あのときの王子くん 第26章 鹿児島弁で

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あのときの王子くん_あちこちのことばで

第26章 鹿児島弁で

 

 井戸(つい)んそべ、うっがれた古か石んかべがあった。あくい日んよのいもて※1、おいがすいこっをしっせえもどっくっと、とわかほうせえ、王子どんがそんかべん上せえ腰掛けっ、足ょぶらんぶらんさせちょっとが見えた。そん子ん語(かた)いごえもきこゆっ。

「したら、おはんはおぼえちょらんと?」ち、そん子はゆた。「ちごち、ここぁ!」

 そん子んゆとせえ、ないかがへじ※2ょしかたごたった。

「そげんじゃっどん! そう、きゅじゃっどん、ちごたっち、ここじゃなかと……」

 おいは、かべがあっほうせえあるっいった。じゃっどん、ないも見えんし、ないもきこえん。そいどん、王子どんはまたこたえかたじゃった。

「……じゃっど。さばくせえちた、おいの足あとが、どっからはじまっちょっかわかいやろ。おはんはまっだけでよかと。おいは、今晩な、そけおっで。」

 おいは、かべから20メートルんとこぎいきたどん、まだないも見えん。

 王子どんは、だまっちょったあと、まいっどゆた。

「おはんのどくは、いけんもなかと? まこて、じわっくるしまんたっどなお?」

 おいは心気(しんき)がにえっせえ、たっどまったどん、ないごてやっとか、やっぱいわからんかった。

「なんがなし、行かんな」ち、そん子はゆた。「……おいは下りたかとよ!」

 そんとっ、おいは気になっせえ、かべん下んあたいをのぞっみった。おいは、とっびゃがった。なんち、そけおったとは、王子どんのほうせえシャーっちかまえちょっ、きいろかヘビが1ぴっ。ひとを30びょうでうっころすっやつじゃっ。おいはピストルをうとち、せけっポケットんなかをさぐいさぐい、かけっむこた。じゃっどん、おいのたつい音に気がちっ、ヘビゃずなんなかせえ、ふんすいがやんごっ、しゅるしゅるちひっこんしもた。そいからな、いそっごでんなっ、石んあいだをカシャカシャちかるか音をたてせえ、すいぬけっいった。

 おいは、なんとかかべずいいたっ、やっさそん子をばすけた。おいのぼん、おいの王子どん。つらが、雪(ゆっ)がごっ青白か。

「なんちゅこっ! いまさっ、おはん、ヘビとかとちょったどな!」

 おいは、そん子んかねっつけちょっマフラーをほでた。よこびんをぬらけっ、水ょのませた。ないがれ、おいはもへないもきっがならんかった。そん子は、むきなったごっ、おいんこっをじっち見っせえ、おいのくっにすがいちた。そん子んしんぞうのとためっがつたわっくっ。てっぷにうたれっせえけ死ん鳥がごっ、よとし。そん子はゆ。

「うれしかよ、おはんは、わがからくいせえたらんもんを見っけたな。もう、おはんげえせえかいがないな……」

「いけんして、わかっと?」

 おいは、ちょっきい知らせにきかたじゃった。かんがえちょったよっけんな、やらんといかんこっがよかごっなった、ち。

 そん子は、おいがきいたことにゃこたえんかったどん、こげんつづけたと。

「おいもね、きゅ、おいげえせえかえっと……」

 そいかあ、とぜんなかごっ、

「わっぜかとわかとこ……むっかしもむっかしどん……」
 おいは、いてごっかんじた。ないか、とっけんねこっがおころちしちょっ。おいは、そん子をぎっちだっしめた。こまんか子どんせえすいごっ。じゃっどん、じゃっとに、おいには、そん子がするっぬけでっ、穴せえひっちゃれっしもごっおもた。おいには、そいをとめがなっ力もなか……

