aklib_story_統合戦略4_エンディング3

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統合戦略4 エンディング3

「吾人は、完全に暗闇に飲まれた大地を――」

「氷原の果てで、いずれ必ず開かれる門を――」

「そして始めから終わりに至るまで、完璧に整えられた運命を、視たことがあります。」

「その終点へとたどり着くために、私は、事の起こりを復元いたしましょう。」

[アルゲス]遠見で見たあの未来が……目の前に。

困難を前に一進一退し、数えきれない失敗と挑戦を経て――

観測隊はサイクロプスの導きの元、北地よりさらに北へ――果てなき氷原の果てへとたどり着いた。

目の前には誰にも理解が及ばないだろうほど巨大な建築物があり、そのそばには一面に根のない花が咲き誇っている。

ここまでたどり着いた探索者は、恐怖というものを熟知している。それはまさに、一人一人の思考の中に広がるものなのだ。

この門が開くことのできるものならば、その向こうに待つのは災いであるに違いない、と誰もがそう思った。

しかし、サイクロプスはすでに門へと向かっていた。

洞窟を出た瞬間から、彼女はそこを目指して歩き出していたのだ。

視界がゆがみ、認識と理解が空間を急激に崩壊させていく。

現実の侵食は、亀裂を認識した時点で始まっていた。人々は災いの到来を止めたいと思いながらも、干渉されている恐怖の中で声を出せずにいた。

[ティフォン]……

ほかの皆と同じように、ティフォンもその後ろ姿を見つめていた。

だが、ほかの皆とは違って、彼女は運命が定めた地へと向かうその背中を幾度となく見てきていた。

未来を見通すサイクロプスは、己の行き先を明言することはなかったが、彼女が口にする運命の導きに従えば、どこかで再会できるというのが常だった。

しかし、今回ばかりは何かが違っていた。ティフォンは、どうしても彼女を呼び止めなければならないと感じたのだ。

それは、大きな災いが起こるという予感や、未知への恐怖から来るものではなく、狩人が己の正しい不安を鋭く汲み取ったがためだった。

[ティフォン]――アルゲス、行くな!

その声に、サイクロプスは振り返る。

巨大な輪のような建造物が回転し始め、星空の如ききらめきを持つ暗闇を映し出す。鮮やかなその色彩が曲がりくねり流れていく。

これまで記録されてきたものを遥かに上回る規模の崩壊が、目の前で起こり始めている。

彼女は、この光景をすでに遠見していた。

深淵をただ一度覗き見ただけでも、サーミはおろかテラのすべてに未曽有の危機がもたらされるだろう。

刹那の予言では、己の力で厄災をどれだけ食い止められるかを知ることはできず、ましてや今後どれだけの人から恨みを買うことになるかなど知る由もなかった。

彼女が己の使命について知ることは、たった一つ――

悪魔の巨大な影に覆われながら、サイクロプスはアーツを使って黒い帳を下ろし、彼女が引き起こした厄災から皆を切り離した。

[アルゲス]今すぐこの場を離れてください。

その瞬間、ティフォンは彼女が言おうとしていることを悟った。というのは、常に憂いに満ちていたサイクロプスの顔に微笑みが浮かんでいたからだ。

「これが私の運命なのです。」

[アルゲス]運命を知らぬ娘よ。それでも、あなたが……

[アルゲス]……自らの自由を信じたまま、生きていけますように。

……いやだ。

いやだ!

信じるものか!

それが今日だなどと、わたしは――!

