aklib_story_また会えたね_夕焼け小焼け

ページ名:aklib_story_また会えたね_夕焼け小焼け

このページでは、ストーリー上のネタバレを扱っています。

各ストーリー情報を検索で探せるように作成したページなので、理解した上でご利用ください。

著作権者からの削除要請があった場合、このページは速やかに削除されます。

また会えたね_夕焼け小焼け

ペットが亡くなってしまったことで傷ついた女の子を慰めるため、シャオバイは女の子がペットと最後のお別れができるように、葬式を挙げることを決意した。


[シャオバイ] ミンミンお姉ちゃん、おはよー。

[医療オペレーター] あらシャオバイ、おはよう。今日は――

[呼び出し回線] 当直の医師は直ちに十一号病室に向かってください。患者さんに血中源石濃度の急上昇、及び肋間の体表源石結晶の急拡大が確認されており、激しい痛みを訴えています。おそらく急性発作です。

[医療オペレーター] そんな……! 救急薬品と設備の準備をしておいてください、すぐに行きます!

[シャオバイ] あの、何か私に手伝えることは――

[医療オペレーター] シャオバイ、話は戻ってきてからね!

[シャオバイ] あっ、う、うん。

[ロックロック] シャオバイ、おはよ。ちゃんと朝は食べた?

[シャオバイ] おはよー。起きてすぐ食堂行ってきたよ。

[支援オペレーター] ロックロックさん、今お時間はありますか? 事務所の汚水処理機が故障したみたいで……ちょっと見てもらえます?

[ロックロック] うん、わかった。ちょうど工具バッグも持ってきてるから、一緒に行こう。

[シャオバイ] お姉ちゃん、私も一緒に……

[ロックロック] じゃあまた午後にね、シャオバイ。

[シャオバイ] えっと……私もお手伝い……

[シャオバイ] できる……

[シャオバイ] うーん……みんなすごく忙しそう。

[スズラン] シャオバイちゃん、おはよう!

[シャオバイ] おはようスズランちゃん。出かけるの?

[スズラン] うん、ここ数日で亡くなっちゃった患者さんたちの遺品を供養しに行くんだ。死者の魂が慰められるようにって……

[シャオバイ] えっ……事務所じゃ……いつも亡くなる人がいるの?

[スズラン] それは……医療オペレーターさんが全力を尽くして救命措置をとっても、どうにもならないことだってあるから……

[シャオバイ] じゃあ、お葬式で何か手伝えることはある? 私もみんなのために何かしてあげたいの……

[スズラン] ……お葬式? そんな大層なのじゃなくて、もっとささやかな儀式だよ。

[スズラン] だから私一人でも大丈夫。心配しないで!

[スズラン] シャオバイちゃんはここに居てくれるだけでいいんだよ! みんなからは、シャオバイちゃんが来てから患者さんたちがたくさん笑うようになったって聞いてるよ。

[シャオバイ] あはは、ほんと?

[スズラン] うん。鉱石病の治療には時間が掛かるから、シャオバイちゃんが気晴らしに付き合ってくれてるってみんな喜んでるんだ。

[シャオバイ] それならよかった。私は他に何もできないから……

[スズラン] そんなことないよ! シャオバイちゃんは患者さんを変な目で見たり怖がったりしないし、すっごく助かってるんだよ!

[シャオバイ] ……それって普通のことじゃないの?

[スズラン] 私たちにとってはすごいことなんだよ。……あっ、いけない! もう時間だから私は行くね。

[シャオバイ] うん、いってらっしゃい!

[スズラン] じゃあまた夜に!

[シャオバイ] またね!

[シャオバイ] (口をとがらせる)うー、今日もまた役に立てそうにないや……

[シャオバイ] でも、お兄ちゃんもお兄ちゃんだよ……あの日一緒にユアンちゃんの烏雲獣を探そうって言ってたのに、私のことは先に帰らせちゃうし。

[シャオバイ] ……私がお手伝いしたいって言いだしたのに、結局お兄ちゃん任せだなんて……

[シャオバイ] 荒野にいた時だってそうだよ……何の力にもなれないどころか、お兄ちゃんに心配までかけちゃって……

[シャオバイ] 私には一体何ができるんだろう? いつまでもお兄ちゃんに頼りっぱなしじゃいけないのに……

[アグン] 何考えてるの、シャオバイ?

