aklib_story_登臨意_WB-ST-1_俄かに少事を思う

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登臨意_WB-ST-1_俄かに少事を思う

リャン・シュンやウェイ・イェンウ、太傅、リィンたちが玉門に集まり、チョンユエの離任に向けて準備を行う。リーとワイフーもこの地へ来て、ワイ・テンペイの行方を追っていた。その時、リン・ユーシャは都市外で殺害された天災信使の部隊を発見した。


兄さん、自分が退屈だからと、私を呼び出して碁に付き合わせるのは百歩譲っていいとします。しかし、盤に「閑(ひま)」の文字を並べてからかうなんて、ひどすぎじゃないですか?

ふっ。日ごろ私が説いてやっている棋理を、お前が一度も真面目に熟思していなかったのが露呈したね。

もっとひどい! まるで私が真面目に学んでいたら、盤上で兄さんと競える実力があるみたいじゃないですか。無謀だって分かってるくせに。

そこの閑の字が、お前の跡に劣っているのも事実だ。

もう……本心から碁を打ちたいわけではないなら、他の暇潰しをしてはどうです? 物見遊山に行くとか、楽器を学んでみるとか、何なら私が書を教えましょうか?

縦横十九路で殺し合うのはつまらないが、石が置かれる間から相手の心の内を測れるのは、それなりに意味がある。

へぇ? なら兄さんは、この盤面から、私の考えを読み取ったのですか?

そうだな……

[龍門観光客] 番頭さーん、これどうなってんの? 十七話から急に二十話に飛んだんだけど?

[番頭] 砂のせいでディスクに傷がついててね、いくつか再生できないのがあるんだよ。まあ他が見れるだけマシって思ってくれや。

[龍門観光客] すげぇとこで切れてんだよ。さっきまで戚清秋(チー・チンチウ)と沈飛白(シェン・フェイバイ)が死闘を繰り広げてたのに、急に肩を並べて戦ってんだぜ?

[酒を飲む常連客] 抜けてる二話が知りたいの? シェン・フェイバイこそが自分の師を殺したって確信したチー・チンチウが、仇をとりにいくんだ。

[酒を飲む常連客] でも玉門(ユーメン)まで行ったら、シェン・フェイバイは軍に身を投じてて、まあまあの地位に就いていた。で、間が悪いことに、その時ちょうど他国が国境を越えて攻め込んできてたんだな~。

[酒を飲む常連客] チー・チンチウは夜通し考えに考えて、国の大事の方が一族の恨みよりも重いっていう道理に至ったわけ。で、武芸天下一の宗師の配下について、一緒に敵と戦ったんだよ。

[酒を飲む常連客] ストーリーはシンプルだけどさ、十九話の崖で剣を交えるシーンなんか、これぞ王道って感じで最高なんだって!

[龍門観光客] おい、マジかよ。一体どれだけ見返したら、そんなにはっきり覚えられんの。

[番頭] この玉門じゃ、そこら辺を歩いてる子供でも、『玉門風雲』の内容はすらすら言えるよ。

[番頭] だけど、こっちのお客さんが今言った話は少し抜けてるね。チー・チンチウが軍でシェン・フェイバイに会ってから仇討ちを諦めるまでの間にゃ、一波乱あるんだよ。

[番頭] いざお命頂戴って時に、かの宗師が出てきてな。シェン・フェイバイの代わりに、まず自分が仇討ちの一刀を受けると言ったんだ。それがあって、剣で互いの思いをぶつけた崖のシーンが生まれた。

[番頭] 空にゃどこから集まったか分厚い黒雲が垂れ込めてて、大風に砂が舞い、まるで天地万物までがこの戦いを見守っているようだった。対峙した二人は、瞬きの間に剣を抜いて――

[サルゴン風の服を着た人] (拙い炎国語)そんなのがデタラメ! 全然、嘘!

[サルゴン風の服を着た人] このドラマ、戦うのシーンは一番いい、しかしけど小さいところ全然だめ!

[番頭] 何昔安(ホー・シーアン)、また来たのか。炎国語もまだちゃんと身についてないあんたが、どんなドラマかわかんのかい?

