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いつかの日に別れを
仲間たちと共にすっかりロドスでの生活に馴染んだイースチナの元へ、リターニアから予期せぬ手紙が届いた。
[グム]うーん……どれを着たらいいのかな?
[グム]これはちょっとキツイし、こっちは袖がちょっと短い……服選びがこんなに大変なことだなんて、グム初めて気付いたよ!
[グム]今までは目についた服を適当に着てただけだからなぁ……
[イースチナ]……
[イースチナ]これはどうでしょうか?
[グム]うーん……これってロサお姉ちゃんが買ってくれた服だよね……これならお父さんとお母さんも可愛いねって褒めてくれるかな?
[グム]よっと……うー……
[イースチナ]ラ、ラーダ……前と後ろが逆じゃありませんか? フードが顔側に来ちゃってますよ……
[イースチナ]ほら、着るのを手伝ってあげますから。
[グム]えへへ、ありがとう、イースチナお姉ちゃん!
[イースチナ]まったく、もう。
[イースチナ]いつまでもドジなんですから。せっかく家族と会えるんだから、少しは成長したところを見せないと。
[グム]……うん。
[グム]でもグムは気にしてないよ! グムは二人に会えるだけでうれしいもん!
[グム]グム、お姉ちゃんたちとの思い出をノートに書いたんだ。二人に全部話してあげなきゃ! それとね、ロドスの写真もいっぱい撮ったの。アルバムにしたらこーんなにぶ厚かったんだよ。
[グム]それから……これ! グムがお父さんとお母さんに用意したプレゼント!
[イースチナ]これは……クッキーの型? 見たことない形をしてますね……
[グム]えへへ、これはお姉ちゃんたちの型なの!本を読んでるのがイースチナお姉ちゃん、イヤホンをつけてるのがズィマーお姉ちゃん、帽子を斜めに被ってるのがロサお姉ちゃん……
[イースチナ]ええと、ではこの長い角が生えているのが……まさかロザリンなんですか?
[グム]違うよー。それはマッターホルンおじさん! クッキーの型を作るグムのそばにいて、ずっとやり方を教えてくれてたの。だからおじさんも入れてあげたんだよ!
[グム]リェータお姉ちゃんの型はね、こっちのハチミツのつぼを抱えてるほう!
[イースチナ]……
[イースチナ]どれもよくできています。頑張ったんですね、ラーダ……あっ、でもラーダの型はないのですか?
[グム]へ? お父さんとお母さんは本物のグムに会えるのに、グムの型も必要なのかな?
[グム]本物のグムがいれば十分だよね! 二人とも気にしないはずだよ!
[グム]そういえば……イースチナお姉ちゃんはお父さんとお母さんに何をあげるの?
[イースチナ]えっ……私、ですか?
[イースチナ]私は……まだ何も用意していません。
[イースチナ]二人が生きているのだと突然知らされて、その上もう一度会えるなんて……夢のようで、まったく実感が湧かないんです。
[グム]実感……? グム、よく分かんないや。
[グム]グムはお父さんとお母さんが見つかったって知った時、うれしくて何日もちゃんと寝れなかったよ!
[イースチナ]……私もうれしかったですよ。すぐにでも二人の元へ駆け付けたい衝動を抑えるのが大変でした。ですが……
[イースチナ]チェルノボークからやっとの思いで逃げ出せて、みんなと色々なことを経験して……それからロドスへやって来て、こんなに長い時間を一緒に過ごしたのですから。
[イースチナ]今までも両親が見つかったという知らせを何度か受けましたが、どれも結局はうやむやに終わってしまいました。今回は……つまりその、もし今回も……
[グム]……
[イースチナ]……
[イースチナ]はあ……
[イースチナ]余計なことを考えるのはやめましょうか……両親が見つかったのならば、しっかり会いに行く準備をしましょう。
[ズィマー]ラーダ。
[ズィマー]ラーダ! ドアを開けろって!
