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ドッソレスホリデー_DH-ST-3_墓穴を掘る
チェンがクルーズ船の客室内でエルネストを見つけた。彼は自分が首謀者だと認めるものの、その嘘をチェンは見破り、指摘する。 嘘を看破されたエルネストだったが――彼は、チェンに投降するよう告げてきた。
[ラファエラ] ――パパ、準備できたって連絡が入ったよ。
[パンチョ] ああ。
[ラファエラ] ? パパ、どうしたの? あんまり嬉しくなさそうだけど……
[パンチョ] ああ。
[ラファエラ] どうして? パパはずっと、この日を待ってたんだよね?
[パンチョ] カンデラは手強い女だ。あれを相手取るからには、最後の最後まで気を抜くことなどできない。
[パンチョ] ……ラファエラ。
[ラファエラ] なあに?
[パンチョ] 途中で雲行きが怪しくなったら……その時は、エルネストと一緒に逃げなさい。
[ラファエラ] ……えっ? そんなのやだよ、わたしはパパと一緒にいたい。
[パンチョ] わがままを言うんじゃない。そもそも、本来ならこの件にお前を巻き込むべきではなかったんだ。
[パンチョ] ……もし、ピューがこれを――私に託したはずの娘が、こんなことに関わっているという事実を知ったら、きっと奴は墓から這い出て私を殺しに来るのだろうな。
[パンチョ] エルネストもだ。あの小僧……
[ラファエラ] ? お兄ちゃんがどうかしたの?
[パンチョ] あいつは、気付かれていないと思っているんだろう。私にあいつの考えを見破れないはずがないというのに。
[ラファエラ] お兄ちゃんは裏切ってなんかないよ?
[パンチョ] わかっているとも。……そもそも、エルネストはこの計画の要だからな。あいつなしでは、こうして実行に移すことすらできなかっただろうさ。
[パンチョ] だが、あいつは本心じゃ計画を実行したくないんだ。
[ラファエラ] そうなの……? どうして?
[パンチョ] 簡単な話だ。毎日美味い飯を食って、高いびきをかいて眠れるような安穏とした生活を送りたくない奴がどこにいる?
パンチョはそう言うと、養女の頭をゆっくりとなでた。
[パンチョ] ……ラファエラ、可愛い娘よ。パイプを取ってきてくれ。少し一人になりたいんだ。
[ラファエラ] うん、わかった……
[エルネスト] やあ、いらっしゃい。……来ちゃったんだね、チェンさん。
[エルネスト] リンさんは別行動かな? 一緒にいると思ってたんだけど……
[チェン] その様子では、隠すつもりはないようだな。
[エルネスト] そりゃあね。ここまで来たらもう隠す必要なんてないでしょ?
[エルネスト] いやあ、本当思ってもみなかったよ。まさか二人があの状況をはねのけて、突破してきちゃうなんてね。
[エルネスト] チェンさんたちが凄いのは分かってたんだけどね、俺の見積もりはまだ甘かったみたいだ。
[エルネスト] しっかし……どうして気付かれちゃったのかなあ。疑うきっかけはなんだったのか、教えてもらえたりする?
[チェン] 第一ラウンドの時点で既に、リン・ユーシャはキミたちが爆弾を仕掛けていることに気付いていたんだ。キミには伝えていなかったがな。
[エルネスト] ……うわあ。つまり、その時にはもう疑われてたってこと?
[チェン] いいや、その時点では念のためキミには言わなかった、というだけのことだった。
[チェン] 関与を確信したのは、キミの武器屋で、仕掛けられていたものと同じ爆弾を発見した時だからな。
[エルネスト] ああ……なるほど。
[エルネスト] まさかそんなに早い段階で勝負が決まってたなんてね。
[チェン] それで、キミはなぜ私の前に現れたんだ? 最後の悪あがきでもしにきたのか? それとも、自首するつもりか?
[エルネスト] やだなあ、俺はただチェンさんに話したいことがあるだけだよ。
[エルネスト] よかったら、ちょっと聞いていかない? 聞き終わる頃には考えが変わってるかもしれないし。
[チェン] 伺おうか。
[エルネスト] ありがとう。……それじゃ、まずは質問からいこうかな。チェンさんは、ボリバルの歴史についてどれくらい知ってる?