[シャオバイ] わっ! お兄ちゃん、いつ戻ってきたの? 烏雲獣については何かわかった?

[アグン] ……うん。だけど悪い報せだ。ユアンちゃんの烏雲獣はもう……亡くなってたんだよ。

[シャオバイ] そんな……ユアンちゃんには言ったの?

[アグン] うん、さっき病室へ行ってきたよ。

[シャオバイ] じゃあきっと今頃すっごく悲しんでる……どうしよう……

[アグン] そこで我らがシャオバイの出番ってわけさ。

[シャオバイ] 私? 私、何かしてあげられるの?

[アグン] ユアンちゃんは今、一人で悲しい思いをしてる……だからシャオバイに励ましてあげてほしいんだ。

[シャオバイ] ……そしたら、辛さも少しは紛れるかな?

[アグン] もちろん! これはシャオバイにしかできないことだよ。

[シャオバイ] 分かった! じゃあ行ってくるね!

[ユアン] ロクナナ……うう……

[シャオバイ] ユアンちゃん、シャオバイだよ! キャンディ持ってきたんだ!

[ユアン] あ……シャオバイちゃん……

[ユアン] ――う、うん……入って。

[シャオバイ] お邪魔しまーす! さて、キャンディは右と左どっちの手に入ってるでしょーか?

[ユアン] わ、わかんないよ……

[シャオバイ] いいからいいから、当てずっぽうでもいいよ。

[ユアン] じゃあ……右手?

[シャオバイ] あはっ、大正解! 右手に入ってたのは――じゃーん! あまーいイチゴキャンディだよ! 正解したご褒美に、左手のピーチキャンディも一緒にプレゼントしちゃうね!

[ユアン] くすっ。

[シャオバイ] ……ふふっ。

[ユアン] うん……

[シャオバイ] さっき、お兄ちゃんと話してたみたいだけど……

[シャオバイ] ユアンちゃん、その……大丈夫?

[ユアン] あたし……アグンお兄ちゃんにはすごく感謝してるよ。だけど、すぐには受け入れられなくて……

[シャオバイ] (ユアンの手を引き寄せる)

[シャオバイ] 私が一緒にいるからね。話したいことがあったらなんでも言って!

[ユアン] ……ありがとう。

[シャオバイ] (ユアンの指を優しく撫でる)

[ユアン] アグンお兄ちゃんがね……首輪を持ってきてくれたの。あたしがロクナナにつけてあげたやつだった。

[ユアン] でも……全体が血で汚れてたんだ。あたし、あの子に何があったのか考えるのも怖くて……きっと、すごく苦しかったと思う。

[シャオバイ] (ユアンの手を強く握る)

[ユアン] ふぅ……だけど心配しないで。ロックロックお姉ちゃんに、辛くても自分を責めないって約束したから。あたしは大丈夫。

[シャオバイ] うん。きっとユアンちゃんは、ロクナナにとって最高のご主人だったよ。

[シャオバイ] じゃあ……来週にはお姉ちゃんたちと一緒にロドス本艦に行くの?

[ユアン] うん、もう荷物もまとめてあるんだ。ロクナナがいなくなって、もうここに心残りはないから、離れるのもいいかなって……

[シャオバイ] ユアンちゃん……

[シャオバイ] だったら、ロクナナのためにお葬式してあげようよ!

[ユアン] ……お葬式?

[シャオバイ] そうそう。本艦に行く前に、ちゃんとお別れできるように、ロクナナのお葬式をあげるの。

[ユアン] 冗談やめてよ……お葬式なんて考えるだけで贅沢だよ……

[シャオバイ] どうしてお葬式が贅沢なの?