[リェータ]おいおい、そんな大声出すなって……ちょ、何するつもりだよ、まさかドアを叩き割るのか?
[イースチナ]ソニア……
[リェータ]ソニア、落ち着けって!
[ズィマー]……
[ロサ]私に任せて。
[ロサ]ラーダ、ドアを開けてくれる? みんな、あなたのことをとても心配しているの。
[ロサ]もう二日の間も何も食べてないでしょう……これでもし身体を壊したら、いざご両親と会えるってなった時に、元気な姿を見せてあげられなくなっちゃうわよ。そうなったら……
宿舎の扉は依然として固く閉ざされ、返事もなければ、物音すら聞こえてこない。
[ズィマー]よせよ、ナターリア。
[ズィマー]人事部の奴らが言ってたろ。ラーダの親が見つかった情報は今回も間違いだったって。ぬか喜びをしたのは別にこれが初めてってわけでもねえ。
[ズィマー]あの時チェルノボークから生きて出られただけでも十分運がよかったんだ。その上に家族を探すだなんて……早えうちに現実を見た方がいいんじゃねえか?
[ズィマー]無駄な期待をラーダに抱かせるのはもうやめようぜ。
[イースチナ]……
[リェータ]んんー……
[リェータ]ラーダの親はずっと別の都市で研究の仕事してたんだろ? だったらまだ確かな情報が掴めてねーだけで、いつか絶対見つかるって!
[リェータ]それに、アンナの親だって見つかったって情報があったろ。
[イースチナ]……えぇ。
[イースチナ]ですがラーダの状況を見る限り、私の両親の情報も信ぴょう性が薄いでしょう。
[ロサ]……アンナ。
[イースチナ]気にしないでください。本当に間違っていたとしても特に気にはしません……多分ですが。
[ズィマー&リェータ]……
[イースチナ]もう、そんな顔をしないでください。どうせ私がラーダのように塞ぎ込んでしまうんじゃないか、心配してくれているのでしょう?
[イースチナ]長い時間、自分たちだけでやって来られたんです。たとえもう二度と両親と会えなかったとしても、今まで通りの生活を続けていくだけ、そうでしょう?
[イースチナ]ふぅ……ラーダ、大丈夫ですよ。
[イースチナ]このまま部屋にいたいのなら、ゆっくり休んで、好きなだけ寝てくださいね。
[イースチナ]辛くなったり悲しくなったら私のところへ来てください。もっと一緒に写真を撮りましょう……今のアルバムがいっぱいになったら、新しいのを一緒に買い行ってあげますよ。
[イースチナ]それとも一緒に絵を描きますか? 前に二人で読んだ本に出てきたジンジャークッキーマンとか……一緒に考えた五人で住める大きな家を描いてみるのも楽しいかもしれませんよ。
[イースチナ]家にはソニアとロザリンが思いっきり暴れられるように、ボクシングリングがあるんですよね? 台所には大きなオーブンがあって、私とナターリアとラーダで新作のフラワーケーキを作ったり……
[イースチナ]それから、ラーダが私のために考えた、たくさんの本をしまっておける――
[人事部オペレーター]はあ……はあ……やっと見つけました。皆さんここにいたんですね……
[人事部オペレーター]イースチナさん宛てにお手紙が届いています……
[イースチナ]……
[イースチナ]私に?
[人事部オペレーター]はい、つい先ほど届いたばかりです。なるべく早くイースチナさんにお渡しするよう、トランスポーターの方から言い渡されたんですよ……
[イースチナ](新そうな封筒……封の部分からは固まったのりがはみ出てる。このウルサス文字のサイン、なんだか見覚えがあるような……)
[イースチナ](スラっとした筆記体、お父さんのデスクに置いてあった書類で見たことがあるような……あとお母さんが枕元に置いていた本の注釈でも見たことがある気がする。)
[イースチナ](あれ? 急に心臓がバクバクして……)
[イースチナ](まさか本当に? いや、きっと何かの間違いだ……)
[イースチナ]この手紙……父と母からのものですか?
