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安全祈願
「春乾」の救助活動に初めて正式に参加したマルベリーは、そこで思いがけず過酷な自然災害に直面する。危機を目の前にして、彼女は見事に恐怖に打ち勝ち、自らの任務を完遂するのだった。
ダメだ……進むのはもうよそう。山道は曲がりくねっているし、これ以上進めばかえってあの雲に近付いてしまうかもしれんしな。
見ろ、みんな路肩に停まっているぞ。最早あの天災雲がこっちへ来ないよう祈るほか、できることなんてない。
寧寧(ニンニン)、窓を開けてきょろきょろしちゃダメよ。ほら、この護符を持って隠れていなさい。
パパ、ママ、ほんとに……天災が来るの? で、でも……天災トランスポーターのお知らせなんてなかったよね?
ああ、天災トランスポーターにも予測できない災害があるのさ。
大丈夫よ、きっと大丈夫だからね……ニンニン、あなたはパパとママが守るから。
[グ・ニンニン] うっ……すごい風です……
[救援隊隊長] 雪が止んだだけまだマシよ。幸い、向こうの天気は快晴、これだけでも遭難者の捜索がだいぶ楽になりそうね。
[救援隊隊長] あたしたちに助けを求めてきた商会の話では、失踪したキャラバンが最後に信号を発したのは、ここから北に二百里進んだところ――商会が設置した冬季臨時ベースだそうよ。
[救援隊隊長] ただ昨夜の大雪の影響でベースも通信障害を起こしてるみたい。だからまずはそこへ行って状況を確認しなくちゃね。
[救援隊隊長] みんな、機材の点検と防護服の確認はもう済んでる?
[救援隊隊長] 問題なければ、機材を車に搬入して。雪道は滑って危ないから、進行ルートをよく確認するように。
[グ・ニンニン] あ、あの、すみません。凍傷と低体温症に使う医薬品は、私が準備したもので足りているでしょうか?
[グ・ニンニン] 研修課程でとったノートを見て準備したんですが、私は実務経験があまりないので、これでいいのかちょっと自信がなくて……
[救援隊隊長] あなた、正式に救助活動に参加するのは初めてなのね?
[グ・ニンニン] は、はい! 皆さんの足を引っ張らないよう、精一杯頑張りますので……
[救援隊隊長] あはは、そう緊張しないで。研修を無事に終えて、「春乾(しゅんけん)」の正式メンバーになれたってことは、あなたには救助活動をこなせるだけの能力が備わっている証拠よ。
[グ・ニンニン] は、はい……
[救援隊隊長] ……うん、薬剤と機材の種類はバッチリ、数も足りてるわ。
[救援隊隊長] これは……
[グ・ニンニン] それは、お手紙です……
[グ・ニンニン] 出発前におっしゃってましたよね。どんな任務であっても、帰ってこられない可能性はあるから、そのつもりでいるようにって。だ、だから……両親に手紙を書いて残しておこうかなって。
[救援隊隊長] あー、あれは正直言うと、冗談半分だったんだけどね。でも、きちんと心の準備をしておくのはいいことだと思うよ。
[グ・ニンニン] はい――えっ?
[救援隊隊長] どう? あたしの手、温かいでしょ? 熱を出すアーツがちょっとだけ使えるんだ。
[救援隊隊長] さっきからずっとブルブル震えてたから……これで少しは温まったかしら?
[グ・ニンニン] あっ、はい……あのでも、震えてたのは寒いからじゃ……
[救援隊隊長] あははっ、まあまあ。さてと、気分が落ち着いたら出発よ。
[救援隊隊長] 暴風のせいで救助活動に深刻な影響が出てるわ。山地を徒歩で捜索する際は、必ず救助規則に則って動いてちょうだい。くれぐれも無理は禁物よ!
[救援隊隊員] 隊長、雪も酷くなってきました! 気象予測とは異なる状況です!
[救援隊隊長] 臨時ベースはもう目の前よ。到着したら真っ先に通信基地局を修復して、司令部に連絡して状況確認を行いましょう。
[救援隊隊長] もしも悪天候が続くようなら……
[グ・ニンニン] ……救助活動の中止も考慮しなければなりません。
[救援隊隊長] ええ、現場に入る時刻を遅らせる必要があるわ。
[???] 誰か……誰かいるのか? ……助けてくれ……
[グ・ニンニン] あっ! あそこ!
[若い遭難者] ……救援隊か? つ、ついに救援隊が助けに来てくれたのか?
[若い遭難者] ……頼む! 両親を助けてくれ! それとキャラバンのみんなも……全員まだ雪の中にいるんだ!
