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彼方を望む_あてのない旅
新人オペレーターのグレイは、他の二名と共に、彼にとって初めての外勤任務へと急行する。しかし艦船外の見知らぬ世界に向き合うために、彼にはまだ時間が必要だった。
p.m. 2:42 天気/曇天
レム・ビリトン辺境 天災警戒区域
[レオンハルト] シートベルトはちゃんと締めた?
[エアースカーペ] ちょっと待……
[レオンハルト] ちゃんと締めたね、行くよ!
[エアースカーペ] おい! もっとゆっくり走れって! 計器のことを忘れても、せめて後部座席にいる子のことを考えろよ!
[レオンハルト] わーお! このエンジン音最高だね! さすがは緊急任務用に支給されたマシンだよ……パワーに申し分なし!
[エアースカーペ] もし壊しでもしたら、一年分の給料がパーだ、気をつけろよ。エネルギー消費にもな。動かなければどんなマシンもポンコツだ。
[レオンハルト] 何言ってんの。今回は、最短二十時間でハリケーンが発生するって予測が出てる。もし天災が到達する前に撤退できなきゃ、俺たちは車もろとも土砂と活性源石の生き埋めになっちゃうんだよ?
[レオンハルト] それに貯蔵タンクがあるでしょ、しかも術師が二人もいるんだし、エネルギーの心配なんてする必要はない。そうは思わないかい? 後部座席の術師くん!
[グレイ] はい……でも、ぼくも運転免許を取っていれば良かったですよね……自分でバギーを運転して現地へ直行できれば、その方が断然速くて便利ですし。
[エアースカーペ] それはダメだ。
[グレイ] え?
[レオンハルト] そうだよ。君、こういった救援任務に参加するのは初めてでしょ?
[レオンハルト] 移動都市を離れて外勤に向かう場合は、必ず何かしらのトラブルが起こるものなんだよ。だから君を一人で行動させることはない……それにさ、ほら、旅は道連れっていうでしょ?
[レオンハルト] 「天災警戒区域内で行動する場合には、様々な突発的状況に備え、天災トランスポーターの同行を必要とする」ってあれだよ、あれ。
[レオンハルト] それに今回受信した救援信号はさ、レム・ビリトンの地方で使われる暗号方式なんだよ。ふぅ……何だか複雑な気分。
[グレイ] 故郷から発信された信号だから……ですか?
[レオンハルト] それは違うかな。
[レオンハルト] いや、そうかもしれない。レム・ビリトンか……うーん……なんて言えばいいんだろう――
[エアースカーペ] ボーっとするな! 前に溝があるぞ。
[グレイ] うわぁ!?
[レオンハルト] おっとごめんよ。時間がないんだ、みんなの乗り心地を気にしてる余裕なんてない。舌をかまないようにね!
[エアースカーペ] だったらアンタ、この任務を引き受けなければ良かっただろ。
[グレイ] ご、ごめんなさい! ぼくがわがままなばっかりに……
[エアースカーペ] いや……アンタを責めちゃいない。責めるんなら、あの時真っ先に飛び出して、自分がついていれば問題ないって言い出したどこかの天災トランスポーターだ。
[レオンハルト] なんだよ。俺が行かなくたってほかの人が行くだけじゃんか!
[レオンハルト] あ、段差を乗り越えるから、気を付けて!
[グレイ] うぐっ!
[エアースカーペ] っ!
[グレイ] ふぅ……えーと、ありがとうございます!
[レオンハルト] なんのなんの。しっかし、ロドスがこのあいだ増幅器を取り付けたその武器が、まさか手すりにもなるなんてね。
[エアースカーペ] 必要なら敵を縄で縛り上げて、ラッピングしてやることもできる。
[レオンハルト] マジ?
[エアースカーペ] 試してみるか?