[人事部オペレーター]確認を取ったところ、イースチナさんのご両親からのお手紙で間違いありません。
[人事部オペレーター]それにリターニアの事務所では、すでにご両親と直接連絡も取れています……この手紙は確実に本物ですよ。
[イースチナ]……
[イースチナ]あーあー。
[イースチナ]これより第六十五回目の「現実エクスポージャー式セルフカウンセリング」を行います。
[イースチナ]ふぅ――
[イースチナ]本当に夢じゃないんですよね。
[イースチナ]私の両親はまだ生きていて、リターニアで暮らしている。
[イースチナ]手紙には、私の準備が整ったら、いつでも両親の元に戻っていいと書かれていました。
[イースチナ]そうですね……
[イースチナ]両親の生死については……正直、今まで一度も深く考えたことはありませんでした……
[イースチナ]毎回その考えが頭をよぎると、すぐに別のことに意識を逸らしていたんです。
[イースチナ]なぜなら、二人が働いていた政府のオフィスビルは、最も被害が大きかったチェルノボークの中心部に位置していましたから……
[イースチナ]二人がどうなったのかは、深く考えずとも明らかだったんです。労力を費やして結果を確かめたところで、意味はありません。
[イースチナ]ですが……
[イースチナ]ふぅ……
[イースチナ]両親とはもう二度と会えない前提で、私はロドスに留まり、ソニアたちと一緒にいることを決めました。
[イースチナ]ロドスは私たちにとって新たな始まりなのです。
[イースチナ]少しでも早く新しい生活に慣れるように、そしてあの悪夢から一日でも早く抜け出せるようにと、長期的なスケジュール表まで作ったんです。
[イースチナ]私たちはここで勉強し、働き、自分たちのこなせる範囲内で任務に参加し、そこそこの結果も出してきました。
[イースチナ]そしてようやく、少しだけ未来と向き合えるようになったのです。ですが……
[イースチナ]このタイミングで突然、両親が生きていることを知らされ、私がその気ならば、昔のように二人と共に暮らすことができると告げられたのです。
[イースチナ]私はどうすればいいのでしょう? ロドスや自治団のみんなと別れを告げ、ここを離れるべきでしょうか?
[イースチナ]もし先に家族を見つけたのがラーダかソニアだったら、彼女たちはどうしていたのでしょう?
[イースチナ]ラーダはずっと両親に会いたがっています。ソニアは気にしていないかのように振る舞っていますが、心の中ではきっと……
[イースチナ]そうだ……手紙、ひとまず二人に返信を書いてもいいかもしれない……
[イースチナ]今すぐそちらに行くつもりはない……まだここにいたいのだと。
[イースチナ]どうぞ。
[ズィマー]アンナ、メシ食いにいかねえか? ロザリンがおごってくれるって――
[ズィマー]……手紙を書いてたのか?
[イースチナ]はい。
[ズィマー]親に?
[イースチナ]ええ。
[ズィマー]……
[イースチナ]ふぅ……
[イースチナ]ソニア、こんな風に書いてみたのですがどうでしょう? 読み上げてみますね……
[ズィマー]聞きたくねえ。
[イースチナ]……
[ズィマー]だってさ、マジで理解できねえんだよ。話したいことがあるなら、会えた時に直接言ってやればいいだろうが。
[ズィマー]アタシが返信を書くんなら「分かった、すぐ行くから待ってろ」で終わりだぜ。
[ズィマー]簡単な話じゃねえか!
[イースチナ]……
[イースチナ]今はまだリターニアへ行く気はないんです。だから、それをどう伝えるべきか考えているんです。
[ズィマー]は?
[ズィマー]行く気がない?
[ズィマー]冗談言ってんじゃねえよな?
