aklib_story_ドッソレスホリデー_DH-9_龍威鼠心_戦闘後

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ドッソレスホリデー_DH-9_龍威鼠心_戦闘後

チェンたちは協力し合い、パンチョを打倒してみせた。……しかしその後のカンデラの対応は、皆の予想を超えるものだった。


[ホシグマ] んっ……あれを見てください。追われているのは、チェンたちですよね?

[カンデラ] おお、確かにチェン君とリン君だな。いやあ、あの二人は素晴らしい……まったく見事な活躍ぶりだ!

[ホシグマ] いやいや、とにかく早く助けに……

突然、大きな爆発音が鳴り響く。――それは、海岸のほど近くまでつけていたクルーズ船からのものだった。

[チェン] ……お前……一体何をしたんだ?

[ユーシャ] んー……ちょっとしたサプライズ、ってところかしら。

[ユーシャ] ほら、人質の救出後はどうするつもりか、あなたに聞いたでしょ?

[ユーシャ] さっさと立ち去ること自体には賛成したけど、あの時、まだ持ってきた爆弾が残ってるのを思い出したのよ。

[ユーシャ] だから、元の持ち主に返してあげることにしたの。

[チェン] …………

[ユーシャ] ところで、あなたも一杯どう?

[チェン] この状況でよく飲む気になれるな。……と、いうか……なんなんだそのシャンパンタワーは。

[ユーシャ] ああ、これ? ボートを拝借するときに見つけたから、なんとなく並べてみただけよ。

[チェン] はぁ……つまらん真似を。

[ユーシャ] 私もそう思うわ。

[チェン] ……

[ユーシャ] ……

[チェン] お前、あれはわざとやったのか?

[ユーシャ] 何のこと?

[チェン] 忘れたのか? 「あなたが彼らの後を継ぐとき、先人たちとまったく同じ道筋を辿っていくだけじゃダメなのよ」と、そう言っただろう。

[チェン] お前がこの言葉を口にしたとき、通信はまだ繋がったままだった。

[ユーシャ] ……

[チェン] リン・ユーシャ、正直に言ってくれ。あの件について、お前は、私の想像したようなことなど、実際してはいなかった。そうなんだろう?

[ユーシャ] ……岸に着いたわよ。

[ユーシャ] あなたの負けよ、おじさん。

[パンチョ] ……

[パンチョ] 小娘どもめ……カンデラのような女を助けるとは。お前らは自分が何をしでかしたのかをまるで理解していないようだな。

[カンデラ] ――やあ、パンチョ。今回は実によくやってくれたね。

[パンチョの部下] カンデラ、貴様ッ……!

[パンチョ] ……もう止せ。我々は負けたんだ。

[カンデラ] ははっ。賢明な判断だな、パンチョよ。

[カンデラ] ……さて。ここへ来て、椅子にかけたまえ。

[パンチョ] カンデラ……貴様、何のつもりだ?

[カンデラ] うん? 見てわからないか? 食事に誘ったつもりなんだが。

パンチョは冷たく鼻で笑ったが、しかしカンデラの真正面へと、腰を下ろした。

[カンデラ] ふふっ。ほかの連中なら肝を潰して縮み上がっているだろうにな。君の態度ときたら、まったく堂々としたものだ。私は、君のそういうところが気に入っているんだよ。

[パンチョ] 御託はいい。

[パンチョ] 私はすでに敗北した身だ。その私を捕らえるでもなく、食事に誘うなど……貴様は何がしたいんだ? 私を侮辱したいのか?

[カンデラ] 違うさ、パンチョ。少し話をしたいと思っただけだ。

[カンデラ] 君はエルネストを使って私の注意を逸らして、自分の部下を大会に参加させ、試合を通じて、都市の各地に人知れず爆弾を仕掛ける、なんて芸当を見せてくれた。

[カンデラ] その上最後は、第三ラウンド前夜に騒ぎを起こし……私がすぐには動けないよう、船上の富豪や権力者たちを捕らえるところまでやってのけたんだ。

[カンデラ] 今回の一件ほど、私がドッソレスを失う寸前まで追い詰められたことなど、ないと言っていいだろう。

[パンチョ] *ボリバルスラング*! ……まったく、信じられん……この計画のために、私と部下たちがどれほどの準備を重ねてきたことか。

[パンチョ] だというのに、それが……何も知らないよそ者二人を貴様が偶然招待し、そしてこの件を偶然任せたばっかりに……

[パンチョ] 私の計画が……打ち砕かれようとは……ッ!

[パンチョ] なぜだ……なぜ貴様のような人間が勝者になり得るんだ!?

[カンデラ] ……勝者? 私が?

