aklib_story_険しき道を征く

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険しき道を征く

荒野と村にあって、プロヴァンスは思う。天災より恐ろしいのは、天災下で次第に黒く染まっていく人の心なのだと。


[プロヴァンス] スーホ! 測定器に反応が! この先にもう一人いるって!

[プロヴァンス] 君、大丈夫? まだいける?

[ロドス外勤オペレーター] はぁ……はぁ……なんとか。行きましょう……

[プロヴァンス] この辺りは結構離れてるから、赤外線センサーの探索範囲に入ってなかったんだ……

[プロヴァンス] 一キロほどこちら側に範囲を拡大するよう申請したんだけど、それでやっとこの近くに生存者がいることが分かったんだ。でも具体的な位置はまだわからないから早く探さなきゃ、急ごう……

[プロヴァンス] この町は天災トランスポーターの探測範囲内だっていうのに、あーどうしてこんなことになっちゃうの!

[プロヴァンス] この規模の地震ならはっきりとした兆候が出るだろうし、町に駐在してた天災トランスポーターが気付かないはずないのに……

[ロドス外勤オペレーター] もう四日と半日が経過しました。もしかしたら、もう……

[ロドス外勤オペレーター] それにロドスは通りがかっただけで、事前の準備もありませんし、この程度の活動では……

[プロヴァンス] そんな風に思わないの!

[プロヴァンス] 僕たちが行けば、希望はきっとあるよ。

[プロヴァンス] ここだ! きっとこの廃墟の下よ、早く!

[プロヴァンス] こんにちは、救援隊の者です! 聞こえますか? 救援隊が来ましたよ!

[プロヴァンス] 聞こえますか? 聞こえたら返事を!

[プロヴァンス] ……

[プロヴァンス] 反応がないわ、スーホ、鉄パイプを叩いてみて!

[ロドス外勤オペレーター] 分かりました。

カンカンカン、カンカンカン……

[ロドス外勤オペレーター] ……

カンカンカン、カンカンカン……

[プロヴァンス] 返事はある?

[ロドス外勤オペレーター] いいえ……生命探知機の配給が間に合わなかった以上、位置確認はこうして行うしかないでしょうか。さっきもまだ生きているのに、もう返事をする気力がない方も……やっぱり申請してきた方が……

[プロヴァンス] いや、届くまで待てないよ。それにこんな状況だし、余りがあるとも限らないから……とりあえず地道なやり方で探していこう。爪で引っ掻いたって音はするんだから、注意して聞けばきっと分かる。

[プロヴァンス] 僕はもう一度あっちの鉄パイプを叩いてみるよ。そうだ、君は何か場所を特定できるアーツを持ってたりする?

[ロドス外勤オペレーター] はは……そんなの出来たら、さっきみたいに素手で家を掘り返したりしませんよ……

カンカンカン、カンカンカン……

[ロドス外勤オペレーター] ……

[ロドス外勤オペレーター] …………

[ロドス外勤オペレーター] この辺り一帯は全て叩いてみましたが、反応はありません。

[ロドス外勤オペレーター] もうかなりの時間が経ちました、それにここまでの距離も考えれば……もしかして、また……間に合わなかったんでしょうか?

[プロヴァンス] ……そんなことないよ。この先にも探索してない場所がある。行ってみよう。

カンカンカン、カンカンカン……

カリ……カリ……

カリ……カリ……

[プロヴァンス] !

[プロヴァンス] 爪で鉄パイプを引っ掻く音だ!

[プロヴァンス] ここ、こっちだよ! スーホ、早く来て!

[ロドス外勤オペレーター] 今行きます! ……あっ! 痛っ――

[プロヴァンス] 気を付けて! きつかったら、少し休んでもいいから!

[ロドス外勤オペレーター] 大丈夫です、いけます! 救助にかかりましょう!

[プロヴァンス] 聞こえますか? あと少しの辛抱ですよ! こちら救援隊、あなたを救助しに来ました!

[プロヴァンス] さあ、この屋根をどけよう。ケガしないようにね。3、2、1!

[ロドス外勤オペレーター] うおぉっ!