[イースチナ]えっと……
[イースチナ]応接室の訪問資料の整理も残っていますし、それからハイディさんと約束した本の感想文もいくつか書かなくてはなりません……
[イースチナ]それにロドスの授業についていくのも大変なんですよ。試験はありませんが、それでも教わった知識はきちんと理解しなくては。
[イースチナ]それと、来週五人で一緒にドーベルマン教官と任務の演習を行う約束もしたじゃありませんか。オペレーター育成プロジェクトも自治団が全員揃っている前提で組まれてますし、だから……
[ズィマー]ラーダのことだろ。
[イースチナ]……
[ズィマー]もしラーダを気にしてんなら、そんな必要ねえってことだけ言っておくぜ。
[イースチナ]ラーダはずっと……あんなに両親に会いたがっていたのに……
[ズィマー]だからなんだってんだよ。アンナだって親に会いたかったんだろ?
[イースチナ]……それはもちろんですよ。でも私はロドスに来た時に、元の生活には二度と戻れないと覚悟を決めていたんです。
[イースチナ]だから今までずっと、今どう行動すべきか、この先どこを目指すべきか、そんなことばかり考えてきました……
[イースチナ]昔のように両親から期待を寄せられる高校生に戻ることなんて、一度も考えたことがなかったんです。
[イースチナ]そもそも、そんなことは可能なのでしょうか?
[イースチナ]二人が生きていて、しかも元気に過ごしている。それを知れただけでも、私にとっては十分すぎるほど喜ばしいことです。
[イースチナ]だから今はとりあえず手紙でやり取りを続け、写真で互いの様子を確認できればいいんじゃないでしょうか……会いに行くのは、休暇が始まってからでも構いません。
[ズィマー]……アンナ。
[ズィマー]正直、こんな風に不安な顔をして取り乱してるアンナなんて、滅多に見たことねえよ。ぺテルヘイム高校にいた時すらそんな顔をしたことはなかったしな。
[ズィマー]今のオマエを見て、ついさっきとんでもねえグッドニュースを知らされたばかりだなんて誰が思う?
[ズィマー]親のこと、勉強のこと、そしてアタシたちの未来のこと――確かにどれも大切なことだよ。
[ズィマー]でもアンナが今考えなきゃいけねえのは、自分にとって何が一番大切なのかってことじゃねえのか?
[ズィマー]アタシたちのことは心配いらないさ。みんなロドスでちゃんとやっていけるって。
[ズィマー]だってほら、ラーダの奴を見てみろよ。この間まで部屋で塞ぎ込んでたくせに、もう厨房でハイビスカスと新しい野菜のデザートパイをあれこれ試してる。
[ズィマー]さっき食堂を通りかかったら、二人の笑い声が外にまで聞こえてたんだ! 逃げるのが一歩でも遅れてたら味見させられるとこだったぜ……
[イースチナ]……
[イースチナ]プッ。
[ズィマー]……何がおかしいんだよ? まさかピーマンとヘチマのクリームパイ食いたかったのか?
[イースチナ]違いますよ。ただ、今日のソニアはなんだかいつもと違う気がて、なんと言うのか……口数が多いような?
[イースチナ]昔のソニアなら、私が書いた手紙を奪ってビリビリに破いてから、無理やり部屋から引っ張り出してましたよ……良くて「さっさと行け、めんどくせえ」って付け加えるくらい。
[イースチナ]そんなソニアが私を慰めるようになるなんて。
[ズィマー]……めんどくせえ。
[ズィマー]ちょっ……何やってんだよ!? なんで自分で手紙破いてんだ!?
[イースチナ]ソニアのアドバイス通りにしようと思って。
[イースチナ]今の私にとって一番大切なのはなんなのか、まずはこのことをじっくり考えてみます。
[ズィマー]おい、ずりーぞ! 今のが最後の一杯だっつったろ? それにさっきも明らかにアタシの勝ちだったじゃねえか!