果てなき暗闇の中、彼女は前へと走り出す。

恐怖の泥沼を抜け、重たい弓矢を投げ捨てて。

ティフォンは、孤独に去ろうとするその人に向かって――

すべてを顧みず、必死に手を伸ばした。

その時、無垢な輝きを放つ白銀の角獣が、彼女の横をすり抜けた。

その影は雪のように軽やかで、触れることすら難しく、蜘蛛糸で編んだ「夢捕りの網」でも捕らえることはできそうにない。

それは、サーミフィヨドのすべてが夢で出会う、純白なる祖霊の慈悲であり――

その姿は、一筋のオーロラの如く闇を切り裂き天へ昇る。

サーミの獣主が目の前の悪魔へと突っ込んだ。

爆発が放つ強い光が歪んだ視界へと放たれ、静寂の中へ広がって、捉えどころなくきらめく虚空へ飲まれていく。

激しい衝撃の中、角獣から零れ落ちた銀色の霜が、恐ろしいほどに輝く星々と共に消えていった。

力と力がぶつかり合うことで生じるエネルギーが、氷の花を昇華させる。

氷原の果てに、温かな雫が零れ落ちる。

運命の深淵へと伸ばされた少女の手の上で、アンマーの愛が優しく溶けていく。

悪魔の影は遠ざかり、白銀の角獣も姿を消した。

巨大な輪の中から溢れだしていた異常な色彩も消え去って、澄み渡る氷上に残るのはいにしえの白銀のみだ。

誰もが呆然とすべてを見つめていた。しばらく時間が経ってからようやく、観測員の一人が歩き出し、その足音が静寂を破る。

その後観測隊の面々が幾度も輪をくぐってみたものの、残念なことに目の前の建造物を起動させる方法はわからなかった。そこには、先ほど見た「門」へと通り抜けられそうな隙間もないのだ。

一方、彼らからほど近い雪の中で、ティフォンは地面に視線を走らせていた。

角獣のひづめの跡が刻まれた、小さな雪玉を探しているのだ。

[ティフォン]……ないな、どこにも。

[ティフォン]不思議なことだ。アンマーが来た時は、祝福を残していくはずなのに……

[ティフォン]アルゲス……お前もそうは思わないか?

あの大きな角獣がもはや消え去ってしまったとは認めたくはなかったが、アルゲスはそれでも、ゆっくりと首を振った。

アンマーの足跡は、降りやまぬ雪の中に消えてしまったのだ。

サーミのエラフィアたちが持つコミュニティには属さぬ二人のサルカズは、小さな声でサーミの祖霊が与えてくれた愛に感謝した。

嵐はすべて過ぎ去ったようだった。

けれども、運命の与えた予言は未だ成就していない。

まさしく、定められた彼女の死のように――

人類はいずれ必ず、あの門を開くことになるのだろう。

深淵からの一瞥

水滴

ヴァラルクビンは洞窟の中で瞑想をしており、もはやどれほど時間が経ったかもわからなかった。

彼女の洞窟には吹雪の音さえ届かない。ここにあるのは、彼女自身の鼓動と呼吸、血流の音のほかには、冷たい霧が岩肌に触れ、ゆっくりと水滴を形作っていく小さな音だけだ。

サイクロプスの遠見は常に未来のみを見据えている。千年前、魔王の跡を継いだサイクロプスが残した遠見の力は、その後一族に代々受け継がれてきた。――影は氷原の果てからテラへと広がり、現実の景色を崩壊させていくだろう。大地に死者の姿はないが、それはその大地すべてが虚無に飲まれてしまうからだ。

初め、北への旅の途中で命を落とした同族たちは、生涯氷原も悪魔も目にすることはなく、ただ自分でも理解の及ばぬ予言を子へと語り伝えるだけだった。それは、盲人が棺を開けた瞬間のまだ朽ちていない死者の顔を思い描くようなものだ。そして現在、彼らの部族は山々に暮らし、北に広がる氷原を観測している。目に映るその光景の本質は、氷原の全貌とともに明らかになりつつあった。

だがそれでも、サイクロプスの役割は何一つ変わらない。彼女は……彼女たちは、今も待っている。遥か彼方にある未来、運命の終わりを。その時が来るまで、彼女は一分一秒でもその到来を遅らせるべく最善を尽くし続けなければならないのだ。

しかし、ヴァラルクビンが思考を止めたことはない。

彼女は、観測基地に近づく南の人間に、自分が頼みごとをしている光景を視た。そして彼らと話すうちに、顔も確かめられないような遺体が一面に転がっている光景を視た。歓談に弾む声が一瞬でかき消えて、己の手に有り得べからざる花が握られ、後ろに花畑が無限に広がっているのを視た。それでもなお、彼女は観測隊の隊長の手を取ることにしたようだった。

