aklib_story_明日を紡ぐ

ページ名:aklib_story_明日を紡ぐ

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明日を紡ぐ

ただの簡単な依頼をこなしたはずだったが、予想外の称賛を浴びることに。ここは以前いた環境に比べ、あまりにも安全だ。ならば、新たな生き方を目指してみるのも悪くないかもしれない。


[医療オペレーター] いたわ! こっちよ。

[術師オペレーター] はいはい、今いくよー。

[アオスタ] ああ、どうも。

[アオスタ] もう出来てますよ。お気に召すかどうか、見てもらえます?

[医療オペレーター] おおっ──

[術師オペレーター] へえ、これ本当に手作りかい?

[医療オペレーター] こんなに早く出来るとは思わなかったよ! ……か、かわいい!

[アオスタ] 製作中にインスピレーションが湧いたので、思ったほど時間はかかりませんでした。どこか直したほうがいい箇所はありますか?

[医療オペレーター] ううん、全くの文句なしだよ! まさにこんなのが欲しかったの!

[医療オペレーター] はい、約束の報酬ね~。それと、こないだクッキーを焼いたから、よかったら食べてみて!

[アオスタ] クッキー、ですか? はい、ありがとうございます。

[医療オペレーター] ふふっ、見れば見るほどステキね。襟の裏地もいい生地を使ってるのね! 柔らかくて触り心地いいよね。

[アオスタ] ええ、そうなんですよ。様々な素材を試してみたんですが、やはりこれが一番良いかと。

[アオスタ] 製作過程でも、素材選びは本当に悩みました。

[医療オペレーター] あなた、宿舎で服作りしてたの? 資材もいっぱい使うよね? 私この前積み木にハマった時期があったんだけど、知らないうちに共有スペースを占領してて、怒られたこともあるんだよね……

[医療オペレーター] その、ルームメイトに何か言われたりしなかった? 私のオーダーのせいで何かトラブルになってたら申し訳ないっていうか……

[アオスタ] 特にありませんよ。僕の趣味は知ってますから。

[医療オペレーター] なら良かったー。そういえば、バイビークさんが専用の裁縫室を申請したと聞いたけど、あなたも支援部に申請してみたら? そうすれば宿舎に資材を溜め込まなくて済むし。

[医療オペレーター] いっそ艦内で仕立て屋でも始めればいいよ!

[医療オペレーター] ほら、バイビークさんは基本自分から声をかけて、作りたい服を作るタイプだし、オーキッドさんはコーディネートのアドバイスぐらいでしょ? あなたが始めるなら丸どりできるよ!

[アオスタ] ……

[術師オペレーター] その表情から察するに、まだ彼女たちと話したことがないのね?

[アオスタ] ええ……そうですね。そのお二方とはまだ面識はありません。

[アオスタ] それと皆さんはキアーベから僕のことを聞いて訪ねてくれたようですが、正直、それまでは他の方に服やアクセサリーを仕立てるなんて、考えたこともありませんでした。

[術師オペレーター] なに、言ってみただけさ。ただ、バイビークさんもオーキッドさんも気さくな方だから、話したければ遠慮せずに話しかけても大丈夫だと思うよ。

[術師オペレーター] ほら、あちらにいるのがバイビークさんだ。

[バイビーク] え?

[バイビーク] わたしのこと、呼びましたか?

[アオスタ] えっ、あ、すみません——

[バイビーク] はい、ここがわたしの倉庫です。

[バイビーク] 今日はオーキッドさんも誘ったんです。あの人はデザインについていろいろ教えてくださるんですよ。あなたもお裁縫について何か心得があれば、ぜひ皆さんに教えてあげてくださいね。

[アオスタ] お邪魔します。いえ、僕はいくつか伺いたいことがあって来たものですから、教えられるほどのことは……

[バイビーク] そんなに重くとらないで。わたしも教えられることなんてありませんよ、ただお裁縫に関するアイデアを皆さんと共有したくてやってるだけですから。来てくださっただけでも有難いです!

[オーキッド] バイビーク? 入るわよ。

[バイビーク] オーキッドさん!

[オーキッド] あら、この人は?

[アオスタ] こんにちは、アオスタと申します。本日は僕もサロンに参加させていただきます。

[オーキッド] そんなに畏まらなくていいわ。うちのチームの子なんかよりずっと感じがいいわね。あの問題児たちとずっと一緒だと、ロドスにまだこんないい子がいるなんて信じられなくなっちゃいそう……

[真面目なオペレーター] 良かった、男性は私だけかと思ってましたよ!