[サルゴン風の服を着た人] もちろん! 『玉門風雲』は五十年前あるホントのこと。江湖の侠客はみな自分の恨み捨てて、宗師の下で外敵と戦うした。

[サルゴン風の服を着た人] いっぱいシーン、このキャクシャンで撮影するのも知ってるぞ!

[番頭] 「さん」、「客桟(きゃくさん)」な。

[サルゴン風の服を着た人] ……

[龍門観光客] 外国人のお兄さん、炎国の歴史を随分とよく知ってんだね。

[サルゴン風の服を着た人] もちろん知ってんだね。サルゴンで、宗師が私に武術を教える時に彼は私に言う。

[サルゴン風の服を着た人] 宗師は剣を持つ。だけどその剣は特別、絶対、鞘から抜けない!

[番頭] まーた、それかよ。あんたが本当に宗師の直弟子なら、昨日の比武台で、どうしてあっという間にフェリーンの小娘に負けちまったんだ?

[サルゴン風の服を着た人] フェリーンの小娘言うな、彼女すごい武術の人だ。彼女を馬鹿にするな。

[龍門観光客] サルゴンのお兄さん、炎国語の会話の流れだとさ、馬鹿にされたのはフェリーンの子の方じゃなくて……

[騒ぎ立てる大勢の人] ハハハハハッ……

[龍門観光客] でも今の話的に、ドラマが事実に基づいて作られてるなら、江湖の武人と軍が手を取り合って敵と戦うなんて歴史が玉門にはあったってことだろ?

[龍門観光客] 「侠気を顕す者、国のため民のため」か。体一つで世間を渡るような自由さもあれば、国を守るために身を挺することもできるって、さすがは玉門、考えただけでも、超カッコいいな。

[酒を飲む常連客] ドラマは結局のところ誰かが演じてるものだからね、多少の美化はあるものさ。歴史が本当はどうであるかなんて、経験した人に聞いてみなきゃ、はっきりとはわからないよ。

[酒を飲む常連客] それに、今はもう戦場で袖をまくって剣や槍でやり合う時代じゃないしね。本気で国の力になりたいなら、アーツをマスターして、天師になった方が現実的だよ。

[酒を飲む常連客] 大体玉門みたいな辺境を守る要塞なんて、今は沢山の人が住んで都市を維持してるからいいけど、もしこれが他の都市の補給に頼ってばかりだとしたら、どれくらいの資源が必要だと思う?

[酒を飲む常連客] 玉門の建設時、辺ぴなうえに極貧極寒の、こんな土地に家族を引き連れてやってきた人とか、今でもここに残ってくれる人で、「国のため民のため」の言葉に相応しくない人なんていないだろ?

[酒を飲む常連客] そういえば、今のドラマの中で唯一確実に実在していると言える宗師も、近々玉門からいなくなるらしいよ。

[???] 退け。

[がたいのいい男] 薬だ。

[番頭] いつもありがとな。端の方に置いておいてくれ。後でうちのもんに裏に持って行かせるんで。

[がたいのいい男] 先生が調合した打ち身薬と火傷薬は、全部入っている。今月は補給が不足しているんでな、お前たちの薬膳にはあまり多くの薬材を回せない。

[番頭] あいよ。お代をどうぞ……いつもいつも先生には迷惑をかけて申し訳ないね。これは数日前にうちに入った物資なんだが、よかったら医館に持って帰ってくださいや。

[番頭] おっと、少し多すぎるかね。待ってくれよ、うちのもんを呼んで一緒に運ばせますんで。

[がたいのいい男] 必要ない。

[番頭] 台車にいっぱいの荷物を、軽々と担いでいった?

