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ニアーライト_NL-10_耀騎士_戦闘後
決着の時が来た。血騎士は耀騎士の腕の中に倒れ、勝負が決した瞬間、大騎士領内のあらゆる勢力がすかさず行動を開始した――そのさなか、耀騎士は、血騎士と共に受賞の地へと向かうことを決める。これは一つの試練である。
[ラッセル] ……「苦難と闇を畏れるべからず」。
[ラッセル] こうした優秀な苗木ほど、腐敗と毒に満ちた土壌で成長しなければならない……
[ラッセル] ニアール。私たちの決断は、間違っていたのかもしれないわね……
[「銀槍のペガサス」] ……グランドマスター。
[ラッセル] ――商業連合会も、私たちの目的には気付けなかった。
[ラッセル] まあ、当然と言えば当然ね……彼らは、あなたたちがここへ来た目的を「連合会に痛手を与え、監査会の権力を強固にするため」だとばかり思っているでしょうから。
[ラッセル] 確かに、それも目的の一つではあるわ。監査会は既に零号地の管理を引き継いでいるし……商業連合会は、必ずこの件の代償を支払わなければならないもの。
[ラッセル] けれど、商人たちは理解していないのでしょうね。私たちが、マーガレットのためにどこまでしてあげられるのかを。
[ラッセル] ――「苦難と闇を畏れるべからず」というのは、元々ニアール家の家訓だった。
[ラッセル] それが今では、シルバーランスペガサス騎士団における約三十名の騎士たち……彼らの盾や槍、剣にも刻まれる言葉となったわ。
[ラッセル] あの時、希望の見えない戦火の中、漆黒の沼の中心で……キリル・ニアールは、包囲を受けたすべての騎士を救うと誓ったの。
[ラッセル] あれは補給もなければ通信手段もなく、師兵団の砲兵師と機動部隊が彼らを捜索し、追い詰めようとしている状況でのことだった。
[ラッセル] ニアールの説得で救助作戦に参加した騎士は、たったの七人……出発前、彼らは皆、自らの盾に「苦難と闇を畏れるべからず」と銘を刻んだわ。
[ラッセル] ……そう、行きは七人で、帰りは四十一人だった。
[ラッセル] だけど初めの七人のうち、戻ってきたのはキリルと私だけだった……
[「銀槍のペガサス」] ……ですが、あなたたちは三十人以上の同胞を救い出したのです。
[「銀槍のペガサス」] その上……全員の盾を持ち帰られたのでしょう。
[ラッセル] ……ええ。――そしてその晩以降、四十一人全員が、皆その盾と同じ言葉を刻んだ……剣、鎧、アーツユニット、盾……それぞれの装備にね。
[ラッセル] そのあと、私たちは東に向けて包囲を突破した。
[「銀槍のペガサス」] ……騎士団本部と合流した時、残る騎士たちは再び七人となっていたと聞き及んでいます。
[ラッセル] まるで、天がそう定めたかのようね。
[「銀槍のペガサス」] けれども、包囲を突破した騎士たちは、三千の敵を殲滅しました。そして騎士四十六名の家紋が入った盾は、一つとして捨て置かれることなく、そのすべてがカジミエーシュの地へ帰った、と。
[「銀槍のペガサス」] かの有名な、「黄金平原の夜明け」……この戦いは今も、征戦騎士ならば誰もが幾度も耳にし、その詳細を語ることすらできるものです。
[「銀槍のペガサス」] グランドマスター。あなたに心からの敬意を表します。
[ラッセル] ……無冑盟は、ニアール家の子を害するつもりなのかしら?
[ラッセル] ふふっ。果たして、それを成せるほどの戦力があるのかしらね?
[ビッグマウスモーブ] ――ば、爆発です!! 二人の纏うアーツがぶつかり、なんと爆発を引き起こしました!
[ビッグマウスモーブ] 煙の中から先に現れたのは――血騎士です! 押し切られたように出てきました! そのまま斧を持ち替えて――おっと、これは利き手ではありませんね! 衝撃で腕が痺れているのでしょうか!?
[ビッグマウスモーブ] 一方、耀騎士はというと――ソードスピアを杖のようにして、体を支えています! これは、姿勢を保って耐えきった血騎士に、軍配が上がったと言えそうですが――
[血騎士] ふッ――!
[ビッグマウスモーブ] ――そこで血騎士が再び突撃~~ッ! 耀騎士の立て直しは間に合うのか!?
[マーガレット] ――!
[血騎士] やるな……!
[マーガレット] そちらも、あと一歩だったな。
[血騎士] 貴様の動き……競技場では決して磨けぬ類いのものと見える。
[血騎士] 攻撃に直面した時、貴様は回避や反撃よりも先に、それを防ぐことを考えているように見受けられた。……もしや追放されてからは、他人の守護に徹していたのではないか?
[マーガレット] ……誰かを守るという行為は、騎士の義務たるべきことだ。従って誰かのために命を捧ぐことは意義深いと言えよう。
[血騎士] 「誰かのために命を捧ぐ」、か。
[血騎士] 貴様は軽々しく生と死を語るような軽薄な人間ではない。ならば――見せてもらおうか。その身命の重みというものを!
[ビッグマウスモーブ] 目まぐるしく展開しますは接近戦! あの突撃を受け止められてもなお続く、終わりなき攻防が――っと、何かおかしいぞ! ことはそう単純ではないようです!
[ビッグマウスモーブ] ――二人の足元に突如として巨大な血の池が出現しました! ――これは……血騎士の罠のようです!
[血騎士] (ミノス語)血は我が意に下り、穢れは汝が身に回帰せよ。
一瞬にして、血液が粘着質な糸のように連なり、マーガレットの体に纏わり付く。
ペガサスの体を流れる血が、さながら同胞に呼応したようにして、刺すような痛みが走った。
[マーガレット] ――させるか!
[血騎士] ――ッ! アーツで共鳴を断ち切ったのか……?
[血騎士] ――ぐっ!
[ビッグマウスモーブ] なんということでしょう!! アーツで耀騎士を操ろうと試みた血騎士でしたが、逆に不意打ちを食らってしまった~ッ! 振り下ろされるソードスピア! 倒れ込む血騎士ッ!!
[ビッグマウスモーブ] 今メジャーにおいて、血騎士が倒れたのは初めてです! この衝撃は遠くの観客席からでもはっきりと感じ取れそうなほどのものですが……前回王者はどれほどのダメージを受けたのでしょうか!?
