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ニアーライト_NL-4_詩の容貌_戦闘前
感染者騎士たちは再び大分断を引き起こす準備を整え、ロドスは連合会との駆け引きを続けている。そうした状況の中、マーガレットと燭騎士の対決の時が来た。
[ゾフィア] ヴィヴィアナ・ドロステ――彼女は、騎士競技に初めて参加した際に「微光騎士」の称号を得た。それから三年後、メジャー初参戦時に大騎士となり、新たに「燭騎士」の称号を与えられたの。
[ゾフィア] 才能の面で言うと、彼女は史上最年少の十大騎士の一角だし……実力の面で言えば、今もなお着実に成長し続けている、侮れない相手よ。
[ゾフィア] ……って、マーガレット? 聞いてる?
[マーガレット] ……ああ。なんだか、少し懐かしくなってしまってな。
[マリア] ゾフィア姉さんとお姉ちゃんは、前もこんなふうにメジャーを迎えたの?
[ゾフィア] あの時はね……ふふっ。
[ゾフィア] 誰かさんったら、試合が終わるといつも姿が見えなくなってね。そういうときは、部屋にこもって対戦相手の研究をしてるか、剣術を鍛えるためにこっそりムリナールのところへ行っていたものよ。
[ゾフィア] マーガレットが初めて勝った時なんて、ここで打ち上げしようって約束してたのに……この子、それを忘れちゃってたの。
[ゾフィア] それでやっと見つけたと思ったら、マーガレットってば、中庭でケガした体を引きずりながらアーツを試していたのよ……
[ゾフィア] そういえば疑問だったんだけど、あれって、痛くなかったの?
[マーガレット] ……私のアーツも、痛みは和らげられるからな。だから……
[ゾフィア] そうは言っても、応急処置みたいなものでしょ。アーツでなんでも治るのなら、現代医学に価値なんてないわけだし。
[マーガレット] ははっ……否定はしない。
[マーガレット] 実際、私自身も素晴らしい医者をたくさん知っている。彼らの技術のおかげで、他人を救うことは夢物語ではなくなったのだ。
[ゾフィア] ……それって、ロドス製薬の人たちのこと? それとも、あの二人のサルカズさんたちかしら?
[マーガレット] その両方だ。彼らは皆、苦難と戦う者たちだからな。
[マリア] そういえば……シャイニングさんとナイチンゲールさんは、ロドスの人たちと合流したんだよね?
[マリア] 今頃、どうしてるのかな……
[マーガレット] ……私は彼らを信じている。この大騎士領においても、彼らであれば感染者を救うために最善を尽くしていることだろう。
[マーガレット] ……とはいえ、私が今為そうとしていることは、ロドスの意志とは関係がない。この責任を、彼らにまで負わせるわけにはいかないんだ。
[マーガレット] だからこそ、私はロドスを離れたのだしな。
[マリア] お姉ちゃん……たまには自分自身のことも考えないとダメだよ。
[ゾフィア] 君が言えたことじゃないでしょ、マリア。無茶ばっかりすることに関しては、負けず劣らずよ。
[マリア] ……あ、あははは……
[ゾフィア] まあ――とにかく、よ。
[ゾフィア] このあとはどうする? 今の君には、トレーニングなんてしたところで最早大した意味はないでしょうけど……
[ゾフィア] でも、数年ぶりに大騎士を相手にするんだし、適度に運動してベストな状態に戻しておきたいわよね?
[マーガレット] そうだな。よろしく頼む。
[ゾフィア] うん。よし!
[ゾフィア] マリア、こっちへ来なさい。
[マリア] え……えっ!? そばで見てるだけじゃダメ……?
[ゾフィア] 見てるだけでいいなら、装備を持ってきてなんて言わないわよ。そもそも、前回の結果見たでしょ? 私一人で耀騎士の相手をさせるつもり?
[マリア] ううっ……そうだけどぉ……
[マーガレット] ゾフィア、もしマリアが嫌がっているようなら……
[ゾフィア] 君もそうやって甘やかさないの!
[マーガレット] ……わかった。
[マリア] お、お姉ちゃんと手合わせするの? そんなの、やったことないんだけど~……
[ゾフィア] 前にマーガレットが参加した時、君はまだ子供だったものね。ま、子供なのは今もだけど。
[ゾフィア] ――マリア。
[マリア] は、はいっ!
[ゾフィア] 耀騎士に見せてやりなさい。独立騎士マリア・ニアールが、左腕騎士にどうやって勝利を収めたのかを。
[マリア] ……うん!
[マリア] お姉ちゃん……よろしくお願いします!
[マーガレット] ……
[マーガレット] ……ああ。
マリアの目を見ながら、耀騎士はふとある人の言葉を思い出した。
妹さんは、騎士の道へ進むことをやめられたのですか?
――私が、そうさせてしまったのだろうか?
[ムリナール] はい……はい、承知しております。来週の会議は確認済みです……ええ、必ず出席いたします。
[ムリナール] 引き継ぎ業務はしっかりと行いますので、はい、申し訳ありません……ああ、いえ……耀騎士とは無関係です。私は変わりなく、社の一員ですので、いただいた仕事は責任を持ってこなします。
[ムリナール] ……無論、私の血筋や身分とは無関係です。そのようなご冗談を仰るのはおやめください。まったくの別件ですから……
[ムリナール] はい、ありがとうございます……では、来週の会議で。
[ムリナール] …………
[トーランド] いやあ、寂しいねえ~。いかにも孤独じゃないか、ムリナール君?
[トーランド] そういや、耀騎士とその妹は留守みたいだな。いつもこんなふうなのか?
[ムリナール] トーランド、私の部屋の絨毯を踏むことは許してないぞ。
[ムリナール] 無冑盟がお前の動向に目を光らせているようだが、私を巻き込むつもりか?
