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登臨意_WB-6_瑟々たる秋の華_戦闘後
モン・ティエイーはリン・ユーシャに自分の目的を告げ、ここ数十年にわたる玉門における江湖の恩讐を語った。執念深い山海衆は再び姿を現すと、本当の天災データを奪い取ろうとするのだった。
[ワイフー] (かなり息の合った攻撃……一体あと何人がいるんだろう?)
[見た目の恐ろしい生物] (低い雄たけび)
[山海衆メンバー] ……
[ワイフー] あれ、急に逃げて行った?
[ワイフー] あの人たちは、どうしてあなたを狙っていたんですか?
[ジエユン] あなた、名前は?
[ワイフー] 槐琥(ワイ・フー)と言います。槐樹の槐に、琥珀の琥です。
[ジエユン] ワイフー……覚えた。
[ジエユン] 私はジエユン。
[ジエユン] 戻ってきたら、またあなたのとこ行く。
[ワイフー] 待って――
[ワイフー] 変な人ですね……
[ワイフー] ……
[ワイフー] まずは、あの悪党どもを捕まえるとしましょう。
老人の視線は地図上を移動し、一つの航路を描いた。
彼の動きはゆっくりとしていた。この地図のほんの小さな一区画が、実際にはどれほど広大な土地を表しているかを彼はよく知っている。
傍らの茶杯からは、とっくに湯気が消えていた。
[チョンユエ] 玉門の荒茶など、太傅は飲み慣れないと思っていた。
[太傅] ここに留まる将士と民が飲むのはこの類の茶だ。であれば、なぜわしが飲まぬというのか。
[チョンユエ] 天の候は、まだ暖に転じていない。冷たい茶は体に障るぞ。
[チョンユエ] 国については細大漏らさず目を配っているのに、自分の身体のことはぞんざいに扱うんだな。
[チョンユエ] 貴公が倒れでもしたら、残された者たちにどうしろというのだ。
[太傅] 私がいなくなれば、自ずとより優れた者が空位を埋めるだろう。非凡な才の持ち主は、いつの時代も生まれ続けるものだ。炎国は人によりて成り立つが、「人」とは特定の誰かではない。
[太傅] 流水腐らず、戸枢蝕まれず。重要なのは一人や一時代ではなく、伝承なのだ。
[太傅] 人生代代、古自り此の如し。
[チョンユエ] 「伝承」か。
[チョンユエ] 我らにとっては、理解し難い言葉だろうな。
[太傅] だが、お主はそれでも炎国にとって有用な人材を数え切れぬほど育て上げた。
[太傅] 歴代の録武官が記録した技や型は、軍の訓練教材としても残されている。軍務においては、わしでさえお主から多くの教えを受けた。
[チョンユエ] だが結局のところ、私、そして我らが、各々一芸に秀でているのも、人を師としているからだ。
チョンユエは茶杯の冷めた茶を捨て、注ぎ直した。
[太傅] 感謝する。
[チョンユエ] 私たちは、いつからこれほど他人行儀になったのだろうな。
[太傅] 往時は共に提灯を灯して語り合い、剣を筆とし国事を論じたことは、忘れられぬ。
[太傅] だが、今はもう身分が異なるのだ。
[チョンユエ] 今の言葉は、失儀だったな。
[太傅] 宗師が今日わしを訪ねてきたのは、察するに思い出話のためではあるまい。
[チョンユエ] ああ。
[チョンユエ] 別れを告げに来た。
[ユーシャ] 言伝は聞いたわ。
[モン・ティエイー] リン特使、久しぶりだな。
[ユーシャ] 前回顔を合わせたのは、ほんの二日前だったと思うけど。
[モン・ティエイー] 俺からすりゃ、ここ二日は、過去二十年よりも濃いよ。
[ユーシャ] 今思うと、一昨日あなたが手を出したのは、私を助けるためというより、あれ以上調査させないように止めるためだったのね。
[モン・ティエイー] それでもお前を助けたのは事実だろ。
[ユーシャ] ……
[モン・ティエイー] 龍門近衛局から臨時の督察が派遣されて、両都市接続時の治安維持を担当するっつーのは聞いていた。
[モン・ティエイー] 俺からすりゃ、ここ数日その督察が調査のために市場や鋳剣坊でやったことから想定される人物像と、目の前の若い嬢ちゃんが全然一致しねぇよ。
[モン・ティエイー] リン特使さんよ、あんたは初めから俺だと確信してたのか?