[マーガレット] ……あなたは、こうも容易く倒れるべき者ではないだろう……
[血騎士] ……
血騎士は無言で立ち上がると、再び斧を振りかざし、正面から攻撃を仕掛けた。
[マーガレット] (薙ぎ払いか――だが、大振りすぎる!)
[血騎士] ……っぐ!
突然、血騎士の全身に痛みが走り、彼の手にした巨大な斧は、いくらか下へと狙いがずれた。
[マーガレット] く、うっ――
[マーガレット] ……なぜ、これほどの力が……
[血騎士] ……
それはよく知ったもののようでいて、どこかが違う痛みだった。
火傷や切り傷、凍傷、そのほか彼が競技場で経験してきたどんな痛みとも違っていた。
身体の奥深くからやってくる――
――彼の罹った病の痛み。
それが、一つの臨界点を迎えつつあるのだ。
[血騎士] ……どうやら、先ほどの一撃で……痛手を受けたようだ。
[血騎士] ならば――こちらも一撃見舞ってやろう。
鮮血が光を反射して、朧気な光の球を作り出す。
マーガレットは、考える間もなくそのアーツを断ち切らなければならなかった。
彼女の背後に、光芒が浮かび上がる。
凝縮され、実体を持った光は、すべての苦難を融かし斬る。
[観客A] 行っけー! 血騎士ー!
[観客B] 近付いちゃダメだ! アーツで対処しろ、マーガレット!
[ロイ] あ~あ、騎士様ってのは大した人気者だねえ。
[モニーク] ……全員、配置についたわ。
[ロイ] なあモニーク閣下。俺たちさあ、最初っから無冑盟になんかならねえで騎士になってたら、どんなに良かったんだろな。
[モニーク] ……
[ロイ] そんで、プラチナのほうは?
[モニーク] ……ちょっと可哀想に思えてくるような状況よ。
[プラチナ] ……
[「銀槍のペガサス」] ……
[プラチナ] …………
[「銀槍のペガサス」] ……おや。
[「銀槍のペガサス」] 無冑盟。そちらの手勢はそれだけか?
[プラチナ] 笑いたきゃ笑いなよ。どうせそれ被ってれば、アンタらの表情なんてわかんないんだしさ。
[プラチナ] っていうか、こっちは「プラチナ」と、ほか三十人の構成員。そっちはたったの七人でしょ。
[「銀槍のペガサス」] ……
[プラチナ] 「銀槍のペガサス」がどんだけ強いか知らないけど、無冑盟がこれだけ揃ってるのよ。
[プラチナ] アンタら七人を相手することすらできないとでも?
[「銀槍のペガサス」] ……違うな。それどころか……
[「銀槍のペガサス」] こちらは三人で十分だ、という意味だ。
[プラチナ] ……
[「銀槍のペガサス」] ……
[ビッグマウスモーブ] ひ、光の槍が――いえ、血騎士の斧に打ち砕かれて――血を纏った斧が振り下ろされ――ああっと、耀騎士が避け――ち、違う、これは――フェイントだ! 耀騎士のソードスピアが――え~っと!?
[ビッグマウスモーブ] わ……私には最早説明不可能な領域に入ってしまいました! これほど激しい戦いを見たのは初めてです……! あとで録画を見返したとしても、何一つ理解できそうにありません――!
[燭騎士] ……羨ましい、とお思いですか? タイタスさん。
[左腕騎士] ……
[シャイニング] 血騎士は……本物の実力者ですね。
[シャイニング] 感染者の身で、これほどの気迫を持つ人は滅多にいません。……正直な話をすると、私は元々……
[アーミヤ] ……この都市で、彼のような精神を育むことなどできないと思っていたのでしょうか?
[シャイニング] ……ええ。ニアールさんはいつも、カジミエーシュは栄誉の輝きを忘れてしまった、と言っていましたから。
[シャイニング] 実際、この街は常に、見かけ倒しで浅はかで、想像を絶する消費とそれを動かすビジネスに満ちている……そうした印象を与えます。
[シャイニング] ……ですが……
[アーミヤ] ――ですが、この都市に生きる人々は、まだ生き続けようともがいているすべての人たちは……心の中にある、信念に突き動かされている……
[アーミヤ] 「栄光と美徳は、決して忘れ去られはしないもの」……ニアールさんの言っていた通りですね。
――お姉ちゃ~~ん!
[アーミヤ] ……? この声は……
[マリア] お姉ちゃ~~ん! 頑張って~~!!
[老騎士フォー] この大舞台を前にして、わしらの単なる「頑張れ」だけではちと物足りなくはないか? もっと相応しい応援もありそうなものよなあ……
[老職人コーヴァル] いーんだよ、こういうのは気持ちが大事なんだ。どの道、こんな大歓声の中じゃ、マーガレットには聞こえねえしな。
[老騎士フォー] ふうむ。ならば、無冑盟を警戒しておくとしようか。監査会のお偉方がわしらを招待してくれたとはいえ……殺し屋どもが潜んでおらんとも言い切れんからのう。
[ゾフィア] マーガレット~~! やっちゃいなさ~~い!!
[マリア] お姉ちゃ~~ん!
[禿頭マーティン] 観客が送る声援というのは、元々自分自身へのものでもあるしね。
[禿頭マーティン] だけど、たとえマーガレットの耳にその声が届いていなくても、誰かが支えてくれていることを覚えている限り……彼女は倒れない。
[アーミヤ] もしかして、彼女は……
[ナイチンゲール] ニアールさん……いえ、マーガレットさんの妹君である、マリアさんですね。
[ナイチンゲール] マーガレットさんが言っていたように、いずれ皆出会うことになる……そのはずですよね? ならば、彼女とも……
光芒はなおも強く輝き、血の生む光は深い混沌に染まっていく。
二人の戦いに、言葉はなくなっていた。
[ビッグマウスモーブ] ……
[ビッグマウスモーブ] ……えー……っと。
[ビッグマウスモーブ] (小声)審判団はまだ採点を続けてるのか? ……えっ? も、もう放棄してる? お、オーケー……いや、これは仕方ない……
[血騎士] 耀騎士ッ!
[マーガレット] ――!
[血騎士] ぐ、うッ――!
[血騎士] 流石、と言わせてもらおうか……! この一撃を正面から受け止めた奴は初めてだ!
[マーガレット] あなたこそ、流石だ。なんたる力量か……
確固として立つ血騎士の腕が、巨斧を掲げる。
しかし、斧が纏っていた鮮血のアーツは消え去り、その堅固なるミノスの斧すらも砕けて、砂の如く崩れ去っていく。
一方で、耀騎士のソードスピアも最早完全な姿ではない。その欠けた刀身が血騎士のかぶとを貫き、彼の威厳溢れる眼を露わにしていた。
[マリア] ……お姉ちゃんのソードスピアが、折れちゃった……!? あんなに強化してあったのに……!
