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闇散らす火花_騎馬警察ひとり
騎馬警官のグラニは、派遣先の地元警備隊隊長の反対を押し切り、バーの放火事件の調査を進める。彼女に追い詰められた容疑者は、逃走中に逃げ込んだ廃墟を誤って大爆発させてしまう。
1097年11月19日 a.m. 7:44
[グラニ] つまり、きみたちもいつ開けられたのかわからないの?
[感染者ビーン] 少なくとも二ヶ月は前だろうな。
[感染者ビーン] いや、ここは木の板で塞がれてたんだが、前にやんちゃなガキどもがはがして入り込んでたことがある。今回もそうかもしれない。
[グラニ] 誰かが出入りしてるのは見た?
[感染者ビーン] 見てないな。この下は明かりがなくて真っ暗だし、用もなく下りる奴はいないよ。
[グラニ] そっか……わかった。
[グラニ] はぁ、やっぱりダメか……明らかに怪しいんだけどな。再使用された形跡のある廃棄インフラ層の出入り口は、これでもう六箇所めだよ。
[グラニ] 夜中に地下通路で何か引きずる音を聞いたって何人か証言してる。感染者地区の雰囲気もどこかおかしいし、誰かが悪さしてる気がするんだよね。
[グラニ] こんな廃棄された出入り口を使う人なんているはずないんだもん……
[グラニ] (両手で自分の頬を叩く)
[グラニ] よしっ、この件はまた後でじっくりと考えよう。些細なことだとしても都市の存亡に関わる大事件と同じように重要だからね、うん!
[グラニ] さてさて、ほかの事件は……そうだ……ビシュマー伯爵邸での窃盗があった。
[グラニ] これはどこから調査しようか。
[グラニ] はぁ……一体何者なんだろう? 警備が厳重な大貴族の家から物を盗むなんて、普通の泥棒じゃできない芸当だよ。
[グラニ] 伯爵邸の使用人の話だと、感染者地区に潜む神出鬼没の泥棒らしいけど、だとしたら、感染者地区をよく知ってる者か、特殊なアーツの使い手ってことだよね。
[グラニ] ──もちろん、使用人が責任を逃れるために嘘をついてないってことが前提だけど。
[グラニ] ……うーん、多分嘘じゃないと思うんだよね。ここ半月で似たような事件をいくつも聞いてるし、カレドンシティのあちこちで事件を起こしている泥棒は確かにいるはずだし。
[グラニ] 不思議な泥棒に、特殊なアーツ……
[グラニ] まぁいいや、とりあえず感染者地区に行ってみよう。
[感染者市民] グラニちゃん、やっと見つけたわ!
[グラニ] サニーおばさん? そんなに慌てて、何かあったの?
[感染者市民] うちのモコちゃんが逃げちゃったのよ。もう二時間も探しているのに見つからないから、グラニちゃんも手伝って! とてもいい子で勝手に逃げたことなかったのに……もしかして悪い人に──
[グラニ] おばさん、そんなに心配しないで。すぐに探してくるから!
[感染者市民] ありがとう、お願いね!
[グラニ] モコちゃんがいなくなる前に何か変わったことはあった? 周りの人には聞いてみた? ……あっ、焦らなくて大丈夫。ゆっくり話して。
一時間後
[グラニ] サニーおばさん、ほら、モコちゃん見つかったよ!
[感染者市民] まぁ! よく見せて……あぁ良かった、怪我はないみたい。もう本当ごめんなさいねぇ、グラニちゃん。忙しいのにペット探しなんて些細なことで迷惑かけちゃって。
[グラニ] そんなことないって。モコちゃんが本当にいなくなっちゃったら、おばさんすごくショックでしょ。全然些細なことじゃないよ!
