aklib_story_冬の夜に燃える

ページ名:aklib_story_冬の夜に燃える

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冬の夜に燃える

先遣隊の隊長に任命されたズィマー。それとほぼ同時期に、彼女はウルサス学生自治団の団員たちに、ある重大な決定を言い渡した。


[ズィマー] ……

[ズィマー] (ラーダは……ここにもいねぇのか?)

[ズィマー] (アイツ、最近やたらと忙しいみてぇだな。)

[ムース] た、隊長!

[ズィマー] ん? おう、ムースか。

[ズィマー] この前の実戦演習、なかなかいい動きだったぜ。

[ムース] えへへ……リェータさんの鬼のように厳しい猛特訓を受けたおかげですかね……

[ズィマー] ああ? ロザリン?

[ムース] はい、新しい小隊リストが配られた時、ズィマーさんが隊長だと書いてあったので……仲良しのリェータさんに、普段の戦い方とか連携の取り方を聞きにいったんです……

[ムース] そしたら特訓に付き合ってくれるって、すぐに約束してくださいました。しかも、隊長と一緒に戦う時のコツまで教えてくれたんですよ……

[ズィマー] コツって、なんだそりゃ?

[ムース] 「ソニアが隊長なら、とりあえず後ろにピッタリくっついてれば間違いない!」と言っていました。

[ズィマー] チッ……アイツ、最近全然姿を見ねぇと思ったら、オマエと訓練室に引きこもってやがったのか。

[ムース] ム、ムースだけじゃないです……色んなオペレーターさんがリェータさんに特訓を頼んでいるんですよ。

[ムース] 最近は一日中訓練室にこもりっぱなしみたいです。はあ……ムースはいつになったらリェータさんみたいに強くなれるのかな。

[ズィマー] ……

[ロドスオペレーターA] うそでしょう……

[ロドスオペレーターA] あの新人、本当に後方支援部から前線に配属されたばかりなの?

[ロドスオペレーターA] あんな分厚い鉄板を、あのクロスボウで穴を開けちゃうなんてヤバすぎる……!

[ロドスオペレーターB] ヤバいのはそれだけじゃないぜ……知ってるか? Stormeyeさんが実戦演習中で新人をあそこまで褒めたのは初めてらしい……

[ズィマー] ……

[ズィマー] (アイツらが話してんのって、もしかしてナターリアのことか?)

[ズィマー] (おっかしいな……別に普通の話をしてんだけなのに、なんでこう……)

[ズィマー] (ナターリアが褒められてんなら喜ぶのが普通だろ?)

[ズィマー] (めんどくせぇ……確か、この辺りだよな?)

[ズィマー] ……

[ズィマー] (中から話し声がする。人がいっぱい集まってるみてぇだな……)

[???] おや? ノックしているのは誰なのだ?

[???] この王室探偵が暴いてやるのだ……

[ズィマー] ……

[メイ] ……

[メイ] ズィ、ズィマーさんであったか! イースチナを探しに来たのだ?

[メイ] イースチナは今、『冬のキャンプファイヤー』という本の感想を、皆と分かち合っているところなのだ!

[メイ] すぐに呼んでくるのだ!

[ズィマー] ま、待て、呼ばなくていい……

[ズィマー] 特に用があるわけでもねぇんだ。また後で来る。

[ズィマー] ……

[ズィマー] ふぅ――

五日後

[ズィマー] ……

[ズィマー] ロザリン、いるか?

[ズィマー] ……やっぱいねぇか。

[ズィマー] 朝っぱらからハンバーグを焼いてみたが、ラーダの作ったやつと比べると全然おいしくなかった。

[ズィマー] メイから借りた『冬のキャンプファイヤー』も、今夜中には読み終わるな。

[ズィマー] それとあの死ぬほどまずい紅茶……やっと分かったぜ、ナターリアの奴はあの変な味を使って眠気を覚ましていたのか!

[ズィマー] ていうかよぉ……

[ズィマー] ……

[ズィマー] 自治団だったアタシたちの生活は、これさえありゃ十分じゃなかったのかよ?

[ニアール] ……

[ズィマー] ニアール……聞いてやがったのか?

