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樹影にて眠る_帰郷
兄の死を占ったギターノは、長く離れていた部族へと帰り葬儀に参列した。サンタラはウルサスから潜り込んだ人物の手がかりを追って去るが、その直前にティフォンとマゼランに向けて危険への警戒を呼び掛けたのだった。
[沼の民のシャーマン]ああ、ラグナ……
[沼の民のシャーマン]あなたをどんな顔で迎えろというの?
[沼の民のシャーマン]この地から南北へと去った人々の中で、あなたは誰より戻りそうにない人だったというのに。
[ギターノ]……
[ギターノ]わらわを呼び戻さんとする者などおらぬことくらいわかっておる。
[ギターノ]それでも、水晶玉にある予言を見たからこそ来たのじゃ。
[ギターノ]……我が兄が不幸に見舞われるという予言をな。
[マゼラン]おお~っ、きれいな木彫り! ナッツの殻の中に座ってるこの小人さんが道を示してくれるの? ほんとに?
[マゼラン]それに、この色違いの源石結晶もすごいよ!
[マゼラン]どんな技術を使えば、安定性を保ったまま彫刻できるんだろう……
[マゼラン]って、いやいや、そもそも源石を置物として飾るなんて危なすぎるよね?
[マゼラン]前回持ち帰った源石氷晶の欠片だって、まだ分析が終わってないし……でも、これは研究価値があるかなんてどうでもよくなるくらいきれいだね!
[キャラバンの隊員]……
[マゼラン]えーっと……確かウルサスに行った時に用意したチェルボネッツがまだいくらか残ってたはず!
[マゼラン]あっ、だけど君たちもサーミの人たちみたいに物々交換しか受け付けてなかったりするのかな?
[マゼラン]それなら、調味料の缶と交換してもいいけど――そんなことしたらあたし諸共シモーネさんとティフォンちゃんまで味のないサーミの食べ物しか食べられなくなっちゃうよね。
[ティフォン]……もとよりわたしたちはサーミフィヨドだぞ。
[キャラバンの隊員]……それで、お嬢ちゃんは結局何が欲しいのかな? 交換したいものがなければそろそろ行くよ。
[マゼラン]おっと! ちょっとはしゃぎすぎちゃった、あはは……
[マゼラン]ごめんね、まさかウルサスのキャラバンがこんなに遠くの市場まで足を伸ばして商いに来てると思わなくて。しかも見たことないものがこんなにたくさんあるなんて!
[マゼラン]えーっと、何か交換しないといけないものがあったよね? シモーネさん……
[マゼラン]……あれ、シモーネさん?
[ティフォン]はぁ……お前本当に聞いてなかったのか?
[マゼラン]え、何を?
[ティフォン]さっきシモーネの知り合いに行き会ってな。あいつは手伝いを頼まれてそちらへ向かった。
[ティフォン]集落に何人かの遺体が運び込まれてきたんだが、部族に雪祭司がいないから、その検分をしてほしいんだと。
[マゼラン]えっ、人が亡くなったの……?
[マゼラン]道理で市場を歩いてるのに呼び込みの声もしないし、あたしの質問に率先して答えてくれる人がいなかったわけだね。
[マゼラン]みんな落ち込んでたんだ。
[マゼラン]うーん、今は並んでる商品もかなり少ないし……
[マゼラン]シモーネさんを待って、来たら決めてもらおうか。何か物資を交換しないとって言ってたからさ。
[マゼラン]キャラバンの人たちも、もうしばらく待ってもらえないかな?
[サンタラ]……サーミの地を流れる水よ、どうか私を受け入れてください。あなたの子らと対話ができるように。
[サンタラ](低くハミングする)
[悲しむシャーマン見習い]風が吹きました。
[悲しむシャーマン見習い]老樹の最も低き枝から、ヴァリおばあさまの玄関の松明まで……
[悲しむシャーマン見習い]……慈悲深き運命よ、感謝します。
[悲しむシャーマン見習い]彼らの同意は得られましたし、どうぞご確認ください、サンタラの木の娘よ。遺品はすべてここにあります。
[サンタラ]この地を訪れただけの一介の追放者が、霜楓の根の信を得られたことを大変ありがたく存じます。
[サンタラ]……
[サンタラ]この武器、どれも赤黒い氷がついていますね。激しい戦いだったのでしょう。
[サンタラ]彼らは、北地の戦線から連れ帰られた戦士なのですか?
