aklib_story_ハードなドリンク

ページ名:aklib_story_ハードなドリンク

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ハードなドリンク

散髪中、差し入れを持って来たアズリウスとグラウコスに会ったインディゴは、誤ってグラウコスの毒入りドリンクを飲んでしまった。友人のイメージを守るため、彼女は大胆な決断をした。


チョキチョキ……

チョキチョキチョキ……

[ゴールデングロー] インディゴさんの髪、本当に素敵で羨ましいです。長くて髪質もよくて、どうセットしても綺麗に見えますから。

[インディゴ] そうでしょうか? 正直なところ、私は同意しかねるのですが……

[ゴールデングロー] え、どうしてですか?

[インディゴ] 以前海辺に住んでいた頃は、潮風でいつも髪がじっとりしていたので……

[ゴールデングロー] インディゴさん、頭を少し左に向けてくれませんか――はい、そのままで動かないでくださいね。

チョキチョキ……

[インディゴ] ロドスに来てからは、髪が湿ることこそなくなりましたが……

[インディゴ] この数日は空気が急に乾燥し始めたので、髪を整えるのも一苦労になりました。

[ゴールデングロー] きっとロドスが乾燥地帯に入ったせいですね。

チョキチョキ……

[インディゴ] そうなんですか……

[インディゴ] ええ……きっとそのせいですね。

[インディゴ] だから最近は、髪が静電気を帯びてきちゃって。

チョキ。

[ゴールデングロー] こんなサラサラの髪の毛でも静電気が起きるんですか? どれくらいですか、かなり酷いんでしょうか。

[インディゴ] そうですね……朝、髪をブラッシングする時はまるで……

[ゴールデングロー] まるで?

[インディゴ] ええと、似ているもので言うと……

[インディゴ] まるでD32鋼みたいになります。

[インディゴ] 髪の短いところなんて、RMA70-12みたいに、逆立ってしまう時もあるんです。

パチッ。

[インディゴ] あれ、また髪の静電気ですか?

[ゴールデングロー] あっ、いえ、今のは違います……

[ゴールデングロー] ――でもまさかインディゴさんが静電気に悩まされていたなんて、知りませんでした!

[ゴールデングロー] 静電気は髪に大きなダメージを与えてしまうんですよ……私もそのせいで大変だったんですから! こういう問題は放置しちゃダメです。きちんと解決しないと!

[インディゴ] あの……そんなに恐ろしいものなのですか?

[ゴールデングロー] 短い期間ならあまり心配はありませんけど、ずっとこの状態が続いてしまうと、髪がバサバサになって、切れ毛とか抜け毛が酷くなっちゃうんです。

[ゴールデングロー] それにインディゴさんはイベリア人で、以前は海辺に住んでいて髪がいつも湿っていたとおっしゃってましたよね。

[インディゴ] あっ、はい。

[ゴールデングロー] でしたら、なおさら気を付けなきゃダメです。髪が湿った環境に慣れちゃってますから、急に乾燥した場所に来たら、人一倍にダメージを受けちゃいますよ。

[ゴールデングロー] よければ、支援部が開発したこの静電気防止トリートメントを使ってみませんか? 優れた保湿効果があって、乾燥しやすいインディゴさんの髪質にはピッタリだと思います。

[インディゴ] あ……とてもいい香りがしますね。

[インディゴ] おいくらですか?

[ゴールデングロー] お金は大丈夫ですよ!