 そん子は、とおか目で、ないかしっかい見ちょった。

「おはんのヒツジがあっし、ヒツジんためんはこもあっし、くちわもあっ……」

 そげんゆて、そん子は、とぜんねごっえご※3なった。

 おいは、じっしちょった。そん子んからだが、ちっとずっほめっいっとがわかった。

「ぼん、おじたっね……」

 おじとは、あたいまえやっとに! じゃっどん、そん子は、そろいとわるて、

「夜(よい)になれば、こえなっ……」

 もへいけんもしがならんちおもと、おいはまた、ぞっちした。おいは、こんわるこえが、もへいかなこっでんきっがならんなんち、どげんしてん、うけいれがならんなった。こんわるこえが、おいせえな、さばくんなかん水くん場んよなもんじゃったとや。

「ぼん、おいはまっと、おはんがわるこえがききたかと……」

 じゃっどん、そん子はゆた。

「夜(よい)がくれば、1年になっ。おいの星が、ちょっきい、1年まえにひっちゃれたとこん上せえくっと……」

「ぼん、こいはわるか夢じゃったろ? ヘビんこっも、会(お)たことも、星のことも……」

 じゃっどん、そん子は、おいの訊(たん)ねたことにゃこたえんで、こげんゆた。

「大切(てせ)なもんちゅうとは、見がならんと……」

「じゃいな……」

「そいは花もおなひこっ。おはんがどっかん星にあっ花をすいたら、夜(よい)、空を見っとがここちよかごっなっ。どん星にもどいも、花がさいちょっとよ……」

「じゃいな……」

「そいは水(みっ)もおなひこっ。おはんがおいにのませっくれた水(みっ)な、まこて音楽がごたった。くるくるとロープんおかげさあ……じゃろが……よかったやろ……」

「じゃいな……」

「おはんな、夜(よい)になっと、星空をながむっ。おいげえはこめすぎっで、どいやっとかゆっかせがならんたっどん、おはんにゃ、あんあばてんなかとのひとっ。じゃっで、どげな星でん、おはんな見っとがすきんなっ……みなみんな、おはんが友達(どし)になっ。そいで、おいはおはんに、贈(おく)い物(むん)をすっとよ……」

 そん子は、けろっちけわるた。

「おい、ぼん、ぼんよ。おいは、そんわるこえがすっじゃっと!」

「うん、そいがおいの贈(おく)い物(むん)……水(みっ)とおんなひ……」

「なんちゅこっ?」

「ひとにゃ、みんなみんなん星があっと。たびびとにゃ、星ゃ目じるし。ほかんしにゃ、ほんのこまんかあかいにすぎん。びんたんよかしにゃ、しらぶいもんじゃし、あんしごとにんげんにゃ、銭(じぇん)のもと。じゃっどん、そげな星でん、どん星もどいも、ないもゆわん。ほいで、おはんにも、だいともちご星があったっど……」

「なんちゅ、こっ?」

「夜(よい)、空をながめたとっ、そんどいかにおいがすんじょったっで、そんどいかでおいがわるちょったっで、おはんにとっちゃ、星ち星がわるちょごっなっ。おはんにゃ、わるてくるい星空があっちこっ!」

 そん子は、けろっちけわるた。

「じゃっで、おはんの心がゆなったぎいな(ひとん心はいっかゆなっもんじゃっで)、おはんな、おいとでおてよかったち思ど。おはんな、いっでんおいの友達(どし)。おはんな、おいといっしょきわるたかっせえたまらんと。じゃっで、おはんなとっどっ、まどをあくい、こげなふに、たのしないごたっせえ……じゃっで、おはんの友達(どし)んしゃたまがっじゃろな、わがたっのまえで、おはんが空を見いながらわるちょったっで。ほしたら、おはんなこげなふにゆ。『じゃっ、星空は、いっでんおいをわらかせっくるい!』じゃっで、そんしゃ、おはんのびんたがおかしなったちおも。おいはおはんに、いみしっあまいをすっちゅうこっ……」