[番頭] 医館は一体どこであんな下働きを見つけてきたんだ、えらい怪力だな……

[番頭] おんや、出てきたのか。お客さん。

[リー] ここにお世話になって数日経ちますが、一階の広間はいつもいっぱいですねぇ。

[番頭] まあね。少し前に玉門と龍門が補給でドッキングしてたけど、天災が来ちまって、予定よりもかなり早くに解除しただろ。

[番頭] あんまり突然だったもんだから、商人や観光客が玉門に取り残されちまって、ここしばらくはどこの客桟も満員だよ。

[番頭] お客が増えると、気を回さないといけないことも多くてね。しかも血の気が多いのばっかりで、何か不手際でもあって問題が起きやしないかって、ハラハラしっぱなしだよ……

[リー] 商売繁盛しすぎってのは、多くの同業者が羨ましがる悩みだと思いますよ。

[リー] まあしかし、確かにねぇ。もしうちの小さな事務所がこれほど賑やかになったら、おれも頭が痛くなりそうだ。

[番頭] 今日は先にお茶を運ばせる感じでいいかね?

[リー] ええ。それでお願いしていた情報はどんな感じですか……?

[番頭] とりあえず見てくれ。こいつは、ここ半年間の玉門比武台番付の変動状況をまとめたものだ。あなたが探している「武の達人」とやらがこれに載ってなかったら、俺にもお手上げだね。

[リー] 玉門には恐れ入りましたよ。まさか今日日、舞台で武術を競い合うなんて文化が残ってるなんてねぇ……こいつぁ確かに、武徳豊かな都市と言えましょう。

[番頭] 平祟侯が軍を厳格に管理してるんで、腕一本で世を渡ってる……いわゆる江湖の連中が援軍として参加する必要もなくなってな。暇な奴らが体を鈍らせないよう、こういった比武台を残してるんだよ。

[番頭] まっ急ぎでないなら、うちであと何日か泊まっていたらどうだ。客の出入りが多いから、あなたの探し人を知ってるのが来るかもしれないしな。

[番頭] そうだ、街の南の鋳剣坊(ちゅうけんぼう)に話を聞きに行ってもいいかもしれないな。

[番頭] あそこの親方は、江湖に身を置いて長いんだ。玉門じゃ顔もよく知れてる。ちょっとばっかし名のある武人だとか鏢師(ひょうし)だとかが、しょっちゅう鋳剣坊に集まってるよ。

[リー] いやぁ、どうも。ありがたいですよ……知人もいなけりゃ、土地にも不案内ってのは、何をするにも不便なもんでね。

[番頭] 野次馬根性で一言聞くんだが、こんなに苦労して探してる相手ってのは、恩人なのか? それとも仇とか? まさか借金の取り立てなんてこともあるのか?

[リー] そう言われると、確かにあいつはおれに随分と大きな借金がありますねぇ……

[リー] 今回はどれくらいの間、離れるつもりだ?

[ワイ・テンペイ] わからん。

[リー] 戻ってくるのか?

[ワイ・テンペイ] 事が成れば。

[リー] お前な、三日後がワイフーの誕生日だってのは覚えているか? 嫁さんが生きてたら、なんて言うと思う?

[ワイ・テンペイ] 俺は良き夫にはなれん。良き父親にもだ。

[ワイ・テンペイ] 俺のこの生涯は、一つのことを成せさえすれば十分だ。

[番頭] 取り立て? そりゃ難儀だね。我らが炎国は広いぞ。玉門だけでも十万人はくだらないんだ。もし相手が本気で身を隠すなら、東西南北のどの方向から探せばいいのかすら、見当がつかないだろう。

[リー] ……

[番頭] まあま、焦る必要はないさ。茶の用意ができたよ。とりあえず一服して、お供に玉門名物の醤獣肉(ジャンショウロー)はどうだ?

[リー] ハハ、そんじゃ、ちーと腰を下ろして、うちの娘っ子が試合を終えるまで待つとしましょうか。

[番頭] どうぞ、入ったばかりの龍門の春茶だよ。こんなに新鮮な茶は、私たちでも数年に一度しかありつけない逸品だ。

[リー] ありがとうございます。こんな貴重なもの、おれみたいなもんが飲むのは、どーも、もったいない気がしますがねぇ。

[番頭] 何を言ってんだね。

[リー] ……

[リー] この味……龍門のこの時期の新茶なら、これほど渋味はないはずだが……

[冷淡な女性] ……お前か。

[冷淡な女性] ここで会う約定はしていないはずだが。

[リー] えーっと……どちら様で?