[ユーシャ] いいえ。
[ユーシャ] あなたがここに現れるまで、一連の出来事の首謀者があなただという確信は持っていなかったわ。せいぜい、疑わしいくらいね。
[モン・ティエイー] ただ疑わしいってだけで、あそこまで?
[ユーシャ] 嫌疑があれば十分よ。
[モン・ティエイー] そいつは大分「独特」なやり方だな。
[ユーシャ] これが私よ。なに? 「やり方が汚い」って言いたいの?
[モン・ティエイー] ……
[ユーシャ] 玉門の古株であるあなたの行いも、全てが胸を張れるものではないんじゃない。
[モン・ティエイー] リン特使の言う通りだ。だが、その「あなたの行い」っつーのは、具体的に何を指している?
[ユーシャ] 山海衆と結んで、盗賊による信使殺害事件をでっち上げ、さらに私への襲撃という茶番を演じることで、すり替えた偽の天災データを「本物に仕立て上げた」ことよ。
[ユーシャ] それと別の人間に宗師の剣を盗ませて、本命から注意を逸らせたことも。
[モン・ティエイー] 剣が盗まれたのは俺にとっても予想外だ。でなきゃ昨日の夜の出来事は起きてねぇさ……
[モン・ティエイー] しかしデータの取り替えまで見当がついているとは、リン特使は頭がキレるな。
[ユーシャ] あなたの方も、まだ多少の慈悲の心を残していたわね。信使部隊は生きているんでしょう?
[モン・ティエイー] ……
[ユーシャ] 聞いてもいいかしら――なぜなの?
[モン・ティエイー] 特使なら、きっと答えはわかってるだろ。
[ユーシャ] 平祟侯に対して恨みがあるっていうだけで、天災を招いて玉門ごと滅ぼすの?
[モン・ティエイー] 俺たちとズオ・シュアンリャオは、共に死線を潜り抜けたって程度の仲じゃねぇんだよ。「恨み」なんて言葉じゃ、あまりにも軽すぎる。
[モン・ティエイー] ズオ・シュアンリャオも、俺たちのことを軽く扱いすぎだ。
[モン・ティエイー] リン特使は、龍門人だな。
[ユーシャ] そうよ。
[モン・ティエイー] 賑やかで良い場所らしいな。残念ながらまだ行ったことはねぇが。
[モン・ティエイー] お前も見ただろ、玉門は年中砂漠を走ってる。天災の危険と常に隣り合わせの中で軍事急報を送り届け、一人で果てしない砂の海の中何日も水源を探し求める……お前にはきっと経験がねぇだろうな。
[モン・ティエイー] 辺境を守護し、国家の壁となる。こうしたことは、誰かがやらなきゃならねぇ。
[モン・ティエイー] 玉門の軍人や民間人は、ほとんどがここの生まれじゃないんだ。俺たちは故郷を離れ、玉門に根を下ろした。それを不満に思ったこともない。
[モン・ティエイー] だがズオ・シュアンリャオが忘れちゃならないことがある。玉門が炎国最固の防壁となったのは、あいつ一人の功績じゃない。どの面下げて玉門のために血を流した奴らを追い払おうとする!?
[ユーシャ] あなたは、恐らく平祟侯のことを誤解してるわね。
[モン・ティエイー] 俺の誤解だったら、なんで宗師が玉門を離れるんだ?
[ユーシャ] ……知らないわ。
[ユーシャ] 今の話を聞くと、尚更理解できないわね。なぜ、自分がこれだけ長い間守ってきた都市を滅ぼそうとするの?
[モン・ティエイー] お嬢ちゃん、今まで玉門がどれだけの天災に遭ってきたと思ってる?
[モン・ティエイー] たった一回の天災ごときで、玉門が潰れることはない。むしろ、試練を超えることで皆の心が一つになるんだ!
[ユーシャ] ……
[ユーシャ] ……そう。狂ってるのね。
倉庫の一角には、憔悴しきった二人の若者が、沈んだ表情で縮こまっていた。
[ドゥ] ダーチーとシャオチー……あんたたち……
[ドゥ] 他の人は? 守備軍と信使はどうしてるの?
[若い鏢客] さっき、鋳剣坊のモン親方に、解放されました……
[ドゥ] 無事でよかった、本当によかったわ……
[若い鏢客] お……お嬢様……
[若い鏢客] 今回の仕事、俺たち、守り切れなくて……
[若い鏢客] 状況すら分かってないんです。隊にいた鋳剣坊の奴らに突然襲われて気を失って、気が付いたらこの倉庫にいました。
[若い鏢客] あいつらは一体何を企んでいるんですか?