[トーランド] まっさかあ~。安心しろって、そこらの雑魚には俺の追跡なんか務まらねえよ。神出鬼没の大物殺し屋さんたちでもなけりゃ、到底無理な話さ。
[トーランド] つってもまあ、都市はあいつらの縄張りだし、流石に連中が出張ってきたら太刀打ちはできねぇかもしれないが……俺を捕まえようったって、そう簡単にゃあいかせねえよ。
[ムリナール] 褒めてくれとでも言うつもりか?
[トーランド] そ~んなそんな、滅相もない。騎士様からお褒めの言葉を賜るなんてのは、俺みたいな下々の人間からすりゃ恐れ多いことだよ。
[ムリナール] ……私はもう騎士ではない。
[トーランド] へえ。耀騎士が称号を取り返した今でもそうだってのか?
[ムリナール] ……面の皮が厚い奴だ。
[ムリナール] 一体何をしに来た?
[トーランド] なあ、騎士様よ。俺が大騎士領まで来たのはお前のためだけじゃないんだぜ? ……ま、正直、お前をなんとか説得して味方になってもらえりゃ百人力! とは思ってるんだけどさ。
[ムリナール] 残念だったな。その件はもう結論が出ているだろう。
[トーランド] 薄情だねえ~。俺は必死でニアール姉妹を守ってやったってのに、それでもダメだってのか?
[ムリナール] ……ああ。それでも、だ。
[トーランド] ……しゃあねえ、わかったよ。
[トーランド] お前は本当に変わっちまったのかもな、ムリナール。……だが、この話だけはしとこうか……
[トーランド] 今日、カヴァレリエルキの外縁部を通りかかったんだが……あの区画は元々、別の都市に属してたはずだったよな?
[トーランド] ――若い頃、一緒に大騎士領へ戻った時に見た光景を覚えてるか?
[トーランド] 難民や貧民たちが都市の外に建てたキャンプが、延々と遠くのほうまで立ち並んでてさ。帰る家すら失った連中の顔を、夜のかがり火が照らしてた。
[トーランド] 感染者、盗人、農民、労働者、果てには、追放されて行き場を失くした騎士貴族……そんな連中がゴロゴロいた。あれは、悲劇という悲劇をぶち込んだような光景だった。
[トーランド] 怒号や泣き声、そんなもんがそこら中で聞こえて、すぐそばで強盗や殺人が起きてるってのに、そこの奴らは少しでもよく眠ろうともぞもぞ動いてるばっかりでよ。
[ムリナール] ……
[トーランド] はは……あの時のこと、お前が忘れてないってことくらいお見通しだぜ。随分長いこと憤怒を抱え過ぎたせいで、それが失望に変わったこともな。
[ムリナール] 勝手に決めつけるのはよせ。
[トーランド] ――今夜は無冑盟どもが、感染者たちの拠点を掃除しに行くんだってよ。座標はこの紙に書いといた。
[ムリナール] 感染者騎士、か……それが私にどう関係があると?
[トーランド] そうさなあ、カジミエーシュは感染者に対して形だけは色んな道を許してはいるだろ? たとえば、剣闘士みたいに殺し合いをさせるとか……これでもウルサスよりはずっとマシだとは思うけどな。
[トーランド] 騎士になれた奴はいい。まだマシな地獄さ。だが都市建設のせいで感染した労働者、天災から逃げ損ねて感染した農民、それに騎士になろうと足掻けどなれない無力な奴らはどうなる。ひでぇ地獄だ。
[トーランド] 皆お前の目の前で悲惨な死を遂げることになる。そうなりゃ、感染者の境遇が、耀騎士を取り巻く世論に直接影響するだろうな。そうしてお前が大事にしている最後のものも巻き込まれることになる。
[ムリナール] ……私を脅す気か。
[ムリナール] ならば、お前はどうする?
[トーランド] ……俺は「適度に」手伝うぜ。本当に必要なことなら、ちょっと命を懸けるくらいはするつもりさ。
[トーランド] レッドパイン騎士団は俺たちの重要なパートナー候補だからな。俺はあいつらを引き入れたいと思ってるんだ。感染者とはいえ、彼女たちもまた「騎士様」だしよ。
[トーランド] さーて、話は終わりだ……っと、最後に言っとくぜ、ムリナール。
[トーランド] 世の中はじきに大きく動き出す。我関せず、とはいかねえぞ。
[ソーナ] さて、みんなそろってる?
[合成樹脂騎士] ……いつの間にここまで増えたんだ?
[グレイナティ] 迫害された騎士が皆、ここに集まってきているからな。
[グレイナティ] 不当な扱いを受け、抵抗を選んだのがお前だけだと思うなよ、シェブチック。
[合成樹脂騎士] ……
[感染者騎士] 「合成樹脂」シェブチック。俺はお前らのような連合会の犬に対する偏見はないが、その目にまだ抵抗の意思が見られたことを嬉しく思うよ。
[ユスティナ] ……流れに逆らう意志。このまま飲まれるだけなんて嫌だと思える気持ちが、みんなにはまだ残ってる。
[イヴォナ] ハッ、飲まれるだけならまだしも……この大波は、明らかにあたしたちをくそったれの掃きだめに打ちつけて殺そうとしてやがるからな。あいつらの思い通りにはさせねぇよ!
[ソーナ] ……計画は簡単よ。
[ソーナ] 三年前、前回行われたメジャーの前夜を覚えているかしら? 四大都市が接続したときに、中枢区画の動力炉がテロによって麻痺したわよね。
[ソーナ] スムーズな連結のために、各区画は既にエンジンを停止していた。この状況で中枢区画の電力を失えば、それぞれがそのエンジンを含む自立電力システムに切り替える必要に迫られるわ。
[ソーナ] その結果、区画同士の衝突を防ぐため、大騎士領はばらばらにならざるを得なくなった。
[ユスティナ] それが、四都大分断。
[ソーナ] ええ、そういうこと。
[ソーナ] ただ、今回の場合、あたしたちはメジャー期間中に、大騎士領中の競技場の明かりを完全に消さなければならないの。
[感染者騎士] ……何度聞いても、俺たちだけで本当に実現できるか不安になってくるんだが……
[感染者騎士] 大騎士領がそんな簡単に落ちるようなもんなら、ウルサス人はとっくにカジミエーシュを更地にしてたんじゃないのか……?