[ユアン] だってお葬式は、お金がある人だけができることなんだよ? 感染者が死んじゃった時だって、そんなことやらないし……

[シャオバイ] ……それなら、私がうんと贅沢させてあげる!

[ユアン] え……?

[シャオバイ] 大事な相手と最期のお別れができないなんてダメだよ! ロクナナのお葬式は私に任せて!

[シャオバイ] すみませんおじさん。「大往生葬儀社」ってここですか?

[葬儀社社員] おい受付、子供が迷い込んで来ているぞ。出口まで案内してさしあげろ!

[シャオバイ] 迷い込んできたわけじゃないよ! お葬式の準備をするためにここに来たの!

[葬儀社社員] ふむ……では葬儀用品を買いに来たのかね? それとも葬儀の依頼をしに来たのかね?

[シャオバイ] い、依頼をしに来ました!

[葬儀社社員] なるほど。君のご家族がお亡くなりになったのかな?

[シャオバイ] 私じゃなくて、友達のペットだよ。

[葬儀社社員] ……私をからかっているのかな? ペットのために葬儀だなんて、金が余ってしょうがない大金持ちのやることだよ。ははははっ!

[シャオバイ] 何がおかしいのっ!

[葬儀社社員] ははっ、いやいや、子供ってのは発想が豊かなもんだと思ってね。

[葬儀社社員] 実際問題、我が社は設立以来多くの葬儀を承ってきたが、お客様はみな金持ちばかりさ。中には市の中央墓地に埋葬される権利を持った大物だっていた程でね。

[シャオバイ] どういうこと? お金のない人はお葬式を挙げちゃダメなの?

[葬儀社社員] ダメとは言わないけどね……ここ龍門じゃ、家族や友人を亡くした方たちの多くは、葬儀を上げるお金がないから、我が社で花輪やろうそく、線香なんかを買って、広場で死者を弔うんだよ。

[葬儀社社員] そんな中ペット一匹のために葬儀を依頼するなんてのは、途方もなく贅沢なことなのさ。

[シャオバイ] つまり……お金がたくさんかかるってこと?

[シャオバイ] じゃあ無理だよ……私、お金そんなに持ってないから、依頼するのはあきらめる。でも道具くらいは買えるから、ペットのお葬式に使える物を教えて。

[葬儀社社員] うちにあるのはどれも人間用だからねぇ……お友達のペットってのはどんな動物かね? 使えそうな物をいくつか見繕ってみよう。

[シャオバイ] 烏雲獣だよ、これが写真。

[葬儀社社員] (ん? 何だか見覚えがあるな……むっ、これはユァン家のお嬢様の烏雲獣じゃないか?)

[葬儀社社員] お嬢ちゃん、君のお友達は何という名前かな?

[シャオバイ] ユアンちゃん。

[葬儀社社員] (やはり……! しかもお嬢様のことをユァンちゃんと親しげに呼ぶとは……もしやお嬢様のご友人か?)

[葬儀社社員] (そういえば数日前に、ユァン家から逃げた烏雲獣の葬儀に関する相談の電話がかかってきていたな。)

[葬儀社社員] (となるとまさかこの子は……ユァンお嬢様の代わりにここへ来たのか?)

[葬儀社社員] ゴホンッ。その……ユァンさんの烏雲獣は結局見つからなかったのですか?

[シャオバイ] うん……ユアンちゃんのお願いでみんな頑張って探したんだけど、結局見つかったのは血だらけの首輪だけで……もう死んじゃったんじゃないかってことになったの。

[葬儀社社員] (なるほど。ユァンお嬢様が多くの人を雇って龍門中を捜索しても見つからなかったのなら……その予想は的中しているのだろう。)

[葬儀社社員] では失礼ながらお嬢さん、ユァンさんの様子はいかがでしょうか?