[レオンハルト] やめとくよ。そいつ漏電するでしょ、そんなことしたら俺がツンツン頭になっちゃうよ。それよりどうやってそいつで枝豆の皮をむくか考えた方がいいよ、君の好物を人にお勧めできるようにさ。
[レオンハルト] さて……真面目な話に戻るよ。グレイくん、隣のシートに置いてあるその箱のメーターを見てもらえるかな。
[グレイ] はい! 針はまだグリーンゾーンにありますが、イエローゾーンにかなり近いです。数値は……えーっと、目盛りがたくさんあってどれを見ればいいのか……
[レオンハルト] あ、それは見なくてもいいよ、どうせもうここに入ったんだから。今はまだ天災雲が発生する様子はないみたいだね。前方の道の状況も悪くない、ただ……
[エアースカーペ] おいやめろ。この種の任務で不吉な予言は禁物だ。
[レオンハルト] ったく、天災トランスポーターをやってるんだから、不吉だの予言だのと言ったところで意味がないでしょ。
[レオンハルト] ――天災トランスポーター自体が何よりも不吉なんだからさ。
[グレイ] 何言ってるんですか!
[グレイ] あっ、ごめんなさい。でも、天災トランスポーターは危険を人々に知らせる良い人……じゃないんですか?
[エアースカーペ] 問題は人々に知らせる「だけ」という部分にある。
[エアースカーペ] 街は天災がもたらす被害に耐えられない。天災トランスポーターの警告を受けたらすぐ、その場を離れる準備をしなくてはならない。
[エアースカーペ] 天災が来るとなれば、移動都市に住む人々は、色々諦めなきゃいけなくなるんだ。娯楽や、場合によっては日常の生活をな。
[エアースカーペ] 避難ルートを計画し、娯楽施設や公共施設が使用するエネルギーを他に振り分け、都市の分割や連結を手配することに注力する……
[エアースカーペ] 彼らの穏やかな生活を乱すのは、「不吉」な天災トランスポーターによってもたらされる、たった一つの通告だ。
[エアースカーペ] 避難後、本当に天災が観測されれば、人々は助かったことを喜び、盛大に祝い始める。
[エアースカーペ] 彼らは祝いの喜びに浸って、大事なことを忘れる。一体誰が鉱石病感染の危険を冒してまで荒野を観測し、異常が発生した後、速やかに警告を発して難から逃れさせてくれたのかを。
[エアースカーペ] でも、これはまだマシな場合だ。もう一つの場合……
[エアースカーペ] 避難した後、数週、数ヶ月が過ぎ……
[エアースカーペ] それでも天災発生の兆候が見られないと、人々は彼らの平穏だった生活を乱した情報の発信者に対して白い目を向ける。
[エアースカーペ] その天災トランスポーターがついに正確に天災を予測できるようになるか、白眼視に耐えきれず他の街に移動するか、危機契約の危険な任務に身を投じるまでずっとな……
[レオンハルト] ねぇねぇエアース、そんなのは特殊なケースだよ。
[レオンハルト] レム・ビリトンの天災トランスポーターの待遇は、一般的に見ても悪くないよ。鉱石病に罹っても飯の種がなくならない人もいるし、せいぜい住めるところが少し制限される程度だよ。
[エアースカーペ] じゃあアンタが採掘船を出て、天災警戒圏内の街に避難勧告をしに訪れた時、誰か一人でもアンタと握手した奴はいたか?
[グレイ] ……
[レオンハルト] ……それは話が違うだろ。何の関わりもない人間といきなり握手する人なんてどこにいるのさ!
[エアースカーペ] レム・ビリトンでよかったな。アンタの体には結晶もない、それに採掘隊の天災トランスポーターは信用されやすいんだ。ほかの場所なら石を投げられてもおかしくないレベルだぞ。
[レオンハルト] (やっぱりこの話やめる?)
[グレイ] えーっと……大丈夫です。役に立ちそうなお話ですので、もう少し聞かせてください!
[エアースカーペ] あの時、炎国のどっかの都市に行って、運転手にでも転職した方がよかったんじゃないのか、レオンハルト。
[レオンハルト] ならエアースは運転手の護衛になるのかい? 護衛がついた運転手なんて、現金輸送車くらいしか思い浮かばないけど?
