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狂人号_SN-6_中央通路_戦闘前
狩人たちは黄金の大船に辿り着いた。そこでシーボーンに出くわした彼女らが追跡と戦闘を行う中、ついにスペクターに正気が戻る。
[ケルシー] ブレオガンこそが、あの鍵の主だ。
[ケルシー] 彼はイベリアの黄金時代に王侯貴族の賓客となった人物で、かつてはエーギルの島民とイベリア人との共存の始まり、その象徴とされたこともある。
[ケルシー] 災厄が訪れる前に彼が為したことや、為せなかったことを知る者はいない。だが、彼は十分多くの遺産と……君たちにとっても十分であろう方針を遺していった。
[ケルシー] とはいえ、彼がもはや過去の人であることに疑いの余地はない。それゆえ、今選択を行うのは君たちということになる。
[ケルシー] ――ブレオガンの鍵がカジミエーシュにあった理由を、我々が知る必要はない。
[ケルシー] しかし、あれを見つけたのは、狩人たるスカジだった。この事実は偶然ではなく、必然のことだろう。君たちは海に関することには生まれつき鼻が利くようだからな。
[ケルシー] ……そう、例のバンドに鍵を渡したのは私だ。彼女たちがいかなる存在なのかは、そのうちにわかる。エーギルには、彼女らの協力が必要となるかもしれないしな。
[ケルシー] 彼女たちも答えを探しているんだ。メンバーの多くは若者であり、海の変化に違和感を覚えている。というのも、彼女らは本当に、生まれた場所を離れることができないのでな。
[ケルシー] ……ああ。万事うまくいくように祈ろう。何しろ、人類には対処すべき問題があまりにも多い。そうした災厄が重なれば、現在の文明はいとも容易く瓦解してしまうことだろうから。
[ケルシー] グレイディーア。君が単独で行動したいのなら、止めはしない。――スカジと君はよく似ているように感じるが、アビサルハンターというのは皆近似したところを持つものなのかもしれないな。
[ケルシー] さりとて、くれぐれも自分だけで陸の問題すべてを解決できるとは思わないように。
[ケルシー] ……何だ? 言ってみてくれ。君の質問であれば答えよう。
[ケルシー] ――Ishar-mla……?
[ケルシー] どこでその名を聞いたんだ?
[審問官アイリーニ] もう少しで着くみたいだけど――
[審問官アイリーニ] そもそも、海は広すぎるから……曖昧な座標だと、とんでもない誤差が出ちゃいそうだわ。
[審問官アイリーニ] ……それにこの海、思ってたより妙に穏やかね。
[スカジ] ええ。静かすぎるくらいね。あの灯台を離れてからは、襲ってくる敵も少なくなってるし。
[スカジ] その上……波や風さえないもの。
[審問官アイリーニ] これってつまり、どういう状況なのかしら?
[グレイディーア] それは――
[スペクター] 可哀想な小鳥さん、緊張しているのですか?
[審問官アイリーニ] きゃっ! い、いつの間に――じゃなくて……! 急に後ろへ立たないでちょうだい!
[審問官アイリーニ] 言っておくけど、緊張なんてしてないから! 私はただ……こんなに遠くの海まで立ち入った人なんてほとんどいないでしょうし、だから……なんていうか……
[スペクター] いいえ。あなたは前ではなく、後ろを見ているように思いますよ。未知に立ち向かうことよりも、喪失を恐れているのでしょうね。
[審問官アイリーニ] ……
[グレイディーア] あなたの上官が、あなたをスタルティフィラへ向かわせ、エーギルとの接触の機会を作ってくれたのは、そのようにぐずぐずと迷わせるためではありませんのよ。
[審問官アイリーニ] ……そのくらい、わかってるわよ。
[グレイディーア] ならば戦いが始まる前に、きちんと……あら。サメ、何か匂うと思わない?
[スペクター] はい。この居心地の良い小舟からほんの少し右のほうに、大きな船が見えますね。
[スペクター] あの場所にはすでに巣が築かれているようですが、本当に行くつもりなのですか?
[スカジ] ……スペクター、少し休んでおく?