[ゾフィア] これが血騎士の力量ってことね……だけど、武器を失ったのは彼も同じよ!
[ゾフィア] 両者共に……この状態でどう出るか、ね……
[マーガレット] ……
[血騎士] ……奇妙な感覚だ。
[血騎士] 騎士競技が愉快に感じられたことなど、今日まで一度もなかったというのに――今は、胸が弾んでいる。
[マーガレット] ……そうか。
[血騎士] なぜだか急に、故郷を思い出した。……紺碧の湖畔を囲む、白い建物……
[血騎士] 道路の突き当たりには青いフェンスが連なり、ジャスミンの花の鉢植えが置かれているんだ。
錆びた鉄のような血の匂い。
脈打つ血液に宿る熱。
流れる血脈と共に在る意志。
[マーガレット] ……ミノスは、美しい場所だからな。
[血騎士] ……多くの騎士が、富のために。そして一部は、名声のために戦っている。
[血騎士] 一方、俺たち感染者は、ただ生きるために戦い続けてきた。
[血騎士] 試合に勝つたび、一日長く生き長らえはするものの……掃きだめでのその日暮らしはつらいものだ。
[血騎士] なあ、耀騎士よ。貴様はどうだ?
[血騎士] 俺の想像をはるかに凌ぐ、強大な騎士たる貴様は……何を経験してきた?
[マーガレット] ……
[アーミヤ] ! ――もしかして、ニアールさん……こっちを見ているんでしょうか?
[シャイニング] そのようですね。
[ナイチンゲール] ニアールさん――頑張って!
[ドクター選択肢1] (手を振る)
[ドクター選択肢2] (拍手をする)
[ドクター選択肢3] 頑張れ、ニアール!
[マリア] ……お姉ちゃん! 頑張って~~!
[ゾフィア] マーガレット! 絶対勝ちなさい! 負けたら許さないわよ~っ!
[老騎士フォー] ハッハハ……存分に試合を楽しんでこい、それで十分じゃ!
[老職人コーヴァル] マーガレットのあんな戦いぶりは久しぶりに見たもんなあ。つられて俺まで腕が鳴ってきちまったぜ、フォー!
[禿頭マーティン] ……ふふ。
[マーガレット] ……私が経験したものは……惨劇だ。
[マーガレット] 天災の中で、都市が崩壊するさまを。――感染者が罪のない民間人を殺戮し、警告としてその遺体を積み上げて燃やすさまを。
[マーガレット] ――貧しい人々が賞金稼ぎに虐げられ、弄ばれるさまを。――汚染されていない食糧や水を手に入れるために、両親が幼い子供を売るさまを……すべて、目にしてきた。
[マーガレット] カジミエーシュにいた頃は想像もしていなかったような、苦難と闇を多く見てきた。だが、同時に……その苦難の中、地を這ってでも進んでいく人々をも見てきたんだ。
[マーガレット] 私は決して孤独ではない、血騎士。
[血騎士] ……貴様はそのすべてを見てきた上で、カジミエーシュに戻り、その偏狭な理想を取り戻すことを選ぶのか?
[マーガレット] ……ああ。
[血騎士] ……
[血騎士] ならば、最早貴様を偏狭だとは言うまい。
[血騎士] 耀騎士よ。最後の勝負と行こう。
[血騎士] ……勝者のみが、未来を思い描く権利を得る。――決着の時だ!
[マーガレット] 血騎士ディカイオポリス。あなたは偉大な騎士だ。
[血騎士] ……この決戦は、カジミエーシュすべてにとっての誇りとなることだろう。
[マーガレット] ――ニアール家、家訓……「苦難と闇を畏れるべからず」!
[血騎士] (ミノス語)今日を以て、俺は――孤独な平穏を享受する日々から解放される!
[ロイ] さーて……血騎士が勝って、みんなに楽をさせてくれるか……それとも耀騎士が勝って、俺たちを忙しくさせてくれちゃうか、ってとこだが……
[トーランド] ……よう、隣空いてるかい?
[トーランド] 決勝戦の中継を街頭の大型ビジョンで見るなんてえのは、こりゃまさしくアーバンライフの醍醐味ってやつだよなあ、うん?
[プラチナ] ……
[「銀槍のペガサス」] ……本当に、まばゆい輝きだ。
[「銀槍のペガサス」] マーガレットの光はあの頃に増して強くなった。……彼女を迎えられなかったのは、銀槍にとって惜しむべきことだ。
[「銀槍のペガサス」] けれどこうして見るに……結局のところ、彼女は抗う者なのだな。
[モニーク] ……第三・第四小隊は入り口で待機。
[モニーク] 第五小隊は場内に入ってロドスの監視に当たりなさい。第六小隊はマリア一行の監視を。
[ラッセル] ……ニアール家にはいつも、頑固ながらも素晴らしい人物が現れるもの。
[ラッセル] あなたもそう思わない? ムリナール。
[ムリナール] ……
[イヴォナ] ……
[ユスティナ] ……ずっと思ってたんだ……勝敗なんて関係ない、って。
[ジャスティスナイト] “Di-di”?
[グレイナティ] ……これは、騎士同士の決闘だからな。
[ソーナ] ……血騎士と耀騎士……二人は、この戦いの中で輝いている。
[ソーナ] だけど、あたしたちの戦いも、求めるものも、そこにはないわ。
[ソーナ] 彼らは、あたしたちのために道を切り開いてくれた……だからあたしたちも、戦い続けなくちゃね。
[ビッグマウスモーブ] 両者とも、各々のアーツを凝縮して失った武器を作り上げ、決着へと挑んでいきました!
[ビッグマウスモーブ] 長時間にわたるこの対決! 光が去ったあと、先に倒れるのは果たしてどちらなのでしょうか!?
[感染者騎士] ……
[観戦する騎士] ……
会場の騎士の中には、声援を上げるのを止めた者たちもいた。
彼らはゆっくりと立ち上がり、その場で静かに結果を待った。
[左腕騎士] ……私は……
[左腕騎士] …………
[燭騎士] ……血騎士が……限界を迎えたようですね。
その瞬間、大騎士領は静寂に包まれていた。
しかし――それを真っ先に破ったのは、場外から聞こえた角笛だ。
その音は、都市の投げる光で穴だらけになった夜の帳の中を、雲を越え、天まで鳴り響く。
[追魔騎士] ……敬意を表して笛の音を贈ろう、カジミエーシュよ。
[追魔騎士] 英雄は此処に立ち上がった。
凄まじい音が響く。
何重にもかさなって、響く。
武器がぶつかり合うたびに、火花が散って視線を横切った。
反応が遅れれば、敗北に繋がるだろう。
[血騎士] ……ぐ、っ!
