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孤星_CW-2_追跡不能_戦闘前
クリステンは星空を見上げ、ブレイクはリスクを取ることを決めた。ロドス一行は襲撃に遭い、イフリータはサリアの背中に何かを思っていた。そして、サイレンスは調査を続けるとヤラに告げたところだ。
この星々は古来よりテラの空で輝いてきた。
その存在が、どれほど多くの心惹かれる物語を生んだことだろう。その存在に、どれほどの探究心が向けられてきたことだろう。
占星学者たちは、その一生をかけて星座と天体に象徴的な意味を与える。一方でシャーマンとドルイドは、流星が残した軌跡を解釈するのに時間を費やす。
星は――決して手の届かないものだ。触れられないからこそ、空はどこまでも夢想家たちを駆り立てる。
この大地にとって、空を仰ぐことには何の意味もない。
[クリステン] 対地高度6152.31メートル。これが過去観測されたテラの空の高さよ。
[クリステン] そしてこの数字は、ライト夫妻の飛行ユニットに残された最後の高度記録でもあるわ。
[クリステン] 誰一人、この狭さに疑問を持たず――
[クリステン] 怒りも戸惑いもしなければ、好奇心を抱くこともない。
[クリステン] 人々はこのさやに優しく包まれた豆のような場所で生活していて、そこに関心を持ちもしないの。
[ナスティ] だからこそ、今もまだ数百年前にウルサスの詩人が詠んだつまらない詩が残っているわけだ。
[クリステン] 「星のさや」ね。
[ナスティ] ふん、阻隔層をロマンで飾り立てるような言い回しだよ。
[ナスティ] 阻隔層に関する論文はすべて読んだが、ヴィクトリアとリターニアの学者たちは軽率でずさんな理論構築をしている……
[ナスティ] 『空間圧力の分析』だの『外部物質の密度差と阻隔層の原理』だの……どれも古臭く時代遅れで穴だらけの理論だ。
[ナスティ] 「開拓精神」を謳うクルビアの学界でさえ、こうしたくだらない理屈をいじりまわすばかりで、せいぜい時折若い学者が目新しそうに見えるだけの理論を雑誌で発表する程度のものだ。
[ナスティ] 彼らは恐らくこの空自体のことよりも、教員の肩書や科学研究費を得る方法によほど頭を悩ませているのだろうな。
[ナスティ] ところで、数日前に打ち上げたテストプラットフォームだが、落下した。案の定、阻隔層内のいつもの問題にぶつかったようだ。
[ナスティ] 基礎空気力学に基づく突然の状況変化、源石環境の大きな混乱、それと外部動力の急速な減衰、だな。
[クリステン] 伝達物質の分析結果はどう?
[ナスティ] 再調整後は安定している。
[ナスティ] 加えて、エネルギー誘導ケーブルの敷設もすべて完了して、以前君に聞いたあのポートに接続した。
[ナスティ] しかし、君が必要とするエネルギーの規模はわかっているだろう。
[ナスティ] 理論上は可能だが……
[クリステン] 問題ないわ。
[ナスティ] ……そうか。
[ナスティ] とはいえ、テスト時の墜落は面倒を引き起こしているし、君が失踪したことで軍の焦りは頂点に達している。
[ナスティ] こうなれば、何をされてもおかしくない。今後の彼らの対応を想像するに、君が死ぬだけで済んだなら、それが最も慈悲深い結末であると言える。
[クリステン] そんなの大したことじゃないわ。
[クリステン] ねえナスティ、星を見るのは好き?
[ナスティ] 興味ないな。
[ナスティ] 手の届かないものを見ていても空しいだけだ。
[クリステン] あら、手の届かないものが道しるべになることもあるのよ?
[クリステン] でも、あなたの言う通りかもね。
[クリステン] 死は最も慈悲深い結末、という一点に関しては。
[ナスティ] だったら約束の物を私にくれるまでは生き延びてもらわないとな、統括。
[ナスティ] ……気を付けろよ。
[クリステン] ありがとう、そうするわ。
[フェルディナンド] ……
[フェルディナンド] この命令はどう解釈すればいいのでしょう?