[スペクター] ? 私、どこか具合が悪そうに見えるのでしょうか? どうしてそのようなことを?
[スカジ] 手が震えているから。
[スペクター] え……?
スペクターは自分の手を見やる。武器を握っていないほうの手が、潮風の中でわずかに震えていた。
彼女の意識は徐々に明瞭になり、しかしすぐさま触れられもしない深海の底へと落ちていった。
[スペクター] ああ、これは……もしかして、「興奮」でしょうか? それとも……「感動」なのかしら?
[スペクター] けれど、なぜ……?
[グレイディーア] ……
グレイディーアは黙ってスペクターの手を握り、スカジもそれにならうように手を握る。三人のアビサルハンターは暫し沈黙の中にいた。
[グレイディーア] おかえりなさい、二人とも。
グレイディーアは無言で船首へ近付いていく。
潮風が夜をかき分けて、懐かしい匂いを運んでくる。
海上で静かに微睡み、深い眠りについている一隻の大船。それは潮風の臣民であり、時代の賓客でもあった。
その船体のそこかしこに、理想に満ちた時代を生きた人々の探究心と傲慢が鮮やかに反映されているのが見て取れる。
スカジとグレイディーアは、黙ってその船を眺めていた。
彼女たちは、一瞬のうちに様々なことを思い出したが、最後にはやはり自らの過去に、幼少期に、故郷の思い出に――そして、揺れる船の上にいる今へと戻ってきた。
そんな中、スペクターだけは、手にした武器をわずかに握り締めていて、潮風がそっとその頬を撫でた。
そうした潮風が、狩人たちを故郷へと連れ帰ってくれるのだ。
[恐魚] ジュル……グギュギュ……
[ケルシー] 焼き尽くせ、Mon3tr。
[Mon3tr] (鋭い雄たけび)
[ケルシー] カルメン閣下、時間がありません。こうしている間にも、狩人たちが危険に晒されています。
[聖徒カルメン] ……よもや懲罰軍が足止めを食らうとは。これほどまでに深海教会が入り込んでいるというのは予想外だった。
[聖徒カルメン] 当初の予定では、グランファーロに簡易的な陣地を設営したのち、彼らを追うという手はずだったが。
[ケルシー] それでも、もはや選択肢はありません。
[聖徒カルメン] グランファーロを掌握できなければ、挟撃を食らうことになるとしてもかね。
[ケルシー] イベリアの大方陣は少なくとも十の連隊、三千人規模の兵力を有していることでしょう。加えて、懲罰軍の参謀や指揮官たちも、この戦争を勝利に導くに十分な指揮能力を持っているように思います。
[聖徒カルメン] 君は懲罰軍のことを随分よく知っているようだな。
[ケルシー] 我々の交流もそれなりに長くなりましたので。
[聖徒カルメン] それで……つまるところ君は、グランファーロのことは懲罰軍に任せて、私たちはイベリアの眼へ先行すべきだというのかね?
[聖徒カルメン] 相手取るのがヴィクトリア艦隊であれば、私もその提案に賛同していることだろうが……
[ケルシー] そうしなければ、損失はより大きくなると申し上げているのです。
[聖徒カルメン] ……
[Frost] (音楽を奏でる)
[ケルシー] Frost? なぜここに……
[Frost] 彼女が言うところの、「ウォーミングアップ」だ。
[Frost] ――私たちは海から来た。私たちは海そのものだ。
[Frost] とはいえ……(悲しげなソロを奏でる)
[聖徒カルメン] ……君たちが手を貸してくれるのなら、実に心強い。何ができるかを聞かせていただいてもよろしいかな?
[Frost] では、彼らに聞かせてやろう。私の歌を。
[聖徒カルメン] ときに、君の仲間たちは……
[Frost] 悪いが、ここにはいない。Danはあの礼拝堂を借りたライブを構想していて、みんなもあそこで新曲を作っている。
[聖徒カルメン] 音楽、か。君たちの音楽は、以前リターニアで聞いたようなものとは随分と違うようだが……その手のものへの関心がお強いのかな。
[Frost] (簡潔なソロを奏でる)
[Frost] 音楽は人生そのものだ。
[Frost] 私は、ライブの前に会場を片付けておきたいだけ。
Frostはゆっくりとギターを構え直した。
カルメンは少し驚いていた。目の前の生き物が、確かに「音楽」という芸術のことを真剣に考えているのが伝わってきたのだ。彼女の物言いには、ほかの余計な意図が感じられなかった。
「音楽」というのは比喩ではない。この言葉を以てほかの何かを表すことは、Frostには気が散る行為なのだ。彼女の頭には音楽しかなく、この魂を震わす芸術こそが心惹かれるすべてだった。
[恐魚] グ……ギュギュ、ジュ……?
