか?
[オーキッド] ええ。通路でばったり会って、付いてきたの。
[支援オペレーター] そういえば、たしか先月仰ってましたね。あの子との二人部屋を申請されたんですって?
[オーキッド] ええ。安心できない手のかかる子だから……。一体誰があんなに小さな子供を戦わせようなんて考えたのかしらね。
[オーキッド] チームの他の人たちは、頼りないか、あの子よりも心配なのしかいないから、こうするしかないのよ。
[ポプカル] オーキッドお姉さん、まだ?
[オーキッド] 今行くわ。じゃあ私はこれで。
[支援オペレーター] 先程お話したことは忘れないでくださいね。良いお返事を期待してます。
[オーキッド] ええ。
[オーキッド] はぁ……なんだか笑えてくるわね。オフィスでのデスクワーク生活に嫌気が差して戦うことを選んだのに、そこへの逆戻りを考えてるなんて。
[オーキッド] まさか私の一生は社畜で終わるのかしら……
[ポプカル] オーキッドお姉さん、社畜ってなあに?
[オーキッド] 社畜ってのは毎日オフィスで八時間缶詰にされて、ずっと機械みたいな単純労働を課せられて、終業時間になっても帰れるとは限らない悲惨な職業よ。
[ポプカル] うーん……わかんない。
[オーキッド] そういえばポプカル、あなたはどうしてロドスに来たの?
[ポプカル] えっと、ケルシー先生とアンセル先生に買われてきたの。
[オーキッド] えっ? 買われて?
[ポプカル] うん、ポプカルは昔、伐採場で働いてたの。
[ポプカル] でもある日、アンセル先生とケルシー先生が通りがかって、ポプカルとたくさん遊んでくれたの。
[ポプカル] 次の日、よくわからないけど、ポプカルはケルシー先生に買われることになったんだ。
[オーキッド] 伐採場!?
[ポプカル] うん。ポプカルはすごく小さい頃に、パパとママに連れられて伐採場に行ったの。あそこのおじさんは時々すごく怖かったけど、ご飯を食べさせてくれたよ……
[オーキッド] それからパパとママに会ったことはある?
[ポプカル] ううん、ないよ……伐採場のおじさんは、パパもママもすごい遠いところに行っちゃったから、もうポプカルに会いに来れないけど、我慢しなさいって言ってた。
[ポプカル] アンセル先生は、ポプカルがお利口にしてたらロドスがパパとママを探してくれて、いつかまた会えるかもしれないって言ってたよ!
[ポプカル] ええっ、オーキッドお姉さん、どうして急にポプカルをぎゅーってするの?
[オーキッド] ……ううん、何でもないわ。ただ急にこうしたくなっただけ。
[オーキッド] ポプカル、あなたはさっきのお兄さんやお姉さんたちみたいに、動き回らずに、座りながらできる仕事がしたいって思う?
[ポプカル] うーん、アンセル先生にも聞かれたよ。でもそういうのはポプカルにはわかんない。ポプカルはちょっと力が強いだけだから。
[ポプカル] でもでも、ポプカルはちゃんと授業に行って字の勉強をしてるよ。全部覚えたら、オーキッドお姉さんみたいにあのお兄さんやお姉さんたちのお手伝いができるよ!
[オーキッド] ……そう。
[ポプカル] うん! ……オーキッドお姉さん、どうしたの。すごく悲しい顔してるよ。ポプカル、何か悪いこと言った?
[オーキッド] 違うわ、あなたが悪いんじゃないの。私が悪かった、こんなこと聞くべきじゃなかったわ。
[ポプカル] オーキッドお姉さんはいつもポプカルに優しいから、どんなことを聞いてもいいよ。
[オーキッド] うん、うん。
[カタパルト] オーキッドの姉さん、通路のど真ん中でポプカルを抱きしめちゃってどうしたの? 変なの。
[オーキッド] ……コホン、なんでもないわ。
[ポプカル] カタパルトお姉さん、こんばんは!