[リェータ]ヘヘヘ、ヒック……いいから飲めよソニア。さっきの一杯はさっきのお前が飲んだやつだからノーカンだ!
[リェータ]い、今のお前は、まだ飲んじゃいねー……だから今のお前が、この一杯を飲むんだよ! うぅ~……ヒック!
[ズィマー]……
[ズィマー]ロザリン!!
[ズィマー]……もうウンザリだ、キリがねえ。これからはどれだけ頼まれても二度とこんな量のハチミツを買ってやらねえからな……
[ズィマー]ナターリア、オマエが付き合え。
[ロサ]えっ……私、ハチミツってあまり得意じゃないけど……紅茶を飲む時だって入れたりしないわ。
[ズィマー]あぁ? オマエ、さてはハチミツをガブ飲みしたことねえな?
[ズィマー]オラ、アタシが飲ませてやるよ――
[ロサ]ちょ、ちょっと待っ――うぐっ……
[イースチナ]……
[イースチナ](私のための送別会なんて言ってましたけど、ただ馬鹿騒ぎする口実が欲しかったとしか思えませんね。)
[イースチナ](でも、こういうのも悪くないかもしれませんね。)
[グム]イースチナお姉ちゃん……これあげる!
[イースチナ]……えっ、私にですか?
[イースチナ]でもこのクッキー型は、ラーダが両親にプレゼントするために作ったものでしょう?
[グム]うーん……でも結局今回は二人に会えなくなっちゃったから……それならイースチナお姉ちゃんにあげても一緒だよ!
[イースチナ]でも……次にまた両親の情報が届いた時にあげるものがなくなってしまうじゃないですか。
[グム]えへへ、その時になったらまた新しいのを作るから大丈夫!
[グム]あとね、これ見て!
[イースチナ]フライパンを持ってる形の……これ、ラーダですか?
[グム]うん! グムが新しく作ったんだ! これでグムたち五人全員の型が揃ったね!
[グム]イースチナお姉ちゃんがおうちに帰る時、ズィマーお姉ちゃんたちと一緒にグムも連れて行けるね!
[イースチナ]……ラーダ。
[イースチナ]ありがとう。ラーダにもお土産、買ってきますからね。
[ズィマー]……
[ズィマー]は? アンナ、オマエまた帰ってくるのか?
[イースチナ]えっ、そうですけど……
[イースチナ]両親としばらく過ごしたら、また帰ってきます。
[リェータ]はあ? せっかく家族が見つかったんだから、そのまま一緒に暮らせばいいじゃねーか。帰ってきてどうすんだよ……ヒック――
[イースチナ]ロザリン、そんな単純な話じゃないんですよ……
[イースチナ]両親の元へ戻りさえすれば、すべてリセットしてやり直せると思っているのですか?
[ズィマー]そういうもんだろ?
[イースチナ]……
[イースチナ]……もしかしてみんな、ロドスを離れるのが私にとっていい選択だと思っているのです?
[ロサ&グム](うなずく)
[ロサ]いい選択だと言い切ることはできないけど、少なくとも選択肢の一つではあるわ。
[ロサ]私たちに身を寄せる場所を提供してくれたロドスはいいところよ。だけど、ここが私たちにとってベストな選択だったのは、他に行く当てがなかったから。
[ロサ]でも今のアンナはそうじゃないわ。
[イースチナ]……
[ロサ]それに私たち全員、いつか自分よりも先に誰かがここを去るかもしれないって、とっくに心の準備ができていたと思うのだけれど。
[イースチナ]……たとえ本当にお別れの日がやってきたとしても、私はここに残る最後の一人です。
[ズィマー]……アンナ。
[ズィマー]オマエはまだアタシたちに気を遣ってるかもしれねえけど、みんなオマエの家族が見つかったことを素直に喜んでんだぜ。
[グム]そうだよ! イースチナお姉ちゃんの家族が見つかったのなら、グムのお父さんとお母さんだっていつか見つかるかもしれないってことだからね!
