aklib_story_画中人_WR-5_拙山_戦闘前

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画中人_WR-5_拙山_戦闘前

サガはラヴァに驚くべき物語を話す。そしてレイは、どうにかしてラヴァに手がかりを暗示しようとしていた。クルースとウユウも、皆と合流したが、落ち着く暇もなく、空の色が急変した。


拙僧は幼き頃より極東のある寺で育った……とは言え、拙僧はただ住職様に引き取られただけで、本物の僧侶ではござらん。

サガという名は、山を下り俗世へと入る決意をした際に、住職様に付けてもらったのだ。

拙僧は極東を離れてから、各地を旅する志を立てた。ある日、炎国の美しき山河に心を奪われていると、幼き頃を思い起こした。誤って住職様の屋根裏部屋に入ってしまったあの日のことを――

様々な物が積み上げられた埃っぽい部屋だった。しかし珍品の数々が拙僧の童心をくすぐり、中でも一幅の大きな絵巻に強く興味を惹かれた。その絵巻の箱は、当時の拙僧の背丈よりも大きかった。

その後、偶然知ったのだが、あれは住職様が今の拙僧のように旅をした証だったのだ。その絵巻は百メートル近い長さがあったが大家の名作というわけではなかった。

当時、拙僧は住職様に何度も何度も頼み込み、ようやくその絵巻を広げてもらったのだ。

落ち葉が風に吹かれていたあの日……まだ元気だった住職様が寺の御堂で絵巻を広げてくださった――もう何年経っただろうか。今も忘れられぬ。拙僧は未だにあれほど壮麗な山河を見たことがない。

今でも分からぬのが、あの絵巻は細部まで写実的で生き生きとしたよくある「名作」とはほど遠いのに、見た瞬間にあたかもその場にいるように感じたのだ。深い秋に、夏真っ盛りの滝の躍動感を――

これはただのたとえに非ず。あの瞬間、拙僧は木々の隙間を縫う羽獣になったかの如く、正に絵の中にいるようだった。折り重なる連山、池に溢れる栗石、差し込む木漏れ日に、流れ落ちる滝の音!

しかしふと我に返ると、拙僧はただその絵巻に惹かれて、ぼおっと眺めているだけであったことに気付いた。その瞬間、夏の盛りの山河から秋深き寺に引き戻され、拙僧は身震いすらしたのだ。

絵巻は炎国の苦潭江(くたんこう)での縁がきっかけで入手したそうだ。当時、拙僧よりも若い行脚僧だった住職様だが、その日は皇帝の使いの視察にて官道が封鎖され、船で川を渡ることとなった。

多くの船と共に川を渡っていると、川沿いを下っていく一艘の船が遠くに見えた。それは、活気溢れるこの景色とは相容れないものに見えたそうだ。住職様は不思議に思いその船の後を追った。

悠々と進む船の隣に並び、船の女性を眺めると、まるで天岳へ登る前に雲霧が立ち昇る頂きを望むようだったそうだ。住職様は不注意から川に落ちそうになるが、彼女が手を差し伸べ、事なきを得た。

その美しい女性は終始無言だった。住職様と川を下り、吠山渡(はいざんと)で下船すると、灰斉山へと歩き出す。住職様は恩人に報いるために、道中の食事を作り、荷物を持ち、荊を払ってやった。

女性は眠る必要がないようだった。一方住職様は毎晩寝るたびに、今まで見なかった昔の夢を見るようになった。しかし目覚めると、頭がぼうっとしていて、おぼろげな記憶しか残っていないのだ。

それを繰り返す内に、住職様は起きている間も長い思索に耽るようになった。二人は肩を並べて歩く旅人なのに、それぞれが見知らぬ道を歩くがごとく、自身の孤独の中へと内省を深めていった。

ある日、二人は美しい山にたどり着いた。何かを感じ取った女性は何時間も景色を眺めていた。住職様が何をしているのかと問うと、「拙山尽起図(せつざんじんきず)」を描いていると答えた。

それを待つ間、住職様は居眠りをしてしまった。はっと目覚めるとまだ苦潭江の小舟に乗っていた。吠山渡も山上の美女も存在せず、ただ目の前に一幅の絵巻があった……それがあの絵巻だ。

[ラヴァ] ……その女性の名前は?

