aklib_story_狂人号_SN-3_静かな遊歩道_戦闘後

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狂人号_SN-3_静かな遊歩道_戦闘後

溟痕の出現に、カルメンとケルシー、そして狩人たちは危機感を示す。その頃、私欲に走った町民たちは、ジョディを引き渡して難を逃れようと画策し、ジョディはティアゴに逃がされることになる。町を出た彼はウルピアヌスからも追われるが、それを救い出したのはエリジウムだ。


[聖徒カルメン] 報告にあった通りだな。この生き物が何なのか、非常に興味をそそられるところだ。

[Mon3tr] (警告するように低く唸る)

[聖徒カルメン] おお……そう怒ってくれるな。君は人の言葉を理解することができるのだね。

[グレイディーア] この恐魚の身体には、別の寄生体がいるようですけれど……こんなものを陸で見るのは初めてですわ。

[聖徒カルメン] これは、イベリアでは「溟痕(めいこん)」と呼ばれるものだ。

[聖徒カルメン] 大いなる静謐のあと、イベリアの沿岸に住む民たちは、時折海が発光する様を見たと聞いている。最後に報告されたのは十七年前のことだがね。

[聖徒カルメン] 科学者はそれを、ある種のプランクトンが大量発生したことによるものだと考えていた。

[聖徒カルメン] ときに、この機会に伺っておきたいのだが。エーギルの人々は……この不穏な現象を目にしたことがあるだろうか?

[グレイディーア] エーギルにおいて、過去にそうした現象が観測されたことはほとんどありません。ですが、蛍光植物の類いであれば、科学アカデミーの豪奢な庭園に行けば、飽きるほど目にすることができますわよ。

[聖徒カルメン] なるほど。エーギル人も「観賞」の何たるかを知っているようだ。

[グレイディーア] ――「溟痕」という名だけは言い得て妙ですわね。これは、海が陸に残した痕跡ですから。

[グレイディーア] 言ってしまえば、今広がりつつあるこの「溟痕」は、本質的にはサルヴィエントで目にした恐魚と同じものなのです。

[聖徒カルメン] ふむ……つまりは、この自然現象そのものが、「恐魚」という生物の一形態だということか。

[グレイディーア] ええ。イベリアの生物学者の方々には、もっと努力していただかないといけませんわね。

[聖徒カルメン] ……想定よりも複雑な状況ではあるが、最悪の事態というわけでもなさそうだ。

[聖徒カルメン] これまでに裁判所が発見し、処理や捕獲を行ってきた恐魚は、ほとんど毎月のように変化を続けている。

[聖徒カルメン] 一番変容が早かったケースは、三号海岸線で発生した。四、五日も経たないうちに、奴らの姿がまったく違う形へ変貌したのだ。

[ケルシー] すでに述べた通り――海はその独自の方法を以て、陸を侵食しているということです。

[ケルシー] さておき、今はロドスのオペレーターを救出してきます。

[グレイディーア] ご一緒いたしますわ。

[ケルシー] その必要はない。君たちには、一刻も早くこの脅威を排除してもらうのが最も効果的な選択だろう。

[グレイディーア] ……イベリアは、彼女をもっと丁重に扱ってくださると思っていましたのに。

[聖徒カルメン] ケルシー女史が慎重に扱うべき相手だということに異論はないが、今は目下明らかとなった敵への対処を優先すべきだ。

[聖徒カルメン] して、エーギルの執政官殿はどうなさるおつもりかな? まさかこのまま私とエーギルの傲慢さについて口論でも続けるのが、最善の選択とお思いか?

[グレイディーア] では、10分いただけるかしら。その間に面倒をすべて片付けて、私の部下たちと合流して参りますので。

[グレイディーア] そのあと改めて、あの灯台へ向かう方法を検討いたしましょう。

[聖徒カルメン] ならば、私はここで待つとしよう。この礼拝堂は長年無法の地と化していたが、幸い誰かが綺麗に磨き上げてくれているようだしな。

[聖徒カルメン] 裁判所がここに「在る」以上――この場所は、この戦における唯一の光となるだろう。

[ティアゴ] おい、何が起きた?

[警戒心の薄い町民] あっ、ティアゴさん! どこに行ってたの!?