[ズィマー] まあいい、ちょうどいいとこに来たな。

[ズィマー] 今の小隊編成に異議がある。イースチナやリェータたちはアタシと同じ隊にいるべきだ。

[ニアール] その理由は?

[ズィマー] オマエなあ……分かり切った質問をすんなよ。アタシたちはずっと一緒のチームだっただろうが。

[ニアール] 今の部隊の編成は、隊員たちの出身や親密度で決まっているわけではない。

[ニアール] ロドスの戦略的需要によって決められているものだ。

[ニアール] 今の部隊は任務遂行のために、個々の能力とチームワークを総合的に考慮し、最も適切な編成を割り出した結果に過ぎない。

[ズィマー] ……

[ズィマー] どうしてオマエはいつも迷いがなさそうな顔をしてんだ?

[ニアール] ……

[ニアール] ズィマー、もうすぐ小隊を率いての任務がある。

[ニアール] 自分が隊長であることを、ゆめゆめ忘れるな。

[ズィマー] フン……「隊長」ね。

[ズィマー] それがアタシの新しい役割ってわけだな。

[重装オペレーター] ふぅ……ここの夜は冷えるな……

[重装オペレーター] 隊長も一本どうです? 少しは温まりますよ。

[重装オペレーター] その、隊長って……もう成人してますよね?

[ズィマー] アタシは吸わねぇよ。

[ズィマー] オマエも吸うなら気をつけな。

[ズィマー] この時期のウルサスは乾燥がひどいんだ。火の粉が枯草に落ちでもしたら、あっという間に燃え広がるぜ。

[重装オペレーター] ……分かりました、俺もやめときますよ。

[重装オペレーター] うぅ……寒すぎる……それにしても、今回の任務の布陣は少し大げさすぎると思いません?

[重装オペレーター] 輸送中になくした医療物資を探すためだけに、こんな大人数を派遣するなんて……

[ズィマー] ……

[ムース] ニ、ニアール先輩の判断なんですから、きっと何か戦略的な意味があるんだと思いますよ!

[狙撃オペレーター] ケッ、意味なんてあるもんか。

[狙撃オペレーター] 大した実戦経験もない俺たち新人に、上官が大事な任務を任せるとでも思うかい?

[狙撃オペレーター] あーあ、前に訓練で一緒だった医療部の女の子と同じ部隊がよかったなあ。せっかくいい感じ……

[重装オペレーター] おい、あそこを見ろ……

[重装オペレーター] 火が出てる!

[ズィマー] 状況を確認しに行くぞ。

[重装オペレーター] こ、これは……テントが全部焼け落ちてる……

[重装オペレーター] このマーク……ここはロドスの臨時駐屯地だったようです。

[ムース] テントの中に封のされてる箱があります。なくなった医療物資だったりして。

[ズィマー] ……アンナ、医療部からもらった薬品の画像と照らし合わせてみてくれ。

[ムース] ……

[重装オペレーター] ……

[狙撃オペレーター] その……隊長、イースチナさんはうちの隊にはいませんよ……

[ズィマー] ……

[ズィマー] マジめんどくせぇ。

[重装オペレーター] 失礼ですが、隊長は今回の任務中ずっと、どこかうわの空のように見えました。

[重装オペレーター] 確か隊長はイースチナさんやロサさんと同じ学生自治団に所属していたんですよね?

[重装オペレーター] だけど、今一緒に小隊を組んでいるのは俺たちです。戦場では隊友を信頼するようにと、耀騎士も言っていたはずだ。

[ムース] あの、すみません……

[ムース] 隊長、ざっと確認してみましたが、やっぱり箱の中身はなくなった医療物資かと思います。

[狙撃オペレーター] 間違いねぇよ。本艦で見かけた輸送待ちの物資と全く同じパッケージだしな!

[重装オペレーター] ……

[狙撃オペレーター] ほらほら、もっと気楽に行こうぜ。あとは物資を持って帰れば任務は終わりだ。まさかこんな一瞬で片付いちまうなんてな!

[ズィマー] おい……勝手に動くな!

