aklib_story_火山と雲と夢色の旅路_SL-3_指の家族_戦闘前

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火山と雲と夢色の旅路_SL-3_指の家族_戦闘前

エニスの家の温かな店の中、親子のわだかまりが解ける。エイヤフィヤトラもまた「北風」の答えは一曲の歌であったことに気付いた。エイヤフィヤトラがケラーと日増しに親しくなるのを見て、カーンはついに彼女に自らの疑念を打ち明ける。


[スワイヤー] アタシの目が正しければ、ここってロドスのシエスタ事務所よね?

[エニス] どうして知ってるんすか――

[スワイヤー] ちょうど、ロドスに何人か友人がいるの。

[スワイヤー] アンタって、観光ガイドをしてたはずよね? 鉱石病の製薬会社の事務所って観光地だったかしら?

[エニス] ここにはお客さんを送ってきたんですよ……

[スワイヤー] 下手な言い訳はよしときなさい。

[スワイヤー] どんな理由であれ、鉱石病患者であることを隠すのはとても危険なのよ。シエスタでも違法行為よね?

[エニス] そんなの分かってますよ!

[エニス] でも、どうしろって言うんだ……

[スワイヤー] つまりアンタがそんなにバイトを掛け持ちしているのも、アタシからあの手この手でお金を稼ごうとしたのも、全部治療のためだったの?

[エニス] ……それと家族のためですよ。

[エニス] 自分はどうだっていいんす。でも俺がいなくなった後、あいつらが暮らしていけなくなるんじゃないかって心配なんすよ。

[エニス] あとほんのちょっと時間があればいいんすよ。うちの店が無事に移転したら、色々と選択肢も増えますから……

[スワイヤー] うーん……

[エニス] そんな目で見ないでくださいよ、同情を買いたいわけじゃないっすから。

[スワイヤー] 思い出してただけよ。前に計算してみたけど、ここのタクシー料金を基準にしたとしても、あの日のアンタはアタシからだいぶお金を巻き上げてたわよね。

[エニス] アンタだって、普通の観光客だとか言って俺を騙したじゃないっすか……

[スワイヤー] あら。気が弱そうな奴だと思ってたけど、意外と口が回るのね?

[エニス] 一体何がしたいんすか?

[スワイヤー] 取引しましょうよ。

[スワイヤー] アンタも見たでしょ、あの日バーでアタシと話をしていた相手、あれはフェンツ運輸の人間よ。

[スワイヤー] あいつとは商業エリアの再建をどっちが請け負うかで争う予定なんだけど、向こうはホームでの戦いだから、アタシは不利なのよね。それで現地の人の助けが必要なの。

[スワイヤー] 手伝うと約束してくれるなら、今日のことは見なかったことにしてあげるけど、どう?

[エニス] 脅すつもりですか――

[スワイヤー] 人聞きの悪いこと言わないでちょうだい。お互いにメリットがあるんだから、助け合いってことにしましょ? 前と同じで、報酬は弾むわよ。

[エニス] 俺はアンタから施しを受けるつもりはありませんよ……

[スワイヤー] アタシだって理由もなしに、赤の他人に施しを与えるつもりなんてないわ。そんなのは偽善よ。ただ公平な取引をしたいだけ。

[エニス] ならアンタは、その仕事を請け負って何がしたいんすか……

[スワイヤー] アタシは法律を守る善良な商人なの。無理に買収したり、取り壊したりは絶対にしないわ。それ以外だと、アタシのスタイルはできるだけウィンウィンを追求するってことかしら。

[スワイヤー] 建て直しって、言葉は簡単だけど、再建なんてのは絶対に取り掛かると色んな揉め事がつきものなのよ。フェンツ運輸よりはうまくやるってことは保証してあげる。

[スワイヤー] すでに一度協力した仲なわけだし、アタシに一票投じてサポートしてみようと思わない?

[エニス] 俺は、うちのあのバーが何の問題もなく、無事に移転できればそれでいいっす……

[スワイヤー] じゃ、取引成立ね。

[スワイヤー] そうだ、一つお節介をしておくわね。

[スワイヤー] 他にどれだけ重要なことがあっても、鉱石病の治療は絶対に先延ばしにしちゃダメよ。早めにどうするか決めた方がいいわ。

[エニス] アンタ、俺とこんなにたくさん話して……感染者とこうやって関わることを気にしてないんすか?