[カンデラ] やれやれ、何を言うかと思えば。パンチョよ、どうやら君は私の都市に長く留まるあまり、私が誰であるのかを忘れてしまったようだな。

[カンデラ] あるいは君が私を理解したことなど、一度としてなかったのかもしれないが。

[カンデラ] いいか? ……君が戦っていたものは、決して私ではない。だから君は私に負けたわけではないんだ。

[カンデラ] 君は失敗した。それだけのことさ。

[カンデラ] 心底忌み嫌う都市で十数年を過ごした末に、君は三政府を憎みながらも、私を打倒するため、その一つから援助を受けることにしたのだろう。

[カンデラ] どれ、当ててみようか? きっとリターニアの誰かだろうな。……私にはその名前まで推測することができてしまうが、今の問題はそこではない。

[カンデラ] パンチョよ、教えてくれ。君は、どういうつもりだったんだ? 貪欲極まりないあの連中に、助けを求めるなんてな。

[パンチョ] ……

[カンデラ] ……ふむ。その沈黙から推察するに、君は屈辱をも耐え忍ぶことを学んでいたようだな。

[カンデラ] しかし、それならばなぜ、私に尾を振り媚びようとはしない?

[カンデラ] どうして、私が君に助力しないものと思い込んでいるんだ?

[カンデラ] 正直に言えばな、パンチョ。もしも君から頼まれたのなら、君の愛する戦争のために、私は人員と資金を与えていたかもしれない。

[カンデラ] さらには、君が勝利を収めた場合、この都市も大いに君を頼りにしていたことだろう。

[カンデラ] これ以上魅力的なプランはないように思うんだがね。

[パンチョ] だとしても、私は貴様に頭を垂れるような真似なんぞ一生しない。

[カンデラ] はぁ……君は、こうしたことに関しては呆れるほど頑固な男だな。

[カンデラ] 私に言わせれば、君のような奴は、「統一」だの「独立」だの、そういう言葉に対して、非現実的な期待を抱きすぎなんだよ。

[カンデラ] 何せ君たちときたら、仲間同士を結びつけるだけの「信念」の存在を盲信し、団結の象徴なんてものを追い求めてばかりいる。

[カンデラ] だがな、実際のところ、ボリバルは一度として独立を果たしたことなどないだろう。国家として存在していた歴史すらもないというのに、信念や象徴の元に団結するなど――到底無理な話だ。

[カンデラ] もし、君の計画が成功したとして、君の打ち立てるボリバルという国は、本当に君が想像した通りのボリバルになり得るのか? 私には、そうは思えないがな。

[パンチョ] ……貴様が何と言おうと、初めから私の望みはただ一つ。戦争の終結によって、ボリバルに平和をもたらすことだけだ。

[パンチョ] 確かに私は失敗した。今日のところは負けを認めよう、カンデラ。

[パンチョ] だが、よく覚えておけ。私の行いは正義ではないかもしれん。それでも、これは間違いなく、貴様の行いよりも正しいものだということをな!

[カンデラ] ……あぁ、すまない。またやってしまった。君の背後にいる連中と君自身のことを混同した話し方をしていたようだ。

[カンデラ] 君は、今私が述べたようなくだらん人間などではなく、心からこの国を救いたいと願った人だ。そうだからこそ、このテーブルに着くことができるのだしな。

[カンデラ] しかし、君の失敗に対する罰として、やはり私は君のことをあの連中の代表と見なすことにしよう。その方が何かと楽だ。

[カンデラ] さて、話を戻そうか。親愛なるパンチョよ、君は何か勘違いしているようだが、私はこれまで自分に正義を見たことなど一度もない。

[カンデラ] そもそも私は、三政府の思惑にも、君たちのボリバルにも興味はないんだ。

[カンデラ] さらに言ってしまえば、実はこの都市自体への関心もさほど強くはない。だから、私がドッソレスに執心しているという認識もまた間違っている。

[カンデラ] では、何になら関心があるのかと問われれば、それはこの都市の存在意義だ、と答えることになるだろう。

[パンチョ] 存在意義、だと? ……貴様、一生を娯楽に費やすことにしか興味がないとでも言うつもりか?

[カンデラ] まったく、この石頭め。君が金銭の持つ意味というものを理解する日は、永遠に来そうもないな。

[カンデラ] まあ、いい。君とはまた後ほど話すことにしよう。守衛たち、このじいさんを連れて行ってくれ。

[カンデラ] ああ、それと。まだ抵抗している連中がいる場合、対処方法は……わかっているな?

