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統合戦略3 追憶映写4
はっと目覚めた少女は、たった今夢で見た星の光をはっきりと覚えていた。
司教である祖父に付き従い、各地を旅しながらの修行を開始して、どれくらい経っただろう? 少女はそういう時間の流れを意識することが苦手だった。なぜなら彼女の人生はまるで、星の光によって分断されたようなものだったからだ。その光を見る前とその後の、たった二つの時間に。
彼女は自分が十分明瞭な意識を持っており、真剣で、粘り強い人間だと考えていた。もしも命の価値や、自分の考えを証明できる手段があるとすれば、それはその価値や考えに実際に手で触れ、抱きしめてやることだ。
祖父はかつてこう言っていた。「すべての人が等しく荊の道を歩むべき、というのは誤りだ。その道を行くことが資格となるわけでもない。元より人の可能性は無限大で、いかなる手段を用いようともそれは道具の一種に過ぎない。そして信仰の対象となるべきは手段ではなく、その目的の方なのだ」と。祖父は煩わしさも厭わずに、彼女が本当に望むのは何か、どんな姿になりたいか見極めるのを、常に励ましてくれた。しかし、もっとも分かりやすい「答え」を与えることは、ずっと拒んでいた。
だが彼女は、自分の道などはとっくに見つけていると思っていた。そして今、彼女の目前にある箱の中には、祖父が旧友と交わした誓約が静かに横たわっている。これは千載一遇のチャンスだと言えよう。祖父はもう二日も戻っていない。きっと何かトラブルに遭遇したのだろう。あと一日経って戻らなければ、祖父が予め用意しておいた奥の手が、この隠れ家を完全に破壊しつくしてしまう。そしてここに残された彼が心血を注いだ努力の結晶も……
しかし、そんなことはもうどうでもいい。彼女の呼吸は荒くなり、心臓はどくどくと脈打っている。それは彼女がずっと求めても手に入らなかった救済なのだから。箱に手を伸ばして、海からの誓約を呑み干すだけで、止まったままのあの日に戻り、海面に映る星の光で再び自分を作り直すことができる。
その星の光が眩しすぎるのなら、目から光を奪ってしまえばいい。
はっと目覚めた少女は、たった今夢で見た星の光をはっきりと覚えていた。
彼女は自分の手のひらに目を向けた。片方の手の中にあるものに、それからもう片方にも、いやひょっとするとまだ他にも……その時ようやく気付いた。両の手が一つまた一つと掬い上げているのは、星の光だったのだ。まさかそんな? あんなにも遠くに感じていた星の光が、今やこんなに簡単に自分の手で掴み取れるなんて?
驚きと喜びのあまり、彼女は思わず手足を伸ばし、くるくると踊り始めていた。星々も彼女の喜びを理解したかのように、彼女を中心としてくるり、くるりと舞い踊り始めた。たとえ音楽がそこになくても……
音楽がない? いやそんなはずはない。触手はリズムで、星の光はメロディーだ。では、なぜ演奏が聴こえないのだろう? 楽器がないからだろうか?
どうしてこんなに暗いのだろう? 星の光はどこにあるのだろう? なぜ星の光は私を照らしてくれないのだろう? どうしてこんなに冷たいのだろう?
乾いてるからだろうか? 触手が乾いてるから温度を感じないのかもしれない。喉が渇いているから声が出せないのだろうか。だったら顔を上げて雨を呼び、それで喉を潤せばいい。周囲の喧噪がすべて呑み込まれれば、最後の歌を高らかに歌い上げることができると、彼女はそう考えた。
すると彼女の身体から温かな音符がぽろぽろと抜け落ち、きらきらと輝く半透明の旋律となって、色とりどりの泡に包まれていった。それを見て彼女はこう思った。
「私はもうすぐ星の光に生まれ変わるんだ。」
はっと目覚めた少女は、たった今夢で見た星の光をはっきりと覚えていた。
甲板で眠りこけてしまい、冷たい夜風に顔を撫でられて目が覚めたにも関わらず、ハイモアの身体は少しも寒さを感じていなかった。実のところ、そもそも彼女は眠ってすらおらず、ただしばらくの間意識を弛緩させていただけなのかもしれない。何しろもう長い間、肉体の疲労による眠気がなくなっていたのだ。シーボーンの血肉は彼女を強靭に作り変えると同時に、睡眠欲をも大きく削減していたのだった。しかし人間の心の方は肉体と違って、余分に与えられた時間にすぐさま慣れることはできなかった。
ひょっとしたらさっきの朦朧とした意識の中で見た星の光は、意識の水面下から生まれたものではなく、実際に今頭上に広がっている空の景色だったのかもしれない。
そう。彼女はもう何度もその星の光を夢に見てきたが、最後に本当に星空を仰ぎ見たのは一体いつだったか、もう覚えていなかった。記憶を辿ろうとしても、微かに思い出せるのは、決して晴れることのないような暗雲がイベリアの空を覆っている光景だけだ。
ハイモアはふと、幼い頃両親から聞いた物語を思い出した。かつてイベリアは星を読むことで方位を割り出し、海上航行を実現しようと試みたが、結局星の並びの謎を解くことはできず、途方に暮れていたらしい。星の光には現実的な規則性などはないのか、あるいはやはり神秘学者の言うとおり、それらは地上で起こる事柄の予兆を投影したものなのだろうか。その後、一部のエーギルがその技術を陸まで持ち寄り、イベリアと協力して海岸線に次々と灯台を建てたことで、それらと船との信号のやり取りによって、イベリアは星の並びにじっと目を凝らすことから解放され、人を惑わせる海を征服したのだった。
「なんてことでしょう。結局私も、あの憎らしい故郷と何も変わりやしない……読み解けもしない星の並びに取り憑かれて、海の腕に抱かれて迷子になり、それから……」
ハイモアは何かに思い至ったように、ゆっくりと身を起こした。
灯台は惑う船のために帰り道を指し示す。しかしまさにそのためだろうか、光は恐魚をも引き寄せ、波がやって来た時には真っ先に破壊されてしまう。
しかし彼女は、自分の新たな故郷までもがそんな目に遭うことを決して許しはしない。
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