[スワイヤー] ……

[スワイヤー] アタシね、友達がいるの。そいつも感染者よ。

閉館が近づき、博物館にはもう観光客の姿はない。解説の音声だけが繰り返し再生され、がらんとした展示ホールには巨大な岩だけが残されていた。

「ナウマン夫妻は私たちに数多くの写真や標本を残しました……」

「ウナ火山周辺の村の再建……」

「彼らは百以上の火山を渡り歩き、あらゆる国や地域に足跡を残しています……」

[アデル] ……

[男の子] ほんとに見たのかよ?

[女の子] 本当だよ! あのイチゴアイスがここに入るの見たもん……

[男の子] どうせ博物館に来たかっただけだろ。

[男の子] ここに来たって父ちゃんは見つからないよ。色んな場所に行ったってのも多分嘘ついてたんだよ……

[カーン] おや。もう営業は終了のはずだけど、君たちどうやって入ってきたんだ?

[怯える男の子] ごめんなさい……すぐに帰るよ。

[無邪気な女の子] すみません、うちの父ちゃん見なかった?

[カーン] お父さん?

[無邪気な女の子] あたしたちね、えーと……なんて言ったっけ……探検家っていうのを探してるの。

[無邪気な女の子] 父ちゃんは、色んな場所に行ったことがあるんだよ! 送ってくれた写真には、火山とか、雪山とか、それと移動都市の中の山とかが写ってた……

[無邪気な女の子] ヴォルケーノミュージアムなら父ちゃんの写真があるかも!

[カーン] 君たちのお父さんは何という名前かな?

[無邪気な女の子] チャックっていうの!

[カーン] チャックという名前の火山学者は聞いたことないな。探す場所を間違えてると思うよ。

[アデル] 私、そのお父さんを知っているかもしれません。

[カーン] アデル? どうしてここにいるんだ? 顔色が悪いぞ。

[無邪気な女の子] お姉ちゃん、父ちゃんに会ったことあるの?

[アデル] さっき、お父さんは探検家だって言ってましたよね?

[アデル] お父さんがどんな所に行ったことがあるか知っていますか?

[無邪気な女の子] あたしもわかんない……でも父ちゃんはどこかに行くと、そこの写真を送ってくれるの。

[無邪気な女の子] 前に送ってくれた写真は、サルゴンで撮ったやつみたいだったよ。

[アデル] あっ、サルゴン、なら間違いないです!

[アデル] 私のお父さんとお母さんは火山探検家で、こんなお話をしてくれたことがあるんですよ。二人がサルゴンに行った時の話ですが……

[アデル] 葉っぱや枝が入り組んだ大きなジャングルの中で、二人はすぐに迷子になっちゃったらしくて、まるで大きな野獣のお腹の中にいるみたいだったって言ってました。

[アデル] もうこのジャングルから脱出できずに、野獣のお腹の中に閉じ込められちゃうんだと思ったその時、体中に葉っぱを付けた人が目の前に現れたんです。

[アデル] 「そこの迷子の探検家二人、助けが必要か?」

[アデル] その人は道を知っていて、二人を連れてジャングルから抜け出しました。途中で、晴れた空から雨が降るという珍しい景色も見れたそうです。私の両親はその人にとても感謝してお礼を言ったんです。

[アデル] 「私たちを連れ出してくれてありがとうございます! あの、お名前を伺ってもいいですか?」

[アデル] その人は体に付いた葉っぱを落とすと、カメラを取り出してジャングルの写真を撮り、「礼には及ばない。私はチャック、この写真を私の息子と娘に送るんだ」って言ったそうです。

[アデル] その写真は、それから色んな所を旅して、最後にあなたたちのところに届いたんですよ。

[男の子] それほんとなの……? なんか、おとぎ話みたいだぞ……

[アデル] もちろん本当です!

