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ニアーライト_NL-ST-4_未知と未来
伝説の一夜が過ぎ去り、今回のメジャーがもたらした変化は既に、水面下でカジミエーシュ中に影響を及ぼし始めていた。しかし、これはまだ終わりではない。マーガレットが照らした道へと進むときだ……人々はすでに出発の準備ができている。
「皆を立ち上がらせなければ。」
「腐敗しきったこのすべてを、無に帰すのだ。」
「騒がしい波があるならば、海を鎮めに行けば良い。」
「文明は繁栄し、都市は轟音を唸らせて進んでいく。この社会を滅ぼすことができるのは、それを築き上げた者自身だけなのだ。」
「時間にすべてを変えさせようとはするな。それさえも社会は打ち負かすだろう。――未来を託すべきは、自分自身だ。」
「一人一人に、それは託されているのだから。」
[テレビの音声] メジャーの大会決勝後、前代未聞の事態が発生しました! ――新旧の大会覇者が試合後、共にチャンピオンウォールへと向かうという異例の行動を見せたのです!
[テレビの音声] それのみならず、今大会チャンピオンである耀騎士は――騎士協会からの授与式を拒否し、そのまま立ち去っていったとのことです!
[テレビの音声] これは、間違いなく一種の侮辱行為と言えるでしょう。
[老騎士フォー] あいたたた……
[老職人コーヴァル] この老いぼれジジイ、戦えねえなら無理せずマリアとゾフィアに任せておきゃよかっただろうがよ!
[老騎士フォー] なんじゃと!? お主よくもそんなことが――ぐわっ! ……い、いたたたあ……
[禿頭マーティン] ……
[老職人コーヴァル] やれやれ……で、マーティン? いつまでも自分のハンマーなんか見詰めちまってどうしたんだ? 一晩運動したら、昔を思い出しちまったか?
[禿頭マーティン] ……ああ、少しね。
[禿頭マーティン] しかし、ニアール家のほうは、今頃どうしているだろうね……
[マリア] えっ……?
[マリア] ……じゃあ、叔父さんは……しばらく大騎士領を離れるってこと?
[ムリナール] ああ。それから、お前たちはニアール家の人間なのだし、いつまでもゾフィアの家に入り浸るような真似はするな。世間体を考えろ。
[ムリナール] ……マーガレット。私がしばらく、ここを離れる間の話だが……
[ムリナール] ……本当に、カジミエーシュに残るつもりか?
[マーガレット] ああ。
[ムリナール] ……何に直面することになるかは、わかっているはずだろう。
[ムリナール] お前が理解されることなど、ないんだぞ。
[マーガレット] ……無論、初めから承知の上だ。
[ムリナール] ……
[ムリナール] ならば、好きにするがいい。
[トーランド] ……そんで? どうして急に気が変わったんだ?
[ムリナール] ……トーランド……
[トーランド] 突然大騎士領を離れるだなんてよ。一体何のためだ? ほら、言ってみろって。
[ムリナール] ……今の私は、お前の目からはどう見える?
[トーランド] どう見えるって、お前なあ……わからねえか?
[トーランド] ――ま、正直なことを言やあ、俺たち全員を幻滅させたってのは確かだな。
[トーランド] お前が、監査会の幹部だの、国民議会を変える存在だのになれなくても、別に構やしねえ。だが、少なくとも、俺たちの英雄、俺たちのニアールで居てもらわねえと困る。
[トーランド] 都市を離れてどこへ行くつもりかは知らねえが、これだけは伝えておくぜ。――俺以外のほとんどが、深く失望してる。お前に出くわしたら、あいつらはお前を殺したくてウズウズしちまうこったろうよ。
[ムリナール] 彼らに私を殺せるとでも?