[ロドス外勤オペレーター] 生理食塩水はまだ足りているはずです、ホースで下に送りますね。

[プロヴァンス] 届きますか? 食塩水です、少し飲んでください。今から救助を開始しますね!

[おばあさん] ゴホッ……ゴホッ……

[ロドス外勤オペレーター] ご年配の方でしょうか?

[プロヴァンス] おばあさん?

[おばあさん] ハァ……もう……誰も来ないかと……

[プロヴァンス] そんなことありません、僕たちが来ましたよ!

[おばあさん] 安心……したわ……

[ロドス外勤オペレーター] 今、レーダーでここの構造をスキャンしています。もう少し頑張ってください!

[おばあさん] ……

[プロヴァンス] おばあさん? おばあさん?

[おばあさん] …………

[プロヴァンス] 安心して気が抜けちゃったのかな……でもこのまま寝ちゃったら危ないよ!

[ロドス外勤オペレーター] 俺がスキャンします。プロヴァンスさんはおばあさんに話しかけ続けてください、絶対に眠らせないように!

[プロヴァンス] おばあさん? おばあさん? 今はまだ寝ないでくださいね。お話しましょうよ。

[おばあさん] ……

[プロヴァンス] 眠ってしまったら危ないんですよ、起きていてください。僕たちとお話しませんか?

[おばあさん] ……

[おばあさん] ……もう、何日経ったかね?

[プロヴァンス] ……ああ、えっと二日、二日です! 僕たちは近くにいたから、駆けつけてきたんです。もう大丈夫ですよ!

[おばあさん] ええ……

[おばあさん] 孫を……私の孫を見なかった?

[プロヴァンス] (君は見た? 孫らしき人とか?)

[ロドス外勤オペレーター] (見てませんね……)

[プロヴァンス] おばあさん、僕たちは区域でチームを分けて活動しています。きっと別のチームがお孫さんを保護していますから、ここを出たら会えますよ!

[おばあさん] 孫は……いたずらっ子で……

[おばあさん] ……どこへ行っちゃったのかしら……

[プロヴァンス] 心配しないで、きっと大丈夫ですよ!

[ロドス外勤オペレーター] (おばあさんは羽獣を飼ってたみたいですね。でも羽獣の小屋は完全に崩れて、何も残っていません。)

[プロヴァンス] (あぁ……)

[プロヴァンス] おばあさん、お孫さんはご馳走が食べられて幸せですね。あそこに羽獣の小屋があるのを見ましたよ。僕も卵は大好きなんです。

[おばあさん] そうかい……あぁ……かわいい雛たち……黄色くて、ツヤツヤした……

[おばあさん] ……きっと卵も……全部つぶれちゃったでしょう……

[おばあさん] まだあったら、食べてみてちょうだいねぇ……

[ロドス外勤オペレーター] おばあさん、大丈夫ですよ! これから機会はいくらでもありますからね、その時に食べても遅くはありません!

[ロドス外勤オペレーター] 今日救助したのは、あなたで三十人目なんですよ。さっきは別の場所で家を丸々掘り起こして、大家族を救出したんです……

[おばあさん] ええ……ええ……

[プロヴァンス] (スキャン完了?)

[ロドス外勤オペレーター] (どうぞ。)

[ロドス外勤オペレーター] (陥没は深刻ですか?)

[プロヴァンス] (……ぐちゃぐちゃだよ。)

[プロヴァンス] (ここからだと全部陥没して見えるけど、家の反対側は倒壊を免れてる。たぶん地層が違うんだ。ここの地盤は……だいぶ複雑だ。地震波が伝わってきた時、地盤の構造で再び反射したんだと思う。)

[プロヴァンス] (家全体がねじれてる。こっちを取り壊せば、反対側が支えを失くして崩れちゃうね。それだけは避けないと。)

[プロヴァンス] (先に反対側の安定を確保した上で取り壊して、それからこっちを片付けるのはどう?)

[ロドス外勤オペレーター] (……それだと時間が……)

[プロヴァンス] (きっと間に合わないよね。それに僕たち二人だけでは、できっこない。)

[プロヴァンス] (先におばあさんを落ち着かせよう……やり方を考えながら、動かしてもいい箇所から片付けるんだ。そのうちいい方法を思いつくかもしれない。)

[ロドス外勤オペレーター] ふぅ……ふぅ……よっと……

[ロドス外勤オペレーター] おばあさん、ループスって見たことありますか?