血騎士が一歩よろめいた。
鮮血を操るそのアーツは、英雄の身体をとうに干上がらせていた。
[血騎士] ……耀騎士。
[血騎士] カジミエーシュに留まり……この地で、長く……灯台の火を、灯し続ける覚悟はあるか?
[マーガレット] 故郷へと戻ってきた時には――
[マーガレット] ――既に覚悟はできていた。私は、絶対に逃げたりしない。
[血騎士] ……ならば、良し。
[血騎士] 思い残すことは、何もない。――来るが良い。
[マーガレット] ……わかった。
[代弁者マルキェヴィッチ] ……申し訳ありません、Dr.{@nickname}。
[代弁者マルキェヴィッチ] この決闘には……意味がないのです。
[ビッグマウスモーブ] …………!
[感染者騎士] ……血騎士への……敬意を、表して……
[感染者騎士] ――英雄を、讃えよ!
[燭騎士] ……騎士よ……騎士たちよ。
血騎士が空を見上げる。
彼はもう、身じろぎ一つできなくなっていた。
高く広がる夜空。
移動都市が明かりなき夜を忘れ去ったとしても、血騎士はそれを覚えている。
夜というものが、いまだ一瞬たりとも……都市に屈したことなどないことを、彼は覚えているのだ。
[血騎士] ……耀騎士……貴様の、勝ちだ。
鮮血が地面に滴り落ちていく。
その原形をとどめさせるほどの力が残っておらずとも、血騎士は今にも崩れそうな武器を手にしたままだった。
[血騎士] ……
[血騎士] ……っ……! 貴様、何をして、いる……勝者が……敗者を、支えてやる、など……
[マーガレット] ここに……敗者など、いないだろう……血騎士。
[血騎士] ……
[ビッグマウスモーブ] つ、つつ……ついに!! この戦いに決着がつきました!!
[ビッグマウスモーブ] 最後に立っていたのは――いえ、正しくは、血騎士が倒れないように支えているのは――耀騎士です! まさか、血騎士が誰かに支えられる日が来ようとは!!
[ビッグマウスモーブ] 現在、審判団が判定を行っております。つい先ほどまで、両者のポイントはほぼ同点でしたが――しかし! 血騎士が戦闘不能となったのならば――
[ビッグマウスモーブ] ――導かれる結論は明白ですっ!
[ビッグマウスモーブ] カジミエーシュ騎士メジャー第二十四回大会、決勝戦を制したチャンピオンは――
[ビッグマウスモーブ] ――耀騎士! マ~~ガレット・ニア~~~~ル!!
[モニーク] ――行動開始。
[モニーク] 各小隊、予定通りに潜伏しなさい。別働隊は会場に進入。ターゲットはマリア・ニアールと鞭刃騎士よ。
[モニーク] 人混みを上手く利用して――
[ロイ] ……大歓声じゃねーの。ったく、耳がおかしくなりそうだぜ。
[ロイ] 騎士ってのは人気があって、羨ましいねえ。
[トーランド] そうかい? 大して人気のねえ騎士もいるもんだぜ。
[ロイ] ほーう、そいつは誰かさんのことを言ってるのか?
[トーランド] さあて、どうだろうな。……まあ、騎士の旦那方なんてのは、いつもお高く止まりやがって、つくづくうぜえ連中ばっかりだ。そうだろ?
[ロイ] 言うじゃねーの。ところでちょっと不思議なんだが、普段あんな生活してるあんたらバウンティハンターが、どうやって騎士に出会ったってんだ?
[トーランド] あ~、それを話すにはまず事の経緯からってことになるな。……俺らは昔、元々住んでた町をウルサス人の砲火でぶっ壊されちまってよ。それ以来、狩猟生活のハンター集団になったんだ。
[トーランド] ――んで、ある雨の夜のこと、俺たちは一匹の裂獣を追っかけてたんだが……夜が明けてみりゃ、とある「騎士」に先を越されちまってたんだ。
[ロイ] 面白そうな話だな、それでそれで?
[トーランド] その騎士は輝く金髪の若い男で、顔についた血を雨で落とすなんてキザな真似してやがってさ。俺たちはそいつに聞いたんだ。騎士がどうしてこんな所にいるんだよ、ってな。
[トーランド] そしたらそいつ、なんて答えたと思う?
[ロイ] ……わかんねえや。なんて答えたんだ?
[トーランド] 「私は騎士ではなく、一介の遊侠にすぎない」だってよ。そんで続けて、「お前たちこそ何者だ」、とか聞いてきてな……
[ロイ] ……
[モニーク] チッ……
[ロイ] あ~れえ? モニーク先生、なんで空から降ってきたんだ? お前の行動ルート、こっから結構離れてたと思うんだが……
[ロイ] しかも、ケガまでしてるみてえだし?
[モニーク] ロイ、無駄口利かずに手伝うか、辞表残してバイバイするか、さっさとどっちか選んで。
[ムリナール] ……
[ロイ] おっと、こいつはどういう風の吹き回しだ? 我らが「遊侠」さんのご登場とはなあ。
「ラズライト」――ロイが体勢を整えようとした時、その肩に手がかけられた。
その手の主はサルカズだった。
[ロイ] ……
[トーランド] ハハッ、「遊侠」ねえ。俺はあの時、こいつは何をカッコつけてやがんだと思ったもんだ。
[トーランド] だから「何者だ」って聞かれたとき、こう答えてやったのさ――
[トーランド] ――「今、お前の目の前にいる男こそが、カジミエーシュ最強のバウンティハンターだぜ」ってな。
[歓声] 耀騎士! 耀騎士! 耀騎士!
[ビッグマウスモーブ] 数ヶ月前であれば、どのメディアもこの結末を予想だにしなかったでしょう! 今大会の頂点を勝ち取ったのは、この競技場に衝撃的な復活を果たした、耀騎士マーガレット・ニアール!!
[ビッグマウスモーブ] 試合を終えた今、会場には歓声が割れんばかりに鳴り響き! 本日の賞金プールはといえば、前代未聞の金額に達しています!
[ビッグマウスモーブ] 伝説となることが定まっている耀騎士の偉業が、彼女に巨万の富をもたらしたのです!!
[ビッグマウスモーブ] さて、ここで――本日! 商業連合会より、皆様に重大なお知らせがございます!