[合成樹脂騎士] それが可能となる理由は、お前たちの……「監査会のお友達」と関係しているのか?
[合成樹脂騎士] おかしな話だな。四都大分断などという醜態を再びさらすような真似を、あの監査会が許すのか……? 奴らは一体何を企んでいる?
[イヴォナ] あいつらにとっちゃ、最大の醜態なんてのは商人どもに頭の上であぐらをかかれることなんだろうよ。
[合成樹脂騎士] ……では、計画の具体的な内容を聞こうか。
[ソーナ] 明日の夜、カイちゃんがチームを率いて、大騎士領の動力センターを襲撃するわ。
[ソーナ] 普段は厳重な警戒の敷かれた場所だけど……今回は、監査会があえて警備に穴を開けてあたしたちに「つけ入る隙」を与えてくれる。
[感染者騎士] そこまでするくらいなら、監査会が自分たちでやればいいのにな。
[ソーナ] あははっ。監査会もね、一枚岩ってわけじゃないのよ。何も監査会だけじゃなくて、法律を代表する国民議会も、騎士協会も、商業連合会だってそれは同じこと……
[ソーナ] 人の心が移り変わるところなんて、何度も見てきたでしょう? 彼らがそんなに単純なわけないじゃない。
[ソーナ] ――そうそう、ユスティナ。あなたはカイちゃんについて行って。
[ソーナ] 任務を終えたら、みんなを援護して撤退。すぐに三キロ離れた連合会ビルに向かってちょうだい。シェブチックが、指定の場所へあなたたちを迎えに来てくれるから。
[ソーナ] それから、イヴォナは無冑盟への対応をお願い。
[イヴォナ] おう、望むところだ!
[ソーナ] この場所が無冑盟に目をつけられている以上、計画遂行は簡単なことじゃないわ。あなたには、奴らと戦って注意を引きつけてもらわないといけないの。
[ソーナ] だけどもちろん、「ランク」持ちの相手が現れた時は、おとなしく逃げてね。
[イヴォナ] わかった。
[グレイナティ] 無事でいろよ? 打ち上げにはあなたがいなければ、飲める奴がほかにいない。
[イヴォナ] 安心しろって。あんたがうっかり感電でもしてなけりゃ、とことん付き合ってやるよ。
[ソーナ] さてと、それじゃ最後の説明ね。とある記者たちのおかげで、商業連合会に潜入するルートを見つけたの。
[ソーナ] 連合会ビルの地下には、貨物用エレベーター入り口があって……普段それを使っているのは、トランスポーターと運搬業者だけなんですって。
[ソーナ] ――当然、その入り口にもカメラは設置されてるから、トントン拍子にはいかないけどね。
[ソーナ] でも、前回の四都大分断の時……電力が止まって、エレベーターに閉じ込められたトランスポーターが自力で抜け出したって話があるの。記者のインタビューによると――
[ソーナ] 通気口からエレベーターシャフトに入り、その中を伝って、四階の会議室まで向かったらしいわ。あたしも、これを応用して忍び込むつもり。
[ソーナ] あたしたちの目標は、最上階のコンピュータールーム。データを盗み出したあとは、あたしがなんとかしてすぐに端末にアップロードするわ。そうすればみんなはその情報を得られるし――
[グレイナティ] ――あなたが逃げ切れなかったとしても問題ない、とでも?
[グレイナティ] そんな発言は許さないぞ、ソーナ。あなたを失ってしまったら、今回の作戦が成功したとしても、無意味なものになる。
[ユスティナ] ……ソーナだけじゃない。
[ユスティナ] 電力施設の襲撃、無冑盟への応戦、どれも安全とは言えない。
[シェブチック] 今更安全性なんぞに言及するつもりか? フン……無冑盟が本気で俺たちに手を下してきたあかつきには、それは単なる狩りに等しいものになるんだぞ。
[シェブチック] 無論、そうなれば獲物は俺たちだ。……心の準備ができていない奴は今すぐ立ち去るがいい。その時になって足を引っ張られても困るからな。
[感染者騎士] 俺たちには元々逃げ場なんてないんだよ、プラスティック先生。
[感染者騎士] 準備はとっくにできてるぜ。そんなもん、はなっから必要ないとも言うけどな。
[ソーナ] あたしたちに必要なものは二つよ。
[ソーナ] 一つは、零号地の真相に関する情報。商業連合会が勝手に建てた感染者の檻……あの場所のことは、必ず白日の下にさらしてみせる。
[ソーナ] もう一つは、無冑盟のリストね。正直、監査会にもこの資料の価値は読み切れていない……最悪の場合、あのスパイ集団が仕込んだカモフラージュってこともあり得るわ。
[ソーナ] でも、そうだったとしても構わない。この二つを監査会に渡しさえすれば、あたしたちは合法的な身分を手に入れられる……これ以上他人からおもちゃにされることはなくなるの。
[ソーナ] 監査会に零号地と「無冑盟」を調査するための合理的な口実を与えられたら、それは商業連合会への何よりの打撃になるわ。
[ソーナ] ……上手くいくかどうかは、やってみないとわからないけど……
[ソーナ] ……うん! みんないい目をしてるわね!
[ソーナ] それで……あなたはどう思います? ――トーランド・キャッシュさん。
[ソーナ] ここまで盗み聞きしてたのなら、ちょっとくらい顔を出してくれてもいいんじゃないですか? イヴォナから話は聞いてますし、あなたに手出しなんてしませんから。
[シェブチック] ……なに……?