[シャオバイ] ユアンちゃんは辛そうな顔を見せないけど、きっとすっごく悲しんでると思う……

[葬儀社社員] (ふむ、社長がユァン家のご機嫌取りに躍起になっている以上、私がいい加減な対応をするわけにはいかんな。)

[葬儀社社員] (それにしても、すぐに気付けないとはなんたる失態だ。ペットのために葬儀を挙げようなんて、普通の家の子供のはずがないだろうに……)

[葬儀社社員] ああ、なんと痛ましい……! お嬢さん、此度の葬儀は我々にすべてお任せください。ユァンさんには必ずやご満足いただける結果になることを約束いたします!

[シャオバイ] え? でもさっき、ペットのお葬式はすごく贅沢だって……

[葬儀社社員] いえ、先ほどの言葉はすべて忘れてください。ユァンさんのお心に寄り添い、同じように死を悼むことができるのならば、それ以上の光栄などございません。

[シャオバイ] えっと、それってつまり……?

[葬儀社社員] この度の葬儀費用は、弊社がすべて負担させていただきます。その代わりに、葬儀の後にはユァンさんから我が社の社長にお褒めのお言葉をいただけると助かるのですが……

[シャオバイ] うん、お葬式をちゃんとやってくれたら、きっとおじさんたちのことを褒めてくれると思うよ。

[葬儀社社員] それは光栄の至りです、はははっ。そうだ、遅くなりましたがお嬢さんのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?

[シャオバイ] 羅小白(ロ・シャオバイ)だよ。

[葬儀社社員] ロお嬢さん、ユァンさんはあなたのようなご友人に恵まれて、本当に幸せ者ですね。

[シャオバイ] えへへっ、大げさだよ。

[葬儀社社員] ではこちらにいらしてください。弊社の看板となるサービスをいくつかご紹介いたしますね。

[葬儀社社員] まず初めに、手間暇かけて作られた紙紮(しさつ)――ああ、難しい言い方で申し訳ありません。亡くなった方に届けたいものを紙細工で作り、それを燃やすことで故人に届けるといったものです。

[葬儀社社員] こちらはどれも尚蜀から招いた紙紮の老舗が丹精込めて作った物なのです。故人の人生を網羅できるよう、どのような年齢、性別、性格の方にもマッチするラインナップを取り揃えております。

[シャオバイ] わぁ……ゲーム機にコントローラーまである……烏雲獣に合うのもあるかな?

[葬儀社社員] 残念ながら出来合いのものはありませんが、特別にあつらえさせていただきます。お家やお椀、雲獣タワーに缶詰やジャーキーのセットまで、すべて紙細工でご用意いたしますよ。

[シャオバイ] ……そこまでしてくれるなんて……

[葬儀社社員] お安いご用です。次はこちらの花輪をご覧あれ。

[シャオバイ] すっごいカラフルだねー……目がチカチカしそう。

[葬儀社社員] ええ、この色使いこそがポイントなのです。色彩豊かな花材をふんだんに使用し、五行八卦の説に基づく緻密な配置で仕上げております。

[葬儀社社員] これを葬儀で飾れば、一族繁栄はもちろん、仕事も恋愛もすべて成就すること間違いなしです。葬儀用品としてはまたとない逸品ですよ。

[シャオバイ] うーん……でも烏雲獣はちっちゃいし、こんなに大きいのを飾らなくても……

[葬儀社社員] 式までにもっと小さいサイズの物をご用意いたします。哀悼のお言葉は、龍門の著名な書家であるジ・ジョウズ氏に書いていただきましょう。

[シャオバイ] わあ、色々良くしてくれてほんとにありがとう!

[葬儀社社員] もったいないお言葉です。そして最後に弊社イチオシのサービスをご紹介いたしましょう。こちらのサービスはお客様から満場一致でご好評をいただいており――

[喪服を着た社員の集団] ううっ……お父さん、さようなら……

[シャオバイ] うわっ!!

[シャオバイ] なっ、何あれ!

[葬儀社社員] おい、こんなとこでリハーサルなんかするんじゃない! お客様が驚くだろうが!