[グレイ] プッ……フフッ、でも現金輸送車の後部座席には別の乗客を乗せて……んー、えーっと、「だべる」スペースなんてありませんよ?
[レオンハルト] おっ? グレイくんもそんな言葉を知ってんだ!
[グレイ] はい! 超大型の移動都市には、小型車に客を乗せて運んで生計を立てている人がいて、中でも炎国の一部の都市の運転手は特にフレンドリーなんだそうです!
[グレイ] ロドスの先生たちが時々、授業の息抜きついでに外の大地の珍しい話をしてくれるんですよ。
[グレイ] でも……各地の感染者の生活などの細かい内容については、あまり話してくれないんです。
[グレイ] 授業を受けている多くの人が、実は感染者だから……きっと先生もぼくの両親と同じで、準備ができていない子に事実を直視させるのはまだ早いって思ってるんですよね……
[レオンハルト] 確かにみんながいる前で傷口をえぐるような真似はよくないよね。
[エアースカーペ] それだけじゃない。いわゆる「感染者の境遇」というものは、多くの場合、授業だけでは理解できやしないんだ。
[エアースカーペ] 経済的に余裕があって、医療機関で治療を受けられる子供たちは、恐らく感染者になる前は、感染者とは何かすら知ることがないだろう。
[エアースカーペ] せいぜい親に、隔離エリアの「悪い子」と一緒に遊んではいけないと注意されるくらいだ。
[エアースカーペ] 裕福な街で豊かな生活をしている批評家の中には、感染者の悲劇を描いた数少ないドラマの脚本に対して、作者は大げさだと言ってあざ笑う奴さえいる……フンッ。
[エアースカーペ] 観客たちは、愛する貧乏な非感染者のために貴族の令嬢が命を絶つ場面には涙を流すくせに、感染者が有り金はたいて変な薬を買わされて死ぬようなくだりはバカにする。
[レオンハルト] 彼らにとって感染者は、汚い環境の中に住んでいると噂の悪党と同じようなもんなんだよ。感染者の苦しみなんて妖怪の伝説くらいはるか遠くのもので、他人事だ。自業自得だと思ってさえいる……
[レオンハルト] ま、仕方ないって。人は自分が知ってることしか知らないんだよ。知らないことはこの大地に存在してないのと変わらないんだ。
[レオンハルト] ラテラーノ人の銃から発射されるのがアーツのエネルギービームではなく、源石製の弾丸であることを疑問に思う人がいるようにね……実はエネルギービームの方が模倣したものだってのに。
[グレイ] え? 知らない人がいるんですか?
[レオンハルト] ハハッ、それだ。知ってる人が知らない人を理解できないといういい例だよ。グレイくんは、自由すぎるラテラーノ人と彼らの銃を見たことがあるからそう思うんだ。
[レオンハルト] 銃を模倣したアーツユニットは、ただ単に「型」をまねただけで、出力効率を犠牲にする代わりに、アーツの照準と集束テクニックを簡素化してるんだ。術師なら見ただけですぐにわかるよ。
[レオンハルト] でもラテラーノ人の銃はね、おそらく逆なんだ。要求されるのは使用者の正確なコントロールであって、十分なエネルギー出力ではない……あ、これはあくまで俺の推測――
[エアースカーペ] ――というよりアンタがアーツで構造を探ったんだろ?
[レオンハルト] シーッ! もう、それを言っちゃダメだよ……
[グレイ] わかりますよ。術師ならみんな、お互いのアーツに興味があるものですからね。
[レオンハルト] ゴホンッ……やめた、この話はやめよう! 誰かさんが興味があるとか言って、他人の電気エネルギーアーツを根掘り葉掘り探ろうとするかもしれないからね。
[エアースカーペ] チッ。
[グレイ] フフッ。
車の外の荒れ果てた景色は、深い色味の窓ガラス越しに薄暗く濁って見えた。
時折、まばらな群れを成して移動する野獣が見える。人間より天災に敏感な野獣たちが、若いペッローの心にあるわずかな不安を今一度大きくしたのかもしれない。
[グレイ] うーん……でもぼくは、知らないことに対しての興味があるというだけではなくて……
[グレイ] ぼくはロドスのみなさんが何のために頑張っているのか……それについてもっと知りたいんです!
