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統合戦略3 追憶映写7
スカジは海面に浮上した。
彼女の後ろから、生まれたばかりのシーボーンたちが何匹か追いかけてきている。
それらはスカジの子孫ではなかったが、海底にて繁殖行動に勤しむ先代に代わって面倒を見る責任者が必要であり、
大群の一員としてスカジがその役割を買って出たのだ。
かつて、スカジとその同族だった者たちは、海底にそびえ立つ鋼鉄製の巨大建造物の中で暮らしていた。
しかし、彼女たち――エーギルの集団は、シーボーンと接触した後、最終的に大群の一員となる道を選んだ。
それからというもの、彼女たちの姿形には目立った変化こそないが、その肉体には進化の痕跡が刻まれ続けている。
今日に至るまで、ずっと。
......
スカジは手ごろな岩礁を見つけると、それによじ登り、海岸との境界線上に腰を下ろした。
幼いシーボーンたちは海水の外に出ることを少し怖がっているようだった。まだ幼い彼らにとって、乾燥は不快感を引き起こす要因であるためだ。しかし、彼らは何度か試行錯誤を繰り返した後に、よじ登った岩壁に吸い付き、視覚器官で海面の外に広がるすべてを好奇心たっぷりに感じることを選んだ。
スカジはバッグの中からハープを取り出し、軽く調律すると、ゆっくりと旋律を奏で始めた。
ハープの音色と共に、彼女の歌声が響き渡っていく──
それは、苦難や悲しみを知らぬ歌だった。
寛容さに溢れ、思いやりを秘めた歌声が広がる。
その歌声に、幼いシーボーンたちは身体をゆったりと広げると、まだ発育途上の発声器官を震わせて声を重ねた。
元いたシーボーンたちには、感情をくみ取る能力は備わっていなかったが、新たに生まれたシーボーンの中には、感情を察知し、それをある種のエネルギーへと変えられる者たちが現れ始めていた。
自ら歌を歌い、そこに秘められた力を理解できるようになった時、シーボーンは自分たち以外の種族を真に理解できるのかもしれない。
今や、彼らは「学習」の意義すら理解しつつあるのだ。
......
耳をすませば、スカジの歌声がいつまでも響いていた。
アビサルハンターが一人残らず異形と化したその瞬間、エーギルのアビサルハンター計画は完全に頓挫した。
執政官たちは、「この異形どもを徹底的に殲滅すべし」という意見で一致し、シーボーンへの対策を仕切り直すはこびとなった。
しかしその場には、アビサルハンターたちが未だ己の意志を保ち続けているという事実を知る者はいなかった。
......
海面に向かって泳いで行くスカジの周りには、かつての僚友たちが付き従っている。
既に人としての形状を失った彼らは……多種多様な「シーボーン」に成り果てていた。
彼らの血脈を一つに繋ぎ止めていたものが、呪いとしてその真の姿を露わにしたのだ。
エーギルが彼らの殲滅を宣言した以上、もはや彼らに帰る故郷はなかった。
そして、たとえ死してもシーボーンに屈服する意志などない彼らには、大群に帰するという選択肢もなかった。
ゆえに彼らに残された選択は、自らを追放することだけだった。あるはずもない希望を探し求め、未だ海に覆い尽くされていない地を目指すのだ。
そんな絶望の旅路を歩むアビサルハンターたちも、シーボーンに捕食されるか、エーギルによる掃討作戦によって、ほとんど全滅しかけていた。
残った十数匹の人ならざる怪物が、陸地に向かって無言のまま泳ぎ続けている。
彼らは武器も、信念も失った。
残っているのは、忌まわしい肉体と、苦痛に満ちた魂だけである。
スカジは再び歌いたいと思った。しかし、心の中で温め続けた歌は、発声器官を経由すると、何の意味も成さない低いうなり声となって響くばかりだった。
スカジの歌声は、今や彼女の頭の中にしか存在しない。
そして彼女が死を迎えた時、その美しい旋律を思い出せる者は、誰一人いなくなるのだ。
都市から離れた場所で、スカジは一人、海底に設置された照明設備を点検していた。
エーギル製の機器のおかげで、彼女は一人でも海底全体の照明設備をメンテナンスすることができた。そしてこの立ち並ぶ照明の列に損傷さえなければ、移動居住施設の中で横になって、お気に入りの曲を聞きながらメロディーに合わせて鼻歌を歌うこともできる。
週に一度、都市に戻って補給を行い、報告書を提出するだけで、気ままな一人暮らしの生活を満喫することができたのだ。
そんな暮らし以外の物事を、スカジは深く考えなかった。
金銭面でのプレッシャーも、他者とのコミュニケーションにおける不安も、病気の心配もない生活。
ならば、他に何を考える必要があるだろうか?
――あの壊れた石碑に出会うまで、彼女はずっとそんなふうに考えていた。
明らかにエーギルのものではないその石碑は、彼女に数々の恐ろしい映像を見せつけた。
見たこともない海洋生物と一緒に歌う自分の姿。
醜い怪物に変貌し、他の怪物を従えながら海面へ向かう自分の姿。
さらに、身の丈ほどある大剣を携え、面識のない者たちと共に、都市のように巨大な怪物に突撃する自分の姿……
それらの断片の主役がすべて自分であることは、スカジにも一目瞭然だった。
しかし、そこで目にした見知らぬ人々や、見たことのない怪物、その中で自分が行っていた馴染みのない行為は、彼女の心を恐怖で満たした。
こんなものに関わるべきじゃない。
そう思ったスカジは石碑の映像を撮影すると、あわてて居住施設に戻り、上司に報告の電話をかけた。
一方、石碑にはまだ彼女に伝えたいことがあったらしく、それは誰もいなくなった後も映像を流し続けていた。
......
あの大剣を背負った自分──海の神を仕留めたスカジが、ウルピアヌスの指揮下で岩礁に潜伏している時、
知らず知らずのうちに、壊れた石碑に触れた。
彼女がそこで見たものは──
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