彼女は、よく知る若きシャーマンたちを戦士たちの戦線へと送り出すその光景を視た。彼らが同じ小屋で寝泊りをしている時に、悪魔の穢れを受けた戦士たちが軽はずみにも出立し、吹雪の中で飢え死ぬ様を視た。それでもなお、彼女は彼らの燃えるような願いを叶えるべく、送り出してやることを選んだようだった。

そうして、無数の入り乱れる思考を巡らせたあと、彼女は決意と共に洞窟を出る自らの姿を視た。

最後に彼女は、自分が珍しく過去に思いを馳せていることに気が付いた。サイクロプスの遠見は常に未来のみを見据えているが、遠見の中で存在しえた無秩序な可能性たちは、やがてただ一つの記憶へと収束していく。

……黒い雪が空へゆっくりと舞い上がる中、家族の亡骸のそばに横たわった今にも息絶えそうな子供に近付いていく自分の姿。

運命からの警告として、ヴァラルクビンは視た。ある遠見には、見たこともない氷原が広がっていて、この子の成長した姿はよく見えず、輪郭もぼやけていた。悪魔の穢れを受け、虚ろな影へと成り果てたその顔は黒い空洞となっていたのだ。そこでは、自分がアーツを用いてこの子の命を奪おうとしていた。またある遠見には、逃げまどう自分の姿があったが、黒き矢に胸を貫かれ、木にくぎ付けにされていた。またある遠見には、この子に罪人と呼ばれる自分の姿があり、その死刑を執行するのもまたこの子だった。またある遠見には、枯れゆく花があり、断たれた弓弦があり、破れた衣服が門の外に残されており……

彼女にはすべてわかっていた。この胸が張り裂けるような痛みは、いずれ必ず起きるのだ。

それでも、彼女は目を閉じた。すると残されたのは、歯を食いしばり震えながら泣いている、耐えがたいその声だけだ。

彼女はすすり泣く子どもを抱きしめた。

そうして暖かい腕に抱かれ、少女はようやく安心したように大きな声を上げて泣いた。一筋の涙が、ヴァラルクビンの襟元から流れ落ちていく。

……目を開けてみれば、今肌へと落ちたのはその涙ではなく、石壁のにおいのする水滴だった。

未練

アンマーは去ってしまった。

ティフォンはその時、「死」という言葉を選ぶのを拒んだ。死を迎えようとその魂はサーミの地を歩み続けるものだが、この地を去った者たちは二度と戻らない……この場合は後者だと捉えたのだ。

彼女は山々を越え、凍原を駆け抜け、黒き森を通り抜ける間、ずっと不安を感じていた。アンマーの加護を失ったサーミは、どうなってしまうのだろうか?木々が枯れてはしまわないか、そうなれば角獣の住処も失われるのではないか?アンマーが踏みしめなければ、雪は永遠に溶けないのではないだろうか……?

何一つ変わらぬ景色を目にしたことで、ティフォンはようやく安堵のため息をついた。森は相変わらず生い茂り、湯気の立つ温泉は周囲の新雪を溶かしている。幼い角獣は彼女に害意がないことを感じ取ったのか、そばに寄り添い、ゆっくりと茂みの若葉を噛み始めた。長旅で疲れ切ったティフォンは、そのまま幼獣と共に昼寝でもしそうになったが――

幼獣がその穏やかな瞳を閉じた瞬間、彼女はぱっと飛び起きた。ティフォンは、その目をほとんど開かなかった純白の角獣が、今やサーミを守ってくれはしないことを思いだしたのだ。

ティフォンは幼獣を守るべく、慣れない魔よけのアーツと弓矢を使い、まだ脅威とは言えない程度の影を追い払った。しかし一方で、角獣は今も、アンマーが消えてしまったことなど知らず、いつも通り無防備に木陰ですやすやと眠っている。

すぐにティフォンは理解した。サーミには何の変化も起きていないということはつまり、アンマーが去ったという事実に誰も気づいていないということでもあるのだ。

アンマーはサーミに生きるすべての命を守るため、己が身を捧げて音もなく消えてしまった。だが、人々は皆、自分がまだアンマーに会えていないだけだと思うに違いない。

ティフォンは、低木に囲まれ身動きが取れなくなっていた部族の民を救った。そしてその時、アンマーはこれ以上守ってはくれないから、これまで以上に気を付けるようにと忠告をした。