[ゴールデングロー] これはお試しセットです。まずは使ってみてください。もし使い心地がよかったら、あとで支援部に申請すれば、無料で製品版をくれますから。

[インディゴ] アズリウスさん、それにグラウコスさん? こんにちは。

[アズリウス] インディゴ、それにゴールデングローさん、ごきげんよう。

[ゴールデングロー] アズリウスさん、グラウコスさん! こんにちは。

[アズリウス] インディゴの理髪には、少し時間がかかるかと思いましたので、おやつを持ってきましたの。

[インディゴ] ありがとうございます。ちょうどカットが終わるところですので、トリートメントはそれを頂いてからにしましょう。

[グラウコス] ゴールデングローさんもいかがですか? アズリウスさんが作ったデザートはとっても美味しいですよ。

[ゴールデングロー] え……えっと、アズリウスさんのデザートは是非食べてみたいんですけど……この青い色のケーキは一体……

[アズリウス] ご安心を、作り方はそれほど特殊なものではありませんのよ。色付けの材料も一種類しか使っていませんわ。

[ゴールデングロー] 一種類だけ? でもこの深い青色……ケーキの生地をこんな色に染められる食材なんて本当にあるんですか?

[グラウコス] おそらく、あまり知られていない、一度にたくさんは食べられない類の素材でしょう。

[ゴールデングロー] えっ――えぇ!? まさか、まさか――いや、違う。あれはこんな色じゃ……

[ゴールデングロー] もしかして私が聞いたこともない何か……

[グラウコス] ごめんなさい、ちょっと冗談が過ぎましたね。

[グラウコス] ゴールデングローさんが想像しているようなものは入っていませんので、安心してください。これは、よくある食材なんです。

[ゴールデングロー] じゃあケーキの生地を染めたのは……

[インディゴ] 食用の色素ですよ。

[ゴールデングロー] ――色素?

[インディゴ] はい。

[インディゴ] アズリウスさんはデザートの色にこだわりがあるんです。一般的な食材で思ったように色を出せない場合は、こんな風に食用の色素を使うんですよ。

[ゴールデングロー] ふぅ……

[ゴールデングロー] 今、こういう色を出す果物は何だろうってずっと考えていたんですけど……やっぱり毒のあるものしか思いつかなくて……

[ゴールデングロー] じゃあアズリウスさん、一つ食べてみてもいいですか?

[アズリウス] もちろんですわ。どうぞ召し上がれ。

[ゴールデングロー] では、いただきますね。

[ゴールデングロー] ……

[ゴールデングロー] (もぐもぐ)

[ゴールデングロー] (目を輝かせる)

[ゴールデングロー] すっごく美味しいです! アズリウスさん、もう一ついただいてもいいですか?

[アズリウス] ええ、いくらでもどうぞ。

[アズリウス] お飲み物も用意してありますわ。このバラ色のをどうぞ。甘いものにもよく合って――

[ゴールデングロー] わっ? 何が起ったんですか!?

[アズリウス] 停電みたいですわね。

[グラウコス] ちょっと電源回路の様子を見てきますね。皆さんはここにいてください、すぐに戻りますから。

[ゴールデングロー] どうして急に停電なんて……もしかしてまた私の静電気のせい?

[インディゴ] ゴールデングローさんのせいじゃないと思います。

[ゴールデングロー] そうなんですか?

[インディゴ] 先ほど散髪していただいた時、一度もビリッとはしなかったのですから、多分違うと思います。

[ゴールデングロー] ……実は一回だけあったんです……

[インディゴ] そうだったのですか?

[アズリウス] 静電気が原因で停電したということはないでしょうけど、どこかの回路がショートしてしまった可能性はありますわね。

[インディゴ] そうかもしれませんが――あっ、そうだ!

[ゴールデングロー] あれ、直ったんでしょうか?

[アズリウス] いいえ、これはインディゴのアーツですわ。

[ゴールデングロー] 確かに電気の明かりとは違いますね。色合いも全然違いますし、なんだか暖かいです。

[ゴールデングロー] でも、それじゃあインディゴさんの負担になっちゃうんじゃないですか?

[インディゴ] 私なら平気ですよ。

[アズリウス] 疲れを感じたら、いつでもわたくしのところに来てくださいまし。糖分と水分を補給できますわ。

[インディゴ] 私は以前、灯台の守り人をしていたんですよ。設備がなくても、これぐらいの明かりを灯し続けるのは簡単です。心配はいりません。

[インディゴ] 私が部屋を照らしていますから、お二人は故障した電化製品がないか見てくれませんか?