[カタパルト] おっ、こんばんは、ポプカル。
[カタパルト] 部屋に戻るのかい?
[オーキッド] ええ……それよりあなたは全身汗まみれだけどどうしたの。また何かやらかして逃げてるわけじゃないでしょうね?
[カタパルト] あー、そんな人聞きの悪いこと言わないでよ姉さん。あたしにそんな暇があるわけないじゃないか。今やっとミッドナイトに解放されたんだから。
[オーキッド] ……?
[カタパルト] あれ、姉さんは知らないの? 任務がある時以外、ミッドナイトはいつもこの時間に訓練場でトレーニングしてるんだよ。
[カタパルト] あたしが今日やることないって暇そうにしてたら、練習相手にって捕まってさ、さっきやーっと解放されたってわけ。スポットはきっとまだあいつに付き合ってるだろうね。
[オーキッド] どうしてトレーニングなんか?
[カタパルト] あたしが知ったこっちゃないよ。姉さんなら知ってると思ったんだけどねぇ。ったく、次からはこの時間にあいつを見かけたら逃げることにするよ。
[ポプカル] ポプカルも前ミッドナイトお兄さんに誘われたよ! でもポプカルがお兄さんを吹き飛ばしたら、もう誘ってくれなくなっちゃった。
[カタパルト] ……プハハハハ、そんなことがあったの。あいつになんでポプカルを誘わないか聞いたらすぐに話題を変えたのは、そういうことだったんだねえ。アハハハハ、あーおかし、三日は笑えるよ!
[オーキッド] ……まぁ、あなたが問題を起こしてなければそれでいいわ。
[カタパルト] 姉さん、それは偏見ってやつだよ! ポプカルだっていつもやらかしてるってのにあたしにだけそんなこと言ってさー。なんでポプカルにはそんなに甘いの!
[オーキッド] あなたもこの子のように毎回自分で素直に謝りに行くなら、あなたにだって優しくするわ。
[カタパルト] そりゃできない相談だよー。問題を起こして結局謝るんなら、問題を起こす意味がないからね!
[オーキッド] じゃあ問題を起こさなきゃいいじゃない!
[オーキッド] ほんっとに……あなたみたいに自由な子を許してくれるのはロドスぐらいよ。もし他のところで同じようにしてたら、もうとっくに……いいえ、なんでもないわ。
[カタパルト] あーもう、回りくどいね! 姉さん、言いたいことははっきり言えばいいじゃないか。他のところじゃあたしみたいな奴は認められないって。でもあたしだってお利口になんてできないよ。
[カタパルト] だけどロドスは、こんなあたしを引き取ってくれた。ここじゃみんな話がわかるし、すごい人ばっかりだし、ちゃんと働けば給料だってもらえる。あたしったらもうここが大好きだよ。
[オーキッド] はぁ、あなたには敵わないわ、好きならいいんじゃない。
[オーキッド] とにかく、さっさと部屋に戻ってシャワーでも浴びて。女の子なんだから、汗だくで歩き回らないようにね。
[カタパルト] はいよ~。
[カタパルト] んー、姉さん、そっちは部屋の方向じゃないよ。
[オーキッド] 訓練場を見てくるわ。
[カタパルト] ふーん。ポプカル、今夜あたしの部屋に遊びに来なよ、絵本でも読んだげるからさ!
[ポプカル] わかった~。
訓練室
[スポット] ミッドナイト、メシ食ってないんじゃないか。力が出てないぞ。
[ミッドナイト] 俺の剣術は、速さと意外性で相手を翻弄するタイプだからね。
[スポット] はいはい、言ってろ。
[ミッドナイト] もらった!