[グム]グムも、イースチナお姉ちゃんはロドスを離れたほうがもっと幸せになれると思ってるの!
[イースチナ]……
[グム]うーん、なんて言ったらいいのかな……
[グム]あのね……もしグムがロドスにずっと残ったとしても、立派なコックさんになれるし、ズィマーお姉ちゃんやリェータお姉ちゃん、ロサお姉ちゃんだって強い戦士になれる……
[グム]でもイースチナお姉ちゃんは、お父さんとお母さんのそばに戻って学校で勉強を続けるのが一番なんじゃないかな?
[ズィマー]リターニアにいるアンナの親はとっくに入学手続きを済ませてくれてるはずだぜ。親のとこに戻ったら、カバンを背負って学校に行くだけだ、チェルノボークにいた頃みたいにな。
[ズィマー]今までのことなんて、全部なかったもんだと思えばいい。
[イースチナ]……
[イースチナ]なかったことになんて、できるわけないじゃないですか……
[イースチナ]ソニア、あなたにとって最善の選択とは、全てをなかったことにしてやり直すことなんですか?
[ズィマー]……チッ。
[ズィマー]アタシは別にそう思っちゃいねえよ。
[イースチナ]だったら私も同じです。
[イースチナ]もう決めたんです。両親が元気に過ごしているかどうか、昔と変わりないかどうかを確認するためにも、一度様子を見に行きます。
[イースチナ]そして……あの時ペテルヘイム高校でどれだけ辛い思いをしたか、頼もしい友人たちとどのようにしてそれを乗り越えたのか、そんな話もするかもしれません。
[イースチナ]もちろん、ロドスのことも話すつもりです。ラーダと一緒に写真をたくさん撮ったのですから、二人にもここでの生活の様子が十分に伝わるでしょう。
[イースチナ]それと……二人がどうやってチェルノボークから脱出し、リターニアまで逃げて来られたのか……今までの長い間、私のこと探そうとしたかどうか、はっきり聞くつもりです。
[ロサ]……アンナ、そんなにたくさんのこと、一度には全部できないわ。
[ロサ]新しい家でご両親と一緒に暮らしながら、ゆっくりと一つ一つ問題を解決すればいいのよ。焦ってこっちに戻ってくる必要なんてないの。
[イースチナ]はい、私もそう思っています。だから今回はもっと大切な用を済ませるために、両親に会いに行こうと決めたのです。
[イースチナ](大きく息を吸う)
[イースチナ]私は今回――これからもみんなと一緒にロドスで暮らす許可を両親にもらいに行くつもりです。
[ロドスの運転手]……ということがあって、その奥さんの身分証を拝見したら、苗字がモロゾワで、しかもチェルノボーク出身だったんです!
[ロドスの運転手]リターニアでチェルノボークから来た人に出会うなんて、滅多にないことですよ。
[イースチナ]……
[ロドスの運転手]二人はたまたまロドスの事務所の近くに住んでいましてね、あの日奥さんがうちに来たのは、事務所を歯医者と間違えたからだそうです……
[ロドスの運転手]ぺテルヘイム高校の件は……誰もがあきらめていましたよ。でもあなたのご両親と話していて分かったんです……
[ロドスの運転手]二人はあなたをあきらめたことは一度もなかった。
[イースチナ]……ふぅ。
[イースチナ]つまり、二人は元気に過ごしているんですよね? ……どんな場所に住んでいるんですか? 仕事は見つかったんですか?
[ロドスの運転手]ええ、まずまずってところでしょうか。少なくとも、事務所には腕のいい先生がいるから、お母様の歯はひとまず治ったはずですよ。
[ロドスの運転手]他のことは、二人と再会したあとに、直接聞いてみてください。時間はいくらでもありますからね。
[イースチナ]そうですね、分かりました。わざわざ送ってくださってありがとうございます……
[ロドスの運転手]いえいえ、大したことじゃありません。私は元々定期的に本艦と事務所を往復して、物資を運んだり、任務の引継ぎをするのが仕事ですので。
[ロドスの運転手]本艦から誰かを送り出すのも、あなたが初めてじゃありませんよ。
[イースチナ]……
[イースチナ]それなら……
[イースチナ]今まで誰かを他の場所から本艦へ送り返したことは、何回ありましたか?