[チェン] あまり詳しくはないな。
[エルネスト] あー、それもそっか。チェンさんの留学先はヴィクトリアだったもんね。あの国はそこまでボリバルに干渉してこないから、きっかけがなきゃ知る機会だって当然ないよなあ。……うん。
[エルネスト] じゃあ、歴史のことから話そうか。イベリアによってこの場所が発見される前――ここは、ボリバルという名前が付いているだけの単なる平原だった、ってところからね。
[エルネスト] そこから時代が変わっていった切っ掛けは、平原でイベリア人が多くの源石鉱脈を発見したことだった。彼らはボリバルに留まり、この場所を自分たちの植民地にしていったんだ。
[エルネスト] その後色々な要因で、イベリアの統治は終わりを迎えるんだけど……
[エルネスト] そんな百三十年の混乱期を経たあと、次にやってきたのがリターニア人だった。
[エルネスト] そう、今度はリターニアがこのボリバルを植民地にしたんだ。
[エルネスト] さらに、時は流れて……今から二百年前のこと。ボリバルは見事植民地から従属国――いわゆるシンガス王朝へと進化を遂げた。
[エルネスト] 言うなればその時、今の「ボリバル」の原型が生まれたってこと。……今も昔もこれからも、シンガス王朝の人たちが「ボリバル人」を名乗ることなんてないけどね。
[エルネスト] 話を戻して……その次に状況が大きく動いたのは、巫王の時代のことだ。当時のリターニアは従属国のボリバルを通じて、クルビアで内戦を引き起こそうとしてたんだけど……
[エルネスト] 事は彼らの思惑通りにはいかなかったんだ。結果として内戦が起こせなかっただけじゃなくて、逆にボリバルはクルビアの侵略を受けた。連合政府が樹立されたのも、その時のことだよ。
[エルネスト] そうしてボリバルは、クルビアとリターニア、それぞれの支配による分裂状態に陥ってしまった。
[エルネスト] しかも、この状態は長期的なものになった。何しろリターニアはボリバルへの関心が薄く、一方でクルビアは、侵略に野心的ではあるものの、ボリバル全土を一気に制圧するのは難しかったからね。
[エルネスト] そういった理由で両国の勢力は拮抗し、状況は膠着していた。
[エルネスト] そんな中、耐えきれなくなった一部のボリバル人たちが、抵抗を選んで立ち上がった。
[エルネスト] 彼らは反乱軍を結成し、トゥルーボリバリアンを自称して、このボリバルを真の独立国家にすると誓いを立てたんだ。
[エルネスト] でも……事態は何一つ好転しなかった。それどころか、トゥルーボリバリアンの結成はただボリバルを更なる泥沼へと引きずり込んだだけだったってわけ。
[エルネスト] ともあれこうした歴史を経て、ボリバルは今の「ボリバル」になった……と、大まかに言うとそういう流れだね。
[エルネスト] シンガス王朝、連合政府、そしてトゥルーボリバリアン……三者は今も、終わりのない戦火の中へと身を投じている。
[エルネスト] さらに、問題はそれだけに留まらない。そんな状況の中、このドッソレスみたいな都市が誕生してしまったからね。
[エルネスト] ……カンデラさんの統治下にあるこの都市は、三政府相手に上手く立ち回ることができている。それどころか、三政府の方からカンデラさんのご機嫌取りをしてくることだってよくある話だ。
[エルネスト] その理由は簡単。ドッソレスは彼らから見ても馬鹿にならないほどの資源を有しているから。そして、カンデラさんにはこの都市を守れるだけの力があるから、だね。
[エルネスト] まあ、そういうわけで、ドッソレスシティは次第にボリバル人なら誰もが憧れる場所になっていったんだ。
[エルネスト] 戦争によって嫌というほど苦しめられたボリバル人たちは皆……ここで存分に遊びたい、あるいはここで人生を変えたいと夢見て、そのためにお金を稼ごうとしてる。
[エルネスト] だけどさ、チェンさん。あなたやリンさんみたいな良い人なら、見ればわかるよね。
[エルネスト] この都市が、本当はどういう場所なのかを。
[エルネスト] もし、三政府にまだボリバルを統一して平穏をもたらす気があったなら、カンデラさんがドッソレスみたいな街を作ろうと思うことなんてなかったはずだ。
[エルネスト] はっきり言っちゃえばさ……このドッソレスの繁栄は、ボリバル全土の苦痛の上に成り立ってるってことなんだよ。
[エルネスト] この都市が栄華を極めるほどに、この国からは希望がなくなっていく……
[エルネスト] そんなのは……ボリバルの地を本気で愛している人からすれば、受け入れられない。
[チェン] キミも、その一人か?