[ビッグマウスモーブ] 騎士協会が昨日正式に確認を行ったある事実について――明日、改めて会見を開く予定ではございますが、取り急ぎ! 今この場で、真実をお伝えしなければなりません!
[ビッグマウスモーブ] 六年前! 耀騎士は、騎士協会から「感染者であることを隠匿していた」と判断され、追放を受けました! しかし今日、ついにそれが冤罪であったことが証明されようとしております!
[ビッグマウスモーブ] なんと、このすべては、悪人による陰謀だったのです! 彼らは騎士協会を買収して偽証させ、耀騎士を強制的に追放したという事実が判明いたしました!
[ビッグマウスモーブ] ここに、騎士協会及び国民議会、そして商業連合会を代表して、耀騎士に関する告発をすべて取り下げることを宣言すると共に――
[ビッグマウスモーブ] ――耀騎士は! 我らがチャンピオンは! 感染者ではないということをお伝えさせていただきます!!
[アーミヤ] ……! ドクター……!
[ドクター選択肢1] ……こう来るだろうとは思っていた。
[ドクター選択肢2] ニアールには、この可能性について忠告しておいた。
[ドクター選択肢3] これも、マーガレットの希望だ。
[アーミヤ] ……では、まさか……ドクターはわざと……?
[シャイニング] ……ドクターは、ニアールさんがロドスを離れる前に……この件に関連して起こりうる、あらゆる可能性をお伝えしていました。
[シャイニング] ですが、彼女は……「本心に背いて、世間から真実を隠すような真似は、名誉ある行いとは呼べないだろう」と仰ったのです。
[シャイニング] 連合会がこれを脅しに使って来ずとも、ニアールさんは……いずれこの真実の証明を、ロドスに求めていたことでしょう。ですから――
[シャイニング] ――待ってください。
[無冑盟構成員] ……
[老職人コーヴァル] クソッ! よりによって今これを公表してくるとはな……連合会の連中、感染者同士の仲違いでも狙ってやがんのか……!?
[老騎士フォー] まずいことになったのう。本当は非感染者だった耀騎士が、感染者の英雄・血騎士を倒した、となると――
[マリア] ……まるで……みんなを騙してたみたいに思われちゃう……
[ゾフィア] ど、どういうこと? マーガレットは感染者じゃない、って……
[禿頭マーティン] ……
[禿頭マーティン] 事実だよ。当時、まだ若く血気盛んだったマーガレットを守るために……ニアールの旦那は一計を案じた。彼女が感染者だということにして、追放という形で遠ざけたのさ。
[マリア] お……お祖父ちゃんがやったことだったの?
[禿頭マーティン] ああ。そのことは、マーガレット自身も知らなかったんだが……それでも、彼女は自分が本当に試合中に感染したものと思い込み、事実として受け入れたんだ。
[禿頭マーティン] だが、鉱石病かどうかは、本人の体が一番知ってる。あれから何年も経っているし、彼女はとっくに真相に気付いていただろう。
[マリア] ……お姉ちゃん……
[無冑盟構成員] (小声)――今だ、やれ!
[アーミヤ] させません!
[無冑盟構成員] なっ――! 俺の短刀が! い、今何に吹っ飛ばされたんだ!?
[無冑盟構成員] チッ、何やってんだよ! もういい、俺が行く!
[ゾフィア] ――無冑盟!? ッ、危ない! マリア!
[マリア] えっ?
ゾフィアがマリアを庇い立つ。
無冑盟の刺客はそこへ、短刀を高く振り上げた。
[シャイニング] ……卑劣な真似をしますね……殺し屋さん。
[無冑盟構成員] ――ッ!?
[ゾフィア] ……! け、剣の柄で、戦ってるの……?
[無冑盟構成員] このっ――!
[シャイニング] ……ここで戦えば、罪もない人を傷つけてしまうことになります。
[シャイニング] おとなしくしてもらえませんか。
[老騎士フォー] ――わしに任せよ!
[無冑盟構成員] う、ぐっ……!
[マリア] あ、ありがとう、シャイニングさん……
[感染者騎士] おい、どういうことなんだ!? 耀騎士は感染者じゃないのか!?
[感染者騎士] そんな……う、嘘だろ……!? あの人は、感染者のために戦ってるんだとばかり思ってたのに……!
[観戦する騎士] 耀騎士は、俺たち皆を騙していたのか……?
[マーガレット] ……
[血騎士] 謀られたようだな。
[マーガレット] ……ああ。――かつて、カジミエーシュを去ってすぐに気が付いたんだ。
[マーガレット] 鉱石病は呪いに等しいものであるにもかかわらず、私の身体には……何の兆候もないことに。
[マーガレット] そうして、悟った。お祖父様は、先鋭的すぎた私を守るために、あえてカジミエーシュから去らせたのだ、と。
[マーガレット] ……「耀騎士」に「問題」がなくなるまで、商業連合会は諦めないということだろうな。
[血騎士] ……げほ、ごほっ……ごほっ……
[マーガレット] 無理はするな。さあ、肩を貸そう。
[血騎士] ……感謝、する……
[マーガレット] ……あなたの病状がそこまで重くなければ、勝敗は違っていたかもしれないな。
[血騎士] それを、語ったところで……詮無きことだろう。……そも、俺が感染者のためにここまで戦ってきたのが、負けた時に鉱石病を言い訳にするつもりだから、だとでも?
[マーガレット] ……いいや。
[血騎士] ……感染者たちは、貴様を……信じはしない、だろう。
[血騎士] 連合会の、やり口は……巧妙だ。……大衆の中、貴様に……威信を打ち立て、させることなく……不義の者に、仕立てるとは。
[マーガレット] ……あなたも、私を不義の者と思うか?
[血騎士] 俺が……か? は、はっ……
[血騎士] 感染者のために戦う、感染者と……感染者のために戦う、非感染者……どちらが、高尚だと言うんだ?
[血騎士] ……この道理を……解する者も、あるだろうが……世論は、偏った意見のほうを、焚きつける……貴様は、今後……苦難を、強いられることだろうな……
[ビッグマウスモーブ] 六年越しの真実に、会場の皆さんも驚いていらっしゃるようですが――おっと! ここで審判団の結論が出ましたので、耀騎士の勝利が確定いたしました!
[ビッグマウスモーブ] 耀騎士マーガレット・ニアールへの授賞式は二時間後! チャンピオンウォールにて執り行われる予定となっております! 今宵はカジミエーシュ中がチャンピオン戴冠を祝す夜となることでしょう!
[ビッグマウスモーブ] そしてそして! 明日は、メジャー閉会式が開催されますので、皆さんそちらもどうか決してお見逃しなく!