[トーランド] やれやれ、言ってくれるねえ。
[ムリナール] ――トーランド。私はこれまで、多くを諦めてきた。
[ムリナール] ……しかし未だに一つの――現実離れした考えが、頭から離れないんだ。
[ムリナール] 二人は、まだどこかにいるのではないか、という考えがな。
[トーランド] ……
[ムリナール] 彼は、かの戦争の英雄が長子であり、私の兄であり、一族最強の騎士だった。
[ムリナール] そして、彼女は……カジミエーシュで最も美しく、優雅で、淑やかで……まるで宝石のような人だった……
[ムリナール] 私からすれば、二人は我が人生の誇りにして喜びだったんだ。ゆえに今のように……音沙汰のないままにはさせておけない。
[ムリナール] ――十数年もの間。
[ムリナール] 私は常に、このことを考えていたんだ。
[トーランド] そうは言っても、十五年も前の話だぞ。当時あれだけ必死こいて探して何の手がかりも得られなかったってのに、今更――
[ムリナール] ……放っておいてくれ。これは……単なる旅行だ。
[トーランド] そんなもんに、お前一人で行こうってのか?
[ムリナール] 望みがあるかもわからん旅ともなれば、一人で十分だろう。
[トーランド] ……お前は、耀騎士に影響されるような奴じゃねえしなあ……どうして急に決心したのかは、ひとまず聞かないでおいてやるよ。
[トーランド] まあ、いざとなりゃ俺を……「俺たち」を見つける方法はわかってるだろうしな。
[ムリナール] ……私が見つけ出したいのは、自分自身なんだがな。
[ソーナ] ……あたしたちを、ロドスに……?
[マーガレット] ああ。あの場所なら、君たちに治療を提供できるし、何かを無理強いされるようなこともないからな。
[ソーナ] なるほど。あなたがずっと所属していたところなら……信頼できる組織、ってことよね。
[マーガレット] ……ああ。
[マーガレット] 彼らの理想は、あまねく大地を照らすものだ、と……私はそう信じている。
[ソーナ] じゃあ、あなた自身は……いつか、ロドスへ戻ってくるの?
[マーガレット] ……そうだな。いずれは、戻るつもりだ。
[イヴォナ] だったら、そん時はあたしと勝負してくれるか?
[ユスティナ] ……い、イヴォナ!
[イヴォナ] んだよ~、チャンピオンに挑戦したくなるのが騎士のサガってやつだろ!
[グレイナティ] では、ぜひ私も。
[グレイナティ] 伝説の騎士一族の方にお手合わせ願えると聞けば……興味をそそられるのも当然のことだろう?
[マーガレット] よし、その時は必ず、お相手すると約束しよう。
[ソーナ] あはは。まったく、血の気が多いんだから……
[ソーナ] そういえば、あなたは自分が感染者じゃないことにはとっくに気付いてたのよね?
[マーガレット] ……そうだ。
[ソーナ] それでも、純粋に感染者のために戦ってたってことなの?
[マーガレット] 私はただ、苦難の中にいる人々のために戦っているだけに過ぎん。
[代弁者マルキェヴィッチ] ……
[代弁者マッキー] ……理事会はご立腹だ。
[代弁者マッキー] 我々も、数ヶ月分のボーナスが露と消えることになりそうだな。
[代弁者マルキェヴィッチ] ……ボーナス、ですか……
[代弁者マルキェヴィッチ] 我々は、あれだけ多くの感染者や騎士、さらには無冑盟の命までもを巻き込んだというのに……その影響を受けるのは、ボーナスだけだというのですか……?
[代弁者マッキー] ……そのことだが……
[代弁者マッキー] 来たまえ、マルキェヴィッチ君。君の進退についても、話し合わなければならないのでね。
[代弁者マッキー] ……前に君から聞いた、「電話とは何なのか」という話……あの後考えてみたんだが、確かに納得がいったよ。
[代弁者マルキェヴィッチ] ……今待っているのは、どなたからのお電話ですか?
[代弁者マッキー] ……とある記者さ。
[代弁者マルキェヴィッチ] ……記者……? つまり、取材を受けなければならない、ということでしょうか……?
[代弁者マッキー] いいや。多くの人がそう呼んでいるだけさ。単なる呼称だよ。
[代弁者マルキェヴィッチ] ……待ってください……それじゃあ、「記者」、というのは……まさか……
[電話の声] マッキー、お前か?
[代弁者マッキー] ……はい。――さて、マルキェヴィッチ君……紹介しよう。今、電話の向こうにいるのは、ローズ新聞連合の代表取締役、ケーン「記者」だ。
[代弁者マルキェヴィッチ] ……!