[狙撃オペレーター] えっ……

[狙撃オペレーター] だ、誰だお前ら! 放しやがれ!

[粗野な盗賊] 動くんじゃねぇ!

[粗野な盗賊] 大人しくしねぇと次は腕じゃなくて頭を狙うぞ!

[ズィマー] ……

[ズィマー] 何モンだオマエら?

[冷血な盗賊] 答える義理はねぇな。

[冷血な盗賊] こいつを返してほしければ、薬と装備、それと金になるもんは全部置いていけ。

[冷血な盗賊] 野郎ども、出てきな!

[狙撃オペレーター] 隊長……

[ズィマー] チッ。

[ズィマー] ロールパイン、なんとか踏ん張れよ。

[ロールパイン] え? 隊長、まさか……

[ズィマー] ムース! やるぞ!

[ムース] は、はい!

[粗野な盗賊] ぐわっ!

[冷血な盗賊] ぐっ……

[ズィマー] おい、オマエ。

[ズィマー] オマエがこいつらのリーダーだな?

[冷血な盗賊] ……

[ズィマー] 答えやがれ!

[冷血な盗賊] ……

[ムース] もう気絶しちゃってるみたいです……

[ズィマー] フン、ヤワな野郎だ。

[ズィマー] ロールパイン、大丈夫か?

[ロールパイン] ……隊長、俺の名前、覚えてくれてたんですね。

[ズィマー] ……

[ロールパイン] 心配はいりません。こんなのただのかすり傷ですよ。自分で処置できます。

[ロールパイン] だけどさっきは心臓が止まっちゃうくらいビビっちゃいましたよ。

[ロールパイン] 俺ってやっぱ戦場に向いてねぇのかな……戻ったら後方支援部か医療部に異動させてもらえないか、長官と相談してみるか。

[ズィマー] 根性のねぇ奴だな。

[ズィマー] ラギッド、テントん中はどうなってる?

[ラギッド] ひと通り調べましたが、物資を入れるための箱は確かにロドスの物で間違いありません。ですが……

[ラギッド] 中は空っぽだったんです! どこにも薬が見当たりません!

[ズィマー] ……

[ズィマー] おいクソ野郎、起きやがれ! 寝たフリしてんじゃねぇぞ!

ズィマーは盗賊リーダーの襟元を掴んで、乱暴に揺さぶった。その振動で身に着けていた物や、ポケットの中身が地面に散らばる。

[ムース] こ、これって……ぺテルヘイム高校の……学生証?

[冷血な盗賊] ……

[冷血な盗賊] ここは……

[ズィマー] 目が覚めたか。

[冷血な盗賊] お、お前はさっき森にいた……ここはどこなんだ? 何を企んでやがる? あいつらはどうした!

[ズィマー] ったくめんどくせぇ。起きぬけにつまんねぇ質問連発すんなよ。

[ズィマー] アタシたちがオマエをここへ運んできた。健康状態を調べたら、栄養不足だったから栄養剤の点滴を打って、宿舎に寝かせておいてあげたんだ。別に感謝しろとは言わねぇよ。

[ズィマー] だけど、せめて口の利き方くらい気をつけな。

[ズィマー] ダニエル。

[冷血な盗賊] ……

[ダニエル] どうして俺の名前を……

[ズィマー] 学生証だよ。

[ズィマー] まさかあんなド田舎の森ん中で同じ学校の奴に会うとは思わなかったぜ。

[ズィマー] アタシが分からねぇのか?

[ダニエル] ……

[ダニエル] 冬将軍か? ずいぶんと変わっちまったな……

[ズィマー] ……

[ズィマー] まあいい。アタシを覚えてるんなら話は早い。

[ズィマー] 聞きてぇことはひとつだけだ。

[ズィマー] 薬をどこへやった?

[ダニエル] ……

[ダニエル] 全部売っぱらったよ。

[ズィマー] 売ったぁ? じゃあ金は?

[ダニエル] ……全部使っちまった。

[ズィマー] マジで言ってんのか?

