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将進酒_IW-6_伝説_戦闘前
ニェンとシーが何者かを訪ねるため、ある山頂に到達している。テイはシャンと決闘するため、刀を取りに家に帰る。老船頭は三山の古の伝説を語り、皆が忘水坪を目指す。
もうあと一、二刻ほどで、黄昏が青天を染め上げる。
三山十七峰、ここはどこの山で、どこの峰か。
わかるのは、山頂に東屋があることだけ。そこからは尚蜀の今昔の景色を見渡すことができる。すさまじい美しさだ。
しかし残念なことに、今この東屋は空であり、美景を楽しむ者は誰もいなかった。
だが次の瞬間、人がやってきた。
[ニェン] ここだろ。
[シー] ……
[ニェン] おいおい、そんなに会いたくねーのかよ?
[シー] ……うっとうしいの。
[ニェン] アイツはオメーに絡んだりしねーのに。
[シー] だからうっとうしいの。
[ニェン] ……はぁ。
[ニェン] そうは言っても、アイツは私たちの一番上の姉貴だ。少しくらい顔を立ててやれよ。
[シー] いないけど。
[ニェン] ……そうだな。なんでいねーんだ?
[ニェン] 山の下がこんな騒がしいんだ……辺ぴな山ん中で逍遥自在に過ごすのも、アイツらしーじゃねーか。
[シー] 私があんたを避けた時は偏屈ヤローって言うくせに、どうしてあの人にはそんな態度なのよ!?
[ニェン] だって、引きこもりのオメーと違って、アイツは別にずっと隠れてるわけじゃねーからな。
[ニェン] ただ酔っぱらって、横河断海の浮雲を探してしばらく熟睡してるだけだ、大したことじゃねーよ。
[シー] チッ、差別じゃない。
[ニェン] どこがだ。
[シー] 何も面倒事を起こさなければいいけど。
[シー] 本人は酔って夢見てるくせに、私たちの方はあの連中に追っかけられるなんて。
[ニェン] ……よくもまあ全部放って寝られるもんだぜ。てかアイツは本当に眠れるのか?
[ニェン] アイツの夢の中には何があると思う?
[シー] ……知らないわ、私に聞かないで。
[シー] ……
[シー] 何を見てるかなんて知らないけど、退屈になったら自分から帰ってくるでしょ。
[ニェン] そういや、この山はもともとぶっ壊されるはずだったらしいぞ。
[ニェン] ここを見つけるのに、クルースとウユウの兄ちゃんたち、どんだけかかるかな。
[テイ] ……はぁ。
[客桟の店員] 番頭、どうされました?
[テイ] ついに来たのか。
[客桟の店員] ……シャンの奴に会ったのですか?
[テイ] ああ。酒杯を奪われた。
[客桟の店員] あいつ! どうしてこうも頑固なんだ!
[テイ] まあいい、いつかはケリをつけるべき因縁だ。
[客桟の店員] おぉ、良い刀とは簡単にはさびないものですね。
[客桟の店員] 番頭が刀を抜くのを見るのは何年ぶりでしょう。
[テイ] 刀には情は通わない。人以外を相手にした方が幾分かましだ。
[テイ] しかしヤオイェに憂いなく鏢局を継がせるなら、シャンのことは今のうちに解決せねばならん。
[客桟の店員] シャンは愚かな奴ですがね、親の借りをお嬢様に返せと迫るほどクズじゃありませんよ。
[客桟の店員] ですが番頭は自分の気がすまないのでしょう。
[テイ] ……ああ。
[テイ] あの大雨の日に、二つの命が消えたんだ。あいつの息子は私の過ちで死んだ。私に恨みがあるのも仕方がないさ。
[テイ] あいつがあれからどういう思いで生き延びてきたかは、私が誰よりもわかっている。
[客桟の店員] 番頭……
[テイ] 安心しろ。少なくとも酒杯は取り戻す。
[テイ] でなければ、任務を全うできないからな。
[クルース] シェンさん、もっと早く山を登る方法はないのぉ?
[船頭] あるにはありますが、あまり山道を歩いたことがない人には、少し……
[クルース] 大丈夫だよぉ、慣れてるからぁ。
[船頭] ……わかりました。こちらです。
[器鬼] グォッ――!
[ドゥ] チッ、何なのよこいつら?
[リー] ……
[ドゥ] ちょっと! リー!
[ドゥ] このあたしが戦ってやってるのに、あんたなにぼさっと突っ立ってんのよ?
[リー] ……何でもありません。
[リー] ただ……
[ドゥ] ただじゃないわよ! 訳わかんない生き物にずっとに付きまとわれてる上に、イェバンとかいう奴とあの担夫も見失った!
[ドゥ] あんたどうしてちっとも焦ってないのよ?
[リー] いーえね。焦っちゃいけませんよ、焦っちゃ。
[リー] ……友人との約束事は、ちゃーんとやります。ですが……
[リー] ……まずは、機先を制することのできる場所を見つけないといけません。
[船頭] ふぅ……
[船頭] (若いうえに普通では考えられない身のこなしだ……)
[船頭] これほど険しい山道でも、息切れしていませんね。
[船頭] 普段もよく山登りとかしているのですか?