[ゴールデングロー] はい。では照明はお願いしますね、インディゴさん!

[ゴールデングロー] えーっと、ドライヤーにバリカン、加熱器に……

[アズリウス] こちらにあるのは給湯器、それとテレビですわね……

[インディゴ] アズリウスさん、少し喉が乾いたので、飲み物をいただいてもいいですか?

[アズリウス] ええ。バラ色の方を飲んでくださいましね。

[インディゴ] いただきます。

[ゴールデングロー] アイロンはどうかな……うん、大丈夫そう。こちらの方はどれも問題なさそうです。

[アズリウス] こちらも異常はありませんでしたわ。ということは、やはり外で何かあったのかもしれませんわね。ひとまずグラウが戻ってくるのを待ちましょう。

[アズリウス] インディゴ、もうアーツは結構ですわ。少しお休みになって。

[インディゴ] ……

[アズリウス] インディゴ?

[インディゴ] やっぱり少しは明かりがあったほうが落ち着きます。

[インディゴ] 光は人に希望を与えてくれると、先生から教わりました。

[インディゴ] 灯台を守っていた頃も、先生と私はできるだけ長い時間、明かりを灯し続けるようにしていました。

[アズリウス] あなたがしんどくないのであればいいのですわ。

[インディゴ] 大したことはありませんよ。

[ゴールデングロー] 停電といえば……昔ヴィクトリアで学校に通っていた時、夜に停電したことがあったのを思い出しました。

[インディゴ] それは困ったでしょう?

[ゴールデングロー] 一生懸命勉強に励んでいる学生さんたちは困ったでしょうね。だから勉強を続けるためにロウソクをつけていました。

[ゴールデングロー] でも、ほとんどの学生にとって停電はお休みたいなものですから、すぐにみんなで集まってお喋りをしたりしてましたね。

[ゴールデングロー] ロウソクの周りに集まって話しながら、こっそり教室に持ち込んだおやつをみんなで食べて……なんだか今の私たちと似てますね。

[インディゴ] なら……明かりを消しましょうか?

[ゴールデングロー] あ、いえ、ロウソクがなければ教室は真っ暗になっちゃいます。みんなも困ってしまいますから。

[インディゴ] それもそうですね。

[グラウコス] 戻りました。話を聞いてきたんですが、どうやら一時的に電力供給が不足していたようです。すぐに回復――

[グラウコス] ――しましたね。

[インディゴ] ふぅ。

[アズリウス] ならば、わたくしたちもそろそろお暇いたしましょうか。おやつはここに置いておきますわね。

[ゴールデングロー] お二人ともありがとうございます! もし理髪が必要になったら、いつでも私に任せてくださいね!

[アズリウス] ええ、きっとグラウがそうさせていただきますわ。

[アズリウス] でもわたくしは遠慮させていただきます。確率が低いとはいえ、わたくしと直に接触することは危険ですもの。用心をするに越したことはありませんわ。

[ゴールデングロー] そうですか……

[アズリウス] では、失礼いたしますわね。

[ゴールデングロー] はい! 飲み終わったら、後でコップを洗って返しに行きますね。

[グラウコス] ありがとうございます。私の宿舎まで届けていただければ大丈夫ですから。

[ゴールデングロー] アズリウスさんが毒を扱う名人というのは知ってましたが、あんなに優しい人だったんですね。

[インディゴ] ええ、アズリウスさんはとても優しくて良い人です。

[インディゴ] ただ、まだ私が敵か味方か分からなかった初対面の時は、クロスボウを首に突き付けられたことがありました。

[ゴールデングロー] えぇ!?