[ダニエル] ……

[ズィマー] オマエなぁ……こんなことなら、あん時あの貴族学生どもにもっとボコらせときゃよかったわ。

[ズィマー] 売っぱらったのが本当だとしても、買い手と仲介者と儲けた金額を全部きっちり教えてもらおうか。

[ズィマー] 自分の今の状況をよぉく理解しろよ。今はロドスが一時的にオマエを預かってるが、態度次第ではウルサスの警察にソッコー引き渡すからな。

[ダニエル] ……

[ダニエル] まさかあの冬将軍が「警察」を使って脅かしてくるようになったとはな……どうやらチェルノボーグを離れると、どいつもこいつも変わっちまうらしい。

[ダニエル] 冬将軍……いや、ソニア。もしここがペテルヘイム高校なら、俺はお前に従っただろうよ。

[ダニエル] 他に選択肢もなかったしな。お前に従わなければ、あの貴族のクズどもに小突き回されるしかねぇ。

[ズィマー] 別に今でもアタシに従うってなら、それで構わないぜ。ウルサス学生自治団に加わったあの時みてぇにな。

[ズィマー] ここはロドスだよ。ロドスはアタシたちをチェルノボーグから連れ出して、さらに受け入れてくれた。

[ズィマー] オマエを入れてくれるかどうかは分からねぇが……ちゃんと働く気がありゃ大丈夫だろ。

[ダニエル] フン、ウルサス学生自治団か。懐かしい響きだな。

[ズィマー] ……

[ダニエル] アンナもこのロドスってとこにいるのか? だったらなんで森にいた時は姿を見かけなかったんだよ? あん時連れてた奴ら全員合わせても、アンナの半分の頼もしさもねぇだろ。

[ズィマー] チッ。アイツらはアタシの隊員だ。オマエにつべこべ言われる筋合いはねぇよ。

[ズィマー] アンナたちは……他にやることがあんだ。

[ダニエル] フン、他にやることがある、ね……まさかお前、自分が一生自治団のリーダーでいられるなんて思っちゃいないよな?

[ダニエル] ロドスに引き取られたのは、アンナたちも同じなんだろ?

[ダニエル] だったらアンナたちはこれからも今までのように、一生お前のそばにいてくれるのか?

[ズィマー] ……チッ。

[ズィマー] ずっと一緒なんてことはありえねぇだろ。むしろ、そうならねぇほうがいいに決まってる。

[ズィマー] 以前のアタシは、将来のことなんて何も考えてなかった。

[ズィマー] あん時は、みんなが無事にチェルノボーグから逃げ切ることしか頭になかったよ……逃げ出せさえすれば、どうなろうと今より悪いことにはならねぇだろうって。

[ズィマー] 正直、ロドスにはかなりよくしてもらってるよ。段々とここでの生活にも慣れてきたし、趣味とかやりたいことを見つけた奴もいるんだ。

[ズィマー] アタシたちにとっちゃ、ペテルヘイムもウルサス学生自治団も、もう過去の出来事でしかねぇんだよ。

五日前

[リェータ] は? か、解散?

[リェータ] 今、ウルサス学生自治団を解散させるって言ったか?

[リェータ] クンクン……ハチミツの匂いはしねーな……酔ってるわけじゃなさそうだ……

[リェータ] だったらなおさら、なんでそんなわけの分からんことを言いだしてんだよ!

[ズィマー] わけの分からんことじゃねぇだろ。これはアタシが下した正式な決定だ。

[イースチナ] ソニア……

[イースチナ] ナターリアが帰ってきたばかりなんですよ。みんなで出迎えて、任務で大活躍したことを祝ってあげる話だったじゃないですか。

[イースチナ] 本当に自治団を解散させることを考えていたとしても、このタイミングじゃないでしょう?