[悲しむシャーマン見習い]はい。彼らは七、八年前に部族を去り、北方へと向かいました。
[悲しむシャーマン見習い]最も長く故郷を離れ、誰より振り返ろうとしなかった二人が、まさか同じ日に帰ってこようとは。
[サンタラ]それは……亡くなった人たちのことですか?
[悲しむシャーマン見習い]……異なる道を歩んだ兄妹のことです。
[悲しむシャーマン見習い]運命があなたを今日ここへと導いたのであれば、この物語もお伝えすべきなのかもしれませんね。
[悲しむシャーマン見習い]かつて黒き森の半分を覆ったあの異常な雪害のことは、覚えておいでかと思います。
[サンタラ]ええ、覚えています。
[悲しむシャーマン見習い]当時、我らの部族もあの影響を受けたのです。
[悲しむシャーマン見習い]雪嵐に閉じ込められたほかの部族同様、我々はサーミの教えを乞わんとして祈り、吹雪の中、木に現れるはずの啓示を探し、いかにして身を守るべきかを知ろうとしました。
[悲しむシャーマン見習い]ですが……我らの部族に雪祭司はおりません。
[悲しむシャーマン見習い]私たちは何度も、繰り返し祈りを捧げました。けれどサーミはただ沈黙を返すのみ……
[悲しむシャーマン見習い]運命の導きがなければ、留まるべきか去るべきか、去るのだとしてどこへ向かうべきか、シャーマンたちには判断がつきません。
[悲しむシャーマン見習い]それで結局、その兄妹が決意を固めて立ち上がり、先陣を切ったのです。
[悲しむシャーマン見習い]しかし、二人の考えは相反するものでした。
[悲しむシャーマン見習い]兄はエイクティルニルの言葉に耳を傾けて、何人かを連れ北地の戦線へ向かうと決めました。彼は残された者たちが移動せずに済むよう、雪害を止めようとしたのです。
[サンタラ]ほかの部族の雪祭司の導きを受け入れるというのは、まさしくやむを得ず取った手段だったのでしょうね。
[悲しむシャーマン見習い]一方妹は、この地で部族が生き延びることはもはや不可能であり、雪害が収まるのを待ったところで多くの人々が死ぬだけだと考えていました。
[悲しむシャーマン見習い]ゆえに彼女はまた別の人々を率いて、自らのアーツで道のりを占い危険を回避しながら吹雪の中を進み、ついには南のこの地へと部族を移動させたのです。
[サンタラ]それは容易でない道のりだったことでしょう。
[サンタラ]……どちらにとっても。
[悲しむシャーマン見習い]はい。
[悲しむシャーマン見習い]ですから私たちには理解できるのです。なぜあの二人が自らの道を振り返ることなく進み、こんなにも互いを恨むのかを。
[悲しむシャーマン見習い]ははっ、姉の獣の角の装飾品を折ってしまったというだけで、私と姉は何ヶ月も喧嘩したことがあるんです。あの二人の確執であれば七、八年の時間が経とうとも決して埋まることはないでしょう。
[悲しむシャーマン見習い]……はぁ。
[悲しむシャーマン見習い]彼の手鼓には、側面に祝福の文字が刻まれていたのですが、こんなにぼやけてしまっていますね。この数年で一度でも戻ってきてくれていたら、私が彫り直してあげたのに。
[サンタラ]あら、この手鼓……
[サンタラ]面には少しも血がついていませんね。
[サンタラ]持ち主であるシャーマンの呪術医は、明らかに重傷を負っているのに……
[サンタラ]となると恐らく、ケガをした時は武器も持たずにいたのでしょう。
[サンタラ]……
[サンタラ]……彼の着ている毛皮の上着に、半分残ったウォッカのボトルが。ウルサス人が鉄から絞った味の悪い飲み物ですね……ハッ。
[サンタラ]この戦士たちも、かつてはウルサス人と焚き火を囲み、共に酒を飲んでいたのでしょうか?
[サンタラ]彼らの遺体を連れ帰ったのは誰なのか、教えていただけますか?
[悲しむシャーマン見習い]ウルサスのキャラバンですが、それがどうかなさいましたか?
