aklib_story_将進酒_IW-5_荷と人と_戦闘前

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将進酒_IW-5_荷と人と_戦闘前

テイが一足先にイェバンという名の盗っ人の行く手を阻むも、担夫のシャンに割り込まれ酒杯を奪われる。クルース一行は船頭のシェンを訪ね、リーと合流しようとするのだった。


山の風は常に爽やかだ。

爽やかな朝は、もやもやとしたことを解決するのに最適である。

山間の小さな町からいく筋かの煮炊きの煙が上り始め、春雪はいまだ解けず、壮年の男と若者が何も言わずにのんびりと顔を見合わせている。

遠で銅鑼(どら)の音が鳴った。

[テイ] 随分と待ったぞ。

[イェバン] ……チッ、こいつ……ライト、まだ勝手に動いちゃダメだよ。

[テイ] 見覚えがある顔だ、ふむ、お前だったのか。

[テイ] 確かに意外ではある。レム・ビリトンから来た者。初めから尚蜀で息をひそめていた者。

[イェバン] 何言ってるかわからないけど。

[テイ] ……ふんっ。

[イェバン] ライト!

[イェバン] なっ――!?

[テイ] 投げ縄?

[テイ] よく訓練された眠獣たちだ。常人であれば、すでに地面に倒れていただろう。

[イェバン] (背後の罠に即座に気付いただけでなく、投げ縄をいともたやすく踏みつけた……このおじさん……)

[テイ] 案ずるな、お前のような若い娘を困らせるようなことはしない。

[テイ] お前は自分が抱えているその酒杯が何であるか、知っているか?

[イェバン] ……興味ないし、どうだっていい。何でも知りたがるバウンティハンターは半人前だよ。

[テイ] そこで終わるのであれば、一流には遠いぞ。

[イェバン] 偉そうに。メット! ドリル!

[イェバン] ――

[テイ] どういった物を扱っているか知らないなら、おとなしく渡せ。他人に利用されることはないぞ。

[イェバン] よ、よくもメットを――! この!

[テイ] ……矢じりがないな。

[イェバン] (て、手で矢を掴み取った? この距離で!? クロスボウの弦を替えたばかりなのに――!)

[テイ] いいだろう。

[テイ] 無闇な殺生を避けようとする姿勢に免じて、チャンスをやろう。

[テイ] その酒杯を私に渡して、お前に依頼した人物に伝えなさい。行動を慎み、勝手な真似はよせと。

[イェバン] フンッ、背後にいる人物を知ってるの?

[テイ] 知っているかどうかは重要ではない。重要なのは、私はここでお前の行く手を阻むことができるということだ。

[イェバン] ……どうして言うことを聞かなきゃいけないの?

[テイ] お前に選ぶ権利がないからだ。

[テイ] お前一人なら逃げられるかもしれないが、この獣たちに不幸が起きることに耐えられるか?

[イェバン] 脅してるの?

[テイ] チャンスを与えると言った。お前の腕が立つのは認めるが、クロスボウをいじる以外に大した技はない。

[テイ] 戦いたいなら、いくらでも付き合おうじゃないか。お前も江湖を渡るものであれば目は利くはずだ。問おう、私はお前の上か、それとも下か。

[イェバン] ……確かに、あんたみたいな腕の立つ人物が邪魔に来るなんてあの人も言ってなかったよ。

[テイ] 身内以外の誰かに危険な仕事をさせようという時、私とて情報を全て与えることはしない。

[テイ] 異郷人、ただの仕事だ。どうして命を懸ける必要がある?