[感染者市民] でも、あなた警備隊で大変らしいじゃないの。理由はよく知らないけど、この前は怒られちゃったんでしょ? お隣のジョンお爺さんから聞いたわよ。
[グラニ] アハハ……大したことじゃないよ。
[グラニ] だけどおばさん、羽獣を飼うなら檻に入れた方がいいよ……人を咬んだりしたら大変だもん。
[感染者市民] あら、それもそうね。
[グラニ] そうだおばさん、最近感染者地区で知らない人を見かけなかった?
[感染者市民] 知らない人? この地区には、よその都市から来た人がたくさんいるから、知らない人がいてもおかしくないわ。
[グラニ] うーん……あたしが言ってるのは……例えば奇妙なアーツを使う感染者とかのことなんだけど。
[感染者市民] そうねぇ……
[感染者市民] 先月この辺りで起きた停電、あなたも知ってるわよね?
[グラニ] あ! あったねそんなこと。感染者地区の発電機が何者かに壊された事件だよね? 犯人はいまだに見つかってないって……
[グラニ] でも電力はすぐに復旧したって聞いたよ、誰かが発電機を修理したんでしょ?
[感染者市民] そうなのよ! 聞いた話じゃ凄腕の術師エンジニアがものの数時間で修理したんですって! でも感染者地区にそんなすごい人なんていたかしらね?
[グラニ] そう言われてみれば……確かに不思議だね……
1097年11月20日 p.m. 6:44
[グラニ] 隊長。本日の報告書です、ご確認願います。
[警備隊長] ふむ……窃盗が二件と、カレドンシティで流れている噂の調査報告か……何だこれは。
[警備隊長] ビシュマー伯爵邸の窃盗事件の進展はどうした! どれだけ経っていると思ってるんだ!?
[グラニ] えっと、まだ一日ちょっとしか経ってませんが……
[警備隊長] 「もう」一日だ!
[グラニ] しかし……
[警備隊長] 私が苦労してわざわざ応援要請をした時、騎馬警察隊はお前のことを事件捜査のエキスパートだと言っていたぞ。だが結果は? ちんけな窃盗事件くらい、一日で解決できんのか!
[グラニ] (小声)騎馬警察隊は市議会から要請されたんですけど……
[警備隊長] いい加減にしろ! 目上の人間を尊重せず、上司に楯突くのが騎馬警察のやり方なのか!
[グラニ] 申し訳ありません、上官!
[警備隊長] 大体な、「廃棄インフラ層の出入り口を複数調査したところ、不審な箇所を発見したため、周辺の住民に聞き込み調査を行い……」またこれか? もう調べる必要はないと言ったろ!
[警備隊長] このカレドンではな、毎日奇妙なことが山ほど起きてるんだ。それを警備隊全員がお前のようにいちいち大げさに報告してきたら、私は心労でとっくにくたばってる!
[グラニ] ですが上官、もしこれらの事案を調査せずに放置しておいたなら、恐らく──
[警備隊長] 黙れ。くだらない話をするくらいなら、さっさと調査に戻れ!
[グラニ] はい、上官!
1097年11月22日 a.m. 10:20
[グラニ] はぁ……
[グラニ] スージーちゃ~ん。
[グラニ] お耳をモフモフさせて!
[スージー] アハハ、何かあったんですか、グラニさん?
[クエルクス] 仕事のことでしょ?
[グラニ] まぁね……最近あまりうまくいかなくってさ。
[クエルクス] 具体的に何があったの?
[グラニ] 何かあったというか……
[グラニ] 最近街で流れてる噂、きみたちも聞いたことあるでしょ。
[スージー] あっ、新聞に載ってたあの都市伝説のことですか?
[クエルクス] もうあれしかないでしょ。「都市の地下から聞こえる奇妙な音」とか「感染者地区に悪党が隠れている」とかいうやつ。
[グラニ] そうそう……実はそれを調査しようと思って、この前わざわざ報告書まで書いたんだけど。
[グラニ] 警備隊の人ったら全く無関心でさ! 余計なことするなってあたしに言うんだよ!
[スージー] え? 都市伝説の調査も騎馬警官のお仕事なんですか?