[マーガレット] ……ディカイオポリス。
[血騎士] 何だ?
[マーガレット] ……受賞の地は、騎士のためにあるはずだろう。
[血騎士] ……無論、抗議行動としてセレモニーを、欠席することもできるだろうが……
[マーガレット] いいや、それではただ逃げているだけだ。カジミエーシュを去ったあの時と同じようにな。
[血騎士] ではどうするつもりだ?
[マーガレット] 共に向かうんだ。あなたと私で。
[血騎士] ……
[血騎士] ふ、はは……はは、はっ……面白い。
[血騎士] ……良いだろう。
[ビッグマウスモーブ] それでは、式の進行役に――って……えっ? ま、待った! これは一体……どういうことでしょう!?
[ビッグマウスモーブ] 耀騎士が進行役を無視して……血騎士を支えながら、競技場の出口へと向かっていきます!
[ビッグマウスモーブ] 何を意図した行動なのでしょうか!? まさか、耀騎士は、血騎士とチャンピオンの座を分かち合うつもりだとでも言うのか~ッ!?
[感染者騎士] クソッ……非感染者なのがバレたからって、こんな手で償おうとでも思ってんのか!?
[感染者騎士] 卑怯だぞ、耀騎士! 感染者を裏切りやがって!!
[ビッグマウスモーブ] ――耀騎士は! 我らがチャンピオンは! 感染者ではないということをお伝えさせていただきます!!
[グレイナティ] ……何……?
[イヴォナ] 耀騎士は……感染者じゃない、だと……!?
[ユスティナ] ……
[ユスティナ] …………
[イヴォナ] ユ、ユスティナ、大丈夫か……?
[ユスティナ] ……平気。少し、驚いただけ。
[ユスティナ] これは……商業連合会が嘘をついてるのかな?
[ソーナ] ……いいえ、そうは思えないわ。
[ソーナ] 感染者であることを隠しておくのは難しいし、わざわざそんな嘘をつくのは合理的じゃないもの。
[ソーナ] ……だけど……耀騎士が、感染者じゃなかったとして……
[ソーナ] それなら……彼女はどうして、あたしたち感染者のために戦っていたの?
[無冑盟構成員] モニーク様! 耀騎士と血騎士が競技場を離れました! 二人を止めるべきでしょうか? ご指示を――
[無冑盟構成員] ……モニーク様? ……聞こえますか?
[無冑盟構成員] ――な、なんだ!? 競技場からか!? 一体、何が起きてるんだ……?
[プラチナ] チッ……なにが「三人で十分だ」よ。私の矢を、爪楊枝でも折るみたいに……
[無冑盟構成員] あいつ、たった一振りで、柱を斬ったのか……!? あの柱が特別脆かったとかじゃ……ないよな……!?
[プラチナ] ビビってないで、撤退するよ。大部隊に合流しないと。
[プラチナ] 融通利かない真面目集団だっていうのが、「銀槍のペガサス」の唯一の弱点だからね。お陰で連中の行動はそこまで柔軟じゃないし、それを利用するんだ。
[ビッグマウスモーブ] うおわあっ!? な、何事でしょうか!? 突如として壁が破壊されました!
[ビッグマウスモーブ] (あれは……嘘だろ、無冑盟か!? どうしてお客がまだいるのに騒ぎなんか起こしてるんだ!?)
[ビッグマウスモーブ] か、観客の皆さん! どうか落ち着いてください! 警備員! 観客の避難誘導を――!
[ロイ] ――そういや、あんたらニアール家の騎士ってみーんなピカピカ光るもんだと思ってたけど……あんたはそうでもねえのかな?
[ムリナール] ……
[ロイ] なあ、ムリナール。マジな話、あんま関わんないほうがいいぜ? あんたは騎士ですらねえわけだしよ……この大騎士領でまだ暮らしてくつもりだったら、商業連合会の怒りを買うのは……
[ムリナール] ……十年だ。
[ロイ] ――はあ?
[ムリナール] これまで十年勤めてきたが、私はプライベートな事情で休みを取ったことなどほとんどない。
[ムリナール] 言い換えれば、今、私には三ヶ月分の有給休暇が溜まっているということだ。
[ロイ] ……
[モニーク] ……チッ……そうやってチョロチョロ逃げ回られるとうざったいんだけど。何なのよ、このクソ賞金稼ぎ……
[トーランド] あっはは、失敬失敬。しかし、ムリナール・ニアール様が休暇の話をなさるたあ、随分ブラックなジョークがあったもんだなあ。
[ムリナール] ――それから、もう一点。
[ロイ] ――うん?
光が、ラズライトの視界を横切った。
林間を抜ける朝風のように、激しさはなく、目立ちもしない……湖の揺らめきに飲まれてしまうほどの光。
しかし次の瞬間には、ムリナールの剣は、ラズライトの首筋に当てられていた。
[ロイ] ……ッ!
[ムリナール] ……ニアール家の人間が、騎士であるか否か。それを決める権利など……お前たちにはない。
[ロイ] ……ハハッ、だったら誰が決めるってんだ?
[ムリナール] ……さてな。少なくとも、私に叙勲する権利など、カジミエーシュには存在しないことは確かだ。
[マーガレット] ……まだ歩けそうか?
[血騎士] まあ、な……しかし、貴様……この行動の、意味することを……考えてあるのか?
[マーガレット] ……これは、「騎士」という称号を、彼らから取り戻すためだけの行いだ。
[観光客] あ、あれって……血騎士と耀騎士か!?
[観光客] このままチャンピオンウォールまで行くつもりなのかな? あっ、そうだ、今のうちに写真撮っちゃおうよ!
[プラチナ] ……状況は?
[無冑盟構成員] ラズライトのお二人と連絡がつきません……それに、耀騎士と血騎士のほうは、チャンピオンウォールの展示ホールへと少しずつ移動しています……!
[プラチナ] ……
[代弁者マルキェヴィッチ] ……
[企業職員] ……代弁者様。耀騎士と血騎士が、二人で展示ホールへと向かっています……! 理事会は、このことで大変おかんむりでして……
[代弁者マルキェヴィッチ] ……無冑盟に、二人を止めさせてください。そうしなければ後々、二人とも連合会の敵と見なされてしまうことになりますから……
[代弁者マルキェヴィッチ] ……これは、二人のためなんです。
[企業職員] わかりました。……と、そういえば、あなた宛てにお手紙が届いていますよ。今朝来ていたのですが……
[代弁者マルキェヴィッチ] ――手紙、ですか?