[ブレイク] ……
[フェルディナンド] 当ててみましょうか……クリステンを監視させていた工作員が行方不明になったが、あなたはその情報を隠ぺいした。
[フェルディナンド] 上の方々は、工作員が口封じをされたかもしれないことより、彼らがクリステン側についてこの国を裏切った可能性について心配しているのでしょう。
[フェルディナンド] そして、裏切りの嫌疑はあなたにもかかっている。
[フェルディナンド] となれば、あなたがクリステン探しに躍起になるのも納得です。
[ブレイク] ……
[ブレイク] 私が最後に向かった兵役の地はボリバルだった。
[ブレイク] 四十年代の終わり、国防部は連合政府を支持していたが、ボリバル内における連合政府の振る舞いは自立できない赤ん坊そのものだった。その結果我々のボリバル内戦への介入政策も失敗に終わった。
[ブレイク] 以来、市民の間で国防部の評判は急落し、将軍が軍部の総指揮権を譲渡するような事態にまで発展した……
[フェルディナンド] ……
[ブレイク] 国防部は「アーク・ワン」を用いてイメージを回復し、国民の信頼を得ようとしている。私もまた、失われた誇りを取り戻すために計画を成功させねばならない。
[ブレイク] まさしく、これは私にとって最後のチャンスだ。
[ブレイク] だがフェルディナンド、君に揶揄されるいわれはないな。
[フェルディナンド] やめてください、大佐。そんな話でごまかせるとでもお思いなんですか?
[フェルディナンド] それだけでは国防部がここまで踏み込んでいることの説明にはなりませんし、あなたがすべてを賭ける理由としても不十分です。
[ブレイク] 君はクリステンに勝るとも劣らない科学者なのだろう? それならその賢い頭で考えてみたらどうだ?
[フェルディナンド] ……
[フェルディナンド] あなた方がクリステンのことを理解していないはずはありません。プロジェクトを彼女に任せる前に、彼女についてはすべてを調べ上げたでしょうから。
[フェルディナンド] となれば、彼女への対応策も用意していたでしょう。状況はよくないにしても、あなた方が今のように尋常でない反応を示す必要はありません。
[フェルディナンド] そうすると、単純に考えれば……
[フェルディナンド] こうなった原因はクリステンにはない、ということになります。
[フェルディナンド] いや、彼女は単なる導火線でしょうか。
フェルディナンドは勢いよくブレイクを見やる。その目は驚きに満ちていた。
それほどに、彼がたどり着いた結論は信じがたいものだった。
[フェルディナンド] あなたが副大統領に会いに行ったのは、クリステンの件を話し合うためなどではなく……彼がどのような態度を示すかを確かめるためですね。
[ブレイク] ……
[ブレイク] ライト夫妻は、空への挑戦などというばかばかしいことに国民の税金を浪費した狂人だ。
[ブレイク] あの二人がこの国にもたらしたのは、クリステン・ライトという小さな狂人だけだった。
[フェルディナンド] ……
[ブレイク] フェルディナンド。私は君たちのような才ある人々を敬っている。
[ブレイク] 往々にして、国家に敬意を払わないのは君たちのほうだ。
[ブレイク] そうだろう? あの空から降ってきた「流星」は、我々への挑発以外の何物でもない。
[ブレイク] 他国へのデータの譲渡は、彼女にかけられた嫌疑のうち最も軽いものだ。何しろ、彼女が握っているのは移動都市に重傷を負わせるに十分な兵器だからな。しかも、それを彼女に渡したのは軍ときた。
[ブレイク] 想定しうる最悪の状況は、彼女が両親のために復讐を果たそうとするというケースだな。
[ブレイク] もしそうなれば、彼女は「自分の両親を不当に扱ったクルビア」を滅ぼすべく、「アーク・ワン」をD.C.政府に向けてくることだろう……
[ブレイク] まったく、この状況には生まれる時代を間違えたかとすら思わされるな。
[フェルディナンド] ……
[ブレイク] しかしそれより恐ろしいのは、ジャクソンも、そしてマイレンダーのエージェントも、こうした事実を知っていながら動こうとしないことだ。
[ブレイク] 私が副大統領の部屋に足を踏み入れた時までに、彼はどれだけクリステンや私、そして君に関する資料に目を通してきたと思う?
