aklib_story_統合戦略4_探索者記録1

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統合戦略4 探索者記録1

山登りの途中、彼女は果てしない雲間に、足を休められそうな場所を見つけた。そこは山々の頂ではなく、尾根に広がる雪原の端だ。

歩んできた道を振り返れば、雪上には深かったり浅かったりする足跡が刻まれており、その一歩一歩が鮮明に思い出された。それは運命を繋ぐロープのようなもので、歩みを止めた時、つまずいた時、そして立ち上がった時、それぞれに結び目が生まれ、どんどん解きにくくなっていくのだ。

マゼランには、本当の「最初の一歩」すらありありと思い浮かべることができる。

それは平凡な午後のことだった。その時、母は膝の上に分厚い電話帳を開いたまま、少しかすれた親しみやすい声で、電話の向こうの相手へ商品の売り込みをしていた。

消音モードにされている遠いテレビの中では、灰色でふわふわの陸羽獣が黒く短い羽で画面を叩いており、なんだか呼ばれたように感じた幼い日のマゼランはゆっくりと足を上げて下ろし、そしてもう一本の足を上げた。

マゼランはそれを繰り返す中で、母が繋がったばかりの電話と電話帳を床に放り捨て、草むしり中の父を呼ぶ声を聞いた。母はそのまま祖母や近所の人々や、通りかかったトランスポーターにまで声をかけ、皆にこの歴史的瞬間を――我が子の初めてのハイハイを見てもらおうとしていた。

実際、それは一見の価値ある特別な光景だったと言えるだろう。というのも、マゼランはテレビに向かってハイハイで後ずさりして近付いていたのだ。そうして彼女は目的地にたどり着くと振り返り、画面の中の羽獣に触れようと手を伸ばした。

こんな変わった「最初の一歩」を踏み出したのは、実に彼女らしいことだった。何しろマゼランは、目的地に到達するためならあらゆる手段を試す探検家なのだ。

そして今、そんな過去のことを思い出しながら、彼女は探検用のソリにしがみついて、山頂から尾根の雪原へと滑り降りていた。

バサッ――

彼女の身体に、乳飲み子の時くるまっていた分厚い布団の如く白雪が被さってくる。

マゼランが我に返るまで、というよりは赤子の頃の夢から覚めるまでにはしばらくの時間がかかった。

目の前と頭上を覆っている雪は分厚く重く、少しずつ後退して抜け出すよりほかになかった。そうしてしばらく頑張ったのち、ようやく雪の中から脱出した彼女は、ゆっくりと立ち上がる。

過去と共に雪を振るい落とすと、星屑のような雪の結晶が大地に広がる白い銀河へと帰って行く。サーミとの初めての出会いは、探索協会での研修中に聞いた言葉を思い出させた。

「サーミにとって、人類は皆等しく子供であり……」

「そしてサーミは、誰かに見つけてもらうその時を待っているんだ。」


マゼランは数日の間、蔓のように広がる川岸を、運命に沿って選択を繰り返すようにして歩いていた。

このまま歩いて下流まで行ってみるのはどうだろう?もしかすると、暖かな砂漠までたどり着けるかもしれない。あるいは、もっと寒い所へ着くだけかもしれないが。

むしろ水の流れと逆方向、上流へ行ってみるのはどうだろう?あるいは、次に突き当たった支流に沿って歩いてみるのは?かつて彼女がサーミ周辺を歩き回っていた時に、今見えているものが何かを理解できなかったのと同じように、この選択がもたらす結果はわからない。サーミの川、サーミの枝葉、指に巻き付けたサーミの藤ヅルに至るまで……すべての選択に行きついた理由を見つけるには、どのような道をたどればいいのだろうか?

