aklib_story_空想の花庭_HE-8_主に従い行くは_戦闘前

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空想の花庭_HE-8_主に従い行くは_戦闘前

フェデリコはあらゆるタスクを優先度順に振り分ける。今最も優先すべきは、目の前にいるアルトリアを捕えることではない。


[修道院司教] すべての手はずは整った。住民たちは朝会の場でそれを……最後の聖餐を口にすることになるだろう。

[修道院司教] あなたのチェロの音は……私を哀れんでいるのか? それともそれは祝賀かね?

[修道院司教] アルトリア、私には音楽は分からない。あなたのことが理解できないのと同じように。

[修道院司教] 目の前のあなたに対し共感を試みても、まるで一面の空白のようにしか感じられないのだ。

[アルトリア] 私は自分の思うがまま、自由に演奏しているだけです。私の音楽は単なる鏡に過ぎません。

[修道院司教] 鏡か……ふっ。

皿を持った老齢の司教の両手は、チェロの音の中で震えていた。

その姿はまるで、暗闇の中にたゆたうチェロの音色と力比べをしながら、演奏が終わるのを待っているかのようだった。

遥か昔、修道院に音楽が響いていた頃、彼はまだ若かった。噴水に映る自らの姿に白髪の一本も見あたらぬほどに。

この移動する沃土に誘われた荒野の羽獣が、パイプオルガンの調べの響く中、羽を広げて広場の上空を飛んでゆく。年老いた司教は、この修道院を最も若き修道士──ステファノに託すことに決めた。

「皆を楽園の中で過ごさせてあげなさい。」

一体どうすれば、人々を楽園で過ごさせることができるのか?

今、数多の年月を経た司教トレグロッサは、目を閉じる。

チェロの音色は、ずっと、ずっと、こだまし続けている。そして──

彼はふっ、と手を緩めた。

[アルトリア] ……ああ。

[アルトリア] なんて痛ましいのでしょう。それがあなたの選択なのですね。

[フェデリコ] ……

ぴたりと閉じられた礼拝堂の扉の向こうから、かすかな話し声が聞こえてくる。

フェデリコは無人のホール内に立ってしばしそれに耳を傾けた後、身を翻して階段を上がった。

[フェデリコ] ……装備は問題なし。

[フェデリコ] 現時点での損失は通信機一つだけ。

[フェデリコ] 目下、ターゲットに変更なし。任務の執行を継続します。

[フェデリコ] すでに容疑者は特定しました。

[オレン] 中の状況はどうなってる?

[リケーレ] 聖餐の儀式はもう終わったはずだ。

[オレン] ……俺の想像通りの状況か?

[リケーレ] 恐らくは。

[オレン] クソッ、フェデリコは?

[リケーレ] 連絡がつかない。

[オレン] ……深海教会が生み出した化け物がどんだけ厄介か、あいつは知ってんのか?

[リケーレ] 仕事ってのは誰かがやらなきゃならないもんだろ? レミュアンとスプリアは?

[オレン] お前から連絡をもらった後、地下室を調べに行った。

[リケーレ] そうか。つまり一番面倒な仕事は俺たち二人で片付けなきゃならんわけだ。

[リケーレ] 扉を開けるぞ。

[修道院司教] いずこに身を置こうとも、いかなる状況に相対しようとも、我々は互いに尊敬し合い、愛し合うべきだ──

[修道院司教] ──おはよう。聖都からの使者よ。

[オレン] ……

[リケーレ] ……皿はすでに空か。

[オレン] リケーレ、住民を全員取り押さえろ。司教の相手は俺がする。

[修道院司教] 使者よ、何か訊きたいことでもあるのかね?

[オレン] 訊きたいこと? だったら……司教が、なぜ今回を「最後の聖餐」にしなくてはならないほど思い詰めてしまわれたのか、その理由を伺いたいところですね。

[オレン] レミュアンから聞いたはずでしょう? ラテラーノに戻って報告が完了した後も、あなたはきっとこの修道院の司教を続けられるだろうと……

[修道院司教] ラテラーノの使者よ、あなた方は……何故私を問い詰めるのか?