[Frost] (前衛的なソロを奏でる)
潜んでいた恐魚たちは彼女を取り囲み、観察し、吟味していた。しかし、それでいて軽率に近づこうとはしなかった。
恐魚たちは、懐かしい匂いを感じ取っていた。そして、目の前のギタリストがただの抜け殻だということをも理解した。彼女との遠い繋がりが、血脈の奥深くでひそひそと囁いている。
ここは陸であるにもかかわらず、恐魚たちは一瞬、海に帰ってきたような感覚に陥った。
[恐魚] ギギ……? ジュ、グギュギュ……?
[聖徒カルメン] なんとも……不思議なことだ。
[聖徒カルメン] この大地そのものと深い繋がりを持つ生き物から見れば、人類も恐魚も同じようなものなのだろうか?
Frostは答えなかった。旋律に深く酔いしれながら、情熱を追い求めていたのだ。
審問官の問いが自分に対してのものであることを、ケルシーは理解していた。
[聖徒カルメン] ケルシー女史。彼女らを海岸に残らせることで、懲罰軍を海へと進ませる――これも、君の計算の内なのかね?
[ケルシー] ご想像にお任せいたします。
[聖徒カルメン] だが、懲罰軍には我々の船を用意する時間さえなかったのだぞ。
[ケルシー] ご心配なく。海岸にもう一隻残っていますので。
[ケルシー] グランファーロの計画が白紙となって以来、長い時を待っていたあの船が。
[聖徒カルメン] ……それでも、まずはこの地に残った悪の根源を断ち切らねばならない。
[聖徒カルメン] 私は今もなお、「審問官」なのだ。イベリアに潜む悪をみすみす見逃すわけにはいかん。
[審問官アイリーニ] きゃっ!
[スペクター] あら、大丈夫ですか?
[審問官アイリーニ] は、放して! そんなふうに抱きかかえるのはやめてちょうだい!
[スペクター] ですが、こうして抱えてあげないと、か弱い小鳥さんはこんなに高い甲板へ上がることなどできないでしょう?
[審問官アイリーニ] そ、そういうことじゃなくて! ――っ、はぁ……わかった、もういいわよ……
[審問官アイリーニ] ……
[スペクター] どうかなさいましたか?
審問官アイリーニは、目の前の景色に対して、ただただ畏敬の念を抱くばかりだった。
漆黒の海面を照らす、ほの暗い光。船のマストに視線をやれば、六十年前のまま、そこで時が歩みを止めたかのように見えた。
[審問官アイリーニ] これが……「狂人号」、スタルティフィラ……
[審問官アイリーニ] 学者と軍人を満載した旗艦、没落した王族の海上宮殿……本の中の記録とは……まったく違うみたいね。
[審問官アイリーニ] ……
[グレイディーア] さあ、行きましょう。
[審問官アイリーニ] ま、待って!
[審問官アイリーニ] こんなに大きい船の中から、一体何を探すつもり?
[グレイディーア] ブレオガンはエーギルですのよ。
[グレイディーア] つまりこれは、恐らく、エーギル人が残そうとしていたものに関する手掛かりを隠すために存在する鍵、と考えるのが妥当ですわ。
[審問官アイリーニ] 鍵って……どこの鍵なのよ?
[グレイディーア] それを今から探そうというところですの。
[審問官アイリーニ] ちょっと、聞いてなかったの? この船はこんなに大きい上に、六十年も海上を漂っていたのよ? 一体どう探すって――
[グレイディーア] イベリアのお若い方は、こうした交通手段にはあまり触れたことがないでしょうし、理解できないのかもしれませんが……この船はブレオガンの協力を得ていたとはいえ、作りはかなり粗雑ですのよ。
[審問官アイリーニ] あなたねえ……!