[サンタラ]――
[???]「『黒印』の状態を確認中。『フリエーブ鳥』がまもなく水上の家で取引を行う。」
[サンタラ]そのキャラバンは――まだここに?
[悲しむシャーマン見習い]いつも通りであれば、あまり長くは留まりません。陽が沈めば、歩きづらくなりますから。
[サンタラ]ありがとうございます。もしかすると、彼らを見つけて……当時の状況を聞く必要があるかもしれませんね。
[悲しむシャーマン見習い]お待ちを、サンタラさん……またお戻りになりますか?
[サンタラ]とおっしゃいますと?
[悲しむシャーマン見習い]我らの部族は衰えております。ですから……できる限りのご助力をお願いしたいと思いまして。
[悲しむシャーマン見習い]此度の儀式はわが部族にとって、大きな意味合いを持つものです。
[悲しむシャーマン見習い]これは死者の葬儀であるのみならず、生者が故郷に別れを告げる儀式でもあります。ですから博学なシャーマンに同席していただければ、部族はより多くの庇護を受けることができるでしょう。
[サンタラ]……部族を挙げての移動ですか。
[サンタラ]百年に近い時を経て再び、サーミのご意志がこれほど多くの部族へと南への移動をお示しになるなんて……
[悲しむシャーマン見習い]そうなのです。サーミのご意志は、今回は我々にも目を向けてくださいました。
[悲しむシャーマン見習い]加えて、我々にも凶兆を見分けることならできます。
[悲しむシャーマン見習い]新たに生まれた赤子が夜通し泣き続け、また、野獣が沼沢地のほとりで死んでいて……
[サンタラ](恐ろしい兆しね。)
[サンタラ](けれど、本当に悪魔の穢れが氷原からこうも離れた南部の沼沢地帯にまで広がっているというの?)
[サンタラ](あるいは、ウルサス人がサーミに放った「黒印」が――)
[サンタラ]今おっしゃった凶兆に、心当たりがあるかもしれません。
[サンタラ]儀式の時には必ず戻るとお約束しましょう。
[サンタラ]ですが……今はやらなければならないことがあるのです。
[サンタラ]死者の魂はいまだこちらを見つめています。生者は彼らに安寧をもたらしてやらねばなりません。
[マゼラン]――えっ、雪祭司がいないのってそんなに大変なことなの?
[マゼラン]この部族の生活がうまくいってないのは……雪祭司がいないから?
[ティフォン]そうだ。
[マゼラン]それも書いておこう……「雪祭司は占いで部族を守っている。」
[マゼラン]「雪祭司のいない部族は、迫りくる天災を察知できないこともあるらしい。」
[マゼラン]ってことは、雪祭司の人は天災トランスポーターに近い勉強もしないといけないんだね……
[ティフォン]ただ学ぶだけでは雪祭司にはなれないがな。
[ティフォン]わたしは前にツンドラで、雪祭司になるための試練のさなか死にかけている奴に会ったことがある。
[ティフォン]それと、一部にはサーミの呼びかけを待つ部族もあると聞くし、雪祭司になった者には奇跡が何かを指し示すこともあるという話だ。
[ティフォン]まあ、こういうことはやはりシモーネに聞くのが一番だと思うぞ。わたしはただお前に、これ以上市場で聞きまわるのはよせと言いたかっただけだしな。
[ティフォン]この部族は……重病の角獣みたいなものなんだ。それをつつくのも無理に立ち上がらせようとするのも、とても迷惑な行いだと思え。
[マゼラン]ごめん……
[ティフォン]まったく……それと、お前が選んでくれたこのミサンガ、見た目も悪いし邪魔なだけなんだが。
[マゼラン]えへへ、一緒に市場を回ってもらう口実が欲しかったからさ。
[ティフォン]お前はもはや、ほとんど完璧なサーミフィヨドだ。南のあたりのこういう鉄の塊がある場所なら、一人で出歩いてもいいんだぞ。
[マゼラン]なんとなく今日は一緒にいてもらったほうがいい気がしたんだよ、それだけ!
[マゼラン]理由はわからないんだけど、なんだか嫌な予感がして。
[ティフォン]……お前の予感はよく当たるのか?