[アデル] もしかしたらその時の写真が見つかるかも。探してみますね……

アデルは資料を漁り、一枚の写真を取り出した。ナウマン夫妻がカメラに向かって満面の笑みを見せ、その後ろにはいくつかのぼやけた人影があった。

[アデル] ほら、この人があなたたちのお父さんです。

[男の子] ……

[男の子] (小声)その人はどう見ても父ちゃんじゃないと思う……

[女の子] (小声)少しぼやけてるけど、でも……

[女の子] (小声)本当に父ちゃんだったらいいな! そしたら、父ちゃんはほかの探検家のために道を見つけて、あたしたちにも探検の写真を送ってくれたんだよね。すごい探検家で、カッコいい父ちゃんだ!

[カーン] (小声)……まさか君がこんなに話が上手だったなんて。

[アデル] (小声)実は子供の頃にお母さんから聞いたお話に、少しアレンジを加えちゃいました。

[カーン] (小声)プロの火山探検隊が、素人の助けを受ける必要はないよ。このお話には科学的な「合理性」はないね。

[アデル] (小声)ですが、科学は人々に「希望」をもたらすものでもありますよ。

[カーン] 良い話だったね。でも、ここは博物館だ。この子たちの保護者も見当たらないし、これ以上、外をふらふらしないように、家に送ってくるよ。

[カーン] それとアデル、君も今日は疲れてるみたいだから、早く帰って休むといい。

[カーン] 二人とも行こうか、おうちまで送るよ。

[アデル] 待ってください、カーン先輩。私に送らせてもらえますか?

[カーン] でも君は……

[アデル] 大丈夫です、私が送っていきます。

[アデル] この子たち、なんだかちょっと寂しそうで……私が一緒にいてあげたいんです。

[興奮した男の子] エニス!

[興奮した女の子] エニス!

[エニス] 二人ともどこ行ってたんだ!

[嬉しそうな女の子] 父ちゃんが行った場所見つけたよ!

[アデル] 次遊びに行く時は、ちゃんとおうちの人に言うんですよ。

[エニス] なんでアンタが……?

[アデル] え? あなたは……?

[エニス] お、俺は……

[エニス] ……

[エニス] 俺は今日アンタとぶつかって気絶させた相手です。エニスって言ってこのチビたちの兄ちゃんっす……怪我の方は大丈夫っすか? めまいは? セイロン先生が……えーっと、その……

[エニス] ごめんなさい! 本当に申し訳ありませんでした! 決して逃げたわけじゃなくて、他に仕事があって! アンタの治療費は必ず――

[アデル] エニスさん、セイロン先生から話は全部聞いています。あれはあなたのせいではありません。

[アデル] 弟さんと妹さんは、お外で一日中遊んだので、きっとお腹が空いていると思います。早くおうちに戻ってくださいね。

[エニス] そ、それは……

[エニス] 本当にありがとうございました……アンタのことは何て呼べばいいですか?

[アデル] アデルって呼んでください。

[エニス] 分かりました……チビたち、アデル姉ちゃんに何て言うんだ?

[女の子&男の子] ありがとう、アデル姉ちゃん!

いたずら好きな男の子が女の子の首の後ろに手を伸ばして、もう一方の肩を軽く叩いた。

[女の子] ん? 誰?

女の子は疑いつつ、そばに居る「嫌なやつ」を見やった。男の子は平静を装っていたが、堪えきれずに吹き出した。

二人ははしゃぎながら店に入り、母の胸に飛び込むと、今度は幼い獣のように飛び出していった。それが日常なのか、母は二人の様子を気にする風でもなく、コンロの上にある鍋に集中していた。

アデルは思わず笑い出した。

[アデル] 素敵ですね。

[エニス] ……

[アデル] エニスさん、ペリペさんという方をご存知ですか?

[アデル] ヴォルケーノミュージアムで最近行っている研究で、黒曜石が必要なんです。聞いたところ、あなたは……

[エニス] あいつ……どうして、何でもかんでも人に言うんだよ……

[アデル] あなたから買うことはできますか? 価格はご相談次第で。

[エニス] はぁ……アデルさんにはかなり助けられましたから、その感謝を示さなきゃなりません。

[エニス] ここにあるのは三ヶ月前にこっそり火山に戻って掘ったもんです。状態が良いとは言えませんが、火山活動の研究とかなら、使えるはずですよ。

[アデル] ありがとうございます!