[グラニ] 都市伝説ってバカにできないんだよ、スージーちゃん!
[グラニ] あたしの経験上、こういう噂が流れる時には、噂の背後に犯罪行為が隠れてることがよくあるんだ。
[グラニ] 例えば「地下から聞こえる奇妙な音」だけど──
[グラニ] カレドンの地下には、廃棄された物流用の通路がたくさんあるってことは知ってる?
[クエルクス] 知ってるよ。移動都市が設計された時、インフラ層に多くの通路が作られたけど、都市の発展に伴い古い区画の地下通路の多くは維持が困難になって、結局はすべて廃棄されたんだよね。
[グラニ] その通り。この感染者地区の下にだって、そういう通路が結構あるよね。
[グラニ] つまり……わかるでしょ? 噂が本当だとしたら、何者かが夜間に廃棄された通路に隠れて何かをしてるってことだよ。
[スージー] はぁ……なんだかちょっと怖いですね。
[グラニ] でも残念ながらまだ直接的な証拠がないんだよね。
[クエルクス] そんなに悩む必要はないと思うよ。本来そういうのって警備隊の仕事でしょう?
[クエルクス] 後々本当に何かが起これば、全部彼らがサボってたせいだからね。君が気にする必要はないよ。
[グラニ] そうなんだけどさ……
[グラニ] はぁ、今はパトロールの時間だし、あたしがここでこうしてるのもサボりみたいなもんだよ……
[スージー] アハハ……私たちは誰にも言いませんよ。
[グラニ] 優しい優しいスージーちゃ~ん。
[グラニ] お耳モフモフさせて~!
[スージー] いいですけど、静電気には気を付けてくださいね?
1097年11月24日 p.m. 6:15
「グリーンスパーク」の焼け跡の前に、クランタの騎馬警官が一人立ち尽くしていた。
彼女の目の前には、通い慣れた店だったものがあった。人情味にあふれていた小さな店の屋根は崩れ落ち、壁は壊れ、残されているのは黒焦げの残骸だけだ。
彼女は自分の目に映る光景が信じられず、ただ呆然と瓦礫の山を見つめていた。
[グラニ] ……どうして?
[グラニ] ど……どうして? なんでこんな……
[消防隊メンバー] ああ、来てたのか、グラニさん。
[グラニ] こ、これはどういうこと? どうしてこのお店が……
[消防隊メンバー] 俺も信じられないよ。こんな店に放火だなんて、恨みがあったとしか考えられないな。
[グラニ] 放火? 誰かが火をつけたの!?
[グラニ] 店員さんは? あのフェリーンの子──彼女を見てない?
[消防隊メンバー] 見てないな。夜中に火事が起きた時、店には誰もいなかったようだけど。
[消防隊メンバー] 死傷者が出なかったのが幸いだ。
[グラニ] ……一体誰がこんなことを!
怒り。
彼女は拳を強く握りしめた。
ほぼ毎週訪れていたバー、可愛らしい店員の女の子、愉快な客たち……この街で数少ない憩いの場が、今は焼け焦げた廃墟となった。
抑えがたい怒りがグラニの中にあふれる──彼女がここまで怒ることは滅多にない。
犯人が誰だろうと、自分がそいつを法の裁きにかけてやる。
[消防隊メンバー] おい、入るな! 中はまだ片づいてないんだ!
[グラニ] 大丈夫、現場検証だよ。何か見つかるかも。
[消防隊メンバー] そいつは無駄だぞ、グラニさん。
[消防隊メンバー] 朝方に警備隊の連中が来て一通り調査していったからな。偶発的な火災だと判断して帰っちまったよ。
[グラニ] 偶発的な火災? でもさっき──
[消防隊メンバー] あれは俺たち消防隊の意見だ。現場でその証拠をたくさん見つけたしな。例えばこれだ。
[グラニ] えっと……爆発物の残骸?