[テイ] 酒杯を渡しなさい。鏢局の名において保証しよう、その者が約束した額の二倍をやる。

[イェバン] ……ハッ、元々赤字の商売、慈善活動みたいなものだよ。

[イェバン] 友人の手伝いだとでも思ってくれていいよ。

[テイ] 友人か。

[テイ] お前のような盗賊も、友のためなら犠牲を厭わないのだな。

[イェバン] 私たちに何か文句ありそうだね。

[テイ] ……ない。

[テイ] 商売を長く続けていると、頭を下げる相手が多くなり、友情よりも優先するものも増える。友は減るものだ。

[イェバン] ならおとなしく商売に戻りなよ。

[テイ] そうだな、山の上での商売が最もやりやすいからな。

[テイ] この三山十七峰には数百の山道があり、どの道にも足を休める茶館や宿場がある。そしてどの道にも……うちの連中がいる。

[イェバン] ……

[テイ] これで彼我の力の差が分かったのであれば、素直に言う通りにしてほしいものだ。

[イェバン] 私のことをなめてるね。

[イェバン] 正面からはやり合わない主義だけど、ここまで挑発されたら……あんたたち。

[イェバン] (レム・ビリトン語)この老いぼれに、私たちの力を見せつけてやるよ! 今まで死に物狂いでやってきたのは、伊達や酔狂じゃないんだから!

[テイ] はぁ……

[テイ] あくまで考えを曲げぬか。

[テイ] ならば、恨むなよ――

たとえ第三者がその場にいたとしても、その者がいかにしてこの場に現れたのか分からなかっただろう。

その者は山路を行き、山を登るのが得意だったからだ。彼が日毎に重ねる歩数はあまりにも多かった。

乾いた音。道を舗装していた青煉瓦が砕ける音だ。間近に煙が立ち込める。視界の端の方に青みがかった竹の天秤棒が映った。

遠くで、また一つ銅鑼が鳴った。

[テイ] ……

[イェバン] ――な、なんなの……この人どこから……あっ、ライト、怖がらないで。ドリル! 早くこっちに……!

[テイ] ……お前か。

[山の担夫] ようやく山に登ってきたな。

[山の担夫] だから来てやった。

[テイ] ……はぁ。

[テイ] 来たるべきものはいずれ来る、隠れてもきりがないのだ。なのにお前はなぜそう事を急ぐ?

[山の担夫] おい、嬢ちゃん。

[イェバン] ……私?

[イェバン] (彼の動き――あの担いでる棒は天秤棒って名前だったかな? この人今何したの……足元のレンガが一瞬で砕け散った?)

[山の担夫] あんたこいつの知り合いか?

[イェバン] 違うよ。

[山の担夫] じゃあ二人の間に何か面倒事があるってことだな。

[テイ] 私たちの間にはお前が立っているだけだ。

[山の担夫] そうだな、なら俺こそあんたにとっての面倒事だ。

[テイ] 事が済めば、こっちからお前を訪ねる。だが今ではない。

[山の担夫] ……嬢ちゃん、あんたが手に持ってるそれと、関係あるのか?

[イェバン] ……あっ……そうだけど……

[テイ] お前とは私怨があるにすぎん。この件は大事なのだ、首を突っ込んでくるな!

[山の担夫] 大事って?

[テイ] 民の安全、兵卒の存亡に関わることだ!

[イェバン] ……!

[山の担夫] ……あの雨の夜以来、あんたがこんな語気を強めるのを聞いたことがない。

[山の担夫] そらそうだよな。あんたが悪人であるわけがない。義侠心に満ちた剣客で、本分をわきまえた番頭だろうさ。

[テイ] ならどけ――

[山の担夫] ――だがあんたはそんな人だからこそ、俺に会いに来なかったってのはわかっている。

[山の担夫] あんたが会いに来ないなら、俺があんたを訪ねても、何も結果は得られない。だから俺は山を下りなかった。

[山の担夫] ならもし……

[イェバン] ……あっ! ちょっと――!

[山の担夫] ……

[イェバン] 返して!

[山の担夫] ……

[山の担夫] ……

[山の担夫] ……十年だ。

[山の担夫] 十年前、あんたはこの酒杯を守るために……俺の息子が死ぬのをただ見ていた。

[テイ] ……シャン・ジョン!