[企業職員] はい。トランスポーターいわく、署名には「君の友人」とあるそうで……
[代弁者マルキェヴィッチ] ……そこに置いておいてもらえますか。先に出ていてください。
[企業職員] ……? はい、わかりました……
[代弁者マルキェヴィッチ] ……Dr.{@nickname}……これ以上、貴殿のお役に立てないことが残念でなりません。
[代弁者マルキェヴィッチ] どうか、お許しください。あなたの手紙を見る勇気さえ持てないことを……お許しください。
[代弁者マルキェヴィッチ] ……おそらく、あなた方が無事に大騎士領を去った時に……私はようやく、お返事をする資格を得られるのでしょうね。
[マーガレット] ……
[血騎士] この、道は……こうも、長かったか?
[マーガレット] あなたのケガを思うと、あまり早くは歩けないからな。
[血騎士] ……
[感染者騎士] ……っ、見てくれ! 向こうに……!
[無冑盟構成員] この通り一帯を封鎖しろ!
[無冑盟構成員] ……耀騎士、そして血騎士……あんたたちには今、無数のクロスボウが狙いを定めている。だからおとなしく……引き返してはもらえないか?
[無冑盟構成員] 頼むから、連合会の言うことを聞いてくれ。我々も、二人のチャンピオンには手を出したくないんだ。
[血騎士] ……どうやら、俺たちが共に歩めるのは……ここまでのようだな。
[血騎士] 行け。――俺は、随分と長いこと、頭を垂れるばかりだった……だがこうなれば……俺が、奴らに思い知らせて――
――その時、一本の矢が飛び――耀騎士たちと無冑盟たちとの間に突き刺さった。
[無冑盟構成員] ……っ、誰だ!?
[ジャスティスナイト] “Di-di-di-di”!! “Di-di”!
[無冑盟構成員] !? あれは――
[イヴォナ] よそ見してんなよ、クソ無冑盟が!
[無冑盟構成員] ――敵襲だ! 感染者が来た! 矢を放て!!
[グレイナティ] その矢――我らがチャンピオンに届くと思うな、無冑盟。
[グレイナティ] この一撃を喰らうがいい!
[無冑盟構成員] ――感染者騎士だ! 至急応援を――
[無冑盟構成員] ッ! つ、通信機が壊された――!?
[ユスティナ] ……命中。完璧だね。
[血騎士] ……
[マーガレット] ……君たちは……
[ソーナ] ……お目にかかるのは二回目よね? チャンピオンさんたち。
[ソーナ] 時間が許せば、サインの一つも貰いたいところなんだけど――
[ソーナ] とにかく今は進んでちょうだい。この道の向こうまでね。ただこの街を抜けるだけのことだけど――
[ソーナ] ――たったそれだけのことが、偉大な行いになるんだから。
[プラチナ] ……またレッドパイン騎士団か。……征戦騎士のほうは、まだ現れてないみたいだね。
[プラチナ] こんな広々した通りに堂々と現れるなんて……これじゃ、狙撃してくれって言ってるようなもの――
[???] ――動くな。
[プラチナ] ……
[シェブチック] ……ただ通すだけでいいんだ、プラチナ。
[通信機の音声] 至急応援を! 応援を求む!
[モニーク] ……これ以上、時間はかけられないわよ。
[ロイ] チッ……しゃあねえ、俺が向こうさんを食い止める。隙を見て撤退してくれ。
[モニーク] ……気を付けてね、ロイ。
[トーランド] あいつら、何をこそこそ話してやがんだ?
[ムリナール] ……
[ロイ] ……ハハ……こいつは相当、ハードワークになりそうだな。
[無冑盟構成員] 各自、配置につけ――
[グレイナティ] ソーナ! 無冑盟の増援が来た! このままだとまずいぞ――
[イヴォナ] おい! そこのお前ら、なんで手伝わねぇんだよ!
[感染者騎士] ……
[イヴォナ] けっ、ビビリのクズ野郎が……
[ユスティナ] イヴォナ! 後ろ!
[イヴォナ] ――ッ!
[マリア] ……っ、大丈夫!?
[ソーナ] ! マリア!
[マリア] ソーナ、助けに来たよ!
[無冑盟構成員] ――マリア・ニアールか! くっ、奴らを――
[ゾフィア] ……奴らを、なんですって? マリアには手出しさせないわよ!
[老騎士フォー] コーヴァル、準備は良いか!
[老職人コーヴァル] おう、ばっちりだ!
[無冑盟構成員] このッ――奴らを囲め!
[無冑盟構成員] ――なんだ? どうして、武器が震えて――
[禿頭マーティン] ははは……どうしてだろうねえ?
[代弁者マッキー] ……耀騎士のお陰で、連合会のメンツは丸つぶれだ……!
[代弁者マッキー] 残りの無冑盟は全員揃っているか? ……あのサルカズ騎士の二人組は?
[無冑盟構成員] ナイツモラの暗殺に失敗したあと……し、失踪しまして……
[代弁者マッキー] ……まあいい。君たちはすぐに応援に向かってくれ。何としても、耀騎士と血騎士を止めるんだ。
[代弁者マッキー] たとえ命を奪うことになっても――
[燭騎士] ――マッキーさん。
[代弁者マッキー] ……!
彼女は蝋燭を手にしていた。
美しい、蝋燭の火を。
[燭騎士] お二人の邪魔は、なさらないでください。よろしいですね?
[無冑盟構成員] 第七・第八小隊、到着!
[無冑盟構成員] 野次馬が増えてきたが……仕方あるまい。お前たちは、遠距離から耀騎士・血騎士両名への狙撃準備を――
――そこへ、足音が聞こえた。
野次馬、騎士、無冑盟、それと戦うレッドパイン騎士団……すべての人が、同時に動きを止める。
騒ぎ回っていた子供が、音を立てて目の前を横切る列車を見た時のように。
[ソーナ] ……あれは……
[イヴォナ] ――「銀槍のペガサス」!
[無冑盟構成員] ……
無冑盟たちは無意識のうちに武器を下ろし、攻撃を止めていた。
場の空気は、息苦しいほどに重く――軽率に動けば、たちまち死を招くことになるだろうと思わせたからだ。
[「銀槍のペガサス」] ……
[「銀槍のペガサス」] ……マーガレット。
[マーガレット] その声は……ライムおじさん?
[マーガレット] しかし、あなたはもう……
[「銀槍のペガサス」] ……今からでも、考え直す気はないか?