[消防隊メンバー] そうだ。だが警備隊の連中は余計なことはするなって言うから、俺も何も言えなかったんだ。
[消防隊メンバー] どうせ感染者地区のことを気にする奴なんていないしな……触らぬ神に祟りなしだ。
[グラニ] きみたちが見つけた証拠、もらってもいいかな?
[消防隊メンバー] ああ、いいぜ。どう扱おうか迷ってたんだ。俺が持つべきもんでもないし……それにあんたも一応警備隊の人間だからな。
[グラニ] そうだね……
[グラニ] ちょっと待って……これ軍用の焼夷弾の破片かも! 前に騎馬警察の訓練で同じようなものを見たことがある。
[グラニ] それにこの材質、見覚えがある気が……
1097年11月26日 a.m. 7:15
[グラニ] また会ったね、モードさん?
[大声の男] き……騎馬警官!?
[グラニ] 釈放されたばっかりなんだって? てっきりもっと長く拘束されるものだと思ってたよ。
[大声の男] また捕まえる気か? やめてくれ! 俺はただの雑用係なんだ!
[大声の男] 最近は感染者にちょっかい出したりしてないんだ! 本当だ、信じてくれよ!
[グラニ] 本当に?
[グラニ] 数日前にきみを逮捕した時、押収した物の中に焼夷弾があったのを覚えてる?
[大声の男] ……
[グラニ] 「護身用」に焼夷弾を一つだけ買ったって言ってたよね。
[グラニ] 軍用の焼夷弾はデザインがユニークでさ。たとえ欠片だけだったとしても見分けるのは難しくない……あたしが持ってるコレ、どこで見つけたと思う?
[グラニ] 本当のこと言わないと、もう一度警備隊に来てもらうよ。
[大声の男] や、やめてくれ! 言う! 全部言うよ!
[大声の男] 本当は一箱買ったんだ! 一個じゃねぇ、一箱! だけど残りは全部売っちまった!
[大声の男] ダントン兄弟だ! ダントン兄弟に売ったよ!
[グラニ] ダントン兄弟? それって何者なの?
[大声の男] シラクーザ移民の二人組だ。ギャングだよ! ボイル区にいる奴らに訊いてみろ、あいつらなら知ってるはずだ!
[グラニ] その人たちがどうして感染者地区のバーを燃やしたか知ってる?
[大声の男] 知らない! 本当に知らないんだよ! バーの話なんて聞いたこともない!
[大声の男] そ、その焼夷弾もボイル区の闇市で買ったんだ! 本当だって!
[大声の男] 闇市の商人は、工場から直接ブツを入手するルートがあるって言ってた……
[グラニ] (カレドンの工場で軍用品を製造してるのは……ビシュマー伯爵が所持してる工場一つだけだったよね……)
[グラニ] ダントン兄弟──その二人がどこにいるか知ってる?
[大声の男] く……詳しくは知らない。よくボイル区にいるってことしか……
[グラニ] ボイル区か……
1097年11月27日 p.m. 6:15
[警備隊長] これで何度目だ? コソ泥はどうした? パトロールは? こんなくだらんことばかりに構ってるのは、無駄飯食らってる騎馬警察の大道芸人くらいだぞ。
[グラニ] これがくだらないことだと言うんですか?
[警備隊長] 違うと言いたいのか! たかが感染者地区のバーが燃えただけで、調査に何日費やすつもりなんだ?
[警備隊長] 電気回路のショート、ギャングの報復、落雷……理由なんぞいくらでも思いつく。結局調査しても犯人はいなかったんだ。これで遅れが生じた案件の責任は誰が負うんだ? お前か?
[グラニ] ……
[グラニ] ではこれらの証拠品は? この軍用焼夷弾はビシュマー伯爵の工場で生産されたものです。本来はヴィクトリア軍に供給されるはずのものですよね! でもこれらの武器が闇市に流れてるんですよ!
[グラニ] 製造している工場を調査するべきではありませんか!?