[衛兵] はい、カンデラさん。

[ユーシャ] ……

[チェン] ……

[ホシグマ] 凄まじい光景でしたね。鴻門の会に勝るとも劣らない。

[ホシグマ] そばで見ているだけでも、ぞっとするものがありましたよ。

[スワイヤー] 本当。思わず、お父様とお祖父様が食卓を囲んでる時のことを思い出しちゃったわ。毎度のことだけど、アタシにはどうしても耐えきれない空気なのよね。

[チェン] ああ……確かに、私もそう思っ……――ん?

[チェン] ホシグマ!?

[ユーシャ] スワイヤー!?

[ホシグマ] やあどうも、こんばんは。

[スワイヤー] あら、やっと気付いたのね。二人ともずぶ濡れのまま突っ立ってないで、さっさと拭いたら?

[チェン] お前たち、どうしてここに……!?

[ホシグマ] あははっ。その辺りのことは話すと長くなりますから、後ほど食事の時にでもゆっくりお聞かせしますよ。

[スワイヤー] はぁ、こんなの見ちゃったお陰で、食欲なんてないんだけど……

[カンデラ] さて、チェン君、リン君。実に申し訳ない。パンチョとの話にかまけて、最大の功労者たちを放っておいてしまったな。

[カンデラ] ――そこの君。すぐにドローンを手配してくれ。ああ、それから照明もだ!

[カンデラ] これでよし、と。……いやはや、君たち二人は本当にいい仕事をしてくれた。まったくもってお見事だったよ。

[カンデラ] ウェイ氏は、実に素晴らしい若者たちを寄越してくれたものだ。おかげで私は君たちと面識を得ることができたし――

[カンデラ] ――この大会にも、これ以上ないクライマックスが提供されたのだからね。

[チェン] ……「大会」? に、「クライマックスを」……?

[カンデラ] ああ、そうだとも。今頃、大勢の観客がテレビの画面を通して、私たちを見ているはずだ。

[カンデラ] さすがに、船内での出来事までは撮影しきれなかったが……チェン君が甲板の上でパンチョと対峙したあの一幕は、きっと人々の心に深く刻まれたことだろう。

[カンデラ] テレビの前の彼らは今頃、君たちへ熱い拍手と歓声を送っているに違いない。

[チェン] ……あなたは以前、こう仰いましたね。「私がいるからには、ドッソレスを脅かすことなど誰にもできはしない」と。

[カンデラ] 確かに、言った覚えがあるが、その発言に何か問題でも?

[チェン] 今しがた目の前で起きた出来事も、大した脅威ではないと仰るのですか?

[カンデラ] ハハハッ。チェン君、君もまだまだ若造だな。

[カンデラ] ――そもそも、「脅威」とは何だと思う? ドッソレスを更地に変えうる可能性のことか? それとも、この都市の全員を死に至らしめる可能性のことか?

[カンデラ] ……いいや、違う。そうではないのだよ、チェン君。

[カンデラ] 本当の「脅威」とは、人々がすべての欲望を捨て、快楽を追求しなくなった状態のことを言うんだ。

[カンデラ] しかし――君は長年警察官として勤めてきたそうだから、そんな状態があり得るものかを想像するのは容易だろう?

[チェン] ……

[カンデラ] ……何も言わずとも、その表情が君の答えを物語っているな。

[カンデラ] そう。君も知っての通り……それはあり得ないことなのだよ。

[カンデラ] そして、その事実が揺るぎないものである限り、この都市は、永遠に存在し続ける。たとえドッソレスが滅びたとしても、トレッソレスを築くまでのことだ。

[カンデラ] 私には何度でも、この都市を創り出すことができるのだからね。

[チェン] ……

[カンデラ] ――だが。だからといって、君たちがこのドッソレスの英雄であるという事実に変わりはない。

[カンデラ] ……っと、いかんいかん。忘れるところだった。

[カンデラ] 衛兵、パーティーの準備は整ったか?

[衛兵] はい、大部分は完了いたしました。

[カンデラ] よろしい。ならばマイクを……うむ、これだな。

[カンデラ] ごほん。……ご機嫌よう、親愛なる市民の皆さん、そして観光客の皆さん。テレビの前の人々にも、まだビーチにいる人々にも、改めてご紹介させていただこう。

[カンデラ] ――ドッソレスウォーリアーチャンピオン、今大会の栄えある優勝者にして、この都市を救った英雄たち……

[カンデラ] 龍門からやってきた二人の女傑――チェン・フェイゼ! そして、リン・ユーシャだ!

[カンデラ] さらに、自らパフォーマンスを行ってくれた、もう一人の功労者であるパンチョにも……この場を借りて多大なる感謝を献げよう!

[カンデラ] ……さて、それでは最後にもう一点。これより、大会の大成功を祝して……このビーチでのパーティーを開催する! 皆、外へ繰り出し大いに楽しんでくれたまえ!

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