[シャオバイ] えっと、私は平気だよ……

[葬儀社社員] あれが弊社が誇る「泣き屋」です。葬儀の場でより悲痛なムードを演出し、参列者の皆様に没入感のある身内喪失体験を提供することで、そのムードにどっぷりと浸かっていただけるはずです。

[シャオバイ] へえ……でも、烏雲獣をお父さんって呼ぶのはさすがに……

[葬儀社社員] ご心配なく。その場合は――おい、お嬢さんに烏雲獣バージョンのやつを披露してやれ。

[喪服を着た社員の集団] (烏雲獣の耳の形のヘアバンドを付ける)

[喪服を着た社員の集団] ニャオオォォォーーーン、ニャオニャオニャアァァーーー!!!

[シャオバイ] 今日は……いい勉強になったなぁ。

[葬儀社社員] ロお嬢さん、住所はこちらで間違いありませんね?

[シャオバイ] うん、何回も確認したでしょ。

[葬儀社社員] ……ユァンさんは確かにここに住んでいるのですね?

[シャオバイ] だからここで間違いないってば。

[葬儀社社員] 承知いたしました。必要なものはすでに入口に運ばせてあります。改めて確認いたしますが、本当に弊社の法師に葬儀を取り持ってもらわなくてもいいのですか? みな経験豊富な高僧ですよ。

[シャオバイ] ありがとう。でももうお願いする人は決めてあるんだ。

[葬儀社社員] なるほど。差し支えなければお伺いしても……?

[シャオバイ] 私とユアンちゃんの友達だよ。「極東」ってとこの出身で、小さい頃から神社で育ってきたから、そういう儀式には詳しいんだって。

[葬儀社社員] ほう、ユァンさんにそんなご友人がいらっしゃったのですね。不勉強で申し訳ございません。

[葬儀社社員] (今の上流階級の葬儀では、外国から招いた和尚に依頼するのがトレンドなのか。我が社もこれからは、その方面のサービスを展開して奴らに取り入るべきかもしれない……)

[葬儀社社員] そういうことでしたら、私はこの辺で失礼いたしますね。他にも何かお手伝いできることがあれば、遠慮なくお申し付けください。

[シャオバイ] うん! どうもありがとう!

[シャオバイ] ユアンちゃん、部屋の外で何してるの? 入ってきていいよ。

[ユアン] シャオバイちゃん、あのおじさんは……?

[シャオバイ] 優しい葬儀社のおじさんだよ。元々は道具を売ってもらって自分で準備するつもりだったけど、ロクナナの写真を見せたら手伝うって言ってくれたの。

[ユアン] そうなんだ……たくさん道具が置いてあるけど、すっごく高かったでしょ。いっぱいお金使っちゃったんじゃないの?

[シャオバイ] ううん、おじさんが費用は全部葬儀社で負担するって。それに、ユアンちゃんが悲しんでないかってすごく心配してくれてたよ。

[ユアン] そんなことあるんだね……あたしたちみたいな人には誰も協力してくれないと思ってた。

[シャオバイ] それより見て見て! どう? たった一日で用意したとは思えないでしょ!?

[ユアン] わぁきれい、紙なのに本物そっくり! ロクナナが生きてた頃には……こんないい物使ってあげられなかったけど。

[ユアン] おじさんにお礼言いそびれちゃったな……怖がらずに入ってくれば良かった。

[ユアン] おじさんにも……それからシャオバイちゃんにも、すっごく感謝してる。こんな贅沢なことをロクナナにしてあげられるなんて思わなかったよ。

[シャオバイ] 私の方こそお礼を言わなきゃだよ。

[シャオバイ] ここに来てから、みんなすごく忙しそうにしてたけど、私は何もお手伝いできなかったの……

[シャオバイ] 私にはお兄ちゃんみたいな力もないし、病気も治せないし、機械の修理なんかもできないから、いつも患者さんが苦しんだり、悲しんだり……亡くなっちゃったりするのを、見てることしかできなかった。

[シャオバイ] だから、ユアンちゃんの力になれて、私とっても嬉しいの。私を信じて任せてくれてほんとにありがとう。

[ユアン] ううん、シャオバイちゃんが力になってくれて本当によかった。

[シャオバイ] えへへっ。よしっ、そろそろお葬式の準備を始めようよ!