[ロドス外勤オペレーター] 上の瓦礫を片付けたら、出て来て見られますからね!

[ロドス外勤オペレーター] 紫色のループスですよ、長くて大きなしっぽを持ってるんです。

[プロヴァンス] そうですよ! 出てきたら、僕のしっぽを触ってみません? きっとこんなに大きなしっぽは見たことないんじゃないかな!

[おばあさん] うん……うん……

[おばあさん] ……

[プロヴァンス] 急ごう、長くは持ちそうにない。

[ロドス外勤オペレーター] まだ寝ちゃだめですよ! 俺の祖母もあなたと同じくらいの年なんです……あとであなたの作った卵料理を食べさせてくださいね!

[ロドス外勤オペレーター] 動かせる瓦礫はすべて取り除きました。今からこの梁をテコで持ち上げます。大丈夫か見ててくださいね。

[ロドス外勤オペレーター] 3、2、1、ふんっ!

[プロヴァンス] だめ! こっち側が緩んできた!

[ロドス外勤オペレーター] じゃあ別のを試してみます!

[ロドス外勤オペレーター] 俺が真ん中を支えますから、そっち側をたたき切ってください。半分は俺一人で持てます!

[プロヴァンス] 分かった。耐えきれなくなったらすぐ言ってね。

[ロドス外勤オペレーター] おばあさん、焦らなくて大丈夫ですよ。俺たちが……俺たちが絶対助けますから!

[おばあさん] ……

[プロヴァンス] 最後だね、こいつをたたき切るよ!

[ロドス外勤オペレーター] ……ふんっ!! ……もう少しの辛抱ですよ。そこを出たら、お孫さんに会いに行きましょうね!

[プロヴァンス] 持ちこたえて!

[プロヴァンス] おばあさん、梁を一本どかしました。あとちょっとだけ頑張ってくださいね!

[おばあさん] ……

[プロヴァンス] あと少し、あと少しの辛抱です。こっちの梁を……こっちの梁をどかしたら……

[おばあさん] ……

[ロドス外勤オペレーター] おばあさん……?

[おばあさん] ……

[プロヴァンス] 寝ないで!

[おばあさん] ……

[おばあさん] ……無理よ……

[おばあさん] 二日……いいえ、もっと……経ったはず……

[おばあさん] ……

[おばあさん] ……私はもう……だめ……よ……

[ロドス外勤オペレーター] あきらめないで!! プロヴァンスさん、続けてください!

[おばあさん] ……

[おばあさん] 私は……

[おばあさん] ……

[おばあさん] …………

[プロヴァンス] ……まだ呼吸音は聞こえる? 返事がなくなってかなり経つけど……

[プロヴァンス] ……

[プロヴァンス] 時間切れだ。終わりにしよう。

[プロヴァンス] きっと、もう……

[ロドス外勤オペレーター] そんな、だめだ! そんなわけない!!

[ロドス後方支援オペレーター] プロヴァンス小隊? 位置28、575付近に生存者を発見。速やかに救援に向かってください。

[プロヴァンス] ……新しい位置、確認しました。位置1673、589に遭難者一名あり、深さ約2.7メートル、重機による廃墟の撤去作業が必要です……

[プロヴァンス] ……すぐに向かいます……はい、大丈夫です。

[プロヴァンス] ……

[プロヴァンス] ごめんなさい、ごめんなさい。僕たちは……他の人を助けに行かないと……

[ロドス外勤オペレーター] ……

[プロヴァンス] 行こう、スーホ。まだ他にも助けを待つ被災者がいる……この現場には、後で遭難者の捜索チームが来てくれるよ。

[プロヴァンス] ……大丈夫?

[ロドス外勤オペレーター] うおぉ!!

[ロドス外勤オペレーター] あぁー!!

[プロヴァンス] やめなよ! 君の体力が――

[ロドス外勤オペレーター] うぉぁー!!

