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マリア・ニアール_MN-8_商業連合会_戦闘前
決まっていたパートナーが突如として失踪し、マリアは一人で試合に臨むことに。裏で企てられた陰謀により、想像をはるかに超える凶悪の敵が、マリアの前に立ちはだかる。
[マリア] 小隊戦?
[ゾフィア] 二対二の珍しいルールよ。本来、騎士団内での各々の役割をアピールするには、最低でも三対三、できれば四対四がいいんだけどね。
[ゾフィア] でも、何人だろうと、君は騎士団に所属していないんだから、仲間が必要になるのよ。
[マリア] それで……対戦相手は誰なの?
[ゾフィア] 予定表にはスノーウィヒール騎士団って書いてあるわ。
[禿頭マーティン] ……弓の名手が何人かいるな。メテオハンマー使いもいたはずだ。一体誰が出てくるんだ?
[禿頭マーティン] しかし、ここまで来るとさすがに有名な連中ばかりだな。その中にマリアの名前があるとは、もはや快挙と言っていい。
[マリア] えへへ……
[ゾフィア] 喜ぶべきか、悲しむべきか……
[禿頭マーティン] マリア、タイタスに勝てたのは喜ばしいことだ。だがそれは、さらなる注目を集めるということでもある――
[禿頭マーティン] 焔尾と灰毫の教訓もあるしな、目立ちすぎるのは得策じゃない。
[禿頭マーティン] 必要とあらば、企業に舵を委ね、妥協することも学ばなければならない。昔とは違い、単に勝利したからと言って栄光を得られるわけじゃないからな。
[マリア] ……
[ゾフィア] ……どうして最初からそうやって説得してくれなかったのよ?
[禿頭マーティン] 君が怒って出て行った後に、私はしっかりとマリアと話したぞ――ちなみに、君があまりにも強く扉を閉めたせいで、扉が壊れたんだが。
[ゾフィア] べ、弁償するわよ……
[ゾフィア] そう言えば、いつもの二人はどうしたの?
[禿頭マーティン] 遅くなるんじゃないかな? 今日は大事な日だから。
[ゾフィア] あぁそうか、お墓参りね……困ったわ、マリアの剣の修理を頼もうと思ったのに……
[禿頭マーティン] 工房を借りれば済むじゃないか。
[禿頭マーティン] 去年、コーヴァルが酔った勢いで、マリアがその気ならいつでも工房を譲ると言っていたぞ。
[マリア] えぇっ!? そんなの初耳だよ?
[禿頭マーティン] とにかくあいつは、二度と武器を打つための槌は握らないと誓っているんだ。
[ゾフィア] はぁ……あれから結構経つわよね……
[禿頭マーティン] 誰にだって抜け出せない過去はあるさ。まぁ、私らのような年寄りには、もはや過去しかないがね。
[ゾフィア] それなら、あの二人をあてにするのは諦めましょう。マリア、剣のことは自分でやるしかないわよ。
[ゾフィア] あと、試合でペアを組む相手だけど……君、アテはある?
[マリア] 私? うーん……
[マリア] ……
[マリア] わ、私、騎士の友達なんていないかも……
[ゾフィア] ……じゃあ、私の知り合いを紹介するわね。初対面でしょうけど、協会があてがう人よりはずっと安心だわ。
[マリア] え、誰?
[ゾフィア] 「遠牙」騎士、クロスボウの名手よ。
[ゾフィア] 君と同じで、企業のスポンサーをつけずに戦っている独立騎士よ。同じような選手たちを集めて、己の力だけで戦い抜く騎士団を作る予定もあるらしいわ。
[ゾフィア] 君と気が合うんじゃないかと思ってね。戦術的にもカバーしあえるだろうから。小隊戦は団体混戦や一対一の試合とは全然違うのよ。ま、その時になればわかると思うわ。
[ゾフィア] 時間があれば、訓練場で少しでもお互いに慣れておいてほしかったんだけど、今回ばかりは出たとこ勝負になるわね。
[マリア] ……う、うん、わかった。
[禿頭マーティン] これが独立騎士の弱点だね……一時的なペアと、長く一緒に戦ってきたチームとでは、必ずどこかでコンビネーションの差が出る。
[マリア] やるしかない……どんな人かな? なんだか緊張しちゃうよ……
[代弁者チャルニー] 今日一日で、この道を通るのは三度目ですね。
[企業職員] え、あっ、はい、そうですね、チャルニー様……
[代弁者チャルニー] あなたはこの仕事に向いているようですね。競技場の間を行ったり来たり、そしてひっきりなしに続く電話会議の数々……
[企業職員] いっ、いえ……私のような者は、ただ与えられた仕事をこなすことしかできませんから……
[代弁者チャルニー] ……確かにあなたのその恰好は、少々だらしがないですね。容姿も大事な交渉の武器となり得るのですよ?