[アデル] それから、エニスさん、しばらくの間は絶対に火山付近に行かないでください。もしほかに黒曜石を掘っている方をご存知なら、その人たちにもやめるよう伝えてもらえますか。

[アデル] シエスタ火山はすでに活動期に入っているので、噴火をしていなくても、あの地域は源石の活性化が進んでいます。

[アデル] 専用の防護装備がないと鉱石病に感染するリスクがありますから、くれぐれも近づかないでください。

[エニス] いや、俺は……

窓の外から幼い笑い声が聞こえてくる。二人の子供はどこへ向かっているのか、通りで追いかけっこしていた。夕日の下に、二人の影が長く伸びていく。

エニスは弟と妹が遠くへ走る姿を見ながら、源石で負傷したみぞおち辺りを無意識に押さえた。

[エニス] ……

[エニス] 分かりました。約束しますよ。もう行きません。

[エニス] それに、チビたちのお守りもしてもらってありがとうございます。本来なら兄貴の俺がやらなきゃいけないことなのに。

[アデル] 気にしないでください。二人とも、とっても可愛くて私も楽しかったですから。

[アデル] そうだ、エニスさん、さっき博物館で弟さんと妹さんから聞いたんですけど、あなたたちのお父さんは、もうずっと帰ってきてないんですか?

[エニス] そうなんすよ。ああいう職業は何て呼ぶんですかね、探検家? 旅行家?

[エニス] 全く音沙汰がないわけでもないんすよ。そういう、無責任な父親ではなないっす。家の中に貼ってあるのはどれも父ちゃんが各地から送ってきたハガキで、定期的にお金も送ってくれます。

[エニス] 距離が近いことが、必ずしも寄り添うってことでもありませんし。ただ……

[エニス] ただ毎回手紙が来るたびに、あの人はもう手紙を送った場所にはいないんす。俺たちが父ちゃんについて分かってるのは大地の至る所を駆け回ってるってことだけっすね。

[エニス] 時々、あの人が一体どんな場所に行ったのか、見てみたくなるんですよね。

[エニス] ヘイリーがここに残って、この店を切り盛りして、俺たちを養ってくれてるんす。でもヘイリーは、人生とは旅であり、自分たちはそれぞれ好きな風景を選んだんだって言ってました。

[アデル] 失礼ですが、一つ聞いてもいいですか? どうして、あなたと弟さんと妹さんは、種族が違うように見えるんでしょうか……?

[エニス] 実は、俺たちは血が繋がってないんですよね……

[エニス] 俺たち三人は、みんな引き取られた子なんすよ。

[アデル] あっ……

[エニス] そんな顔しないでいいっすよ。別にデリケートな質問でもないですから。

[エニス] 毎年数え切れないほどの人がシエスタに出入りします。ここで新たな生活を始めたいと思う人もいれば、ロマンティックな物語を追い求める人もいます。

[エニス] この場所に来てから、現実は思っていたほど素晴らしくないと気付いて、失望して去る人も少なくないですし、俺たちみたいに捨てられる子も、少なくないんすよ。

[アデル] 弟さんと妹さんが、あなたのことがとても好きなのは見てわかります……

[エニス] よその人から見たら、こんな関係は不思議ですよね? でも俺、家族は家族で、血の繋がりがなけりゃ家族になれないわけでもないって思うんすよ……

[エニス] 実の両親がどんな顔だったかは知らないっす。単純に捨てられたのかもしれませんし、とても愛してくれてたけど、アクシデントが起きただけかもしれない。

[エニス] 今の父ちゃんと母ちゃんは、俺と血が繋がってないことを隠しはしませんでした。チビたちはまだ小さいですが、あいつらがもう少し大きくなったら、正直に話すでしょうね。

[アデル] ……

アデルは、店の中で忙しそうにしているヘイリーと、走っていった子供二人を見た。すべてがまるで夢の中のように温かく穏やかだ。

手の中の黒曜石は重い。彼女は顔をそらすと、こっそりと目尻の涙を拭った。

[ヘイリー] で、エニス、あんたいつまであたしに隠しておくつもりだい?