[ドゥ] 話すと長くなるわ。
[ドゥ] ……
[ドゥ] ほら、しゃんとしなさい! なに辛気臭い顔してんのよ!
[若い鏢客] だって、今回が俺たち行裕物流の初仕事だったってのに……
[ドゥ] 初仕事でこんな大事にぶつかるってことはね、つまりあたしたち行裕物流の将来はどでかいものになるのが決まってるのよ!
[ドゥ] めそめそしてないで、さっさと立ちなさい。ついてきて!
[チョンユエ] 剣の行方については、いくらか見当がついた。
[太傅] あなたは初めから知っていただろう。
[チョンユエ] 少しばかりの私心だ。やはり太傅の目をごまかすことはできないな。
[太傅] 人は私心を抱くものだ。
[太傅] 公務の妨げにさえならなければ、他愛ない。
[チョンユエ] この剣を誰に授けるべきか、おおよその人選は決まった。ただ最後の試練については、この目で見に行きたい。
[チョンユエ] 無論、太傅の許可が下りればの話だ。
[太傅] お主の言う別れとはこれだけのことを意味するのではないのだろう。
[チョンユエ] 前途は茫洋、今後会う機会があるとも限らん。確かにしっかりと別れを告げるべきだろう。
[チョンユエ] 玉門の旅程の終点は、都だ。そして……
[チョンユエ] ――アレも、まもなく目覚める。
老人は振り返ると、再び視線を地図へと向けた。彼はそこに、多くのものを見た。多くのことを脳裏に描いた。
彼はふと、問いを発したくなった。「太傅」であれば、本来出さぬ問いを。
[太傅] お主は、後悔を覚えるか?
[チョンユエ] 人が集えば、別れは必ず訪れる。無理を通して満足いく終わりを求めたところで、悔いがなくなるとは限らない。
[チョンユエ] ただ時折思うな。己にできることは実のところ多くないと……
[太傅] 玉門の都市は、元々千年前のあの狩りのために建てられた砦だ。
[太傅] であるから玉門の英雄とは、民間の出の豪傑でも、天賦の才を持つ不老不死の種族でも構いはしない。ただ唯一、巨獣の化身であってはならぬのだ。
[太傅] これは、司歳台が何としても守り抜かねばならぬ秘密だ。
[チョンユエ] 人というのは、全て思い通りになるものじゃない。必ず他人の理解が得られて、気を遣ってもらえるなんていうのは幻想だ……
男はゆっくりと老人のそばに歩み寄る。二人は紙の上に描かれた炎国を前に、しばし沈黙した。
[チョンユエ] 何事もなければ、玉門は半年後に都に近づく。
[チョンユエ] 地図上に示されたこれらの位置は、玉門が都に到達する前に、民を避難させる先として見込んでいる場所だ。
[太傅] 事態がそこまで進むなら、玉門は歳獣と刺し違えて滅ぶ覚悟をせねばな。これは炎国が負わねばならぬ代償だ。
[チョンユエ] 二十年前、山海衆が姿を現し騒動を起こしたとき、司歳台が後始末に駆け付ける前に、平祟侯は私を訪ねてきた。
[チョンユエ] 彼はその時からすでに気付いていた。歳獣は依然として炎国にとっての潜在的脅威であり、玉門はいずれ始まりの戦場に帰るだろうとな。
[チョンユエ] そうなると、玉門は私に頼ることも、江湖の義士たちに頼ることもできない。結果的に皆離れる。多くの者の帰る場所となったここも、恐らく跡形もなく消えるだろう。
[チョンユエ] 余人は平祟侯が薄情で忘恩の輩とうそぶくが、その行いに至った深慮を、彼が誰に話せるというのか。
[チョンユエ] 私と彼には、一人どころではない共通の友がいたのだ……
[太傅] しかし重責を担う者は、私情に囚われてはならぬ。
[チョンユエ] 二十年来の恩讐はもつれ、誤解も恨みもある。けじめが必要だ。私自ら行くべきなんだ……
[チョンユエ] だが、これは私情から出た願い。太傅にわかってほしいと言うことはできん。
[太傅] ……わしも人の情がわからぬわけではない。
[太傅] 「シュオ」はあの罪獣の一部である。しかし「チョンユエ」、炎国の民草はお主に恩がある。
[チョンユエ] つまり……
[太傅] 平祟侯の軍令は、宗師にわしの身の安全を守らせることだ。
