aklib_story_統合戦略3_追憶映写1

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統合戦略3 追憶映写1

海岸線の陥落から数分と経たないうちに、すべての音が消え去った。耳に入る音の理解を脳が自ら拒んだように、海の轟音も陸の喧噪も消失する。この大いなる災厄が残したのは、現状ただの空白のみだ。

足元の地面は、いつ何時打ち砕かれ、呑み込まれ、溟痕に浸食されてもおかしくない。ソーンズの立つこの高台すらも、安全の保証などなかった。

撤退を拒絶したエーギルは、束の間の平穏を取り戻した海を見つめていた。

震動の余波か、あるいは別の理由からか、自分の物とは思えない異質な液体が耳から流れ出て手袋を濡らし、指の間からぼたぼたと零れる。

それは血だった。

しかし、ソーンズは流血など気にも留めない。

今の状況に比べれば、そんなことは取るに足らないことだ。

正直なところ、彼にとってイベリアは決して心安らぐ土地ではなかった。ソーンズは内陸の都市よりも海岸線周辺で過ごした時間のほうがずっと長く、その上彼にはイベリアもエーギルも一度捨て去った場所である以上、今もその両国を自分の故郷とは思っていない。それでも、彼は再びこのイベリアという傷だらけの土地へ帰ってきたのだ。

かつてのソーンズは、いつかは伝承に謳われるような黄金時代再建のチャンスが訪れるかもしれないと考えていた。そしてその期待は、今日に至るまではずっと彼の中に残っていた。

そう――今日に至るまでは。

耳から流れる血液は耳介を伝って首へと流れ、言いようのないむずがゆさを感じさせる。ソーンズは、己が血液をある種の異物と認識せざるを得なかった。あるいは出血というものは、まさしく異物を身体の中から排出する過程なのかもしれないが。

ともあれ、海に引き付けられているこうした異物が、ソーンズを今もこの場に留まらせていた。

海の奥深くから、彼に影響を及ぼし続けているものは一体何なのだろうか?

この奇妙な引力は日ごと鮮明になっており、ソーンズにとって、これを無視するよう己に言い聞かせるのは容易なことではなくなっていた。

かつて、ある歌手が彼にこう言ってきたことがある。

「君が恐怖しようがしまいが、きっと見つかっちゃうよ。」

……見つかるというのは、故郷にだろうか、それとも目の前にいる海中生物にだろうか。

彼はその答えを知らねばならない。

疑問が解決するまでは、ここから逃げることなどできないのだ。


ソーンズは、自分が幻覚を見ているなどとは思わなかった。しかし、静かな空白は終わりを告げ、鋭い痛みが叫びを上げて、遠い海には今にも動き出さんとする生き物の影が見え、そして欠けた視界の端には――

ここにいるはずのない人の姿があった。

その人の身体がシーボーンへと完全に変化していても、ソーンズは奇妙な直感によって、それがかつての恩師であることを明確に認識していた。

それは姿かたちを通して感じたことではなく、その怪物と視線を交わした瞬間に、彼の思考の上澄みをかすめた悟りのようなものだった。

その瞬間、これまでに覚えたすべての違和感に答えが出た。

昔彼に得難い知識を授けてくれたイベリアの宣教師は、初めから深海教会の一員だったのだ。

ぼろぼろの海岸に立つ深海の宣教師が携えていたのは、恐怖というより安らぎだった。恐魚たちは宣教師を取り囲んで喜びの声を上げ、幼体は細い触手を揺らしている。大群に属するそれらは純粋無垢な様子で潮汐に揺られていた。佇む宣教師の背を夕陽が照らし出し、灰色の影が海へと落ちて、雑然としたまだら模様を作り出す。どこからか優しくいかにも寛大なささやきが聞こえてくる中、宣教師はそこに立ち、彼を見つめていた。