[修道院司教] 私はすでに決断を下した。全ての者を救うという大きな望みを捨てたのだ。

[修道院司教] 修道院には食料などほとんど残っていないのだ。最後の聖餐において皆の皿が空っぽでも、仕方がないではないか。

[修道院司教] 先ほど私は皆にこう伝えた。アンブロシウス修道院をラテラーノへ返還することに同意すると。

[オレン] ……ラテラーノへの返還ですって?

[オレン] 司教はまさか、我々が深海教会の件を知らないとでも……?

[修道院司教] ……言っただろう。すでに選択を下したと。

[リケーレ] オレン、彼の言っていることは本当だ。

[リケーレ] 住民たちに変異が起きた形跡は見られない。食器も確認したが、どれも使われた痕跡すらなかった。

[修道院司教] ああ、確かに私は自らあの怪物の血肉を処理し、種無しパンの中に混ぜ込んだ。

[修道院司教] だが朝会で振舞う予定だったそのパンは、地下室の棚に鍵をかけてしまい込んである。飢えた住民が誤って口にしないようにな。

[修道院司教] アウルスもすでにここを去った。あなた方が案じているような存在が生まれることはない。

[修道院司教] 棚の鍵だ。持っていきたまえ。これで私の発言が嘘ではないことが証明されるはずだ。深海教会の贈り物の処分方法についても、あなた方の方が詳しいのではないのかね。

[リケーレ] ご協力感謝いたします。

[リケーレ] どうやら今日はこの銃を使う必要もなさそうだ……

[オレン] 残念だってんじゃねぇだろうな?

[リケーレ] そんなわけないだろ。

[リケーレ] 単に面倒事がやっと片付くってんで、ほっとしただけさ。これからの仕事は予定通りに進むはず……だよな?

[オレン] ……レミュアン、司教の話は聞いてたか? 今から鍵を持ってそっちに向かう。

[レミュアン] その必要はないわ。

[レミュアン] 棚はすでに誰かに壊されてしまってる。中はもう空っぽよ。

[レミュアン] 色褪せたナプキンに、床に散らばった皿の破片。その他細かい部分も司教の説明と一致しているわ。

[レミュアン] それに以前の記録によれば、それを食べれば二度と元には戻れないそうなの……本当に食べさせてしまったのなら、私たちに嘘をつく意味がないもの。

[スプリア] つまり、あの「聖餐」を盗んだ奴がいるってことね。

[レミュアン] すぐに探し出さないと。

[スプリア] でも、この広い修道院で人探しなんてちょっと大変すぎやしない?

[レミュアン] ……

[レミュアン] 私たち、どうやら色々と見落としていたみたいね。

[レミュアン] 例えば、ジェラルドはあのサンクタの子が堕天したことを知っていたわ。そのことが彼に与えたショックはとても大きかった。

[レミュアン] けど、私たちは堕天に関する情報を決して漏らしたりはしていないでしょう。それじゃ彼はどうやってそのことを知ったのかしら?

[レミュアン] それに、聖堂の火事は結局何だったの?

[レミュアン] 他の誰かの後押しがなければ、司教もこんな風に独断で動くことはなかったかもしれないし……

[レミュアン] そう考えると、この場所で絶望した人間というのはどうやら司教一人だけじゃなさそうよ。

[スプリア] ……確かフォルトゥナが礼拝堂へ入ってきた時、その場にもう一人いたよね。

司教はやはりそのような選択をなさいましたか……

最後にはこうなるだろうと、予想しなかったわけではありません。

司教は善良なお方だ。彼はその善良さによって、崇高な理想を胸に今まで努力してこられた。だが、それゆえに最後の最後で己の弱さに敗北した。

しかし私は彼とは違う。

私は遥か昔から、とうに希望など捨てているのです。

[アルトリア] あら? 客人がいらっしゃったわ。

[アルトリア] 少々驚いたと言わざるを得ないわね。確かにあなたにヒントは与えたけれど……

[アルトリア] あなたのその論理的思考だったら、「優先的に処理すべき事項は他にあり」って結論に至ると思っていたわ。

[フェデリコ] ……

[アルトリア] 久しぶりね、フェデリコ。五年かしら、それとも六年?

