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画中人_WR-ST-2_一日の災い
災難が去った後、婆山町では家を失った難民で溢れた。ラヴァたちも町の再建を手伝ったが、その惨状に、落ち込みを隠せなかった。その頃、普段とは違う様子の講談師がレイの元を訪れていた。レイはすぐにそれに気がつき、彼にある物語を話した。
[町民] こっちだ! もう少しこっちだ、よし!
[町民] おい、門に釘を打ってくれ。しっかり持ってろよ!
[町民] うちの子を見かけた方はいませんか? 誰かうちの末っ子を見ませんでしたか?
[町民] あ、あなたはうちの末っ子を見てませんか?
[サガ] すまぬ、拙僧は見ておらぬ……
[町民] そうですか……
[町民] ユウちゃん、ユウちゃん、どこにいっちゃったの……?
[サガ] …………
[女の子] …………
[ウユウ] よし、おじさんがアメちゃんを買ってあげよう。どうだい?
[女の子] …………
[ウユウ] それとも花火を見に連れていってあげようか?
[女の子] …………
[ウユウ] ……お母さんがいたら、あれも嫌これも嫌と駄々をこねるランちゃんは見たくないだろうねぇ。そうだろう?
[女の子] ……お――
[女の子] お母さん……お母さああん……!
[ウユウ] はぁ。泣け泣け、泣くがいいさ。心に溜め込むよりよっぽどいい。
[ラヴァ] ウユウ、この子は?
[ウユウ] ああ、恩人様……この子はランです。聞くところによると、父親は早くに出稼ぎに行き、戻ってこなくなったとか。昨日の件で母親と離れ離れになってから、今日までずっと飲まず食わずなんです。
[ラヴァ] …………
[ウユウ] 恩人様! そんな顔をしないでくださいよ。あなたとクルース嬢がいなければこの町は塗炭の苦しみに陥ってましたよ。ほら、こんなことわざがあるじゃないですか、曰く――
[ウユウ] ……はぁ。ことわざなんて何の役にも立ちませんね。
[ウユウ] 恩人様、これからどうしましょう?
[ラヴァ] ……レイと講談師を探す。
[ラヴァ] あの二人は明らかに何かを知っている。
[レイ] あら……珍しいお客様ですね。
[講談師] 私を知っているのか?
[レイ] この婆山町で婥園(しゃくえん)の主、煮傘様のことを知らない者がおりましょうか?
[レイ] あの大商人の庭園を引き継がれた講談師様……婆山町の神のようなお方ですもの。
[講談師] …………
[レイ] どうぞお座りください。
[講談師] ……お構いなく。
[レイ] もう行ってしまわれるのですか?
[講談師] …………
[レイ] 今日は何だか寡黙ですね……ですが、どうかお待ちください。
[レイ] 普段は先生が講談をなさって皆の憩いとなっています。形ばかりのお茶代だけで。
[レイ] よろしければ、今日は私が先生にお話をさせていただきましょう。お茶代もいりませんよ、いかがです?
[講談師] …………
[レイ] 今日のお話は、きっと先生が収集されている怪異小説に比べれば、とても単純なものです。
[レイ] 話は数十年前に遡ります。炎国の南東の辺境に、婆山町という町がありました……
[講談師] あなたは……
[レイ] はい?
[講談師] いや、続けてくれ。
[レイ] ええ、わかりました。
[レイ] 婆山町は平凡な町でした。百戸に満たぬ家族が、山で生計を立て、質素な暮らしを送っていました。外からはたまに、商人が立ち寄る程度で、穏やかな日々は子供たちの笑い声に包まれていました。
[レイ] しかしそんな小さな町を、ある日天災が襲いました。
[レイ] 町は壊滅こそ免れましたが、水源は活性源石に汚染されました。大人たちは付近の都市に救援を求めようとしましたが、この町にはトランスポーターがおらず、町を出た人々も皆、音信不通でした。
[レイ] 住民は仕方なくこの町を捨て、当てのない旅へ出ました――
[レイ] どこへ向かうべきか、誰も知りませんでした。それどころか彼らは一番近い都市がどこにあるかすら知らなかったのです。まるで天命に従うと言わんばかりに、彼らは一つの方向を選びました。
[レイ] 子供たちからすれば、暖かなベッド、うねうねと連なる垣根、壁のらくがき――それら全てが突然、手を伸ばせば指先も見えないほどの夜と……長い長い道に変わってしまったのです。
[レイ] その道すがら、多くの人が餓死しました。
[講談師] …………
[レイ] 一人の女の子がいました。彼女はまだ幼く、もとより貧しい家庭で苦しい生活を送っていました。
[レイ] 彼女は両親と歩きながら、仲の良かった近所の人たちがだんだんと寡黙になっていくのを感じました。