[ズィマー] いや、今が最高のタイミングなんだよ。

[ズィマー] アタシたちが最初に自治団を設立した一番の理由は、先の見えないめちゃくちゃな毎日を、お互い支え合って乗り越えるためだった。

[ズィマー] そして今、アタシたちは全員もうあの日々から抜け出せて、それぞれのやりたいことも見つけられた。

[ズィマー] たとえばナターリアなんか、最初の頃は戦い方なんてちっとも知らなかったのに、今では実戦演習でいい成績を出せるまで成長してる……その変化が、いいお手本だよ。

[ズィマー] 昔のアタシは自分が立派なリーダーになれるのかどうか、疑ったこともあった……長い時間の積み重ねによって、アタシはみんなの信頼と尊敬を得られたのかもしれねぇ。

[ズィマー] でもだからと言って、この立場にいつまでも浸り続けていいってことにはならねぇんだ。

[ズィマー] ウルサス学生自治団のリーダーだったアタシは、今はロドスの先遣隊を率いる隊長だ……そして、未来にはもっとたくさんの可能性が待ち構えてる。

[ズィマー] それはオマエたちだって一緒だよ。

[グム] ……

[グム] うーん、やっぱりグムにはよく分かんないや。

[グム] 自治団が解散しちゃったからって、どうなっちゃうの?

[ズィマー] ……

[グム] ウルサス学生自治団がなくなっちゃっても、グムたちはずっと一緒でしょ?

[ズィマー] そうじゃねぇよ、ラーダ。オマエは立派な料理人になるのが夢なんだろ? アンナだって、大学に行って勉強したいっつってたよな?

[ズィマー] 昔のアタシたちだったら、そんなのは夢のまた夢みてぇな話だよ。だけど、今の環境ならもしかしたら……いや、絶対にもっといい未来が待ってるはずだ。

[ズィマー] アタシたちはみんな、もっと立派な自分になれる。ウルサス学生自治団のメンバー以外の道を選べるんだよ。

[ロサ] なんて言ったらいいのかしら……さすがは私たちのリーダーね。

[ロサ] まさか一番最初に自治団を抜けるのがソニアだなんて……まったくの予想外だわ。

[ズィマー] 抜けるんじゃねぇ! 解散だよ! これでみんな自由なんだ!

[ロサ] ソニア。

[ロサ] これがあなたが出した、私たちの未来についての答えなの?

[???] その、隊長って……もう成人してますよね?

[ズィマー] うっ――

[???] だったらアンナたちはこれからも今までのように、一生お前のそばにいてくれるのか?

[ズィマー] ぐっ……

[???] 自治団が解散しちゃったからって、どうなっちゃうの?

[ズィマー] おえっ――

吐き出せ。全部吐き出しちまえ。

ソニア、オマエは全知全能じゃない。

これが自治団のみんなにとって、一番いい選択なんだ。

便器の水が渦を巻きながら流れていく。まるでアタシを吸い込もうとしているかのように。アタシからアイツらのいた日々を引き剥がそうとするかのように。

未来は今、アタシの目の前まで迫っている。

だったらアタシは何をすればいい?

[ロールパイン] ったく……しばらくは休めると思ったのによ。

[ロールパイン] まさか本艦に戻ってたったの数日で、こんなとこに送り込まれるなんて……

[ラギッド] ここは前回の森よりも寒いな……

[ラギッド] それに隊長のあのやる気満々の感じも……勘弁してほしいよ。

[ロールパイン] やる気満々だって? 俺には無理しているようにしか見えねぇけどな……

[ロールパイン] そういや聞いたか? 隊長、学生自治団を解散させたんだってよ。

[ラギッド] え? それ本当か?

[ズィマー] そこの二人、なーにをグチグチ言ってんだ? 誰かの悪口か?

[ロールパイン] あっ、隊長! いえ、そんなまさか!

[ズィマー] 今回だけは大目に見てやる。

[ズィマー] ラギッド、タバコ一本よこせ。

[ラギッド] ……隊長、耀騎士から直接注意を受けまして。

[ラギッド] だからもう渡すわけにはいかないんですよ。お願いですから俺を困らせないでください。

[ズィマー] チッ、ニアールの奴、余計なこと言いやがって。

[ロールパイン] そういえば、隊長……

[ズィマー] なんだ?

[ロールパイン] ダニエルってのは、ずいぶんと簡単に村の位置を教えてくれたんですね。

[ロールパイン] あんなに大量の医療物資を、全部その村に隠したんですか?