[ロドス外勤オペレーター] ……絶対に! 掘り出すんだ!

[ロドス外勤オペレーター] はぁっ……はぁっ……

[ロドス外勤オペレーター] ううっ……

[プロヴァンス] やめてよ、スーホ! そんなの自分を傷つけるだけで、何にもならないよ。僕らはまだたくさんの人を助けなきゃいけないんだから!

[ロドス外勤オペレーター] ……いやだ! 俺はまだ――

[ロドス外勤オペレーター] うおー!!

[プロヴァンス] 止めてって言ってるでしょ!

[プロヴァンス] 何がしたいの? 君もここで死ぬつもり? だけど君が今何をやっても、現状は変えられない。すでに命を落とした人のために、自分を消耗させる意味はないんだよ!

[プロヴァンス] 僕たちには、助けなきゃならない人たちがまだまだいるんだ。でもその前に、君は自分のコンディションを整えること!

[ロドス外勤オペレーター] ……

[プロヴァンス] 行こうか、また間に合わなかった、なんてことにならないために。

[ロドス外勤オペレーター] ……

[プロヴァンス] おばあさんのことは、後で遭難者捜索小隊に詳細を聞こう、ね? 僕たちには、次に待ってる人がいるから。

[プロヴァンス] 前に、ある人が教えてくれたんだ。多くの命を救うために、まずは自分の命を確保することだって。

[プロヴァンス] 何をするにしても、まずは君自身を大切にしなきゃいけない……命の価値はみんな一緒、それは君も同じなんだよ。

[プロヴァンス] さぁ、行こう。

[ロドス外勤オペレーター] ……

[ロドス外勤オペレーター] ……分かりました……

[プロヴァンス] ここだ! ここにもう一人いるよ!

[プロヴァンス] もう少し頑張って! すぐ出られますから、僕の手を握って!

[プロヴァンス] よし、もう大丈夫だからね!

[ロドス外勤オペレーター] ……ご家族ですか? 大丈夫、慌てないで。この先にテントが見えますよね? あちらに皆さんが集まっていますので、行ってみてください!

[ロドス外勤オペレーター] 何かあればその場のオペレーターへどうぞ。彼らが対応しますよ!

[ロドス外勤オペレーター] 心配いりませんからね!

[医療オペレーター] 大丈夫です、安心して。支払いは不要ですから……

[医療オペレーター] ええ、ええ、そうですよ。だからここに座ってくださってて大丈夫ですよ。逃げなくてもいいんですからね……

[医療オペレーター] 緊張することはありません、落ち着いて……

[プロヴァンス] ……

[ロドス外勤オペレーター] ……

[プロヴァンス] ……

[ロドス外勤オペレーター] ……

[プロヴァンス] もうヘトヘトー、話す気力もないくらい……

[ロドス外勤オペレーター] 俺もです……

[プロヴァンス] ……ここは静かだし、ちょっと横になろうか。石を避けて……と。

[ロドス外勤オペレーター] うあ……あ……こ、腰が……あぁ……

[ロドス外勤オペレーター] 今日は……何人救えましたかね……?

[プロヴァンス] ……どうだろう……なんだかもう動けない気がするよ……

[プロヴァンス] ……でもさ、やっぱり変だと思うんだ。

[ロドス外勤オペレーター] 何がです……?

[プロヴァンス] なんていうかさ……ここはヴィクトリア領内で、辺鄙な町とはいっても、決して小さくはないし、天災トランスポーターだっている。

[ロドス外勤オペレーター] ええ。

[プロヴァンス] なのに、どうしてこんなになっちゃったんだろう? この規模の天災だよ? 兆候が分かりにくかったって、天災トランスポーターが見落とすはずないよ。

[ロドス外勤オペレーター] ……避難対策が不十分だったんですかね……分かりませんが……

[プロヴァンス] というより……この被災の様子じゃ、対策が不十分だったんじゃなくて、むしろ……全く無防備だったと言ってもいいくらい。

[プロヴァンス] ほとんどの人が倒壊した家屋の下敷きになってたけど、天災が来ると知ってたら、家の中にいるはずないもの。

[プロヴァンス] もしかして、ここには天災を避けてはならないっていう奇妙な信仰があったとか……? 無理がありすぎるか。

[ロドス外勤オペレーター] 単純に天災トランスポーターの言うことを信じてなかった可能性も……そういうケースってありますよね?