[マゼラン]ぜんぜん。
[マゼラン]っていうか、普段は予感なんて感じないんだよね。
[ティフォン]詳しく話せ。
[ティフォン]お前が感じたのは、裂獣の影のようなものか? それとも巨木の亀裂のようなものか?
[マゼラン]いや、どっちでもないかな……
[マゼラン]って、今裂獣って言った? えっ、ここ裂獣もいるの? もし出くわしたら君に任せてもいい?
[ティフォン]やれやれ……出発前に自分を守る方法をもう一度教えてやるから。
[ティフォン]それよりも、今はお前の予感がどういうものなのかを話せ。
[マゼラン]うーん……
[マゼラン]あたしとしては、具体的にどういうものかがわからないからこそ、それを予感って呼んでるんだよね。
[マゼラン]何かがすっごく近くにいるのに、それに気付けてないような感じがするの。
[マゼラン]たとえると、この雪をかき分けたら下に超絶大発見が待ってるのにそれを知らずに雪の上を歩いちゃってるみたいな感じ!
[マゼラン]あたしはよくそういうミスをしているって、マリー先生にはいつも言われてるんだけどね……あはは。
[マゼラン]はっ……はっくしょん!
[マゼラン]あれ、急に雪が強くなってきたね。
[マゼラン]――あっ、シモーネさん! やっと戻ってきた!
[サンタラ]あなたたち、ウルサスのキャラバンを見なかった?
[マゼラン]見たよ。でも、「陛下が見ておられるから」とか「国境警備隊がいい顔をしないから、持ち帰れない」とか言って、空の酒筒を譲ってくれちゃってさ。ほら、これなんだけど。
[マゼラン]本当はシモーネさんを待って、何か交換するものがないか確かめようと思ってたのに、時間がないとかですぐ行っちゃったの。
[サンタラ]……彼らを行かせてしまったの?
[ティフォン]今しがた向こうの方角へ向かったばかりだ。用があるなら、すぐ追いかければ間に合うだろう。
[ティフォン]……シモーネ、怒っているのか?
[ティフォン]何があった?
[サンタラ]ごめんなさい、何でもないの……ただ、贈り物をもらったのならお返しをしないとと思っているだけよ。
[サンタラ]あなたたちは部族の人たちと一緒に、このままチャパットへ向かいなさい。道中は必ず安全に気を配ってね、いい?
[サンタラ]何か異常が起こった時は、対処法を考えるんじゃなくて、すぐに逃げるようにしてちょうだい。とにかく生き延びること優先でね。
[ティフォン]お前もな、シモーネ。
[サンタラ]ふふっ、心配ご無用よ。
[サンタラ]すぐに追いつくわ。……戦士たちの葬儀に出ると約束したから。
[マゼラン]……
[ティフォン]……マゼラン、何をぼーっとしているんだ?
[マゼラン]……あれっ。
[マゼラン]おかしいな……
[マゼラン]シモーネさんに、この酒筒に書かれてるサーミ文字の意味を聞こうと思ってたのに。
[マゼラン]なんだかぼんやりして、聞くの忘れちゃってたよ。
[マゼラン]まあいっか。とりあえずしまっとこ。
[温和なシャーマン]ラグナよ、彼らが戻ってきました。
[温和なシャーマン]相変わらず、あなたの占いは正確ですね。
[温和なシャーマン]確かに、ティラは今日手ぶらで帰ってきました。彼女は今、我らの部族で一番の狩人だというのに。
[温和なシャーマン]それとこの腕輪……何年も失くしていたものなのに、息子が見つけてくれたのです。「幸運は深き水よりやってくる」と、あなたが告げたように。
[温和なシャーマン]そのうえ……
[温和なシャーマン]あの黒き死が本当に、我らの戦士の身に降りかかりました。
[ギターノ]……
[温和なシャーマン]それで……どうしても聞いておきたいのですが、あの時はどうしてあんな行いをしたのですか?
[温和なシャーマン]占いが我らを北へと導いたことを知りながら、あなたはなぜそれに背いて南を目指したのですか?
[ギターノ]……すまぬ。わらわはただ肉親に会いに帰ってきただけなのじゃ。
[ギターノ]葬儀の段取りがこれきりならば……わらわはもう戻る。
[温和なシャーマン]ラグナ……!