「久しぶりだね。また会えて本当に嬉しいよ。」

偏在するささやきが、彼の感情を伝えてくる。それは大群に属する者が抱くべきでない、個人的な感情だった。

「君はまだ見ぬ海に憧れを抱き、故郷を懐かしんでいる。」

「それこそが、ここに留まり、去ろうとしない理由だろう?」

「君の血の中には、私からの贈り物が残っている。本来それは取るに足らない物だったが、君は大群の中に長く留まりすぎたようだ……」

「君はまだ彷徨い、さすらい、探し求めているのかい?」

「探し求めているものは、ここに――この中にあるのかな?」

「大群の意志は個体を凌駕するものだが、中には例外もあるものだ。」

「これは最善の道でこそないのかもしれないが、私の考えはここに私を導いた。」

「君はどうだい。答えは見つかったかな?」

宣教師は手を差し出した。

幼体たちは花開き、海の子らが彼に向かって触手を伸ばす。

「自分で考え、自分で判断しなさい。」

「選択の時が来たんだ。」

「君が、君にとっての正しい道を選べるように、私はずっと願い続けているよ。」

シーボーンの声は、吹き抜ける風が海面に残す波紋のように、輪となって広がっていく。

ソーンズには、その声が理解できている。

今に至れど、恩師は昔と同じように、自分の頭で考えろと諭してくれた。

現在残されている検証手段がすべて失敗に終わったとして、新たな仮説を立てるならば――

この選択は、彼が答えを見つける一助となるのだろうか?

この選択の果てに、求める答えにたどり着くことはできるのだろうか?

ソーンズの目の前で、夕日が沈んでいく。

大群はすぐに陸地へと進軍することはなく、むしろゆっくりと退却していった。

神聖な宗教画はまだらに砕け落ち――

金と銀とが、海面に零れ落ちていく。

エーギルは手中の剣を握りしめ、その切っ先を宣教師へと向けた。


この都市はあとどれだけ持ちこたえられるのだろう?

数日か、一週間か、それとも一ヶ月か?

状況は悪化の一途をたどっており、人々は減り続けている。

偵察に出た小隊は戻らず、瀕死の審問官が彼らの使っていた通信機を持ち帰った。ボロボロの機器に記録された最後の報告は、簡潔で穏やかな別れの言葉で締めくくられていた。

シーボーンと戦っていた仲間は死闘の末に息を引き取り、戦士たちは恐魚の群れの中倒れこみ、医師は最後の力を使い果たし、治療用のアーツユニットまでもが敵の返り血で染まっていた。

防衛設備を担当していた隊員は、危険を冒して人々の撤退用防壁を起動し、進軍してくるシーボーンと恐魚たちをかろうじて阻んでいたが、それも都市が陥落し、設備が悔しげなうなり声を上げて停止するまでの話だ。

それでも、ソーンズはその場に留まった。彼は決して退かず、内陸へ逃げようとする人波の中、逆流をかき分けるように前進し、海へと向かっていく。

やがて一人海岸に立ったエーギルの手には、ほのかに光り輝く試薬が握られていた。

この試薬を作り出した時、彼はいずれこれを使う日が来るのだろうと思っていた。

その原料がどこから来たのか、製造過程で何を加えたのかは、大きくなりすぎた恩師の身体を切り裂いたソーンズだけが知っている。

それは緑か、青なのかすらも判別はつかなかった。

海というものが何色なのかを明言できる人間などいるだろうか? ソーンズにはできないが、代わりに彼は知っている。自分がそれを受け入れるだろうということも。

ここにいるのは彼一人だ。無数の海の子が彼を取り囲んでいたが、それは攻撃を仕掛けてくることもなく、ただ思いやるように沈黙していた。

善悪がいかに覆ろうと、真実がどう解釈されようと、ソーンズの心は決まっている。

彼は知らねばならないのだ。絶えず呼びかけてくる物の正体を。逃げることを許さぬそれが、どんな姿をしているのかを。

そして、自らの肉体が奴らの一員となった時、それでも海を害することができるのか――彼は知りたいと思った。

これは彼にとって避けられない疑問であり、この疑問が解消されない限り、探求を止めることはできなかった。

ソーンズはずっと、その答えを探し続けてきたのだ。

彼には、たとえ理性が侵食されてもある程度の正気を保つことはできるだろうという自信があった。

それでも、この博打に負けてしまった時は……? ――問題はあるまい、と彼は思った。彼の弱点をすべて知るドクターという人がいる限り、すべては必ず解決できるに決まっている。

何も躊躇うことはない。

今こそ、自分の考えと判断に従うべきだ。

自己中心的なエーギルは、試薬の入った注射器の端を押し込み――

「故郷」をゆっくりと体内へ注入していった。


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