[サガ] わからぬ。

[ラヴァ] 聞かなかったのか?

[サガ] 聞けなかったのだ。

[ラヴァ] …………

[サガ] その夢は、幻とも現実ともつかず、一年くらい経ったように感じる一方で、指をパチンと弾いた一瞬のようでもあったそうだ。住職様本人ですらあやふやな事象を、聞きようなどなかろう。

[ラヴァ] …………

[サガ] 拙僧は炎国を放浪している途中で、ふとこの話を思い出し、考えを巡らせた。もしかしたら住職様が拙僧をからかって適当な作り話をでっち上げただけかもしれないとも思った。

[サガ] しかし炎国で聞き込みをすると、『拙山尽起図』は、意外にも有名な絵だったのだ。

[サガ] 聞くところによると、百年前に無名の画家が残した作品だという。かつてある皇族が大枚をはたいても手に入れられなかったことから有名になったそうだ。

[サガ] そして放浪を続け、ちょうど灰斉山に差し掛かった時、拙僧は突然思い立ち、この機会に絵の中の奇景を探してみようと考えたのだ。

[サガ] ははっ……その後、山の中で美しい景色を見つけて、気がついた時には、もうここにいたというわけだ。

[ラヴァ] 灰斉山のあの古い家だな……アタシたちと同じ道をたどって来たんだな。

[ラヴァ] ……つまり、ここは夢の中なのか?

[サガ] もし夢だとすると、そなたからすれば拙僧は夢の中の幻想だ。では拙僧の話も信じられぬものとなるであろうな。

[サガ] となればラヴァ殿は、いかにして目の前の景色が夢か否かを判断するのだ?

[ラヴァ] 話がこんがらがってきた……頭がくらくらする……

[ラヴァ] じゃあ、ここから抜け出す方法は知ってるか?

[サガ] いいや……拙僧はずっと旅を続けてきたが、いかにしてこの地から脱するかについては、未だ分からぬままだ。

[ラヴァ] ……ずっと? オマエがここに来てどのくらい経つんだ?

[サガ] もうずっと、ずっと前だ。仔細に数えると――

[レイ] お茶が冷めますわ。話にばかり気を取られてないで、どうぞお飲みください。

[ラヴァ] ああ……すまない。

[ラヴァ] (ふぅ……)

[ラヴァ] ……ん? そういえば、レイさんも、もしかして?

[レイ] 私はただの質屋の女将ですよ。

[レイ] ラヴァさん……あなたの優しさは素晴らしいわ。墨魎の魔の手から町を救おうという気持ちにも感服します。でも時には、自身の安全を考えることも大事ですよ。

[ラヴァ] あの程度の怪物なんて、ロドスの精鋭からしたら脅威でもなんでもない。

[サガ] 間違いないな。ラヴァ殿の腕前なら、まったく心配いらぬ!

[レイ] ……それなら良いのですが。

[レイ] ラヴァさん、質問があります。聞いていいものか分かりませんが。

[ラヴァ] 構わない……というか、そんなに畏まらなくていいから……

[レイ] ラヴァさんは、水面の月を覗いたことはありますか?

[レイ] 水面の月は、たとえ透き通った波に揉まれて、千々に裂かれて形を成さなくなったとしても、波風が収まればまた丸い月に戻ります。

[レイ] だから水中でゆらめいている月を哀れに思ったとしても、それを助けようとして靴や着物を濡らす必要はないでしょう。

[レイ] ラヴァさん……あなたは水面の月を掬い上げるために、心を尽くすようなことをしますか?

[ラヴァ] いや……しないと思う。そんなことをしても意味ないだろ?

[ラヴァ] 急にどうしたんだ?

[レイ] ……私はラヴァさんにとっての月がどんな形かも知りませんし、何か間違いを指摘することもできません。ですが水面の月はどこまでいっても水面の月なのです。

[レイ] ですから、私たちのために、そこまでなさる必要はないのです。

[ラヴァ] それはいったい……?

[ウユウ] 恩人様! 恩人様! ご無事ですか?