[インディゴ] 大したことではないんですけどね。彼女の質問に答えたら、すぐにクロスボウを下ろしてくれましたから。

[インディゴ] しかも、すぐに私のことをイベリア人だと見抜いたんですよ。それから、ちょうどその時に私が地元の方に誤解されていることも教えてくれたんです。バウンティハンターだと思われていたらしくて。

[ゴールデングロー] (なんか変なお話……)

[インディゴ] ごちそうさまでした。

[ゴールデングロー] はい、私もお腹いっぱいです。

[ゴールデングロー] では、次にトリートメントを塗っていきま――

[インディゴ] ……

[ゴールデングロー] インディゴさん?

[インディゴ] ゴ、ゴールデングローさん、少しお聞きしたいことがあります。

[ゴールデングロー] はい?

[インディゴ] さっきアズリウスさんからもらったお飲み物、ど、どの色を飲みましたか?

[ゴールデングロー] えっと……確か「バラ色」のでした……

[ゴールデングロー] あれ、インディゴさんのコップに入ってるの、薄紫色ですね。

[ゴールデングロー] 薄紫色はどんな味ですか? ひと口試してもいいですか?

[インディゴ] ダ、ダメです!

[ゴールデングロー] えっ?

[インディゴ] それは……

[インディゴ] (ダメです、この飲み物の正体を教えるわけには……)

[インディゴ] (せっかくアズリウスさんにいい印象を抱いてくれたのに……)

[インディゴ] その紫色のものは…グラウコスさんの分です。多分部屋が暗かったせいで、色を見間違えてしまったんだと思います。

[ゴールデングロー] じゃあ取り違えちゃったんですか?

[インディゴ] はい、そのようです。

[ゴールデングロー] あれ? インディゴさん、なんだかフラフラして――もしかして、グラウコスさんの飲み物にはアルコールが入ってたんですか?

[インディゴ] いいえ……でも似たようなものですね。

[ゴールデングロー] 顔色が悪いですよ? 少し休みましょうか?

[インディゴ] そうですね、少し休ませてもらいます……

[ゴールデングロー] じゃあ私はコップとトレーを片づけて――

[インディゴ] ダ、ダメです! その飲み物には触れないで。

[ゴールデングロー] えっ、どうしてですか?

[インディゴ] (どうしよう……)

[インディゴ] と、とりあえず、コップを洗ってきます……自分で飲んだものですから、自分で……

[ゴールデングロー] でも、どう見ても気分が悪そうですよ……

[ゴールデングロー] 無理しないでください。コップの片づけは私に任せて、インディゴさんは休んでいてください。

[インディゴ] あっ、待って! 待ってください!

[ゴールデングロー] えっ? インディゴさん!?

ゴクゴクゴクゴク。

[ゴールデングロー] ……ど、どうして急に全部飲んじゃったんですか?

[インディゴ] うっ……ちょ、ちょっと失礼……先に医療に、医療……

[ゴールデングロー] 医療部ですか?

[インディゴ] はい、ちょっと、医療部に、行って……

[インディゴ] このコップには絶対にさ、さ、触らないで。すぐに……戻ってきますから……

[ゴールデングロー] インディゴさん、本当に顔色が真っ白ですよ。医療部までついていくので、一緒に行きましょう。

[インディゴ] いえ、大丈夫……ですから。ここで……待っていて……ください。まだ髪の、髪の……トリートメントが……

インディゴはゆっくり立ち上がると、まるでひどく泥酔しているかのように、おぼつかない足取りで部屋を出て行った。

[ゴールデングロー] 大丈夫かな、インディゴさん……一体どうしちゃったんだろう……

[ゴールデングロー] まさかグラウコスさんの飲み物に、体に合わないものでも入っていたのかな?

[ゴールデングロー] だめだ、やっぱり心配だよ。様子を見にいかなきゃ――

[アズリウス] あら、ゴールデングローさん? インディゴはどちらに? 一緒ではないのかしら。

[ゴールデングロー] アズリウスさん!