[スポット] 残念、ちーと遅い。でも悪くない一撃だったな、どうやらメシは十分に食ってたみたいだ。
[オーキッド] ……
[ポプカル] わぁ! ミッドナイトお兄さんが本当にスポットお兄さんと対戦してる。
[ポプカル] ポプカルが止めてあげ……
[オーキッド] 終わるまで待ちましょう。
[ポプカル] うん……
[ミッドナイト] すぅー、はぁ……水を取ってもらえるかな。
[スポット] ほら。
[ミッドナイト] ……ふぅ、ありがとう。
[ミッドナイト] さすが軍人の家庭出身だ、普段はやる気なさそうにしていても、俺よりもずっとすごい。
[スポット] ハハ、そりゃどーも。でもあんたは少しは自分を誇ってもいいと思うぞ。もしあんたがこれまで培った基礎がなければ、俺は漫画でも読みながら相手にしてただろうからな。
[ミッドナイト] 俺はそんなに弱いかい?
[スポット] あんたを傷つけない言い方がないか考えさせてくれ。
[ミッドナイト] ……この話はよそうか。
[スポット] でもあんたの実力に関してはちょっと気になってる。あんた、前はホストだったんだろ。
[スポット] その割に基礎がしっかりできてる。数年は訓練しないと身につかないレベルで。
[スポット] 軍人の基準で言うとなんてことないが、一般人の中ではできる方だと思う。
[ミッドナイト] これは、褒められていると受け取っていいかな?
[スポット] チームの中で一番浮ついたやつにも、実はいいところがあったって事実を、俺自身に言い聞かせて納得させてるだけさ。
[ミッドナイト] ハハ、実は……
[ポプカル] ミッドナイトお兄さん、スポットお兄さん!
[ミッドナイト] おや?
[スポット] ポプカルに、オーキッドも来たのか。あんた終わったな。
[ミッドナイト] どうしてだい?
[スポット] 知らん。だけど俺のおふくろが俺を目障りそうに見てる時はいつもあんな顔だった。
[ミッドナイト] フフッ、それは君の思い違いさ。これから女性との接し方ってやつをレクチャーしてあげよう。
[スポット] ひゅう。
[ミッドナイト] こんばんは、ポプカルさん、オーキッドさん。
[オーキッド] ここで何しているの?
[ミッドナイト] 見た通りトレーニングをしているのさ。毎日ね。
[オーキッド] なんで私は知らなかったのかしら?
[ミッドナイト] オーキッドさんはこういうことには興味がないと思って、伝えてないだけさ。それにこれはあくまで俺の個人的な時間の使い方だからね、違うかい?
[オーキッド] ……その通りね。
[オーキッド] ドーベルマン教官も明言してたけど、私たちみたいな民間人のチームは、危険な任務には行かないでしょ。トレーニングして何の意味があるの?
[ミッドナイト] おっと、そうきたか。うん、良い質問だね、オーキッドさん。
[オーキッド] ……?
[ミッドナイト] 少し休もうか、スポット。
[スポット] ふわ~あ……あんたの好きにすればいい。俺はただの付き添いだからな。部屋から漫画取ってくるわ。
[ミッドナイト] さて、オーキッドさん、俺たちの業界における成功の秘訣は何かわかるかな?
[オーキッド] 何言ってるの。
[ミッドナイト] 話し始めの口上さ、別に答えなくても話は続くよ。
[オーキッド] 顔が整っていて、口が上手ければいいんじゃないの?
[ミッドナイト] いやいや、まぁ俺が相当な美形ってことは認めるし、褒め上手な自覚もあるけどさ……
[スポット] オエッ。
[ポプカル] スポットお兄さん、どうしたの?
[スポット] なんでもない。人の新たな可能性を目の当たりにしただけだ。
[ミッドナイト] フフッ、自信はとても大切なものだよ。でも、一番大切なのは、どのお客様にも同じように接することさ。
[ミッドナイト] もっと正確に言うと――俺の店に訪れて、俺の隣に座ったなら、それがどこの誰であれ、ただの「お客様」になるのさ。
[オーキッド] ……それとさっきの話に何の関係があるの? まさかあなたにとっては、誰だってみんな同じって言いたいの?