[トーランド] 呼ばれた以上はご挨拶しなきゃな。よう、感染者諸君に騎士諸兄。随分大胆な計画立ててんじゃねえか。
[シェブチック] バウンティハンター……? おい、焔尾。部外者が参加するとは聞いていないぞ。
[トーランド] お~っと、賞金稼ぎはお嫌いかい? 奇遇だなあ。実は大変遺憾ながら、俺も騎士はあんまり好かなくてよ――
[シェブチック] ……
[トーランド] ――だが、騎士の先生方ってのが皆、状況判断に優れてることは確かだしな。特に、家族のために高貴な身分を惜しむことなく捨てられるお前みたいな騎士は、尊敬してるんだ。
[トーランド] だから、お前たちをちぃっとばかしお手伝いしようと思ってよお――別に信じてくれなくたって構わねえが――例えば、連合会ビルの内部構造図をご提供するとかさ。
[ユスティナ] ……どこで手に入れたの?
[トーランド] 方法なんてのはいくらでもあるが、結局一番頼りになるのは人情なんだよ、お嬢ちゃん。
[ソーナ] 仲間に加わってくれる分には構いませんけど……そうですね、面接といきましょうか。あなたがそうする理由を聞かせてもらえます?
[トーランド] 理由? 理由ときたか……
[トーランド] そうさなあ……空を見上げると、連合会ビルが見えるだろう? 大騎士領のどんな路地裏からでもな。
[トーランド] 俺は、あれが崩れ去るのを見たいんだ。シンプルな理由だろ?
[ソーナ] ……なぜ、そう思うんですか?
[トーランド] ……お前さん、税金や天災に追い詰められた村へ行ったことはあるかい?
[トーランド] 俺はそこで、彼らが奪い合い、逃げ惑い、死んでいくのを見た。
[トーランド] そんな場所を、たくさん見てきたからさ。
[ソーナ] ……色々な経験をしてきたみたいですね。……みんなはどう思う?
[イヴォナ] ははっ! あたしの意見はわかってんだろ? 最初からこいつのことは結構気に入ってるしな。
[「ジャスティスナイト」] “Di”!
[ユスティナ] ……私は、どちらでも。
[グレイナティ] お前の判断に従おう。
[シェブチック] ……
[ソーナ] オッケー。それじゃあ……ようこそ、トーランドさん。
[アーミヤ] ドクター!
[ドクター選択肢1] アーミヤ、お疲れ様。
[ドクター選択肢2] (挨拶代わりに頷く)……
[ドクター選択肢3] 今日もこんなに遅くまで残業してたのか?
[アーミヤ] ええと……私は大丈夫ですよ。医療オペレーターのみなさんも同じように頑張ってらっしゃいますし。
[アーミヤ] それにしても……感染者騎士というのは、カジミエーシュでは特殊なケースかと思っていましたが、実態として、想像よりも人数が多いようですね。
[アーミヤ] 彼らの中には、体に野獣に噛まれた傷跡が残っている人さえいますし……だから、普通の病院は負傷した感染者を不用意に治療したくないのでしょうね。
[アーミヤ] ただ……
[ドクター選択肢1] どうした?
[アーミヤ] いえ……ただ、何かがおかしい気がするんです。
[アーミヤ] 単独で区画を使用して、感染者医療施設を設けること自体は間違いではありません。ですが、治療を受けに来るのは「騎士」だけですよね……
[アーミヤ] ただ感染者騎士に対処するだけであれば、ここまで大がかりなことをする必要はないと思います。
[アーミヤ] つまり――感染者騎士はかなりの人数ですが……この移動式プラットフォームには、どれだけの人を収容できるのでしょうか?
[アーミヤ] 医療施設以外の場所には、スタッフがいて……そちらへ近付かせてはくれません。でも、そこでは一体、何が行われているのでしょうか?
[ドクター選択肢1] わかった。こちらで気にかけておこう。
[ドクター選択肢1] グラベルに、何か知らないか聞いてみる。
[ドクター選択肢1] アーミヤはまずゆっくり休んでくれ。
[アーミヤ] ……はい! ありがとうございます!
[アーミヤ] とはいえあまり無理はしないでくださいね、ドクター。ニアールさんとの関係もあって、監査会の騎士たちは礼儀正しく接してきますが……ここはカジミエーシュの中心ですから。
[アーミヤ] そういえば、グラベルさんはどこでしょう? ドクターのそばにいらしたはずでは……?
[ドクター選択肢1] 連合会の会社について、情報が欲しいと頼んだんだ。
[ドクター選択肢1] できることなら、代弁者や協力者と面会したいと思って。
[アーミヤ] ……なるほど……ドクターのご要望でしたか……
[アーミヤ] あの商人たちとのやり取りには、どうか気を付けてくださいね。
[アーミヤ] ここ数日、騎士たちから色々な噂話を聞きましたから……
[アーミヤ] あっ、そういえば、ニアールさんについても聞いたんですよ! 治療に訪れた感染者騎士たちの中にも、ニアールさんのファンがたくさんいたんです!
[アーミヤ] 「耀騎士」がカジミエーシュでどれだけ有名な人かは伺っていましたが、まさかここまでだったなんて……
[アーミヤ] 聞いた話では、ニアールさんの妹さんも騎士競技に参加できる年齢なんだそうです。そう考えると、私よりも年上ということになりますね……機会があれば、お会いしてみたいです。
[ハイビスカス] アーミヤさん! それにドクターもいらしたんですね!
[アーミヤ] あっ、ハイビスカスさん。どうされたんですか?