[厳格なシャーマン]行かせてやれ。
[厳格なシャーマン]彼女はもはやサーミの地との繋がりを失ったのだ。そんな哀れな人間を咎め立てすることもない。
[ギターノ]……
[マゼラン]あっ、ギターノさん。どうだった?
[マゼラン]やっぱりあんまり歓迎されてないのかな?
[ギターノ]こうなることはわかっておった。
[マゼラン]んん……でも、あたしとしては、旅の途中で友達に会えるなんて今日はすっごくラッキーだよ!
[マゼラン]ギターノさんを見た時、最初はまた幻覚でも見てるのかと思った。本当奇遇だよね!
[マゼラン]――えっと、こんなこと聞いて申し訳ないんだけど……
[マゼラン]誰か亡くなったんだよね? それって、もしかして……
[ギターノ]構わぬ、気にするでない。わらわは兄の死を占ったがゆえに帰ってきたのだからな。
[ギターノ]それに、我らは元々……ある時たもとを分かち、以来長きにわたり連絡を取り合わずにいたのじゃ。
[マゼラン]……
[ティフォン]だが、儀式において一番の重責を負うはずのシャーマンが、葬儀の準備をしていないように見えるな。
[ギターノ]……マゼラン。おぬしには鋭い友がおるようじゃな。
[ティフォン]このくらい、見ればわかる。
[ティフォン]死者を普通に弔うだけだったら、人々はこれほど悲しみはしないものだ。
[ティフォン]お前も、死者に別れを告げる機会があれば、そこまで悲しまないはずだろう。
[ギターノ]……そうじゃな。
[ギターノ]わらわも昔は、七年も経てば木は新たな枝を伸ばし、皆もこの地に根を下ろして、安らかな日々を送れるものと思っておったのじゃが……
[ギターノ]結局目にしたのは、頻度を増した災害にわが部族が苦しめられ、再び家を移すことを強いられる姿ばかり。
[ギターノ]挙句、シャーマンたちは伝統的な葬儀を執り行うか否かを議論し続けておる始末じゃ。
[ティフォン]ううむ……しかし何一つ言葉を告げずにそれを別れと呼べるのか?
[ギターノ]……
[ティフォン]万物はいずれ羽獣のように飛び去り、二度と見ることはかなわなくなるものだ。
[ティフォン]その時くらい、声を出して羽獣を少し驚かせても構わないだろう。
[温和なシャーマン]私は……葬儀を行わないことを承諾した覚えはありません。二度とこんな提案はしないでください。
[温和なシャーマン]彼らは運よく故郷へ戻ることができたのに、自らの肉体のそばで解放されることもないまま、こんな寒い夜に放っておかれるなどまかり通るわけもありません。
[厳格なシャーマン]この地はまもなく我らの故郷でなくなる。
[温和なシャーマン]だからこそ彼らのことは、儀式を通じ舟を沈めて帰してやらねばならぬのです。水の流れに乗せ、ほかの死者たちと会わせてやらなければ……!
[厳格なシャーマン]それでも、災いは目前まで迫っている。
[温和なシャーマン]私とてそれはわかっています――
[厳格なシャーマン]――彼らはもはや災いの一部と化した。
[厳格なシャーマン]岩角獣が気を狂わせ、昼夜を問わず力尽きるまで逃げ惑う……これはまさしく前兆だ。こうした時、北地の戦線では戦士たちが角笛を吹き鳴らし、夜を徹して警戒にあたっていた。
[厳格なシャーマン]彼らは皆、まぎれもない戦士であり――
[厳格なシャーマン]そうである以上、良い最期など迎えられるはずもないのだ。
[温和なシャーマン]……
[温和なシャーマン]災いの一部になるなどというのは単なるうわさでしょう?
[温和なシャーマン]あなた自身、北方の氷原で戦ったあとも、暗い運命を迎えることはなく、それどころかサーミの教えと祝福を得たではありませんか。
[温和なシャーマン]それなのにあなたは、単なる警戒心を理由に、彼らにその身体が朽ち果てるまでその場に立ち続けろと言うのですか?
[温和なシャーマン]そこにはあなたの最愛の教え子も横たわっているのですよ。彼は今もあなたの冷たい言葉に耳を傾けているというのに……!
[厳格なシャーマン]それなら聞かせておけばいい。彼は誰より高潔な戦士なのだから、喜んですべてを受け入れるはずだ。
[ギターノ]――先ほどおぬしの言うた通りじゃ。
[ギターノ]我らは……死者自身に考えを問うべきなのではないか?