[ブレイク] それでも、彼は先延ばしを選んだのだ。
[ブレイク] はっきりと言ってしまえば――
[ブレイク] ボリバルでの敗北以来、連合議会は軍を抑圧することにばかり注力してきた。
[ブレイク] つまり彼らにとって、この状況は好都合ですらある。
[ブレイク] クリステンが裏切ったにせよ、復讐を企てているにせよ、重要なのはこの事態が国防部の失態だということであり……
[ブレイク] それがもたらす損失は、彼らにとっては許容範囲の代償らしい。
[ブレイク] どうだね、君もその代償の一部になりたいか?
[フェルディナンド] ……選択の余地があるとでも?
[ブレイク] 君が余計なことを聞かなければ、あったかもしれんな。
[ブレイク] だが、今は二つに一つしかない。君の人脈を私のために使って、あの「アーク・ワン」を回収したのちに、軍が新しい科学顧問を正式に招く際一番近しいところに居るか……
[ブレイク] あるいは、私と共にここで死んで歴史の片隅に追いやられるか。
フェルディナンドは目の前の軍人を見つめ、その眼の中に何かを読み取った。
それが嘲笑であれ、危機に直面した眼差しであれ……二人を繋いだのは沈黙だった。
[フェルディナンド] ……いいでしょう。
[ブレイク] ジャクソン副大統領は、テレビの前の全国民に向かって「クルビアは新時代に突入する」と発表したが……
[ブレイク] 時代の変わり目というのは、予想外の出来事がつきものだ。
[ブレイク] 副大統領には、クルビアにすべてを捧げる覚悟があると信じようではないか。
[サリア] ……
[サリア] トリトンの工場付近の状況は以上の通りだ。ただしクリステンに関する部分は、私の推測でしかない。
[ケルシー] 軍の反応を見る限り、おおむね筋は通っているだろうな。
[ケルシー] 国防部が絶対兵器の助けを借りて発言権を取り戻そうとしているにしても、クリステン本人にほかに意図があるにしても……
[ケルシー] トリマウンツでエネルギーを中核とした大規模なプロジェクトが秘密裏に進められているのは確かだ。想像を絶する破壊力を持つそれは、科学検証を終えてこそいないが……完成に近付きつつある。
[サリア] そこが私の懸念している点でもある。
[ケルシー] サリア、トリマウンツで大規模な停電が起きたことはあるか?