[レイ] 一緒に遊んでいたお兄ちゃんやお姉ちゃんが、カビの生えたパンの欠片のために、尖った石で躊躇なく殴り合うのを見ました。
[レイ] 彼女は、そのうち状況が好転するかもしれないと思っていました。努力もしました。木の実や小動物を探し、川で鱗獣を獲りました。
[レイ] 彼女は、鱗獣を獲ろうとして川で溺れかけたこともあります。それに飢えで何度か意識も失いました。
[レイ] 運命の悪戯か、それとも彼女の家族の思いつきか、痩せこけた少女の最後の仕事は、彼らのために口減らしとなることとなりました。
[レイ] 山で手当たり次第食べられるかどうかも分からない果実を集め、それを両手いっぱいに抱えて彼女が「家」に戻ると、そこにはもう誰一人いませんでした。
[レイ] 凍える夜、絶壁の狭間で響く獣の声が、彼女の命にはもう一銭の価値もないと告げていました。意識が朦朧とし、天と繋がったような心地がします。皮膚は死の温度を帯び始めました。そして――
[レイ] 少女は一人の人間と出会いました。一人の……奇妙な人間に。
[講談師] …………
[レイ] ええと、締めの言葉は……続きはまた次回、お話し致しましょう。
[講談師] …………
[レイ] いつもここぞというところで散々興味を引いて終わるんですよね。本当に意地が悪いわ。先生、今回聴衆としてその気持ちを味わってみたご気分はいかがですか?
[サガ] おお、女将殿。随分と探したぞ――
[サガ] ――む? 講談師殿、なぜここに? 先刻の酷い被害で、町の者は皆そなたを心配しておったぞ。
[講談師] なんでもない……ただこのあたりを歩いていただけだ。
[講談師] サガ。
[サガ] ん? なんであろう。
[講談師] ここに来てもう随分経つな。もうここまでにしたらどうだ。
[サガ] ――――
[講談師] どうしてそこまでして水面の月を掬おうとする?
[講談師] 酔いに沈む者たちの中、お前は一人醒めているというのに酔客を装うとは、なんとも好ましくない。
[サガ] そなた、講談師殿ではござらんな……つまりそなたが――
[講談師] せいぜい頑張るとよい。
[ウユウ] …………
[ウユウ] …………
[クルース] いい扇子だねぇ。
[ウユウ] おお、恩人クルース嬢じゃないですか。突然いらっしゃるなんて、どうしたんです?
[ウユウ] はぁ~。今回は皆さん、とんだ災難でしたね……でも大丈夫。私も恩人様方と一緒に庭園の再建を手伝いますよ。
[クルース] ……ウユウくん。
[クルース] もしかしたら、あなたは本当にただのトランスポーターなのかもしれないけどぉ……でも一言だけ言わせてもらうねぇ。
[クルース] 今の状況で、もしまだ私たちに隠し事を続けるなら……私たちもあなたを信用してあげられなくなるからねぇ。
[ウユウ] ……恩人様! 何を言ってるんです!?
[クルース] いい扇子だねぇ。
[ウユウ] ……見ていたんですか?
[クルース] うん。
[クルース] 炎国のカンフーは多種多様だよねぇ。私は専門家じゃないけど、あなたの腕前はなかなか……いや、かなり腕が立つ方に見えたなぁ。
[クルース] その腕を隠してるのも、きっと何か理由があるんでしょぉ? 別にそれを根掘り葉掘り訊くつもりはないけどぉ……
[クルース] ……だけど本当は助け合える力があるのに、言い訳をして逃げ回ってる態度はあんまり好きじゃないなぁ。
[クルース] それってさぁ、すっごく自己中だよねぇ?
[ウユウ] …………
[クルース] ありゃ、ちょっとキツい言い方になっちゃったねぇ。だけどあなたはランちゃんを救ったんだし、そんなに恥じ入る必要はないよぉ。
[ウユウ] ……申し訳ありません、恩人様。お二方は私を救ってくださった。本来であれば全てをさらけ出すべきなのに――
[ウユウ] 恩人様は……とっくに見破っておられたのですか?
[クルース] もちろんだよぉ。ただ必死にごまかしてるのを見て楽しんでただけだからねぇ〜。
[ウユウ] あはは……ここから抜け出せたら、お二方に詳しく説明させていただきます。
[クルース] 約束だよぉ。
[ウユウ] 恩人様……考えていたのですが。
[クルース] うん?
[ウユウ] この庭園でハッと気がつくまで、私たちはこの尋常ならざる町にどのくらい閉じ込められていたのでしょうか? 私は全く覚えがないんです……つまり――
[ウユウ] 灰斉山で扉を押し開けてから、いったいどれほどの時間が経ったのでしょう?
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