[冷淡な女性] いや……違うのか……

[番頭] おんや、知り合いか? ちょうど店が満席になってるんでね、相席でもいいかね?

[冷淡な女性] 他人だ。我は茶を一杯飲んだら去る。

[リー] おれは別に構いませんよ。

[番頭] それはよかった、じゃごゆっくり。何かあれば呼んでくれ。

[リー] それでお嬢さん、おれを誰かと間違えたんです?

[冷淡な女性] 見覚えがあっただけだ。

[リー] その方はきっと、久しく会っていない古馴染みなんでしょうね……

[冷淡な女性] まあな……いいから自分の茶を飲め。

[リー] お嬢さんも、ぜひ。

[冷淡な女性] 赤の他人に茶をすすめるのか?

[リー] 人違いも出会いのうち、出会いは幸いと言いますからね。

[リー] それと、お嬢さんが、一日も早くご友人に出会えることを願ってますよ。

[冷淡な女性] 早すぎるのも興ざめよ。時が来れば、自ずから見つかるが故に。

[リー] 含蓄がありますねぇ。長く会っていない人ほど、答えっつーのはその人じゃなくて、その人を尋ねてる時間にあるもんだ。

[冷淡な女性] お前は誰に対してもこんなにおしゃべりなのか?

[リー] いえいえ……

[リー] もう行かれるので?

[冷淡な女性] 茶を一杯、それのみの寸刻と言った。

[リー] おかしなもんだねぇ……

[タイホー] 公子、偶さかの帰郷のはず。将軍に会いに行かれてはいかがか。

[ズオ・ラウ] ……いえ、やめておきます。軍部にはなすべきことが多く、父は多忙の身です。私が今向かっても、邪魔をするだけでしょうから……

[タイホー] 承知。ところで、尚蜀の一件は、粛政院(しゅくせいいん)がすでに結論を出している通り、公子の行いは公明正大なり。将軍に対し恥じる必要はありませぬ。

[ズオ・ラウ] 私は別に……

[ズオ・ラウ] 家に帰っても何もすることはありませんし、まずは都市内の様子を見に行きます。太傅(たいふ)が私を玉門に帰らせたのは、何か異変を予見してのことでしょうから、注意しておく必要があります。

[タイホー] 公務のための視察となれば、このタイホーもお供致す。

[ズオ・ラウ] タイホーさんも長年外に居ましたし、久方ぶりの玉門でしょう。感慨深いんではないですか。

[タイホー] ここまでの道中で見た限り、人々の暮らしは、確かに我が離れた時とはそれなりに異なる。

[タイホー] 北境での戦事に終わりが見えない中でも、玉門においては庶民が依然心安らかに日々を送れている様子。軍指導と政務における将軍の能力には、感服致す。

[ズオ・ラウ] 街外れの比武台は、相変わらず賑やかですね。

[ズオ・ラウ] 先ほど見かけた時、タイホーさんの名前がまだ比武台番付の五位に高く掲げられてましたよ。

[タイホー] 実を伴わぬ虚名に過ぎませぬ。我をあの番付から下ろす若き才能の持ち主が現れることこそ、真の慶事である。

[タイホー] 今舞台上にいるあの二人……

[タイホー] ……

[ズオ・ラウ] どうしたんですか?

[タイホー] 考えておりました。公子の腕前は、比武台のあの二人の娘と比べてどうであるかと。

[ズオ・ラウ] コホンッ……

[ズオ・ラウ] 持燭人の職責とは、燭を灯して巨獣の影を払い、各地を巡視して国の災いを察することにある。これが太傅のお言葉です。

[ズオ・ラウ] 最も重要なのはその職責を肝に銘じ、機転を利かせて迅速に行動することであり、武の力量はむしろ二の次であると……

[タイホー] 公子の仰るところは、もっともです。

[ズオ・ラウ] ……

[ズオ・ラウ] ……ではタイホーさんから見て、私の腕は、比武台のあの二人の女性と比べてどうですか?