[企業職員] も、申し訳ございません! 私、つい先日まで失業しておりましたもので……
[代弁者チャルニー] おや……それが何か関係があるのですか?
[代弁者チャルニー] あなたのような人は嫌いではありませんよ。どん底に落ちたことがある者にしか、現実がどれだけ残酷なのかはわかりませんし、それを理解してこそ、誰もを納得させられる判断ができるのです。
[企業職員] ……
[代弁者チャルニー] 私の言葉、そして行動をすべて記録しておきなさい。
[企業職員] え? あっ、スノーウィヒール騎士団との会議記録ですか? その点は問題ありません、準備はできて――
[代弁者チャルニー] 違いますよ。彼らのスポンサーは、私の古い友人です……問題など起きないでしょう。
[代弁者チャルニー] 私の言動を記録せよというのは……まぁ、ただの個人的な……仕事の方針ですよ。
[ゾフィア] ……マリア。
[マリア] ん?
[ゾフィア] 実を言うと最初、君が騎士競技に出ることには反対だったの。
[マリア] え? うん、どうしたの急に……それはわかってたよ?
[ゾフィア] でも君は、皆に自分の力を証明してみせた。
[マリア] まぁ、毎回ギリギリっていう感じだけど……
[ゾフィア] 動機や誓いなんかじゃなくて……競技での成績こそが君の覚悟を証明できる唯一のものだからね。
[ゾフィア] まだまだ甘ちゃんだけどね。
[マリア] あはは……
[ゾフィア] でも……もしかしたら「ニアール家の栄光を取り戻す」という純粋な気持ちが、逆に君の強さになるのかもしれないわね。
[ゾフィア] いくら運が良かったとは言え、あのタイタスから1ポイント取ったんだから、次の相手はそこまで苦労しないはずよ。
[ゾフィア] 自分でアーツの活用法を習得したのは素晴らしいわ。でも、残念なことに、君の戦い方では真の強敵には通用しない……
[ゾフィア] もし、あの左腕騎士が最初から本気を出していたら、たとえマリアが四人束になっても勝てなかったはずよ。
[ゾフィア] 剣術や戦術なら私が教えてあげるわ。弓矢のテクニックはフォーに習いなさい。普段はあんな感じだけど、昔は君のお祖父様も認める腕前だったんだから。
[ゾフィア] ――でも、アーツだけは……その光は、自分の力でものにしないといけないわ。
[ゾフィア] わかったわね?
[マリア] ……うん!
[代弁者チャルニー] はい……突発的な事態ではありましたが、滞りなく手配しました。
[代弁者チャルニー] ……まさか! いえ、ユーザーを買い被り過ぎですよ。糾弾など、観客たちがそんなことをするわけがありません。彼らは道徳という観念すらないのですから。
[代弁者チャルニー] ……はい、その通りです。貴重な選手を二名もご提供いただき……心から感謝申し上げます。
[代弁者チャルニー] 必ずや皆さまに、素晴らしいご報告をお届けいたしましょう。
[???] ......
[代弁者チャルニー] ご武運をお祈りします。
[代弁者チャルニー] ……これで、準備は整いました。
[代弁者チャルニー] あとは、この素晴らしい試合が始まるのを待つだけですね。
[禿頭マーティン] よぉ……お帰り。
[老騎士] 雨は降らんと言っておったのに、結局降られたわい……
[老職人] ふんっ……テレビの報道はどれもこれも信用ならん。ニュースも、競技も、天気でさえもだ。
[老騎士] マリアは? たしか試合は今日じゃなかったかのう?
[禿頭マーティン] 酒と肴は用意しておいたぞ。
[禿頭マーティン] どうだった?
[老騎士] ……どうも何もないわい。こんなに時が経っとるんじゃ……今年もまた数人減ったわい。
[老騎士] 年々少なくなっとるよ。隊長の墓参りに来る者は……
[老職人] はぁ……老後は皆でずっと一緒に酒を飲もうと言っておきながら、自分が真っ先におっ死んじまうなんてな。
[老騎士] ……仕方ない、もう昔の話じゃ。
[禿頭マーティン] あぁ……あの人のためにあんたら二人して生涯独身を貫くなんて、誰も思わなかっただろうな。
[老騎士] そのような個人的は話はやめんか。おい、酒を持ってきてくれ。
[老職人] その通りだ! 老いぼれたちの生き死になんて気にしないで、マリアの試合を楽しもうぜ!