[グレイディーア] ――海が穏やかな場所かどうかなんて、ここまでの道中でおわかりになったでしょう。
[グレイディーア] そちらを踏まえて、一つお伺いいたしますけれど――この船は、どうして沈まずにいられるのだと思いますか?
[審問官アイリーニ] っ、それって――
その時、足音がした。重く、粘ついた足音だ。
命あるものなどいるはずもないこの甲板に、一つの影が現れた。
それを見るや、アイリーニはすぐさま考えを改めた。グレイディーアの質問は、彼女自身の疑問でもあったのだ。陸で、そして海で、彼女はすでに多くの敵を目にしてきていた。
[???] ......
その敵を視認した瞬間、才気溢れる若き審問官アイリーニが本能的に感じたのは、息苦しさだった。
彼女が呼吸の仕方を思い出している間にも、グレイディーアは一歩前へと踏み出していた。
[???] ――ガァアアッ!
[???] ......
[グレイディーア] まさか躱しきるなんてね。
[???] ......!
[スペクター] あら、逃げようとしているようですね。
[スカジ] させないわ!
[スカジ] ……なっ……
[審問官アイリーニ] 船室へ逃げたわ! 追うべきかしら?
[グレイディーア] ……ええ。確かに奴は船室へ逃げ込みましたわよね。
[グレイディーア] けれど、それはなぜなのかしら? ここは海の上だというのに……
[スカジ] で、どうするの?
[グレイディーア] ……
[グレイディーア] この船の中のシーボーンが、あれ一匹だけであるはずはないわ。もちろん、恐魚はそれ以上の数でしょうけれど。
[グレイディーア] ここは二手に分かれましょうか。
[スカジ] だったら、私は奴を追いかけるわ。
[グレイディーア] では、私は下を見てくるわね。
[審問官アイリーニ] し、下って……この船の構造もわからないのにどうするの……?
[グレイディーア] 構造なんて知らなくても、斬って開けばいいだけでしょう。
[審問官アイリーニ] えっ!? ば、バカ言わないで! これはイベリアの賢人が残した重要な遺産なのよ!
[スペクター] でしたら、あなたはどうするのですか? 小鳥さん。
[審問官アイリーニ] わ……私にはあなたたちを監視する義務があるんだから、もちろん一緒に行くわ。
[審問官アイリーニ] スタルティフィラには謎が多いしね。ここまで完璧な状態で保存されているのに、なぜ六十年間もイベリアへ戻らなかったのか、とか……
[審問官アイリーニ] イベリアの審問官として、絶対真相に辿り着かなくちゃ。
[スペクター] それなら、手を繋いでいたほうがいいですか?
[審問官アイリーニ] は、はあ!? どういうつもり!?
[スペクター] あなたは才能に溢れる果実ですけれど、相対する敵に比べれば、その努力や才能はあってないようなものですから。
[スペクター] よく気をつけておかないと、あなたを失ってしまうことになるのではと心配しているのです。
[審問官アイリーニ] ……あんまり見くびらないでちょうだい。
[グレイディーア] それなら、その子のことは任せるわ。
[スペクター] わかりました。
[グレイディーア] ――サメ。
[スペクター] はい?
[グレイディーア] 何か思い出したことはある?
[スペクター] ……潮風が囁きかけてくるのです……とある彫刻が、泣きながら私を待っていると。
[スペクター] この船で、それを見つけ出すことはできるでしょうか?
[グレイディーア] もちろんよ。だから急ぎなさい。
[グレイディーア] 私も、あなたのことを待っているから。
[スカジ] ……彫刻?
[スペクター] ええ。死者をもてなしてあげながら、それが隠されている場所を探してみましょうか、スカジ。
[スカジ] ――まだ私の名前を覚えてくれていて嬉しいわ。
[審問官アイリーニ] ……本当に……なんて豪華な船なのかしら。
[審問官アイリーニ] だけど、こんなに綺麗なままなのは不思議よね……見てよ、床がピカピカだわ。
[スカジ] 誰かが熱心に掃除しているのかもね。
[審問官アイリーニ] 誰かって、誰よ?