[ミッドナイト] いやいや。隊長様、あなたは頭のいい人だけど、こういうことを考えたことがないんだね。
[ミッドナイト] 「俺にとっては」じゃなくて、事実としてそうなのさ。
[ミッドナイト] キャリアウーマンで鉄仮面なんて呼ばれる部長だって、仕事のために仮面を付けて長く過ごすうちに、外し方がわからなくなっているだけかもしれない。
[ミッドナイト] 家庭円満に見える主婦だって、夫に浮気されて一人で留守番しながらも、それを誰にも言えなくて、俺のところに酔いに来てるのかもしれない。
[ミッドナイト] せっかちで、いつもぶすっとしてる気の強そうなファッションデザイナーだって、内心では人に嫌われて信頼を失うのが怖くて、ビクビクしているかもしれない。
[オーキッド] あなた、喧嘩を売ってるの?
[ミッドナイト] ハハ、君のことだなんて俺は一言も言ってないよ? そういう人たちはどこにだっているよ。
[ミッドナイト] 君や俺がいたような都市の人たちは、自らの立場や責任を取っ払ってしまえば、みんな同じなんだ。
[ミッドナイト] じゃあ、ロドスはどうだろう、何か違いがあると思うかい?
[ミッドナイト] 危険なエリアに出入りするエリートオペレーターは、戦場から戻ったら、ロボットが電源を抜かれたみたいに停止するのかな?
[ミッドナイト] 違うだろう? 彼らはバーで飲みながらおしゃべりして、温室で植えたばかりの植物の世話をし、音楽を聴いて、本を読む。
[ミッドナイト] 任務が大変過ぎるって文句を言う人もいれば、簡単過ぎるって皮肉る人だっている。泣くことも、笑うことも、苦しむことも、痛みを感じることも、怪我することも、死んでしまうことだってある。
[ミッドナイト] 彼らと俺たちには何の違いだってないんだ。そうだろう?
[オーキッド] ……あなた、演説の才能があるみたいね。
[ミッドナイト] お褒めに預かり光栄です。
[オーキッド] ……うーん、あなたの言ったことが間違ってるとは言わないけど、私はただ実感が湧かないの。
[ミッドナイト] 実感が湧かないのはしょうがないよ。俺はまだいいほうだけど、ホスト業界で俺くらいのレベルまでやっていると、グレーゾーンに触れざるを得ないことだってある。
[ミッドナイト] でもオーキッドさんは違う。君は本当に陽のあたる場所で成長してきた人だから。
[ミッドナイト] 君にとって一番の悩みは給料が低いとか、肌の調子が悪いとか、通勤ラッシュの混雑とか、そういうことだったのかもしれない。
[ミッドナイト] そんな君からすれば、暴力と生臭い血で染まった今の環境は、まったく別の新世界に見えて当然さ。
[ミッドナイト] でも君はロドスに来て、ここに残ることを選んだ。そしたら少なくとも、その新世界を理解しようとしてみてもいいんじゃないかな? 過去の常識で自分を縛り付けるんじゃなくてね。
[オーキッド] 過去の常識……
[ミッドナイト] もちろん、俺にそんな資格があろうとなかろうと、君に説教を垂れるつもりはないよ。だってそんなことは、ロドスの「ファッションマスター」であるオーキッドさんにわからないはずはないからね。
[オーキッド] チッ、あなたにまで知られてたのね。
[ミッドナイト] 俺は色んな先輩オペレーターともお喋りしてるからね。先輩たちからは面白いニュースをたくさん仕入れてるよ。
[オーキッド] あなたはもうほかの人たちとそんなに仲良くなったの?
[ミッドナイト] 相手が誰であれ、俺の言葉を理解できる人であれば、すぐに仲良くなれるからね。これは東夜の魔王の「特殊能力」ってやつさ。
[オーキッド] はいはい、そうですね。
[ミッドナイト] まぁつまり、君に服のデザインを頼んだり、流行りのコーディネートについて訊ねたりする彼らが、果たして俺たちと同じ普通の人なのかどうかってことだよ。君ならハッキリと分かっているだろう?