[エニス] ――母ちゃん?

[エニス] 分かったよ、ここを温泉旅館に改造するのをあきらめてないのは認めるよ……

[エニス] バーを改造する計画はもう隠さないって約束する! 何かアイデアがあっても、まずは母ちゃんに意見を聞くから――

[ヘイリー] 最初から最後まで全部一人で必死こいて準備して、あたしたちの将来の生活をあんたが期待した通りになるように段取りを済ませて。

[ヘイリー] それが終わったら、店の酔っ払いを追い出すみたいに、あんたの母親とチビたちを全員置き去りにして、自分はどこか遠くに行って鉱石病の発作で死のうってのかい?

[ヘイリー] それがあんたが自分のために選んだ、旅と景色かい?

[エニス] ……

[エニス] ヘイリー……知ってたのか?

[ヘイリー] あんたから言ってくるのをずっと待ってたんだよ。

[アデル] エニスさん、あなたはもう――

[エニス] 俺は……

[エニス] まあ……自分の不注意のせいだよ……黒曜石を掘りに火山に行った時に、源石でひっかいちゃって。

[エニス] 登山は得意な方だと思ってたんだけどなぁ……

[エニス] 説教はやめてくれよ……自分の馬鹿さはもう身に染みてるんだよ。俺だって成長してんだ……

[ヘイリー] いいや、あんたが覚えたのはどうやってあたしに隠し続けるかってことだけだね。しかも全然隠し通せてないよ。

[ヘイリー] 「全部が終わったらどっか遠くへ行って、ずっと隠してた母ちゃんには突然の訃報ですべて伝えよう」って顔に書いてあるんだよ。しかもそれがカッコいいとか思ってるんだろ。

[エニス] あっ……それは……

[ヘイリー] ほら、「そんなことはないって言葉すら出てこない」って表情だ。

[エニス] そんなのがカッコいいとは思ってないさ。ただ、それを無事にやり遂げたら「兄ちゃん」に……この家の一員になれると思ってるだけだ。

[エニス] だって、俺たちは結局……

[エニス] ……

[ヘイリー] エニス。あんたは今のままでも、あの子たちの兄ちゃんで、あたしの息子だ。これは何かと引き換えにしないと手に入れられない関係じゃないんだ。

[ヘイリー] もしあんたが、それでもこんなやり方で「引き換え」にすることにこだわるなら、あたしのためにずっとバイトしてもらわなきゃいけないね。

[エニス] ……

[バード] あっ、邪魔してごめんなさい。音楽にピッタリな雰囲気だと思ったから。

[バード] 自己紹介をするわね。私はバード、旅する歌うたいよ。

[ヘイリー] 今はうちの店で雇った歌手でもあるね。

[エニス] 歌手を雇ってる余裕なんてあるのかよ……

[ヘイリー] 雇う金なんてないけど、こちらの歌うたいさんが、報酬は物語を一つ聞かせてくれればいいって言うもんでね。

[バード] カジミエーシュでの物語は素晴らしいものだったわ。あちらのカントリーミュージックへの理解にとても役立ったもの。

[ヘイリー] ギターを貸してもらえるかい?

[ヘイリー] あたしにも一曲弾かせてくれ。

夕方の薄霧が町を包み込む♪

新月が枝の間から昇り、ここは新たな場所に見える♪

大好きな場所は甘美な記憶の中だけに♪

一文無しの私、あるのは甘美な記憶だけ♪

......

[男の子] なんでまたここに来たんだ。

[女の子] 見て、ここから見える一番遠い所はどこだろう?

[男の子] 真っ暗で何も見えないぞ……全部海で他になんもない。

[女の子] でも見えないから想像できるんだよ!

[女の子] 実はこの海の向こうには小さな島が隠れてて、シエスタを出てった人はみんな、その島で生活するんだよ。

[女の子] あたしちょっと怖いんだ……大きくなったら、父ちゃんと母ちゃんはあたしたちに構わなくなって、エニスもどっかに行っちゃって……

[男の子] そんなことない!

[男の子] エニスが言ってたろ! 僕たち三人は探検隊なんだって!