[救援隊隊長] ええ、あたしたちは元よりそのつもりで来ているわ。
[救援隊隊長] ニンニン、彼はひどい凍傷を負ってる。看護と栄養補給が必要よ。転んだ痕跡もあるから、骨折の有無も確認して。
[グ・ニンニン] 分かりました!
[救援隊隊長] それじゃ、ゆっくりでいいから話してみて。他の人たちはどこにいるの?
[若い遭難者] わ……
[若い遭難者] (首を強く横に振る)
[若い遭難者] ……分からない。みんな、吹雪の中ではぐれてしまったんだ……俺は歩いているうちに、みんながいなくなったのに気付いて、それでベースに戻って来た。
[若い遭難者] だから、何がどうなったのか、さっぱりで……
[グ・ニンニン] えと、でしたら、通ってきた場所で吹雪による雪崩の発生などはありましたか? 分かる範囲でいいので教えてください。
[若い遭難者] それは……ないはず。雪崩の音はしなかった。
[若い遭難者] だけど断言はできない。風の音が強すぎて、聞き逃した可能性も……
[若い遭難者] いや! 仲間は絶対に無事だ。みんな百戦錬磨の商人たちだぞ。十一人もいるキャラバンで、生き残りが俺だけのはずがない!
[救援隊隊長] ええ、そうね……
[グ・ニンニン] (隊長……)
[グ・ニンニン] (風の音……うなり声みたい。それに寒くてさっきから歯がカチカチ言ってる。)
[グ・ニンニン] (この視界の悪さじゃ、山奥へ入る危険を差し引いても、遭難者を探すなんてほとんど不可能。)
[グ・ニンニン] (ドローンは飛ばせないし、電波も十分には拾えない。サーチライトで探せる範囲にも限界がある。)
[グ・ニンニン] (でも、経験豊富なキャラバン隊員なら、きっとあらゆる手を尽くして救難信号を出してくるはず。)
[グ・ニンニン] (もし彼らが信号旗を掲げていたり、緊急ホイッスルや非常信号灯を使ってくれれば、発見の確率はかなり高まる。)
[グ・ニンニン] あっ、動かないで! 検査がまだ終わっていませんよ!
[若い遭難者] 何だか元気が出てきた気がするんだ。皆を探しに行かないと。
[グ・ニンニン] いけません! 体温が少し回復してきたのでそのように感じてるだけです!
[グ・ニンニン] それに先ほど検査してわかりましたが、あなたは両足首を捻挫しています。寒さのせいで痛覚が鈍っているんですよ。おとなしく座っていてください!
[若い遭難者] 心配すんな、放っておいてくれ。あんたらが助けに行かないなら、俺が自分で行くまでだ。
[若い遭難者] グッ……!
[グ・ニンニン] た、隊長……怪我人を抑え込みました……!
[グ・ニンニン] だけど、どうすれば……遭難者たちは、きっとまだ雪の中で私たちを待ってるはず……
[救援隊隊長] ……通信基地局の復旧はまだなの?
[救援隊隊員] もう少しお待ちを……電波が拾えました!
[救援隊隊員] 隊長、司令部との通信が回復しました。ただ通信状況は依然として不安定です。
[救援隊隊員] 司令部の観測と分析によれば、今後の二時間ほどは降雪量が減少する見込みです。でも、長期的な天候は予測できないとのことです。
[救援隊隊長] それで十分よ。
[救援隊隊長] ニンニン、あなたはここに残って基地局の監視を続けて。それとテントの修復もお願いね。終わり次第負傷者を収容してちょうだい。
[救援隊隊長] あたしたちとインカムの回線はずっと繋げておいて。司令部からのリアルタイムの情報がないと、今後の判断ができないからね。
[グ・ニンニン] わ、分かりました!