[スカジ] さあ、知らない。
[審問官アイリーニ] ……
[審問官アイリーニ] あの怪物を追いかけるとか言ってたけど、何を頼りに追うつもり?
[スカジ] 匂いは嘘をつかないわ。
[スカジ] ここは腐臭に満ちているけど、少なからず――
[恐魚] グウ……ギュギュ……グギュギュ……!
[審問官アイリーニ] 恐魚だわ!
[スカジ] 本当に怪物の巣になっていたのね……
[スペクター] 私に任せてくださいな。
[恐魚] (その場をぐるぐると這いずりまわる音)
[スカジ] ――! 待って! この匂い、足元からだわ!
[審問官アイリーニ] えっ――!?
Ishar-mla.
Ishar-mla.
[スカジ] っ、今の衝撃は……スペクター、無事?
[スペクター] ……
[スカジ] ……聞こえてる? ローレンティーナ!
[スカジ] 一体何を見て――これは……鏡? どうしてこんなところに?
[スペクター] ……鏡が割れてしまいました。
[スカジ] この場所は何? イベリア人の船には、宮殿が必要だとでもいうの……?
[スカジ] ロドスとは随分違うみたいね。
[スペクター] ……
[スカジ] この鏡には何か特別な意味でもあるのかしら?
[スペクター] ――私は、見たのです……
初め、それは砕かれた鏡に映る光だった。しかしやがて、その光は実像を映し出し、それの目に宿る輝きとなった。
シーボーンは、随分とそこで待っていたようだった。この黄金の広間の中、たった一匹で。
[シーボーン] ……Ishar-mla、La-tina、Louu-tina、Laren-tina……?
[スカジ] ……さっきのとは別個体ね。まだ小さいみたいだけど……ううん、見た目で力量を判断しちゃダメ。
[スカジ] 恐魚まで集まってきてるし――ちょっと、スペクター!
スペクターには、その声が聞こえていないかのようだった。彼女はただぼんやりと、鏡を――そしてその後ろにいるシーボーンを見つめていた。
[スペクター] ……私を、覚えていますか?
わずかに頷いてみせたシーボーンは、困惑した様子でスペクターとスカジのほうを見ながら、あることを考えていた。
――どうして、二人は「昔」と違っているのだろうか? 一体、何があったのだろう? 今いる重たい血肉の中から解放してあげるには、一体どうすればいいのだろうか?
[スペクター] ……っ!
[スカジ] スペクター!?
[スペクター] 私……
[スカジ] 変な気を起こしちゃダメよ!
[スペクター] ――起こさないわよ、そんなもの。
明らかに、口ぶりが変わった。
スカジは思わず、驚いてスペクターを見やった。サルヴィエントの時に彼女が一時的に目覚めたことについて、グレイディーアとケルシーからは確かな答えを得てはいなかったのだ。
[スカジ] ローレンティーナ、あなた……
[スペクター] ええ、そうね。私は――ローレンティーナだわ。
[スペクター] ほら見て、この武器から下げてる札。私ったら、これに名前を書いた時には、まだ自分の生まれ故郷を覚えてたみたいよ。
[スペクター] ああ……随分はっきりした夢ね。どうやら、本当にまた長いこと時間が経っちゃったみたいだけど。
[スカジ] ――スペクター。
[スペクター] ええ。感慨に耽るのはあとにしましょうか。
[スペクター] それにしても――サルヴィエントでも、この馴染みないのに懐かしい船の上でも、私を目覚めさせてくれたのが、醜い怪物なんかじゃなくてエーギルの煌めくドームだったらよかったのにね。
[シーボーン] ……
[スペクター] ひとまず、ここまでご清聴いただいたことには感謝するわ。けど、あなたも私たちを同胞呼ばわりするつもりなら、気まずくなるからよしてちょうだいね。
[スペクター] さてと、それじゃそろそろお昼寝でもどうかしら?
[スペクター] 意識の泥沼に沈み込んで、生きる権利を投げ捨ててみれば、きっと気持ちいいと思うわよ。
[シーボーン] ――ギュアアアッ!
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