[厳格なシャーマン]……その部外者二人が、お前に盲目的な勇気を与えたようだな。
[厳格なシャーマン]だが、知っての通り雪祭司はすでに去って久しい。
[厳格なシャーマン]ヴァリおばあさまが亡くなられて以来、部族には呼びかけを受けた者などいないのだから。
[厳格なシャーマン]よもや、お前まで伝統を変えろと主張するつもりではあるまいな。呼びかけを待たずして勝手に雪祭司の試練を設けた部族のように……
[ギターノ]いいや。
[ギターノ]わらわにならば……彼らの願いを占えようと言っておるのじゃ。
[温和なシャーマン]ラグナ……
[ギターノ]……そう、わらわは運命に請うておる。我らを導きたまえとな。
[ギターノ]詰問は不要じゃ。わらわのことは二枚舌とでも呼ぶがよい。
[厳格なシャーマン]ならば、お前の試みを止めはするまい。
[温和なシャーマン]……いいでしょう。族樹がその枝を持ち上げ、あなたを舟に乗せるおつもりならば、私も止めはしません。
[温和なシャーマン]我らは死者の答えを待つとします。
[ティフォン]チャパットへ急がなくていいのか? お前たち南の人間はいつも先を急ぎたがるだろう。
[ティフォン]たとえば、旅行に来たと言いながら……ええと、あの動くあれ……名前は知らんが、とにかくその乗り物でまっすぐに走り、開けた土地でしばらく留まったと思えば、またすぐ走り出すじゃないか。
[マゼラン]それはもちろん、マリー先生のことは心配だよ。
[マゼラン]だけど今やるべきことは、捜索隊がルートを開拓しやすくなるようにできるだけサーミの情報を集めることだから。
[マゼラン]それに、ギターノさんともっと一緒にいてあげたいしね。
[マゼラン]ロドスでは、ギターノさんが感情的になるのなんて、トランプで負けた時くらいだってみんな言ってたんだ。
[マゼラン]だからあの人があんなに悲しそうな顔をするなんて、想像もしてなくてさ……
[マゼラン]そういえば、ティフォンちゃんこそどうなの? チャパットで誰かが君を待ってるんだよね?
[ティフォン]どうだろうな。
[マゼラン]えっ?
[ティフォン]実は、南の町で待っているというその依頼人が誰で、わたしに何を求めているのか……何一つ知らないんだ。
[ティフォン]どうせまた、誰かがこっそり面倒ごとの処理を依頼してこようとしているんだろうな。
[ティフォン]機会があったら見せてやる。私に依頼をするような連中は、妙にこそこそしたがるんだ。
[ティフォン]まあ、結局は木のウロから木板を取り出してみれば、死んだ角獣を移動させてくれと書いてあるだけだったりするんだが。
[ティフォン]死んだ角獣のそばから影が離れていたとしても、その影が見つからなかった時は、かえってほとんどの奴が恐れを抱き、わたしに処理を頼んでくるんだ。
[マゼラン]それって、みんなに信頼されてるってことだよね。
[マゼラン]なのに近付いて来ようとしないのは、本気で君の弓が災いをもたらすと思ってるからなのかな?
[マゼラン]そ、そう考えると……鉱石病に似てるかも?
[ティフォン]鉱石病に? 似てるわけないだろう。
[ティフォン]シモーネは鉱石病だが、だからといってあいつは尊敬に値しないなどと思うか?
[ティフォン]それにひきかえ、わたしは……自分でもこの弓を本当に飼い慣らせているかわからないんだぞ。
[マゼラン]んー……でも、弓は君の手の中にあるわけだし、仮にうまく扱えてなかったら何か感じることがあるはずじゃない? あたしのドローンがうまく動いてない時と同じでさ。
[ティフォン]無論、起きている間ならこれを見張っておくこともできる。
[ティフォン]だが、夢を見ている時……意識が身体を離れている間はどうなると思う?
[ティフォン]「災いが語られるたび、その影は濃くなりゆくもの」――お前たち南の人間も、この言葉を聞いたことはあるか?