[オーキッド] ……
[ミッドナイト] そうだ、スポット。さっき俺に、ホスト時代にどうして剣術の訓練をしていたか聞いたよね?
[スポット] ああ? ああ、そうだったな、忘れてた。
[ミッドナイト] そんなつれないこと言わないでくれよ。ちょっと長い話になるから場所を変えて話そう。俺がおごるから、食堂に行こうか。
[スポット] 面倒臭そうだから遠慮していいか? 俺はもうそんなこと気にしてないし。
[ミッドナイト] フフ、ダメだ。
[スポット] チッ、ミスったな。途中で帰れば良かった。
[ミッドナイト] 俺がおごるとは言ったけど、君たちは本当に少しも遠慮しないんだね……
[スポット] そんな必要あったか?
[ポプカル] もぐもぐ……これ美味しい! オーキッドお姉さんは食べないの?
[オーキッド] 夕食の後は何も食べないの。
[ミッドナイト] 本当に現代女性の鑑だなぁ。
[オーキッド] ……
[ミッドナイト] コホン、では本題といこうか。
[ミッドナイト] まず、不躾な質問だけど、オーキッドさんはどうやって鉱石病に感染したのかな? もちろん、言いたくなければ言わなくていいよ。
[オーキッド] ……何も特別なことはないわ。ある日急に身体に結晶が生えてきて初めて気付いたの。
[オーキッド] 医療部の人は、恐らく気づかないうちに源石製品か何かに触れたんだろうって言ってたけど、特に心当たりはなかったわ。
[オーキッド] そんなところよ。
[ミッドナイト] ああ、そうだったのか。どうりでさっきみたいな疑問が生まれるわけだ。
[ミッドナイト] じゃあ、今度は俺の話をしよう。
[ミッドナイト] 俺には昔、一人の後輩がいた。
[ミッドナイト] 彼は俺とは全く逆のタイプだった。明るくて、素直で、天性の人たらしって感じのね。
[ミッドナイト] もちろん、あの業界で働くような人に、根っから天真爛漫で素直な人なんていないんだけどね。だけど、俺が人を悪い方に考えて疑うようなタイプなら、彼は人を信じようとするタイプだった。
[スポット] 俺の嫌いそうなタイプだな。
[ミッドナイト] つまり、スポットは遠回しに、俺のような性格が好きって言っているのかな?
[スポット] ……なぁオーキッド、ナルシストに効く薬はないのか?
[オーキッド] 今度医療部に聞いてみるわ。まだ助かるかもしれない。
[ミッドナイト] フフ、さっきの話に戻るけど、俺の隣に来たならそれが誰であってもただの「お客様」になる。つまり俺は、相手の身分や地位、考え方によってやり方を変えないということさ。
[ミッドナイト] 俺は意識してそうやっていたんだけど、彼は無意識にそれができていた。まぁ一つの才能と言えるだろうね。
[ミッドナイト] それを知った時、あの業界の逸材である俺には分かった、彼は俺を超える存在になると。
[ポプカル] その人はミッドナイトお兄さんを超えたの?
[オーキッド] ……そう簡単じゃないと思うわ。
[ポプカル] えっ?
[ミッドナイト] ……そうだね、そうだったらよかったんだけど。
[ミッドナイト] 今思い返してみれば、俺が彼を蹴落としたようなものさ。彼の家庭環境はお世辞にもいいとは言えなくてね。彼は金を渇望していた。そして俺は彼からすると、眩しすぎたんだ。
[ミッドナイト] もし俺がいなければ、彼は自身の能力を頼りにうまくやっていけたはずさ。でも俺の存在が、彼に道を踏み外させてしまった。
[ミッドナイト] 俺はもっと早いうちに、どうやって自分の立ち位置を確立して、お金とどう向き合って、他人の考え方にどうやって順応するかを彼に教えるべきだったんだ。
[ミッドナイト] もしそれができていれば、最後に刃を向け合う結果にはならなかったかもしれない。
[オーキッド] 彼はあなたに嫉妬して、あなたはそれに気付かなかった……ということ?