[サリア] 一度もないな。
[サリア] トリマウンツには民間用と商業用の二つの電力システムがあり、各区画の予備電力だけでも、都市内の全施設を数ヶ月間正常稼働させられるんだ。
[サリア] 加えて、テクノロジー産業も多く存在し、新エネルギー開発に専念している企業だけでも何十とある。付近の移動工業プラットフォームが定期的にエネルギーを借りに来るほどだ。
[サリア] ……
ケルシーは窓の外を眺めた。
遠くにある高層ビルは、巨大なガラスの外壁に雲を映していて、露に濡れた木の葉の如く透き通って見えた。
――それは確かに木の葉同然のものだ。
視線をさらに遠くへ向けると、そのビルはすぐ無数の摩天楼に埋もれていく。中には科学技術の展示館や博覧会ホールなどの形の違う建物も点在し、まるで森に生えているキノコのようだった。
それでも、見上げる空はあまりにも広く、トリマウンツのすべてが一枚の木の葉にすぎないようにすら思わされる。
[ケルシー] それが軍の求める絶対兵器であるにせよ、クリステンの意図をはらんだ未知なるものであるにせよ……
[ケルシー] 「ホライズンアーク計画」に必要なエネルギー量と操作精度は計り知れない。
[ケルシー] エネルギー確保とナビゲーションの正確性の担保は絶対に回避できない問題となるだろう。
[サリア] ということは……
[ケルシー] クルビア軍がどのような評価を下したのか、そしてクリステンがどのように彼らを言いくるめたかはわからない。
[ケルシー] だが、仮にクリステンが操作精度の問題を解決できたところで、トリマウンツの全リソースを注ぎ込んだとしても、この規模のエネルギーの集中には耐えられないというのが私の判断だ。
[ケルシー] 計画が実行されれば、水の入ったコップに大きなスポンジを投げ入れるかのようにして、極めて短期間のうちにトリマウンツのエネルギーが吸い尽くされてしまうだろう。
[ケルシー] クリステンの才能とビジョンがどれほど先進的であっても、現在の科学技術ではこうした構想を実現することは不可能だ。
[サリア] だが、彼女は決して空想に溺れる狂人ではない。
[ケルシー] ……ああ。これはクリステンがこの問題を解決している場合を除いて不可能という話だ。
[イフリータ] サリアとケルシーは何の話してんのかな?
[ドクター選択肢1] 盗み聞きはよせ。このドアは防音されている。
[ドクター選択肢2] やめたほうがいい。二人に気付かれる。
[イフリータ] でもよー、きっとあの工場の爆発のこと話してんだろ。サリアが真剣な顔してたけど、ライン生命と何か関係あんのかな?
[イフリータ] なあ、ドクター。サイレンスもトリマウンツにいるんだろ? 探して連れてきちゃダメか?
[ドクター選択肢1] ......
[イフリータ] なんで眉毛の間にしわ寄せてんだ?
[イフリータ] あ、わかったぞ! ケルシーがオレサマとロスモンティスをトリマウンツに連れてきたこと、まだ怒ってんだな。
[イフリータ] でも、これはオレサマたちが自分で決めたことなんだぜ。ここには前も来たことあるし、ドクターのガイドだってしてやるよ!
[ドクター選択肢1] ......
[ドクター選択肢1] また手紙を読んでいるようだが、大丈夫か?
[ロスモンティス] あの人がここに戻って来いって……
フェリーンの少女は薄い手紙を手にしている。つい五分前に封筒を開けて、静かに一度目を通してから、一分前に再び封筒に戻したところだ。
あなたを見上げるその目に特別な感情は見いだせないが、しかしあなたははっきりと何かを捉えたように感じた。
彼女は自分を落ち着かせようとしているのだ。さながら、人目を忍んで机の下でしわの寄った白紙をそっと伸ばすかのようにして。
ロスモンティスは困惑しており、幾ばくかの苦しみを感じている。それがあなたには感じ取れた。
[ロスモンティス] また、忘れちゃったみたい。
[ロスモンティス] ここに戻ってくれば、忘れていたことを思い出せるかな? だとしたら、私は何を忘れたんだろう……
[ロスモンティス] メモしておけばよかった……きっと知ってたはずなのに。
[ドクター選択肢1] リラックスして。
[ドクター選択肢2] 焦らなくていい。
[ドクター選択肢3] 少し休んだらどうだ?
[ロスモンティス] ……
[ドクター選択肢1] つらいのなら、今すぐみんなでロドスに帰ったっていい。
[ドクター選択肢2] 断ってもいい招待もある。
[ロスモンティス] ううん。私、ここに残らないと。
[ドクター選択肢1] なるべく力を制御して、無理に考えないように。
[ドクター選択肢1] 自分がそばにいる。
[イフリータ] オレサマもな!
[ケルシー] 頼んだ資料は持ってきてくれたか?