[グレイ] えっと、オペレーター向けのマニュアルや講義で、テキストや映像資料はたくさん見られますが、そうじゃなくて自分の目で見て、自分で体験してみたいんです!
[エアースカーペ] だから今回の任務に無理やり参加したのか?
[レオンハルト] ちょっと、言い方がストレートすぎるってば。
[グレイ] 平気です! おっしゃる通りですから。ぼく、救助隊に助けていただいてから、これまでずっとみなさんに過保護に扱われてると感じてきました。
[グレイ] いつも考えてるんです……船の外のことや故郷のこと、両親のこと……ぼくはいつだって……
[グレイ] ぼくもみなさんの力になりたいんです!
[レオンハルト] ん? グレイくんは医療費を控除してもらう代わりに艦船の電力設備をメンテナンスしてきたんじゃないの?
[グレイ] はい、そうです……でも……
[グレイ] ぼくはもっといろんなことをしたいんです! ぼくを船に置いてくれるロドスへの恩返しのためにも、お金を多く稼ぐためにも。稼いでおけば、両親を見つけたら、そしたら……
[グレイ] でも……でももしあの内戦が続くのなら……
[グレイ] ……
[レオンハルト] ……
[レオンハルト] (何か言ってあげてよ、元気が出そうな言葉とかさ……俺はこういうのが一番苦手なんだ。)
[エアースカーペ] 自分が良いと思ったことをやれば十分だ。
[エアースカーペ] 俺たちは聖人じゃないし、全能でもない。それはロドスも一緒だ。ロドスが必要としていることをアンタが全うした、その対価としてロドスが医療サービスを提供するのは当然のことだ。
[エアースカーペ] もちろん医者が命を救うのは高尚な仕事だ。だが彼らも物資の不足した状況下では病人を満足に治療できない。
[エアースカーペ] 彼ら自身が生きるための給料も、治療に必要な機器も、すべて金がかかる。
[エアースカーペ] 彼らが高尚なのは、他人の幸福のために自分たちの命や情熱を注ぎ込んでいるからだ。それに関してはアンタも同じだ。
[エアースカーペ] 重要なのは、アンタが何をしたかでも、その成果の大小でもなく、アンタが何のために頑張っているのかだと俺は思う。その信念自体に力があるんだ。
[エアースカーペ] その点でいえば、アンタは俺やこいつよりはよくやってるかもな。俺たちはただ、これまでに身につけた生き残る術の流用で生計を立ててるだけだ。それ以上の何かを考えてるわけじゃない。
[レオンハルト] なんで俺の代わりに勝手に断言してるんだよ!
[レオンハルト] まぁ確かにその通りだけどさ。天災トランスポーターって仕事は俺にとって、使命感にかられて就いた職業っていうより、自分に合った生き方なんだよね。
[レオンハルト] こんな生き方で、俺やエアースは見聞を広めることができるんだ。退屈と苦悩の中でも楽しみを見つけて、自由に喋ったり笑ったりできるしね。
[グレイ] えっ……ぼく、天災トランスポーターはみんな、他人のためになることがしたいっていう責任感の強い人ばっかりだと思ってました。だから天災に立ち向かっていけるんだと……
[レオンハルト] 天災に立ち向かうだって? そんなの勘弁してよ。
[レオンハルト] 俺はね、「天災が人々にもたらす危害と恐怖を取り除くことさえできれば、さらに酷い災いを招くことになっても構わない」って考えるような天災トランスポーターとは違うよ。
[グレイ] え? そんな過激な人がいるんですか……?