[プロヴァンス] ……あるある。そういうのは僕も何度も経験したことがあるけど、さすがにひとつの町ごと、誰も聞き入れてくれないっていうのはありえないかな……

[プロヴァンス] はぁ……さすがにこれは死者を出し過ぎてるよ……

[???] ……俺が……知ってるわけ……誰が……

[???] ……今……あいつらは……

[???] ……なんだ……お前は……はずじゃ……?

[ロドス外勤オペレーター] あっちの方にまだ残ってる人がいるみたいですね。こちらに呼んで一緒に休憩とります?

[ロドス外勤オペレーター] ?

[ロドス外勤オペレーター] (ロドスの人じゃない?)

[プロヴァンス] (町の人?)

[ロドス外勤オペレーター] (分かりませんが、変ですね。町民はみんなテントで休んでるはずですし、こんな遠くまで来て何をしてるんでしょう?)

[プロヴァンス] (こっそり近づいて見てみる?)

[町人] これで金は手に入るな、これからどうする?

[天災トランスポーター] 何が「避難に尽力しましたが力及ばず」だ、言う通りに演じたところでどうだ! 天災時に天災トランスポーターが現地にいたかどうか気付くかよ! *ヴィクトリアスラング*おかげで埃まみれだ!

[天災トランスポーター] しかも面倒なことになっちまった。箱ごと家の下敷きになったぜ、お前の言う金だよ金! 埋まっちまった! どうすんだ、お前が掘るのか!?

[町人] それは……

[町人] ……ていうかさ、こんなに派手な事になって、本当に大丈夫なのか……?

[天災トランスポーター] ちっ、今頃何を言ってやがる? 今こそ逃げるのに絶好のチャンスだろうが! この混乱ぶりが見えないのか? とっとと掛れ、金を掘り出したら今晩中に逃げるぞ!

[天災トランスポーター] 国を変えて名前を隠せば、その金でしばらく遊べる。今は天災も多いし、金儲けの道は減りゃしねぇって!

[町人] 分かった……

[天災トランスポーター] グズグズするな、箱を掘り出してこい! てめえのせいでこんなボロボロな羽目になったんだぞ、その上まだ俺にやらせるつもりか?

[ロドス外勤オペレーター] (あいつら……!)

[ロドス外勤オペレーター] (誰も信じなかったどころの騒ぎじゃない。あいつら、町の人に一切知らせなかったんだ!)

[ロドス外勤オペレーター] (あいつら……どれだけの人命を奪ったんだ!)

[プロヴァンス] (待って、軽はずみに動いちゃだめ……!)

[ロドス外勤オペレーター] そこを動くな!

[町人] 何者だ!?

[天災トランスポーター] その制服……あの救助組織かなんかの……

[ロドス外勤オペレーター] 俺が誰かは関係ない。だがお前らは逃がさないぞ!

[ロドス外勤オペレーター] 職務を放棄して、それでも天災トランスポーターか!?

[天災トランスポーター] ……

[町人] こいつ! まさかさっきのを聞いて……? だったら口封じするしか……!

[プロヴァンス] ……はぁ。

[プロヴァンス] こちらプロヴァンス小隊、ロドス本艦応答願います。位置683、447にて、外勤小隊の支援を要請します。

[プロヴァンス] 僕たちの目的は単にこいつらを足止めすることだよ……やりすぎないでね。

[ロドス外勤オペレーター] プロヴァンスさん、調査班から結論が出ました……

[ロドス外勤オペレーター] ……

[プロヴァンス] どうしたの? 浮かない顔して。

[ロドス後方支援オペレーター] つまり、こういうことだ。発生した事件については、すでにご存知だな?