[山の担夫] 嬢ちゃん、ここにあんたの出る幕はない。

[イェバン] 私の物を奪っておいて、出る幕はないだって!?

[山の担夫] これはそもそもあんたのもんでもない。

[イェバン] くそ……

[テイ] シャン、お前狂ったか!

[山の担夫] もうこの場に嬢ちゃんのやるこたぁねぇ。

[テイ] シャン!

[山の担夫] 早く消えろ。

[イェバン] ……チッ!

[イェバン] 覚えておくことだね……絶対に奪い返すから!

[山の担夫] ……テイ・チンユエ。あんたの刀は?

[テイ] 家だ。

[山の担夫] ほう。家か。

[山の担夫] あの雨の夜、荷物の護送中に合計十数人が犠牲になった。その中には一人の息子と、一人の父親がいた。

[山の担夫] 息子の姓はシャン、俺の息子だ。父親の方の姓はドゥで、ドゥ・ヤオイェの実の父だ。

[山の担夫] 事故のあと、あんたはヤオイェを養い子にとり、客桟なんて商売を始め、刀を持たなくなった。

[山の担夫] なんて馬鹿げた話だ。

[テイ] ……お前は今でも私を恨んでいるのだな。

[山の担夫] いいや恨まない。あんたが故意ではないのは知っているからな。責任はあっても、過ちはない。

[山の担夫] 「荷は命よりも重い」、だろ?

[山の担夫] だが荷はなくなり、命も失った。それなのにあんたを責めることすら許さねぇつもりか?

[山の担夫] あんたにはけじめをつけてもらう、でないと俺は生きていけん。

[テイ] ……いいだろう。その代わりに酒杯を渡せ。わかっているだろ、その酒杯が――

[山の担夫] わからんな。あの時あいつはこの酒杯のために死んだ。今日、俺はこの酒杯であいつを供養してやるんだ。

[山の担夫] 山頂で待っている。刀を取ってこい。

[クルース] ……シェンさん~!

[船頭] おや? あなた方がどうしてこちらに? 今から梁府へ迎えに行こうと思っていたところです。

[船頭] リーさんは?

[クルース] あの酒杯が盗まれて、リーさんからあなたを訪ねるようにって言われたんだぁ。

[クルース] リーさんから何か聞いてるぅ~?

[船頭] ……彼はリャン様ではなく、私を訪ねろと?

[船頭] あなたたちは梁府からやってきたでしょう?

[クルース] えーっとぉ……そうだよぉ。

[船頭] ……はぁ。リャン様の所へ向かわせなかったとは、つまり彼はすでに知っているということですか……

[船頭] これは確かに食わせ者、本当に怖い人だ。

[ズオ・ラウ] タイホーさん、戻られましたか。

[ズオ・ラウ] どうです?

[タイホー] 彼女の身分からすると、礼儀正しく、そしてしかるべき対応をされました。

[ズオ・ラウ] あちらが礼儀正しい姿を演じてくれたのであれば、まだ議論の余地があるということです。

[ズオ・ラウ] 彼女がどんな行為をして、どんな魂胆があろうと、我々は太傅(たいふ)の親書を持っているのですから、何もできませんよ。

[タイホー] 彼女は聡明な人物です。

[タイホー] 役人として訪問したからには、彼女は察知しているはずです。

[ズオ・ラウ] ……わかりました。

[タイホー] 司歳台と礼部は、双方ともに弓を引き絞っている状態であり、一触即発。

[タイホー] これ以上のいざこざを招く前に、事を解決するのみ。

[ズオ・ラウ] 我々の選択こそが炎国に生じる禍いを防ぐと、皆に信じさせるには必ずこの四文字の通りに、動かねばなりません。すなわち――

[ズオ・ラウ] ――光明磊落(こうみょうらいらく)。

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