[ハイビスカス] ええ~と……ちょっと言いづらいんですけど……う~……
[ハイビスカス] 今日いらしてた騎士さんたちの中に「悪魔のような治療」とか「カズデルから来た呪われし医師」とか言ってた人がいまして……
[ハイビスカス] 私たち……そんなふうな宣伝はしてませんよね? 仮に宣伝するとても、「カズデルから来た健康管理のスペシャリスト」とかじゃないですか!
[アーミヤ] ……ど、どうしてそんな噂に……私からグラベルさんと代弁者さんに聞いておきますね。
[ハイビスカス] はぁ……まあ、有名になること自体はいいことですよね。……そういえば、ここに来てしばらく経ちますが、時々同じ顔を見かけるようになってきたんです。
[ハイビスカス] あんなにしょっちゅうケガをするなんて、競技騎士もなかなか大変なお仕事みたいですね。
[アーミヤ] ……
[ハイビスカス] ただ、ちょっと気になるのが、以前手当てした重傷の患者さんをここ数日見てないことなんです。回復状況が心配で……
[アーミヤ] というと、銀灯騎士さんでしょうか?
[ハイビスカス] そうそう、そうです! 基本的な治療を終えたあと、騎士協会の人が来たので引き渡したんですが……移送先がわからないんですよ。
[ハイビスカス] って、いけない! 私、呼ばれてるみたいです! 早く行ってあげないと……アーミヤさん、さっきの件、どういうことなのか聞いといてくださいね!
[アーミヤ] ……感染者騎士たちは、いつも疲労しているように見えます。
[アーミヤ] 試合に勝って、高額の賞金を受け取ることもありますが……少しも嬉しそうな様子を見せないんです。
[アーミヤ] こうした光景を目にするのは、初めてではありません。生活が全て暴力と抑圧と血でまみれ、希望や変化の兆しを見られる余地がない……
[アーミヤ] 感染者騎士競技は……感染者を気晴らしの見世物にしているだけなんです。
[アーミヤ] ニアールさんのしようとしていることが、少しずつわかってきたように思います……
[アーミヤ] わっ……はい、どうぞ。
[アーミヤ] (ドクターはいつもこんなに忙しくしてるんでしょうか……?)
[代弁者マルキェヴィッチ] Dr.{@nickname}。以前ご相談いただいた面会につきまして、手配が整いました。
[代弁者マルキェヴィッチ] おや。もしや、お話中でしたか? お邪魔してしまって申し訳ありません。
[アーミヤ] いいえ、大丈夫ですよ。
[代弁者マルキェヴィッチ] それはよかった。先ほどの件ですが、ロドスと協力関係にある医療会社が、御社の業務と技術に深い関心を示しています。無論、単純に交友を深める意味でも、夕食をご一緒したいとのことです。
[代弁者マルキェヴィッチ] しかし……失礼ながら、もしアーミヤ様がご出席されるのであれば……彼女は感染者ですので、不当な扱いをされてしまうのではないかと少々心配でして。
[アーミヤ] ……お気になさらず。慣れていますから。
[代弁者マルキェヴィッチ] ……このようなことを口にしてしまって、申し訳ございません。
[代弁者マルキェヴィッチ] そういえば……Dr.{@nickname}。こちらが前にお話ししていたビジネス雑誌です。……しかし、貴殿がカジミエーシュの経済状況にこれほど興味をお持ちとは思ってもみませんでした。
[代弁者マルキェヴィッチ] もしやカジミエーシュに正式な支社を設立するおつもりでも? 御社の「事務所」は既に存在すると伺っていますが。
[アーミヤ] ――?
[アーミヤ] (小声)ドクター、事務所の件は監査会にも話したことはなかったはずです。まさか、彼らは既に調査を行っていたんでしょうか?
[ドクター選択肢1] 連合会を知りたいと思っただけだ。
[ドクター選択肢2] 貴国の現状を事前に調べておこうとは思っている。
[ドクター選択肢3] 君はロドスをどう思う?
[代弁者マルキェヴィッチ] なるほど。正しいご判断です。
[代弁者マルキェヴィッチ] 私も最近ようやく彼らを理解し始めたばかりですが……真に「商業連合会」を知りたいと思うのなら、「商業」から着手すれば間違いありませんからね。
[代弁者マルキェヴィッチ] ははっ、もし本当に大騎士領で会社を設立することになったら、必ず私にご連絡ください。御社のために、最高の弁護士チームをお探ししますよ。
[代弁者マルキェヴィッチ] 正直な話、ロドスの技術と企業文化には……深く感動しています。
[代弁者マルキェヴィッチ] これは決してお世辞などではありません。何しろ、カジミエーシュ市民の九割が感染者の問題を認識していますが……大概の人はその問題を解決しようとは思っていませんから。
[代弁者マルキェヴィッチ] 暴力でこの問題を遠ざけるのではなく、「治療」する。それが本来正しいことです。鉱石病は結局、病気の一種なのですから……
[代弁者マルキェヴィッチ] ですが……
[代弁者マルキェヴィッチ] ……
[ドクター選択肢1] 何か心配事でも?
[ドクター選択肢2] 何を考えている?