[ロドス後方支援オペレーター] 問題はこうだ。事実上、この天災トランスポーターは天災を事前に通知している。ただしその相手は貴族だけだがな。奴の過ちと言えば、本来なら避難できたはずの多くの人を見殺しにしたことだけ。

[ロドス後方支援オペレーター] だが知っての通り、貴族というのは……領地に税金を納められる人さえ居れば、いくら人死にが出ようが気にしないものさ……

[ロドス後方支援オペレーター] あの二人は貴族側についている。コネと金を駆使すれば起訴すら難しいかもしれない。

[ロドス後方支援オペレーター] 俺たちは明後日にはここを離れる。今回の停泊は救援活動のためであり、あの天災トランスポーターの裁判に介入する時間はない。

[プロヴァンス] ……つまり、この件はうやむやになるってこと? 手出しをしてもいい結果にならないからって、遠まわしに諦めろと?

[ロドス後方支援オペレーター] いや……諦めさせたいわけじゃないが……

[ロドス後方支援オペレーター] 待った、まるで俺が悪者みたいじゃないか……

[ロドス外勤オペレーター] そんな話、聞きたくありません……

[ロドス外勤オペレーター] あの人たちは死ななくてよかったんです。一人も死ななくてよかったんですよ! お、俺は……

[ロドス後方支援オペレーター] ……

[ロドス外勤オペレーター] 奴を起訴するかは別にして、俺はこの目であの人たちのことを見たんです……一切死ぬ必要がなかったあの人たちを見たんですよ……

[ロドス外勤オペレーター] それでも俺たちは黙って去るしかできないんですか? 奴らに償わせる手立てはないって言うのですか?

[ロドス後方支援オペレーター] そうだ……だが、訴訟はあとできちんと起こすさ。

[ロドス後方支援オペレーター] 資料の準備は整っている。ただ最終的にどうなるかは、本当になんとも言えない。結果が思わしくないと分かっていながら、干渉するためだけに、それほど長く待つことはできない。

[ロドス外勤オペレーター] ……あまり期待して欲しくないから、前もって説明をしてるのですね……

[ロドス外勤オペレーター] ……俺が簡単に考えすぎていました。

[ロドス外勤オペレーター] ……

[ロドス外勤オペレーター] だったら、訴えを起こして何になるんですか? 奴らが命で償う事はありませんし、金を払えばすぐに逃げられる。連中にとっては痛くも痒くもありません。かえって俺たちが馬鹿みたいだ。

[ロドス外勤オペレーター] *スラング*、それじゃ全員無駄死にじゃないか、クソッ。

[ロドス後方支援オペレーター] はぁ……

[ロドス後方支援オペレーター] ……確かに、やりきれないな。

[プロヴァンス] ……考えすぎはやめよう。自分のできることをするまでだよ。

[プロヴァンス] 資料を貸して。明後日の朝出発なんだよね?

[ロドス後方支援オペレーター] 10時頃の予定だ。

[プロヴァンス] 分かった。

[プロヴァンス] 明後日だけど、とりあえず本艦と一緒には出発しないことにする。

[ロドス後方支援オペレーター] ……何をされるおつもりで?

[プロヴァンス] 僕がやるべきことを……僕にできることをやるだけだよ。

[プロヴァンス] こんにちは。失礼します、この地方の裁判官さんですよね? 僕はロドスのオペレーター、プロヴァンスと――

[現地の裁判官A] ――邪魔だ、あっちへ行け!

[現地の裁判官A] ワシが家を修理してるのが見えないのか!

[プロヴァンス] お忙しいところすみません、ちょっと聞きたいことが――

[現地の裁判官A] 邪魔するなと言っただろう!

[プロヴァンス] 僕はただ……あ……

[プロヴァンス] すみません、どなたかいませんか? 僕はロドスのオペレーター、プロヴァンスと申します。

[プロヴァンス] すみませーん!

[プロヴァンス] 誰もいないのかな……

[???] よし、行ったぞ。こういう時はむやみにドアを開けるな! ろくなことなんてありゃしないぜ……全く、縁起でもない。

[プロヴァンス] わざわざ出てきてくださりありがとうございます! こちら、今回の天災に関する資料を持ってきたんですが、ロドスはあなたに天災トランスポーター・ビニロンの裁判を……

[プロヴァンス] あ!