[レオンハルト] むしろそういう人にこそ「立ち向かう」って言葉が相応しいよね。俺たちなんて、ただ単に情報を得て伝えるだけのショボい連中さ。
[レオンハルト] さっきも言った通り、天災トランスポーターの役割は重要だけど、リスクも大きい。普通、関連知識や能力を持つ優秀な人は、実験室へ行くかどっかの機関に入ろうとするもんだよ。
[レオンハルト] そんで、残った命知らずだけがこの仕事をするんだよ。後ろに気前のいい雇い主がいるか、俺みたいにほかに選択肢がないか、信念が強すぎて天災に挑戦したいってイカれた願望を持っちゃった奴か。
[レオンハルト] そういうヤバい連中の中には、人類のために自らを犠牲にできるって考えてる聖人みたいな奴もいれば、そもそも天災に恨みを抱いている奴もいる。あとは単に挑戦心をかき立てられるって奴も……
[レオンハルト] なんにせよ、こういう天災トランスポーターは、自分や他人を犠牲にしてでも多くの命を救うことを選ぶ場合もあるし、もっと酷くなると天災の傷痕を消すために命を救うこと自体を放棄する。
[レオンハルト] でもそんなのは、君が言ってた「他人のために」っていうものとは違うでしょ?
[グレイ] ええ……でもロドスも似たような任務を受けますよね? さっきも話に出た、「危機契約」でしたっけ?
[レオンハルト] まぁね。でもそれはせいぜい、天災警戒区域内の小型移動都市で野盗紛いの真似をする傭兵団を叩き潰すってレベルかな。
[レオンハルト] ロドスは、天災そのものに立ち向かうために、命の救出を放棄するような任務は受けない。崇高なお題目を唱えて他人の選択に干渉するようなこともしないけど。相手がロドスの従業員であってもね。
[レオンハルト] 天災トランスポーターの敵は天災であって死ではない。でも職責の果たし方は色々あっていいから、俺は俺の好きな形でやってる。君も選べるんだ。自分の好きな形でオペレーターをやれば?
[エアースカーペ] もしくは逆に、自分がやりたいことをやるために、自分のいる立場で適切なチャンスを探すんだ。
[エアースカーペ] ロドスにとって、任務には優先順位があるだろう。他人にとって、成果には大小があるだろう。だが自分にとって、自身の価値を実現するための仕事に貴賤なんてものはない。
[グレイ] なるほど……そういう考え方もあるんですね……
[グレイ] ぼくが焦りすぎていたのでしょうか……
[エアースカーペ] アンタは行動するために責任を口実にして自分に無理強いしているだけだ。アンタだけじゃない、災いから生き延びた多くの人がそうする……天災トランスポーターにとってはよく目にするものだ。
[エアースカーペ] それ自体は悪いことじゃない。だが盲目的により多くの、より重い責任を背負ったところで、自分や他人がそれに見合う大きな救いを得られるわけではない。
[エアースカーペ] アンタにより良い生活を送ってもらうために働く奴もいるだろう。自分の目標を実現するために、そういった人を裏切るようなことをしてはいけない。
[グレイ] うーん……そう言われると何だか医療部のみなさんに申し訳ない気持ちになってきました……
[レオンハルト] 俺より本読まないのに、なんでそういう屁理屈は一丁前に並べられるの!
[エアースカーペ] あんな実用性に欠けるつまらん試作品ばかり特集してるクルビアの雑誌なんか読む必要ないだろ。それに屁理屈って、アンタがそれを言うか?
[レオンハルト] フン、わかってないな。俺のは経験談ってやつだよ。てか今何の話をしてたんだっけ? ああ、仕事についてだっけか?
[レオンハルト] そういえばエアースってさ、仕事は選ばないとか言ってるくせに、人を人とも扱わないレム・ビリトンのバカな成金の護衛にはなったことないよね?
[エアースカーペ] そうとも限らないぞ。もしアンタが新モデルのバギーを買うために借金しようってんなら、俺も考えるしかないな。
[レオンハルト] マジで!? 優しすぎでしょ、まさか俺のために――
[エアースカーペ] ちゃんと金を貯めてから欲しい物を買えって言ってるんだ!