[代弁者マルキェヴィッチ] ……先日、アーツをの過使用が原因で感染者が競技場で死亡する事故が起きました。
[代弁者マルキェヴィッチ] そのこと自体に意見を言いたいわけではなく……世論の力というものは、我々の想像以上に大きいのだということを感じたのです。
[代弁者マルキェヴィッチ] 前提として、私は専門家ではありません。しかし、感染者が競技場で亡くなるということが、どれほどのリスクをもたらすのかは、貴殿もよくご存知でしょう。非常に危険なことです。
[代弁者マルキェヴィッチ] しかし文字通り死ぬまでアーツを使用するほど、追い詰めたのは誰でしょうか。私には、あれが故意のリンチで、不公正な試合に見えました。けれど大衆の非難の矛先は感染者に向けられています。
[代弁者マルキェヴィッチ] こうしたことが、我々の協力関係に影響を与えるのではないかと……気がかりでならないのです。
[アーミヤ] ……マルキェヴィッチさん。
[アーミヤ] 感染者がそうした出来事に遭遇するのは初めてではありませんし、それらは今後も起こりうるものです。
[アーミヤ] カジミエーシュの外では、あなたが見たものをはるかに凌ぐほどの事態すらも起きています。
[代弁者マルキェヴィッチ] 最近の仕事仲間に、代弁者になる前はローズ新聞連合グループの出版部取締役だったという人がいます。
[代弁者マルキェヴィッチ] 私はこれほどまでに、「人の噂は恐ろしい」と明確に認識したことはありませんでした。
[代弁者マルキェヴィッチ] この先、世論が皆様の仕事に影響することもあるかもしれません。スタッフの方々と、治療を受ける負傷者たちへの、できる限りのメンタルケアに努めます。
[アーミヤ] ……ありがとうございます、マルキェヴィッチさん。
[代弁者マルキェヴィッチ] いえ、当然のことですので。
[代弁者マルキェヴィッチ] ところで、今日はまだ少し時間がございますから……Dr.{@nickname}、以前お約束いたしましたよね?
[代弁者マルキェヴィッチ] お時間が許すようでしたら、カジミエーシュ観光はいかがですか?
[ドクター選択肢1] アーミヤも同行していいだろうか。
[ドクター選択肢2] この国の威光に触れさせてやりたい者がいるんだが。
[代弁者マルキェヴィッチ] ……もちろん、ご一緒いたしましょう。必要な手続きを踏み、証明書を発行すれば、アーミヤ様のような感染者の方も適切な範囲で自由行動が可能になります。
[アーミヤ] お、お気遣いなく。私は医療オペレーターのみなさんと――
[代弁者マルキェヴィッチ] 適度な休憩も大切ですよ、アーミヤ様。それに、先ほど到着した患者たちで本日診療分は最後ですから。
[アーミヤ] ……そうだったんですか?
[代弁者マルキェヴィッチ] ええ。……では、十分後、下でお会いしましょう。
[ロイ] ……マルキェヴィッチの奴、最近ロドスと近付きすぎてるよなあ。良くないぜ~、こういうの。
[モニーク] 理事会はロドスをターゲットに入れてない……つまり、クロガネはロドスに対してほかの見解を持ってるってことね。
[ロイ] あの三人はそこいらの商人たちよりもず~っと遠くまで見据えてるからなあ。一体カジミエーシュに何年いたらああなるんだと思う?
[モニーク] 何年いようが同じでしょ。どうせ皆商業連合会の手先なんだし。
[ロイ] そう言うなって。遠くを見据えるってのは、自分に不利なルールを壊すんじゃあなくて、上手く利用して溶け込むことができる、って意味でもあるんだぜ。
[ロイ] そりゃあ、若い連中や栄光だけ追い求めてるような騎士なんかは、こんなありふれた意見には賛成しないだろうが……実際これこそ、社会の真理ってやつなのさ。
[モニーク] あんたって、その辺のサラリーマンと変わんないわね。
[ロイ] 一緒にすんなよ、全然違うだろ? ……だって俺たち、超強いんだからさ。
[モニーク] は? バカみたいな根拠しか言えないの?
[ロイ] アッハハ。冗談はこの辺にして、仕事の話でもしようじゃねえの。――理事会は感染者の粛清命令を下すことにしたんだってよ。
[モニーク] ……本当に? 随分急ね。
[ロイ] おう。ぶっちゃけ、感染者騎士たちの暴動計画について、俺が上の連中に報告したからだけどな。
[ロイ] こうやって、あいつらに「大騎士領が感染者に襲撃される」って意識を持たせとくんだよ。
[ロイ] そうすりゃ、俺たちにも行動の余地ができるだろ?
[モニーク] となると、次は……
[ロイ] 結論から言うと――感染者どもは一部お掃除する方向で。
[モニーク] チッ……結局、長話で時間を無駄にしただけじゃない。
[ロイ] まあまあ。お仕事ならちゃんとこなさないとだろ? うまくやらなけりゃ、俺たちにだって危険が及ぶわけだしさ。
[ロイ] カジミエーシュに英雄なんざいないんだ。この賑やかな街を見てみろよ。……必死こいてまでこの都市に抗おうなんて……馬鹿げた話だと思うだろ?
[老齢の騎士] カジミエーシュのチャンピオンたち……彼らの勇姿はこの現代においても、心躍るものね。ふふ……本当に素晴らしいものですこと。
[グラベル] ……
[老齢の騎士] あら。その顔を見るに……それは私が歳を取ったからだ、とでも言いたいのかしら?
[グラベル] まさか。あたしは決して、あなたのことをそんなふうには思いませんよ。
[グラベル] ……閣下。この資料は監査会の機密情報です。ロドスにこれを渡すのは……
[老齢の騎士] 私はまだ、耄碌なんてしてなくってよ。
[グラベル] ……いいえ、そういう意味では。
[老齢の騎士] ……セノミー。
[グラベル] はい。
[老齢の騎士] 聞いた話だけれど……あなたは、自分の主人にまだ真名を捧げていないそうね。
[老齢の騎士] 私たちはあなたの名前を知っているだけで、あなたの忠誠までは得られていない……
[グラベル] ……大騎士長閣下。あたしは、単なる奴隷としてカジミエーシュに売られた身の上ですから。
[グラベル] 大旦那様から見込んでいただいたことは、本当に光栄に思っております。けれど、あたしのような人間は真名を捧げていいような者ではありません。
[老齢の騎士] そうかしら。……そう。
[老齢の騎士] ところで、ロドスと接触してからしばらく経つけれど……その後どうかしら?
[グラベル] はっ。既にロドスの……その一部の信用は得られたものかと。
[老齢の騎士] 私が聞きたいのはそんなことじゃないわ、セノミー。ロドスはあなたにとって信用に値する?