[太傅] もし宗師が玉門の安全を守ることができるのなら、わし一人に危険が及ぶはずもないだろう。
[チョンユエ] ……感謝する。
男は身を翻すと天幕を出て、そっと扉を閉めた。
老人は屋外の方を向いて、微かに頷いた。
[チョンユエ] ウェイ殿、なぜここに……
[ウェイ] 都市内の賊を拿捕する件、私も協力しましょう。
[ウェイ] 行きがけに宗師を送ることもできますし。
辺りはいやに静かで、砂利が屋根に落ちる音がはっきりと聞こえる。
閉ざされた倉庫から外は見えないが、リン・ユーシャはいまだに屋外の物音に耳を傾けている。時間は絶え間なく過ぎ去り、遠くの天災雲がどれだけ近づいたのかはわからない。
夜に吹く風は荒々しい。
[ユーシャ] ……
[モン・ティエイー] リン特使はどうやらお時間がないらしいな。
[モン・ティエイー] 俺のような老いぼれの話に、長々付き合わせて悪かったな。あんた、ようは天災信使が持ち帰った本当のデータをまだ俺が持ってるんじゃねぇかとにらんでたんだろ。
[モン・ティエイー] ほら、持ってけ。
[ユーシャ] あなたたちの計画の要となるものでしょう。むざむざ私にくれる理由はないはずよ。
[モン・ティエイー] もう計算は済んでんだよ。ここまで時間を稼げれば、欽天監が本当のデータを手にしたところで、玉門はこの天災を避けられねぇ。
[ユーシャ] ……
[モン・ティエイー] それと言っておきたいことがある。事件のすべてが俺一人で起こしたことで、連れてかれたあの兄弟たちは本当に無実だ。リン特使にはその辺をわかってもらいてぇ。
[ユーシャ] 都市を丸ごと危険に陥れた人が、「無実」なんて概念をまだ持ち合わせてたなんてね。
[モン・ティエイー] 天災は天災、人災は人災だ。区別はつけないとな。
[ユーシャ] 私を呼び出して時間稼ぎをした目的は他にもあるんでしょう?
[モン・ティエイー] 当然だ。こんな時に、時間を無駄にするようなことはしねぇさ。
[モン・ティエイー] 元々はある友人が都市から出れるように手を貸す約束をしてたんだ。けど昨晩の鋳剣坊での件で、約束を果たせなくなったからな、せめて注意を俺にひきつけて、隙を作ろうって腹さ。
[ユーシャ] 剣を盗んだあの子のこと? 剣が盗まれたのは予想外だったと言っていたはずよね……
[モン・ティエイー] あんた、本当に頭がキレるな。
[モン・ティエイー] それもまた別の因縁さ、わざわざ話すこともないような、取るに足らないことだ。
[モン・ティエイー] 去るべき奴に行かせ、落とし前をつけるべき奴にはきっちり耳を揃えて支払わせる。それだけだ。
[ユーシャ] ……
[モン・ティエイー] リン特使、もう欲しいもんは手に入れたろ。さっさと行きな。
[モン・ティエイー] ああ、そうだ。実はもう一つ、お前が気づいていないことがあるんだけどな。
[モン・ティエイー] 俺と仇やら恨みやらがあるのは、ズオ・シュアンリャオの奴だけじゃねぇ。
[モン・ティエイー] わざわざこの時間とこの場所を選んだのは、奴らを引き寄せて、ついでに、もう一つ今の今まで残ってた因縁に片をつけるためでもある。
[ユーシャ] ……
[山海衆首領] 忍ぶのが達者だな。お前を見つけるのは容易ではなかった。
[山海衆首領] お前は約に背いた。
[モン・ティエイー] 何言ってんだ。山海衆が昨日の夜に鋳剣坊まで来たのは、俺の口封じのためだろ?
[山海衆首領] ……
[山海衆首領] 小娘が手にしたデータを奪取せよ。これは我が処理する。
[山海衆メンバー] はい。
[モン・ティエイー] それと、お前恐らく勘違いしてるぜ……
老人は腰に掛かる布を解くと、何の変哲もない漆黒のハンマーを取り出した。
彼は居並ぶ山海衆を睥睨すると、歯を噛み砕かんばかりに唸った。
[モン・ティエイー] 俺が隠れるわけないだろうが! さっさとお前らをぶっ殺してやりたくて仕方ねぇんだからよ!
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