[老騎士] 乾杯じゃ、コーヴァル!
[老職人] 乾杯だ! フォー!
[禿頭マーティン] ……
[禿頭マーティン] 今日は特別だ。酒は自分たちで飲んでくれ。店番も頼んだぞ。
[老騎士] おっ、タダ酒かの?
[禿頭マーティン] 言ってろ。
[老騎士] どこに行くんじゃ?
[禿頭マーティン] 競技場だよ。
[老職人] なっ!? チケットを手に入れたのか? どうやって?
[禿頭マーティン] ……人に頼んで一枚だけな。それにしても今のチケットは高いな。
[老職人] まったくアコギな商売だぜ。
[新聞少年] こんにちは、本日の競技新聞のお届けです!
[禿頭マーティン] ご苦労さん、牛乳でもどうだ。
[新聞少年] やった! ありがとうございます!
[禿頭マーティン] 競技新聞か、どれ――
[禿頭マーティン] ――待て、一体どういうことだ?
[ビッグマウスモーブ] さあさあ、皆様! ファイヤブレード競技場へようこそ――!
[ビッグマウスモーブ] さて、先ほどの試合の興奮冷めやらぬ競技場には、「微風」騎士の血痕が残されたままですが、問題はありません。その血痕すらも次の試合を彩ることでしょう!
[ビッグマウスモーブ] ここにいる皆様のお目当ては、やはり「ニアール」ですよね? あの若く美しいニアール家の御令嬢は、これまでに数々の奇跡を見せてくれました!
[ビッグマウスモーブ] 十分間の小休憩の後――いよいよ、「遠牙」騎士とマリア・ニアールの即席チーム対――
[ビッグマウスモーブ] 十分な実力を持ちながら、これまでメジャー進出が叶わなかった精鋭たちによる「復讐同盟」――スノーウィヒール騎士団の試合を始めます!
[ビッグマウスモーブ] 新たな伝説VS復讐の刃! 二対二という斬新なタッグマッチ! 前代未聞の刺激的な一戦が、まもなくスタートします!
[ゾフィア] マリア、ケガの調子はどう?
[マリア] うん! おかげでだいぶ良くなったよ!
[ゾフィア] そう、その言葉を信じるわ。
[マリア] ……うん!
[ゾフィア] それにしても、遅いわね……遠牙は普段からルーズな人ではあるけれど。
[マリア] 大丈夫、間に合いさえすればいいよ。
[競技場スタッフ] マリア様、マリア・ニアール様。選手控室で待機をお願いします。間もなく試合が始まります。
[マリア] え、もうそんな時間……?
[マリア] 準備しなくっちゃ。先に行ってるね、ゾフィア姉さん。
[ゾフィア] ……ええ。
[禿頭マーティン] ……ゾフィア? マリアはどこだ?
[ゾフィア] マーティンおじさん、どうしてここに?
[禿頭マーティン] あぁ実は――君たちは、もしかして遠牙騎士を待っているのか?
[禿頭マーティン] 彼女なら来ないぞ。
[ゾフィア] どういうこと?
[禿頭マーティン] これを見ろ! 今日の競技新聞の一面だ!
[ゾフィア] えっ!? ……遠牙騎士が――失踪ですって!?
[禿頭マーティン] 騎士ファンの乱闘に巻き込まれ、現在行方も生死も不明だそうだ。
[禿頭マーティン] 少なくとも表向きはそうなっている……
[ゾフィア] ちょっと待って……乱闘に巻き込まれたってどういう……?
[ゾフィア] そんなのウソに決まってるわよ! どんな乱闘に巻き込まれたら、百戦錬磨の騎士が「失踪」するっていうの?
[ゾフィア] 待って……まさか……
[禿頭マーティン] 問題は、目の前に迫った試合をどうするか、だ。
[禿頭マーティン] ……流石に異常事態だ、ゾフィア。慎重にならねば。
[ゾフィア] マリアを棄権させなきゃ! ――間に合わないわ、ついてきて!
[ビッグマウスモーブ] 休憩時間というのはあっという間です――え? 長過ぎるって? まあまあ皆様、休憩時間中のフィールド清掃もお決まりの一つですから……
[ビッグマウスモーブ] ニアール目当てに来た方はどれだけいらっしゃいますか? ニアールの活躍をその目に焼き付けたいという人は?