[クルース] ……ここ数年だけどねぇ……
[クルース] それに私はレム・ビリトン出身だからねぇ。炎国とはちょっと違うけど、荒野での生活は慣れてるよぉ。
[船頭] ……なるほど。
[船頭] この付近の山道はどれも険しいんですよ。昔は「蜀道難し」なんて言われ、皆どの道のことか議論したものですが、「易し」道などないという寸法です。
[クルース] シェンさん、リーさんが取江峰で落ち合おうって言ったの、何か理由があるのぉ?
[船頭] リャン様に言われて酒杯の来歴を調べた時、彼が最初に向かいたいと言ったのが、この取江峰なんです。しかも、彼が口にしたのは「取江峰」という名ではなく、「攥江峰」です。
[船頭] この古い名を知っているのは現地民でも少数で、名が変わって何年も経っています。どうして彼が知っているのか、私も不思議でなりません。
[クルース] リーさんは何か手がかりを見つけたのかもねぇ……
[船頭] ええ。彼曰く、夢の中で見たらしいですよ。
[船頭] 何か告げられない事情があって、そうした理由でお茶を濁したのだと思いましたので、私も深くは聞いていません……ですがもし本当に夢の中で見たのなら、なんと奇妙なことでしょう。
[船頭] この取江峰は、標高が高くて道が険しいうえに、客が最も少ないのです。道が緩やかで人家が多い泥泥峰、あるいは劇場や旧市街が至る所にある数舟峰と比べると、ここは静かです。
[船頭] あなたも見たでしょう……今ある町や建物は、どれも遥か昔から残されているものです。
[船頭] しかし……
[クルース] ほかに何か手がかりがあるのぉ?
[船頭] 取江峰がまだ攥江峰と呼ばれていた時、この山には、実はもう一つ峰がありました。
[船頭] 切り立った山峰で、一番険しい辺りはほぼ垂直、遠くから見ると石の剣が天を衝いているようで、大変壮観なものでした。
[船頭] 日没の頃に他の山から見ると、まるで日が頂に落ち、剣の先で日を高く掲げているように見えたのです。
[船頭] そのため、攥江峰と合わせて「双峰回日」と呼ばれ、三山十八峰の中で最も雄大な双峰だったのです。
[船頭] ですが大規模な天災が起き、雨風と炎が降り注いだせいで、付近一帯の地形は大きく変化しました。その剣のような峰も半ばから消えたのです。もう三十年も前のことですが。
[船頭] 街で少し年配の尚蜀人に尋ねてみれば、あの時に巨大な黒雲が街に覆い被さった奇観について誰もが詳しく語ってくれるでしょう。
[船頭] 残念ながら、その時私はまだここらへんで生活していませんでしたので、目にはできませんでしたが。
[クルース] 天災なのに……尚蜀人は奇観って呼んでるのぉ?
[船頭] そこにもまた奇妙といえる点がありましてね。天災が予兆なく訪れたため、欽天監(きんてんかん)は近くに警報を出すのがやっとで本来であれば甚大な被害が出るところだったそうです。
[船頭] ですが、予想に反して最後はいくつかの家屋に少しの被害が出ただけで街への損害はほとんどありませんでした。死傷者も一人として出なかったのです。これが第一の奇。
[船頭] その後、土木天師が変形した山の地形を調査したのですが……本来であれば、あれほどの山峰が崩壊すれば、明らかな痕跡が残るはずのところ……
[船頭] 取江峰の隣に「剣の柄」が残された以外に、大きな岩や崩れた痕跡など全く見つからなかったのです。これが第二の奇。
[船頭] だからこそ奇観と呼ばれているのです。一体何があったのか、真相は誰にもわかりません。でたらめな伝説はありますが、信用できるものではありません。
[クルース] 尚蜀にそんなことが起きてたんだねぇ……
[船頭] ……炎国の歴史と伝説は、かねてより境が曖昧なものです。
[船頭] 尚蜀の誕生が、古代人の夢に関係すると伝聞されているように、真実が知り得ないことでしょうね。
[クルース] その消えた山峰はなんていう名前なのぉ?
[船頭] ……尋日峰(じんじつほう)。
[船頭] ですが炎国は急速に発展しています。恐らく若人たちにとっては三十年も前のことなど、つまらない昔話でしょう。
[坂の上の声] 待て――!
[クルース] ――何の声~?
[イェバン] (レム・ビリトン語)いたた――ライトそいつを逃がすな――!
[器鬼] ヴゥ――! グォッ――!
[イェバン] (レム・ビリトン語)この、おとなしくしろ――!
[器鬼] ――ヴゥ!
[船頭] この人……あれを捕まえようとしているのでしょうか?
[クルース] そうみたいだねぇ……
[イェバン] (レム・ビリトン語)そう、そうだ、きつく縛って見張ってて!
[クルース] (レム・ビリトン語)あなたはレム・ビリトン人~?
[イェバン] ……!
[イェバン] ……
[クルース] (レム・ビリトン語)そんな警戒しないでぇ……私たちはただぁ……
[イェバン] (レム・ビリトン語)君は誰?