[警備隊長] あれはビシュマー伯爵の資産だぞ! 貴様は議員の工場にまで手を出す気か!
[警備隊長] 大した度胸だな!
[グラニ] 軍用爆弾! 地下闇市! 証拠は全部目の前にあります! なのにまだそんなこと言ってるんですか?
[グラニ] まさかこの闇市の取引に、隊長も一枚噛んでいるなんて言うんじゃないでしょうね?
[警備隊長] 貴様! 自分が何を言っているかわかってるのか? 私に向かってなんて口を利いてるんだ!
[グラニ] 脅しでごまかせると思ってるんですか? ビシュマー伯爵は隊長の親戚ですよね?
[警備隊長] き……貴様!
[グラニ] きみのような人間が、一体どうやって警備隊長に登りつめたの?
[グラニ] 感染者地区の事件はスルー。ボイル区でギャングが問題を起こしても見て見ぬふり。そして武器横流し疑惑っていう、こんな大きな事件すら調査しないの?
[グラニ] じゃあ、きみの仕事って一体何? これって職務怠慢だよね!
[グラニ] カレドン警備隊には、まともな警官はいないの?
[警備隊長] 貴様、上官に逆らう気か!?
[グラニ] あたしは市議会に呼ばれて来た騎馬警察の隊員だよ! つまり今のあたしはカレドン騎馬警察の責任者で、きみとは対等の立場。あたしに命令を下す権限なんて、そもそもきみになかったんだよ!
[警備隊長] ……いいだろう! 貴様ら田舎者が使えないのはわかってたさ……
[警備隊長] 大公爵がロンディニウムから戻ってきたら、貴様ら「騎馬警察」の勤務態度についてきっちりと報告させてもらうから覚悟しろよ!
[グラニ] 好きにすればいいよ。それじゃ!
[警備隊長] クソ、田舎の大道芸人風情が……大公爵が帰ってきたら、吠え面かくなよ!
1097年11月28日 p.m. 7:15
カレドン ボイル区 バー・ホワイトハット
[ガタイのいい黒服] あいつらどうしたんだ? 丸一日も遅れてるぞ!
[コソコソした黒服] まさか工場で何かあったのか?
[ガタイのいい黒服] だとしたらどうする?
[コソコソした黒服] もう少し待とう……夜になっても連絡がなけりゃ、先に撤退だ。
[バーテンダー] お巡りさん、何の用だい?
[グラニ] こんにちは。「ダントン兄弟」っていう二人組を探してるんだ。このバーにたまに来るって聞いたんだけど……
[ガタイのいい黒服] まずいぞ! 警備隊が嗅ぎつけやがった!
[コソコソした黒服] ビビるこたぁねぇ! ここはボイル区だ、何もできやしねぇさ。
[グラニ] あっ! 見つけた!
[ガタイのいい黒服] チッ、まったく……ああ、騎馬警官のお嬢さん、俺たち兄弟に何か用かい?
[グラニ] あたしと一緒に警備隊に来てもらえるかな。24日早朝に起きた感染者地区の放火事件について、訊きたいことがあるんだ。
[コソコソした黒服] 嫌だと言ったら?
[グラニ] 公務の執行にご協力願います、ダントンさん。
[バーテンダー] 調子こいてんじゃねぇぞ騎馬警察。ここはボイル区だ、あんたに権限はねぇ。
[バーテンダー] うちの店もあんたを歓迎しねぇぜ。さっさと出て行きな。
バーの空気が一瞬にして張り詰める。人相の悪い大男数名が席から立ち上がった。
彼らは武器を取り出すと、悪意のこもった眼差しで小柄な騎馬警官をにらんでいる。
[コソコソした黒服] ハハハ。ここはカレドンシティのボイル区だぜ、お前ら騎馬警察はここじゃ役立たずなんだよ。
[コソコソした黒服] さっさと帰って感染者どもの便所掃除でもしてやがれ、そっちの方がお似合いだ。
[グラニ] はぁ。
[グラニ] (九人か……帰ったら始末書たくさん書くことになるなぁ……)
1097年11月28日 p.m. 7:50
カレドン大通り
[コソコソした黒服] 逃げろ! もっと速く走れ、まだ追ってきてるぞ!