[電話の声] 彼も、そばにいるんだな。
[代弁者マルキェヴィッチ] はい、こうしてお話させていただけて、光栄です……
[電話の声] はは……マルキェヴィッチは、私が大枚をはたいてミェシュコ工業から手に入れた人材なんだ。いずれは、私の右腕となってくれることだろう。
[電話の声] つまり、ここには部外者などいない。だから、マッキー。父さんと呼んでくれないか?
[代弁者マルキェヴィッチ] ――
[代弁者マッキー] ……はい、父さん。
[電話の声] よろしい。母さんは元気かね?
[代弁者マッキー] ええ、とても。よく父さんのことを気にかけていますよ。
[電話の声] お前はどうだ? 結婚はしたのか?
[代弁者マッキー] ……私は……今のところは、まだ。
[代弁者マッキー] そちらはいかがですか? というか、今は……どちらに?
[電話の声] ……クルビアだ。
[代弁者マッキー] ……カジミエーシュには、いつお戻りになられるのですか?
[電話の声] ハッハハ……当分先のことになるだろうな。
[電話の声] 先見の明がない連中には理解できんことだろうが……クルビアこそがカジミエーシュを脅かす真の敵だ。
[電話の声] 我々の新聞が、クルビアの都市すべてをカバーしているとは言い難い……まだクルビア人の耳には我々の声が届かない状態なんだ。
[電話の声] しかし、彼らの発展速度には目を見張るものがある。ゆえに我々は必ず、彼らの市場を抑制し……掌握しなければならない。
[代弁者マルキェヴィッチ] ……
[電話の声] わかるかい、マッキー。国同士の駆け引きというのは、本当に魅力的なのだよ。
[電話の声] けれども、あの貴族どもときたら……まったくさ。自分のやり方に固執するばかりではどうにもならんというのに……ヴィクトリアやウルサスといった強大な国家もまた、悲しいほど愚かな連中だし……
[電話の声] ――さて、マルキェヴィッチ。
[代弁者マルキェヴィッチ] っ、はい!
[電話の声] 商業連合会にすべてを捧げる覚悟はあるか?
[代弁者マルキェヴィッチ] ……
[電話の声] 君が有能であることは、いくつかの報告書を見ただけで、はっきりとわかったよ。
[電話の声] だが、まさか……君は、未だにあの騎士たちに同情しているのか?
[代弁者マルキェヴィッチ] ……
[電話の声] どうやら、図星のようだな。
[電話の声] ならば、一度考えてみてくれ。
[電話の声] 我が国の高速軍艦が、ウルサスをはるかに凌ぐ数になったとしたら――クルビア中に、カジミエーシュのキャラバンや商品が溢れかえる時がきたとしたら――国境の要塞が倍の数になったとしたら――
[電話の声] その時、戦争などというものは存在しうるだろうか? ウルサスはなおも脅威となりうるだろうか? それでもカジミエーシュが依然として、軟弱な国家で在り続けることなど、あるのだろうか?
[電話の声] 無論、どれもありえないことだろう。
[電話の声] ゆえに、発展を阻む騎士たちこそがカジミエーシュの害虫なのだ。栄誉にこだわる愚昧な貴族どもが……ハッ。
[電話の声] メジャーで起こったことは聞いているが……監査会の連中は、それで「十分なメンツを得た」とでも思っているのだろうな。
[電話の声] 栄誉にせよメンツにせよ、好きなだけ与えてやればいい。
[電話の声] 我々の味方は時間と人民だ。……何試合か消化してしまえば、民衆は耀騎士がもたらした影響を忘れ、次の消費と娯楽に没入していくことだろう。
[電話の声] 彼らにとっては、我々が残してきたドロドロとしたものに目を向けるよりも、「一番強いのはどの騎士か」だの、「騎士のグッズの値段は適正か」だのと議論するほうがよほど重要なのだから。
[電話の声] そうして、国家が我々の味方となる。カジミエーシュは既に、商業連合会が提供している経済基盤からは離れられない。哀れな征戦騎士たちも……その殆どが、我々に服従している状態だしな。
[電話の声] ――マルキェヴィッチ。
[電話の声] 今回は、選択肢を提示しよう。
[代弁者マルキェヴィッチ] ……その前に……一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?