[警戒心の薄い町民] もう大変なのよ! 急に深海教徒たちが現れて、怪物までたくさん出てきちゃって!

[警戒心の薄い町民] しかも、その上……

[ティアゴ] その上、何だ?

[ティアゴ] っと、そうだ、アマイアは……あいつは、どこにいる? それに、お前たちも怪物どもに怪我をさせられたりはしてないか? ……大体、連中はどうしてこの町を襲ってくるんだか……

[警戒心の薄い町民] それが、なんて言えばいいか……

[警戒心の薄い町民] あいつらは町の人を襲ったりはしなかったけど、その……戦ってるのよ。……審問官と。しかもその人、たった一人でやり合ってて……

[ティアゴ] ――

[警戒心の薄い町民] でも、誰も裁判所に連絡なんてしてないの! 本当よ!

[警戒心の薄い町民] 広場であの怪物の死体を見つけたすぐあとに、急に審問官が現れて……今思うと、もしかしてあの人たちが……あっ。

[ジョディ] どうしたの、おじさん……あっ、こんにちは。

[ジョディ] 何かあったんですか? 顔色が良くないようですが……

[ティアゴ] ジョディ、ついてこい。

[ジョディ] えっ……?

[ティアゴ] いいから、静かにしているんだ。

[警戒心の薄い町民] ねえ、ティアゴさん。信じて……本当に私たちじゃないのよ。いくら足が速くたって、こんな短時間で通報なんてできっこないでしょう?

[ティアゴ] ……ああ、わかってる。だが今はジョディを守らなきゃならんし、同時に状況も整理しなくちゃならん。

[ティアゴ] ひょっとすると、誰かがとっくに報告を入れてたのかもしれんな。一週間、いや一ヶ月前でもおかしくないか。なんせその頃には、邪教徒の噂は広まってたんだ。

[警戒心の薄い町民] そ、そんなはず……! あったとしても、私じゃないし、私の夫でもないわ!

[ジョディ] まさか、ファンさんが裁判所に見つかっちゃったとか……?

[警戒心の薄い町民] ……え? あなた……

[警戒心の薄い町民] どうして、ファンが深海教会の人だってことを知ってるの? 一体いつから知ってたの?

[ティアゴ] ジョディ、もう行くぞ!

[ジョディ] あっ……う、うん。

[警戒心の薄い町民] ちょっと、ティアゴさん!

[警戒心の薄い町民] ああもう……行っちゃったわ。

[用心深い町民] ほっとけよ。それより、町の状況はどうなってる?

[警戒心の薄い町民] わ、わからないわ。あの審問官と、外から来た人たちが怪物と戦ってたけど、手伝えそうなことは何もなかったし……

[用心深い町民] ってなると……審問官があの怪物たちを片付けたら、今度は俺たちの番が来たっておかしくないよな。

[警戒心の薄い町民] そ、そうかもしれないけど……待って、あなた一体何考えてるの?

[用心深い町民] あの審問官が怪物と一緒に死んでくれたら、そんなことにはならないはずだろ……?

[警戒心の薄い町民] ちょっと! 何バカなこと言ってるのよ!

[用心深い町民] 考えてもみろ。この数年、労働者が恐魚に襲われたって話はほとんど聞いてないだろ? むしろ、裁判所のほうがよっぽど俺たちを酷い目に遭わせてきたじゃないか。

[警戒心の薄い町民] で、でも……

[用心深い町民] もし、このあと裁判所の連中に詰問されでもしたら、自分が深海教徒じゃないってことをどうやって証明するつもりなんだ?

[警戒心の薄い町民] ……だったら、どうすればいいのよ?

[用心深い町民] ……あの審問官が本当にあんな大量の恐魚を始末できるなら、俺たちがどうこうできる相手じゃない。となると、一番怪しい奴を裁判所に突き出して、疑いを晴らすしかないんじゃないか?