だが、その言葉に対する回答はこうだった。「そうだな。アンマーはたくさんの人の面倒を見ないといけないし、いつでもご加護を受けられるわけもない。私たちはむしろ、自分の子供の面倒を見てあげないといけないくらいだしね。」

ティフォンは、今度は森の中にいる狩人に向かって叫んだ。「もう二度と、アンマーの愛が、あの雪玉が見つかることはないんだ!本当に、もう二度と!」

けれども、狩人はその言葉を信じなかった。もとより、意図的にアンマーの愛を求める者は決してその加護を得られないというのが当然の摂理なのだ。そういう人間は「どうして雪玉を見つけられないのか」という疑問を抱くが、やがて、その疑問自体がアンマーの愛を得られぬ理由であることに気付くのである。ゆえに狩人はただ、少女の呼びかけに微笑むと、小さな雪の塊を掴み、ふざけたように彼女の足元へと投げるだけだった。

ティフォンのほかにアンマーを見送った者はおらず、葬儀の準備をしようという者も当然いなかった。ほかの人々に何かを伝えようにも、かつて彼女の手の上で、あの雪が溶け落ちたことなどどう証明すればいいのだろうか?

彼女の悲しみは少しずつ怒りに変わっていったが、それをどこにぶつければいいのか彼女にはわからなかった。彼女には平和に暮らす人々を責めることも、今なお生き生きと茂る森を責めることもできず、むしろそのすべてを守るべく今まで以上に精力的に、力を尽くして巡回をするようになった。

ある日、とある雪祭司に出会うまでは。

その人物を前にして、彼女がもはや口癖のように「アンマーはもはや守ってはくれない」と口にすると、その雪祭司はうなずいて見せた。

己の言葉に同意してもらったのはこれが初めてだったティフォンは、ようやく感情のやり場を見つけ、アンマーにまつわる話を次々に語り始めた。そうしてすべてを話し終えた時、彼女はぽつりと零した。「だが、こんなことは二度と起こらないはずだ。」

しかしそれに、気長に耳を傾けていた雪祭司はこう答えた。「それは違うな。アンマーがこれまでサーミに留まっていた理由はわかるか?」

「留まっていた、というと?」

「アンマーやその仲間たちは、どこか特定の土地に属するような存在ではない。」

「アンマーはただ、サーミの地とそこに生きる命を愛しているから、ここにいてくれたのだ。」

「だけど、今はもう去ってしまった。」ティフォンはそう答えたところで、不安になったように続けた。「もしかして、アンマーはサーミが嫌になったから出て行ってしまっただけなのか?」

「逆だよ、お嬢さん。彼女の愛は今もこの地に残されている。」

ティフォンにはまだ尋ねたいことがあったが、雪祭司はすでに立ち上がっていた。

黒き森へとその後ろ姿が歩んでいき、やがて古木の影と重なったように見えて――

その時、枝に降り積もった雪がさらさらと落ち、黒い羽獣が木と雪の陰から飛び立っていく。

ティフォンはその場に急いで駆け寄った。

しかし、追った足跡は途中で唐突に消えており、双月の眩い光だけが雪上に降り注いでいた。

運命の彼岸へ

ヴァラルクビンは、イバラの中に静かに立っていた。

祭壇の周りには、雪祭司も、他のサイクロプスも腰掛けている。ヴァラルクビンが口を開けば、全員が彼女のほうを向いた。

「私が見たものはすべて、氷原の果てより持ち帰りました。」

「どうか予言を……審判をお願いします。」

最初のうち、彼女が遠見したものは、氷原にたたずむ巨大な輪だった。それは白銀の氷霜に覆われていたが、決して自然が創り出したものではないだろうことがわかった。

その光景を視たのは、ヴァラルクビン一人だけではない。サイクロプスたちは互いに情報を伝え合ったが、沈黙を貫く無意味なそれを読み解ける者などいなかった。

その後、ヴァラルクビンはあの輪の中から悪魔が現れる様を視た。これは、千年前の予言と完全に一致する光景であり、サイクロプスたちは、くだんの巨大な建造物が氷原の果てにある、通り抜けられる「門」であることを知った。

しかし、氷原はその門を地上の生き物がくぐることを許さない。妨げられず通り抜けられるのは、もうじき訪れる厄災だけなのだ。千年にも及ぶ観測を経てもなお、答えは未だに得られてはいない。感情も思考もなければ、己を表現することも交流することもできない、自然現象そのものにも近いあの物体は、一体何なのだろうか?これまでの目撃談を参照する限り、奴らはどこからともなく現れるはずだが、どうしてあの輪は奴らが出入りする「門」の役割を果たしているのだろうか?