[サリア] ああ。あまり探す時間をとれなかったせいで量は少ないが、多少は役に立つはずだ。
[ケルシー] 過去十年分のライン生命エンジニア課で立案及び実行したプロジェクトの記録とその結果レポート、そしてエネルギー課とアーツ応用課での実験記録と……
[ケルシー] ……科学考察課の調査報告およびデータファイルか。
[ケルシー] 想像よりずっと分厚いな。
[サリア] 科学考察課は、ライン生命において特殊な立場にある。
[サリア] 「費用対効果」や「成果への転化率」といったビジネスロジックで考えれば、会社への貢献度は基本的に微々たるものであり、十課の一つとして並べられるものではない。
[サリア] だが、ライン生命は毎年極地の研究プロジェクトや調査技術の研究開発に投資しており、その額はエネルギー課や構造課など研究部門の中核を担う部署には劣るが決して少なくはない……
[サリア] むしろ少々多いとすら言えるだろう。
[ケルシー] 科学考察課は、カジミエーシュの環山高地平原で地震データを定期収集して分析を行い、またサーミの果てなき氷原には十基近くの観測ステーションを建設しているようだな。
[ケルシー] 加えて、調査のため頻繁にクルビアのグレートレイクスや南部の低地砂漠に向かっている。それどころかボーンヤードの廃都市遺跡深部に立ち入ることまで考えているようだ……
[ケルシー] クルビアという若き開拓者の蹴り上げる砂が、サルゴンの黄砂より古いことを知る者はほとんどいない。
[ケルシー] 科学者が探検精神から大地の果てを探っているというよりも、具体的な目的を持って何かを探しているというほうが適切だろう。
[ケルシー] 最後の数ページは、トリマウンツに関するものか……
[サリア] トリマウンツだと? なぜ本部の所在地を調査対象に?
[ケルシー] 今のところ、私が見たすべての調査プロジェクトには、ライン生命統括による直筆のサインが入っていた。
[サリア] クリステン……
[ケルシー] 果たして、この騒動は偶然トリマウンツで発生したのか、あるいはトリマウンツでなければならなかったのか……
[サリア] ここで回りくどい説明を聞くより、確たる証拠がほしいところだ。
[ケルシー] 一定の推測は可能だが、情報があまりにも入り乱れていて、現状手元にある資料だけでは、明確な証拠を提示するには不十分だな。
[ケルシー] 少し休憩を取ろう。
[ケルシー] イフリータと話してくるといい。
[サリア] ……
[Mon3tr] (怒ったような雄たけび)
[サリア] ――伏せろ!
[ヤラ] 着心地はどう? サイズは合っているかしら?
[ヤラ] これはアーツ応用課が開発した新装備なの。さっき少し手を加えておいたから、あなたにぴったりになってるはずよ。
[ヤラ] ドローン関係の新しい装置は、自分でチューニングできるわよね。
[サイレンス] はい。
[ヤラ] こっちへ来てちょうだい。コンタクトをつけてあげるから。
[サイレンス] わかりました。
[ヤラ] これでよし。さあ、立ってみて。
[ヤラ] とっても素敵よ。まるで別人みたい。
[ヤラ] コンタクトは大丈夫そう?
[サイレンス] まだ少し慣れません。
[サイレンス] でも、鼻の上が軽くなったのは悪くないですね。
[ヤラ] そう。眼鏡を外すと、一皮むけた印象になるわね。
[ヤラ] お友達が見たら、きっと驚くわよ。
[サイレンス] せっかくなら、もっと別のことに驚いてほしいんですが。
[ヤラ] たとえば?
[サイレンス] たとえば……性格の変化とか。
[ヤラ] だったら、これを機に頑張ってみるといいわ。見た目を変えると中身も案外つられて変わってくるから。
[サイレンス] ……努力してみます。
[ヤラ] なんにせよ、十三区の封鎖はすぐには終わらないでしょうし、あなたはもう兵士たちに声をかけられて覚えられちゃったから、この先動くにも不便でしょう。
[ヤラ] イメチェンついでに装備もグレードアップして、一挙両得ってものよね。
[サイレンス] ええ、ありがとうございます。
[サイレンス] ……この家、何日か留守にされてたようですけど、今日はわざわざ十三区に足を運んだってことですよね。
[ヤラ] そうね。休暇用に買った家だというのは本当なんだけど、最近は社員もみんな忙しくしてるから、人事調査課主任の私も自然と休んでる暇がなくなっちゃって。
[サイレンス] 先ほど現場の近くで359号基地の伝達物質を見かけたんですが、もしかしてその回収に? 伝達物質と工場の爆発は何か関係しているんでしょうか?