[シャオバイ] あ、でもスズランちゃんがまだ帰ってきてないね。お葬式の進行をお願いしたいんだけどなぁ。

[ユアン] 普段通りなら、そろそろ一日分の儀式が終わって帰ってきてると思うけど……

[シャオバイ] じゃあ私が探しに行ってくるから、ここで待ってて!

[ユアン] シャオバイちゃんはすごいなぁ……

[ユアン] あたしもあんな風になりたいなぁ……いつもまっすぐで、勇気のある人に。

[葬儀社社員] なあなあ、俺がさっきまで誰の応対してたと思う? まぁ言っても信じないだろうな――ユァン家のお嬢様さ。

[シャオバイ] (あっ、あのおじさんまだ帰ってなかったんだ。)

[シャオバイ] (あいさつしに行こうかな……でも電話中だし忙しそうだなぁ。)

[シャオバイ] (うーん、電話が終わるまで待ってみようかな。)

[葬儀社社員] だーかーら、ユァンお嬢様だって! 前、社長に電話がかかってきてただろ。思い出したか?

[葬儀社社員] 先月に烏雲獣がいなくなっちまったから、もしこのまま見つからない場合はうちで葬儀を挙げてくれって話だったろ? そんで今日、ユァンお嬢様の友達がうちまで来てくれてな。

[シャオバイ] (おかしいなぁ。ユアンちゃんの烏雲獣がいなくなったのは一年前だよ?)

[葬儀社社員] しかしその友達が指定した住所ってのが少し妙でね。葬儀用品一式をロドスとかいう医療企業宛てに送ってくれと言うんだ。

[葬儀社社員] まあユァン家は化粧品の生産に長年携わってきてるから、薬用化粧品のビジネス展開のために色々動いてるってところだろうけどな。

[シャオバイ] (「ユアン」家……? ユアンは苗字じゃなくて名前だけど……それに、ここのオペレーターさんが化粧品を作ってるのなんて見たことないけどなぁ。)

[葬儀社社員] まあ細かいことはいい。ユァン家とのコネクションを作れるのは、会社にとっても、私にとっても良いことだからな。

[シャオバイ] (うーん……聞けば聞くほどユアンちゃんのことじゃない気がしてくる……)

[シャオバイ] (まさか何か誤解してるのかな?)

[シャオバイ] ……でも、よくわからないし、やっぱりスズランちゃんを探そう。

[シャオバイ] ここが感染者の人たちのお葬式をするところかぁ……今朝の公園と全然違うね。

[シャオバイ] この写真は亡くなった人たちかな?

[シャオバイ] ここに写ってる人たち、みんなまだすごく若い……

[シャオバイ] あれ……あの写真に写ってるの、ロクナナだよね?

[シャオバイ] 他の写真で隠れちゃっててよく見えないなぁ……

[シャオバイ] ちょっとだけ写真をずらして……

[シャオバイ] あれ、ロクナナを抱いてるこの男の人は誰だろ?

[シャオバイ] ……どうなってるの?

過一切苦厄、往往幸生、往往安生……

[シャオバイ] スズランちゃんの声だ! これって……お経?

[シャオバイ] スズランちゃん!

[スズラン] あれ、シャオバイちゃん。どうしてここに?

[シャオバイ] なかなか事務所に戻ってこないから、探しに来たの。

[スズラン] あっ、もうこんな時間になってたんだ……祈祷に夢中だったから、太陽が沈んだのにも気付かなかったよ。

[シャオバイ] ねえ、この写真に写ってる人たちって、みんな最近亡くなっちゃった患者さんなの? こんなにたくさんいるなんて……

[スズラン] ロドスの患者さん以外の方のものもあるからね。お墓もお葬式を挙げるお金もない感染者さんは、ご家族やご友人が亡くなった人の写真をここに置いて弔ってあげてるんだよ。

[シャオバイ] 写真だけ? 他には何もないの?