[グ・ニンニン] では皆さん……
[グ・ニンニン] くれぐれもお気をつけて。
真っ黒な岩が落下し、山肌に大きな裂け目を作る。
砂礫が滝のように絶え間なく降り注ぎ、轟音が谷間に響き渡った。
女の子は口を押さえながら、谷の向こう側の道路を走る車や、山麓の村の家々が崩れ落ちる土石流に飲み込まれていく様を、ただ呆然と眺めていた。
[グ・ニンニン] ふぅ……これでよしと。
[グ・ニンニン] 薬草は塗っておきましたので、腫れはすぐに治まるはずです。体温も正常な状態に回復していますよ。
[グ・ニンニン] あっ、それから、絶食状態がかなり長いので、しばらくはまだ固形物を食べない方がいいでしょう。ひとまず点滴でエネルギーを補給しておきますね。
[グ・ニンニン] 司令部との通信は繋がりましたから、あとはここで待っていれば大丈夫です。
[若い遭難者] ああ……ありがとう。
[グ・ニンニン] (隊長はきっと、最初から見抜いてたんだ。私が怯えていたことに……だから私をここに残した。)
[グ・ニンニン] (任された仕事もとても重要だし、誰かがやらなきゃいけないってことは分かってる。それに、一番この役割にふさわしいのは現場経験の少ない私。)
[グ・ニンニン] (だけど、隊長の指示を聞いた時、口惜しさとか不満とかよりも、まずほっとしてしまった自分がいた……)
[グ・ニンニン] (情けない……救急隊の一員を名乗るのも恥ずかしいよ。こんな調子じゃ、憧れの仕事をちゃんとやり遂げられるって、パパとママに証明することもできない。)
[グ・ニンニン] ――あっ、す、すみません!
[若い遭難者] うーん……ハッ!
[グ・ニンニン] ごめんなさい、でも今は眠らないでくださいね!
[グ・ニンニン] 測定機器がないので、もう暫くこうしてあなたの身体機能の状況を観察する必要があるんです。
[若い遭難者] ああ……分かった。ただちょっと、くたびれただけだ。俺も……眠りたくはない。
[若い遭難者] 今眠ったら、きっと悪夢を延々とみることになるからな……
[グ・ニンニン] そ、それなら、私と少しお話でもしてみますか? 今は通信状況を監視してるだけなので、話す分には支障ありませんよ。
[グ・ニンニン] ……はぁ。
[若い遭難者] ずいぶん顔色が悪いな。
[若い遭難者] あんたは救助のプロだ。だから正直に教えてくれ。皆はもう……助からないんだろ?
[グ・ニンニン] えっ? ああ、今のはそういう意味じゃなくて、少し他のことを考えていただけです……
[グ・ニンニン] ごめんなさい、こんな時に考え事だなんて。
[若い遭難者] いや、謝るのは俺の方だ。
[若い遭難者] さっきは少しカッとなって、あんたらに八つ当たりしてしまった。
[若い遭難者] 本当は俺……怖いんだ。
[若い遭難者] 俺はな、自分がもうキャラバンの足を引っ張るような未熟者じゃないことを両親に証明したくて、無理言って今回のルートに入れてもらったんだ……
[若い遭難者] だから、もし皆に何かがあったら……全部俺のせいになるんじゃ……
[グ・ニンニン] そんな……大雪が降ったのは、誰の責任でもないと思います……
[若い遭難者] でもこんな大雪が降ったこと自体、何だか俺のせいって気がしてるんだ。
[若い遭難者] じゃなきゃ……誰のせいだって言うんだよ? お天道様か?
[若い遭難者] ……風が強くなってきたな。
[グ・ニンニン] ……ええ、強くなってきましたね。
[グ・ニンニン] お気持ち、少しだけ分かる気もします……実は私のこの仕事も、親に危険だと反対されてるんです。何せ「天に不測の風雲あり」と言いますし、いつ何が起こるかわかりませんから。
[グ・ニンニン] だからこっそり家を出て来ちゃいました。それ以来ずいぶん経ちますけど、二人からは一通の手紙も届きません。
[グ・ニンニン] もし私の身に何かあって、用意した手紙が故郷に届いたら……二人がどんな反応をするのかもわかりません。
[グ・ニンニン] 知りたくも、ありませんが……
[救援隊隊員] ニンニン、ニンニン! 聞こえるか?
[グ・ニンニン] あっ、はい!
[救援隊隊員] 司令部に報告してくれ。こちらで表層雪崩の痕跡を確認した。サーモグラフィーによる探索の後、雪面の下に熱源を検知できたが、呼びかけても返事がない。
[救援隊隊員] 状況に基づき救難計画を立てたい。司令部の支援を要請する。
[グ・ニンニン] 了解です!
[グ・ニンニン] 気温……風の強さ……埋没深度……積雪状況……はい、全て記録しました!
[グ・ニンニン] いま司令部に連絡しました。後方で技術チームのメンバーたちが準備に取り掛かっているはずです。私が情報を中継します!
[グ・ニンニン] それから……夜半から吹雪がもっとひどくなるそうなので、それまでには帰還してくださいね。
[グ・ニンニン] ――今の聞こえてましたか? 北西の方向に進んだ小隊が遭難者を見つけたそうですよ!
[グ・ニンニン] ……あれ、寝ちゃってる。さっき、普通に大きい声で話しちゃった……
[グ・ニンニン] うん、バイタルサインは正常。大丈夫そう。
[グ・ニンニン] ゆっくり休んでくださいね。
[グ・ニンニン] それじゃ、司令部を呼び出して――
[グ・ニンニン] えっ!