[器鬼] グゥ――!
[イェバン] (レム・ビリトン語)おとなしくして! くっ! ねぇ君、これ何の動物か知ってる?
[クルース] (レム・ビリトン語)それは、アーツで作り出したものだよぉ。
[イェバン] (レム・ビリトン語)アーツって、リターニアの貴族連中が使ってるような術? チッ、なんだ。飼い慣らせる炎国の動物かと思ったのに……
[イェバン] (レム・ビリトン語)こんなもの一体誰が作り出したの……! ライト、放してあげて。何の役にも立たないから!
[クルース] ……
[クルース] (レム・ビリトン語)……私たちは、それらの主人を探してるんだけど、何か手がかりはないかなぁ?
[イェバン] (レム・ビリトン語)……それは……
[クルース] (レム・ビリトン語)あなたはトランスポーターの護衛、それともバウンティハンター?
[クルース] (レム・ビリトン語)私たち協力できるかもよぉ。
[イェバン] (レム・ビリトン語)……見知らない人を信用すると思う?
[クルース] (レム・ビリトン語)レム・ビリトン人だよぉ。
[イェバン] (レム・ビリトン語)レム・ビリトン人だって、みんながみんないい人じゃないよ。
[クルース] (レム・ビリトン語)それは残念だなぁ。
[イェバン] (レム・ビリトン語)……でも、レム・ビリトン人に会えるなんて意外だったよ。
[イェバン] (レム・ビリトン語)また会いましょ、コータス。
[クルース] ……
[船頭] 同郷の方ですか?
[クルース] 同郷といえば同郷だねぇ……なんだかちょっと怪しいけどぉ……
[クルース] まぁいいや。シェンさん、山頂まであとどのくらい?
[山の担夫] ……道はこんなに広いんだ、お二人さん少し端に寄って、通らせてくれないか?
[タイホー] 断る。
[山の担夫] お役人が俺に何の用だ?
[ズオ・ラウ] シャンさん。あなたが腰に下げているもの、何かご存じですか?
[山の担夫] これはあんたらのもんか?
[ズオ・ラウ] そうであるとも、違うとも言えます。ですがそれを渡してもらえると助かります。
[山の担夫] あんたら、なぜ俺を知っている?
[ズオ・ラウ] 少し噂を耳にしまして。
[山の担夫] ほう。テイの奴があんたらに何か教えたのか?
[ズオ・ラウ] 即座にテイさんに思い至るなら、きっと我々が何者かもご存知なのでは?
[山の担夫] 司歳台の持燭人か。
[山の担夫] しかしあんたみたいな若者……これまで見たことないがな。
[タイホー] 我らの身分を知りながら、なぜ酒杯を渡さぬ?
[山の担夫] 俺はテイとケリをつけなければならん。
[ズオ・ラウ] ですがその件は、シャンさんが腰に下げているものとは無関係のように思われますが。
[山の担夫] ……俺の息子は、この酒杯のせいで死んだ。なぜ俺と無関係だと言える?
[器鬼] ヴヴゥ……
[山の担夫] 若いのに大した腕前みたいだな。この畜生ども、あんたを怖がってるみたいだ。
[タイホー] 酒杯を渡してもらおう。
[山の担夫] もし断ったら? 身分ある方が公然と略奪する気か?
[ズオ・ラウ] ……シャンさんがその酒杯を持ったところで意味がないですよ。
[ズオ・ラウ] ですが私たち司歳台にとっては、とても役立つものなんです。
[山の担夫] 何に使う?
[ズオ・ラウ] 餌です。
[山の担夫] 何を釣る?
[ズオ・ラウ] 国と民に災いをもたらす者を。
[山の担夫] ……炎国は何百年も平和なんだ、そんな者がどこにいる?
[ズオ・ラウ] それはあなたが知らなくていいことです。
[ズオ・ラウ] ただ、シャンさんにはどうか信じていただきたい。酒杯を我々に託すことは、とてつもなく大きな義挙なのです。
[山の担夫] はっ! 義挙とは笑わせる。俺のような奴には、どうでもいいし不釣り合いだな。
[山の担夫] ……どきな。
[ズオ・ラウ] 残念ですが、シャンさんに決定権はありません。
[山の担夫] この酒杯は俺の息子と一緒に葬ってやる。テイの奴が来ない限り……
[山の担夫] 話し合いは無駄だ!
[山の担夫] 取江峰の頂上、忘水坪(ぼうすいへい)で、俺はあいつを待ってると伝えな!
[タイホー] つけあがるな!
[タイホー] ――棒術?
[山の担夫] くっ――なんて重い攻撃だ。この牛、歳のわりに、なかなかの腕力だな。
[タイホー] 公子、この者は見かけによらずかなりの強者だ、簡単な相手ではございません。
[ズオ・ラウ] 酒杯が優先です、その人に構う必要はありません!
[山の担夫] あんたらはテイから、俺が生涯で最も憎んでいる言葉を聞いたことはあるか?
[タイホー] 無駄口は不要!
[山の担夫] ――俺はな、「荷は命より重い」って言葉が一番憎いんだ。
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