[ガタイのいい黒服] 腕が折れてんだよ!
[コソコソした黒服] 我慢しろ! まずは逃げるんだ、あの騎馬警官イカれてやがる!
[ガタイのいい黒服] あんなやつに勝てっこない! 騎馬警官はみんなああなのか?
[コソコソした黒服] いいから行けって! 感染者地区に逃げ込むんだ。あそこの地形は複雑だ、振り切れるかもしれねぇ!
[ガタイのいい黒服] あいつは追いついてきてないよな?
[コソコソした黒服] 黙れ、でけぇ声出すな!
[コソコソした黒服] 気付かれちゃいねぇ、ここに隠れてりゃ大丈夫だ。
[ガタイのいい黒服] *スラング*、何なんだあの騎馬警官。どうやって俺たちまでたどり着いたんだ?
[コソコソした黒服] 無駄口たたくんじゃねぇよ。
[「魔女」ミン] おじさんたち……だぁれ?
[コソコソした黒服] 誰だ!?
[ガタイのいい黒服] ガキ? どこから湧いてきた?
[「魔女」ミン] ここは魔女のお姉ちゃんのおうちだよ、ここで何をしているの?
[コソコソした黒服] こいつを黙らせろ! あの騎馬警官がすぐ外にいるんだ!
[ガタイのいい黒服] このくそガキ、おとなしく──
[「魔女」ミン] わかった! おじさんたち悪い人でしょ!
幼い魔女が右手を伸ばすと、青紫の雷が彼女の掌から放たれた。
[グラニ] (くそ、どこに逃げた?)
[グラニ] すいません……この辺で二人組の……
クランタの騎馬警官が近くの住民に声を掛けようとした瞬間、黒服の二人組がすぐそばにある家の窓から飛び出て、勢いよく塀にぶつかった。
[コソコソした黒服] あちちちち! こっのくそガキが!
[ガタイのいい黒服] *スラング*、ゴミ感染者め、絶対に──
[グラニ] みーっけ! そんなとこに隠れてたんだね。
[コソコソした黒服] *スラング*、逃げろ!
[ガタイのいい黒服] どこにだよ!!
[コソコソした黒服] 廃棄地区だ! 隠れ家ある!
1097年11月28日 p.m. 8:59
カレドン外縁部廃棄地区
黒服の二人組が息を切らしながら無人の通りを走っている。
小柄なクランタの騎馬警官がその後ろにぴったりとつけている。
[コソコソした黒服] 振り切ったか?
[ガタイのいい黒服] なわけあるか! 街中でクランタの騎馬警官を振り切れるかよ! いいから黙って走れ!
[コソコソした黒服] もうすぐだ、遅れずについてこいよ!
[ガタイのいい黒服] 誰に言ってんだ!
[コソコソした黒服] 着いた着いた、ここだ。
[ガタイのいい黒服] 迎えはどこだ? ていうか、この隠れ家ボロすぎだろ!
[コソコソした黒服] 黙ってろ! あいつらとは話がついてる。街を出るための服と偽の身分証が用意されてるはずだ。古いインフラ層に繋がってる隠し通路もあるから、逃げられるはずだ。
[グラニ] 小屋に隠れたんだね、まだ諦めるつもりはないの?
[グラニ] あたしを怒らせない方がいいよ? ここはもう都市の端っこだし、きみたちに逃げ場はないからね。
[グラニ] ついでに言っておくけど、このボロ小屋に隠れて待ち伏せしようとしても無駄だからね?