[ロドスの運転手]え?
[イースチナ]……
[イースチナ]ここは……ロドスです。
[イースチナ]私は自分が望んだ通りに、ここへ帰ってきました。
[イースチナ]リターニアへ向かう途中、両親と再会した時の状況をいくつも想定していました……どのように私の成長をアピールし、どうやって私の考えを打ち明けるのかも……
[イースチナ]だけど実際に二人を見た瞬間、何もかも頭から吹き飛んでしまいました。私たちは抱き合い、寄り添い合い、離れていた間の出来事を語り合いました……まるでずっとそうしていたかのように。
[イースチナ]両親の家に着いた日、お父さんが故郷のボルシチの味をもう一度食べさせてやるんだって張り切っていたけど、結局市場をいくつ回っても玉ねぎを見つけられず、結局砂ねぎで代用したんです……
[イースチナ]砂ねぎのボルシチなんて初めて食べました。味は悪くなかったけど……少し辛かったです。
[イースチナ]二人ともラーダからのプレゼントをとても喜んでいて、さっそくそれでクッキーを焼くことにしました。たくさん焼きすぎちゃって、何日も食べ続けたんです……
[イースチナ]ラーダはとても料理が上手だと私が言うと、お父さんは不服そうな顔をして、いつか腕比べをしようじゃないかなんて言い出しちゃって……
[イースチナ]そうだ、私から聞いた話と持っていった写真のおかげで、二人は自治団メンバー全員の名前も覚えたんです。
[イースチナ]予想とは裏腹に、二人は私がロドスに残ることをあっさりと認めてくれました。しかも友達へのお土産だと、リターニアのお菓子を大量に持たせてくれたんです。
[イースチナ]お菓子はもう自治団のみんなに全部分けてあげました……いや、ひとつ残らず一掃されたというべきでしょうか。
[イースチナ]何もかもが順調に進んでいます。あまりにも順調すぎると感じるほどに……
[イースチナ]ふぅ……
[イースチナ]これにて第六十六回「セルフカウンセリング」を終了します。
[イースチナ]……
[イースチナ]やっぱり、少しだけモヤモヤしますね。
[イースチナ]両親は私の選択を尊重し応援してくれましたが、不安や心配も口にしていました。そして、私が考えもしなかった疑問を投げかけてきたんです。
[イースチナ]「もしこれから先、自治団のメンバーが全員ロドスを離れ、異なる道を選び、それぞれの場所を目指すと決めたのなら、あなたはどうするのか?」と。
[イースチナ]そうなったら……私はリターニアへ行くべきでしょうか? それともロドスに留まるべき? あるいは……
[イースチナ]はあ……
[イースチナ]少なくとも今は、両親の応援もありますし、自治団のみんなもそばにいます。今後については……これからじっくり考えることにしましょう……
[イースチナ]……
[イースチナ]あれ? 通信端末が見つからない……
[イースチナ]あった……どうしてベッドの下になんか……
[イースチナ]ええと……クロージャさんの連絡先は……
[イースチナ]うわっ、いきなりかかってきた……!
[イースチナ]もしもし……あっ、クロージャさん。
[イースチナ]ビデオレコーダーですか? 私が借りてますが……いえいえ! もう使い終わったので、すぐに返しに行きます……
[イースチナ]……
[イースチナ]そうだ、クロージャさん。
[イースチナ]前に声をかけていただいた資料室のお手伝いの件ですが……私のことを信頼してくれて本当にありがとうございます。
[イースチナ]もしよければ……ぜひやらせてください。
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