[スズラン] うん、それに写真があるだけまだ良い方なんだ……それすら残ってない人も多いからね。

[シャオバイ] そうなんだ……

[シャオバイ] スズランちゃん……さっきは亡くなっちゃった感染者さんたちのために、祈ってあげてたの?

[スズラン] うん。写真だけこんな風に残されてるのがいたたまれなくて。「万物には霊が宿り、死は命の終わりに非ず」っていう教えもあるし、皆さんが苦しみから解放されて、安楽を得られるようにってね。

[シャオバイ] 亡くなった人は、どう思ってるんだろう……

[スズラン] 分からない。けど、私にできるのはこれだけだから……

[シャオバイ] どうして感染者さんはこんな扱いなの? 鉱石病にかかると、生きるのが辛くなるだけじゃなくて、亡くなってもちゃんとしたお葬式をしてもらえないの?

[シャオバイ] よく分からないよ。

シャオバイは昨日訪れた公園を思い出した。きちんと手入れされた草地にはろうそくや花が並んでおり、多種多様な葬儀の参列者たちは、みな厳かな表情をたたえ、悲しみに沈んだ顔をしていた。

だがそれらすべては、この地で弔われている者たちとは一切無縁のものなのだ。

風化しつつある写真、錆びた金網、耳をつんざく喧噪、空気中に漂うむせ返るようなにおい。それらすべてがシャオバイにこう告げていた――

死せる感染者があの世に持っていけるのは、己の命のみであると。

[スズラン] ……シャオバイちゃん?

[シャオバイ] あのね……

[シャオバイ] 私、これとは全然違うお葬式のことを教えてもらったの。

[スズラン] それって……感染者さん以外のお葬式?

[シャオバイ] うん。とっても派手だった。

[スズラン] 誰のお葬式か聞いてもいい?

[シャオバイ] 人じゃなくて……ペットのお葬式だよ。

[スズラン] ペット!?

[葬儀社社員] つまり、君の友達はユァン家のお嬢様じゃないと!?

[シャオバイ] その人のことはよく知らないけど、私のお友達のユアンちゃんじゃないのは確かだよ。

[葬儀社社員] じゃあどうしてそれを早く言わんのだ! この嘘つきのガキめ!

[シャオバイ] 嘘なんてついてないよ! そっちが勝手に勘違いしたんでしょ!

[葬儀社社員] クソッ、ツイてないにも程がある。社長に知られたら死ぬほどどやされるぞ……

[葬儀社社員] おい、商品を運び出せ! ゴミまで一つ残らず回収しろ! どれも我が社の貴重な財産だからな!

[喪服を着た社員の集団] はっ!

[医療オペレーター] そこまで徹底的にやらなくても……

[葬儀社社員] これこそがプロの仕事だ! 貴様に何が分かる!

[葬儀社社員] クソッ、ほらさっさと行くぞ。まったくなんて厄日なんだ。

[シャオバイ] ねえミンミンお姉ちゃん、あのおじさん、あとで慰謝料を払えなんて言ってこないよね……?

[医療オペレーター] 大丈夫だよ。こういう忖度は表に出せないものだからね。あのおじさん、独断で会社のお金を使い込んじゃってそうだし、自分で穴埋めすることになるでしょうね。

[シャオバイ] そっか……悪いことしちゃったかな。

[医療オペレーター] 気にしなくていいよ。ああやって相手によってコロコロ態度を変えるような人は、一度痛い目に遭った方がいいんだから。それより、ユアンちゃんが例の広場で待ってるって言ってたよ。

[ユアン] シャオバイちゃん、来てくれたんだ! おじさんに意地悪されてないよね?

[シャオバイ] 大丈夫だよ。向こうが勝手にやらかしたことだし、もう帰っちゃったから。

[ユアン] よかった……もうあの人たちには関わらないようにしよう。

[シャオバイ] でも道具は全部持って行かれちゃったから、ロクナナのお葬式の約束は……ごめんね、ユアンちゃん……

[ユアン] ううん、いいの。あたしもあんなのいらないから。

[シャオバイ] だけど……すっごくきれいだったよ。

[ユアン] うん。きれいだったし、まさにお金持ちのお葬式って感じだったけど……ああいうのを見てると、なんだか辛くなっちゃうんだ……

[シャオバイ] どうして? 葬儀用品が気に入らなかったの?