[グ・ニンニン] う、うそ! 通信がまた途切れてる! さっきの風で、基地局に影響が出たんだ……
[グ・ニンニン] ……
谷寧寧(グ・ニンニン)は思わず眠っている負傷者を見やった後、手に持ったインカムに目を向けた。
今、ここには彼女一人しかいない。周りに響くのは吹き荒れる冷たい風の音だけ。
[グ・ニンニン] (首を強く横に振る)震えないで! 震えてちゃダメ! 先輩を呼び戻して助けてもらおうなんて考えないで!
[グ・ニンニン] 余計なことは考えないで、ただ通信が途切れたことを現場のみんなに知らせて、すぐに整備に向かうんだ!
[グ・ニンニン] ふぅ……サーチライトにゴーグル、滑り止めグローブ、あと命綱。うん、全部揃ってるね。こんな時どうすればいいかは、研修でちゃんと習ってるからきっと大丈夫。
[グ・ニンニン] 後は……
グ・ニンニンはバッグから手紙を取り出すと、肌着のポケットに押し込んだ。
[グ・ニンニン] (テントは風の当たらない側にあるけど、基地局はあの出っ張った山のところ……記憶が正しければこっちね。)
[グ・ニンニン] (ううっ……風が強すぎる。吹雪のせいで何も見えない……)
[グ・ニンニン] (ってことは、大変、外に出てるみんなはもっと危険な状態にいるんだ。)
[グ・ニンニン] (だ、だったら、余計に焦っちゃダメだ。ミスは絶対に許されないんだから。万一何かミスがあったら……)
[グ・ニンニン] (ダメダメ、よそ見してる場合じゃないよ。足元をちゃんと見てないと!)
[グ・ニンニン] ……あっ、通信基地局の影がぼんやり見えてきた。よかった、目に見えるほどの大きな損傷はないみたい。
[グ・ニンニン] ほ、報告です、隊長!
[グ・ニンニン] 基地局の外部に損傷は見受けられませんでした。アンテナを確認してきます!
[救援隊隊長] 分かった。くれぐれも気を付けて。
[グ・ニンニン] はい!
[グ・ニンニン] よし……支点を確認、フックを掛け替えて……
[グ・ニンニン] (すごく、冷たい。)
[グ・ニンニン] (上を確認しようとしても、顔を上げた瞬間にゴーグルに雪が貼りついて、何も見えなくなっちゃう……)
[グ・ニンニン] (てっぺんはまだなの? もうどれくらい登ったんだろう? 演習で何十メートルもあるハシゴを登った時だって、こんなに長くは感じなかったのに……)
[グ・ニンニン] (支柱がグラグラしてる……風にあおられてるせい? それとも、私の足が震えているだけ?)
[グ・ニンニン] (インカムからずっと何か聞こえてくる。何隊かに分かれて互いに状況を報告し合ってるのかな。私がここでモタモタしている間に、もし不測の事態が起きちゃったら……)
[グ・ニンニン] (ダメダメ、そんな風に考えたらダメ! 私はやれる、きっと大丈夫……)
[グ・ニンニン] (自分のやるべきことだけ考えるの。そうだよ、怖がることは何もない。)
[グ・ニンニン] (命綱がしっかり固定されているのは、登る前にしっかりチェックした。)
[グ・ニンニン] (それに、万が一落ちたとしても、うまくバランスを取ってしがみつけば、下まで真っ逆さまにはならないはず。)
[グ・ニンニン] (集中して、一歩一歩進めば、何も問題はないんだから。)
[グ・ニンニン] ……着いた! 隊長、てっぺんに到達しました!
[グ・ニンニン] これより、警告灯の表示を確認し、故障した配線の位置を突き止めます!
[救援隊隊長] 了解。あたしが遠隔支援するから、問題が起きた配線をしらみつぶしに調査していきましょう。
[グ・ニンニン] りょ、了解です!
[救援隊隊長] 慌てないでいいわ、今はみんな比較的安全な状態にあるから。第二隊が二名の遭難者を発見して、いま臨時ベースに帰還しているところなの。
[救援隊隊長] 彼らと合流した後、互いに分担して作業を行えばいいわ。
[救援隊隊長] よくやったわね。
[グ・ニンニン] ……はい!