[アルトリア] あら。「無意味な発言は止めなさい、指名手配犯アルトリア」と言わないのかしら。

[アルトリア] それとも、ようやく挨拶の仕方を変える気になったのかしら?

[アルトリア] それならいっそのこと、私の家に住んでいた時のようにこう呼んでくれない? ……姉さん、って。

[フェデリコ] ……

[アルトリア] ……ふぅん? ここまで言ってもまだ怒らないのね。

[アルトリア] あなたらしくないわね。扉を開けて私を目にした瞬間に手を出さないなんて。

[アルトリア] じゃあ、あなたの様子がいつもと違う理由を当ててみるわ。

[アルトリア] 何かを待っているのかしら?

[アルトリア] それとも……ためらっているの?

[フェデリコ] ……

[アルトリア] ほら、耳を澄ましてごらんなさい。この小さな修道院が様々な音で満ちているのが分かるでしょう?

[アルトリア] 悲しみ、苦しみ、猜疑心、嫉妬……それに絶望。

[アルトリア] あらゆる音が一つに交じり合ったこの音色は、人が作ったどのような旋律よりも繊細で、心を揺さぶるわ。

[アルトリア] ああ……本当に不思議だわ。フェデリコ・ジアロ、あなたは何も感じないの? あなたのその常人とは異なる脳内で躍動する音符が存在するのかしら?

[フェデリコ] 指名手配犯アルトリア、私はすでにあなたの発言、及び行動に対する評価を終えました。

[フェデリコ] 現在、優先的に処理すべき事項は、あなたの確保ではありません。

[クレマン] フェデリコさん、礼拝堂へは向かわなかったんですね?

[クレマン] あなたや同僚の皆さんの視線は、司教に向いているものと思っておりましたが……

[フェデリコ] 一連の不可解な事件を主導したと思しき容疑者はあなたです。

[クレマン] ……そうですか。

[クレマン] 私は……そう、私は司教の選択を尊重しています。

[クレマン] 誰もが彼のことを尊敬し、敬愛している。当然ですとも。なぜなら私たちは皆、司教の庇護下にあるんですから……

[フェデリコ] ……

[クレマン] 分かりやすい話だとは思いませんか?

[クレマン] 想像してみてください。様々な理由により都市を追い出され、荒野を徘徊せざるを得なくなり、死を覚悟した時のことを……

[クレマン] 飢えに苦しみ、どれほど歩こうと目に映るのは代わり映えしない景色で、この荒野から永久に抜け出せないのではと絶望した時のことを……

[クレマン] 心の折れかけたあなたが、それでもなんとか小さな丘を越え、岩を跨ぎ、峡谷を越えた瞬間──まさにその時。

[クレマン] 砂埃の先に、なんと城のような建物が見えたんです。その中に住む人はあなたに食事を与えてくれた上、屋根の下で夜を過ごさせてくれました。

[クレマン] 食事は粗末なパンと、薄いスープしかないとしても。

[クレマン] 家の壁はヒビだらけで、常に修繕が必要だとしても……

[クレマン] 荒野で死ぬことはないんです。あなたは受け入れられたんですよ。

[フェデリコ] だからこそあなた方の一部は、ここを「楽園」と呼ぶのですね。

[クレマン] 「楽園」……ですがそれは、まやかしに過ぎません。

[クレマン] ここへ来て間もない頃、私は気づいたんです……周りにいたサルカズの友人が鉱石病にかかったあと、いつの間にか消えてしまっていることに。

[クレマン] 長い間彼女を探し続け、ようやく……ここの地下に、かつて訓練室と呼ばれていた部屋があることに気づきました。そこの壁はとても頑丈でした……

[クレマン] 重篤な末期患者はそこに送られることになっていたんです。

[フェデリコ] ……専用の防護設備でもない限り、源石粉塵の拡散を防ぐことは不可能です。

[クレマン] 他にどうしようもなかったんですよ。

[クレマン] 病気にかかった人間は、自分の死期を悟った後すぐに自ら修道院を離れ、荒野で孤独に死を待てばいいとでも?