かつて平凡な木の葉ひとひらが自らの心を満たしてくれたことを知っているのはマゼランだけだ。

その時、生い茂る枝葉の合間から差し込む日の光の中で彼女は息を止め、葉脈に沿って何度も視線を動かした。すると、葉の表面に生えた綿毛や気孔、葉の上を歩くアリの姿が良く見えた。

当時の幼いマゼランは、時間がとてもゆっくりと過ぎていくように感じた。枝分かれした葉脈やアリが歩いてきた跡のような、目に見えるものと見えないものが、彼女を森の中へと留め置いたのだ。その後、誰かの呼ぶ声が聞こえて、彼女の永遠にすら思われた観察はようやく中断した。

それは引率の先生と同級生たちの声だ。彼らはとっくに目的地である川辺に到着していたようで、マゼランがいつの間にはぐれていたのかも知らず、今やだらだらと帰路についているところだった。そしてそれどころか、同級生の中には、彼女と一緒に川のせせらぎへ手を入れて、その水がどの支流に流れ込むかをあてっこして遊んだなどと言うものもいた。

……川のせせらぎへ、手を?どの支流に流れ込むかを当てていた?マゼランには、そんなことをした覚えはなかった。だが確かに、森のどこかにはそんなような川があったような気がした。ともあれ、あの平凡な木の葉を前に、彼女は初めて自らが探求者であることを自覚したのである。

となれば、沼地を抜けるように流れているこの川を前に、今度はどのような選択をすればいいのだろう?

マゼランはドローンを飛ばし、冷却モジュールを起動して水の流れを止めてみた。そうして川が氷河になった時、彼女は氷に足を乗せ、ゆっくりと向こう岸へと歩き始めた。

氷と砂利、苔と泥とが目に入る。……対岸についたらどこへ向かおう?

ふと、彼女は身をかがめ、木の葉を拾い上げて――

その葉脈に、サーミの答えを見たように思った。


探索者は最初の一歩を踏み出した時、足の裏から伝わってくる大地の息吹を感じた。記憶の中の大地の声は、これほど大きく激しいものだっただろうか?彼女は、何とか二歩目を踏み出してようやく、この場のすべてが自分の知るものよりもずっしりと重いことに気付いた。

そこで彼女は重要性の低い機材から一つずつ装備を外していき、最終的に身に着けるのは映像記録用のモジュールと生命維持装置だけに絞らねばならなくなった。この地に着いたばかりの彼女からすれば、まずは環境になれることが先決なのだ。

彼女はすぐに、足元が滑りやすくなっていることに気付いて、注意深く歩みを進め始めた。ここで転んだら大変なことになるだろう。何しろ、見渡す限りの大地はとても滑らかな氷でできており、果てがあるかもわからないような状態だったのだ。仮に滑り出し止まらなくなれば、もはや永遠の眠りにつくまでそのままになってしまうかもしれない。

このような荒涼とした土地を訪れるのは初めてではなかった。

マゼランは以前、サーミの慈悲深き教えを頼りに、己の足で雪と森との間を抜け、あの寒々とした果てなき氷原へと果敢に足を踏み入れたことがある。その旅の中で、幼少期聞いた寝物語や、少女時代に流行った科学読本に書かれているような物事には山ほど遭遇していた。

そしてその瞬間、果てなき氷原に、彼女の潜在意識の中に、長きにわたり存在していた巨大な存在は、確かに彼女の足元にあった。

彼女は山々が落とす影を目にし、星々とオーロラが落とす影を見た。そしてまた別の、巨大な輪をも見た。それはその反射の中に無限を作り出していた。サーミがあらかじめ示した影の中を、彼女は前へ前へと進み、虚空から覗く者へと足音で応じ、抗えない引力に応えた。

今思えば、かつて彼女が終着点だと思っていたその場所は、出発地点に過ぎなかったのだ。

探索者があの視線を逃れられたのは幸いだったが、彼女はまさかまたそれと巡り合うことになろうとは思ってもいなかった。けれども、すべては自然に起こった。重く滑りやすい氷の先に、彼女は再び影を見たのだ。それと目を合わせた瞬間、彼女はアリの行進を、葉脈の成長を、体内の血の流れを、そして目には見えない運命の糸が彼女を異界の旧友に向けて引き寄せていく様を、見たような気がした。

「これがお前の選択であり、お前がもたらした結果だ。」

実際に声が聞こえてきたわけではなかったが、彼女にはサーミがかつて伝えてきた答えが聞こえていた。

サーミよ、あなたはすでに影の中にいて、このすべてを知っていたのか?

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