[男の子] 探検隊はずっと一緒だ! 僕たちはパパシエスタに戻って、それにたくさんの場所に一緒に行くんだ……

[女の子] ……

[女の子] エニスに気がかりがあるのが、見て分からないの?

[男の子] 「気がかり」? 「気がかり」って何だ?

[女の子] ……

[女の子] バカなんだから。

[男の子] ……

女の子は立ち上がると、火山の方向にめがけて力の限り、大声で叫んだ。

[女の子] おーい――パパシエスタ――

[女の子] 会いたいよ――

[女の子] いつになったら、もう怒らなくなるの?

[バード] 黒曜石祭であなたの演奏が聞けないなんて、向こうも残念がっているでしょうね。

[ヘイリー] 残念がることなんてないさ。シエスタはもうあたしの演奏を何回も聞いたんだ。今さら、出しゃばっていって若者と音楽祭で争う必要なんてないんだよ。

[バード] あなたはロック精神を持ったシエスタ人なのね。

[ヘイリー] 昔のあたしはただのロックンローラーたっだよ。けど今は、シエスタ人の端くれって言っても大丈夫だろうね。

[ヘイリー] あたしとチャックは、シエスタの旅行中に出会ったんだ。

[ヘイリー] 二人とも、シエスタで「ホワイト・ヴォルケーノ」っていう不思議な現象を見た人がいるっていうのを聞いて来たんだ。特殊な天気だと、火山全体が綿あめみたいに白くなるっていう話さ。

[ヘイリー] 結局、シエスタに丸々一年滞在してもその伝説の景色を見ることはできなかった。けど、その間にあたしたちはこの都市に惚れこんじまったから、小さな店を開いて住みついたんだよ。

[ヘイリー] それで思ったのさ。「ホワイト・ヴォルケーノ」が見れないならこの店を「ホワイト・ヴォルケーノ」すればいいって。

[エニス] それが店名の由来だったのか……俺は、てっきり二人がテキトーに付けたもんだと思ってた。

[アデル] 真っ白い火山については、ケラー先生からも以前聞いたことがあります……でも本当にそんな地理的現象など存在するんでしょうか?

[アデル] もし山の中腹より上が白いなら、積雪などの説明がつきますが、山全体が綿あめのように白いとなると……そのような現象は、類似の記録を見たことがありません。

[バード] 本当に存在するかどうかは、そこまで重要じゃないわ。かつての伝説の景色は、すでに新たな場所で根付き、芽生え、さらには新たな伝説になったとも言えるもの――

[バード] 本当に美しい過去ね。

[バード] 昔聞いた曲を思い出したわ。これもシエスタで作られた曲よ。

[バード] 気に入ってもらえるといいのだけど。

これは長い旅路さ♪

マストの折れた船で手紙を書く♪

故郷を遠くに置いてきて♪

夏の太陽に首ったけ♪

北風は遠く遠くに吹き渡り、最初の火山を訪ねる♪

荒れ果てた小道に沿って行けば、いつかまた出会えるはずさ♪

[ドリー] そうだよ! やっと思い出したよ! これだ!

[ドリー] 「北風は遠く遠くに吹き渡り、最初の火山を訪ねる♪」、そう、これだよ!

[アデル] これが、あなたの探していた……北風?

[ドリー] 歌詞を思い出せないメロディーが、ずーっと耳元で鳴り続けるのはこの世で七番目に辛いことだよ。

[ドリー] ありがと、おかげですっきりしたよ!

[エニス] アデルさん、誰と話してるんすか?

[アデル] そ……その、独り言です!

[アデル] 今歌詞の中に「北風」ってありましたよね。

[アデル] でもシエスタは海の北側にあるので、夏には南風が吹くはずです……

[バード] この歌の作者にまつわる物語があるわよ。たしか1060年頃だったかしら?

[バード] 当時『迷子』という名前のアルバムがリリースされてたんだけど、それは彼がキャンプに行って山の奥深くで迷子になり、最終的に救助隊に命を救われたという話だったの。

[バード] アルバムのセールスは大成功でたくさん売れたけど、それだけにその歌手の「方向音痴」のイメージも深く定着してしまったのよね。

[バード] もしかしたら、これも方向を間違えていたんじゃない?