[エルネスト] そういうことになるね。
[エルネスト] ま、つまり俺たちのこの都市は、ボリバルみたいな場所にあってはならない街なんだよ。
[チェン] ならば、キミの目的はなんだ? この都市を破壊することか?
[エルネスト] ううん、違う違う。だって、壊しちゃったらもったいないでしょ?
[エルネスト] 俺たちの目的は、あくまで街にパニックを起こすことだよ。
[チェン] それで、キミがこの話をしたのは、私に協力を呼びかけるためか?
[エルネスト] いやいや、そういうわけじゃないよ。さすがに、ちょっとお喋りしたくらいで味方してもらえるとは思ってないからね。
[エルネスト] ……だけど、できることなら……あなたとリンさんには、ただ黙って見ていて欲しいとは思ってる。
[エルネスト] 俺たちのやろうとしていることは、正義だと言っていいと、二人にならわかってもらえるはずだから。
[チェン] ……
[エルネスト] ……もし、チェンさんたちの方から手を出さずにいてくれるなら、俺たちも二人には手を出さないって約束するよ。
[エルネスト] 二人がケタ違いの実力者だってことくらい、同じチームだった俺が一番よくわかってるからね。
[エルネスト] そんな二人と衝突することになれば、不必要な損害がたくさん出ることになるだろうし……
[エルネスト] チェンさんとリンさんが、この提案を検討してくれると嬉しいんだけど。
[チェン] ――エルネスト。
[エルネスト] はい、チェンさん。
[チェン] 少し前のことだ。私はこれよりもはるかに複雑に張り巡らされた陰謀を、この身で経験した。己の弱さをはっきりと認識したこと以外に、私があの経験から得たものなど何もない。
[チェン] だが、少なくともこれだけは断言できる。――人を恐怖に陥れる行いで、正義を名乗れるものなんて一つもない。
[エルネスト] ……
[チェン] それに――キミは、まだ真実を語ってはいないだろう。
[エルネスト] 真実? チェンさん、これを計画したのが俺だってことならば、もう言ったはずだよ。
[チェン] 違うな。キミはこの件の首謀者ではない。
[チェン] そのように仮定すると、噛み合わない部分が出てくるんだ。気付いたきっかけは、あの時キミが私たちを武器屋に閉じ込めたことだった。あれは確かに効果的ではあったが……
[チェン] 同時に、かなり無理のある手段でもあった。キミなら、あんな仕掛けをすれば疑いの目が自分に向いて、正体がバレることも当然に想定したはずだろう。
[チェン] だからあの時点では、「キミにはまだ策があるのではないか」と、そう睨んでいたんだ。
[チェン] しかし、仮にキミがすべての黒幕であるとしたら、我々に正体を知られることは致命的なミスとなるはずだ。そんな失敗を取り返せるほどの策など、到底あるとは思えない。
[チェン] ゆえに私はこう考えた。――この計画において、キミの正体はさほど重要なものではないから、それがバレたところで、大した問題にもならないのではないか、とな。
[チェン] この考えは理にかなっているように思える。
[チェン] キミからすれば、私たちを閉じ込められたらそれがベストだろう。だが、もしそれが叶わず、事が露見してしまっても今のような状況になるだけだ。
[チェン] その上、キミがすべての黒幕だと私に誤認させることができれば、キミの背後にあるものに勘付かれることもないからな。
[エルネスト] ……
[チェン] こうしている時でさえ、私はまだキミの考えた筋書きの中にいるはずだ。そうだろう? エルネスト。
[エルネスト] ……やれやれ。チェンさんには敵わないな。本当に筋書き通り動いてる人は、そんなセリフなんて言わないでしょ。
[チェン] 我々が持ち得た情報は少なかったのでな。仕組まれているとわかっていても、飛び込むほかに道はないだろう。
[エルネスト] それってさ、そんな少ない手がかりを元に、たった一週間調べただけで、俺たちが数年かけて念入りに立てた計画の核心を捉えかけてたってことだよね?
[エルネスト] いやあ……チェンさんもリンさんも、やっぱりすごすぎるよ。
[エルネスト] 二人のことを警戒しすぎだとか、大げさすぎるだろうとか、俺、周りから散々言われたんだけどさ。
[エルネスト] こうなってみると、我ながら大正解だったね。多分、俺がもっと迂闊に動いて情報を漏らしてたら、チェンさんたちにはとっくにあれこれ気付かれてただろうし。
[エルネスト] ――まあ、残念ながら、そんな二人にも、俺たちを止めることはできないんだけどね。
エルネストはそう言うと、テレビをつけた。
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