[ミッドナイト] ……彼はうまく平静を装っていたからね。あるいは彼自身も、自分が変わったことに気付いていなかったのかもしれない。
[ミッドナイト] 当時俺は、人間性というものを熟知してると思っていた。でも初めて彼に殺されそうになった時、やっと気付いたんだ。俺が熟知してると思っていたのは、あくまで人の一部分に過ぎないってことに。
[スポット] いや、人間性云々よりも、あんたの人が良すぎたってだけじゃないのか。後輩の才能を讃えて、自分が憎しみを向けられてることなんて考えもしなかったんだろ。
[オーキッド] あなたが後輩を立てるような人だとは思ってもみなかったけど。
[ポプカル] ミッドナイトお兄さんはすごくいい人だよ。ポプカル知ってるよ!
[ミッドナイト] ありがとう、ポプカルさん。
[スポット] 「初めて」ってことは、次もあったのか?
[ミッドナイト] その通り。
[ミッドナイト] 初めての時は、ほんのもう少しで殺されていた。
[ミッドナイト] でも俺は生き延びて、彼には軽い制裁を下した程度だった。
[スポット] 5龍門幣賭ける、あんたは情に流されたんだろ。
[ミッドナイト] いや、俺は考えたことなかったのさ。
[ミッドナイト] 自分が生きる世界にそれほどの悪意が……血生臭い現実があるってことをね。あの時の俺はオーキッドさんと同じだった。
[ミッドナイト] 俺は、彼を業界から締め出しただけだった。剣術の特訓はその時から始めたのさ。それで十分だと思っていた。……そう、十分だと心の底から思っていたんだ。
[ミッドナイト] ……ある日、突然身体に異常をきたすまでは。
[オーキッド] あなたの鉱石病は……
[ミッドナイト] 彼は俺のマネージャーを買収して、俺が気付かない方法で鉱石病を感染させたのさ。
[ミッドナイト] しかもその後、彼が俺の前に姿を現したときには、彼自身も感染者になっていて、さらにたくさん「お友達」たちを従えてた。
[ミッドナイト] 恨みつらみはたくさん見てきたから、よく理解してると思っていたんだけどね。全然だった。俺は彼に殺意を向けられて初めて、それがあんなにも強烈な感情だと知ったんだ。
[スポット] でも勝ったんだろ。
[ミッドナイト] ああ、俺の剣術はスポットからすればまだまだかもしれないけど、十数人のチンピラくらいなら、命をほんの半分ほど賭ければなんとかなるからね。
[ミッドナイト] そしてあの時、俺はこの手で……
[ポプカル] うううううわああああああああん!
[オーキッド] どうしたの、ポプカル?
[ポプカル] ミッドナイトお兄さん、かわいそう。ぐすん……
[ミッドナイト] 泣かないで、ポプカルさん。
[ミッドナイト] 実のところ、俺は彼に感謝すべきだと思ってるんだ。俺の未熟さを悟らせてくれたからね。
[ミッドナイト] その後、色んなツテをたどってロドスに関する理解を深めて、俺は業界を離れる決心をした。そして極東の拠点で登録を済ませた後、遠路遥々ここまでやってきたというわけさ。
[ミッドナイト] その道すがら、たくさんのものを見て、たくさんのことを考えた。ロドスに来てからは、とあることに対する理解もさらに深まった。
[オーキッド] 私を見つめて何のつもり。
[ミッドナイト] ここからは俺個人の考えだ、オーキッドさん。
[ミッドナイト] 俺は、この世界の残酷な真実を目にしたからには、それを受け止めるべきだなんて言うつもりは、決してない。
[ミッドナイト] 俺たちの立場から見れば、ロドスのオペレーターの大半は、経験する必要のない苦しみを味わってきたように思えるだろう。それは普通のことさ。
[ミッドナイト] 一方で俺たちは、自分たちがいわゆる温室暮らしだってことを卑屈に思う必要なんてないんだ。とは言え、それを言い訳に、新しい生活を拒むのも違う。
[ミッドナイト] だって、考えてもごらんよ。
[ミッドナイト] 俺たちが元々暮らしていたところは、頑張って働いて初めてお金が手に入り、欲しいものを買えるようになる。ここの生活だって同じさ。ただその手段が変わっただけで。
[ミッドナイト] もちろん俺たちは、後方支援部に入ることを選んでもいい。どこで努力するのも違いはないからね。ただ俺は、戦いの道を選んだだけさ。
[オーキッド] ……死ぬのが怖くないの?