[グラベル] ……あたしに、とって……
[老齢の騎士] 征戦騎士は軍人でしょう。あなたは自らの身分に忠実に、このカジミエーシュで今日まで奮闘してきたわよね。
[老齢の騎士] でも、セノミー。あなたはまだ、こんなにも若いのよ。なのにどうして今の考えに囚われる必要があるというの?
[老齢の騎士] 私たちが若者に与えられるのは薪だけ。それに火をつけるのは、あなたたち自身なのよ。
[グラベル] ……
[老齢の騎士] ロドスは嫌い?
[グラベル] いいえ……ただ……
[グラベル] 彼らのように感染者を救うことが「正義」だというのなら……カジミエーシュが、監査会が長年行ってきたことは一体、何だったのでしょうか?
[老齢の騎士] その答えは、自分自身で確かめに行けばいいわ。あなたの道はまだまだ長く続いているのよ。
[老齢の騎士] ……無冑盟は既に行動を始めている。きっと、メジャーの盛り上がりが最高潮に達する前に、感染者の脅威を取り除くつもりなのよ。
[グラベル] ――彼らは本当に都市で虐殺を行うつもりなのですか?
[老齢の騎士] ええ。感染者たちは確かに連合会ビルの襲撃を計画しているし、今回の無冑盟の行動にも正当な理由があるから、我々としても簡単に対処できる問題ではないわね。
[グラベル] ……
[老齢の騎士] ……マーガレット・ニアールは、あの子の祖父によく似ているわ。
[グラベル] ……彼女が無関係の態度を取ることは難しいでしょうね。
[老齢の騎士] ええ。彼女もまた、「例外」だもの。「彼ら」の定めたルールの外に生きる者たち――感染者にせよ無冑盟にせよ、それらのようにね……彼らのほうは、それゆえに残酷な紛争を招きつつあるけれど。
[老齢の騎士] 一方で耀騎士は……その障壁に、正面から向かっていった。騎士競技という名の魔窟に飛び込んだのよ。
[老齢の騎士] ニアール家に愚かな騎士などいない。自分の行いが焼け石に水だということを、彼女は理解していることでしょう。
[老齢の騎士] だからこそ……監査会は、彼女にチャンスを与えることにしたの。商人たちの体面を汚し、騎士たちに自らを証明させる、そのチャンスをね。
[老齢の騎士] 監査会は、耀騎士の優勝を全面的に支援するわ。
[ビッグマウスモーブ] ご来場の、そして中継をご覧の皆々様~~っ! カジミエーシュ国立競技場へ――本日のメジャー会場へようこそ!
[ビッグマウスモーブ] 私は、皆さんご存知ビッグマウスモ~~ブです! 大注目の本試合にてMCを務められますことは至上の光栄、至上の喜びでございます!
[ビッグマウスモーブ] しかし、ここまでの盛り上がりは私も見たことがありません! ここで一つお伝えしたいと思うのですが――試合開始前にもかかわらず、既に本試合の視聴者数がメジャー最高記録を達成しました!
[ビッグマウスモーブ] と同時に! これを祝しまして、試合中、会場内のお客様の中から抽選で十名の方に、記念品をプレゼントいたします!
[ビッグマウスモーブ] ではでは、早速、熱い拍手でお迎えしましょう! 歴史ある一族に連なる生きる伝説にして、メジャー史上最年少チャンピオン! 耀騎士マ~~~ガレット・ニア~~~ル!!
[マーガレット] ……
[ビッグマウスモーブ] ご覧ください! 耀騎士マーガレット・ニアールが、神々しい姿で競技場へと舞い戻ってきました! 彼女はたった数週間でメジャーの参加資格を勝ち取ったとのこと――
[ビッグマウスモーブ] そしてそしてそしてーー! 今日の試合は、今メジャー初となる大騎士同士の対決です! 「一文字称号」を有する大騎士たちがいかなる領域に在るかということは言うまでもないでしょう!
[ビッグマウスモーブ] まばゆく輝く耀騎士ニアールに対し! 本日彼女としのぎを削るお相手は、リターニアから降り立った優雅なる微光!
[ビッグマウスモーブ] 最高人気騎士賞に何度もノミネートされ、十八もの賞の受賞歴を持ち――
[ビッグマウスモーブ] 大会初参戦時には、寒頭(かんとう)騎士を打ち倒した最大のダークホース! 前回のメジャーでは三位の好成績! そしてその人気は誰もが認める全国二位となっております!
[ポップコーンを持っている騎士] ダークホースってどういう意味だ? あっ、ダークって黒っぽいし……もしかして黒騎士のことか?
[観客席の騎士] まーつまり、すんごい奴ってこったろ!
[ビッグマウスモーブ] ご紹介します、その名は――おおっと! 熱狂的なファンの皆さんがもう呼んじゃってるようですが――それでは、ご登場いただきましょう! 燭騎士! ヴィヴィアナ~~・ドロステ~~~~!
[燭騎士] ……ご機嫌よう、耀騎士。
[マーガレット] ご機嫌よう。
人々の歓声は少しずつやんでいき――この瞬間、二人の騎士は互いにうなずき合った。
燭騎士がゆっくりと手を上げる。
彼女の名に呼応するようにして、光と熱が絡み合う。
[燭騎士] ……耀騎士。あなたはご自身の身分を誇りに思いますか?
[マーガレット] ……無論。
[燭騎士] それは騎士として? それとも感染者として、でしょうか?
[マーガレット] マーガレット・ニアールとして、だな。
[燭騎士] なるほど……一般的な回答ですね。
[燭騎士] ……ご存知ですか? 私は……実は、リターニアのある大貴族の私生児なのです。
[マーガレット] ……それは……
[燭騎士] あの高塔の上には、地上にある街の喧噪さえも届きません……
[燭騎士] 行商人のうたい文句や、車が道路を走って行く音も、聞こえはしないのです。毎晩、私は暗がりに包まれるようにして過ごしていました。
[燭騎士] ……母は……そんな私のためにこっそりと蝋燭を持ってきてくれたものです。
[マーガレット] ……蝋燭を……?