[用心深い町民] たとえば――深海教会と関わってそうなエーギル人とかな。

[恐魚] グアアァ……

[しんがりの深海教徒] ……ほかの者たちは順調に撤退しているが、アマイアの姿が見当たらない。

[しんがりの深海教徒] 気がかりなことに、この町には審問官だけでなく、アマイアが言っていたあのアビサルハンターも来ているようだ。

[しんがりの深海教徒] しかし、ここが陸地である以上、奴らはあの審問官ほどの脅威ではないだろう。

[しんがりの深海教徒] かくなる上は、奴らを足止めしつつ、アマイアを探して連れ出さなくては。

[しんがりの深海教徒] 行こう。ほかの兄弟たちが無残に殺されていった今、我らが最後の一組となってしまった。……これ以上、むざむざと同胞たちを裁判所に傷つけられるわけにはいかない。

[恐魚] (同意するように視線を向ける)

[ティアゴ] ジョディ、急げ!

[ジョディ] う、うん……!

[ジョディ] (町中が壊されちゃってた……それに、あそこにいたのはもしかして……恐魚?)

[ティアゴ] あれは全部裁判所の仕業だろうな。

[ジョディ] ……!

[ティアゴ] しかも、今この町にいるのは多分大審問官だ。たった一人で深海教徒の隠れ家を探しに来たってんなら、相当腕が立つだろうし、そう考えるのが妥当だろう。

[ティアゴ] ま、どの道グランファーロに恐魚と邪教徒が現れた以上、どう弁明しようが焼け石に水だ。

[ティアゴ] そら、持ってけ坊主。お前の父さんが残した灯りも一緒にな。

[ジョディ] ぼ、僕――

[ティアゴ] ――ジョディ・フォンタナロッサ。お前は十分大きくなったし、俺はもう、自分の知るすべてを伝えてきたつもりだ。それにこれは、お前が新たな一歩を踏み出すための最後のチャンスなんだぞ。

[ティアゴ] 俺は……この数年ずっと、お前にすべての真相を話して、ここを離れるよう言ってやりたいと思ってた。だが……

[ジョディ] うん、わかってる。……ティアゴおじさんは、僕にとってお父さんみたいな人だし、グランファーロは僕らの家だから。ここを離れたら……僕は、何もかも失うことになるもの。

[ティアゴ] ……ああ。しかし、いずれお前はここを離れなくちゃならん。……思えば、若い奴は皆ここを離れたがるもんだが、お前は違ったな。

[ティアゴ] よし、行くぞ。恐魚は確かに危険だが、対処方法はわかってる。俺が途中まで送ってやろう。審問官にバレんように出るなら、今しかないだろうしな。

[ティアゴ] ……こりゃ何の音だ?

[ジョディ] ……ドアのほうからするような……

[ティアゴ] ああ、そう思う。……待て、これは……

[ティアゴ] ……っ、この……ッ! 恐魚ですら人を食ったりしないってのに、お前らはどうして平気で他人を食い物にしやがるんだ!

[ティアゴ] ピョートル! マヌエラ! そこにいるんだろう、この臆病者!

[ジョディ] ど、どうしたの?

[ティアゴ] 奴らにドアを塞がれちまった……!

[ジョディ] えっ? そ、そんな、どうして?

[ティアゴ] 決まってる。お前がエーギル人だからさ。

[ティアゴ] 大方、この家ごと取り囲んでるんだろうし……屋根裏へ上がって、窓から屋根伝いに逃げよう。

[スペクター] 私たち、知り合いなのでしょうか?

[アマイア] そうですよ、ローレンティーナ。……ところで、あの修道服はどこへやってしまったのですか? あれのほうがずっと似合っていらしたのに。

[アマイア] ……ああ、なるほど。ご自分の帰るべき場所を見つけたのですね。ほかのアビサルハンターがあなたを見つけて、連れ帰ろうとしている――といったところかしら?

[スペクター] 「ローレンティーナ」……私の名前ですね。

[アマイア] ええ。それと同時に、万物の主の名でもありますが。

[スペクター] 万物の主? それは一体、何なのでしょう?

[アマイア] 海、あるいは海にある万物を代表するに相応しいものですよ。

[アマイア] 残念ながら、見たところあなたの精神は不安定な状態のようですが……正気を取り戻したこともあるのでしょうか? たとえば――クイントゥスを殺した時だとか。

[スペクター] クイン、トゥス……?