[エアースカーペ] それと、人に金を借りるな!
[レオンハルト] わかったわかった。
[レオンハルト] ……ていうかさ、グレイくんって結構度胸あるよね。初めての外勤でこんな天災警戒区域の救援任務に出るなんて。
[グレイ] 今回の任務内容は、発電機の故障によって座礁した移動都市の問題を解決するというものでしたから。普段のような戦闘メインの任務だとみなさんの足を引っ張ってしまわないか心配ですし……
[グレイ] オペレーター試験は合格しましたが、実戦経験は全くありません。本物の「敵」はきっと訓練用の的とは違うでしょうし。もしそれが目の前に現れたら……
[グレイ] あ、でももうこんなふうに考えるべきじゃないですね。戦闘任務だろうと内勤任務だろうと、自分がしたいことを成し遂げるためのチャンスですから……
[グレイ] 電力設備のメンテナンスをしつつ、ぼくも頑張って鍛錬します! みなさんの足を引っ張らないように!
[レオンハルト] とは言え、艦船の電力設備のメンテナンスで十分忙しいでしょ? 医者も病人も戦闘任務に参加するオペレーターも、みんな電気なしでは何もできないよ。
[レオンハルト] いつだったか、ドクターの文書整理を手伝ってた時に、君は疲労で倒れたって? 驚いたドクターが慌てて医者を呼んで君を医務室に運び込んで、おまけに説教までくらっててさ……
[グレイ] あー……それは確かに申し訳ないことをしたと反省してます……
[グレイ] 新規オペレーターの電力使用に関する報告書で、審査が必要な部分の整理を手伝うってドクターと約束してたんです。でもその前の晩に変圧器が突然故障してしまって……
[エアースカーペ] ん? それは電気技師とかがやる仕事じゃないのか?
[グレイ] あっ、変圧器の復旧でしたらそうです。
[グレイ] でも源石ユニットの出力に問題がないかどうかは術師エンジニアの点検が必要で、それに加えて専門術師によるエネルギーの変換プロセスや、クールダウンに必要――
[エアースカーペ] (なんだ、この話になった途端目が輝き始めたぞ?)
[レオンハルト] (これこそまさにプロだね……)
[グレイ] ……のバスダクトも検査が必要なんです。いずれにしても結構複雑なんですが、もう全部覚えました!
[レオンハルト] ねぇ、っていうかクロージャさんが設計したその電力システムって大丈夫なの? それとも電力をめっちゃ消費しているあの人たちのせいだったりするのかな……?
[レオンハルト] ここにはさらに電気で自分をいじめるのが好きな奴もいるし。
[グレイ] ププッ……
[エアースカーペ] 実はこの車には「とてもとても聡明なクロージャお嬢様」が作ったドライブレコーダーが搭載されているんだ、録音機能付きのな。
[レオンハルト] ええっ? いやあクロージャお嬢様は本当に心が広いお方です! なので俺の器具やアーツユニットに変なことは絶対絶対しないでくださいね!
[エアースカーペ] 冗談だ。
[レオンハルト] ……ちょっと、いつからそんな酷い冗談を言うようになったのさ、イベリアの海風みたいに冷たいしドライだし。一体誰に影響されたのやら……
[エアースカーペ] 俺たちはいつイベリアに行って海風に当たったんだ?
[レオンハルト] 夢の中だよ。こないだなんか俺はアーツが使えなくなって、海風で喉が枯れちゃった夢を見たんだ。君はそこで変な剣術を学んで、円の軌道を描いて攻撃する技を出したりしてたよ。
[エアースカーペ] 実用的ではなさそうだな。
[レオンハルト] エアースは夢の中でも同じこと言ってたよ。本の通りに剣を振っても戦闘テクニックは上達しない。実戦の状況に合わせて変化させることでようやく剣術と言えるんだって。
[グレイ] いったい何と戦ってたんですか?