[ミッドナイト] きっと誰だって怖いさ。
[ミッドナイト] でもオーキッドさん、君もここに来て気付いただろう。俺たちはこれから、何かを守るために仕方なく戦う可能性だってあるんだ。
[ミッドナイト] ここでカッコよく「俺はオーキッドさんを守るために強くなった」なんて言えば高得点を貰えるかもしれないけど、これに関してだけは、オーキッドさんにもよく考えてほしいんだ――
[ミッドナイト] ロドスで、どんな生活を送りたいかを。
[オーキッド] ……わかったわ。
[ポプカル] うーん、わからない……
[スポット] わからなくていいさ。ポプカルには一生無縁の悩みだからな。そんなことよりもっとたくさん食べろ。俺の分も食べていいから。
[ポプカル] わぁ、ありがとうスポットお兄さん!
[ミッドナイト] フフ、確かにスポットが言う通りさ。ポプカルさんはこんなことを考えなくたっていい。
[ミッドナイト] 俺のおせっかいを許してほしい、オーキッドさん。君が質問したことは、俺自身ロドスに来てからいつも自分に問いかけている問題でもある。だから思うことも多くてね。
[オーキッド] ……ええ、ありがとう。
[ミッドナイト] おや、これはどうした、奇跡でも起きたのかな! オーキッドさんが俺に感謝するだなんて。スポット君、ポプカルちゃん、君たちが俺の幸福の星だ!
[オーキッド] またくだらないことを。ポプカル、そろそろ戻って寝ましょう。明日も早起きだから。
[ポプカル] え、もうお話聞かないの?
[オーキッド] ええ、もうこれ以上聞くべき話もないでしょうし。
[ポプカル] うん……わかったよ。スポットお兄さん、ミッドナイトお兄さん、おやすみなさい。
[スポット] おやすみ。
[ミッドナイト] 良い夢を、美しいお嬢さんたち。
[スポット] とは言ったものの、あんたは俺たちが二人目の「後輩」になったらなんて思わないのか?
[ミッドナイト] フフ、自慢になってしまうが、俺の人を見る目に関しては、昔よりもずっと自信があるんだ。
[スポット] へぇ。
[ミッドナイト] それに俺たちはこれから同じチームのメンバーだからね。いつでもこうやって互いを理解し合える。「後輩」にはなりえないさ。
[スポット] はいはい。でもまさかあんたが、そんな風にあれこれ考えてるなんて思わなかったな。
[ミッドナイト] 一度しっかり考え抜いてこそ、その後は頭を悩ませなくてよくなるというものだろう?
[スポット] 珍しく意見が合ったな。そういえば、女性との接し方をレクチャーするって言ってたけど、さっき何かレクチャーしてたか?
[ミッドナイト] もちろん。一番大切なことを教えたじゃないか――女性には嘘をつかないということをね。
[スポット] それの何が難しいんだ?
[ミッドナイト] 簡単なことだからこそ、重要なのさ。
[ポプカル] オーキッドお姉さん、部屋に戻ってからカタパルトお姉さんのところに行って、絵本を読んでもらってもいい?