[タイホー] 忌憚なく言えば、公子の軽功が優れているとはいえ、正面から拳を交えれば、勝率は三割というところですな……

比武台の二人はすでに十度あまり技を交わしていた。

しかし息つく暇もなく、戦いは続く。

フェリーンの娘が全力で突っ込み、嵐のように拳を繰り出す。両者がぶつかり合う激しい音が響いた後、彼女は相手の武器を持つ手をしっかりと押さえつけていた。

一瞬の呼吸――そして再び両者が動く。双方の蹴りが、計ったように衝突すると、彼女の相手――異民族の装いをした少女は、その勢いでくるりと宙で身を翻し距離を取った。

[ワイフー] ここまでです!

[ワイフー] あなたはすでに比武台から出ました。

[ワイフー] この舞台の狭さは、あなたが操る遠距離武器にとっては不利に働きます……

[ワイフー] ですがルールはルール、あなたの負けですよ。

[異民族の装いの少女] ……

[ワイフー] すごく腕が立ちますね。使っている技はあまり見たことがありませんが。

[異民族の装いの少女] (拙い炎国語)この戦いに負けたら、あとの試合はできないで合ってる?

[ワイフー] はい。武を修める者は、勝敗にあまり重きを置くべきではありませんが、私も、今は勝たなければならない理由があるんです……

[異民族の装いの少女] あなたも、剣が欲しいの?

[ワイフー] 剣? 何のことですか?

[異民族の装いの少女] 街の人が言ってた。比武台の番付で一位になれば、特殊な剣がもらえるって。

[ワイフー] 剣が目的じゃないです……私はただ番付の上に入りたいんです。自分の名前が、ある人の目に留まるように。

[異民族の装いの少女] あなたは、三十一位。つまり、あなたよりも、あと三十人すごい人がいるってこと?

[ワイフー] ……理屈からすればそうですね。

[異民族の装いの少女] あなたの武術は、確かに私よりもすごい。

[異民族の装いの少女] (どうやらこの方法では……)

[ワイフー] あっ、行ってしまいました……

[ワイフー] でも試合に勝てたから、これで、比武台番付の一ページ目に名前が載りますね。

[ワイフー] あの人は見てくれるでしょうか……

[録武官] 全十五回の攻防において、千人隊長が突かれたのは四箇所。右腕、左わき腹、腹部、そして喉だ。一方の仇白(チュー・バイ)は無傷である。よってチュー・バイの勝利。

[千人隊長] ハハ、負けだ負けだ。ここが戦場だったら、俺はチューさんの剣で三回は死んでたな。

[チュー・バイ] 比武台は武技を秤にかけるものですが、戦場は生への執着を競うものです。もし本当に生死を争う場であったなら、命を失うのは私の方かもしれません。

[千人隊長] いやいや。ずっと宗師の側にいるんだから当然っちゃ当然だけど、武術も見識もすさまじい進歩だよな。もうチューさんには、かなわねぇよ。

[チュー・バイ] ……勝ちを拾わせていただいただけです。

[チュー・バイ] 録武簿に書かれている宗師の講評を見せてもらえますか。

[録武官] 最近の記録はすべてこちらにあります。先生はお忙しくされていますが、姉弟子の対戦については格別な関心を持っておられて、姉弟子の剣術もしきりに褒めていらっしゃいました。

[チュー・バイ] ……

[録武官] 他に気になることでも?

[チュー・バイ] 宗師の言う「剣意不純」がどういう意味か、考えているだけです。

[チュー・バイ] それと、この程度の剣術で、いつになれば彼に勝てるのかと。

[録武官] 先生が口述された『武典』にも、「剣意不純」という記載はありません。その言葉は恐らく姉弟子にだけ伝えたものでしょう。

[録武官] で、「宗師に勝つ」という考えを持っている人ですが、恐らくものすごく少ないでしょうね。

[チュー・バイ] あなたも私が身の程知らずだと思うのですか?

[録武官] 私は自分の役目を果たしているだけですよ。先生のおそばで、見聞きした武術をありのままに品評することが私の責務です。

[チュー・バイ] ……今日はいつもより練武場に人が多いみたいですが、どうして彼だけがいないのでしょう?