[クルース] ……あれぇ? お茶まで入れてもらってるのに、私たちを仲間外れにするなんてぇ~。

[レイ] お二方も婆山町のお客様ですね? お茶を入れてきます。ついでにお菓子も持ってきますから、どうぞごゆっくり。

[クルース] あの人はぁ?

[ラヴァ] ここの女将のレイさんだ。黎明の「黎」と書くそうだ。

[ウユウ] 恩人様、墨魎どもは? ああ、分かった! 恩人様の無敵の力で、奴らを全て追い払ったのですね!

[ラヴァ] ――あの子は無事に送り届けたか?

[クルース] 大丈夫、無事だよぉ。

[ウユウ] ああ、恩人様! なぜ私を信頼してくれないのです? たとえ針の山や火の海に放り込まれても涙を流さない私ですが、今はあまりの悲しみに涙が溢れそうです……!

[レイ] お二方、お茶をどうぞ。

[クルース] うう〜ん……匂いだけで高級なお茶ってわかるねぇ。

[ウユウ] さすが恩人様はお目が高い! 私のような凡夫の舌には苦いだけで全く滋味を感じ取ることができません。

[レイ] 普通のお茶ですよ。町の市場には、このお茶しか売っていません。お口に合わなくても、どうぞお許しください。

[クルース] はぁ~……普段は紅茶やコーヒーばっかりだけど、たまに炎国のお茶を楽しむのも、風情があっていいねぇ。

[サガ] 拙僧の故郷にも滋味深き茶葉がある。もし機会があれば、是非とも振る舞わせていただきたいものだ。

[ラヴァ] ふぁ……

[クルース] あれぇ? ラヴァちゃん、眠くなっちゃったぁ?

[ラヴァ] いや、なんだかリラックスしたら気が抜けて……

[レイ] お茶には心を穏やかにする作用がありますからね……皆さんの心を煩わせているこの一件も、疲れを溜めるだけでは解決できませんから。

[ラヴァ] しかし……やはり手がかりは何もないな。

[サガ] ここは絵の中であるがゆえ、今できることをやりながら少しずつ解決していくほかなかろう。

[ラヴァ] そうだ! サガ、これを見たことがあるか?

[サガ] うーむ、それが何かはわからぬが……なぜか拙僧は、これをどこかで見たことがあるような気が――

[ラヴァ] 本当か!?

[サガ] 少し時間を頂けぬか……うむ――この模様、材質……一体いつどこで見かけたのか……

[レイ] ――――!

[クルース] ……あれぇ?

[クルース] お茶に光が反射してる……

[ラヴァ] どうした?

[ウユウ] おお!? 何が起きたんです? 皆さん急に立ち上がって。

[サガ] ……夜が!

[レイ] 夜が明けた……?

[墨魎] ガアッ!

[町民] こ、こいつら何でこんなところまで来るんだ!? ここらは昼間なのにどういうことだ!

[町民] あ、あれは、空が……なぜ太陽が向こうに行ってしまったんだ? 鴻洞山に何が起こった!?

[墨魎] ガアッ!

[町民] うわああ! こいつら、ひっ、人を食べてるぞ――! 逃げろっ、逃げるんだ!

[講談師] 逝く者は斯くの如きか、日は昇りて月は落つ、此れ当然の理なり。

[講談師] ふっ。

[講談師] ……平穏を掻き乱す……それがあいつの狙いか?

[ラヴァ] ……ど、どうなってるんだ?

[ラヴァ] どうして太陽が……?

[クルース] ――太陽はもともとああやって動くものでしょ~、ラヴァちゃん。

[ラヴァ] ん? いや、もちろんそんなことは知っている。ただどうしていきなり正常に戻ったのか――

[ラヴァ] いやそうだ、これが普通なんだ……アタシは何を焦ってるんだ。

[ウユウ] 恩人様方、何だか町の方向が騒がしいようですが?

[町民] 助けてくれ、誰か! 助け――

[墨魎] ガアッ!

[ラヴァ] 大丈夫か!?

[町民] だ、大丈夫です。ここにいたんですね。本当に良かった! しかし大変です。化け物たちが突然太陽を恐れなくなったんです!

[町民] 今、町中であいつらが、ひ、ひ、ひ……人を食べてるんです!

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