[アマイア] 彼を殺した時、あなたは一度海と接触したにもかかわらずエーギルへすぐに戻ろうとはしなかったようですね。てっきり、あなたたちは皆一刻も早く故郷へ帰ろうとするものだと思っていたのですが。

[アマイア] もしや……この陸地には、あなたたちを導き、策を立ててくれる人物がいるのでしょうか?

[アマイア] ああ、ローレンティーナ。私たちはなぜ、こんな状況で巡り会うことになったのでしょう。

[スペクター] あら。あなた、とても冷たい手をしていますね。

[アマイア] ――昔は、本当に何でもお話ししたものです。

[アマイア] けれど、今は……

[スカジ] スペクター!

[アマイア] ……あなたが私の名を思い出した時に、まだ、今この瞬間のことを覚えていたら――私に会いに来てください。

[アマイア] 私は、密かに心を決めているのです。自分を取り戻したあなたが、私を探し出してくれたなら、すべての真相をお話しすると。

[アマイア] またお会いしましょう、ローレンティーナ。

[スペクター] ……ええ。

[スペクター] ……

[スカジ] ……今の人、誰?

[スペクター] わかりません。……ですが、あの方は私をご存知のようでした。

[スカジ] ……特段匂いはしなかったし、クイントゥスみたいなシーボーンではなさそうね。

[スカジ] 何にせよ今は、これ以上構ってられないわ。

[スカジ] さっさと恐魚を片付けて、第二隊長と合流しましょ。

[扉を塞ぐ町民] おい、近くに恐魚がいたりしないよな?

[手伝う町民] え、ええ……怪物の死体が転がってるくらいで、静かなものよ。もしかして、審問官が全部片付けてくれたのかしら?

[扉を塞ぐ町民] それなら好都合なんだが。なあ、お前も手伝ってくれよ。あいつらをしっかり閉じ込めとかなきゃいけないからさ。

[手伝う町民] わ、わかったわ。……うん、扉は塞げたわね。……だけど、町中滅茶苦茶な状況なのに、どうして今町長にこんなことしないといけないのかしら?

[扉を塞ぐ町民] 全部終わったら、審問官が剣を向けてくるのは俺らに決まってるからだよ。――で、お前さ。礼拝堂のほうの様子を見て、審問官を呼んできてくれよ。

[手伝う町民] えっ、私がいくの? でも、まだどこかに怪物がいたりしたら……

[手伝う町民] って……あら? 屋根の上に人が……

[扉を塞ぐ町民] は?

[扉を塞ぐ町民] っ、ありゃジョディとティアゴだ! 逃がすな、追っかけろ!

[ティアゴ] 走れ坊主、町の外まで走るんだ!

[ジョディ] う、うん!

[ティアゴ] 審問官には見つかるなよ! あの人でなしどもにも、捕まるんじゃないぞ!

[ジョディ] 大丈夫、わかってるよ!

[ティアゴ] はぁ……はあ、っ……走れ、走り続けろ……! とにかく、北へ向かえ! あっちには、トランスポーターの拠点がある……きっとまだ、機能してる、はずだ……!

[ジョディ] 北だね! わかったよ!

[ティアゴ] お前の、鞄の中に――っはあ、はぁ……い、くらか、金を入れてある……! ほかの町、まで……ほかの、国まで……逃げるんだ!

[ジョディ] うん……!

[ティアゴ] ――ジョディ!

[ジョディ] 聞いてるよ、おじさん!

ティアゴは、次第に走るペースを落とし――

そうして、戸惑いながらも必死に町を走り抜けていくエーギルの背中を見送った。

[ティアゴ] 行け! 振り向かないで、走り続けろ!

[ティアゴ] そうだ、そのまま……振り返らずに、ここを出るんだ。

[追ってくる声] 奴らを町から出すな! あのエーギルを裁判所へ突き出してやれ!

[ティアゴ] ……ジョディ。お前の言う通り――

[ティアゴ] ここは俺たちの家だ。どんなに時間が経とうが、どんなに不満があろうが、それだけは変わらない。

[ティアゴ] ――(エーギル語)無事を祈る。達者でいろよ、坊主……!

[追ってきた町民] ティアゴ! あいつはどこに――

[ティアゴ] 黙ってろ、この腰抜け!