[ロックロック] ユアンはね、お金持ちが見栄を張るためのお葬式じゃなくて、感染者の立場で心から死を悼んで、誇らしくいられるお葬式がいいって思ってるんだよ。

[ユアン] ……うん。

[ロックロック] 身分を偽らないと人としての尊厳を守れないなんて、すごく悲しいことだからね……

[ユアン] そう。だから……本当のことを教えてくれてありがとう。

[シャオバイ] お礼なんていいよ。結局私は最後まで何もできなかったから……

[ロックロック] (シャオバイの頭を撫でる)

[ロックロック] こらこら、そんなこと言わないの。

[ロックロック] 何かを成し遂げるってすっごく難しいんだよ。それに、成し遂げたことだけがその人のすべてを表すわけじゃないし、費やした時間や想いは無駄にはならないんだから。

[ロックロック] だからさ、あたしからもお礼を言わせて! シャオバイちゃんの優しさにはいつも救われてるよ。まぁ確かに……機械を直すお手伝いはできないけどさ。

[シャオバイ] ロックロックお姉ちゃん……一言余計だよ。

[スズラン] 私もすっごく感謝してるよ。シャオバイちゃんは鉱石病のことなんて全然気にせず、自然にみんなと接してくれるから嬉しいんだ。

[シャオバイ] でも……ぐすっ……

[ユアン] (シャオバイの顔の下に手を伸ばす)

[シャオバイ] ユ、ユアンちゃん……? なにしてるの……?

[ユアン] シャオバイちゃんの目からこぼれ落ちた宝石を受け止めてるの。もしかしたら高く売れるかも!

[シャオバイ] えっ……ええっ!? お、お兄ちゃんたすけて! みんな変なの!

[アグン] ははは、誰も間違ったことは言ってないだろ。

[シャオバイ] お兄ちゃん!

[スズラン] 「あらゆる物事は出会いから始まる」とパパは教えてくれました。

[スズラン] 「あらゆる物事は辛い別れで終わる」ママがそう続けました。

[スズラン] 「出会いと別れの間には何があるの?」私が思わず問いかけると……

[スズラン] 「たくさんの奇跡があるんだよ。」――二人はそう答えたのです。

[スズラン] ――私たちは今日、勇気を出して私たちの人生に飛び込んでくれた皆さんに感謝するため集まりました。皆さんは私たちの隙間だらけの心を、数々の奇跡で満たしてくださいました。

[スズラン] 皆さんがもたらした奇跡は、私たちの一生の宝物になります。それもみな――

[スズラン] 私たちがあなたに出会い……そして、あなたが私たちに出会ってくれたからこそです。

[ユアン] ありがとう。ロクナナ。

夕暮れ時の風に、慟哭と悲哀が入り混じる。それに呼応するように、太陽に晒された野草と、蒸気で錆びた欄干が悲しい曲を奏でていた。

烏雲獣の写った写真が女の子の手でぼろぼろの金網に掛けられた。その周りに掛けられていた色褪せた写真たちが、暮合いの風の中、ひそひそとざわめく。

人々は黙り込んだまま、闇夜の到来をただ待ち続けていた。

しかし夕日は未だ屈服せず、地平線にひとかけらの鮮やかな紅蓮を、暗い空に残し続けていた。

だがその静寂は、突如響いた声に破られた。

[???] シャオバイ!? アグン!?

[???] ……二人までどうしてここに!?

[シャオバイ] えっ……

[アグン] 見間違いじゃないよね……

[ユアン] ロクナナ!

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。

コメント

返信元返信をやめる

※ 悪質なユーザーの書き込みは制限します。

最新を表示する

NG表示方式

NGID一覧