[録武官] ズオ将軍の客人がいらしているようです。先生も城楼で古くからのご友人とお会いするとか。

[チュー・バイ] そうか。では、私は失礼します。

[録武官] はい、お気を付けて。

[チュー・バイ] ……

[チュー・バイ] あなたは私よりもずっと長く宗師に師事しているでしょう。なぜそのように私を呼ぶのですか?

[録武官] 先生は、「筆を執り記録する者は、他者の長所を見抜く目こそを持たねばならぬ」とおっしゃっていました。

[録武官] 武技と経験において、姉弟子は私に勝り、学ばなければならない点がたくさんあります。

[チュー・バイ] ……いいでしょう、好きにしてください。

[威厳ある顔つきの男] ……

平服の将軍が手にした弓は、弓幹の太さが酒杯の口ほどあり、優美な彫刻が施されていた。彼が矢をつがえて弓を引き絞ると、半月が見事な満月に形を変える。

弓を持つ手はかすかに震え、矢もそれに伴って揺れ動く。震えるたびに、将軍の眉根に寄せられたしわが深くなる。

鉄製の矢は半ばほどまで藁に刺さったが、中心からは僅かに逸れていた。

[リャン・シュン] さすが将軍。

[ズオ将軍] 空言はいらんぞ。自分の身体は、自分がよくわかっている。

[ズオ将軍] ほんの二年前までは、剣も槍も自在に振り回せたものを、今では弓さえまともに握れんとはな。

[ズオ将軍] たとえ直接戦場に上がる必要がなかったとしても、玉門の守りの要たる将の位は病人には相応しくない……私に残された時間も多くはないな。

[リャン・シュン] 将軍のお体の傷は、玉門を数十年の長きに渡って守り抜いてこられた証です。偉大なる功績は、朝廷の誰もが無視できないものです。

[ズオ将軍] この体なぞは惜しくもないが、未だ成せていない大事が惜しいのだ……

[リャン・シュン] 私はこの度、太傅から将軍の補佐を命じられて玉門へ参りました。玉門の帰国に関する諸事は、私が共に責任を負いましょう。

[ズオ将軍] 太傅は、「補佐」と言っていたのか?

[リャン・シュン] 恐らく、太傅の言の意味はご理解いただけるものと……

[ズオ将軍] そういえば尚蜀でリャン殿に頼んだ件について、礼をまだ言っていなかったか。愚息は生若く行き届かないところがある。リャン殿には迷惑をかけた。

[リャン・シュン] 勿体ないお言葉です。

[ズオ将軍] しかし人の親たる者の心情は、恐らくリャン殿ではまだ理解し難いだろう。

[ズオ将軍] 子の成果について理解はしながらも、なにか過ちを犯しはせぬかという方が恐ろしい。また今のあやつが負う責務は、もとよりいささかの過誤も許されぬ。

[リャン・シュン] 公子はお若いながらも既に優秀な結果を残されており、非常に聡明な方です。若者が時折向こう見ずになるのもまた、世の習いというものですから、将軍が過度に心配される必要はありません。

[ズオ将軍] ではリャン殿から見て、私の行いは、向こう見ずと言えるか?

[リャン・シュン] ……ズオ将軍には必ずやご自身のお考えがあると信じております。

[ズオ将軍] リャン殿が尚蜀の地に一身を捧げる官吏として、政務に勤しみ民を愛していることは、この玉門でも噂に聞いている。ただ君は、戦場での戦いに関わったことはあるか?

[リャン・シュン] 数年前に尚蜀の川で水賊の騒ぎがありましたが……もちろん、将軍が経験された戦場と比較できはしないでしょう。

[ズオ将軍] ならばリャン殿は、将たる者が戦場に立ち決断することと、官吏として民のために政務を行うことは、結句、全く異なるものだと知っていよう。

[ズオ将軍] 戦場における風向きは、目紛しく変化する。無数の将士の生死が、一瞬の思考に左右されるのだ。

[ズオ将軍] その時に必要とされるのは決断する勇気と、利害を天秤にかける頭のどちらだと思う?