[追ってきた町民] なっ……あんたイカレてんのか!? このままじゃ、裁判所はまた俺たちを異端扱いしてくるんだぞ!?

[ティアゴ] ハッ、恐魚より裁判所のほうが恐ろしいってか!? お前はあんな怪物よりも、同じ人間が怖いってのか!

[追ってきた町民] 裁判所の連中は、俺たちの何もかもを滅茶苦茶にしただろうが! また同じ目に遭ってもいいっていうのかよ!

[ティアゴ] ッ……! けっ、こんなもん痛くも痒くもねえぞ……!

[追ってきた町民] てめえ――って、嘘だろ……!? あいつら、まだいたのか!?

[恐魚] グジュ……グルル……

[追ってきた町民] や、ヤバい! 礼拝堂へ戻ろう、審問官のそばにいれば安全――

[ティアゴ] うるせえ、腑抜け野郎!

[追ってきた町民] ――ごほ、げほっ……な、何すんだよ! 恐魚が来てるのが見えないのか!?

[ティアゴ] 見えるさ。だが、それが何だ?

[ティアゴ] グランファーロをこんなふうにしたのは恐魚か? 違うよな。やったのはお前らみたいな人間だ。……大いなる静謐なんぞより、お前らのほうがよっぽど恐ろしいくらいさ。

[ティアゴ] そうだ。自分たちの利己心と無関心さで、思いやりをなくしちまった挙げ句――己の臆病さから目を逸らし、災厄の責任をエーギル人に押し付けてきたお前らみたいな人間のほうがな!

[追ってきた町民] ――い、いやいやいや、そんなこと言ってる場合じゃないだろ! 怪物が来てるんだぞ! クソッ、あんたみたいな狂った奴と話してなんかいられるか!

[ティアゴ] そりゃそうだろうよ、欲張りのビビリ野郎め。お前らはマリーンが連れて行かれた時も、エーギルの同僚たちが連れて行かれた時も、懲罰軍の旗の下で縮こまってただけだからな!

[ティアゴ] この人殺し!

[追ってきた町民] ――ッ……!

[追ってきた町民] うるせえ! あんたはあのエーギルの女に惚れてたってだけのことだろうが! 皆が皆、あんたと同じイカレ野郎だと思うなよ!

[ティアゴ] つべこべ言わずにかかってこい! 叩きのめしてやる!

[恐魚] ギュウアァ――

殴り合う二人の鮮血が飛び散る。しかし、恐魚はそれを気にも留めずに、その場を素早くすり抜けていく。

彼らの姿は、ここではまるで場違いだった。

[ジョディ] はあ……はぁ……

[ジョディ] あ、れ……? ティアゴおじさん……?

[ジョディ] っはぁ、はあ……

[ジョディ] おじさん、どこにいるの……!?

[ジョディ] ……っ……どうして……

[ジョディ] す、すぐに……戻らなくちゃ……!

[???] (エーギル語)止まれ、エーギル。

[ジョディ] あっ、は、はい……!?

[ウルピアヌス] お前がグランファーロ最後のエーギル人、ブレオガンの末裔だな。

[ジョディ] えっ……? ブレオ……なんて仰ったんですか?

[ウルピアヌス] ――恐魚に殺されるか、裁判所に監禁されるか。どちらも嫌だというのなら、俺と共に来い。お前が必要だ。

[ジョディ] ……もしかして、あなたも……あの人たちの、仲間だとか……?

[ウルピアヌス] 違う! 俺は、かつての科学アカデミーでさえ一目置いていた、消えゆく伝説の遺したものを追っているだけだ。

[ウルピアヌス] 奴の遺した最も重要な宝は、灯台でも絢爛なる大船でもなく、ほかでもない奴の末裔――

[ウルピアヌス] 恐らく、それがお前である以上、お前が最後の手がかりとなる。

[ジョディ] 何を仰っているのか、よくわからないんですが……

[ウルピアヌス] ……では、お前の両親、そして祖父母は何に従事していた? ティアゴというあの町長は実の父ではないだろう。

[ジョディ] 僕の、両親は……

[ジョディ] ……イベリアの眼のために、行方不明になりました。

[ウルピアヌス] ……それは不運だったな。だが、俺は一つ残酷な指摘をせねばなるまい。その不運こそ、お前がエーギルを救う鍵となりえるのだ、とな。

[ウルピアヌス] 共に来い。同胞に手荒な真似はしたくない。

[ジョディ] ま、待ってください、本当に何を仰っているのかわからないんです……! そんなこと急に言われても、何が何だか……

[ウルピアヌス] もう一度言う。共に来い。

[ジョディ] ぼ、僕は……

[ウルピアヌス] ……!