[プロヴァンス] ……

[現地の裁判官B] 訴訟だと? 私が? 天災トランスポーターの件なら高等裁判所に報告して、そちらで扱わないと……

[プロヴァンス] 分かっています。ですが、まずは聞いてください! どうかこの資料を見てもらえませんか?

[現地の裁判官B] ……ひとまず見てみよう。

[プロヴァンス] ……つまり、ですね。現在彼ら二人はロドスにいますが、僕たちには彼らを長く拘束する権利がありません。それに、明後日にはここを離れます……

[プロヴァンス] もし高等裁判所に任せれば、恐らく貴族は訴えを起こさないでしょうね。この資料にも書いてありますが、事件はうやむやのまま、葬り去られると思います。

[プロヴァンス] 天災を利用してお金を儲け、人命を軽視して、天災の怖さを知っていながらわざと人々に通知しないなんて、並みの悪意でできることではありません!

[プロヴァンス] あんな災難も、彼にとっては金儲けの手段に過ぎないんです。法の支配の下で裁きを受けさせなければ、またどこか行く先で、さらに多くの人命を奪うことになる。そうならないと誰が言えますか……

[現地の裁判官B] 分かった……

[現地の裁判官B] ただ……私が現地で立案したとしても、上級機関へ渡した後に、何らかの原因に迫られて最終的には水に流されることもあり得るが……

[プロヴァンス] 僕が町の人たちに働きかけてみます! 現地の人たち、それから他の町の人たちとも連携をとって、うまくやってみせますよ!

[現地の裁判官B] いいだろう……

[現地の裁判官B] ならば、私も努力してみよう。現状を鑑みるに……おおよそ半月後には、上級裁判所への申請が受理されるだろう。

[プロヴァンス] 分かりました。タルさん、本当にありがとうございます! 戻ったらすぐあの二人を当局に引き渡しますね、後のことはよろしくお願いします。何か進展があれば、ぜひお知らせください!

[プロヴァンス] ここが生き残った町民たちの臨時避難場所か……

[プロヴァンス] みなさん、お邪魔します。聞いてほしいことがあるんです!

[町人A] なんだなんだ?

[町人B] お、紫色の娘さんじゃないか! 彼女ともう一人の青年が私を助けてくれたんだよ!

[プロヴァンス] 僕は天災トランスポーターで、今回の救援活動に参加したロドスのオペレーターです。先ごろの地震は天災でしたが、この地区の天災トランスポーターは、皆さんに通知をしていませんでした!

[町人B] なんですって?

[プロヴァンス] 彼は天災を利用して、皆さんの命をお金に換えました。昨日、そのお金を持って逃げようとしていたんです!

[町人A] なんだとぉ!?

[町人A] そいつは今どこにいる!

[町人A] 絶対にブッ殺してやる!

[プロヴァンス] 今回の案件は、タル裁判官が審議してくださることになりました。ただ、貴族たちはこれをうやむやにして、あの二人を法の裁きから逃がすでしょう。そこで、皆さんにお願いがあります――

[プロヴァンス] みんなで一致団結して、貴族がこの件に手出しできないようにしませんか?

[町人A] ああ! 嬢ちゃん、あんたたちは命の恩人だ。何であれ、俺たちはついていくぜ!

[町人B] でも、一体どうやって……私たちの言うことなんて、貴族が聞くわけないだろう?

[町人A] 嬢ちゃん! 俺たちじゃ頭数が足りないぞ!

[プロヴァンス] そこに、近隣の町の人たちも加わったらどうです?

[町人B] お嬢さん……それだとありがたいけどね、隣町の人らを説得するのは難しいと思うよ。

[町人A] そうだな、俺たちを助ける理由がないもんな!

[プロヴァンス] それは……僕が何とかするよ!

[プロヴァンス] ここが町の中心だね。

[プロヴァンス] こんにちは。すみません、僕は隣の町から……

[町人A] 誰だ? こっちは忙しいんだ、どいたどいた!

[プロヴァンス] 隣の町は天災で……

[町人A] 天災がどうしたって? 俺たちの町もやられたよ。町の半分が崩れちまった。こっちは無事だとでも思ったか?