[ズィマー] ニアールが教えてくれたんだ……どんな手段でダニエルに吐かせたかは分からねぇけどな。

[ズィマー] ま、アイツはいつも「全て私に任せろ」って顔してるし、別に驚きはしねぇよ。

[ラギッド] だけど、こんな寂れた場所に、本当に人の住んでいる村なんてあるんですかね?

[ラギッド] まさかこれも、耀騎士が隊長を試してるだけなんじゃ……

[ムース] あ、あそこ! 見てください!

[ムース] おじいさんがいます……

[ズィマー] ……

[老人] どうしたのかね、若者たちよ。

[老人] こんな雪原によそ者が来るとは珍しいわい。

[ズィマー] この近くに村はあるか?

[老人] ……

[老人] あそこに背の低い小屋が見えるかね? あの小屋を通り過ぎれば、わしらの村が見えるはずじゃ。

[ズィマー] オマエは……コホン、じいさんはダニエルって奴を知ってるか?

[老人] ダニエルか……

[村人] た、大変だ、村長!

[老人] どうした?

[村人] 村に火事が! もうすぐ倉庫まで燃え広がっちまう! あそこには冬を越すための食料が保管してあるのに!

[ムース] ハァ……ハァ……ズィマー隊長! 村の東側の住民たちの避難が完了しました!

[ロールパイン] 北側も終わったぞ!

[ラギッド] 西側、南側も全員避難を完了しています!

[ズィマー] よし。ムース、村長ともう一度人数を確認してこい、それが終わったら消火活動に協力しろ。どの小屋も村人たちが手作業で建ててんだ。できる限り一軒でも多く残すぞ。

[ムース] は、はい!

[ズィマー] ロールパインとラギッドはアタシについてきな。かなり危険が伴うが……倉庫から医療物資を回収する。

[ロールパイン] え? 本当にこの村に探してた物資があるってことですか!?

[ズィマー] ああ……詳しいことは終わってから説明する。

[ロールパイン] だけどよ隊長……物資は燃えてる倉庫ん中にあるんですよね? この火の勢いじゃ……

[ズィマー] 分かってる。だからこれは命令じゃねぇ。

[ズィマー] いやならここで待ってな。アタシがひとりで行く。

[ラギッド] いやとか、そういう問題じゃなくて……

[幼い村人] おじいちゃん……お兄ちゃんが助けにきてくれるんだよね?

[ズィマー] ……

[幼い村人] だってお兄ちゃん、秋になったら帰ってくるって、春に言ってた。

[幼い村人] そしたら本当に秋に帰ってきたでしょ? おじいちゃん、まだ覚えてる? 収穫も手伝ってくれたよね。

[老いた村人] 馬鹿な子だね。お兄ちゃんは冬に戻ってくるとは言ってなかっただろう?

[幼い村人] でも、僕たちがフリエーブを全部食べちゃったら帰ってくるって、お兄ちゃんは言ってたよ。

[幼い村人] だ、だって……

[幼い村人] おじいちゃん、さっき言ってたよね? この冬はもう食べるパンがないって。

[幼い村人] だからお兄ちゃんはもうすぐ帰ってくるはずだよ!

[老いた村人] はぁ……

[老いた村人] ほら、おばあちゃんが呼んでるよ。いい子だからもう行きなさい。

[二人] ……

[ズィマー] ……

[ズィマー] 計画変更だ。先に村人たちの食料を回収する。

[ロールパイン] で、ですが、この状況から考えると、もしかしたら村人たちがダニエルとグルって可能性もありますよ!

[ロールパイン] なのに、俺たちの物を奪った奴らを助けろって言うんですか?

[ズィマー] それとこれとは別の話だ……二人とも、ついてきな。

[二人] ……

[ズィマー] 今のは命令だ。医療物資は……もし任務が達成できなかったら、責任は全部アタシが負う。

[ズィマー] なあオマエら、倉庫にはあとどれくらい食料が残ってると思う?

[???] 火の勢いを見る限り、出火箇所周辺は諦めたほうがいいかと。外側に置いてある分はまだ少しくらいは回収できると思われます。

[???] グムはそう思わないけどなぁ。中にあるものだって、ちょっと焼きすぎちゃっただけで食べられるかもよ!