[ビッグマウスモーブ] 自慢ではありませんが、あのスーパールーキーが賞金プールの数字を少しずつ増やしながら勝ち進む様子を、私はこの目でしかと見てきました!
[ビッグマウスモーブ] データによると、今この瞬間、カジミエーシュの各市町村から様々な方法でこの試合を視聴している観客の総数は、なんと数十万人もいるそうです!!
[ビッグマウスモーブ] 一体誰がこの状況を作り出したのか!? 皆様には、はっきりとおわかりですよね?
[ビッグマウスモーブ] ですが、まさにこの瞬間に残念なご報告をしなければなりません。ニアールのパートナーである「遠牙」騎士が、昨晩、不慮の事故により重傷を負い、現在消息が不明となっているのです!
[ビッグマウスモーブ] しかし! それでもマリア・ニアールは棄権しませんでした! 一対ニというハンデを背負いながらも、このフィールドに立つことを決意したのです!!
[ビッグマウスモーブ] その勇気に皆様がいったいどれだけの価値を見出すのか、ぜひ数字で表明してください!!
[ビッグマウスモーブ] さぁ、お迎えしましょう! 今シーズンの話題沸騰の大型新人! ニアール家の可憐な騎士、マリア・ニアールの登場です!!
[マリア] ううっ、やっぱり間に合わなかったみたい。どうしよう……
[マリア] ……いや、簡単に諦めちゃダメ! 始まってもいないのに棄権するなんて、騎士として相応しくない!
[マリア] 騎士……そう、私は騎士なんだから。
[ビッグマウスモーブ] 対する相手は! スノーウィヒール騎士団所属のベテラン騎士!
[ビッグマウスモーブ] 過去大会二回連続で、所属していた騎士団からはメジャーへの出場が叶わず、別の道を模索している中で手を取り合った復讐同盟!!
[ビッグマウスモーブ] スノーウィヒール騎士団の一員となった今も、騎士競技界にその名をとどろかせる――
突然鳴り響いた巨大な音がMCの言葉を遮った。
[男性観光客] おい、ステージ上のアレはなんだ? 俺の幻覚か?
[女性観光客] い、いやだ、何だか変な臭いがするわ、気持ち悪い――
[男性観光客] 一体何が起きてるんだ!?
2万人以上の収容が可能な競技場に、鮮明に響き渡る重厚な足音。
高揚していた観客全員が我に返り、場内は静寂に包まれた。
[ビッグマウスモーブ] ……えっ?
騎士競技では非常に珍しい光景だ。歓声と賭金が飛び交う場所で、万をも超える観客たちが皆、一斉にその異様な足音に耳を澄ませ、固唾を飲んでその音のする方を見つめている。
真っ先にその正体に気付いたのは、来賓席に座る騎士だった。
[左腕騎士] ……あれは、霧? アーツの効果か? それとも特殊な装備か?
[左腕騎士] スノーウィヒールの騎士にこんな芸当が……いや、違う……?
[左腕騎士] ……奴らは! いやまさか……そんなことはあり得ない!!
[左腕騎士] あれは――
[男性観光客] ……
[女性観光客] えっと……あれは、騎士なの?
[老騎士] ――コーヴァル!
[老職人] ああ! 急ぐぞ!
[老職人] 「あれ」は……奴ら、マリアを本気で殺す気か!?
[プラチナ] ……
[闇に潜む影] お嬢様、各隊すべて配置につきました。
[プラチナ] そんなに気を張らなくていいよ。誰も競技場に入れなければいいってだけなんだから。
[闇に潜む影] ……はい。
[闇に潜む影] しかし、もし相手が――
[プラチナ] もし、例のムリナールが本当に何かをやらかしそうなら……その時は私が何とかするよ。
[プラチナ] めんどくさいけどね……はぁ。
[マリア] ……
[ビッグマウスモーブ] えぇっと、こちらはスノーウィヒール騎士団の……
[ビッグマウスモーブ] (おい! どういうことだ!? 今朝確認した写真と全然違う――差し替わってる? しかもこの二人、見分けがつかないぞ!)
[ビッグマウスモーブ] ……スノーウィヒール騎士団の――
[ビッグマウスモーブ] 「腐敗」騎士と「凋零」騎士です!!