[ズオ将軍] 歳獣の件、矢はすでに番えられ、こののちは放つしかない。

[リャン・シュン] なるほど。ご高教を得ました。

[ズオ将軍] リャン殿は「玉門参知」という職にあり、この玉門の政事に参加される以上は、戦場に身を置いているとも言える。我らは同じ旗の下の戦友だ。私のやり方について、リャン殿には理解してほしい。

[リャン・シュン] 無論この身のなせる限りを尽くす所存です。将軍のことも信じております。

[リャン・シュン] しかし現在の炎国が直面している巨獣の問題は、民のための統治行為でも、戦場における闘争でもございません。

[リャン・シュン] 私は将軍の決断を信じております。同様に、将軍にも私の判断に信を置いていただきたい。

[ズオ将軍] うむ……

そして今一度、将軍の弓から矢が放たれると、今度は藁の中心に命中した。

[ズオ将軍] リャン殿も試してはどうだ?

[ズオ将軍] 尚蜀のリャン知府は、文才に秀でているだけでなく、剣術や弓術にも通じており、文武両道を地でいく非凡の才の持ち主だと、かねがね聞いている。

[ズオ将軍] しかし我が玉門の重い弓を、リャン殿は引けるかな?

[リャン・シュン] ……

[巡防営守備軍] 将軍、龍門のウェイ総督が到着されました。軍事議事堂にてお待ちになっておられます。

[ズオ将軍] そうか、わかった。

[ズオ将軍] リン殿のご息女も到着して数日、確かにそろそろ来る頃だろう。

[巡防営守備軍] それと、太傅もすでにご到着されています。

[ズオ将軍] ……

[ズオ将軍] 太傅とウェイ殿は、共に来られたのか?

[リャン・シュン] ウェイ殿の此度の来訪は、公務のためではないのでしょうね。

[ズオ将軍] 公務であろうと私用であろうと、一つの卓にて賓客を二名もてなさねばならん。

[ズオ将軍] どうやら本日私に忠告を与える者は、リャン殿一人だけではないようだ。

[リィン] 長兄。

[チョンユエ] 昨晩、思いがけずとある夢を見た。

[チョンユエ] 真夜中に窓の外で風が吹きすさんでいてな。窓を開けると、なんと都市の外の砂漠が樹海に変わっていた。胡楊の木々が新芽を出し、中には花を咲かせるものまであった。

[チョンユエ] 木の枝は長く伸び、絡み合って網となっていた。玉門はその網に巻かれて、少しも動けなくなっていたのだ。

[リィン] 人は路を辞せず、花は枝に留まり難し。

[リィン] まだ玉門が名残惜しいの?

[チョンユエ] そういえば、お前がこの前に玉門を離れた時、残したのはどんな一句だったか?

[リィン] 清夜城を満たす糸管散り、行人は是れ辺頭なるを信じず。

[チョンユエ] 新しい句に聞こえるな。しばらく会わぬうちに、我が妹の心境にはまた変化があったようだ。

[リィン] 百年、およそ長いという形容には値しないかな。ただここを夢に見たから、戻ってきたのさ。

[チョンユエ] しかし、私にとってこの「百年」は、また確かに三万を超える昼夜であった。同時に、何度となく訪れる戦況を伝える一報、関所を出る斥候とそして、信使の帰還でもある。

[チョンユエ] お前が去ってから、都市を守る将士が何度代わり、この城壁の煉瓦も何度修繕されたことか。

[チョンユエ] 幸いにして、城壁はいまだここにそびえ立っているよ。

[チョンユエ] 尚蜀で、ニェンとシーには会ったのか?

[リィン] 会うにはね。二人とも昔と同じで、ちっとも変わっていないよ。今は身を置いて戯れることができる素敵な場所も見つけている。

[チョンユエ] ならば、二番目のにも会ったのだろう。

[リィン] こうして考えると、私たち弟妹で長兄が手を焼かないのって一人もいないんじゃない?