[ティフォン]ないか……そうか。
[ティフォン]以前のわたしは、ずっとアルゲスの洞窟にいたんだ。その頃は、わたしとこの武器のことを知る者などいなかった。
[ティフォン]だが、今は違う。わたしにはこの力が備わっていて、至る所で誰かを助けては、サーミから影を追い払い続けている。それに比例して……わたしのことを口にする者も増えているんだ。
[ティフォン]こうなってきた今、災いに目を付けられないとも限らない。
[マゼラン]えっと、あたしは君の弓に問題なんて起きないって信じてるよ! これだけ長く一緒にいても何も起きてないわけだしさ!
[マゼラン]まあ、確かにそれがちゃんとした証明になるかっていうと違うけど……
[マゼラン]君の武器をエンジニア課の仲間に預けて分析できたらいいのにな。そうすればもしかしたら、あたしにもわかるような言葉で、合理的な説明をしてくれるかも。
[マゼラン]そうやって、科学的な対策も考えてくれるかもしれないよ。
[マゼラン]たとえば、メイヤーちゃんっていう、危険物の取り扱いが得意な子がいてね。
[マゼラン]あの子とはすっごく仲良しだから、潜在的なリスクのある武器をラボに持ち込んでも怒られたりしないし……
[マゼラン]……あ、でも、あたしが北から持ち帰ったサンプルの研究にはいつも時間がいっぱいかかっちゃうんだよね。君の武器を何年も取り上げることなんてできないし……
[マゼラン](あ、れ……?)
[ティフォン]ありがとう。お前も努力をしているんだな。
[ティフォン]だが、わたしの武器には触るなと言っておいただろう。
[ティフォン]これはわたしにしか対処できないことなんだ。アルゲスもそう言っていたし……
[ティフォン]……マゼラン、お前何をしている?
[マゼラン]えっ?
[ティフォン]手を放せ。
マゼランは反射的に手を放した。「どぼん」という音と共にはっと我に返った彼女は、目を丸くして水面に広がるさざ波を見つめる。
[マゼラン]あたし……今何か落とした?
[ティフォン]あのウルサス人がくれた酒筒を。
[ティフォン]さっきまで、それで沼の泥水をすくっていたんだ。
[ティフォン]まったく、泥水を使うならまずは服に染み込ませてろ過しろと教えたのを忘れたのか? ……いや、それ以前にお前、何か様子がおかしいな。
[マゼラン]え……あっ! ほんとだ、あたしまたぼーっとしてたみたい!
[マゼラン]人からもらったものだし、ちゃんと拾わなきゃ……
[マゼラン]……
[ティフォン]手を伸ばすのが怖いんだろう?
[マゼラン]うん。
[ティフォン]手を貸せ。
[マゼラン]えっ、こんな時の対処法まで持ってるの?
[マゼラン]……ふぅ。
[マゼラン]本当に落ち着いてきたみたい。
[マゼラン]藤のツルを指に巻くだけでこんなに効果があるんだね。君ってほんとにすごいよ!
[マゼラン]あっ、自分でも巻いてたの?
[ティフォン]ああ。
[ティフォン]だが、あれはもう拾うな。
[ティフォン]シモーネが言っていただろう? 安全に気を配れ、と。
[マゼラン]うん、わかった……
[ティフォン]……しかし妙だな。今のは、悪魔と対峙した時にしか効果が出ない方法のはずだが……
[ティフォン]まさかシモーネが言っていたのは……
[ギターノ]……死者がわらわに応じてくれた。
[ギターノ]ほとんどの者は葬儀を望んでおるようじゃ。
[ギターノ]ただ一人だけ……沈黙を保っておったがな。
[厳格なシャーマン]……
[温和なシャーマン]沈黙を選んだのなら、少なくとも反対はしない、ということになりますよね?
[温和なシャーマン]死者の望みとあらば、その意思を尊重しなければ。
[厳格なシャーマン]……であれば、常の通り葬儀を執り行うとしよう。
[ギターノ]舟に乗る時は気を付けるのじゃぞ、マゼラン。
[マゼラン]うん、ありがとう!