[プロヴァンス] ですから本来なら避けられたのに、隣町の天災トランスポーターが――

[町人A] ああもういいから、忙しいって言ってるだろ!

[プロヴァンス] ……

[プロヴァンス] こんにちは。隣の町は天災トランスポーターが報告を隠蔽したせいで深刻な被害が出ています。僕たちはあなた方の支援を得て、貴族たちがこの案件に手出しをしないように……

[町人B] お嬢さん、冗談を言っているのかしら?

[プロヴァンス] いいえ、本気です! 僕たちはこの案件を上へ提出する予定で、もしよければ……

[町人B] 寝言は寝てからにしてしてちょうだいな。

[プロヴァンス] はい、つまりそういうことで……あの、よろしければ僕たちを支援していただけませんか? 本当に、あなたの助けが必要なんです……

[プロヴァンス] いいんですか? 本当にありがとうございます! これが僕の連絡先です。おおよそ半月後に、もう一度連絡をしますね!

[プロヴァンス] お願いします!

[プロヴァンス] こんにちは、よろしければ……

[プロヴァンス] お邪魔してすみません……

[プロヴァンス] 本当にありがとうございます。おおよそ半月後に、再度連絡をしますね!

四ヶ月後

[ロドストランスポーター] プロヴァンス! 君宛ての手紙だよ――

[プロヴァンス] 今行くよ~!

[プロヴァンス] 誰からの手紙だろう……

プロヴァンス様\r\n\r\n私はタルと申します。以前あなたが救援活動を行った町の法官です。私は今、感動を胸にこの手紙を書いています。この手紙があなたの手に届く日が待ち遠しいです。

努力の甲斐あって、ビニロンたちには死刑判決が下されました。二日後の朝に、再建された町の中心で死刑が執行されます。彼らが得た金銭は災害復興に使用され、すべては少しずつ好転しています。

町の皆さんから、よろしくお伝えくださいとのことです。ご助力いただき誠にありがとうございました。あなたとロドスに祝福を。旅路の安全を心よりお祈り致します。\r\n\r\nタル

[プロヴァンス] ……

[プロヴァンス] これ見て。

[ロドス外勤オペレーター] なんです?

[プロヴァンス] あの地震があった村のこと覚えてる? 彼らからの手紙だよ。

[ロドス外勤オペレーター] ……

[ロドス外勤オペレーター] あの人たち……彼らは本当に……

[ロドス外勤オペレーター] 本当にやり遂げたんですね?

[プロヴァンス] ……うん、やり遂げたよ。

[ロドス外勤オペレーター] 本当に……本当に裁きが下ったのか……

[ロドス外勤オペレーター] 俺っ、うぅっ……

[ロドス外勤オペレーター] 全然予想してませんでした。俺、絶対に無理だと思ってたのに、プロヴァンスさん……

[プロヴァンス] 涙で顔がグチャグチャだよ~。ほら、早く拭いて。

[ロドス外勤オペレーター] うっ……う、あ、ありがとうございます。

[ロドス外勤オペレーター] プロヴァンスさん、しばらく艦に帰ってきませんでしたが、このために走り回ってたんですか?

[プロヴァンス] まぁーそんなところ? ちょっとだけ根回しをね……

[ロドス外勤オペレーター] 知りませんでした……俺は、俺はただ落ち込んでいただけなのに、あなたは……

[ロドス外勤オペレーター] ……自分が不甲斐ないです。

[プロヴァンス] そんなこと言わないで! 本当なら、その後のことは僕らが手出ししちゃいけないところだしね。

[プロヴァンス] あれは僕のワガママ。ことをうやむやにされるのは、黙って見ていられなかったんだよ。

[プロヴァンス] それに……いい結果が出たところで、天災で命を落とした人たちはもう帰ってこない。どうしたって手遅れなんだ……

[ロドス外勤オペレーター] ……

[プロヴァンス] ああもう、この話はやめ! 今度暇ができたら、またあのおばあさんのお墓参りをしようよ。

[ロドス外勤オペレーター] ……俺、おばあさんの墓前に、黄色い石をお供えします。飼っていた羽獣に見立てて……

[プロヴァンス] うん、そうしよう。きっと喜んでくれるよ!

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