第23章 若年層の柳川弁で
王子くんが「こんにちは」ちゆうたら、
もの売りも「こんにちは」ちゆわした。
もの売りは薬ば売りよった。そん薬は、喉のカラカラののうなるごと作ってあって、一週間に一粒飲むと、もう飲みたかとは思わんごとなっとげな。
「なしけんせんかつば売りよっとね」ち王子くんはゆうた。
「要らん時間ば削らるっけんたい。」ちもの売りは答えらした。
「1週間に53分も要らん時間ば削らるっとよ、っち、博士の数えなはった。」
「そん53分はどげんすっと?」
「自分がしたかことばすっとたい」
王子くんは考えよる。
「僕は、53分も時間のあっとなら、ゆーっくり水汲み場にさるいて※1いくばってん……」
[注釈]
※編集者注:同人誌版では第22章と第23章の注釈番号は通し番号ですが、Wiki版では章ごとに注釈番号を振っています。
- 「ぶらぶら歩いて」
[翻訳者紹介]
松岡葵(まつおか・あおい)
1997年福岡県柳川市生まれ、柳川市育ちの言語学徒。柳川をはじめいろいろなところに方言を習いにいっています。
研究内容はhttps://researchmap.jp/matsuokaaoiをご覧ください。
[ことばの解説]
2000年前後に生まれた人(私)が実家の家族やご近所の方と話すときに用いるくらいの、若年層柳川弁に訳しました。柳川は福岡市内などと比べると方言が「濃ゆか」(濃い)地域ですが、若い世代では、いわゆるサ行イ音便(「貸した」を「ケータ」と言う)、連声(「本は」を「ホンナ」と言う)などは見られなくなりつつあります。方言研究において柳川弁と同じグループに属す博多/糸島弁、長崎弁、熊本弁との似ているところ(形容詞の終止形がイではなくカで終わる)と違うところにもご注目ください。

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