[ギターノ]さて、これが我ら沢の民の風習でな。
[ギターノ]陽が落ちてから、水の流れに乗って舟を進める。そうして舟葬場に着いたら、死者は舟と共に水底に沈んでいくのじゃ。
[ギターノ]このようにしてようやく、死者は肉体のくびきを逃れ、森を自由に行き交って、流水に沿い己が血族を見つけることができるでのう。
[ギターノ]とはいえ、此度の葬儀は、故郷に別れを告げる儀式でもある。
[ギターノ]ゆえに皆、荷を持って舟に乗り、死者と共に行くのじゃ。
[ギターノ]……死者は舟と沈んで故郷に帰り、生者は故郷を去っていくというわけじゃな。
[マゼラン]あたしとティフォンちゃんは、みんなの親戚でも部族の人でもないけど……この舟で一緒に行ってもいいの?
[ギターノ]無論じゃ。
[ギターノ]むしろ、わらわと共にいてくれることに感謝したいくらいでのう。
[ギターノ]己がとうに孤独の身となり、サーミの外を彷徨うよりほかないことくらいは自覚しておるが……最後に残された肉親の見送りに、一人小さな舟に乗らねばならぬというのは、やはり苦しいのでな。
[ギターノ]……こうして葬儀を執り行うこと叶っただけ、わが部族の者たちはまだ慰めを感じておるはずじゃ。
[ギターノ]生者も死者も、な。
[ギターノ]何じゃ、こちらに手を伸ばしてくるとは……おぬしまで支えてやらねば乗れぬのか? ティフォン。
[ティフォン]違う。
[ティフォン]お前の手は冷たいな、ギターノ。まるで、寒風が常に吹き付ける中ただ瞬きをしては、きつく手を握りしめるよりほかにない……そんな時間を過ごしてきたかのようだ。
[ギターノ]……
[ティフォン]さっきから聞きたいと思っていたんだが。
[ティフォン]お前の占いに、死者は何と答えたんだ?
[ティフォン]占われた「沈黙」というのは、一体どういうことなんだ?
[ギターノ]――
[沼の民]角笛が鳴った……もう振り返ってはならない。
[沼の民]運命が我らに進めと言うのなら、ここに残していくものも、いずれは我らの元へと戻ってくることだろう。
[沼の民]だから今は、船を漕ぐんだ。
人々はそれきり口を閉ざした。先頭の舟からは、シャーマンの低い歌声だけが聞こえてくる。
一人ずつ死者の名が呼ばれ、彼らは祖先の霊のあとに続いていく。
風が吹き、遺体を乗せた小舟についた銅の鈴が鳴った。
儀式は始まり、舟が振り返ることは二度とない。
[ギターノ]……すまぬな。
四度目の占い、わらわが見たのはやはり「儀式」だった。
なれば五度目の占いは……ラーセ、おぬしに問うとしよう。
[ギターノ]……
[ギターノ]のう、ラーセ。おぬしに話したいことがあるのじゃ。
[ギターノ]……いいや、あるいはおぬしの話を聞きたいのかもしれぬな。
[ギターノ]あの雪嵐を抜ける道のりは長く、凍れる川はいつまでも解けることなどなかった。
[ギターノ]わらわは今、サーミの外で、鉄の船と共に旅をして暮らしておる。その船はとても安定しておってな……部族の皆が舟を引き氷上を歩くあの光景が、しばしば思い出される。
[ギターノ]歩き続けるうちに、多くの者が舟を引く力を失い、己が身体を引きずることさえできなくなった者もおった。
[ギターノ]……あの道行きは、あまりに多くの犠牲を出した。ゆえに、わらわには振り返る勇気がなかったのじゃ。
[ギターノ]事実はこれだけのこと。ただ、勇気がなかっただけ……
[ギターノ]我らは確かに相反する決断を下し、それゆえ互いに武器を向け合ったことすらあった。じゃが、わらわはおぬしを恨んで故郷に帰らなんだわけではない。
[ギターノ]……とはいえ、北地を守る戦士からすれば、こんな事実もどうでもよいことかもしれぬがな。
[ギターノ]儀式のかめに収めた葉は、間もなく燃え尽きてしまうじゃろう。
[ギターノ]どうか……答えてはくれまいか。
[ギターノ]おぬしはなぜ――
[ギターノ]なぜ、まだわらわに応えてくれぬのじゃ? のう、兄よ。
[ギターノ]暗闇……霧……そして暗闇。
[ギターノ]水晶玉には何も映らぬ。
[ギターノ]なにゆえ、何も見えぬのか……
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