 ほしてから、けろっちわるた。

「星空んかい、けろちわる、こめすずを、ずんばりあぐいごちゃいな……」

 けろちわるた。ほしてまた、しっかいしたこえで。

「夜(よい)にゃ……やっで……来んで。」

「おはんを、ひといにゃせん。」

「おいどん、ちんぐわらっ見ゆっどん……ちょっひっけ死んごっ見ゆっどん、そげなもんじゃっと。見いけ来んで。そげなこっせんでよかで……」

「おはんを、ひといにゃせん。」

 じゃっどん、そん子は気にないごたった。

「あんな……ヘビがおっとよ。おはんにかんちっといかんで……ヘビちゆとは、いっきおそっくっで、わがすっなごっ、かんちっかしれん……」

「おはんと、ひといにゃせん。」

 じゃっどん、ふっち、そん子はおてちて、

「じゃっとか、どくは、またかんちっとっにゃ、もねごんなっちょったんな……」

 

 あん夜、おいは、あん子がまいっどあるっされでけたこっに気がつかんかった。あん子は、そろいとぬけでちょった。おいがいけんかしておいちたら、あん子は、わき目もふらじ、はや足であゆんされちょった。あん子はただ、こげんゆた。

「おっ、来たとや……」

 そいかあ、あん子はおいの手をとったたっどん、またなやんでけた。

「いかんど。おはんがきしつっばっかいじゃっど。おいはけ死んだごっ見ゆっどん、ほんのこちゃちごと……」

 おいは、ないもゆわん。

「わかいやろ。とおすぎっと。おいは、こんからだをもっていっがならんと。おみすぎっと。」

 おいは、ないもゆわん。

「じゃっどんそいは、うっせた、ぬけがらとおなひ。ぬけがらなら、せっねこっななか……」

 おいは、ないもゆわん。

 あん子は、ちょっしずんだ。じゃっどんまいっど、こえをあいかぎいしぼった。

「よかこっ、じゃろがね。おいも、星ょながむっど。星ちゅ星ゃ、さびちたくるくるのちた井戸(つい)じゃっと。星ゃみんな、おいに、のんもんをついでくるっ……」

 おいは、ないもゆわん。

「わっぜたのしか! おはんにゃ5おくんすずがあっせえ、おいにゃ5おくん水くん場があっ……」

 ほしてそん子も、ないもゆわん。ないなら、なっかたやったっで……

 

「ここよ。ひといで、あゆまして。」

 そげんゆて、あん子はすわいこんだ。おじかったと。あん子は、こげんつづけた。

「わかいやろ……おいの花せえ……おいは、かえさんといかんと! そいに、あん子はわっぜかよわか! そいに、わっぜむじゃき! まわいからみをまもっとは、しれた、よっつんピ※4……」

 おいもすわいこんだ。もへ立っちょいがならんかった。1ぽばっかい、まえせえすすん。おいはうごっがならんかった。

 ないか、きいろくひかったばっかいじゃった。といのこぶしんあたい。あん子んうごっかたが、いっとっ※5とまった。こえもなかった。あん子は、そろいとけたおれた※6。木がほたいとくい※7ごたった。音もせんかった。ずながせいじゃった。


[注釈]

+-
  1. よのいもて:夕方
  2. へじ:返事
  3. えご:笑顔
  4. ピ:トゲ(トゲの類似語は多々あり)
  5. いっとっ:一時(ここでは「いっしゅん」の訳)
  6. けたおれた:たおれた(強調的な接頭辞「け‐たおれた」)
  7. ほたいとくい:放たい解くい(好ましくない場合の「ほたい」で「たおれてしまう」ようだったの意) 

[翻訳者紹介]

Taizona

1975年鹿児島市生まれ、志布志町(現志布志市)と国分市(現霧島市)育ち、横須賀在住。やや大隅寄りの薩隅語に触れる機会が多め。


[ことばの解説]

表記の漢字と送り仮名(綴りかた)は、基本的に底本に遵っています。
知る限り古い世代の古式の鹿児島語を意識しました。言い換えや表現は古くても、なるべく鹿児島方言で広く一般的に通用しそうなものを採用しています。薩摩大隅の大正生まれから戦中生まれ世代くらいの母語話者の言葉のイメージです。

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