悪魔がサーミに与える脅威は日増しに大きくなっており、サーミの戦士とサイクロプスは、それぞれ独自に行動を起こしていた。そんなある時、ヴァラルクビンはそれまで見たこともないようなものを視た。

けれど彼女は、その予言について誰かに語りはしなかった。なぜなら、遠見の中に鮮明に、己の姿を視たからだ。こんなことは、滅多にないことだった。

そして何より重要なことに、目の前に佇む輪は以前とは異なっていた。それはまるで鏡のように、幽遠な星空を映し出していたのだ。

その時、彼女は心を決めた。その地にたどり着くことが運命なのであれば、きっと自分は事件の起因となることを選ぶだろう、と。彼女は、あの輪の前まで行き、あれを観測し、己が見たすべてをサルカズの魂の記憶に流し込まねばと考えた。そうして過去に答えを得られなかった問いに対する知識を提供するのだ。また、彼女がその場所に到達した時、なぜ門が開いたのかということも、知らねばならないことだった。

自分があの場所に到達できるのなら、恐らく人類はすでに、あの門まで行きつくだけの力を持っているに違いない、とも彼女は考えた。

門を開ける方法を知ることさえできれば、人々はきっと、それを通り抜けられるようになるはずだ。

この運命自体は災いへと至るものとして現れたが、決して人類の破滅へ繋がるものではない。

あるいは彼女自身の死には繋がる可能性があるとしても、彼女にとってそれは問題ですらなかったのだ。

......

幸いにして、彼女は生き延びた。

そうしてサーミに戻ったあと、ヴァラルクビンは山々の麓でティフォンと観測隊の人々に別れを告げ、自分が経験したすべてを北地の戦士たちに伝えた。さらにその後、彼女はつどった雪祭司とサイクロプスたちにも同じ話を語り聞かせた。

彼女の行為は許されるものでこそなかったが、それで処刑されるようなことでもなかった。長い沈黙の末、その場の一人が立ち上がり、洞窟にその声が響く。

「もし、あの門を我らがくぐることになるのなら――すでにその向こうで待ち構えている強敵のうち、一つを滅ぼすことができた、ということになる。」

「我らの敵に生と死の概念があるかどうかは今もって不明だが、一つだけわかっていることがある。それは、奴らを退ければ、この地にしばしの安寧が訪れるだろうということだ。」

「観測者にとっても、探索者にとっても、あるいはただ生を求める者にとっても……今こそが、最善の好機となるだろう。」

未完成の運命

ティフォンは矢筒の中の小さな布切れに触れた。それは人々があの巨大な「門」の前から持ち帰ってくれた、ヴァラルクビンの遺した衣服の切れ端だ。ティフォンはそれを、何年も前、まだアンマーがいた頃に、小さな雪玉を入れていたのと同じように、矢筒に入れて持ち歩いていた。

今ではサーミの状況も改善し、彼女はかつての「門」の研究者たちから、サーミの外へと誘われていた。「新素材で作られた金属の木の美しさを、その目で確かめてみないか。」この件にヴァラルクビンの貢献があったと言えるかどうかはわからなかったが、ティフォンは懐かしさからそれに応じた。

数年前、ヴァラルクビンは「門」の起動実験中に犠牲となった。彼女の望み通り、あるいは運命の示した通り、彼女は巨大な「門」を通って深い闇へと歩み出し、二度と帰って来なかったのだ。その場には居合わせなかったティフォンに対して、研究者たちはこう語った。ヴァラルクビンが「門」に入っていったあと、大きな空間の裂け目が生まれ、すぐさま崩壊体が「門」から現れたのだ、と。ゆえに恐らく、彼女は「門」の向こうで崩壊体に襲われたのだろう、という話だった。