[電話の声] もちろんだとも。
[代弁者マルキェヴィッチ] ……チャルニー様は……耀騎士の大会への乱入を阻止できなかったというだけで、追放されてしまいました……私からすれば、これは正しいとは思えません。
[代弁者マルキェヴィッチ] 彼は、なぜ追放されなければならなかったのですか……?
[電話の声] ふむ……チャルニーか。彼のことは、君の運命の分かれ道でもあったな。彼にも感謝しなければなるまい。
[電話の声] だが、チャルニーが消えたことは――耀騎士の件とは、直接の関係はない、と言ったら?
[代弁者マルキェヴィッチ] ――!?
[電話の声] 彼の追放は、一連の権力闘争によるものであり、そこへ程良い口実が見つかったことで、追放に至った……というのが真相だ。
[電話の声] ちょうどあの時、数年前にチャルニーが起こした賄賂事件が露見し……政敵がそれに乗じて、彼を追放した。それだけの話さ。
[電話の声] つまり、耀騎士とは一切無関係である上に……君の運命とも関係はないんだ。……往々にして、真実とはこういうものなのだよ。現代における事の真相というのは、ひどく冷淡なのだ。
[代弁者マルキェヴィッチ] ……!
[電話の声] わかったかね? ――さあ、それではマルキェヴィッチ。
[電話の声] 我々と共に、大地の代弁者になろうではないか。
[プラチナ] ……はあ……?
[ロイ] なんだよ、俺たちの新しい店が気に入らねえってのか?
[プラチナ] 店、って……アンタたち……お店開いたの?
[モニーク] ……見ればわかるでしょ?
[プラチナ] いや、うん……だけど……それじゃ、ハンドソープを売って生計を立てるつもりなの……?
[ロイ] おいおい、あんまなめんなよ? 「オリジクラウド」の日用品は、ここ数年一番人気のブランドだし――
[ロイ] ――それに、このブランドを立ち上げた会社には、「三人の社長」がいるんだぜ。
[プラチナ] ……
[ロイ] しかも、その三人の社長ってのは、もうすぐ商業連合会の一員になる予定なんだ。
[プラチナ] ……アンタたち、まさか……
[ロイ] ……そう、お仲間に入れてもらうために頑張ってたってわけだ。
[ロイ] 内情を知れば知るほど、未来の方向性も読めてくるもんだしな。
[ロイ] ……傭兵も殺し屋も、そのうち大勢は必要なくなってきて、時代遅れになるだろう。それに、他人の命しか奪えない殺し屋商売に比べて、あいつらは、ほかの国すら奪っちまうような連中だ。
[ロイ] これも時代に合わせた選択ってやつなんだよ、プラチナ。
[プラチナ] ……
[ロイ] ところでお前、受付嬢とかやってみねえか? 実はちょうど、従業員が足りなくってさ。お前なら結構見た目も可愛いし、多分問題ねえだろ。
[モニーク] ……チッ……
[ロイ] 近いうち、任務をほかの連中に割り振って、俺たち三人で蒸発するんだ。そんで、腕のいい美容外科医を探して、見た目を変えて、真面目なセールスマンとしてやっていくのさ。
[プラチナ] ……感染者たちが大規模停電を起こした時……無冑盟と直接関わってた理事会の人間を皆殺しにしたのは、そのためだったってことか……
[ロイ] ……あんなにうまくいったのは、あいつら自身のお陰だけどな。
[ロイ] 理事会内部は衝突が多すぎんだよ。
[ロイ] 無冑盟を動かせる奴が、圧倒的優位に立つ――となると、どの取締役も、あからさまな形で無冑盟を操る勇気も、他人にそうさせる勇気もなくなってくる。
[ロイ] だからこそ、その足の引っ張り合いが、無冑盟のコントロールを失う原因になったわけだ。
[ロイ] ハハッ……冗談みたいな話だが、あいつらはもう、自分たちが雇った殺し屋組織のボスの姓名も、その居場所すらもわかってないんだぜ。
[プラチナ] ……あのさ、クロガネって……本当にいるの?