[オーキッド] あら……ごめんね、私が一番最後だったかしら? おやつを持ってきたから、休憩時間にでも食べてちょうだいね。

[バイビーク] ありがとうございます、オーキッドさん。じゃあ始めましょうか。

小声ではあるが、活発な議論の声が徐々に倉庫全体を満たし、誰もが一様に裁縫の世界に夢中になっていった。

[アオスタ] ……

[アオスタ] (うーん、今すぐ切り出すのはマズいよな。)

[アオスタ] (ここにいる人たちはみんな知り合いのようだし……自分から話題に加わるべきか?)

[アオスタ] (バイビークさんにオーキッドさん……源石結晶……か。)

[アオスタ] (この二人も鉱石病を患っているのか……)

[アオスタ] (だけど、とても楽しそうだ。それぞれやりたいことを見つけたからだろうか?)

[アオスタ] (この倉庫……バイビークさんの集めた素材で一杯だ。どうりであの人が僕にも一つ申請するよう勧めてくれたわけだ。)

[アオスタ] ……

[アオスタ] ん……

[真面目なオペレーター] すみません、こういう毛糸のポシェットって、どうやって編んだらいいかわかりますか? ある人にプレゼントで贈りたいんですが、自分でやってもどうもうまくいかなくて。

[真面目なオペレーター] 彼女たちは手が離せなさそうなので、あなたに訊いてみようかと。

バイビークとオーキッドは議論に熱中し、周りに気を配る余裕もなさそうだった。

[アオスタ] ……ええ、いいですよ。ちょっと見せてください。

[アオスタ] 写真のこのタイプですね?

[アオスタ] なるほど……この編み方はやや複雑なので、編み物を固定するための作業台でもあれば……

[真面目なオペレーター] 作業台ですか? それならここに。

[アオスタ] はい。ではとりあえずやってみます。僕の想像が正しいかどうか確かめてみますので、少し待っていてください。

[真面目なオペレーター] ええ、ありがとうございます。

[アオスタ] ……こっちの毛糸にするのはどうでしょう? より光沢感が出ると思いますが。

[真面目なオペレーター] おお、確かにライトが当たると柔らかい感じに見えます……彼女も気に入りそうです。

[アオスタ] ……それと、スパンコールでも散りばめればもっとこう……うまく言えませんけど、洗練された雰囲気が出ると思います。

[真面目なオペレーター] どれどれ……

[真面目なオペレーター] ふむ……アオスタさんと言いましたっけ? 仕立てのオーダーなどは受け付けてますか?

[アオスタ] え? ああ、してますよ。何か要望がありましたら──

[真面目なオペレーター] あ、ちょっと待ってください。袖のところが破れてませんか?

[真面目なオペレーター] 作業台の上に釘が出てますね。さっきそこに引っかかったんでしょうか?

[アオスタ] ああ、平気です。縫えば済みますから。

[アオスタ] えっと、すみません。針はどちらに……?

[オーキッド] あなたの後ろよ。タンスの引き出しの──三段目だったかしら? なければ四段目ね。

[バイビーク] 糸も必要ですか? 他の素材も持ってきてるんです。そこの箱の中の物でしたら好きに使って構いませんよ。

[アオスタ] ありがとうございます。針と糸があれば大丈夫です。

[アオスタ] ……

[オーキッド] あら? 何を縫ってるのかと思ったら、自分の服を直してたのね?

[バイビーク] そのほつれ、着たままだと縫うのが大変ではありませんか?

[バイビーク] アオスタさん、使える材料はたくさんありますから、コードを脱いでテーブルに広げてしっかり繕ってみてはいかがですか?

[アオスタ] 早くこっちへ、そんなほつれがあっちゃ不格好でしょう。縫ってあげますから。

[アオスタ] 糸はあります? それが最後ですか……これ、何色ですか? 白なのか黒なのか区別もつかないほど汚れてますよ。持ったまま泥にでも飛び込んだのですか?

[キアーベ] んー……柄物なんじゃね? 見てもわかんねぇな……まっ、そんなのどうでもいいって、使えりゃ問題ねぇぜ!