[オーキッド] ミッドナイトの話が長くて遅くなっちゃったから、今日はダメよ。
[ポプカル] そっかぁ……残念だなぁ。
[ポプカル] でもオーキッドお姉さんが嬉しそうなのは、ポプカルも嬉しい。
[オーキッド] あら? 私はさっきまで機嫌が悪そうに見えた?
[ポプカル] うーん、よくわからないけど、あのお部屋から出てきた時はちょっと機嫌が悪そうだったよ。でも今はもう大丈夫。
[オーキッド] そうだったかしら……そうだったかもしれないわね。
[オーキッド] ありがとうね、ポプカル。
[ポプカル] ポプカルは何もしてないよ?
[オーキッド] フフッ、あなたが気付いてないだけよ。
[???] あの、すみません、オーキッドさんですか?
[オーキッド] えっ? あなたは……
[ソラ] 私はペンギン急便のソラといいます。あの、オーキッドさんが流行りのファッションと裁縫に詳しいって聞いて飛んできました。少しお時間いただいてもいいですか!
p.m. 06:23 ロドス艦内
[支援オペレーターA] やっぱり戦闘オペレーターを続けられるんですね。わかりました。残念ではありますが、オーキッドさんご自身が決めたことですし、その考えを尊重します。
[オーキッド] ええ……私には向かない仕事かもしれないけど、貴重な経験だし、もう少し頑張ってみようと思って。
[支援オペレーターA] そう言われるとそうですね、毎日デスクワークというのもつまらないですから……自分も異動申請を出してみようかな。
[支援オペレーターB] 止めとけって。きっとドーベルマン教官の新人訓練ですら突破できないから。
[支援オペレーターA] あ、確かに……噂によるとかなり厳しいそうですね。そんな訓練に耐え抜くなんて、オーキッドさんはすごいです。
[オーキッド] 慣れてしまえば大したことないわ……じゃあ今日はこの辺にしておくわね。
[支援オペレーターA] いつもより早いですね。
[オーキッド] ええ、ちょっと用事があってね。
[支援オペレーターA] わかりました、ではまた明日。
[オーキッド] また明日。
[オーキッド] イタタ……全くもう、自分の身体がこれほどトレーニング不足だなんて……初めて知ったわ。
[オーキッド] 支援部の資料清書を手伝うどころか、手も上がらないわ。
[オーキッド] はぁ、自業自得ね。
[カタパルト] オーキッドの姉さん!!! 丁度よかった、探しに行こうと思ってたところだよ!
[オーキッド] ……どうしたの、ポプカルがまた何か壊した?
[カタパルト] それは大丈夫。ミッドナイトの奴が何を思ったか、ポプカルと訓練するって言い出したんだよ、その勇姿を見届けてあげないと!
[オーキッド] ……そうね。どっちにしろ今日はもう何かする気力もないしね。
[カタパルト] 姉さん、どうして最近になって急に新しいトレーニングコースへの参加申請なんて出したのさ、姉さんらしくないというか。
[オーキッド] ただ気持ちを入れ替えてみただけよ。
[カタパルト] そう? じゃああたしが肩のマッサージをしたげるよ!
[オーキッド] 急にご機嫌取りなんて怪しいわね。何をやらかしたの、言ってみなさい。
[カタパルト] ちょっと、何もやってないって!
[オーキッド] 本当に? まあ、今回だけは信じてあげるわ。
[カタパルト] ……
[オーキッド] どうかした?
[カタパルト] 最近姉さんがちょっと変わった気がしてさ。
[オーキッド] そう?
[カタパルト] うん……何て言うか、うまく言えないけど、なーんかそんな気がして……
[オーキッド] ……まぁいいわ、それよりミッドナイトがボコボコにされるのを見に行くんじゃないの?
[カタパルト] そうだったね、じゃあさっさと行こう!
[オーキッド] まったく。
[オーキッド] 本当に自業自得ね。
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