[ロイ] ……さあな。
[ロイ] 本当の「クロガネ」は、一人しかいないのかもしれないし、あるいは二人かもしれない。見せかけの存在なのかもしれないし、俺たちラズライトが共同で使ってるコードなのかもしれない。
[ロイ] かと思えば、今朝街でお前とすれ違った誰かかもしれないし、今頃は理事会で会議を開いているのかもしれない。もしくは、サーミの別荘で休暇中って線もアリかもな。
[ロイ] つまり――その正体は誰にもわからない。だからこそ、怖い相手なのさ。
[ロイ] ……それと、最後にもう一つ。――本来、お前は身代わりとして死んでおくべきだったんだ。
[ロイ] おっと、下手に動くなよ? ちゃーんと視てるからな。……お前も無冑盟の一員だし、俺らを敵に回したかないだろう?
[プラチナ] ……
[プラチナ] (なんとかして……逃げなくちゃ……)
[マーガレット] ……ドクター、アーミヤ。
[アーミヤ] あっ……ニアールさん。
[マーガレット] 足を運んでくれてありがとう。あなたたちを呼んだのは……
[ドクター選択肢1] さよならを言うつもりなら、やめてくれ。
[ドクター選択肢2] また会える。そうだろう?
[マーガレット] ……ああ……
[マーガレット] ……そうだな。
[マーガレット] ロドスが呼んでいるとあれば、私は必ず、あなたたちの元へと駆けつけよう。
[アーミヤ] ……はい!
[マーガレット] ……それにしても、我ながら随分と長く放浪を続けてきたものだ。これでようやく……故郷を顧みる時間ができたんだな。
[マーガレット] 今こそ、お祖父様のお墓参りに行くべきなのかもしれない……
[シャイニング] ニアールさん。
[アーミヤ] あっ……では、ドクター。私たちは先に行きましょうか。
[アーミヤ] ニアールさん! お元気で!
[ドクター選択肢1] それじゃ、また。
[ドクター選択肢2] 元気でな。
[ドクター選択肢3] きっとすぐ、また会えるさ。
[マーガレット] ……ああ。そちらも、どうか元気で。
[シャイニング] ……お別れを言わねばなりませんね、ニアールさん。
[マーガレット] ……シャイニング。
[マーガレット] その、実は……
[シャイニング] それ以上仰らず。あなたの言いたいことはわかっています。
[シャイニング] ……我々も、ロンディニウムへ向かうつもりです。あなたが、ここに戻ってきたように……
[シャイニング] 彼の地にある罪も……そして過去も、我々が自ら、断ち切りに行きます。
[ナイチンゲール] ……シャイニングさん……?
[シャイニング] リズさん……その時が訪れたら、あなたは私を恨むことになるのかもしれません。
[シャイニング] ですが……私を信じてください。私は、いつまでもあなたのそばにいますから。
[ナイチンゲール] 私が……あなたを、恨む……? そのようなことが、本当に起こりうるのでしょうか……?
[シャイニング] ……
[マーガレット] ……ならば私は、ここに誓おう。
[マーガレット] その時、君たちが私を必要としてくれるならば――
[マーガレット] ――耀騎士マーガレット・ニアールは、君たちのために戦う、と。
カヴァレリエルキの明かりは再び輝いて、連合会ビルを明るく照らしている。
それは人々が、都市に描いた一つの答えのようだった。
夜がゆっくりと更けていく。
文明は、未だ繁栄の中にある。
3日後 大騎士領外 とある村
[ソーナ] ……ここが、その場所なんですよね?
[トーランド] おうとも、いい村だろ?
[ソーナ] ……いつも、こういうところに滞在してるんですか?