[ブローカ] この仕事が片付いたら、生地を買って新しい服を作るんだったな。忘れるなよ。

[アオスタ] そうですね。それと去年の教訓も忘れずに。安物はダメですよ、粗悪品に当たりかねませんから。

[キアーベ] ヤバい染料が使われてたなんて、わかるわけねぇだろーがよ。にしてもあんときゃあっちこっちかぶれて痛かったなぁ……

[ブローカ] 次は着る前に何回か洗っておくんだな。

[アオスタ] いえ、僕はいつもこうやって直してたので、大丈夫です。

[アオスタ] この生地はとても丈夫ですから、破れた箇所さえ縫えば、またずっと着られるんですよ。

[真面目なオペレーター] でも、さっきポシェットを編んでくれた時は上質な素材ばかり使ってくれましたよね。

[アオスタ] それはお手伝いしてる立場ですから。依頼品に関しては最善を尽くすのが当然です。

[アオスタ] 僕の服は、デザインする時点で耐摩耗性のある素材を優先的に選んで出来てるんです。太糸を使い、縫い目も粗くして縫ったほうが逆にほつれにくく、実用性に関しても──

[アオスタ] っ!

[真面目なオペレーター] どうしました?

[真面目なオペレーター] どうやら腕の皮膚も少し切れてしまったようですね。話してて痛くなかったんですか?

[アオスタ] 平気です、かすっただけですから。血も止まってますし、拭えばそのままでも――

[オーキッド] ケガしたの? ちょっと待って、確かここに……あったわ! 常に絆創膏を持ち歩いてるのよ。いつどこでも対応できるように、数も結構用意してるんだから。

[オーキッド] 腕を出してちょうだい。小さいけど救急箱も持ってるわ。誰かさんたちがケガして帰って来ないか心配で心配で……まったく、どうしてこんなふうに慣れちゃったのかしらね?

[オーキッド] まあいいわ、こっちに来なさい。

[アオスタ] いえ、本当に大丈夫──

[オーキッド] ダメよ、しっかり消毒しないと。

[アオスタ] ……わかりました。

[バイビーク] ふふっ。

[オーキッド] 釘で引っかいたんなら、たとえ傷口が小さくても消毒しなくちゃ。万が一、表面に錆でもついてて感染しちゃったら大変よ。

[オーキッド] ……あら? あなたのその表情、見覚えがあるわ。こんな傷くらい何でもないとでも言いたいの?

[オーキッド] 以前どうしてたかは知らないけど、それはもう過去のことよ。今あなたはロドスにいるの。

[オーキッド] せっかく環境に恵まれてるんだから、最大限に活用しなきゃもったいないわ。そうでしょ?

[アオスタ] はい……貼れました、ありがとうございます。

[アオスタ] じゃあ続けましょうか。

[真面目なオペレーター] いや、残りは自分でやってもいいですか? やり方は横で見てて大体理解できましたし、自分からの贈り物なので……それに服も破れて腕までケガさせて、さすがに申し訳ないです。

[真面目なオペレーター] でも本当に大変助かりました! お礼に次の任務は私もついていきますよ。終わったら新しい服でも買いに行きましょう!

[真面目なオペレーター] はは、昔からこうしたかったんですよね。自力で稼げるようになったら、プレゼントでも買って、助けてくれた人にきちんとお礼をするんだって。今日あなたに会えてよかった、今後ともよろしく!

[アオスタ] ……

[アオスタ] 今日はずっと、あることについて考えてたんです。

[キアーベ] 何だ?

[アオスタ] 二人は子供の頃、大人になったら何になりたいのか、考えたことはありますか?

[キアーベ] そんなことか? 俺がなりたかったのは、そうだな……ファミリーのボスかな?

[ブローカ] ……考えたことはないな。

[アオスタ] 僕は……

[アオスタ] 武器を手に取る前、父について行くよう言われるまでは……

[アオスタ] 公務員になって、平穏な生活を送りたいと考えていたんです。

[バイビーク] 表目はもう少し大胆にしてみましょうか。生地を傷つける心配はいりませんよ。最初は誰でもそうですし、針穴があいたって目立たなくできますから。

[バイビーク] 何か思いついたら試してみましょう。失敗しちゃうかもってだけで挑戦しないのはもったいないですよ。

[オーキッド] 身体の源石を隠したいのね。わかった、いいコーデを考えてあげる――ほら、こうして……ね、見えなくなったでしょ?

[オーキッド] でも、近頃はこうも思うのよね……どうしてコレを隠さなきゃいけないんだって。

[バイビーク] わたしも考えたことがあります……

[アオスタ] ……

[アオスタ] やっぱり、僕に最後まで編ませてください。

[アオスタ] (本当は彼女たちともっと話をしてみたかったんだが。)

[アオスタ] (……どうやらその必要はなさそうだな。)

[アオスタ] (自分の中ではずっと整理できてなかったけど。)

[アオスタ] ふぅ……

[真面目なオペレーター] アオスタさん……?