想定していた歓声は沸き起こらず、観客席は静寂に包まれたままである。
それもそのはず、人々の脳裏に浮かんでいたのはまさに「恐怖」の二文字だった。
しかし、その矛先が向けられる相手は自分ではなく、いまだに状況を呑み込めていないあの少女なのだと意識した瞬間――
その嗜虐心は、一気に津波のような歓声へと変わっていく。
[観光客] これ……ちょっとヤバ過ぎない?
[観光客] ……ニアール一人であの二人を相手にするんだよね?
[観光客] おい……それってガチで燃えるヤツじゃないか!?
[ビッグマウスモーブ] それでは、試合開――
[マリア] えっ――?
[凋零騎士] 命中。
[腐敗騎士] ――グオオ!
[マリア] ちょっ……! なんなの? いきなり――
[腐敗騎士] グオオ……あの盾、硬い、簡単にはいかない。
[凋零騎士] 問題ない……奴を始末することなど、容易い。
[ビッグマウスモーブ] ま、まだ開始合図の途中にも関わらず、戦いの火蓋が切って落とされました! 反則じゃないかって? もちろん問題ありません! 騎士が戦場に立ったその瞬間から戦いは始まっているのです!!
[ビッグマウスモーブ] ニアールはこのいきなりの劣勢ムードを覆せるのでしょうか!? それとも、早々に降参し――
[ビッグマウスモーブ] (え? 本戦では棄権は認めない? そんな無茶な……はぁ、仕方ない。)
[ビッグマウスモーブ] ――この状況を覆す唯一のチャンスは、皆様の手に委ねられております! 哀れなマリアに賭けてください! ささやかな援助一つでも、彼女の勝利への踏み台となるかもしれませんよ!
[マリア] はぁっ……この霧……一体どういうこと?
[マリア] アーツが妨害されて……傷口が癒えない……?
[マリア] くっ……痛っ――!
[凋零騎士] ターゲットは……徐々に抵抗力を失っている。迅速に、殺せ。事故を装ってな。
[腐敗騎士] わかっている……
[マリア] (ダメ、諦めちゃダメだよ。まずは突破口を――)
[マリア] (あのサルカズたち……双子なのかな? 使うアーツもほとんど同じだけど――)
[マリア] それなら……もう一度!
[マリア] (えっ?)
[ビッグマウスモーブ] ————!!
[ビッグマウスモーブ] し、信じられません! 一体何が起こったのでしょうか……!? マリアの身体が突然の爆発!! そして「腐敗」騎士が間髪入れずに追撃を入れてマリアを吹き飛ばした!
[ビッグマウスモーブ] (あれ? あいつは凋零だったか? まぁどっちでもいいか。)
[マリア] うぐっ――!
[マリア] ゴホッ、ケホッケホッ……
[マリア] 血……? ど、どうして私のアーツが効かないの……?
[凋零騎士] 血を吐いたぞ……アーツが効いている証拠だ。
[腐敗騎士] 凋零し、腐敗していく……奴から死の香りが漂いだした。もう逃げ場はない。
[ゾフィア] マリア! 棄権するのよ、早く!!
[ゾフィア] あっ――!?
[ゾフィア] 離して! マーティン!
[禿頭マーティン] 一緒に死にたいのか!?
[ゾフィア] くっ――!
[ゾフィア] マリアを一人で死なせるくらいなら、一緒に死んだ方がましよ!
[禿頭マーティン] ゾフィア!
[老騎士] コーヴァル、急ぐんじゃ!
[老職人] ちょっ、ちょっと待ってくれ。俺はクランタじゃないんだぞ――
[プラチナ] 残念、ここは通せないよ。
[老騎士] 貴様――
[プラチナ] 元二級征戦騎士、フォーゲルヴァイデ。またの名を、バトバヤル。
[プラチナ] その血統の宿命により、各地で戦い続け、誰のものでもない草原の上を声高らかに駆け回った者。
[プラチナ] そして、そっちは職人団の上級職人、コーヴァル。
[プラチナ] 師匠は、銀槍のペガサスも敬う一流の鍛冶職人。そして教え子は、今でも前線のために力を振るっている――
[プラチナ] どちらも素晴らしく模範的なカジミエーシュ人だね。それじゃあ、おとなしく帰ってくれる?
[老騎士] ……前に会った時に比べると、まるで別人のような口ぶりじゃな、プラチナのお嬢さん。
[プラチナ] あれ、知ってたの?