[アデル] 本当にそれだけでしょうか……?

[バード] 多くの場合、過去の歴史というのは冗談のようなものなのよ。私たちに見えるのは今に残るシルエットだけで、真実に何があったのかに触れるのは難しいの。

[バード] だから、ちゃーんと触れることのできる今この瞬間こそが、一番貴重なのよ。そうでしょ?

[ドリー] うん、いいこと言うね。

[ヘイリー] エニス、何してるんだい?

[エニス] ……

[エニス] ……看板を、ゴホンッ、看板を取り付けようと思って。

[ヘイリー] ハッ! この頑固息子ときたら……

[エニス] 手を貸して……母ちゃん。

エニスは梯子に立って、重みでふらふらと体を揺らしながらも店の看板を掲げた。

彼は母親から釘とハンマーを受け取ると、店のドアの上の方にそれをしっかりと固定した。

ブレーカーが上げられると、ネオンの光が文字をかたどり、夕日の最後の残光を際立たせてちらついた。

[アデル] 「ホワイト」……「ヴォルケーノ」?

[トランスポーター] もともとの配達担当が、昨日突然休んでしまって、荷物を引き取ったんですが、破けた封筒の宛先が辛うじて「ヴォルケーノ」と読めたので、ここに届けるしかなかったんです。

[トランスポーター] 手紙に差出人の情報が書かれていなければ、私も詳しいことは分かりません……

[アデル] 「元気かい? こちらは元気にやっているよ。」

[アデル] 「もう随分と顔を見ていないから、すごく君に会いたい。」

[アデル] 「火山は壮大で、山頂の風はとても強い。」

[アデル] 「君を愛する父より」

[アデル] エニスさん、ここに写真があるんですが……これ、もしかして……あなたのお父さんが送ったものではありませんか?

[エニス] 父ちゃんが?

[エニス] これは……ウナ火山だ! 本当にあそこに行ってたんだ!

[エニス] 母ちゃん! 父ちゃんが写真を送ってきた、見るか?

[ヘイリー] 代わりに返信しといてくれ。もしも次、自分がそこに立ってる写真ではなくて、売り物のハガキに載せるような写真だけを送ってきたら、行く前にあたしとした賭けはあんたの負けだってね。

[ヘイリー] あたしはイカした息子を育て上げたのに、あいつはただ他人の写真をこっそり借りただけ。

[ヘイリー] それで、本当に探検家と言えるかい?

[カーン] この黒曜石は持ち帰ってサンプルにするよ、火山噴火の時期の予測がより正確になるはずだ。

[アデル] カーン先輩とケラー先生のお役に立てて嬉しいです。

[カーン] ……アデル、ケラー教授がなぜ今回君をシエスタに招いたか知っているかい?

[アデル] ヴォルケーノミュージアムに保管されている一部の展示品が両親の研究に関連しているので、ケラー先生は、私にその内容の整理を手伝ってほしかったようです……

[アデル] カーン先輩は何を心配しているんですか……

[アデル] 亡くなる前に両親が研究していたのは、源石鉱脈と火山活動の関係についてだったと記憶しています。同じような研究をしている人は今でもたくさんいるのに、何が問題なんでしょう……?

[カーン] ……

[カーン] マグナ教授があえてずっと君に隠していたことを、俺から言っていいのか分からない……でもこれ以上隠し続ければ、多分君が真相を知る機会はもうないだろうね。

[アデル] ……

[カーン] マグナ教授が亡くなる前の年、リターニアのとある選帝侯の配下の軍が、頻繁に彼女たちの研究室に接触していたんだ。

[アデル] 軍……?

[カーン] ご両親はそれぞれ源石分野と生態環境分野の専門家だ。二人の共同研究は天災の観測と予防に重点を置いていたんだよ。

[カーン] だけど、何者かが二人の研究に別の可能性を見出した恐れがある。

[アデル] 兵器への研究ですか……

[カーン] あの時、私は客員研究員として大学の外で学んでいたから、大学内の不穏な噂は同級生の話からしか知り得ることができなかった。

[カーン] そして当時、お二人以外に研究の詳細を知っていた人物は、たった一人。

[カーン] ……ケラーだ。

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