[サイレンス] ……ああ、いえ。もしあなたの協力を得られていたら、ドロシーが私のような一研究員に依頼する必要なんてないですよね。
[サイレンス] フェルディナンドはもう追放されましたが、エネルギー課以外にも伝達物質を狙っている課があるということでしょうか?
[サイレンス] 現場でサリアも見かけましたし、ライン生命内部でこの件に関わっている人は一体どれだけいるんですか?
[ヤラ] 一度にたくさん質問しすぎよ、サイレンス。
[ヤラ] それに残念だけど、答えてもあげられないしね。
[ヤラ] 知っての通り、ライン生命の組織構造は明確に分かれているから、事務課は科学研究課へのサポートしかしていないの。
[ヤラ] 人事調査課は科学研究プロジェクトの進行自体には一切干渉しないのよ。それはどの課のものでも同じ。私自身、科学者ってわけじゃないしね。
[サイレンス] ……
[サイレンス] 先生があなたと統括について話してくれたことがあるんです。
[サイレンス] ライン生命に入る前のあなたは、トリマウンツで一番不思議で、一番成功した投資家だったそうですね。
[サイレンス] 会議に出席することも、企画書を読むことも、プロジェクトの詳細を聞くことさえもないのに、あなたが仲介したプロジェクトはすべて、何かの奇跡のように成功を収めていた……
[サイレンス] ですから、特定の企業に所属する必要などなかったでしょうし、それどころかあなたなら、クルビアの科学技術関連企業すべてに影響を与える人物になりうると先生は言っていました。
[サイレンス] それなのに、統括と一度会っただけで、翌日にはライン生命への入社を決めたそうですね。
[ヤラ] ビジネスの場には、いつも綺麗にラッピングされた神話が存在するものよ。
[ヤラ] 周りでは色んな憶測が飛び交っているみたいだけど、私はこんな歳だし、クリステンに何か約束してもらう必要なんてないの。ただ彼女が心残りを消していくのを見ていたいだけなのよ。
[ヤラ] ……彼女の、そして私の……ね。
[ヤラ] その彼女だけど、今どこにいるかは私にもわからないわ。
[サイレンス] ……
[ヤラ] あなた、359号基地ではよくやったわね。ドロシーの後始末で伝達物質を回収しにここまでたどり着いたんだから、大したものよ。
[ヤラ] だけど、あの基地の件はこれでおしまい。この先のことはあなたの権限と能力の範囲を超えているし、関わらないほうがいいわ。
[サイレンス] 嫌だと言ったらどうしますか?
[ヤラ] 安心して。あなたの邪魔をするつもりはないから。
[サイレンス] わかりません……真実を話す気もないのに、どうして助けてくれるんですか?
[ヤラ] あなたが入社した時のこと、覚えてる?
[ヤラ] とってもカチコチになりながら、それでも三十分頑張って話してくれたでしょう。
[ヤラ] 実はあの時、私は事務処理として、基本的な背景調査と適性の確認をするだけでよかったの。あなたの業務能力審査については、パルヴィスがとっくに高得点で合格を出していたしね。
[サイレンス] では、どうして話を止めさせなかったんですか……?