[クレマン] 私たちにできるのは、その苦痛を見えない場所に隠し、顔を背けて耳を塞ぐことだけです……元より我々は他人を救うことなどできませんし、我々を救える者もいはしません。

[クレマン] ですが、そんなまやかしの平穏はいつか破られるものです。

[クレマン] まさしく今、あなたたちがやって来たように。

[フェデリコ] 我々の任務は、ここの秩序を維持することです。

[クレマン] もちろん、ここの生活はあなたたちによって破壊されたわけではありません。なるべくして今の様子に変わっていっただけです。

[クレマン] 花と同じだ。どれだけ心を込めて育てようと、枯れる時期になれば少しずつ変わり果てていくんです。

[フェデリコ] あなたはアルトリアの影響を受けています。

[クレマン] 彼女が奏でるチェロの音のことですか?

[クレマン] そうかもしれません。彼女のチェロを聴いていると、よくあの思い出が蘇ってきますから。

[クレマン] ですが、彼女が我々の生活に踏み入ってきたことはありません。私には分かります。彼女はただ、我々の悩みや苦しみを手慰みとして用いているだけだと……

[クレマン] そうである以上、本当に彼女が我々の意志に介入し、我々に代わって選択を行うことは不可能です。

[フェデリコ] ……危険物を検知いたしました。

[フェデリコ] この聖堂に……いや、修道院の地下全体に大量の可燃物が貯蔵されています。

[クレマン] ええ。

[クレマン] これは一つの……未来の選択肢なんです。

[クレマン] あなたたちが来ようと来まいと、この修道院の平穏な生活は終わりを迎えようとしていました。

[クレマン] 飢えと荒野をさすらうことに対する恐怖が人をどこまで追い詰めてしまうか……フェデリコさん、あなたは見たことがありますか?

[クレマン] 私は見ました。

[クレマン] 事態が取り返しのつかないところまで行き着いてしまう前に……私がすべてを終わらせます。

[フェデリコ] クレマン・デュボワ。あなたには、アンブロシウス修道院の破壊、及びこの地で起きたラテラーノ公民の権益を脅かす事件への関与の疑いがあります。

[フェデリコ] 以上の理由から、あなたをラテラーノ公証人役場の執行対象であると判断いたします。関連規定に則り、直ちに身柄を拘束させていただきます。

[クレマン] ……

フェデリコは余計な警告を発さず、ただ手に持った武器だけを言葉の代わりとした。

クレマンが倒れることはなかった。

やつれた男は感覚を失った腕を押さえながら、悲しげな笑みを浮かべた。

[フェデリコ] 着火装置の破壊を確認しました。

[クレマン] なぜ……殺さないのですか?

[クレマン] なぜわざわざ、装置の方を狙ったのです?

[フェデリコ] あなたの行為は、ラテラーノ公民の死を直接引き起こしたわけではありません。よって、法に則れば死刑判決は下されません。

[クレマン] 法ですか……私がここで暮らし始めて何年も経ちました。その間、司教の導きに耳を傾け、あなたたちの法に従ってきました。

[クレマン] 普段ならば、法が拘束力を持つことは理解できます……ですがそれは混乱の最中、我々にとって一番必要な時に、姿を消してしまうものです。

[クレマン] いつからか、私の耳に聴こえるものはアルトリアさんのチェロの音色だけになりました。

[クレマン] フェデリコさん、私を救おうとするのはラテラーノの法でしょうか……それともあなた自身でしょうか?

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