[チョンユエ] シーは繊細で思慮深く、他人に心を打ち明けようとしない。常に己の領域に閉じ込もり、問題を起こしがちだ。

[チョンユエ] ニェンは見た目こそ自由奔放だが、一番の寂しがり屋だな。もし何か刺激的で、気を紛らわせられるものがなければ、己で己を苦しめることになる。

[チョンユエ] リィン。お前に関しては、無論心配なんぞしていない。唯一気にしているのは、飲み過ぎてご機嫌な時に、酒代を払い忘れて店の主人に迷惑をかけないかどうかだ。

[チョンユエ] しかし、お前は長女だし、公務を帯びているわけでもない。もう少し弟妹たちの面倒を見てやれ。

[リィン] これはもしや、私の「お姉ちゃん」たる振る舞いについて責められているのかな?

[リィン] 大地に、我らの如き家族が他に数あるでもなし、誰に教えを乞えようか……結句、自分で悟るしかないんだよ。

[リィン] 万事そうさ。己の輪郭は己で定めるしかないのに、うちの諦めの悪い妹たちときたら、狙ったみたいにそれが大の苦手で、あれこれ余計に考えて自ら悩みを招くような真似ばかりするんだからね。

[チョンユエ] 責めてやるな。もしあの子たちの立場であるなら、お前もここまで超然とあれるとは限らんだろう。

[リィン] 超然と言うけど、私には到底兄さんのように、「我」を完全に切り離し、新しい「我」を見つけるなんて、できはしないよ。

[チョンユエ] ……

[チョンユエ] 「朔(シュオ)」という名と例の残魂は、あの剣に封印した。今の私は、武術が少し得意な凡夫にすぎない。

[リィン] 「武術が少し得意」ねぇ。その言葉一つで、どれだけの武人が修練の道を諦めたことか。

[チョンユエ] 一日の鍛錬で得られるのは一日分の技量だ。数百年という長さからみれば、「武術が少し得意」という言葉さえ、恐らく傲慢と言えるだろう。

[リィン] ……

斜め前方の排砂溝は、何トンもの砂を、絶えず飲み込んでは吐き出して、玉門が前進するための障害を排除している。

巨大な移動都市は今、驚くべき速さで新たな終点へ向かって駆けていた。

[リィン] これから玉門を離れた後の計画はあるの?

[チョンユエ] 北を後にし、南下して見聞を広めに行く。それから中原の焼酎を味わうか、あるいはニェンとシーが滞在している場所でも見に行くとするか。

[チョンユエ] 江湖は広く果てが見えぬほどだ。行き先はいくらでもあるものよ。

[チョンユエ] ……だが、かつて共に酒を酌み交わし、談笑し合った者たちには、一人として会えはしないだろう。

遠く眺めると、砂の海からは熱気が立ち上り、おぼろげに歪んだ天地が姿をさらしていた。

強い風が吹く。砂原の上を駆けて城楼に届く頃には勢いも弱まり、巻き上げられた砂粒が頬を叩く感触は、優しいものであった。

黄沙遠く三千の地より来たりて、流るる年を洗ひ罷はること一屈指なり。

[玉門守備軍A] ……装備の識別コードから判断して、確かに今日の午前中に都市に戻る予定だった天災信使の部隊です。

[玉門守備軍A] 現場には強力な源石爆薬の痕跡が残っています。死体は恐らく、結晶の粉塵と化していると思われます……

[ユーシャ] ……残留源石に気を付けなさい。

[ユーシャ] 都市から二時間もかからない場所で、政府の天災信使を襲うような真似をするのは一体誰かしら?

[玉門守備軍A] 被害者が運搬していた物資のうち、金目のものはすべて持ち去られています。この点からみると、盗賊の仕業のようにも思えます。

[ユーシャ] それか――何者かが意図的に盗賊の仕業に見せようとしたか、ね。

[ユーシャ] 捜索を続けて。もし天災観測データが見つからなければ、本当に面倒なことになるわ……

[玉門守備軍B] 見つけました!

[玉門守備軍B] 少し離れた場所で、砕けた鎧の破片の下にありました。

[玉門守備軍B] 仲間たちが命懸けで守ってくれたようです……

[ユーシャ] ……

[ユーシャ] 時間がない。周囲を警戒して、すぐにデータを都市へ送るわよ。

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