[老職人] あぁ、もちろん知ってる。
[老職人] あんたの上にいる奴らには、個人的な恨みがあってな。
[プラチナ] ……ふぅん、なるほどね。
[プラチナ] 確か、隊長がプラチナの位について最初の任務が、とある征戦騎士の抹殺だったような……キレイな女の人で名前は――
[老騎士&老職人] ――黙れ、貴様がその名を語るな。
[プラチナ] ……皮肉だねぇ。あの隊長が、最後は女のために死ぬなんて。
[プラチナ] もしかして、この仕事を続けてたら本当に精神的にやられちゃうのかもしれないね。はぁ、休暇を取って旅行でもしたいな……
[老騎士] 無駄口を叩くな! マリアが巻き込まれとるこの異常な事態は、全て貴様らが裏で糸を引いとるんじゃろう!?
[プラチナ] ……アンタたちは引き続き周囲の警戒をしておいてくれる? ここは私が何とかするよ。
[闇の中の声] ……はい。
[老職人] 仲間がいたのか……全員呼んだらどうだ?
[プラチナ] やり合うのは嫌なんだけどなぁ……ね、手を引いてくれない?
[老騎士] はっ! 珍しいのう、無冑盟の殺し屋が情をかけようというのか?
[老騎士] 心配はいらん、わしも小娘を相手に全力を出したりはせん。過ちを認めるなら、まずはマリアを救ってから――
[老騎士] ――っ!
[老職人] フォー!!
[老騎士] ふん、平気じゃ。ただのかすり傷よ。しかしあの娘の弓の速さと精確さを侮っておったわい……
[老騎士] どうやらこれ以上話をしても無駄のようじゃ。いくら若く、未熟であろうと――
[老騎士] やはり無冑盟のクズどもの上に君臨する「三ニ一の逆ピラミッド」に属するプラチナじゃからな。
[プラチナ] ん……それって褒め言葉なの?
[老騎士] 構えろ、コーヴァル。お主の腕が鈍っとらんか見てやるわい。
[老職人] はっ! あんたの目はとっくに老眼で霞んでるだろうが、フォー。
[プラチナ] はいはい、ご老体のお二人さん、年甲斐もなく熱くなんないで――
[プラチナ] ――ぎっくり腰になっちゃっても知らないよ。
もう行かれるのですか?
あぁ、時間がないんだ。
では……お気を付けください。どうか……くれぐれもご注意を。
そんなに心配する必要はない……彼女も傍にいるだろう?
……はい。
安心してくれ、大丈夫だ。騎士の名に懸けて、君に誓おう。
そ、そこまでされなくても……さあ、どうぞ行ってください。信じていますから。
ああ。
ご武運を。
ありがとう、リズ。
[マリア] かはっ……! ゲホッゲホッ……
[マリア] (傷口が化膿して、傷が癒えない……! 血も流しすぎた……体が……寒い……)
[マリア] 多分シェブチックさんよりも速い……そして、イングラさんよりも大きい……
[マリア] この二人――
[マリア] ――
棄権する?
[マリア] ダメ……歯を食いしばれ! 私は絶対に――
[凋零騎士] ……命中。気を失ったはずだ。あとはお前がやれ。
[腐敗騎士] グオオ……頭をつぶせば終わりか……つまらない試合だ。
[凋零騎士] 行け。すぐにやれ!
[腐敗騎士] ……
……サルカズが、膝をついたマリアの頭上に高々と戦鎚を掲げた。
陽の光が反射し、体勢を整えようとする少女の身体を照らす。
[マリア] ううっ、ゴフッ……
地面に吐き出された血、口に広がる鉄の味。耳鳴り、眩暈、そして雨が染みた泥の匂い……
腕で身体を支えようとしても、痛みでままならない。
[マリア] (腕が……! 前の試合の後遺症……?)
[腐敗騎士] グオオ……これで終わりだ。
[マリア] くっ……!
地面に倒れ伏したマリアは、もはや身動きがとれない。その哀れな光景が映るサルカズ騎士の暗い瞳には、何の感情も無かった。
だが次の瞬間、腐敗騎士の視界に突然、光が差し込んできた。
太陽を覆っていた雲が消えたのか、あるいは建物に遮られていた光の角度が変わったのか……
そして――巨大な音が響き渡った。腐敗騎士の全身の細胞が警報を鳴らす。今すぐこの、僅かな抵抗力も残っていないはずの小さな騎士を始末しろと――
視界に溢れる光は、ますます眩くなっていく。
ふいに、金属音と共に腐敗騎士が持っていた戦鎚が宙を舞った。
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