[グラニ] これ以上抵抗すれば、きみたちの罪はどんどん重くなるだけだよ。
[グラニ] 持ってるクロスボウと爆弾を置いて、すぐに投降しなさい──
[コソコソした黒服] どういうことだ、誰もいねぇぞ? なんで明かりも点かねぇんだ?
[ガタイのいい黒服] この小屋散らかりすぎだろ! 床に何かが転がってるみたいだが、暗くてよく見えん。
[コソコソした黒服] これは何の臭いだ? お前、今何にぶつかった!?
[ガタイのいい黒服] 暗すぎて何も見えないんだよ!
[コソコソした黒服] どうなってやがる? なんでこんなに物が積まれてんだよ!
[ガタイのいい黒服] 何かおかしいぞ! 迎えの連中はどうした!
[コソコソした黒服] この隠れ家、なんか変だぞ!
[グラニ] ──もし出てこないなら、強行突破するよ。
[グラニ] 騎馬警官の実力を見せる時が来たみたいだね。
小柄な騎馬警官が槍を逆手に持ち換え、姿勢を低くしてそれを頭上に掲げる。アーツが武器の先端に集まり、槍全体が夜の闇の中で、鈍く赤く輝いた。
[グラニ] この技を使うの久しぶりなんだ、怪我しても恨まないでよ──
[ガタイのいい黒服] 早く何とかしろ! ドアを突き破ってくるぞ!
[コソコソした黒服] 慌てるんじゃねぇ! 落ち着け!
[コソコソした黒服] 懐中電灯持ってねぇか?
[ガタイのいい黒服] そんなものわざわざ持ち歩くわけないだろ!
[コソコソした黒服] そうだ焼夷弾! あれがまだ一つ残ってたろ?
[ガタイのいい黒服] ここを燃やす気か? 自殺行為だろ!
[コソコソした黒服] 頭を使えよ! まず焼夷弾を奥の部屋に放り込んで、その明かりで隠し通路に逃げ込むんだよ! その後に部屋が燃え上がりゃ、あの騎馬警官も俺たちを追えねぇ。一石二鳥だ!
[ガタイのいい黒服] なるほど! よし……
ガタイのいい黒服の男は、軍用焼夷弾のプルリングを引き抜くと、闇に包まれた小屋の奥深くへと投げ入れた。
しかし──
火がついた瞬間、彼らは自分たちがどれだけ愚かな判断をしたかをようやく理解した。
狭いボロ小屋には、大量の源石爆発物と危険物が積まれていた。
先ほど彼らが倒したドラム缶からは、高濃度のアケトン原料が辺り一面にこぼれ出ていた。
[グラニ] ──三つ数えるよ、これが最後のチャンスだからね!
[グラニ] 三!
[グラニ] 二!
[グラニ] 一!
折り畳み式の軍用槍が閃光のごとく発射され、厚さ十センチ以上はあろうかというコンクリートを粉砕し、壁を引き裂いた。
しかし次の瞬間──
雷鳴のような爆発音が、カレドンシティ全体に響き渡った。
キノコ雲を伴ったまばゆい光の束が、空を突き抜け、廃棄地区を、ゴドズィンの夜を、ヴィクトリア南西側の港をも照らした。
小屋の爆発によって周囲の地面はすべて陥没し、都市のインフラ層へと崩れ落ちた。
長年手入れされていなかったインフラ層も連鎖的に崩壊し、轟音を発し続けながら落ちていく。
ボロ小屋だった場所には、高速戦艦の砲撃を受けたかのように、煙がもうもうと立ちこめる巨大な穴だけが残されていた。
容疑者も、証拠も、真相も……すべてが小屋と共に黒煙となって、風に流されていった。
[グラニ] ……???
[グラニ] ど……どういう状況?
爆風で吹き飛ばされたヴィクトリアの騎馬警官は呆然とした表情で目の前の光景を見つめていた。彼女は一体何が起こったのか、まだ理解できていなかった。
1097年11月28日。
カレドンシティの夜は、いつにも増して賑やかだった。
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