[マーガレット] ……「軍人は国家の一部だ」。
[マーガレット] 「ゆえに遂行するのは職務であり、正義ではない」。
[マーガレット] だからお受けできないと、お答えしたはずだ。
[「銀槍のペガサス」] ……確かに。一人の感染者を支え、都市を往くことは……私には、できようもないな。
[血騎士] ……
[「銀槍のペガサス」] ――全隊に告ぐ。
[「銀槍のペガサス」] これより――耀騎士及び血騎士、両名をチャンピオンウォール内、展示ホールまで護送する。
[ラッセル] 一筋の道ができていく……
[ラッセル] ……たくさんの人、たくさんの物事が、あなたの周りに集まりつつあるのね。
[ラッセル] まるで、昔のあなたのようねぇ。
[モニーク] ――耀騎士の現在地を報告して。
[無冑盟構成員] モニーク様! よ、よかった……! ようやく繋がっ――
[モニーク] いいから早く!
[無冑盟構成員] ひっ! は、はい! あと十分ほどでチャンピオンウォールへ到着する辺りです――が、銀槍のペガサスが隊列を組んで二人を護送しており、我々では手の出しようが……!
[モニーク] ……私が耀騎士を殺る。ただし、チャンスは一度きりよ。
[モニーク] 狙撃位置がバレたら最後……銀槍のペガサスなら、槍を投げるだけで建物をぶち抜くくらいしてくるもの。
[モニーク] だからあんたたちは、精一杯銀槍の注意を逸らしなさい。
[無冑盟構成員] はい!
[アーミヤ] ……大騎士長さん。
[ラッセル] あら、アーミヤちゃん。ふふ、どうぞこちらへ。カジミエーシュでの時間は、悪くないものでしたかしら?
[アーミヤ] ……はい。
[アーミヤ] ドクターのお陰で……多くの問題を、解決できましたから。
[ラッセル] 確かに、ロドスが商業連合会との仲立ちをしてくださらなければ……零号地の件は、平和的な終わりなど迎えられなかったことでしょう。私からも、皆様へ感謝を申し上げます。
[アーミヤ] いえ、これは私たちの責務ですので。
[ラッセル] ところで……Dr.{@nickname}。実は監査会宛てに、いくつかの企業から突然、零号地関係の申請があり、それがあの地を調査する「機会」を与えてくれたのですが……
[ラッセル] もしや、これはあなたのご功績なのでは?
[ドクター選択肢1] いや、あなたの功績とも言える。
[ドクター選択肢2] 監査会が求めていることを推測したまでのことだ。
[ドクター選択肢3] 我々の息が合っていたからこそ、できたことさ。
[ラッセル] ふふ……そうですか。ところで、グラベルはきちんと責務を果たしていたでしょうか?
[グラベル] ……
[アーミヤ] はい、それはもう!
[アーミヤ] グラベルさんがいてくださって、とっても助かりました!
[ラッセル] それは何よりです。……もしかすると、グラベルにもそろそろ、経験を積ませるべき時が来たのかもしれませんね……
[ラッセル] まあ、そのお話はまた後ほどといたしましょう。――そちらのサルカズのお二人……シャイニング女史とナイチンゲール女史、でよろしいかしら?
[シャイニング] ……はい。我々に、何か……?
[ラッセル] このホールでサルカズの方をお見かけするのは、本当に珍しいことですが……それはさておき。――耀騎士を迎えに行ってやってくださいませんか。あの子には、手を貸してくれる人が必要なのです。
[ラッセル] どうか、お願いします。
[マーガレット] ……見えてきたぞ。
[マーガレット] あの煌びやかな展示ホールが、目的地だ。
[血騎士] ……
[血騎士] フ……ハハ、ハッ……勝負は、ついたというのに……敗者と、勝者が……共に、表彰台へ向かう……か。
[血騎士] ……理事会の、連中は……今頃、怒り狂っている……だろうな。
[マーガレット] ……かもしれないな。
[血騎士] もし、俺が――
[血騎士] ――ッ! 危ない!
ラズライトの矢が、夜の帳を引き裂いた。
それは一瞬にして、マーガレットの眼前まで迫り――
――しかし――
マーガレットに触れたのは、その矢ではなく、温かな手だった。
[シャイニング] ……ニアールさん。お力になりましょうか?
[血騎士] ……貴様は……っ、うっ……
癒やしの息吹が、その空間に満ちていく。
故郷と同じ青色が、空を駆け回る羽獣のように、サルカズの肩へと降り立った。
そしてシャイニングは、ある方向を見やり……僅かに口を動かす。
[モニーク] ……「四本目」、って言いたいんでしょ?
[モニーク] ほんと……恐ろしい相手だわ。
[血騎士] ……サルカズ。貴様と耀騎士は……どういった関係だ?
[シャイニング] 我々は、仲間同士なんです。
[ナイチンゲール] 行きましょう、ニアールさん。
[マーガレット] ……ああ。
[ラッセル] ようこそ、マーガレット。そしてディカイオポリス。
[血騎士] ……大騎士長閣下……
[血騎士] なんとも、稀有な光景だ……記者もいなければ、フラッシュも焚かれない、チャンピオンウォールとは……
[ラッセル] 彼らには、征戦騎士を乗り越えてインタビューに来る度胸なんてないでしょうから。
[ラッセル] 今夜ばかりは……カジミエーシュのチャンピオンウォールを、騎士だけのものにしておけるわ。
[マーガレット] ……むしろ、皮肉めいて聞こえますが。
[ラッセル] ……この展示ホールは、騎士競技が発達する以前から存在していたものなの。昔は、英雄の遺物を保存する博物館で……
[ラッセル] もう、ずっと昔のことだけれど。
[マーガレット] ……
[ラッセル] ――あなたの気持ちは、やっぱり変わらないのね。
[マーガレット] はい。
[血騎士] ……マーガレット……貴様……
[ラッセル] ……そう。なんだか、あなたのお祖父さんを説得できなかった、あの時を思い出すわね……さあ、こっちへいらっしゃい。もっとよく顔を見せてちょうだい。
[ラッセル] ……キリルの孫娘が、こんなに大きくなるなんて……本当に、あなたは彼によく似てるわね。きっと、キリルも……喜んでいると思うわ。
[ラッセル] ……マーガレット。あなたのしようとしていることは、今の時代とは逆行している。
[ラッセル] 軍人、貴族、あるいは競技のスーパースター……それらの地位はどれもあなたには必要ない。
[ラッセル] けれど、ここからが本当の始まりよ。これまでに越えてきた波乱はどれも小さなものだった。あなたは今ようやく、真に越えるべき巨大な波にぶつかろうとしているの。
[ラッセル] ……日が昇ってきたわ。夜明けの時ね。
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