[アオスタ] あっ、すみません、少し考え事をしてました。

[アオスタ] その……このコサージュを編み終えたら、新しいコート用の生地を選ぼうと思いますが、お力をお借りしてもいいですか?

[アオスタ] 皆さんの意見を聞かせてください。

[バイビーク] もちろん、喜んで。

[オーキッド] そうこなくちゃね。

[真面目なオペレーター] 私も混ぜてください!

[アオスタ] 皆さん、ありがとうございます。

あるいは、これこそが自分が望んでいた生き方なのかもしれない。望めば、自分から掴み取りに行くこともできるのかもしれない。

[アオスタ] ……無理やり持たされた……この生地の山をどうしようか……

[アオスタ] 何かお礼をしないといけないな。

[アオスタ] それとバイビークさんが言ったあの言葉……はじめの一歩さえ踏み出せば、あとあとから素晴らしい決断だったと思えるに違いない。だからもっと色々試してみるべき、というのも……

[アオスタ] ん……

[キアーベ] イヤッホ――!!

[アオスタ] うわぁっ!?

[キアーベ] ヘヘッ! 俺がさっき何をしてたか当ててみな!!

[アオスタ] ……

[アオスタ] 興味ありませんね。

[キアーベ] 俺様はな──数々の猛者どもをなぎ倒してきたんだぜ!

[キアーベ] あっ、おい待て、話はまだ終わってねぇぞ!

[キアーベ] ほら見ろ! チャンピオンに輝いたのは誰だと思うよ?

[キアーベ] もちろんこの俺様だぁー!

[キアーベ] 第一回、ロドス「口ん中にクッキー何個詰め込めるか大会」で、なんと二十六個もの大記録! 誰も俺様の記録には届かないぜ!

[アオスタ] ……

[アオスタ] あなたのバカに付き合う人が他にもいて、しかも食堂のスタッフさんに殺されずに済んだと? それは大した幸運ですね。

[キアーベ] はっ、全部飲み込んでやったからな、無駄にはしてねぇぜ。

[キアーベ] ブローカは? あいつはどこにいる?

[キアーベ] あいつにも教えてやんねぇとな、ったく、お前に言ってもなんも面白くねぇ。

[アオスタ] 面白くない……そうですか。ならブローカにはぜひその武勇伝を大いにアピールしてください。明日の『日刊ロドス』の一面が、あなたがチャンピオンになった勇姿で飾られることを祈りましょう。

[キアーベ] おうよ、ならすぐに──待てよ、新聞なんてここにあったのか?

[アオスタ] ありませんけど。

[アオスタ] あなたが始めればいいんじゃないですか?

[キアーベ] ……

[キアーベ] 今バカにしてたろ! そんぐらいは俺にだってわかるぜ!

[キアーベ] まあいいや……さっき通り過ぎてったの、ブローカじゃねぇか? よし、もう行くぜ!

[キアーベ] ハハハハッ、アイ・アム・チャンピオーン!

[アオスタ] ……

[キアーベ] ハハハハッ、見てみろ! ここに絵を描いてやったぜ!

[アオスタ] 何です? それは。

[ブローカ] ……おお。

[キアーベ] わかんねぇのか? 俺様がファミリーの手先どもをボコってる雄姿に決まってんだろ!

[アオスタ] ……

[キアーベ] おいおい、笑えよ! 大したことじゃねぇだろ? ただ追われてるだけだ、今まで何度もあったことじゃねぇか! 追いつかれたら、また逃げりゃいいんだよ!

[キアーベ] 車だってあるんだし、ビビるこたねぇって!

[アオスタ] ……ああ。

[アオスタ] ……

[アオスタ] ふぅ……

[アオスタ] ここは本当に……呆れるくらい平和な場所だな。

アオスタの腕には、生地サンプルがいくつか横たわっていた。どれもずっしりと重かったが、柔らかく、そして温かかった。

彼は走り去るキアーベを見つめていた。その後ろ姿は、跳ね上がる髪の一本一本にさえ喜びを感じ取れるほどで、以前のような空元気はもうどこにもなかった。

アオスタはゆっくりと足を踏み出した。

[アオスタ] ドクター、今日は僕が助手を務めます。

[アオスタ] 何かお手伝いすることはありますでしょうか?

[ドクター選択肢1] 今は特に。その辺に適当に掛けてていいよ。

[アオスタ] わかりました。

[アオスタ] ……

[アオスタ] ドクター、艦内でハンドメイドショップを開いても構いませんか?

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