[ヤラ] あなたがとっても真剣だったからよ。
[ヤラ] 私はすべての真剣な科学者を尊重しているし、ライン生命もそう。
[ヤラ] クリステンたちがどこまで歩みを進めようと、ライン生命がどうなろうと、最終的には若者がそれを引き継がねばならないのだから……あなたたちこそが、ライン生命の未来なの。
[ヤラ] さっき、これ以上関わらないようにと言ったのは、人事調査課主任としてできうる限り社員を守るべきだからよ。
[ヤラ] でも、あなたが自分の準備を整え、選択するために、すべてを見届ける必要があるというのなら、引き留める気はないわ。
[ヤラ] それだけのことよ。
[サイレンス] でしたら、今度も真剣にお伝えします。私は調査を続けます。
[ドクター選択肢1] げほ、ごほっ……ロスモンティス!
巨大な衝撃が走った瞬間、あなたは無意識のうちにフェリーンの少女の手を引いた。
すると彼女はあなたが怖がっていると誤解したのか、握り締めていた拳を緩めてあなたを抱きしめ、後ろへ下がった。
同時に、火の玉のようなサヴラの子がすれ違って、炎がうなり声をあげる。
[イフリータ] オレサマに任せとけ!
[イフリータ] ロスモンティス、オマエはドクターを守ってろ!
[イフリータ] こんな鉄の塊くらい、全部ケシズミにしてやるよ!
[???] 避けろ、イフリータ。
イフリータの前に一つの影が現れる。
分厚いカルシウムの結晶が瞬時に広がり、堅固な壁となってパワードスーツの攻撃を防いだ。強烈な衝撃音が響き、鈍い残響が広がっていく。
[イフリータ] サリア!
[サリア] ……
[ドクター選択肢1] 状況がわからないし、追うな。
[サリア] ドクター、怪我はないか?
[ドクター選択肢1] ああ。
[ケルシー] だが、資料がすべてやられた。
[ケルシー] 注意をそらし、即座に撤退か。向こうの目的は明白だな。
[サリア] この拠点を知る者は多くない。
[サリア] その中で我々を阻もうとする人間となれば、さらに絞られてくる。
[サリア] 先ほど襲撃してきたのは、ライン生命の量産型無人式パワードスーツだ。
[ケルシー] つまりライン生命内部の者の犯行か?
[サリア] そうとも限らない。軍はすでにライン生命内に入り込んでいるし、不確定要素を徹底的に排除しようとするのは、むしろ奴らのやり口にも思える。
[サリア] いずれにせよ、我々が探りを入れるのを望まない人間がいるということは、正しい方向へ進んでいるようだ。
[ケルシー] あるいは、間違った方向へ進ませるためにあえて邪魔をしてこちらが正しいと誤認させ、我々を誘導しているという線も否定できないが。
[サリア] だとしても、完全に的外れではなさそうだな。
[サリア] 事実がどうあれ、背後の人間には代償を支払わせる。
[ケルシー] 怒りが見えるな、サリア。
[ケルシー] その怒りで判断を曇らせないようにすることだ。
[サリア] ……
[ケルシー] 仮にクリステンがエネルギーの問題を解決したために、軍との繋がりを断ち切ったのであれば、我々は急ぎ、彼女が頼りにしているエネルギー源を見つけなければならない。
[ケルシー] おそらく軍が管理するエネルギーウェルからそう遠くはないだろう……
[ケルシー] 先ほどの推論に基づいて、ある程度の見当はついている。ひとまず探してはみるが、より多くの資料が必要になるな。
[サリア] では、私は一度ライン生命に戻ろう。
[イフリータ] オレサマも行くよ、サリア!
[サリア] これは遊びじゃないんだ。今はお前の面倒を見てやれない。
[サリア] 来てしまった以上、当面トリマウンツを離れることはできないだろうし、しばらくはどこにも行かず、決してドクターのそばを離れないようにしろ。
[イフリータ] けど、敵も来ちまったし……さっきなんか、オレサマがドクターを助けたの見てただろ!
[サリア] お前は――
[サリア] ――
[サリア] いや……お前は、よくやってくれた。
[サリア] 私がいない間も十分注意して、ドクターを守ってくれ。お前自身も怪我をしないように。
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