[レオンハルト] たしかローブを着た、なんだか変な人だったな……覚えてないや、夢だもん。
[レオンハルト] おっ、着いた。降りようか。
[グレイ] あれ? でも近くに街はありませんよ?
[レオンハルト] 目標座標まであと三キロくらいあるけど、ここからは車で行けるような場所じゃないから。グレイくん、ちょっと携帯端末をか……ああ、ありがと。
[レオンハルト] ふむふむ……
[レオンハルト] ちょっとお決まりの言い方だけど、良いニュースと悪いニュースがあるよ。
[レオンハルト] 良いニュースは、来る途中で収集と更新したデータによれば、撤退の準備を行うには、かなり時間にゆとりがあるってこと。
[エアースカーペ] 道理で途中から車のスピードが落ちたわけだ……だが、どうやって運転中にアーツを?
[レオンハルト] にらまないでよ、エアース。実はこのハンドルは職人が改造した、特別なアーツユニットなんだよね。俺だってアーツユニットなしにアーツを使ったりはしないよ。
[レオンハルト] 君たちも知ってると思うけど、エリア周辺データに基づいて出された予測は正確じゃない。だから天災トランスポーターが警戒区域の奥深くに行って、詳細なデータを得て修正する必要がある。
[レオンハルト] この付近の源石反応は、飽和状態にはほど遠い……少なくとも半月は撤退準備に費やせるね。
[レオンハルト] そんで悪いニュースは、今回の任務報告の内容を変える必要があるかもしれない……まだ断定できないけど。
[エアースカーペ] どっちだ?
[レオンハルト] まだよくわからない、両方の可能性もあるよ。
[グレイ] え? どういうことですか?
[レオンハルト] ん? 言ってなかったっけ?
[エアースカーペ] なんて伝えようかとしか言っていない。
[レオンハルト] そっか。
[レオンハルト] レム・ビリトンで起きることは、俺たちは採掘隊にいた時いっぱい経験してきたけど、グレイくんはこれが初めてかな?
[レオンハルト] まずこの救難信号は、本当に座礁した都市から発せられたものであるとは限らない……暴徒の罠である可能性もある。
[レオンハルト] 次に、もし本当の信号だとしても、それが混乱に乗じて略奪しようと企む連中を、引き寄せる可能性がある。
[レオンハルト] 一番おかしなのが、その両方がセットの場合だね。
[レオンハルト] 途中で収集したエコー図を見ると、目標地点の生命体の数と分布がどうも不自然に感じたよね。
[レオンハルト] 都市にしては、人数が少ないし集中し過ぎている。でも大量の源石製品と建築物は確かに感じられる。街の人々が誘拐とかに遭ってなければいいけど。
[レオンハルト] まあ……でも「錆鎚」とか面倒な奴らじゃなければ、俺たち三人で十分対応できるよ!
[レオンハルト] それにまだ距離がある。車載装備で増幅したとはいえ、俺のアーツでもまだ完璧とは言えない。もしかしたら住人が集まって発電機をどうやって修理するか会議してるだけかもしれないしね。
[レオンハルト] という感じで、向かう先は波乱に満ちている可能性もあるけど、どんな結果が待っていようと、今の君ならもう準備はできてるよね?
[グレイ] ……
[レオンハルト] ほらボーッとしない。今の状況だって君が理解したいと思ってる、家や船から遠く離れた後に直面しないといけない生活だよ。
[レオンハルト] もしかして今度は、この任務に必要なのが戦闘力じゃなくて知識だけだったらいいのに、とか思い始めちゃったのかな? まぁ、でも「オペレーター」にとっては、どっちも同じことなんだよ?
[レオンハルト] 君も故郷から追いやられる時、土地を滅茶苦茶にするバカな連中を見ただろう? ああいう悪党はそこら中にいる。けどそれでも、君が望むなら、誰かにしてあげられることもあるんだ。
[グレイ] ……わかりました!
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