[ゴールデングロー] さっき医療部に行くと言って、ここを出て行きましたよ。すごくフラフラしていましたから、心配で様子を見に行こうと……やっぱり彼女は何かあったのでしょうか?

[アズリウス] フラフラですって? じゃあ、気絶はしていなかったのですわね?

[ゴールデングロー] はい……でも本当に酔っ払いみたいになってたので、もしかして途中で倒れたりするんじゃないかと……

[グラウコス] (ほっとしたため息)

[グラウコス] 彼女が飲み残したものは? 私が処分しておきましょう。

[ゴールデングロー] あの薄紫色のですか?

[グラウコス] はい、それを。

[ゴールデングロー] 半分飲んで、気分悪そうな様子だったんです。それで私が残りを捨ててコップを洗おうとしたんですけど、彼女が私を止めて、それから残りを全部飲んじゃって。

[アズリウス&グラウコス] !?

[アズリウス] コップ一杯を飲み干して、フラつきながら部屋を出て行ったと?

[ゴールデングロー] そうですけど……

[アズリウス] ……

[アズリウス] それは……急成長したと言うべきでしょうか……

[アズリウス] (苦笑い)

[アズリウス] あの飲み物には特に強烈な成分は入っていませんから、ここを歩いて出て行けたのでしたら医療部にも辿りつけるでしょう。ひとまず安心ですわ。

[アズリウス] ただし念のため、様子だけは見に行ったほうがよさそうですわね。グラウ、お願いできるかし――

[???] 失礼、アズリウスさんとグラウコスさんはいるかしら?

[医療オペレーター] 気分はいかがですか?

[インディゴ] だいぶよくなりました。

[医療オペレーター] アズリウスさんの解毒剤は効き目が早いですね。

[医療オペレーター] まあ、何度も毒を摂取したことで、体が耐性を持ち始めたおかげでもありますけどね。

[インディゴ] あはは……

[医療オペレーター] でも、今回投与された毒の量はいつもよりかなり多いですね。普段はアズリウスさんがきちんと注意していらっしゃるのに、何かあったんですか?

[インディゴ] 私が間違えてグラウコスさんの分を飲んでしまいました。

[医療オペレーター] グラウコスさん? そういえば彼女に毒は効かないですね。

[インディゴ] ええ。だからアズリウスさんが彼女に作る分にはいろんな毒が入っているんです。グラウコスさんにとってはちょっとした覚醒作用があって、面白い味の調味料ですから。

[医療オペレーター] コーヒーがある種の動物にとっては毒となる、みたいな感じなんですね?

[インディゴ] はい、そうですね。

[インディゴ] もしあの飲み物を他の人が飲んでしまったら、一大事でした。

[医療オペレーター] でも、普通の人がわざわざグラウコスさんのものを飲むようなことはしないでしょう。

[医療オペレーター] お水、まだいりますか?

[インディゴ] もう大丈夫です。

[インディゴ] うーん……でもなんだかここに来る途中、誰かに送ってもらったような記憶が……

[医療オペレーター] あぁ、それはアイリーニさんですよ。ここにインディゴさんを送って来た後、すぐに行っちゃいましたけど。

[インディゴ] アイリーニ、アイリーニ……

[インディゴ] ――あの審問官ですか!?

[医療オペレーター] そうですよ。あの若くして審問官になられた――

[インディゴ] ちょっと失礼します!

[医療オペレーター] ああちょっと! 回復したばかりなんですから、あんまり激しく動いちゃダメですよ! どこに行くんですか!

[インディゴ] ハァ、ハァ、ハァ……やっぱりまだ頭がクラクラする……

[インディゴ] でも急がなきゃ――

[インディゴ] アイリーニさん!

[アイリーニ] あら、もう回復したの? よかった。

[インディゴ] はい、おかげさまで。私は一般の方より毒への耐性が高い方なので――って、そうじゃなくて!