──だが、彼らはより有力な仮説を語ろうとはしなかった。既存の理論によると、研究チームが遭遇し、排除せざるを得なかったあの非常に危険な崩壊体は、「門」を通ったあとに存在の状態が変化したヴァラルクビンである可能性が最も高かったのだ。

「あの実験の失敗には、誰もが心を痛めていたよ。」街へと近付く車の中で、ある学者が、関係者全員からの圧力で数年秘匿されていた研究経験について、複雑な感情を抱きながらも、ティフォンに語ってくれた。「だが、彼女は非常に重要な観測データをもたらしてくれた。これは『門』の核心に迫る仮説を検証するのに役立ったんだ。

皆、彼女のことをガイドとして、予言者として尊敬していた。だからこそ、全員を代表して最後の一歩を踏み出すのにふさわしいのは彼女だと思っていたんだ。あるいは、『門』の研究で得られた新しい合金を使って、彼女の像をどこかに建てるのもいいかもしれない……」

「あの人にはそんなもの必要ない。」ティフォンは、彼の言葉に静かにそう続けた。

その目は遠からざる移動都市を見つめている。

「ああ。必要ないよな。」学者は答えた。

「なんたって、今あるこの技術の発展も、そして何より、人類にもたらされた長き平和も、彼女の功績を讃える記念碑そのものだから。」

起動実験の事故後、事態が落ち着いた氷原の実験基地では、様々な分野の学者やあらゆる種族の賢人たちが同じ会議のテーブルについていた。それは崩壊の性質上広く広めることはできなかったが、人類の運命を静かに変えた会議だった。

「門」の修復中に大規模な崩壊事故が起きたのは初めてではなかったが、「門」の研究中止を求める声が優勢となったのはこの会議が初めてだった。専門家たちは、人々がこの謎の満ちた「門」を最大限活用し、使われているすべての材料を分析して、あらゆる痕跡が示す可能性のある歴史の考察は一通り済んでいると考えていた。そして他方では、仮説の検証が進んでいた。観測結果は完全に予想通りで、この「門」がいかにして崩壊体を現実の空間に侵入させたかはすでに明らかとなった。さらには、起動後の様々な兆候から、大胆な推測を立てることもできた。これは、悪魔が最初に現実の空間に対する戦争を開始させた「ゲート」であり、「門」に見られる人工的な特徴と空間安定化装置は、先人たちが悪魔と対峙する中で生み出した知恵の結晶なのだろう、というものだ。この推測には証明できない部分もあるが、今や「門」に関わる研究者の間では広く受け入れられていた。

というのは、人類にはもはやそれを論証する機会がないからだ。

この会議で何より重要だったのは、空間の亀裂を悪化させることなく、「門」を安全に解体する手段が見つかったかもしれない、ということだった。

そしてそれは、永久的な解決法になりうるものだ。サーミフィヨドは千年にわたり、テラ全土に代わって悪魔と戦い続けてきたが、今こそ、その戦いに勝利を以て終止符を打つ時が来たのかもしれない。

それから数年が経ち、観測隊から報告が上がるサーミの崩壊現象は確実に減りつつあった。このこともあって、ティフォンはサーミを一時的に離れることに同意したのだ。しかし、観測隊が果てなき氷原から集団撤退することになったいきさつや、氷原の果てにある「門」がとうに解体されていたことを彼女が知ったのは、今日が初めてのことだった。

彼女にはそれが気に入らなかった。

「アルゲスが視た運命はこんなものじゃなかった。あの人も、そしてアンマーも、運命のもたらす危険や困難を前に、目を閉じてそれを無視するために自分を犠牲にしたわけじゃない。」

「わたしたちはそれを見つめていればこそ、それに立ち向かい、否定することを選んだんだ。」

「ただ、運命は未来でもあるものだ。アルゲスの話では、門はまた目でもあり、人々はそこからもっと遠くを見ることができると──」

言い終わらぬうちに、ティフォンは突然顔を上げた。

目の前には、南の人々が築いた鋼鉄の森が銀色に輝いていたが、彼女は自身の弓が重くなるのを感じていた。

──一度の努力で永久の安逸を図ることなどできないものだ。ティフォンの弓は、獲物の気配を感じ取っていた。

「そして今や、私たちはここに囚われたというわけだ。」

 

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