[燭騎士] ええ。電気の明かりでは気付かれてしまいかねませんから。……それに、貴族の家には、装飾用の蝋燭がたくさんあるものです。少しくらいなくなったところで、誰も気付きはしません。
[燭騎士] 蝋燭の明かりを頼りに、私は読書をしました。詩歌、小説、諸国の散文……それらは、素晴らしく魅力的で、惹きつけられるものでした。
[燭騎士] ……そうして日々を送りながら、私はたくさんの本を読みました。
[燭騎士] その中には……騎士を描いたものもあったのです。
「潮が引き、栄誉と命が共に潰えるその時まで。」
「世のすべてが興亡し、塵と化してゆくその日まで。」
「かまどが火を噴き、天災が訪れ、家族と旧友がそれを忘れてしまうまで。」
「この大地最後の騎士は、夜のごとき漆黒の大波に向け、孤独に突き進んでゆく。」
[マーガレット] ……騎士小説、か?
[燭騎士] はい。ですがこれはすべて架空の伝説であり、人々の想像力をかき立てるためだけのもの……そうでしょう?
[燭騎士] 耀騎士よ。あなたは、騎士になってから今に至るまで、何を求めているのですか?
[燭騎士] 騎士とは――何を為すべきものなのでしょうか?
[ビッグマウスモーブ] 二人の騎士は何やら、試合前に会話をしているようですね! こんな親しげな雰囲気を邪魔するのは本当に忍びないのですが……!
[ビッグマウスモーブ] しかしながら、試合は試合でございます! お二人とも、それぞれ位置についてください!
[燭騎士] そうして私は、カジミエーシュにやって来ました。いわば、追放されて逃れてきたようなものです。ただ生きるためだけに私は、騎士になることを選びました。
[燭騎士] 正直な話をすると、試合に勝利し、人気を得るだけで「騎士」になれるのだと気付いた時、私は失望しました。
[燭騎士] この数年、私は大した実感もなく生きてきました。カジミエーシュでの奮闘の日々は、塔に隠れて生きていた時よりも、充実感に欠けるものだったのでしょう。
[燭騎士] ……ですが、あなたのことに関しては、違いました。
[燭騎士] 私がカジミエーシュに来た時には、耀騎士は既に追放されたあとでした……しかし、騎士として、あなたの逸話は常々耳にしてきたものです。
[燭騎士] あなたは本当に興味深い人です。今の騎士競技を軽蔑しているというのなら、大会への参加目的は何なのですか? ただこのチャンピオンの座を勝ち取り、何かを証明するためなのでしょうか?
[マーガレット] ……あの頃の私は、確かにそう考えていた。
[マーガレット] 人々の目が栄光を映すことをやめてしまったのなら、彼らが最も注目している場所へと赴き、騎士はまだいるのだとすべての人に伝えればいいと思っていた。
[燭騎士] ……けれども、今は違う、と?
[マーガレット] カジミエーシュを去ったあと、私は様々な場所へ足を運んだ。迷いがなかったわけではないが、最終的に、私は自らの正義と信念を選ぶことにしたんだ。
[燭騎士] ……それは……感染者を救うこと、ですか?
[マーガレット] ああ。だが、それだけには留まらない。
[燭騎士] なるほど。それがあなたの「騎士」の定義なのでしょうか?
[マーガレット] 答えが必要だと言うのなら……こう答えよう。これは過去に、私が妹へ伝えた言葉だが、今もこの考えに変わりはない。
[マーガレット] ――「騎士とは、大地を照らす崇高なる存在だ」。
[禿頭マーティン] ……燭騎士と耀騎士、か。
[老職人] 光り輝く華やかな戦いって感じだな。フォー、あんたもそう思わねえか?
[老騎士] …………
[老職人] お~い、聞いてるか~じいさん? なんか最近、ずっとぼーっとしてるよなあ。一体どうしたってんだ? もしかしてあの追魔、あんたの生き分かれの隠し子かなんかだったのか?
[老騎士] *カジミエーシュスラング*! 黙って聞いておれば、何を馬鹿なことを!
[ゾフィア] ……ところで、マリアはまだ来ないの?
[禿頭マーティン] あの子がマーガレットの試合を見逃すはずもない。きっと向かってる途中だろうさ。
[ゾフィア] ……
[ゾフィア] 私、探してくる。
[燭騎士] 大地を照らす、と。
[燭騎士] 誰もがそんな力を持てるわけではありません。大抵の人は、小さな蝋燭の火で、なんとか自分の生きる方向を照らしているにすぎないのです。
[燭騎士] 少しの雨風で容易く消えてしまうほど小さな燭火。この現代においては、照らせる範囲は限られているがゆえに、人々は己を見失っていますが、何より恐ろしいのは、彼らにその自覚がないこと。
[燭騎士] それを理解していながら、あなたはどうして――
[マーガレット] その言葉は、自分自身への問いかけか? ヴィヴィアナ。
[燭騎士] ……今……私の名を、お呼びになりましたか。
[マーガレット] ああ。これこそ、あなた自身の名だろう? 「燭騎士」は単なる称号にすぎない。
[マーガレット] ヴィヴィアナ。――人は、生まれによって運命を定められることなどない。私の目に映るあなたは、優秀な騎士だ。
[燭騎士] ……ふふっ。
[燭騎士] (リターニア語)あなたの信念が本当に、太陽のごとく揺るぎないものであるならば……
[燭騎士] (リターニア語)私のような、微かな蝋燭の灯火が――少しの間、あなたの光を奪おうとすることをどうかお許しください。
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