[???] ようやく特訓の成果を披露できるチャンスが来たな。オラオラ、早く大暴れしようぜ!

[???] 何はともあれ、なんとか間に合ったみたいね。私たちが力を合わせれば、最悪の事態は避けられるかもしれないわ。

[ズィマー] オ、オマエら……

[ズィマー] なんでここに……

あの時……

[???] お前! 自分が何をやったか分かっているのか!?

[ソニア] アタシ……

[ソニア] わざとじゃ……

[???] 無駄口叩いてる場合か! はやく水を持ってこい! 水だ!

[???] だめだ、これっぽっちの水じゃ足りない!

[???] 火が回るのが早すぎる!

[ソニア] ……

[???] クソッ……何をグズグズしてるんだ! とっとと逃げるんだよ!

[ソニア] ……ダ、ダメだ……ここが最後の食糧庫なんだぞ!

[???] あいつに構うな! 行くぞ!

[イースチナ] ダニエルが手紙を残してくれたんです。ソニアがウルサス学生自治団員の助けを必要としているかもしれないと。

[イースチナ] それを読んだあと、全員でニアールさんの元を訪ねました。この村の場所を教えてくれたのは彼女です。

[ズィマー] ……

[ズィマー] ダニエルの野郎……

[ロサ] ソニア、迷ってる場合じゃないわよ。

[リェータ] 私たち五人がいりゃ問題ないだろ! あっ、じゃあこの二人はどうすりゃいいんだ?

[ロールパイン] え……

[ラギッド] お、俺たちは……

[ロールパイン] 俺たちは医療物資を回収してくる!

[グム] みんな、がんばろうねぇ! 終わったら、グムがフライパンですっごくおいしいフリエーブを焼いてあげる!

[イースチナ] ソニア、行きましょう。

[ズィマー] ……

[ズィマー] アンナ、オマエたちは来なくてもよかったんだ。

[ズィマー] 自治団はもう解散したんだぞ。

[イースチナ] ソニアが口でそう言っただけでしょう? 最初に自治団の結成を提案したのは私なんです。せめて私にも意見を求めるべきだとは思いませんか?

[イースチナ] それとラーダにロザリン、ナターリアの意見もね。

[ズィマー] じゃあオマエらの意見はなんなんだよ?

[イースチナ] 全員一致で反対です。

[ズィマー] ……

[イースチナ] あなたが何を考えているのか、あらかた想像はつきますよ。

[イースチナ] 実は、自治団の存続については、私もずっと考えていたんです……

[イースチナ] もしロドスと出会えていなかったら、私たちもダニエルと似たような生活を送っていたでしょう。

[イースチナ] でもねソニア……ロドスから多くを与えられたからといって、何かを失わないといけないわけではありません。

[ズィマー] 実際にアタシたちはもうバラバラの隊にいるだろ……

[イースチナ] ほら、手を貸してください。

[イースチナ] この食料の束、すごく重たいんです。

[ズィマー] ……

[ズィマー] 反対側を持つよ。少しペースを上げるぞ。

[イースチナ] ソニア。

[ズィマー] なんだ?

[イースチナ] 確かに私たちは今全員、違う小隊に所属していますし、これからも一緒に過ごす時間はどんどん少なくなるでしょう。ですが――

[イースチナ] それでも、あなたがひとりで何かを背負おうとしている時は、私たちは必ず今日みたいにそばに駆け付けます……

[イースチナ] だって私たち、ずっと友達ですから。

[ズィマー] なんだよこれ……

[ズィマー] 今、アタシたちは五人で一緒に……

[ズィマー] あの時と同じような炎と向かい合ってる……

もしこの炎がなけりゃ……

いや、もしもの話なんて考えても意味はねぇ。

仮に火の手が回り切ったとしても――

それでもアタシたちは手を繋ぎ、歌い踊る。

一緒に食料を担いで運ぶ。

凍り付いた大地はやがて柔らかな泥へと変わる。

種はもう二度と「種」という空っぽの名前に固執したりしない。

冬の夜が明ければ、彼女は心に小さな火花を咲かせるだろう。

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