[トーランド] 俺たちも初めは、盗賊の根城みたいな所で暮らしてたんだぜ? その頃は、近くの都市に余すとこなく密偵を放っていても、闇市か地下で活動するのがせいぜいだったしよ。
[トーランド] だが、ある時……とある連中に出会ってな。そいつらが、俺の考え方を変えちまったのさ。
[トーランド] で、その後のことを要点だけ話すと……俺たちは、ひょんなことから錆鎚と戦うことになった。あいつらを知ってるか? そりゃもう狂った連中でよ……
[トーランド] 大体の奴は錆鎚を単なる盗賊集団だと思ってるが、そいつは大いなる誤解ってやつだ。っつーのも、俺は連中と交戦したとき、十歳過ぎくらいの子供が鉄パイプを握ってるところを見ちまってな……
[トーランド] 奴らはそんなチビ助を平気で戦わせてるわけだ。どうだい、なかなかクレイジーな連中だろ?
[ソーナ] 確かに……聞いただけでも恐ろしいですね。
[トーランド] ……そう。その狂気こそが、奴らの一番恐ろしいところなんだ。
[トーランド] 錆鎚は、文明に対抗するために生まれたわけじゃあない。むしろあいつらは、文明が発展したからこそ、生まれちまった集団なんだ。
[トーランド] あの連中に、生きる希望や目的なんてものがあるとは思わないほうがいい。そもそも、奴らを理性的な集団と見なすこと自体間違ってるのさ。
[トーランド] あいつらは、ただ文明に取り残されちまっただけの連中だからな。……文明が発展しているにもかかわらず、全員の面倒までは見切れてないって時に、ああいう奴らが生まれるんだ。
[トーランド] 帰る家も、行くあてもなく……そこら中に源石が転がってるような痩せこけた荒野で生き延びるしかない。ああなっちまうと、あいつら自身が天災みたいなもんだ。
[トーランド] だが、奴らのお陰で俺たちは団結することができたし、連中に気付かされたこともあった……
[トーランド] 俺たちは、あんな狂った連中にはなりたくない、ってこととかな。
[ソーナ] ……それで……あたしたちは、何をすればいいんですか?
[トーランド] ああ、会わせたい奴らがいるのさ。
[ソーナ] 誰ですか……?
[トーランド] 感染者たちだよ。
[ソーナ] 感染者?
[トーランド] ああ。農民もいれば、騎士もいる。
[ソーナ] 色んな人がいるんですね。
[トーランド] まだまだこんなもんじゃねえぞ? 労働者もいれば、バウンティハンターもいるし……
[トーランド] 進退窮まった村長とか、疲れ切った貴族とかもいる。
[トーランド] それから、大学生もいれば、文字すら読めない奴もいて……
[トーランド] この国を変えようとしている連中も、この国に変えられちまった連中もいるんだ。
[ソーナ] ……
[トーランド] そうびっくりした顔しなさんなって。マジで驚いてほしいのは、ここからなんだしよ。
[トーランド] ――ソーナ。お前さん、俺に尋ねてきたよな。商業連合会を打ち負かせば、みんなの暮らしは良くなるのか、とか。そもそも騎士ってもんの意義とは、みたいなことをさ。
[トーランド] そこで、逆にお前さんに聞きたいんだが……商人が台頭してきて、カジミエーシュが商業連合会に掌握されるまで――
[トーランド] ――貧民から搾取し、民衆を抑圧していたのは誰だと思う? 感染者を吊るし上げて殺し、権力で築かれた塔に籠もっていたのは、一体誰だと思う?
[トーランド] 答えは、騎士さ。
[ソーナ] ……
[トーランド] 新しい悪党どもが台頭してきたのを理由に、俺たちが昔の悪党を支えてやらなきゃならん道理はどこにもない。そんなことをすりゃ、悲惨な目に遭うのは自分たちだしな。
[トーランド] で、それはさておき。「商業連合会」なんてのは名前からして醜悪極まりねえ集団だが……その名前の一部なら見習っても構うまい、と俺は思うわけだ。
[トーランド] つまり、何が言いたいかっつーと……都市にないがしろにされた連中は、「連合」して、団結するべきだってことさ。
[やつれた少女] ……トーランドさん、こちらの方は……?
[トーランド] 大騎士領の感染者騎士だ。俺たちに協力してくれるってよ。
[トーランド] ほかの連中はどうしてる?
[やつれた少女] みんな、中にいますよ。
[トーランド] そうか。お前も入りな、キャロル。
[トーランド] じきに夜明けが来るからさ。
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