[グ・ニンニン] ふぅ、先ほどの女性の処置も終わりました。
[グ・ニンニン] 今のところ、救出した遭難者は全員命に別状ありませんね。本当に良かったです。
[グ・ニンニン] あぁ、夜も明けてきました。
[救援隊隊員] もうすぐ晴れるそうだ。日が昇ったら、救助も撤収も楽になるだろうな。
[救援隊隊員] よっしゃ、何だか元気が湧いてきたぞ! 手伝えることがないか、第三隊の様子をもう一度見てくるよ。
[グ・ニンニン] はい、お気をつけて!
[若い遭難者] ……皆はまだ戻らないのか?
[グ・ニンニン] あっ、勝手に歩かないでください! 簡単な応急処置を施しただけですから、安静にしていないと傷の治りが遅くなりますよ!
[グ・ニンニン] 「春乾」の皆さんなら、きっといい知らせを持って帰ってくるはずです。もう少し待ってみましょう。
[若い遭難者] あんたたち、どれだけ寝てないんだ?
[グ・ニンニン] え? えーと……たった一晩徹夜しただけなので、大丈夫ですよ。こんな緊迫した状況じゃ、どうせ眠れませんし……
[グ・ニンニン] やっぱり、命に係わる重要な仕事ですから、みんな張り詰めているんだと思います。遠隔から支援してくれている司令部の方たちも、一睡もしていませんしね。
[グ・ニンニン] あ、でも安心してください。救助活動には影響しませんから!
[若い遭難者] ああ……ありがとう。
[若い遭難者] あんた、どうして救援隊に参加しようと思ったんだ? 両親に自分を証明するためか?
[グ・ニンニン] えっ、いや……たぶんですけど、子供の頃に天災を直接目撃したのがきっかけだったと思います。本当に小さい頃の話ですが。
[グ・ニンニン] まあ、当時のことはほとんど覚えていないので、自分が具体的に何を思ったのかは分からないんですけどね。天災は今でもやっぱり怖いですし……
[救援隊隊長] ニンニン、復温処置の準備をしてちょうだい!
[グ・ニンニン] は、はい!
[救援隊隊長] この二人の遭難者を寝袋に入れる時は、十分注意してね。屋外環境でもなるべく体温を維持できるよう尽力はしたけど、まだかなり衰弱しているの。
[若い遭難者] ――父さん、母さん!
[グ・ニンニン] ご両親なんですか? よかった!
[若い遭難者] ありがとう……! 本当にありがとうございます!
[グ・ニンニン] 無事に助け出すことが……できたんだ。
[グ・ニンニン] そうだ、あの時……
女の子は、父の大きな手がすぐに自分の目を覆い隠してくれるだろうと思った。そして母は言うだろう。天災は恐ろしい、子供が見たり考えたりしちゃダメよ、悪夢になって出てくるからね、と。
しかし彼らはただため息をついて、女の子の手を握りしめた。
「ニンニン、目の前で起きる災厄をしっかり見て、胸に刻み込んでおくのも、勇敢なことよ。」
[グ・ニンニン] あの時、私はただ……すごく辛くて、怖くて、心細かった。でも同時に、今の光景をちゃんと胸に刻んでおきたかった。災厄がもたらす苦痛を、少しでも減らせられたらいいのにって、そう思ったの。
[グ・ニンニン] ……それを教えてくれたのは、パパとママだったんだね。
[若い遭難者] ……父さん、母さん、俺の声聞こえる?
[若い遭難者] 手をさすっててあげるよ、少しでもはやく温まるように……
[救援隊隊長] 嬉しいのは分かるけど、まずは落ち着いて。今のご両親に必要なのは呼びかけよりも、適切な医療処置よ。しっかり休んで回復した後でなら、いくらでもお話できるわ。
[救援隊隊長] それと、捜索は概ね完了したわ。他の小隊からの報告によれば、すでに遭難者全員の足取りが判明したそうよ。それぞれ効果的な手段で救難信号を発してくれていたおかげね。
[グ・ニンニン] よかった……これであの手紙も、もう必要なくなったかな。
[グ・ニンニン] ふぅ――これでようやく一息つける……
[グ・ニンニン] あっ、そうだ……あの、ちょっといいですか?
[若い遭難者] どうした?
グ・ニンニンは家の住所が書かれた封筒を開ける。
中身は、護符が一枚入っているだけだった。
[グ・ニンニン] その、これは一種のお守りで、平安無事と心願成就のお祈りが込められたものです。
[グ・ニンニン] あなたと、ご両親と、それからキャラバンの皆さんが元気になりますように……
[グ・ニンニン] 元々は実家に返すつもりだったんですけど、祝福と祈りは他の人に繋いでいくべきだと、今は思うんです。
[グ・ニンニン] それと……私もそろそろ家族にきちんと手紙を書かなきゃですね。
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