[ジョディ] な、何……!?

[エリジウム] ――静かに。僕だよ、助けに来たんだ。

[エリジウム] さあ、行こう。

[ウルピアヌス] 発煙装置か。小賢しい真似を……やはり、貴様のことは見逃すべきではなかったな。

[ウルピアヌス] だが、貴様は何もわかっていない。そいつを連れて逃げたとして、どうするつもりだ?

[???] 何もわかっていない、か。確かに、この地が多くの謎を秘めていることは事実だ。

[ウルピアヌス] ……

[大審問官] しかしそれを踏まえた上で、お前のように法を犯した人間は――

[大審問官] 我々を満足させる答えを出すまで、この場を離れることなど許されないと心得ろ。

[エリジウム] ……撒いたみたいだね。よかった。やっぱり、審問官が近付いてきた時を狙って助けに入ったのはいい判断だったな。……まさかと思うけど、あの二人でやり合ったりはしないよね……?

[ジョディ] ……

[エリジウム] ……で、ちょっとは落ち着いた?

[ジョディ] あっ、ご、ごめんなさい……! あの……僕、町へ戻らないと……

[エリジウム] 戻るって……まあ、恐魚はほとんど片付けたみたいだけどさ。なんだか町は妙な雰囲気だし、ケルシー先生――うちのお医者さんとも連絡が取れない状況だから、危ないことはしないほうがいいよ。

[エリジウム] それに……見た感じ、君は町を離れようとしてたんでしょ?

[ジョディ] ……いえ、その……

[ジョディ] 審問官が町へ来てるって話を聞いて。それで、ティアゴおじさんが僕を心配して逃がそうとしてくれただけなんです。

[エリジウム] ……裁判所か。

[エリジウム] じゃあ、さっきの人は? 君を捕まえて、一体何をするつもりだったのかな?

[ジョディ] ……ええ、と……

[エリジウム] ああ、ごめんね。無理に答えなくていいよ。

[エリジウム] んー、ちょっとだけ考える時間をくれる? ケルシー先生を探しに何とか町へ忍び込んでみるか、それとも先に君を逃がしてから動くかで悩んでてさ。

[ジョディ] それなら、僕も一緒に戻ります。

[エリジウム] ……それ、本気? でも、おじさんは君を逃がすために、あれこれ手を尽くしてくれてたんでしょ?

[ジョディ] ……もし、裁判所の人たちがたくさん来ていたら、手を尽くしたところで逃げきれなかったはずです。裏を返せば、今戻る分には大丈夫だと思います。

[エリジウム] だったら聞くけど――君の「使命」に、命を懸けるだけの価値はあるのかい?

[ジョディ] えっ? ど、どういうことですか……?

[エリジウム] はっきりした目的もなく、ただ使命というものへの憧れだけでグランファーロに戻ろうとしてるなら、やめたほうがいいってことさ。

[エリジウム] これは遊びじゃないんだ。僕としては……なるべく早くここを離れることを勧めるよ。巻き添えを避けたがってるほかの住民たちも連れて逃げるべきだ。

[エリジウム] これは、森で野営してたらオリジムシの大群に襲われた、なんて規模の話とはわけが違う。――こんなことは言いたくないけど、普通の人に手伝えることなんて何もないと思うよ。

[ジョディ] でも……何となくですけど、感じるんです。……僕には、果たすべき使命があるのかもしれない、って。

[ジョディ] それに……僕は小さい頃から、この町であの伝説を聞いて、海岸線を眺めては、両親の遺したノートを読んで――そんなふうに育ってきました。だから、こんな形でこの町を離れるなんて嫌なんです。

[ジョディ] ……グランファーロは、僕の故郷ですから。

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