[インディゴ] アイリーニさん、どうかアズリウスさんとグラウコスさんを責めないでください! お二人はわざとじゃないんです!

[アイリーニ] ……はぁ……

[インディゴ] 私がグラウコスさんの飲み物を間違えて飲んでしまって、責任は全部私にあるんです!

[アイリーニ] …………はぁぁ~……

[アイリーニ] インディゴさん。あなた、医療部へ戻ってもうしばらく休んだほうがいいと思うわ。

[インディゴ] ど……どうしてですか?

[アイリーニ] まだ少し混乱している様子だからよ。だって、捻じ曲げられた審問官のイメージと私を重ねてしまっているでしょう?

[インディゴ] ……え?

[アイリーニ] 今話してくれた事情なら、彼女たちから全部聞いたわ。

[アイリーニ] グラウコスさんは毒への強い耐性があるから、あの飲み物も多少覚醒作用があるくらいのものなんですってね。でも、ほかの人にとっては触れるだけで倒れるほどの劇物だからこうなってしまったと。

[アイリーニ] 彼女たちの隣でずっとぱちぱち音をさせていた若い理髪師さんも証言してくれたし、あれが単なる不幸な事故だということは私も理解しているわ。

[インディゴ] じゃあ……彼女たちを、見逃していただけるのですね?

[アイリーニ] あなたねえ……

[アイリーニ] 今の私はロドスのいちオペレーターなのよ。たとえ彼女たちが故意的に毒を盛っていたとしても、私に独断でそれを罰する権限はないわ。

[アイリーニ] あなたはロドスのオペレーターであり、イベリアの民でもあるんだから……それくらいのことはわかるわよね?

[インディゴ] うっ……

[インディゴ] も、申し訳ありません。

[アイリーニ] 気にしないで。わかってくれたならいいのよ。

[アイリーニ] ほら、まだ毒が抜けきってはいないでしょうし、早く戻って休みなさい。

[インディゴ] はい……

[インディゴ] あれっ?

[アイリーニ] まだ何か?

[インディゴ] アイリーニさんの口元に……青いケーキの食べカスのようなものがついてますよ。

[アイリーニ] !

[アイリーニ] こ、これは……多少のリスクを負ってでも、事の真相を調査するのが私の仕事だから、その……

[インディゴ] 本当ですか?

[アイリーニ] うっ。

[アイリーニ] (小声)……最初の一つをもらった時までは、本当にそう考えていたのよ……

[アイリーニ] (小声)それに、あの理髪師さんに泣きそうな顔で一生懸命勧められたから……

[インディゴ] そうだったんですね。

[インディゴ] こう言うと失礼になるかもしれませんが、あなたは以前私が会った他の審問官とは……確かに違いますね。

[アイリーニ] そうかしら?

[インディゴ] 私の知るイベリアの審問官は、決してエーギル人と接触しようとはしません。たとえその人が罪のない人だと知っていても。

[アイリーニ] 確かに、その点私は少し特別かもしれないわね。

[アイリーニ] とはいえ、ここにも本当に邪悪が潜んでいるなら、それが誰であろうと容赦はできないけれど。

[アイリーニ] あなたはどう? インディゴさん。

[インディゴ] 私?

[アイリーニ] ロドスのオペレーターとしてでも、イベリアの民としてでもいいけれど、あなたの考えが聞きたいの。

[インディゴ] 私に考えなんてありません。ただ、あの二人は私の友人です。自分のせいで友人が罰を受けるようなことになってほしくないんです。

[アイリーニ] ……

[アイリーニ] そう。好感の持てる答えね。

[アイリーニ] じゃあ、もう行くわ。また会いましょう、インディゴさん。お話ができて楽しかったわ。

[インディゴ] はい。アイリーニさん、また会いましょう――

[インディゴ] 待って、この香り……

[インディゴ] あなたもゴールデングローさんにあのトリートメントを勧められたんですか?

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